創始頌・メインストーリー・1~8
深淵に近づくⅠ
パラタ
アビドス
フェジョアーダ:ここがお前の故郷だったのか……
バクラヴァ:ああ、俺と比べたら退屈じゃないか?
フェジョアーダ:え、どれだけ自分が面白いと思ってるんだ。
バクラヴァ:えっと……戻ってくるには戻ってきたが、どうやって彼女と会えばいいんだ?
フェジョアーダ:誰だ?
バクラヴァ:「破滅」の預言が何度も出てきた旧友。今度はアビドスと同時にこんな預言が……どうやら次の災難と彼女は切っても切れない関係があるようだ。
フェジョアーダ:……彼女に何度も預言をしたことがあるのか?特定の人の預言をすることはないと言っていたが?
バクラヴァ:その時の俺は若かったからなあ~ん?フェジョちゃんまさか嫉妬してるのか!おや、俺らが初めて会う前から、君のために預言していたんだぞ!
フェジョアーダ:わかった、わかった、でたらめを言うな。友人の状況は良くないんだろ、早く彼女を探しに行こう。
バクラヴァ:あ……でも城にどうやって入るかも問題だ。
フェジョアーダ:城?それはなんだ?
バクラヴァ:アビドスの心臓であり、王宮よりも尊く、警備が厳重で……神秘的で恐ろしい。俺の旧友はそこに住んでいる。もしアビドスに何かあれば、そこで何か問題があったに違いない。
バクラヴァ:うーん……まず強攻は絶対にできない。次に礼儀正しくドアをノックしてもダメだろう。城の主が俺を見るなり、直接俺を縛って地下室に放り込むだろう。
フェジョアーダ:お前以前いったい何をしたんだ……
バクラヴァ:何かをしたというより、何もしなかったと言おう。俺は彼の預言者になり続けることを拒否し、アビドスから逃走した。
フェジョアーダ:パルマと同じじゃないか……お前も城の主が怖いのか?
バクラヴァ:あのような存在を恐れない人はいないだろう……
フェジョアーダ:あのような存在……?
パンッ!パンッ!
バクラヴァ:危ない!何者だ?!
***
銃声が響いた瞬間、バクラヴァはフェジョアーダを素早く自分の後ろに引き寄せた。砂漠の高温と猛烈な太陽が遠くの人影を歪んだ霧で覆い、声さえも歪んでぼやけて聞こえない。2人はその場にとどまって待つしかなかった。
ファラフェル:誰だ?これは吾が聞きたい問題だ!貴様らは誰だ?城の者か?
バクラヴァ:俺らどう見ても城の人には見えないよな、むしろ変な人……え?
距離が縮まり、ようやく互いの顔をよく見た2人は、しばらくしてから驚き叫んだ。
バクラヴァ:王位継承者の殿下?!
シャワルマ:キミたち知り合いだったんだ、だから手当たり次第に撃つなって言ったんだよ。
クナーファ:ファラフェルの銃の腕が悪くてよかった。じゃなければ……
ファラフェル:ゴホン、わ、吾は貴様らを守るためだぞ!
バクラヴァ:ふふ、殿下は少しも変わっていないな……でも王室が城と接触することは許されていないのでは?この道は城にしか通じていない。ここで何をしているんですか?
ファラフェルは突然何かを思い出したようで、眼差しは暗くなり、まるであの暗い日に戻ったようだった。
ファラフェル:そうか、貴様はまだ知らないだろう……オアシス捜索隊が出発前に王宮で襲撃を受け、捜索隊は誰も生き残らなかった。
バクラヴァ:あのずっと前から結成されていた捜索隊ですか?干ばつで雨の少ないアビドスにおいて、新たなオアシスを探す捜索隊は全ての人の希望だったはず?襲撃されるだなんて……いったい誰が……
ファラフェル:王室にそんなことができるのは、「城」以外吾には考えられない!多くの人の命を無にし、父上までも……吾は絶対に奴を逃がさない!
バクラヴァ:国王陛下まで……また悲しいことを持ち出させてしまった、すみません。
ファラフェル:あまり驚いているようには見えないが……預言していたのか?
バクラヴァ:いや、多かれ少なかれ見当がついただけです。しかし、失礼ながら、城の主は……
ファラフェル:奴がパラタで最強の力を持ち、神のような存在であることは知っている……だがそれは吾を臆病者にさせる口実にはならない。言うまでもなく、この2人の新しい友人には驚くべき力がある。
クナーファ:いやいや、私はただの傭兵で、何も驚くべき力なんてない。
シャワルマ:そうだよ、キミはボクらを高く評価しすぎだよ……決着をつけるために城に行くのは、もう一度計画を練った方がいい。
ファラフェル:……
ファラフェルは気まずそうに硬直しているのを見て、バクラヴァは笑顔で場を切り上げようとした時、背後から見知らぬ声が聞こえた。
カターイフ:あの、キミらも……城に行くの?
ファラフェル:!!
深淵に近づくⅡ
ファラフェル:あ、あなたは城の……
突然現れた少年はファラフェルに対して視線が少しぎこちなかったようだが、歯を食いしばってファラフェルの目を真っすぐ見ようとした。
カターイフ:……国王の件は本当に申し訳ない、お悔やみ申し上げる。
ファラフェル:申し訳ない?やはり城の仕業なのか?
カターイフ:え?
ファラフェル:奴は無実じゃない……だろ、王子様。
カターイフ:……
シャワルマ:王子?城に住んでいるあの……
ファラフェル:そうだ、あの王室によってスラムから拾われ城に送られ、栄華ある生活を送る王子様だ。以前奴が王宮に視察に来た際に、吾は遠くから顔を見たことがあるから間違いない……
ファラフェル:そういえば、爆弾はその時に仕掛けられたのだろう。恩知らずな奴め。もし父上がいなかったら、貴様はとっくにスラムで死んでいただろう!
カターイフ:オレ……爆発の件はオレがやったんじゃない。でもオレがこの事件に関与してないとは言い切れない……
ファラフェル:この虫けらども!アビドス全体が城の支配下にあるのに、貴様らはまだ満足していないのか?いったい何のために、その人命を犠牲にしなければならなかったんだ!!
カターイフ:……ごめん、オレもわからない。
ファラフェル:何ですか?
カターイフ:オレは長期間城で暮らして、全員から王子として尊敬されているが、確かに……何もわからない。
ファラフェル:貴様……!
バクラヴァ:殿下落ち着いてください。城の主を除いて、そこにいる全員が傀儡にすぎないことは君も知っているだろ。
ファラフェル:……
バクラヴァ:ところで、こちらの王子様はなぜ城にいないんですか?わざわざ話しかけてきて、敵意があるようにも見えないし……何か用でも?
カターイフ:……正直なところ、今オレの頭の中が混乱していて、はっきりしているのは、自分では何もできないということだけ……
カターイフ:だからキミらにある人物の調査を頼みたいんだ。
ファラフェル:ふ、王子様が頼み事をする必要があるのか?城の命令に背く者はいない。
カターイフ:……オレが調査したいのは城の者だ。
ファラフェル:……
ファラフェルはここでやっと真剣な眼差しでカターイフを見た。何も知らない、何もできないと自称する王子様が思っていたほど世間知らずで無能ではないかもしれないと気づいたからだ。
カターイフ:オレが調査したい人は少し前に城に来たばかりで、彼が来てからいろいろなことがおかしくなってきた……
カターイフ:オアシス捜索隊の件も彼がやったと疑っている!
ファラフェル:疑っているなら、貴様が調査すればいいじゃないか。なぜ吾らが貴様を助けなければならない?
カターイフ:友人を探しに行くけど……兄とその人は仲が良いから、兄を悲しませたくないんだ。
カターイフ:もちろんキミらにタダで手伝ってもらうわけじゃない!さっきのキミらの会話を聞いたけど、城の中に入りたいんでしょ?城に入るのを手伝うことができるよ。
ファラフェル:貴様は「傀儡」じゃないのか?どうやって?
カターイフ:な、なんとかなるでしょう……どう、オレを手伝ってくれる?
ファラフェルが何も言わず、深刻な表情をしているのを見て、バクラヴァは思わず前に出た。
バクラヴァ:えっと、この人物を調査してもいいと思います。彼から調査を始めて、殿下は……
ファラフェル:貴様が調査したい奴の来歴は何だ?なんてやつ?
カターイフ:オレが知ってるのは、彼はグレロの商人で……ヴィダルという名。
ファラフェル:ヴィダルか……フン、貴様が会ったのが吾でよかったな。行くぞ、吾らを城に連れていけ。
ファラフェルがまずヴィダルの調査に同意したのを聞いて、バクラヴァは安心したが、ファラフェルの興味がある様子を見て頭が痛くなり、急いで彼を止めた。
バクラヴァ:待って、俺らみんなで一緒に城に行くの?それは無理だろう……
シャワルマ:うん、特にファラフェルの性格は門に着いた途端に刺客として捕まるかもしれない。
ファラフェル:……なら、吾は貴様らの考えを聞こう。
***
翌日
城
兵士:王子様、おかえりなさいませ。
カターイフ:はい。こちらの2名はオアシス捜索隊の再建について話し合いに来た客人で、姉がキミらに話したことがあるだろう。
兵士:はい、ようこそ。
門の前にいた兵士はロボットのように無感情に話し、城に入る道を譲った。
***
シャワルマ:まさか本当に入れるなんて……でもボクらだけで大丈夫?
クナーファ:仕方がないさ。ファラフェルとバクラヴァさんは城の人に会ったことがあるし、フェジョアーダさんはパラタについてよく知らないから適切ではない。潜入する仕事は私たちだけしかできない……
カターイフ:しっ――き、緊張して、リラックスしないで。オレらならできる。
クナーファ:うん……君が一番緊張してるように見えるけど……
カターイフはクナーファのツッコミを聞き取れず、思わずまた2回深呼吸をして、緊張しながら会議室に連れて行った。
カターイフ:後で兄と話をするから、絶対に気をつけて……
言い終わると、カターイフは丁重にドアをノックした。ドアの中からすぐに男性の声が聞こえてきた。重厚なドアを隔てても、声は大きく透き通っていて、聴く者の頭の中に真っすぐ届くようである。だが不思議なことに、シャワルマとクナーファはその声が具体的に何を言っているのか聞き取れなかったようで、ドアがゆっくりと開くのを見た……
***
きらびやかな白金色、神聖で優しく、大自然のように広大で、彼に属する全てのものに対する恐怖が一瞬にして襲い掛かってきた。これが城の主。
フィテール:カターイフ、こちらが君とコシャリがどうしても私に会わせたいという客人か。
カターイフ:はい……兄さん……
フィテール:まあ……かろうじて。
カターイフ:???
深淵に近づくⅢ
コシャリ:コホン。この2人はメンカウラーでは有名な傭兵です。身体的な素質から言えば、捜索隊の人間よりずっと優れているに違いないわ。短期間でオアシス捜索隊を再建したいなら、彼らが最善の選択だと思うわ。
フィテール:ええ……
シャワルマ:もしボクらを信用していないのならば、今すぐに実力を披露しましょう。
フィテール:必要ないです。
シャワルマ:えっと、ボクら2人だけじゃなくて、前の捜索隊に負けず劣らず、たくさんの仲間がいます。
フィテール:うん。
シャワルマ:(何だよこいつ……全然興味がないようだ……)
クナーファ:ご心配なく、私たちには人力だけでなく、大量の武器もあります。自然災害だろうと堕神であろうと私たちのチームに脅威を与えることはできません。
フィテール:そうか。
クナーファ:……
フィテールの変化に乏しい返事に場の空気が一瞬凍りつき、クナーファとシャワルマが計画は失敗すると思った時に、優しく甘い男性の声が響いた。
ヴィダルアイスワイン:ハハ、そんなに優秀なチームなんだから値段も安くはないよね?
シャワルマ:え、ボクらは安い!
クナーファ:間違いない!しかしそれは他の理由でもなく、私たちの武器にはお金がかかってないし、リーダー自身もお金持ちです。
ヴィダルアイスワイン:え?そんな人が傭兵になるのを選ぶとは……スリルを味わいたいのかな?
クナーファ:はい、おっしゃる通りです……
ヴィダルアイスワイン:面白いな……あ、そうだ、自己紹介を忘れてた。ヴィダルと呼んでくれ。
クナーファ:……こんにちは、ヴィダルさん。
クナーファ:(カターイフが言っていたのは彼のことか……こんなに無邪気に見える若者が、本当にすべての黒幕なのか……)
ヴィダルアイスワイン:フィテール、オアシス捜索隊の再建は僕に任せてもらえる?
フィテール:君がしたいならいいよ。
ヴィダルアイスワイン:じゃあまた別の時間を設けて話そう。できれば、2人のリーダーと直接話したいな。
クナーファ:あ、問題ないです!
ヴィダルアイスワイン:ハハ、よかった。じゃあ契約書を作成させるから、先に失礼するよ。
ヴィダルはそう言って去っていった。シャワルマとクナーファが安堵のため息をついたところで、フィテールの人の心を震え上がらせるような声が聞こえてきた。
フィテール:君たち2人も帰っていい。
コシャリ:もう夜も遅いし、泊めてあげましょうよ。後でヴィダルたちは打ち合わせの時間も話し合わないとでしょ。
フィテール:城は部外者を泊まらせない。
コシャリ:……ヴィダルも城に泊まったことがあるでしょ。前例はすでに破られてるんだから、もう一度破ってもおかしくない。
フィテール:ダメだ。
コシャリ:だが……
シャワルマ:うっ……。
コシャリ:?どうかしたのか?
シャワルマ:めまいが……それに胸も痛い……
クナーファ:私たちは任務を終えたばかりで来たので、数日間休めておらず、たぶん疲労です。
コシャリ:ならやっぱり休んだ方がいいわね……
フィテール:城に医者はいない。暗くなる前に君たちは早く離れた方がいい。
シャワルマ:……えっと……
クナーファ:シャワルマ?シャワルマ!起きろ!彼……眠ったみたいだ……
フィテール:じゃあ彼を起こして。
クナーファが困った顔をしているのを見て、フィテールは真っすぐ2人に向かって歩き、クナーファは無意識に後ずさりした。フィテールはしゃがみ、シャワルマの顔を30秒近くつねったが、反応は見られなかった。
フィテール:本当に目が覚めない。
コシャリ:……城の客人でもあるし、追い出す必要もないでしょう。
フィテール:はい。ではカターイフ、彼らを空いている部屋に連れて行ってくれ。
カターイフ:兄さんわかった!
フィテールはカターイフを無表情に見て、地面に横たわって動かないシャワルマを振り返ったが、異常には何も気づいていないようだった。彼が去った後、クナーファは急いでつねられた赤くなったシャワルマの顔をさすった。
クナーファ:シャワルマ?いいよ、シャワルマ、彼はもう行ったよ。
シャワルマ:ふう……なんとか騙すことに成功した!
コシャリ:騙せたか騙せてないか不明だけど……でもあなたが我慢できるとは思わなかったわ。フィテールの力は小さくないでしょう?
シャワルマ:大丈夫だよ。スラムにいた時は、これよりも辛い経験がたくさんあったから。
シャワルマの屈託のない笑顔を見て、クナーファの鼻はじんとして、目の前が一瞬にしてぼやけた。
シャワルマ:おい、今にも泣きだしそうな顔をしないで!ボクは本当に大丈夫だから……そうだ、急いで調査しよう!
クナーファ:うん、そうだな。コシャリさん、私たちはどこから始めたら?
コシャリ:あのヴィダルが奇妙な人を連れて来たの。それに疑わしいことに、彼らは私たちが立ち入ることが許されていない城の地下に行ったの。
シャワルマ:だから、ボクらがまず最初に地下を調べればいいんでしょ。
コシャリ:私とカターイフでフィテールを引き留めるけど、でもあなたたちも気をつけてね。
カターイフ:これからはキミらにお願いするよ。
潜伏と覗きⅠ
翌日
メンカウラー
モカ:この値段……傭兵の中では確かに珍しい。
ヴィダルアイスワイン:珍しいだけじゃないよ。相手は自分で武器や生活必需品を準備するから、ほとんどタダみたいなもんだよ。
モカ:なんだか怪しい。
ヴィダルアイスワイン:そうだ、だから僕らもその「慈善家」に直接会わないとね。
モカ:うん……ここなのか。
***
バクラヴァ:いらっしゃいませ――どうぞ2名様お入りください~
モカ:……
バクラヴァの90度に曲げた体と大げさな笑みは、罠があると覚悟していたモカを一瞬硬直させた。
ヴィダルアイスワイン:……ハハ、元気だね~
フェジョアーダ:(小声)このバカ!こんなに礼儀正しい傭兵がどこにいる!
バクラヴァ:コホン……すまんすまん、実は新入りで、まだ前の癖が抜けていないんだハハハ。
ヴィダルアイスワイン:大丈夫、面白い人と仕事をするのは楽しいから。
バクラヴァ:いやあ、本当に優しいですね!ではこちらへどうぞ――
***
ファラフェル:待っていたぞ、グレロからきた客人たちよ。
ヴィダルアイスワイン:客人よりも未来のパートナーと言った方がいいかな。
ファラフェル:おお?つまり吾の傭兵に興味があるのか?
ヴィダルアイスワイン:ここまで安い傭兵代は珍しいから、詐欺ではないかと疑ってしまう。
ファラフェル:詐欺?わ……吾は詐欺などしないぞ。正直、吾は金に興味がない。後ろにある武器を見たか?それらがあれば、権力や地位など吾にとって難しいことではない……
ファラフェル:もし貴様が好きなら、これらの武器全てを持って行っても吾は構わない。父が……父上が残したものだから、吾のところに置いてあっても役に立たない。
ヴィダルアイスワイン:費用を払う必要のない取引こそ危険だ。全く見返りを求めないわけではないでしょう。僕にできることは?
ファラフェル:簡単なことだ。メンカウラーは実に退屈だ。貴様はこれほどの武器と傭兵が必要なのだから、何か危険なことをするだろう……吾の退屈を紛らわすのには十分だろう?
ヴィダルアイスワイン:なるほど、君はスリルを求める冒険家なんだね。
ファラフェル:どうだ、吾を仲間に入れるなら、武器も傭兵もメンカウラーの名声と権力でさえ貴様にやることができる……お得な取引だと思わないか?
ヴィダルアイスワイン:ハハ、確かに。でも……契約書を作り直すことになるね。
ファラフェル:へ?何が契約だ、バートナーの間で最も重要なのは信頼だ!そうだ、信頼と言えば……
ファラフェル:貴様は吾が何を望んでいるのか知ったが、吾は貴様のを知らないぞ。普通の商人にはこれほどの武器や傭兵は不要だろ?貴様はいったい何をしている?
ヴィダルアイスワイン:今の世の中、普通の商人でも武器で身を守ることが必要だよ。ましてパラタで商売をするなら尚更。
ファラフェル:その通りだが……でもどうやってあいつと知り合ったんだ?
ヴィダルアイスワイン:あいつ?
ファラフェル:城の主だ!アビドスの庶民が会うのは不可能なことだ。まして貴様は外国人だ。いったいどんな手段を使った?
ヴィダルアイスワイン:手段?ハハ……たまたま幸運にも、あの人に寂しさを紛らわす方法を提示しただけだよ。
ファラフェル:寂しさ?アビドス、さらにはパラタ全体でも神とみなされる人物でも寂しさを感じるのか?
ヴィダルアイスワイン:いやあ、神に近づけば近づくほど寂しさを感じやすくなるんだよ。
ファラフェル:わからない……では寂しさを紛らわせる方法とは?貴様と一緒にビジネスか?それとも……殺人か?
ヴィダルアイスワイン:全部違うよ。彼の心が渇望しているものを取り戻すのを手伝っただけ。
ファラフェル:なるほど……よし、行くぞ!
ヴィダルアイスワイン:え?どこに?
ファラフェル:吾らはもう協力することに同意しただろう?ならもちろん貴様らと一緒に行くぞ!吾を冒険に連れて行くと約束しただろう?気が変わったか?
ファラフェルはヴィダルの口からもう情報を聞き出せないと判断し、厚かましくも自分も一緒に連れて行くようにと言った。ヴィダルも彼をじっと見つめて同意した。
数人が去った後、奥の部屋に隠れていたフェジョアーダはやっとため息をついた。
フェジョアーダ:計画通りに進めれば、すぐに結果が出るはずだ……今のところ順調だよな?どうしてまだ顔をこわばらせているんだ?
バクラヴァ:だって……
バクラヴァは泣くに泣けず笑うに笑えない様子で、手の預言書を見ていたが、いつものんきなその顔には珍しく苦渋に満ちていた。
バクラヴァ:預言書の「破滅」、少しも消える気配がない……
潜伏と覗きⅡ
ラテ:ふう……彼は気づいてないよね?
モカ:うん、たぶん気づいてない。
ラテ:よし、今のうちに隠れよう……
ラテ:…………
ファラフェル:お、見つけたぞ。どこに行くんだ?吾の冷えたワインはどこだ?
ラテ:……こんな場所のどこに冷えたワインなんてあるんだよ……
ファラフェル:あれ?ヴィダルは貴様らにしっかりと吾の面倒を見るように言わなかったのか、吾の理解が間違えていたのか?再確認するべきか?
ラテ:……氷とワインを君に渡すためなら手段を選ばず、命をかけても手に入れる!
ファラフェル:ワインは少なくとも30年熟成させたやつだぞ~
ラテ:……
モカ:行くぞ。闇市を見てみよう。
ふくれっ面をしたラテをモカが押して出て行くのを見て、ファラフェルは満足そうに手をすり合わせた――
ファラフェル:ふ、これで奴らはすぐには戻ってこれないはずだ。今のうちにヴィダルの動向を見に行くぞ!
ヴィダルらが宿泊しているホテルは大きくなく、ファラフェルは一部屋ずつ探し、すぐにヴィダルのいる部屋を見つけた。ドアに鍵がかけられているのを見て、急いで隣の部屋に隠れ、長い時間をかけてようやく壁に釘で打ち付けられた小さな穴を見つけた。
ファラフェルはそっと釘を抜き、小さな穴から隣の部屋に目を凝らした。ヴィダルともう1人が四角形のロボットに向かって何かいじっているのがかすかに見えた。
ファラフェル:(何をしているんだ?あれは魔術なのか……)
***
カフェオレ:もしもし――聞こえるかしら?見える?カフェオレ間違ってない?
ヴィダルアイスワイン:ハハ、カフェオレ素晴らしいよ。モントリオール、始めていいよ。
モントリオールスモークミート:わかったわ。
ヴィダルは横のソファーに腰かけ、それによってファラフェルはその四角形のロボットの上で異境の写真を投影しているのがぼんやりと見ることができた……
***
チキンスープ:グレロからの客人、妾にわざわざ会いに来たが、用件は何かしら?
モントリオールスモークミート:ふふ、聖女のご高名はかねてより伺ってて、ずっと会いたいと思っていたの……今日会ったけど、本当にその名にふさわしいわ。
チキンスープ:お世辞はこれくらいにして。はるばる耀の州まで来たのだから、妾の姿を見るためだけではないはず。
モントリオールスモークミート:聖女はわたしが思ってたよりもずっとあっさりしているね。今日は気分がよくないの?それは……聖主が降臨できず、ますます弱っているから?
チキンスープ:……これはどこで聞いたデマ?
モントリオールスモークミート:デマかどうかは、わたしよりも聖女の方がよく知っているはず。だけど、わたしは聖教の笑い話をわざわざ見に来たわけじゃなくて……聖女に良い知らせを伝えに来たの。
チキンスープ:良い知らせ?
モントリオールスモークミート:聖女は聖主が弱っている理由がわからないから、そんなに悩んでいるのよね……その「原因」さえ解決すれば、聖主の力はさらに増大するわ。
チキンスープ:では、貴方はその原因を知っているのか?
モントリオールスモークミート:天幕と山河陣。
チキンスープ:……他に何を知っているの?
モントリオールスモークミート:ふふ、もしわたしの情報が正しければ、聖主の力は堕神と同源で、この世界で最も深い悪念……
チキンスープ:情報?どこから手に入れた情報なの?
モントリオールスモークミート:以前耀の州の聖君継承式には、神恩軍、法王庁、そしてビクター帝国の国王まで遠くから来ていた――まさか本当にお祝いのためだけじゃないよね?
モントリオールスモークミート:わたしの知る限り、かれらはグレロとナイフラストを悩ませている黒い霧のような存在をずっと追っている……誰もそれが何なのか知らず、恐ろしい力を持っていることだけ知っている。
チキンスープ:……
モントリオールスモークミート:そうすれば全てが通じる。耀の州は天幕と山河陣に守られているため、外界から堕神の侵入は難しく、本土の堕神もすぐに一掃される……聖主の力の源も断ち切られた。
モントリオールスモークミート:だから天幕と山河陣さえなくなれば、耀の州はもちろん、ティアラ全体でも聖主の敵はいなくなる。
チキンスープ:貴方は異境から来ているのに天幕と山河陣についてこんなに理解しているとは思わなかったわ……言っていることが本当だったとして、貴方と何の関係があるの?先に言っておくけど、聖教信者だっていう言い分は信じないわ。
モントリオールスモークミート:ふふ、わたしが聖女のところに来たのはわたしたちの目的が同じだからよ――天幕と山河陣を破壊する。
チキンスープ:……できない。
モントリオールスモークミート:あれ?聖女は聖主が本来あるべき力を取り戻したくないの?
チキンスープ:実際は……まだ完成してないわ。
モントリオールスモークミート:もし技術方面の問題であれば、聖女の心配はいらないわ。わが社はすでに新しい技術を開発したから、ちょうど聖主を援助し、大業を実現することができる。
チキンスープ:ふ、その技術が信頼できるかは別として、貴方たちが聖主を援助する本当の目的は……非常に疑わしい。
モントリオールスモークミート:聖女は安心してね。わが社は人の上に立つとか世界の支配者になるとか……そういうことに興味はないわ。
モントリオールスモークミート:わたしたちはこの技術が世界にどれだけ害を及ぼそうとも、ただ技術を発展させ続けたいだけ……いや、むしろ、害を及ぼせば及ぼすほど、わが社の価値は高まると言えるわ。
チキンスープ:うん……わからないわ。
モントリオールスモークミート:「パラダイスメイカーズ」は幸福なパラダイス建設を目的としてるけど、パラダイスの主になるつもりはなく、完成したものに興味もない……こう言えば、聖女は少し理解できる?
チキンスープ:ふふ、本当にそれ以外何も……興味がないの?
チキンスープの眼差しは冷たく、すぐに前に出て三本指でモントリオールの喉をおさえつけて、冷たく言った。
チキンスープ:貴方の命さえどうでもいいのか?
モントリオールスモークミート:おっと、命はわたし自身のものだから、この質問はされるべきではないわ……カフェオレ。
カフェオレ:はい!
チキンスープ:!!!
予期せぬ野蛮な攻撃にチキンスープは反応できず、少女によってテーブルの上に押し倒された。少女は彼女の背中に乗って、喜びと狂気の笑い声を上げた。
カフェオレ:いいね~また新しい泡ができそう!その嫌そうな態度を貫いてよね、そうしたらあなたはあたしの一部になれるよ!
チキンスープ:……
モントリオールスモークミート:もちろん、聖女が態度を改め、わたしたちと協力する意志を少しでも示す限り、わたしたちは聖教の最高なパートナーになるわ。
カフェオレ:どうどう?断って、断って。泡になる感じは気持ちいいよ~あたしも体験したことないけどね、アハハ!
その狂った声はチキンスープを無意識のうちに横に避けさせた。しばらくしてから彼女は力なく、不本意そうに言った。
チキンスープ:……この件は大きなものだから、妾だけでは決められない。聖主に聞いてから返事をする。
モントリオールスモークミート:ふふ、もちろん。では……わたしたちは聖女の良い知らせを待っているわ。
潜伏と覗きⅢ
バクラヴァ:天幕……山河陣……
ファラフェル:それが何か知っているか?
バクラヴァ:いいえ……ただ彼女らの会話を聞いた限り、堕神から耀の州を守る存在のはずです。
カターイフ:だからやっぱりあのヴィダルはいいやつじゃない!
ファラフェル:吾もそう思う。どうだ、これで貴様の依頼は完了しただろう?
カターイフ:ええ……
ファラフェル:そういえば、シャワルマとクナーファはどうした?どうして貴様と一緒に来なかった?
カターイフ:実は……オレはこれを言うために来たんです……カレらが……いなくなった……
ファラフェル:いなくなった?どういうことだ?
カターイフ:昨夜カレらは城の地下を調査しに行き、オレと姉は兄を引きとめに行った……それ以降、カレらを見ていない……
カターイフ:カレらが何かを見つけて、キミに報告しに戻ったと思っていたから、今日来たんだ……
ファラフェル:……
バクラヴァ:待って!殿下、どこに行くの?
ファラフェル:言うまでもないだろう、もちろんあいつらを探しに行く!
バクラヴァ:おっと、もし今行ったら……自ら落とし穴にかかるようなものですよ!
カターイフ:そ、その通りだ。もしカレらがまだ城にいるなら、オレが戻って探したほうが安全だし、便利だ!
ファラフェル:……ではもし貴様の兄があいつらに危害を加えるなら?貴様は吾らの味方でいるのか?
カターイフ:!あ、兄さんはしない……たとえそんなことが起きても……
カターイフ:もしカレが本当に罪のない人に何かをするなら、もうオレの兄じゃなくなる。
ファラフェル:………………わかった、貴様がそこまで言ったんだ。ではあいつらのことは任せたぞ。
カターイフ:うん!
***
それと同時
城
コシャリ:気がかかる連中ね……カマルアルディンもよ、カターイフと喧嘩しただけじゃないの、どうして失踪したのかしら……
コシャリ:地下以外、城をあちこち探したわ……まさか本当に……
コシャリ:!!
突然背後から聞こえた声にコシャリは冷や汗をかいた。彼女が驚いて振り返ると、フィテールの平然とした顔があった。
フィテール:どうした?
コシャリ:えっと、何でもないわ……オアシス捜索隊の再建について考えていたの。
フィテール:うん。それはもうヴィダルに任せただろ?
コシャリ:……外国人にこの件を任せて本当に安心できますか?新しいオアシスはアビドスみんなの希望よ。
フィテール:ヴィダルに任せて問題がないとは思うが……もし興味があるなら、君に任せても構わない。
フィテールの飄々とした態度にコシャリは一瞬固まったが、それから憤りを感じられずにはいられなかった。
コシャリ:あなたはオアシス捜索隊に関心がないようだわ。爆発で多くの人が亡くなったのに、あなたはそれを調査するつもりがないようだわ。
フィテール:うん、確かに調査する必要はない。
コシャリ:なんて?
フィテール:本当に頑固だね。その点では確かに君は彼に似てる。
コシャリ:……彼って……
フィテール:爆発は私が引き起こしたから、調査の必要はない。この答えで満足させられたか?
コシャリ:!!!
コシャリ:オアシス捜索隊はあなたによって……なぜそんなことをするの!
フィテール:うん……ヴィダルに今は言わないでくれと言われたんだ。
コシャリ:あ、あなたそんなにあいつの話を信じるの?!あなたはアビドス全体で神のように扱われている存在なのよ!あんなやつに振り回されてどうするの!
フィテール:私は振り回されてなんかいない。私たちはただ協力しているだけだ。
コシャリ:協力?捜索隊殺害に協力し、そして全ての民を殺すの?!
コシャリ:……
フィテール:もし全ての民を殺すだけであれば、そんなことは協力など必要ない。私だけで十分だ。
コシャリ:なん……
フィテール:気づいたか?今の君こそが私を振り回す存在だ。
コシャリ:……!
恐ろしく冷静なフィテールを見ていたコシャリは、突然めまいと強烈な眠気を感じた……
フィテール:さて、残るはカターイフだけか……彼はずっと聞き分けが良く、今回もきっと私を失望させないだろう。
希望Ⅰ
ファラフェル:3人……誰も戻ってこない。
バクラヴァ:コシャリとも連絡がつかなくなった……確かにおかしいぞ。
ファラフェル:……ヴィダル側も吾を探す気は全くないようだし、だから……吾らの計画がバレて、シャワルマとクナーファは捕まってしまったのか?
バクラヴァ:いえ、結論を下せません……
ファラフェル:チッ、貴様は預言者じゃないのか?どうしてまともな預言が一つもないんだ!
バクラヴァ:えっと、俺の預言はもともと漠然としていて、まして今は悪魔の目も手元にありません……
ファラフェル:……やはり吾が直接あいつらを探しに行くしかないようだな。
バクラヴァ:もう少し待ちましょう……殿下を見下しているわけでなくて、ただ……城に行ったとしても何もできません。
ファラフェル:ただ待ってるわけにはいかない!
バクラヴァ:申し訳ないですが、今はただ待つことしかできません。
バクラヴァは真剣な表情になり、その口調は疑う余地がないほど強かった。
バクラヴァ:3人が行方不明ということは、俺らに対する警告です。勇気を持つことは悪いことではないですが、罠だとわかっているのに飛び降りることはできません。
ファラフェル:……
バクラヴァ:これが慰めになるかはわかりませんが……アビドスに戻る前に俺は秘密兵器を準備したんです。状況を好転させられるかもしれません。
フェジョアーダ:秘密兵器……パルマのことか?
バクラヴァ:ええ。もし順調であれば……彼はもうグレロに着いたはず……
***
一日前
クルーズ船
パルマハム:……俺は本当にバカだ。バクラヴァの言った通りに、1人でグレロ行きの船に乗り込んだなんて……
パルマハム:でも結局のところ、俺もサヴォイアを抜け出す口実が欲しかっただけなのかもしれない……
パルマハム:もう考えるのはやめた。こんなに美しい景色を前に俺は悩んでいるだけなんて、間違っている。
パルマは首を振り、周囲を見回しながら、楽しい瞬間をカメラに収めた。突然、目の前のレンズがデッキに1人で立つ女性を捉えた。
パルマハム:なんて美しい景色なんだ……すみません、美しいお姉さん、あなたを写真に撮ってもいいですか?
烏雲托月:……どうぞ。
パルマハム:ありがとうございます……これは俺の最高傑作になる!
パルマハム:あの、すみません、どこに行くんですか?
烏雲托月:?
パルマハム:えっと、実は……これからどこを旅行するか悩んでいて、君の意見を聞きたいんです。
彼女は目を伏せてしばらく考えているようだった。それから遠くを見つめ、まるで過去の恋人を懐かしむかのような口調で微かに言った――
烏雲托月:ヒレイナ。
***
一時間後
ヒレイナ
パルマハム:本当に適当に地名を聞いて来たが……でもバクラヴァが言った導かれたというのはそういう意味だよな……
パルマハム:とはいえ、船に乗って疲れたから、まずは休める場所を探すか……あれ?あのレストランにはお客さんがあんまりいないようだから、長く滞在させてくれるよな!
***
パルマハム:失礼します、すみませーん……
御侍:お、お客さん!!
パルマハム:え?
御侍:あ、すみません。久しぶりにお客様に会ったので、興奮しすぎてしまいました……
ライス:御侍、さま……よ、良かった、ですね。
御侍:うん!ではお客様、こちらへどうぞ~
パルマハム:あっ、え……なんか怪しい気がする……
あまりにも情熱的すぎるレストランのオーナーを前に、パルマは少し居心地が悪くなり、レストランの外に向かい始めたが……
チリン――
パルマハム:え?悪魔の目が……落ちた?
御侍:あれ?さっき何か音がした?
パルマハム:……あのティアラを救える存在って、まさか……
御侍:お客様、こちらが当店のメニューです。注文したいものを直接言ってくださいね~
パルマハム:くっ、お前……。
御侍:え?わ、私?!えっと……そういう店じゃありません……
パルマハム:そういう意味じゃない!君とあっちにいるライス……俺と一緒に遠出してくれないか?
あまりにも切迫していたため、パルマの顔には異常な興奮が見られ、レストランのオーナーは警戒して数歩後ずさった。
御侍:……ライス、紅茶を呼んできてくれ……彼女に銃を持ってくるように言ってくれ。
パルマハム:う、俺は怪しい人間じゃない!うん…
パルマハム:信じられないかもしれないけど、俺の友人は預言者で、近い将来にティアラに大きな災難が訪れるが、幸いにもその危機を救う救世主がいるって言っていた……
御侍:まさか私がその救世主だと言いたいのか?
パルマハム:いや、救世主が君なのかライスなのかわからない……だけどこの「悪魔の目」と呼ばれるものは、確かに君たち2人に会った後に地面に落ちたから、救世主は君たちのどっちかに違いない!
パルマハム:ティアラのために2人とも俺と一緒についてきてほしい!
御侍:「悪魔の目」……縄が切れて地面に落ちたのでは?どう考えても怪しい……それに私は料理御侍とはいえ、新米で食霊も3人だけ……どうやって世界を救うんだ?
パルマハム:それは……世界を救うというのは必ずしも戦闘によるものではないだろう……預言が君を選んだ以上、きっと何か別の方法があるはずだ。
御侍:ごめん、あまりにも突然でわけわからないし、できない……
パルマハム:頼む!俺を信じてくれ!俺が言ってるのは本当のことだ!
御侍:……
相手の表情を見た瞬間、パルマの熱意は一気に冷めた。彼はふと、自分でも信じきれないことを、さらに初対面の人を説得できるわけがないということに気づいたからだ。
パルマハム:はあ、バクラヴァは本当に見る目がないな……いや、彼もまさか俺がこれほど役立たずだとは思わなかっただろう……
彼はレストランから外を眺めた。夕日の残照が広々とした空と雑踏の地を幻想的な金色にし、まるで油絵のように調和がとれて美しかった。
パルマハム:もうすぐこんな美しい景色を見られなくなるな……
希望Ⅱ
ファラフェル:……どうやら、貴様の秘密兵器は失敗したようだ。
バクラヴァ:あ……これは仕方がない。
ファラフェル:……これ以上待てない。シャワルマとクナーファはいつでも危険にさらされる可能性がある。吾は今すぐ城に探しに行く。
バクラヴァ:それもそうかもしれない。フェジョはここでパルマを待っていてくれ。もし彼が来たら、城に連れてきて俺らと合流しよう。
フェジョアーダ:え?2人だけで城に行くのか?
バクラヴァ:俺ら2人の賢さがあれば、なんとかなるだろう。
フェジョアーダ:まだふざけているのか!
バクラヴァ:ふざけてないよ。ただ預言者として、俺には危険な場所に行く義務がある。でもバクラヴァという存在として、俺も笑顔で全てに向き合う選択ができるぞ~
フェジョアーダ:じゃあシュメール探検隊の隊長として、お前は……無事に帰ってくるべきだよな?
バクラヴァ:……
バクラヴァはめったに寂しそうな表情を見せない頑固な若者を驚きながら見つめ、最後にゆっくりと口角を上げて優しく微笑んだ。
バクラヴァ:うん、絶対に無事に戻ってくる。
***
アビドス
城
ファラフェル:やっと着いた……そういえば、吾は意外だった。自ら死を求める行動だと知っているのに、貴様は今回吾を止めなかった。
バクラヴァ:俺が戻ってきたのはみんなを救うためなのに、いわゆる「理性」のためだけに自分の本来の目的を忘れることはできません。
ファラフェル:歴代の預言者は城に仕えてきたし、城の主とも接触したことがあるだろう?貴様の正体とはいったい?そのような強大な力は普通の食霊には見えない。
バクラヴァ:そりゃあ普通の食霊じゃないですよ、最も神に近い存在……あるいは……いや、何でもないです。
ファラフェル:……もしシャワルマらが城にいなかったり、あるいはもうすでに……どうする?
バクラヴァ:その時が来れば、答えは自ずと出てくるでしょう。
この時のファラフェルはバクラヴァのはったりに怒る気にもなれず、深く深呼吸をしてから城の門をノックした。
***
フィテール:王位継承者、それに……預言者か、久しぶりだね。
ファラフェル:こ、こいつめ……
フィテール:君たちをずっと待ってたよ、私についてきて。
ファラフェル:……
フィテールが門を開けるとは思っていなかったファラフェルはすぐに反応できず、大人しく相手の後ろについて門をくぐった。
ファラフェル:アビドスにもこんな寒い場所があったとは……おい、さっき吾らをずっと待っていたと言ってたがどういうことだ?吾らが今日来ることを貴様は知っていたのか?
フィテール:君たちがいつ来るかはわからないよ。ただ遅かれ早かれ来ることは知っていた。
ファラフェル:吾はここで貴様と謎解きをする気分ではない。シャワルマとクナーファはどこにいる?
フィテール:彼ら?彼らもずっと君たちを待っていたよ。
ファラフェル:この野郎……奴らに何かあれば、吾は絶対に貴様を許さない!
フィテール:心配しないで、彼らは元気だよ……今のところは。
***
話をしているうちに3人は城の地下まで来ていた。寒い環境がバクラヴァの記憶を呼び覚ましたようで、彼は思わず身震いしてしまった。
バクラヴァ:!ここは……!
フィテール:ええ。どうぞ。
ファラフェル:……
***
ファラフェルは異様なバクラヴァをちらりと見たが、彼が何かを聞く暇もなく、地下の石造りの扉が見えない力によって開かれ、扉の内側の石柱に数人が縛られているのが見えた。
シャワルマ:バカ……どうして、どうして来たんだよ……
クナーファ:早く逃げろ……!
ファラフェル:なん……
フィテール:残念だけど、城から生きて逃げられたものはない。
フィテールはドアの中に入ると、後ろの扉はすぐに閉まった。それとほぼ同時に、石柱に縛られている食霊とファラフェル、バクラヴァは体の奥底から大きな痛みを感じた。
ファラフェル:ぎゃあああ――!!!
カマルアルディン:うっ……止めてくれ!この狂人め!
カターイフ:う……兄さん……これはいったい、いったいなぜ……突然変わってしまったんだ……
フィテール:突然?いや、私はずっとこうだ。
バクラヴァ:ふ……あなたはアビドスの偉大なる神だ、まさか……俺らみたいな脇役に配慮して私刑を加えたりはしないでしょう?
フィテール:その必要はない。しかし、これは君たちを処刑しているわけではない。これはただの準備だ。
コシャリ:だからいったい何の準備をしているのよ!いったい何がしたいの!フィテール!
この瞬間でもフィテールの顔にはまだかすかな笑みが浮かんでいたが、今ではその笑みに不気味さしか感じられない。
フィテール:本当に不思議だ。私は言ったはずだ。
コシャリ:なん……あれのどこが答えたのよ!
バクラヴァとファラフェルを石柱に縛りつけ、フィテールは戸惑いながらも怒った顔をコシャリに向けた。
フィテール:私は「彼」を取り戻す。これが答えだ、どうした?
カターイフ:「彼」は……誰?
フィテール:うん……長い話になるけど、みんな本当に聞きたい?
フィテールは何か答えを聞きたいわけではなかった。すぐにみんなは自分のものではない長くて恐ろしい記憶が頭の中に入ってくるのを感じた……
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