柏餅・エピソード
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柏餅のエピソード
勇敢で純朴な少年だが、大の理想主義者。
武士道浪漫に憧れ、日ごろから武士を連想させる衣服を好み、一人前の武士になりきっている。
勇気の象徴である鯉職を戦旗のように掲げ、伝説の武士として語り継がれたいと思っている。
Ⅰ 悪夢
拙者は自分がどこへ向かうべきか、まだ悩んでいた。
ただ、一つだけ目標がある。
――それは、強くなることだ。
拙者の御侍は、共に戦っているときに亡くなった。
そのとき、敗走する堕神がすでに弱り切っていたので、仲間たちから離れ追走した。
拙者たちは勝利による自我を証明することに夢中だった。
絶対に倒してやる、と拙者たちは意気込んでいた。
ふたり一緒なら絶対に堕神を倒せると――己の力を過信していた。
拙者と御侍は堕神を発見し、いざ倒さんと身構える。が、その背後にはたくさんの堕神の影が見えた。
一体ならともかく、複数体を相手にして拙者が勝てる訳ない。
それは御侍にもわかったようで、目配せで反対方向へと駆け出した。
これは、完全に拙者の失態だ。こうして複数体現れたら太刀打ちできない。
その可能性を何故、拙者は考慮することができなかったのか――その結果、御侍を危険に晒してしまうことになってしまった。
拙者はうな丼のように強くはない。彼だったら、ひとりでも対抗できただろう。
もっと拙者が己を理解していたら、別の結末を迎えられたかもしれないのに。
しかしそうではなかった。
拙者と御侍は離れ離れになってしまった。
このままでは御侍が危ない!
すぐに御侍と合流しなければならない。
御侍は人間だ。堕神には対抗できないのだから。
「柏餅!」
必死に駆けた拙者の願いが通じたのか、すぐに御侍と合流できた。
今は勝利のことは忘れる。
とにかくここから御侍と共に逃げることが最優先だ。
強く短刀を握る。
間違いは許されない。
集中しろ、必ずここから生還するために!
拙者の心臓が大きな音を立てる。
何度も堕神に立ち向かっていく。
隙を突け、油断するな、目の前の堕神を絶対に倒すんだ!
しかし、そんな熱意も届かず、拙者の剣はたやすく返り討ちにされる。
「シャアアアアアアッ!」
その声に、拙者は振り返り、一気に短剣を堕神に刺す。
(――手ごたえあり!)
まずは一匹目……そう思った瞬間だった。
「柏……餅!」
その声に慌てて振り返ると、そこには御侍が立っていた。
そしてその背後には堕神が見える。
「御侍どのっ……!」
その叫びと同時だった。
御侍がその場に崩れ落ちる。その瞬間、動きがゆっくりと視界を流れる。
堕神の咆哮も間延びして耳に響いた。
時間が引き伸ばされたかのように感じた。
「……あ」
ドバッ、と――それは扇を開くかの如く、空へと舞い飛んだ。
赤い鮮血が目の前に広がり、拙者の両目を覆った。
(これは……夢、だ)
体の力が抜ける。
視界を奪われると同時に、時の流れが正常になる。
御侍の悲鳴が聞こえる。
ずっと寄り添って聞いていた人の声を間違える筈はない。
(御侍……ど、の……ッ!)
それは音となって、声から出ない。
掠れた息だけが口から洩れる。
(拙者が未熟だから、御侍どのを死なせてしまった――)
その現実を認識して、拙者はそのまま意識を失ってしまった。
まるで夢を見ているかのようだった。
夢の中で御侍が遠くで拙者の名前を呼ぶ。
拙者はそちらへ向かおうとするが,その距離は縮まることはない。
一本の黒い川が拙者の行く道を遮る。川を除けば、そこには恐ろしい影が蠢き、とても近づけない。
それでも突っ込んでいこうとしたが、川から黒い両腕がいくつも拙者を掴む。
御侍の声が次第に小さくなっていく。
(御侍どの助けたい……助けたい、のに!)
拙者は絶望の中、御侍へ手を伸ばし叫ぶ。
「御侍どの!御侍どの!」
その叫び声に、拙者は目を覚ます。涙が無意識に頬を濡らしていた。辺りを見回すと、拙者を見下ろしている男が叫んだ。
「柏餅が起きた!将軍を呼んでくれ!」
Ⅱ 逃避
その後、怪我の治療を受けて暫くして、拙者は将軍の下から逃げだした。
拙者をもう一人の息子のように扱ってくれる将軍に申し訳ないと思ったからだ。
***
拙者の御侍は将軍の一人息子だった。
御侍は幼少期、柏餅の作り方をこっそりと勉強していた。
そんなある日──太陽が照りつける五月五日のことだ。
御侍は兼ねてより、自分が作った柏餅を父親と食べたいという夢を抱いていた。
この日はまさにその夢をかなえる日なのではなかろうか、と御侍は柏餅を手に、父親の私室を訪ねた。
御侍の父は柏餅を食べて大層に喜んだ。
そのことで御侍は気が大きくなり、高らかに宣言する。
「私はいつか、父のような立派な武士になりたいのです!」
うな丼は将軍の後ろで酒を飲みながら、大声でその志気の高さを賞賛した。
その後、将軍はそんな我が子に、聖帝から賜った幻晶石を渡した。
自分にとってのうな丼のように、信頼できる仲間がいると良いな、と笑って言った。
「食霊は強い。きっとお前の良きパートナーになってくれるだろう」
そうして御侍は父のような料理御侍を目指すことになったらしい。
拙者はその日、御侍が父親からもらった幻晶石で召喚されたらしい。
このことはうな丼から教わった。
五月五日はある意味、お主の誕生日だな、とうな丼は笑った。
拙者は生まれたばかりの頃はそれほど力はなかったのだが、うな丼はそれは御侍の作る柏餅の出来と関係があると言った。
拙者の御侍は料理御侍として未熟だから拙者は弱いのだと、だからうな丼には勝てないのだと言われた。
「まだおぬしは未熟だが──さて、修行ののち、どれほど強くなれるか?」
「くっ……!」
うな丼はこうして拙者の対抗心を煽る。
意地悪だと感じなくもないが、拙者が望めば、いつまでも修行に付き合ってくれた。
斜に構えたうな丼は拙者の良い兄貴分であった。だからこそ拙者は悔しくて短剣を振り回す。しかしすべて揚々とうな丼に払いのけられてしまった。
「まだまだだな、柏餅。もっと鍛錬せよ。さすれば強くなれるかもしれぬぞ!」
カラン、と拙者の短剣が弾き飛ばされてしまった。無力な自分に、拙者はそのまま地面に跪いた。
「柏餅!」
すると、我々の背後で剣の鍛錬を積んでいた御侍が、颯爽と拙者の前に現れ、勢いよく木刀をうな丼に振り下ろす。
「うな丼! あなたは拙者の剣の師です。だからといって、拙者の食霊をいじめることは許しません!」
「フッ、殿も大きくなったものだ。誰かを守ろうとするとは!」
「柏餅は、拙者の食霊だ!拙者が守って当然であろう!」
「ふむ、なるほど……良かったな、柏餅。良き御侍を持って」
笑ってうな丼は御侍の木刀を揚々と受け流す。
「ま、待ってください!御侍どの……!拙者は御侍どのに守られるためにいるのではない!守るために存在するのです!必ずやこの柏餅、今よりもずっとずっと強くなって、御侍どのを守ります!」
「柏餅……!」
御侍は目に涙を浮かべ、拙者を強く抱き締めた。御侍どのは感動しやすい、素直な性質である。そんな御侍が拙者は大好きだった。
「ふむ、そうやって信頼し合うのは良いことであろう。ふたりが絆を忘れねば、きっと良い武士になるだろうな」
うな丼はそんな風に笑って、また明日修行に付き合ってくれると言ってくれた。
館の者たちは、拙者を御侍と同じように扱ってくれた。
拙者にも、御侍と同じように気を使ってくれた。御侍と拙者はまるで兄弟のように館で育ったのだ。
拙者と御侍は衣食住を共にし、共に剣を学び、戦い方を学び、勉学に勤しんだ。
将軍が御侍の成果を試す時、同様に拙者の成果も気にかけてくれた。
将軍は力不足だと責めるのでなく、何度も拙者たちを鼓舞してくれた。
また、うな丼は拙者に武士としての戦い方を教えてくれた。更に霊力を用いた戦い方を教え、導いてくれた。
だから拙者は密かに誓ったのだ。強くなって御侍を守り、将軍にも失望はさせないと。
だが、それは叶わなかった。
己が未熟が故に、御侍を守れなかった。
だから拙者は、将軍の元から逃げだした。
拙者は弱いままだ。召喚されたときから変わらずに、ずっと弱いまま。
だから、もっと強くならなくては。
そうなって初めて、将軍に謝罪ができる気がする。
ひとりになった拙者は、どうしたら強くなれるか、考えなくてはならない。
「必ずその方法を探し出してみせる!」
Ⅲ 修練
そうして将軍の元を去った拙者は、まずは山で鍛錬を始めた。
そこで体を動かしながら、また拙者は昔のことを思い出した。
それは、まだ王都にいたころの話だ。
拙者と御侍は優れた武士たちの話を聞くのが好きだった。
その武士たちは名を上げる前、皆同様に過酷な訓練を積んでいる。
春は森の中で野獣と対峙し、夏は滝に打たれながら瞑想、秋は高山を登り、冬は凍える湖で泳ぐ……
その内容に、拙者も御侍も息を呑んだことを覚えている。
そんな懐かしい話を思い出し、これらをすべてこなせば、その武士たちのようになれるのではないかと考えた。
そして拙者は行動に移した。
野獣と対峙し、傷だらけで森を後にする。青あざが出来、手も上げられなくなるほど滝に打たれた。何度も断崖絶壁を登ろうと試みて、何度も足を踏み外しそうになった。冬の湖での遊泳にも挑んだ。危うく凍死しそうになり、命の危険を感じた。
そんな鍛錬は、楽しいことばかりでなかった。最初はうまくいかずとても落ち込んだ。それでも、御侍のことを思い出せば、拙者は再び顔を上げて、苦難に何度となく立ち向かえた。
その結果、拙者は強くなれた。
もう、森を追われることもなく、滝の下であろうと姿勢は崩れず、山を登る時、瞬時に道を見極められ、泳ぎもどんどん速さを増した。
そんなことを繰り返すうちに、拙者よりも大きいクマを薙ぎ倒せるほどに成長した。
そんなある日、成長を実感するため、拙者は堕神を見つけて勝負を挑むことにした。
御侍は拙者を応援してくれていた。そんな御侍のためにも、絶対に拙者は成果を出したかった。
そして、拙者は何年も修行を積んだ山を離れ、堕神の情報収集に勤しんだ。
情報をくれる者は拙者が堕神に挑むと知って、冒険心は大切だが命に関わることだ、と諭してくる。
だが、どうしても引けなかった。これは意地だ。御侍どのを助けられなかった拙者がこれから先も生きていくには、あの日の屈辱を晴らさなければならない。
それで御侍が戻ってくる訳ではないことは勿論承知していたが、そうでもしないともう前に歩み出せない気がしていた。
(もし、拙者がうな丼のように強かったら)
そうしたら、御侍どのを危険に晒すことはなかったはずだ。
もう二度と『弱い』ことで誰かを失うことがないように。
もう二度と、御侍どのを失ったときのような絶望を味わわないために。
――拙者は、強くなるのだ。
それは、純粋な想いだった。
ずっと強さを求めて拙者は御侍と共に修行に励んできた。
このご時世、堕神に立ち向かえない食霊にどれほどの価値があるだろうか?
堕神が倒せない、御侍すら守れない、
正面から堕神に向かい合えば、自分が今、どれくらいの力を持っているか知ることができる。その力で誰かを守ることができるのか確かめたい。
――拙者は、必ず堕神を倒して、御侍どのを守れると証明するのだ!
Ⅳ 力の証明
拙者は堕神が頻繁に出没すると言われている場所へとやってきた。
そこはとても静かな場所で、まるで生気を感じない。
風で木の葉が揺れ、嫌な音を立てる。危険な雰囲気が常に漂っていた。
山の中はいつも賑やかだった。だから、ここまで静かな場所だと却って落ち着かず、緊張せずにはいられない。
拙者はぐっと短刀を握りしめ、四方を見渡して、堕神の襲撃に備える。
――パキッ。
木の枝を踏み折った音が鳴った瞬間、黒い影が覆いかぶさった。
拙者は本能的に攻撃を避け、黒い影に目を向ける。
するとそこには凶悪な堕神の姿があった。それは大きな体で、歪な外見をしていた。
襲撃に失敗した堕神は、全身を震わせて、高らかに咆哮を上げる。そして何体もの眷属を召喚し、一瞬のうちに拙者を取り囲んだ。
そのとき拙者は、御侍と共に戦場で堕神と対峙した記憶を思い出していた。
拙者は強くなって、もう乗り越えたと思っていた。だが、まだ心の奥に堕神への恐怖心が残っていた。
短刀を握った手が震える。冷や汗が流れ、足が重く感じる。堕神たちは次第に距離を縮めてくる。
(弱気になってはだめだ……強くなったことを証明するために来たのに)
拙者は深く息を吸いこんだ。
――逃げるわけにはいかない!
グッと歯を噛み締め、拙者は大きく一歩前に出る。刃を目の前の堕神に向け、勢いよく奴らに飛びかかる。
拙者の短刀は堕神の血肉をえぐった。
ビシャリ、と顔に血が飛んでくる。
血で視界を閉ざされることがないように、すぐに目を閉じた。
(まずは、一匹!)
堕神が地面に崩れ落ちる音を確認し、くるりと背後の敵に振り返る。
そして容赦なく堕神を短刀で倒していく。手に、肉をえぐる感触が残り、少しだけ顔を歪めた。
「次!」
そう叫んで、拙者は高く飛び上がる。
堕神の頭目がけて短刀を突き当てる。
「ギャァアアアァアアッ!!」
堕神の絶叫を聞きながら、拙者は次から次へと堕神を倒していく。
戦闘中、拙者は確かに強くなったことを実感した。
反応速度、攻撃強度、以前と比べ物にならないほど強くなった。
だが堕神の数は拙者の予想を超えるものであった。継続戦闘が拙者を消耗させる。
堕神の眷属は片付いた。だが最も厄介なのがまだ残っている。
片膝をつきながら、拙者は最後に残った堕神を強い眼差しで睨みつける。
わかっていたことだ。堕神の力は恐ろしいものだと。
見た目が恐ろしいだけではない、その力が強いから太刀打ちできないのだと、改めて思い知らされる。
(だが、引かぬ!)
以前の拙者は、単独で堕神を倒す力はなかった。
だが今の拙者なら……力をつけた今なら、必ず堕神を倒せる!
あのときとは違う!
今は己の力をすべて引き出して戦える!
ゆっくり体を起こし、刃を堕神に向け、咆哮を上げる堕神に低い姿勢で駆け寄っていった。
「行くぞ!この技を受けきれるか!」
Ⅴ 柏餅
柏餅を召喚した御侍は、まだ幼い少年であった。
将軍の息子であった彼は、父と同じように自分も立派な武士になるのだと、日々研鑽していた。
その後、父がただの武士ではなく、料理御侍という特殊な力を持っていたことを知る。
父に憧れていた御侍は、自分も料理御侍になりたいと願う。
そして、柏餅を召喚した。たくさんの幻晶石を使っての召喚だった。
そうして召喚した柏餅もあまり強い食霊ではなかった。
料理御侍としての才能はさほど高くなかった柏餅の御侍は、生涯、殆ど召喚をしなかったという。
だからこそ、柏餅に対しては並々ならぬ愛情を抱いていたようだ。
召喚されたときの柏餅と御侍は、近しい年齢であったこともあり、親友のように切磋琢磨して育った。
お互いを信じあい、共に物語として語られるような立派な武士になろうと努力を重ねていた。
そして彼らは助け合いながら、多くの修練をこなした。
その中で、強い食霊武士として活躍していたうな丼に、柏餅は戦い方を学んだ。
うな丼の訓練は、決して手抜きなものではなかった。
だが、柏餅が真に目指していたのは将軍や御侍のような武士であって、うな丼のような「食霊武士」ではなかった。
だからうな丼の訓練も、そんな柏餅の気持ちを尊重して、自然と人間よりの戦い方に重点を置いたものになっていった。
そんな経緯から柏餅は霊力を用いた戦闘についての鍛錬は殆ど積んでいなかったのだ。
うな丼から霊力の使い方も学んでおいた方が良いというアドバイスを受けても、そのことに真摯に取り組もうとしなかった。
柏餅は御侍と衣食住を共にし、武士としての腕を磨いていった。
そうしてずっと傍にいたので、次第に行動や思考が御侍と似てしまっていた。
普段食霊が人間のように戦っていても影響は少ない。
だが強大な堕神に遭遇した時、人間の戦い方では全く通用しない。
御侍と同じような戦い方に重点を置いていた柏餅の戦闘の仕方では、堕神に勝てなくても仕方がなかった。
柏餅の御侍は、その後堕神に殺された。
その場に居合わせた柏餅は、なんとか生きながらえ、御侍の父である将軍に助け出されるも、動けるようになるとすぐにその場から逃げ出した。
それは、己の不甲斐なさの結果で将軍の息子である御侍が殺されてしまったこと、同時に食霊として堕神に対抗する術を身に着けていなかったことに対するどうしようもない悔悟の念からだった。
御侍の死後、柏餅は武士としての戦い方だけでなく、うな丼に教えてもらっていた「食霊武士」としての戦い方を思い出しながら鍛錬を積んだ。
当時、まるで興味を示さなかった柏餅に、それでもいつか必要になる、と丁寧に教えてくれたあのときのうな丼には感謝しかないと柏餅は思う。
うな丼は、どんな風に力を出していただろうか――
霊力の使い方はどうだった?
こうして思い出してみると、うな丼の教え方は非常にわかりやすく、みるみるうちに柏餅は「食霊武士」としての力を身に着けた。
戦い方も自然と変わっていった。
己の悔悟の念を打ち払うために挑んだ堕神戦で、柏餅が見事に堕神に対抗できたのは、食霊としての戦い方を身につけられたからだろう。
そして、再度挑んだ堕神戦。
その最後の敵に立ち向かったとき、柏餅は不意に御侍のことを思い出す。
御侍を失ったあの日、自分が食霊として堕神に立ち向かえていたら。
そうしたら、御侍が死ぬことはなかっただろう――
この後悔は、たぶん一生消えない。
これからもずっと拙者の心の傷は消えないだろう。
だが、それでいい。
自分を召喚してくれた御侍。
その彼と過ごしたこれまでの日々。
このことは自分が消えるまで、ずっと変わらずこの胸に刻みつけておきたい。
たとえ今後、ほかの御侍に仕えることになっても変わらない。
その想い出を抱えたまま、新たな時間を刻み、想い出を重ねるのだ。
(――この堕神を倒し、拙者は前に進む!)
堕神の攻撃を間一髪でかわし、見事柏餅は目の前の堕神を仕留める。
「や……った!」
崩れ落ちる堕神の前で、柏餅もへなへなとその場にしゃがみこんでしまう。
「シャアアアアアア!!」
「え!?」
背後から聞こえた堕神の咆哮に、柏餅は慌てて振り返る。
(確かに全部倒したはずなのに――まだいたなんて!)
「え……?」
身構えた柏餅の前で、堕神が真っ二つに切り裂かれた。
「最後まで諦めず、よくひとりで戦ったな、小僧。やるじゃあないか!」
そこには、屈強そうな百姓の男が立っていた。
「だが、気を抜くのはまだ早いぞ。追撃の可能性はいつだって忘れてはならん!」
ニカッと笑って、百姓の男は柏餅に手を差し出した。
「立て、共に奴を倒そう!」
柏餅はその手を取り、百姓と共に新たに現れた堕神を倒した。
その戦いで、また柏餅は成長した。
(まだまだ拙者には、学ぶことがたくさんある――)
強くそのことを自覚し、柏餅は更なる修行に励むのだった。
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