【非人類学園】Eii・ミッション-Ep1
ようこそ、デジタルシティへ
連休の前日、銀角は高倍率なとある新作ゲームのCBTに当選した……
〈体感システム同期中…〉
〈電波と神経の同期周波数が基準範囲内であることを確認〉
〈思考連結スタート〉
優しい少女の声をしたアナウンスが響いた直後、僕の思考は一つの塊に凝縮され、巨大な黒い渦の真ん中へとひたすらに落ちていく。
(――二ヵ月前)
金角「聞いたか銀、この前『金天堂』が没入型バーチャルゲームのクローズドβの抽選を始めた話。お前の分も申請しといたぜ。チーム戦で、クリアすると謎の宝物が手に入るってよ!」
肆季「銀ちゃんなら絶対勝てるさ。それにあの宝物、きっと超レアSSR+だよ!僕の金剛輪もうずうずしてる!」
銀角「まあな」
――期待されちまったなあ。
銀角は、CBTの抽選に当たり、あの物々しいVR設備が届いた時の金角と肆季の表情を思い出す。羨ましさ剥き出しだった。
WU:NPC | |||
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目を開けると、黒い渦は徐々に色褪せ、ついさっき想起した記憶も光に包まれながら四方八方へと散らばっていく。
〈ようこそ、デジタルシティ【カンマク】へ〉
深夜なのに、真昼間かと思う程の賑やかさの中、近未来的な建物が雲へと聳えている。宙に浮くホログラムの看板の光が夜空を照らしていた。
なんて非現実的に栄えた都市だろうか。
周囲を見回す銀角の目の前に、突然、どでかい球形のメカが近づき視界を遮った。
???「『コンピューターゲームは世界を救う!』この八戒こと、Wu Neng:NPCがあなたをご案内いたします!」
銀角「……」
WU:NPC「私はチュートリアルの説明を務めさせていただくNPCです。WUと呼んでくれれば幸いです。用があれば、そのボタンで私を呼び出してください」
→ボタンを押し、WU:NPCの機能を解禁する
WU:NPC「おぉ、呑み込みが早くて感心ですな!チュートリアルをクリアするまで、初心者のガイドはこの私がさせていただきますよ!今から、ゲームに馴染んでもらうための【チュートリアル】、【デジタルシティ旅行ガイド】や【テレポート】などのサービスをご提供しますが...」
WU:NPC「うーん、一番簡単な【テレポート】から始めましょうか。どちらへ行きたいですか?」
→「基本的なサービスからは嫌だ」
WU:NPC「でしたら、【テレポート】は後にしましょう。【デジタルシティ旅行ガイド】アンロック!」
→「旅行ガイドを頼む」
WU:NPC「デジタルシティの三大ランドマークへ、ワンタッチで直行――」
→浮光取引所へ行く
まぐわ状の眩しい光に打たれ、銀角は細かなデータのブロックとなる。彼の体はそのままデータの奔流に乗り、目的地へと転送された。
〔浮光取引所〕
そこは非都に浮かぶ猫島のように、無数の高層ビルに囲まれて都市の上空に浮かぶ場所だった。長きにわたり都市の富の中心だったせいか、黄金の光を纏っている。
商品の詰め込まれた棚の並ぶ、巨大なドームの中央では、金色の球体に座る目隠し姿の少女がカウンター越しに客の応対をしていた。彼女と会話しているのは、黒髪をツインテールにした猫耳ヘッドホンの少女。何かの取引をしているように見える。
レム「聞きたいんだけど……アタシがそのステージを1番最初にクリアするって、確かなの?」
百目:NPC「知る限りでは……」
レム「雷霆少女が雷電刃を片手に、相手をノックアウトしてローカル最高成績を叩き出すのね?」
百目:NPC「……それが、星の観測者達に隠された運命」
百目が応対の終わりを告げる常套句を発してしばらくの間、レムは呆然としていた。やがて百目は、レムではなく、その背後の銀角に目を向ける。
百目:NPC「あら、流れ星の尾の分枝……面白くなりそうね?」
レム「(キラキラと目を輝かせて)ふふん!きっと流光の刃のフルコンボで決めるんだろうな!さっすがアタシ!」
はしゃぎながら取引所を後にするレムをよそに、銀角は思考に耽る。
――流れ星の尾の分枝?僕に向けて言った言葉だろうけど……どういう意味があるんだ?
疑問を持ちながらも、銀角は次の目的地へ行くべくWUを呼び出した。
→光追任務ホールへ行く
銀角は再び光に打たれ、データとなって目的地へ転送される。
〔光追任務ホール〕
デジタルシティの一角に隠匿された、とある車庫の中。暗くて広いこの空間は、巨大なシャッター1枚によって外の世界から完全に切り離されている。
そのシャッターが、近づいてくるエンジンの轟音に応じて突如巻き上がった。途端に外光が侵入者めいて車庫の中を塗りつぶし、コンクリート壁の一角と、そこに貼りだされた無数の任務札を照らし出す。
やがて、その光を切り裂いて黒い影が一つ、華麗なドリフトで任務ホールへ滑り込む。
夸父:NPC「任務が更新されたぜ!たった今依頼された新任務だ!」
意気揚々と任務札を更新しようとする夸父だが、その肩にポンと手を置く人物がいた。全身を機械に包み、ついでに機械の犬を従えている。
楊戩「おっと、正義の味方兼イケメン警官として忠告してあげよう。今のお前、スピード違反だ」
夸父:NPC「ははっ、ロードラッシュのチャンピオンである俺にスピード違反を語るのかっておいこら!俺のバイクとなれなれしく自撮りしてんじゃねえぞ!任務を受けに来る新入りの邪魔じゃねえか!」
楊戩「自撮りなんかじゃないさ。この天眼の超高解像度カメラで、俺がゲームルール違反を正すカッコイイ姿をありのまま記録に残す公的活動だ。てな訳で取るぞ!カメラ見て!はいチーズ!」
――ヘルメットで分からなかったけど、この犬を連れた自撮り男、非人類都市の警察官だな。この前に金角の人助けを大々的に表彰していたから、記憶に残っている。
銀角「……なんで警察官がVRゲームに参加してるんだ?」
首をかしげながら、銀角は次の目的地へ行くべくWUを呼び出した。
→超・流光の巓(いただき)へ行く
銀角は再び光に打たれ、データとなって目的地へ転送される。
大鵬:VR | ||
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〔超・流光の巓〕
都市の中央、周囲の高層ビル群よりなお高い摩天楼。
その外壁に取り付けられたLEDビジョンには、プレイヤーたちのランキングや試合の広告が刻々と更新されつつ表示されていた。
銀角の隣でビジョンを見上げる少年は、ふさふさの銀髪と、光ファイバーを束ねて作り上げた翼を夜風になびかせ、人々の注目を集めている。
大鵬「デジタルシティの風紀が乱れている。取り締まりが必要だ……」
――翼、風紀……まさか大鵬か?
銀角の視線に気づいたのか、翼の少年、大鵬が彼に向き直る。鋭い視線で銀角の身なりを観察しながら、彼は口を開いた。
大鵬「君のこと、どこかで聞いたような……そうだ、獅妹から聞いたんだ。4本角の青色担当、格好いい弟ってのは君のことだろ。名前は確か、銀角」
銀角の身だしなみに満足したのか、小さく口角を上げ、大鵬はビジョンを指さす
大鵬「さて、ここは【流光の巓】だ。このビジョンに表示されているのは、プレイヤーのランキングと【ゲームコンテスト】の試合情報。この都市で戦い続ければ、ランキングに乗って注目されるだろう。君も僕と同じく、優等生としての自覚があるなら、一緒にここの風紀を正そうじゃないか」
大鵬はそれだけを告げて翼のエンジンを起動し、青い光を迸らせ、流光の巓の傍を飛んで行った。自由自在に空を駆ける姿は、さながら銀河を流れる星々のようで。
銀角「見るからに、肆季よりは頼りになりそうだな」