【非人類学園】Eii・ミッション-Ep2
準備万端
デジタルシティでの冒険の始まりを前に、銀角は新たな武器を手に入れ、『頼もしい』仲間たちと出会う...
【金天堂】
フルダイブVRゲームの開発、運営、配信サービス等を提供する大企業。そのゲームには感覚再現プログラム、思考反映装置、疑似観測システムなど一連の技術が組み込まれている。
今回非人類都市をざわつかせた少人数制のクローズドβは、『プレイヤーに斬新なゲーム体験を提供する』という触れ込みで大々的に宣伝されていた。しかし、テスト参加者の選別と、伏せられた優勝賞品から察するに、その背後にはさらなる企みが潜んでいることが窺える――
〔浮光取引所〕
銀角は再び取引所を訪れていた。
巨大なドームのホールで、百目とWUが彼を待っている。視線を隠した百目は、働いているのか、ぼうっとしているのか分からない。銀角は内心、便利なものだな、と呟く。
WU:NPC「『コンピューターゲームは世界を救う!』このWu Neng:NPCがご案内いたします!」
WU:NPC「ようやく来てくれましたね、待った甲斐がありました!いよいよチュートリアルの一番肝心なところです、専用の戦闘装備をアンロックすれば、ゲーム内のコードネームをプレゼント!」
銀角「コードネーム、名前をプレゼント……?」
百目:NPC「ふふ、クローズドβではユーザーネーム機能が未実装なの。今は戦闘装備の名称が、名前の代わりになっているわ」
銀角「変な話だな、そんな大事な機能を開発せずに早々とテストを始めるなんて……それに、装備名が被ったらどうするんだ?カスタマイズ前提なのか?」
彼の質問に反応もせず、百目はカウンターの引き出しから煌く結晶を1つ取り出す。そのまま引き出しを戻すと同時に、突如カウンターの一角が地下に沈んで、代わりに巨大な謎の装置がせりあがってきた。
百目:NPC「これは【輝晶】よ。戦闘装備のエネルギー源になる、デジタルシティの重要なリソース」
銀角「おいおい、僕の話を聞いているのか……本当に未開発なのは、NPCの会話機能の方じゃないだろうな」
百目:NPC「あら、そのご指摘には賛同しかねますわ」
銀角「……意図してプレイヤーの質問を無視してるってことか」
百目が輝晶を機械の投入口に入れると、機械は迅速に駆動し始めた。内部にセットされていた、何の変哲もない剣にエネルギーが注ぎ込まれていく。機械から零れた光が、ホール全体を覆い尽くした。
〈【オーロラの剣】が獲得されました〉〈まもなくCode:【光斬り】ゲームコンテストが開催されます〉
サーバー全域へ弾幕が一斉送信されたのち、装置の光は弱まり始める。
百目が無造作に手を振ると、銀角の目の前に、冷たい光を湛える剣が現れ、空中に留まった。彼がその剣を握ると、まばゆい光が迸り、取引所のドームの向こう、夜空の星を照らし出す。
その光が落ち着いた時、銀角は、自分の衣装が普段のそれではなく、他のプレイヤーたちと同様のSFチックな戦闘服に変化していることに気が付いた。ふと、前に百目が言っていた『流れ星の尾の分枝』という言葉が思い出される。
銀角:VR | ||
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銀角「一つ、質問いいか。前に言っていた……」
百目:NPC「しーっ。悪いけれど、運命に関する質問に答えることはできないわ」
彼女の言葉に気を取られた銀角は、目の前にふと現れた【チームへの招待】ウインドウに気づけなかった。考えに耽る彼の手が偶然【招待に応じる】ボタンに触れ、直後、彼の肉体はテレポートで飛ばされてしまっていた……
〔超・流光の巓〕
銀角が転送されたのは、何かの受付カウンターの近くだった。視線の先では、見覚えのある3人がたむろしている。近づくにつれて銀角は、彼らが口論していることに気が付いた。
気配に気づいたのか、3人は銀角に向き直り、会話を止めて向かってくる。先頭を歩いてくるのは、この前『フレンドリー』に会話を交わした大鵬。
大鵬「招待を受けてくれたんだな、【オーロラの剣】。君も参加するよな。これでチーム人数が足りるぞ、申し込みに行こうか」
銀角「チーム?申し込み?話が見えないんだが……」
レム「ええっ!?ゲームルール説明されてないの!?」
大鵬の背後から、少女が顔だけをぴょこんとだして声を発する。よく見れば彼女は、取引所で騒いでいた中二病少女、レムだった。
彼女は手慰みに、毛のない機械犬を撫で続けている。その飼い主の楊戩は、愛犬を撫でまわす彼女を特に意に介すことなく傍に佇んでいた。
その楊戩は、突如現れた【オーロラの剣】が、非都で良く人助けをしている金銀兄弟の弟と気づいたのか、無造作に手を差し伸べる。銀角もそれに応じた。
楊戩「やあ、俺は【裁きの戟】。しばらく青少年ゲーム安全管理人を務めることになっているんだ。健康的なゲーム環境づくりを通して、子供たちの成長を見守ることが職務というわけだな」
楊戩「さて、こっちの中二病娘は【流光の刃】で、もう一人はお前も知っているだろうが【天翔ける翼】だ」
銀角「ああ、僕は【オーロラの剣】……えっと、安全管理人がどうして中高生とチームを?」
楊戩「青少年に安全にゲームを楽しんでもらうためさ」
銀角「?」
レム「さて、と。そうだ、銀角は大鵬に招待されてすぐ来たんだよね、チュートリアルクリアしてないでしょ?」
銀角「言われてみれば、ちゃんとした説明は受けてないな……悪いが、どうすればいいか教えてくれないか」
レム「ふふーん!心配ご無用、このゲーマー少女がルールを教えてあげようじゃないか!このゲームの主なコンテンツは、Code:【光斬り】ゲームコンテストへの参加なの。コンテストは新人戦、トーナメント戦、決勝戦の3つに分かれててね――」
喋りながら、レムは金天堂が公開しているゲームコンテストのサイトを表示する。
レム「新人戦では、NPCとバトルするの。次のトーナメント戦は、抽選で選ばれたチームとの対人戦。で、それを勝ち抜けば決勝戦に進めるってわけ!最後まで勝てば、例の謎の優勝賞品を獲得!」
レム「ちなみに、参加チームは【超・流光の巓】に掲載されて、追加報酬も貰えちゃうのだ!」
言いながら、レムは摩天楼をビシッと指さす。ちょうどLEDビジョンには、ゲームコンテストへの参加を促すビデオが流れていた。
〈時を駆けろ、遊戯を正し光を齎せ〉
〈破壊の技巧、戦場を統べる無双の汝〉
〈星々の力、移ろう時空、我と共に煌きを巡れ〉
仰々しい宣伝の勢いに釣られたのだろう、『青少年のためにゲーム環境を守る』と宣言していた楊戩が真っ先にデバイスを立ち上げ、チーム申請を開始した。
だが、チームメイトがこぞって見つめるホログラムの画面に『チーム名を入力してください』の表示が出た途端、これまで和やかだったレムと大鵬の間に緊張が走る
楊戩「また難しい決断を迫られたな。俺達にふさわしい素晴らしい名前を付けないと」
大鵬「条件はあれだな、格好良い事。凄いと思わせる響きな事。あと、意味を考えさせられるような名前でないとな……」
レム「そうだ!アタシたちのコードネームって『○○の××』って形で揃ってるよね、そこから取って【感光の徒】ってどう!?」
【天翔ける翼】の大鵬の目がすっと細められる。
大鵬「却下。というか『感光』なんてどこから来たんだよ。そこの自撮りカメラ大好き警官にしか関係ないだろ。」
楊戩「おいおい、これは自撮りカメラなんかじゃない。公務執行用の大事な記録装置、天眼だぜ!」
子供の前で取り乱した自分に気づいた非都警官は、やり場のない興奮を紛らわせるべく、傍の機械犬・哮天の爪を撫でる。
冷たくすべすべとした爪の手触りを確かめる内に、頭がすっきりして何かアイデアが降ったのか、楊戩は晴れやかな声色で一つの案を口にした。
楊戩「古いゲームへのリスペクトを込めて、『スーパー非人類ブラザーズ』ってのはどうだ!」
返答はしばしの沈黙、そしてレムの爆笑だった。
レム「あっはははは!なにそれ、天暦どころか西暦のネーミングセンスよ!何百年前?って感じ!あはははは!!」
大鵬「というか、今時のチームは略称つけるのが当たり前だろ。この名前自体はさておき、略せないならダメだな」
再びざわつき始めた三人をよそに、銀角はホログラムの画面に目を向け、ふと気づいた。チームの命名に時間をかけすぎたせいで、締め切りを示すカウントダウンが表示されている。
銀角「おい、急がないと間に合わないぞ!」
しかし白熱する三人は気づかない。銀角は仕方なく、彼らに割り込んで話をしようとするが――
レム「えいい!誰!【流光の刃】のマフラーを引っ張ってるのはっとお!」
踏み込んできた銀角を避けた哮天犬が、弾みでレムのマフラーを引っ張り、彼女のバランスを崩してしまった。宙を切るレムの手が触れたのは、チーム名を確定するホログラムボタン。
〈入力成功〉
〈チーム【Eii】の受付を受理しました。まもなく新人戦が始まります〉
固まる一同の中、レムが真っ先に我に返った。
レム「【Eii/エイイ】だなんて、さすがあたしのつけた名前!カッコイー!」
つづく...