【非人類学園】Eii・ミッション-Ep3b
選択肢:B
銀角「いや、僕はポイントを稼ぐ!」
返答に頷いた大鵬は、このまま押されてたまるかと飛び上がり、空を翔け、最短距離でNPCチームのバイクを強襲した。バイクの乗り手たる夸父は槍の切っ先を躱そうと車輪を滑らせ、一気に無数の音符を逃す。
無理な軌道に耐え切れず、後部座席の百目がぐらりと体勢を崩した。彼女を救出しようとマシンアームを伸ばすWUを睨みつけ、大鵬は今一度、今度はバイク正面から攻勢を試みる。
大鵬「風紀違反だ、暴走野郎!」
夸父:NPC「甘いんだよ!」
吐き捨て、夸父は思いっきりハンドルを切る。彼の操縦に応え、鉄の獣は前輪を軸に、半円を描くようにして躍動した。槍を構え接近する大鵬の肉体を抉らんと、後輪が唸りを上げる。
大鵬「っ――クソッ!」
機械の羽を羽ばたかせ、間一髪で轢殺を回避する大鵬。直後彼は、己の失策に気づく。咄嗟に取った防御姿勢の上から、WUの放つ重い馬鍬の一撃が突き刺さった。
WU:NPC「【天翔ける翼】アウト――」
戦闘続行不能の一撃を食らい、大鵬は吹き飛ばされる。そのままレーンを外れ、ビル群まで落ちていくのかと思われた矢先、彼は最後の力を振り絞って飛行ユニットを再起動し、軌道を曲げた。
受けた攻撃の勢いさえ利用して、彼が最高速で狙うのは、夸父のバイクから降ろされていた百目。
回避も叶わぬ速度で衝突した2人は、そのままコースから落下していく。バイクから飛び降りたWUは百目を救出しようとマシンアームを伸ばすが、その手は届かない。
WU:NPC「アンド、【星の観測者】アウト!」
WUは救出が間に合わないと判断するや否や、即座に遠隔シールドを起動し2人を着地の衝撃から守る。無事にリタイアした2人を見下ろし、マシンの中で汗をぬぐったWUは、ふと、自分の傍にいた夸父とバイクがいなくなっていることに気が付いた。
夸父:NPC「オラオラオラオラオラァ――!!」
高難度な操縦テクニックで大鵬を迎撃し、ハイになった夸父は、東に揺らめく夜明の光に向かって疾走を開始していた。無論、パルクールのコースが直線だけで構成されているはずもなく。
WU:NPC「……【オーバードライブ】アウト!」
レム「試合舐めてんのか!というか師匠!試合するのかアナウンサーするのか、チュートリアルやるのかどれかにしてよ!ややこしいんだけど!」
WU:NPC「ま、まあ新人戦だし?俺のウォーミングアップと新人調査にちょうどいいっていうか?」
曲もレーンも終盤に近付き、WU:NPC VS 銀角&レムの戦局はさらに激しさを増していく。難易度を増すパルクールの音符をクリアし続け、流石のレムにも疲労が滲み始めた。
レム「ひい、ふう……こ、これが運命の、選択か……!」
突如、レムがダボダボのパーカーのチャックの内一つを開く。そこから、何かが転がり落ちた。
銀角「それは……?」
大鵬のレーンに向かって放られたそれは、金属のボール。レーンにぶつかる直前、それは4つの足を生やして『着地』した。そのままそれは、音符をクリアしながら走り出す。
レム「行け!わんわん!」
銀角「機械犬、いや哮天犬か!反則だろ!?」
レム「いや?アタシは美少女ゲーマー【流光の刃】じゃなくて【裁きの戟】だよ!だから哮天連れててもオッケー!ね?」
並走する銀角に向けて、レムはテヘ、と笑う。
レム「それに師匠、というかWU:NPCも言ってたよ。大事なのはゲームを体験すること!初心者チームだもん、これくらい平気平気!」
デジタルシティを巡回する楊戩は、ふとくしゃみを零した。
楊戩「……噂されてるのかな。俺より哮天の方が役に立ってる、みたいに」
試合はさらに白熱していく。
両チームとも、同時に曲のラストへ飛び込んだ。緩やかなアウトロだったはずの音楽は、双方の激しい張り合いを経て、クライマックスにふさわしい激しさへと変貌していく。
銀角「いくぞ!」
レム「師匠、NPCとはいえ、絶対負けないよ!」
哮天「アオォォォォオン!」
WU:NPC「ひぃ、ひぃ、資格戦でそんなに張り切らなくても……」
三人はラストのノーツを拾いながら、中央のレーンに飛び乗り、最後の一撃の用意をしていく。先頭の銀角が剣を構えて風を切り、次いでレムが匕首に強く強く電流をため込んでいく。最後の哮天犬は、ブースターを起動してぐいぐいと追い上げてきた。
電光石火、投擲された匕首が電気を散らしながらゴールへ突き刺さる。直後、レムは前後の2人もろとも電気を纏い、匕首への急加速を開始した。
レム「レム式コンボ・エレクトパルス――!!」
〈【Eii】チームの勝利!おめでとうございます!〉
ゴールした途端、光のコースは消え失せ、ビジョンにチーム成績が表示された。戦績はギリギリの勝利、レムのコンボが決まらなければ結果は違っただろう。
レムと哮天犬は飛び跳ねながら、大鵬は気だるげに羽根を調整しながら、ビジョンの方へ近づいていく。楊戩も、勝利を聞いてホログラムで参加していた。
レム「やったね、コンボ技で決めるなんて!いやーゲームって人の潜在力を引き出すものなんだなぁ!ふっふっふ~、優勝できる予感がしてきた!」
チームで歓喜のハグを交わす最中、ふと銀角は視界の端に、含み笑いを零す百目を見た。
銀角「?」
百目は銀角を見つめ、唇を動かす。聞こえるはずのない距離なのに、彼女の声は囁きめいて銀角に届いた。
百目:NPC「私は運命の行方を覗くものにして、ただ運命を尊敬する者……力をつけ、どんどん自分を超えていく貴方は、果たして己の運命を決められるのかしら」
つづく…