「芙蓉の紫眥」メイハウ

メイハウ「……。」

村のお兄さん「(カワイイ……)」

主人公「あ、メイハウ。悪い、待たせちゃったな。」

メイハウ「いえ。」

村のお兄さん「チィッ！」

主人公「ヒッ！」

メイハウ「どうかしましたか？」

主人公「いや……、相変わらずモテモテだなあ。」

メイハウ「うっとおしいことです。」

主人公「って、やっぱり気づいてたのかよ！」

メイハウ「慣れたものですから。」

主人公「それにしたって、感想がうっとおしいはちょっとかわいそうなような……。」

メイハウ「わたくしはまだ結婚するつもりはないのです。だというのに、里では見合いを勧められ、ここでは逢引きに誘われ……、」

メイハウ「これをうっとおしい以外の言葉で表せますか？」

主人公「た、たしかにその気もないのにあれこれされるのは疲れるかもなあ。」

メイハウ「それに……、わたくしには理想の相手がいるのです。」

主人公「理想の相手？」

メイハウ「まずは毛深いこと。」

主人公「お、おお……。」

メイハウ「そしてふくよか！」

主人公「う、うん。」

メイハウ「毛の色は白と黒で、瞳は小さく、歯は鋭く……、」

主人公「ん？」

メイハウ「パンダであること。」

主人公「人間じゃない！」

メイハウ「パンダであるなら、わたくしより弱くても、仕事もお金もなくても、すべて許します。」

主人公「それ結婚っていうか、パンダを養ってるだけじゃ……。」

メイハウ「パンダ族。」

主人公「ハッ……！ま、まさか！」

メイハウ「王国に来て知りました。この世界にはパンダ族なる素晴らしい一族がいることを！わたくしはパンダ族と結婚します！」

主人公「ま、待て！外見だけで結婚を決めるような軽率な真似はやめるんだ！パンダとパンダ族を見つけるたびに浮気に走る気がする！」

メイハウ「ウッ……。」

主人公「な？だからちょっと落ち着いて……、」

メイハウ「ああ、パンダ族が一妻多夫制なら……。いえ、この際、年齢も性別も関係なく……！」

主人公「なにも落ち着いてない！」

メイハウ「パンダ族はいったい何を食べているのでしょう。もし笹ならわたくしも食べられるようにならなければ。そうです、さっそく笹を食べてみて……、」

主人公「うわああっ、待て待て待て！」

メイハウ「もっささ、もっささ。」

主人公「どこから笹でてきた！？あと、笹って食べるとそんな音がするんだ！」

メイハウ「パンダ好きなるもの、笹など常備品です。」

主人公「ドヤ顔しながら笹食べないで！」

メイハウ「ウッ、笹って結構、葉が鋭い……。口の中に広がる鉄の味……、でもこれを乗り越えればパンダとの幸せな生活が……！」

主人公「待ってないから！」

主人公「くっ、いったいどうすればメイハウを正気に戻せるんだ！」

パン屋のおやじ「ん？どうしたんだ、癒術士の坊主。」

主人公「あっ、パン……、」

メイハウ「パンダ！？」

メイハウ「パンダーっ！」

パン屋のおやじ「うおっ！抱き着くほど腹が減ってたのか！？俺はパンじゃないぞ！？」

メイハウ「……。」

メイハウ「ウアアアア……。」

パン屋のおやじ「ど、どうした！？」

主人公「そっとしてやってください。夢から覚めただけですから……。」

パン屋のおやじ「な、なんだかよくわからねえがこういう時はパンを食べればいいさ。ほら、新作のパンダパンだ！」

主人公「パンダだけに。」

パン屋のおやじ「冷静なツッコミをやめろ！」

メイハウ「パンダパン……。」

主人公「おお……！メイハウの目に光が！」

メイハウ「カワイイです……！パンダ……、パンダです！」

主人公「ありがとうございます、おやじさん！おかげでメイハウを正気に戻せました……！」

パン屋のおやじ「お、おお？まあ、そりゃよかった。それじゃ、これからもご贔屓にしてくれよな。」

主人公「はい！必ず買いに行きます、あのパンダパンを……！」

主人公「よし、あのパンがあればどれだけメイハウがパンダに取り憑かれても正気に戻せそう……、」

メイハウ「……。」

主人公「ど、どうした？食べないのか？」

メイハウ「食べる……、こんなにカワイイパンダを……。」

主人公「メ、メイハウさん？」

メイハウ「でも、食べられなければ、パンダパンは生まれてきた意味がない……！」

メイハウ「う、うわあああああ！」

主人公「八つ裂きに！？」

メイハウ「うっうっ……、お、おいしいです。パンダパン……、しょっぱいけど……、でもこれで……、これでよかったんですよね。」

メイハウ「だって、だってパンダパンは食べられるために生まれたから！う、うわああああ！」

主人公「……。」

主人公「パンダパンは封印しよう……。」