「鎮戒の騎士翁」ユーリアン

主人公「……。」

「だばだーだばだー。」

主人公「あの、何やってるんですか。」

ユーリアン「どうも。違いの分かる騎士団長、ユーリアンです。」

主人公「なんの違い！？」

主人公「これ以前に、子どもたちにコーラスさせてカッコつけてる理由は……。」

町の子供(男の子)＆町の子供(女の子)「だばだー、だばだー。」

ユーリアン「ああ、ユーたちもありがとう。これ、コーラスのお駄賃だよ。」

町の子供(男の子)＆町の子供(女の子)「わーい、アメだー！」

主人公「はっ！だ、ダメだ、そのアメを食べると……！」

町の子供(男の子)＆町の子供(女の子)「おいしー！」

主人公「あ、あれ？今日はイタズラグッズを仕込んでないのか。」

ユーリアン「ユーも食べるかい？」

主人公「まあ、普通のアメなら……、」

主人公「おぼろろろろ。」

ユーリアン「おぉ、なんて見事な引っかかりよう。ちなみのそのアメは新作のヒゲ味だよぉ。」

主人公「ヒゲ！？誰の！？」

ユーリアン「それは企業秘密だねぇ。料理長くんと作り上げた、この完璧な再現度の味を他社にまねされては困るからさ。」

主人公「そんな勇社ですか、それは。」

主人公「って、そうじゃない。どうしたんです、そのグラサンは。また別のイタズラでも考えてるんですか？」

ユーリアン「むぅ、ユーは僕が騎士団のお仕事をおろそかにしてイタズラの事ばかり考えてるとでも思ってるのかい？」

主人公「今、片手間に縫ってる袋はなんですか？」

ユーリアン「座るとブーって音が鳴る袋。」

主人公「イタズラの事ばかり考えてるじゃないですか！」

ユーリアン「ちっちっち、違うよぉ。これはれっきとした団長としてのお仕事。」

主人公「仕事？さっきのコーラスとかもですか？」

ユーリアン「実はねぇ、騎士団の広報部が僕を取材したいそうなんだ。騎士団のイメージアップのためにね。それで親しみやすく頼りがいのある演出をしてたのさ。」

主人公「親しみやすく、頼りがいのある……、」

主人公「広報部の人は取材相手を間違えましたね。」

ユーリアン「ハハハ、ユーは怖いもの知らずだねぇ。そんなユーにはこのメガネ味のアメをあげようねぇ！」

主人公「うわあああ、無理やり食べさせてくる！っていうか、メガネってどんな味！？一周回って気になってきた……！」

(暗転)

主人公「はあ、はあ……。メガネって……、あんな味だったのか。メガネとはなんと奥深い物なんだ……。」

ユーリアン「ふふふ、視察で訪れただけだけどタビーニャ屯所の料理長くんはなかなかの才能がある。いい人材と出会えたよ。」

主人公「出会ってはいけない２人が出会ってしまった……。」

主人公「それにしても……、そんなにイタズラ好きなのにどうして騎士団に入ったんですか？」

ユーリアン「えー、それはねぇ……、」

ユーリアン「あっ、そうだ！ちょうどいいし、インタビューの練習しようかな。ユー、ちょっと取材者になりきってみてよ。」

主人公「そうやってまた無茶振りするんだから……。」

主人公「えーと、じゃあ、今日は騎士団を率いる団長さんにお話を伺うということで……、単刀直入に聞きますが、どうして騎士団に入ったんです？」

ユーリアン「僕はね、常々こう思ってるんですよ。イタズラやジョークが通じない世界ほど、貧しいものはないとね。」

ユーリアン「ですから、まだ即位される前の王と出会った時、この方ならばジョークあふれる世の中にしてくれると思い、僕は彼を支えるために騎士団へと入ったわけです。」

主人公「なるほど。ところでその突き出した手の動きは何ですか？」

ユーリアン「エアろくろを回してるんだよ。」

主人公「エアろくろ！？じゃ、じゃあ、それでそのエアろくろでは何を作ってるんですか？」

ユーリアン「空気さ。」

主人公「だれがうまいこと言えと。」

ユーリアン「ちっちっち、ユーは知らないのかい？これはインタビューを受ける時の作法だよぉ。こうやってると発言者がカッコイイ雰囲気になるだろう？」

主人公「カッコよさは発言内容から醸し出してほしかった……。しかも、いたずらやジョークがあふれる世界にしたいって、単にユーリアンさんが遊びたいだけじゃないですか。」

ユーリアン「違うよぉ。これにはちゃんと僕の生い立ちが関係していてねぇ。そうあれは僕がまだ子どもだったころ……、」

町の子供(男の子)「僕はユーリアン！いたずらやジョーク、面白いことが大好き！」

町の子供(女の子)「こらっ、ユーリアン！モンスターがいつ襲ってくるかもわからないのに！そんなことする暇があるなら、剣の腕を磨きなさい！」

町の子供(男の子)「はあい、おかあさ……、」

主人公「いやいやいや！」

ユーリアン「なんだい、急に。これからいいところだったのに。」

主人公「さっきの子たち、まだスタンバイさせてたんですか！というか、なんで再現劇！？」

ユーリアン「こっちの方が面白いと思って。」

主人公「観劇じゃなくて話で感激したいんですよ！」

ユーリアン「ハハハ、ユーはツッコミが上手だねぇ。」

主人公「取材陣の苦労が今からしのばれる……。」

ユーリアン「まあでも、こういうふざけたことをしても、ツッコミを入れてくれたり、一緒にノってくれる人が当たり前のようにいる世の中になったことは嬉しいよ。」

ユーリアン「昔はモンスターに怯え、食べることにも苦労し、僕が何をしても笑ってくれる人はいなかった。生き延びることだけにみんなが必死だった。」

ユーリアン「でも今は、ただ生きるために食べるんじゃなく、時にジョークとして食べることが楽しめるようになった。我らが王の導きでこの世が豊かになったからだねぇ。」

主人公「ユーリアンさん……、いつも配ってるイタズラアメにはそんな深い意図が……。」

ユーリアン「おっと、そろそろ取材の時間だ。協力ありがとう、主人公くん。」

主人公「はい、俺も騎士団団長がただのイタズラ好きなグラサン愛好家じゃないとわかって本当に嬉しかったです。」

ユーリアン「ハハハ、怖い物知らずだねぇ。アメ食べる？」

主人公「ははは、いりません。」

町のお姉さん「あっ、団長さん！取材の件なんですが……、」

ユーリアン「おっ！とうとう僕の出番かな！」

町のお姉さん「やっぱり団長より人気が高い副団長さんにお願いするそうです。」

ユーリアン「えっ。」

主人公「……アメ食べますか？」

ユーリアン「うわっ、涙味だ！」