「薄明に降る鳥」サリハーティ

主人公「あっ、鳥……」

メルク「思い出すのですよ。あの砂漠の街で、サリハーティさんが使った術……。あの時もこんな青空に白い鳥が舞っていたのです。」

主人公「今頃、なにしてるんだろうな。元気にしてるといいけど……。」

メルク「なのですよ。」

主人公「行くか、メルク。」

メルク「みゅ？」

主人公「メルク？」

メルク「今、物陰から視線を感じたような……。」

主人公「もしかしたら、サリハーティが鳥の目の術で見守ってくれていたりしてな。」

メルク「だったら嬉しいのですよ。」

サリハーティ「……。」

サリハーティ「（い、言えない）」

サリハーティ「（実は特命でしばらく主人公たちと一緒に旅をすることになったなんて）」

サリハーティ「（今更、言えなーいっ！）」

サリハーティ「（と、とにかく話しかけるタイミングを考えるのよ、わたし！）」

サリハーティ「（たしかにあんな別れ方をしておいて、ひょっこり顔を出すなんて恥ずかしすぎるけど、鳥の目の仕事として命じられたんだもの！）」

サリハーティ「（それに……）」

サリハーティ「（わたし、お別れひとつせずにさよならしちゃった。主人公たちはわたしのためにたくさん頑張ってくれたのに）」

サリハーティ「（短い付き合いだったし、主人公たちには迷惑ばっかりかけてたな……）」

サリハーティ「（だけど、そんなわたしを友だちだって言ってくれた。身を張って助けに来てくれて、一緒にアルファルドを守ろうとしてくれた）」

サリハーティ「（嬉しかった……。鳥の目に入ってから、はじめてできた友だちだった）」

サリハーティ「（なのに）」

サリハーティ「（主人公たちに相談することもせずに、鳥の目に戻ることを決めて、そして……）」

サリハーティ「（一言も話せないまま、主人公たちの前から姿を消した）」

サリハーティ「（ありがとうも、ごめんねも、言えてない）」

サリハーティ「（だから……っ！）」

主人公「そういえばサリハーティ……、」

サリハーティ「ぎぇっ！」

主人公「ぎぇ？」

メルク「ぎぇ？」

主人公「あ、いや、今、そんな声が聞こえた気が……、」

サリハーティ「（ううっ、どうして隠れちゃうの、わたし！）」

サリハーティ「（ううん、でも、今のは仕方ないわ。だってさすがに噂されてるさなかに出ていくのは、タイミングを見図りすぎっていうか……）」

サリハーティ「（サリハーティに会いたいなあ……、とか話してる最中に、ウフフ、久しぶりね！って行けない！　行けないもの！）」

メルク「それで、サリハーティさんがどうしたのです？」

主人公「ああ、アルファルドさんからサリハーティに言づてはないかって聞かれただろ？あれ、ちゃんと伝わったかなってさ。」

サリハーティ「（言づて……。あの後、アルファルドが伝えてくれた。友だちを意味する手話）」

主人公「サリハーティのことだからもしかしたら何も言わずにいなくなったことを気に病んでるかもしれないけど……、」

メルク「もしこの先、会えないとしても私たちはずっと友達なのですよ。」

メルク「サリハーティの選んだ道を、友だちとして応援し続けるのです。」

主人公「ああ。伝わってると、いいな。」

メルク「みゅ？主人公さん、もしかしたら目頭が熱く……、」

主人公「なってないから！それはメルクだろ……、」

「ひーん……。」

主人公＆メルク「……。」

主人公「こ、この茂みの中からだ。」

メルク「いったい、何が……、」

サリハーティ「うっ、ううっ……。」

主人公＆メルク「ぎぇっ！」

メルク「な、なにはともあれまた会えて嬉しいのですよ！」

主人公「あ、ああ！それにしばらく一緒に旅ができるんだろ？これからまたよろしくな！」

サリハーティ「ぐすっ、う、うん……。ううっ。」

主人公＆メルク「……。」

メルク「な、なんというか……、ここまでサリハーティさんに泣かれてしまうと、私たちが感動しづらいのですよ。」

主人公「驚きに加えて、サリハーティに先を越されたせいか、気持ちの行き場が……、」

サリハーティ「ご、ごめんね。主人公たちの言葉が嬉しくて……。いろいろ考えてたから……。」

メルク「サリハーティさん……。」

主人公「そうだ！俺たちとまた話していいってことは、アルファルドさんとも……、」

サリハーティ「ううん、主人公たちだけ。それも、旅の間だけなの。」

メルク「そうなのですよ……。」

サリハーティ「アルファルドの記録係からも、もしかしたらそのうち、外されるかもしれないし……。」

主人公「えっ……。」

サリハーティ「１度、肩入れしちゃったから。担当を変えるのは、わたしも当然のことだって思う。」

メルク「でも……、」

サリハーティ「えへへ、いいの。だってアルファルドのことを知っているのは、もう、わたしだけじゃないから。」

主人公「……、そうだな。」

サリハーティ「それにね。たとえどれだけ離れても、わたしはあの星の光を追い続けるわ。」

サリハーティ「そしていつか、お互いの役目を果たしておばあちゃんとおじいちゃんになった頃にでも、また一緒に話せたらいいなって、思ってるの。」

メルク「サリハーティさんは、それでいいのですよ？」

サリハーティ「うん。」

メルク「……。」

サリハーティ「わたしね、記憶を失う前まで、どうしてこの仕事に就いたのか、すっかりわからなくなっていたの。」

主人公「鳥の目になった理由が？」

サリハーティ「う。見ていることしかできないこんな役目、どうして選んじゃったんだろうって。」

サリハーティ「でも……、思い出したの。」

サリハーティ「目的のため、望んで影へと消えようとしていく人たちを、知っていてあげたいって思ったから、わたしは鳥の目に入ったんだって。」

サリハーティ「……その人たちは知っていてほしいなんて思わないかもしれないし、わたしが知っていたいだけかもしれないけど。」

サリハーティ「だけど、それが無駄じゃなかったって。少しでも誰かの支えになっているって、教えてもらったから。」

サリハーティ「だから、私も自分のこの役目を、最後までまっとうしたいって思ってるの。」

サリハーティ「あの時、重ねた手から伝わったこの誇りが胸にあるなら、きっとどこまでも飛んでいけるから。」

主人公「そうか……。」

サリハーティ「この旅のすべて、わたし、この瞳で見届けるね。それが、わたしが主人公たちにできるお返しだから。」

サリハーティ「これから、またよろしくね。」

主人公「……。」

主人公「ああ、よろしくな……！」

メルク「こちらこそなのですよ……！」

紹介所のお姉さん「あらあら……見たことないけど、砂漠の国流の挨拶かしら。」

紹介所のお姉さん「３人とも不思議な手の形ね。」