「想慕の青藍槍」ルクア

ルクア「うーん……。」

ルクア「よし、行こう！　いや待って、でもやっぱり……。」

ルクア「もう、勇気を出すんだ、あたし！　こんなところで立ち止まってちゃだめ！」

ルクア「スル兄と並んだ時に、見劣りしない女性になるって決めたんだから。」

ルクア「少しでも大人っぽくなったら、ルス兄に子ども扱いされることもなくなるし……、」

メルク「みゅ？」

ルクア「あーでも1人じゃ無理だよ……。あたし、やっぱり童顔だし、歳下に見られてお店に行ったら笑われちゃうかも……。」

メルク「ルクアさん、どうしたのです？　さっきからうろうろして……。」

ルクア「メルク！？　ごめん、気づかなかった。」

ルクア「その、あたし……、」

メルク「何かあったのです？　私でよければ相談に乗るのですよ！」

ルクア「本当……？」

メルク「はいなのです！　ルクアさんは仲間なのです！　悩み事があるなら、相談して欲しいのです。」

ルクア「……ありがとう、メルク。」

ルクア「あのね、実は……、」

〈町・店の前〉

メルク「ここがルクアさんの行きたかった化粧品屋さん、なのです？」

ルクア「う、うん。欲しいものがあって……。でも1人じゃ勇気でなくて入れなかったんだ。」

メルク「そうだったのですね。今は私がついているのです、大丈夫なのですよ！」

ルクア「そうだね。メルクがいてくれると本当に心強い……！」

メルク「それじゃあ、さっそく入るのです。」

ルクア「待って！」

メルク「みゅ！？」

ルクア「まだ心の準備ができてない……。」

メルク「じゃあ深呼吸してから……、」

村のお姉さん「いらっしゃいませー！」

ルクア「はっ。お店の人が外に出てきちゃった！」

メルク「そ、そんなに緊張しなくても平気なのですよ、ルクアさん！」

ルクア「ごめん、つい。大丈夫だ、大丈夫だ、あたし。いつもみたいにしっかりして！」

村のお姉さん「お嬢さんたち、何かお探しですか？」

メルク「ルクアさん、勇気を出すのです！」

ルクア「その……、ここで買いたいものがあるんですけど……、」

ルクア「あの、お姉さん。笑わないって約束してくれますか……？」

村のお姉さん「え？」

村のお姉さん「ええ、もちろん。」

ルクア「……、ありがとうございます。」

ルクア「その、あたし……、自分に似合う口紅が買いたいんです。」

村のお姉さん「口紅、ですか？」

ルクア「あ、やっぱりおかしいですよね。あたしが口紅なんて……、」

村のお姉さん「そんなことないです。」

ルクア「え？」

村のお姉さん「理由は知りませんが、お嬢さんは綺麗になりたいって気持ちがあってうちの店にやって来てくれたんでしょう？」

ルクア「……はい。」

村のお姉さん「それがおかしいだなんて、思いません。むしろ、素敵なことだと思いますよ。」

メルク「私も同感なのですよー。」

ルクア「お姉さん、メルク……。」

ルクア「……あの、ふたりに、お願いしてもいいですか。」

ルクア「えっと、あたしに似合う口紅を、一緒に探してくれませんか？」

村のお姉さん「もちろん！」

メルク「みゅふふ、私ももちろん探したいのですよ～！」

ルクア「……良かった。本当に、ありがとうございます、ふたりとも。」

ルクア「1人じゃ、どんな色の口紅を使ったらいいか、わからなかったから。」

村のお姉さん「お嬢さん、お化粧は初めてみたいですね？」

村のお姉さん「初めてお化粧を始める時は、みなさん悩まれてますよ。」

ルクア「よかった、あたしだけじゃないんだ……。」

村のお姉さん「ええ。わたしもお化粧を始めたての頃は、お嬢さんみたいに悩んだものです。」

村のお姉さん「それじゃあ、口紅のお色を見ていきましょうか。まず、ピンク系の口紅から。」

メルク「みゅわぁ～！　いろんな色があるのですね！　私、この色がルクアさんに似合う気がするのです！」

ルクア「そうかな？　自分だといまいち、ピンとこなくて……、」

村のお姉さん「自分に似合う色は、歳を重ねていくうちにわかっていくものですよ。試しにつけてみましょうか。」

ルクア「は、はい！」

〈紹介所・夕方〉

メルク「みゅ～！　無事に口紅が買えてよかったのです！」

ルクア「うん。お姉さんとメルクのおかげだ。ありがとう。」

メルク「どうってことないのです。それに私もルクアさんと一緒に口紅を選べて楽しかったのです！」

ルクア「……そう言ってくれると、なんだか嬉しい。」

メルク「お姉さんが化粧品のことを丁寧に説明してくれる人でよかったのです。」

メルク「今塗っている口紅の色、ルクアさんにとっても似合ってるのですよ～。買えて本当に良かったのです。」

ルクア「そうだね。これならルス兄もあたしのこと、少しは気にかけて……、」

メルク「ルス兄？」

ルクア「あ、えっと……、」

ルクア「うん。メルクには口紅買うのを付き合ってもらったんだから、言った方がいいよね。」

ルクア「あたしには、血のつながってない兄がいるんだ。」

メルク「みゅ、そのお兄さんというのがルス兄さん、なのです？」

ルクア「うん。名前がルスフェンドだから、ルス兄。」

ルクア「あたし童顔だから、ルス兄と並んだ時に、年齢よりだいぶ下に見られちゃって。」

ルクア「ルス兄も、あたしをいつまでも子ども扱いするし……、」

ルクア「だがら、口紅を塗ったらルス兄と並んだ時に少しは大人っぽく見えるかなって思ったんだけど……。」

メルク「そうだったのですよ。」

メルク「きっと大丈夫なのです！　今のルクアさん、口紅を塗る前より大人っぽいのですよ～。」

ルクア「そ、そうかな。ふふ、嬉しいな。ルス兄も褒めてくれたらいいんだけど……。」

村のお姉さん「あ、よかった、お嬢さんたち、ここにいらしたのね！」

ルクア「あれ？　さっきの、店員のお姉さん……？」

村のお姉さん「わたしったら、これをさっき渡し忘れてしまって。はい、どうぞ。」

ルクア「これは……？」

メルク「ポーチ、なのです？」

村のお姉さん「ええ。今お店で、口紅を購入してくださったお客さんにプレゼントしてるんです。無事に渡せて良かった。」

ルクア「わあ……！　可愛い！」

メルク「綺麗な青色なのですよ～。」

村のお姉さん「ふふ、喜んでもらえて何よりです。」

村のお姉さん「じゃあ、お嬢さん、デート、頑張ってくださいね！」

ルクア「でーと……？」

村のお姉さん「あら？　違った……？」

村のお姉さん「さっき、一緒に口紅を選んでる時……、」

村のお姉さん「『あの人が1番気に入ってくれそうな色はどれだろう』って呟きながら真剣に選んでいたから……、」

村のお姉さん「てっきり彼氏さんのデートに付けていくのかと思ったんですが……。」

ルクア「ち、違います！　あたしはただ、ルス兄に女の子としてみてもらいたくって。」

メルク「みゅ？　大人っぽく見せたかったのでは……？」

ルクア「そ、それもあるけど！」

村のお姉さん・メルク「……？」

ルクア「えっと、えっと、ルス兄に女の子としてみてもらいたいっていうのも大人っぽくなりたいっていうのも本当だけどっ。」

ルクア「別にあたしは、ルス兄の大事な人になりたいとか、そんなこと考えてないし！」

ルクア「それに、一応血は繋がってないけどルス兄は、あたしの兄だしっ。」

ルクア「だから、えっと、えっと……、」

メルク「ルクアさん……？」

ルクア「ああ、混乱してきた！　メルク、お姉さん、ごめんなさい！　あたしちょっと頭を冷やしてきます！」

メルク「ル、ルクアさん！？　どこへ行くのです！？」

村のお姉さん「……乙女心は複雑ですねえ。」

メルク「みゅ！？　一体どういうことなのです～！？」