「法螺吹く少女」あおい

＜紹介所＞

あおい「つまりうちの家系は、犬山帝国の血を引いとる王族でなぁ。ちゃんと国旗もあるんやで～。」

メルク「そ、そうだったのですね！」

あおい「うそやで～。」

メルク「……。」

千明「やられたな、メルク。」

メルク「ま、またなのですよ～！」

あおい「ごめんごめん。メルクちゃん、リアクションええから、ついついやってまうんよ。」

メルク「みゅみゅみゅ、今度こそはと思っていても、あおいさんの話術に毎回乗せられてしまうのです。」

あおい「ふっふっふ、ホラを吹くにも、技術がいるんやで……？」

千明「なんの自慢だよ。」

千明「……というか、それのこと忘れてね？」

あおい「それ？」

月光ランタン「ウソヤデー！」

あおい「あ。」

メルク「みゅ！？　地面から可愛らしい旗が出てきたのです！　まさかこれが……国旗！」

あおい「やりにくいわ～……。これじゃ嘘が嘘にならへんやん。」

千明「そもそも嘘つくなって話だけどな。」

千明「にしても、変わってるよなぁ。どこにでもあるものってわけでもないんだろ？」

メルク「なのです。少なくとも、私は初めて見たのですよ。」

千明「いったいなんなんだろうなー、これ。」

あおい「……。」

千明「ん？　どうしたんだよ、イヌ子。急に神妙そうな顔して。」

あおい「二人とも……。」

あおい「今からする話は、ぜーったいに他の人にはしたあかんで！　なでしこちゃんたちにもや！」

千明「お、おう。」

メルク「了解なのですよ……。」

あおい「実はな……。うち、ちょっと調べてみてん。」

あおい「本を読んでみたり、古い骨董品を扱ってるお店の人に聞いてみたり。そしたら、とんでもない事実に辿りついてしもうて……。」

メルク「とんでもない事実……？」

あおい「このランタン……実はな。」

あおい「あまりにも強力故に封印された、禁じられた道具のうちの１つやってん！」

メルク「き、禁じられた道具ー！？」

メルク「でも、言われてみれば納得なのですよ。嘘を現実に変えてしまう道具なんて、使い方によっては非常に危険なものなのです！」

メルク「封印されるのも納得なのですよ……。」

あおい「せやろ？　こっちの世界にはいくつか、そういう道具があるらしいんや。」

あおい「ほとんどは封印されてるんやけど……、たまにこうやって、人の手に渡ってしまうことがあるらしいねん。」

メルク「みゅみゅみゅ。そんな秘密があったとは……。」

千明「……。」

あおい「けど、これは極秘中の極秘事項！　うちもたまたま知ってしまったんや。」

あおい「これをもし、危険な組織とかに知られてしまったら……。うちら全員の身が危ない！」

メルク「みゅみゅ！？」

千明「わー、そりゃたいへんだー。」

あおい「だから絶対に言いふらしたりしたらあかん！　うちらだけの秘密にしとくんや。」

メルク「わ、わかったのです！　約束なのですよ！」

あおい「ありがとう、メルクちゃん。ふふふ、これでちょっと安心やね。」

メルク「安心なのです？」

あおい「せや。もしもこれで、秘密が漏れたとして、うちが危険な組織に捕まってしまったとしても……、」

あおい「メルクちゃんとあきが、助けにきてくれるかもしれへんからな。」

メルク「あ、あおいさん！」

メルク「任せるのです！　私と千明さんが、絶対にあおいさんをお助けするのですよ！」

あおい「うん、待ってるでメルクちゃん！」

メルク「なのです！　千明さん、その時は一緒に頑張るのですよ！」

千明「おー、その時っていうのが来るのならな。」

メルク「みゅ？」

千明「見てみろ、メルク。イヌ子の顔を。」

「我慢できずにホラ吹き顔になってやがる。」

あおい「あ。」

メルク「みゅ。ま、まさか今のも……。」

あおい「あー。」

あおい「ごめん、うそや。」

メルク「みゅー！？」

千明「そんなとんでもない情報を、こっちに来たばかりのイヌ子が、手に入れられるわけねーしな。」

あおい「せやせや。調べたんはほんまやけど、なーんも出てこうへんかったわ。」

メルク「みゅー！　あおいさん、みゅー！」

あおい「ごめんてー！　ついやってしまうんよ！」

あおい「でも、メルクちゃんの気持ちは、ほんまに嬉しかったで？　ありがとう。」

メルク「それも嘘ではないのですー？」

あおい「こ、これはほんまやって！　なぁ、あき？　せやろ？」

千明「どうだろうなー。」

メルク「やっぱり嘘なのですねー。」

あおい「ち、違うってー！」

メルク「……みゅふふ、冗談なのです。」

千明「まぁ、イヌ子はしょうもないホラは吹くけど、人の気持ちを無下にしたりはしねーからな。」

あおい「んもー、心臓に悪いわ。」

千明「じゃあ、もう嘘つくなよ。」

あおい「それは約束できん。」

千明「できねーのかよ。」

メルク「でも大丈夫なのです？　今の嘘も月光ランタンが現実に……、」

あおい「ああ、これは平気やで。あんまりにもとんでもない嘘は、現実にすることはできひんねん。」

メルク「……嘘なのです？」

千明「嘘だな。」

あおい「だからほんまやって！　ほら、さっきの犬山帝国の話の時も、国旗を出すのが精一杯やったやんか！」

あおい「ぜーんぶ現実にするなんて、そんなとんでもない代物やったら、うちの手に負えへんわ。」

メルク「みゅふふ、わかっているのです。嘘やで～なのですよ。」

あおい「ぐぬぬ、パクられてもうた。」

千明「とはいえ、滅多な嘘はつくなよ～？　何が現実になるかわかんねーし。」

あおい「滅多な嘘ってなによ？」

千明「山梨を国家として独立させ、４６都道府県に戦いを挑んだりとか……。」

あおい「誰がそんな嘘つくかー！」

メルク「みゅふふ、ランタンを手に入れたのが、穏やかなあおいさんだったのは、私たちにとっても幸運だったのですね！」

あおい「それはほんまに言っとる？」

メルク「ほんまなのですよ～。」

＜魔術協会＞

「どうでしたか？　砂漠の国で目撃証言があった『禁術』は。」

「いや、見つからなかったよ。」

「そうですか……。どこに行ってしまったんでしょうね。２２個ある禁術のうちの１つ……。」

「嘘を現実に変えるランタンは。」

「悪い人間の手に渡っていないことを、祈るしかないな。」