【黒ウィズ】イェルノー・ケラス
イェルノー・ケラス |
赤ん坊の彼女は、霊山に捨てられていたという。
本来なら生きていけるはずもなかったが――ロドムという竜が彼女を拾った。
大地の竜力を安定ならしめる努力を長いこと続けてきたロドム――
家屋ほどの体躯に、長さ時を経てきた巌のごとく剛健なる鱗を持ちながら、穏やかにして優しい瞳を持つ古き竜。
赤ん坊は、その竜の子として生きることとなったのだった。
ロドムは、赤ん坊にイェルノーという名前を授け、慈しんだ。
イェルノーは生まれつき身体が弱かったため、ロドムは赤ん坊の彼女と契約し、己の力をゆっくりと注ぎ続けることで健康をもたらしてやった。
イェルノーはすくすくと育った。遊び場たる霊山をやんちゃに駆け回り、あるいは翼で飛び回った。
ロドムは彼女の親代わりとして、時に誉め、時に叱り、そしていつも愛情を注ぎ続けた。
「なあ、ロドム。あんたさ、なんで竜力の調整なんてやってんの? 誰かに頼まれでもしたわけ?」
ある日、幼いイェルノーが素朴に問うた。
『そういうわけではない。その素質を持つ者は我をおいて他になく、我がやらねば世界は崩壊してしまう……我とて死を望むわけではないからな。
仕方なくやっているのさ』
「ふうん……でも、ずっとここにいるなんて、退屈じゃない?」
『まあな。だが……』
ロドムは目を細め、イェルノーの頭をそっと撫でた。
『今はおまえがいる。退屈する暇もないさ』
その言葉に、イェルノーは「いぇへへ……」と照れたように笑った。
「んじゃ、あたしがずっとそぱにいてあげるよ! あんたがさびしくないようにさ!」
――十年ほど経った頃、異変が起こり始めた。
『大地の竜力が激しく乱れている……』ロドムはうめいた。『竜力を持つ者が増え、野放図に力を使った影響か……』
乱れた竜力を調整するため、ロドムは必死に精神を集中した。
竜のためにイェルノーがしてやれることはなかった。せめて、そばにいてやることくらいしか。
ロドムは日に日に樵悴していった。
彼がそこまで力を振り絞っても、竜力の乱れはとどまるところを知らなかった。
イェルノーは、やせ細ったロドムの身体にすがりついて泣いた。
「もう、もうやめようよ、ロドム! 無理だよ! このままじゃ、あんたが死んじまうよ!」
『我がやらねば、世界は崩壊する。ここでやめても、座して死を待つのみだ』
ロドムは浅い呼吸を繰り返しながら、イェルノーの頭をなでた。
『させてくれ、イェルノー。おまえが生きる、この世界を守るために……』
イェルノーは答えなかった。嗚咽する以外、どうすることもできなかった。
いつしか、イェルノーは泣き疲れて眠っていた。
ぼんやりと、彼女は夢を見た。まだ異変が生じる前の霊山の夢を。
1頭の竜が――ロドムが歩いていた。イェルノーは慌ててその後を追い……
そして、見た。
ロドムが、1人の赤ん坊を拾うのを。ロドムの前に、1人の男がいるのを。
「この子は長く生きられぬ……」男は泣いていた。
「もはや、あなたにすがる以外にないのだ……勝手とわかってはいるが――」
『引き受けよう』
驚いて見上げる男に、ロドムは笑った。
『ここにいると、退屈でかなわぬ。幼子の面倒を見るは、長さ無聊のなぐさめとなろう――』
イェルノーは、ハッと目を覚ました。
傍らにいたはずのロドムがいなくなっていた。
慌てて見回すイェルノーの頬を、頭を、何かがそっとなでていく。
風だ。
淡く輝く優しい風が、イェルノーの周囲に吹いている。
光の風は――ぼんやりと、見慣れた竜の姿を形作っていた。
「あ……」
消えていく――薄れていく。風が、ほどけるように宙へと溶ける。
最後まで、イェルノーを案じるようになでながら。
「ああ……ああああああーーあああああああああっ……!!」
膝を着き――イェルノーは咆啼した。
力尽きるまで――命尽きるまで、魂を振り絞って竜力を抑えようとしたロドム。
このまま世界が消えてしまうなら……その遺志はどうなる?
ロドムの奮闘は、無為なものと終わるのか?
「させる……ものか!」
涙をまき散らすようにして、イェルノーは叫んだ。
「何も残らないなんて……そんなことにさせるものかっ!
なんとしてでも――残すんだっ! ロドムの……世界の存在した証を!!」
フルネーム | 声優 | 登場日 |
---|---|---|
アデレード・シラー | Lynn | |
イニュー・リェル | 愛美 | |
リティカ・パス | 原紗友里 | |
ザハール・サハロフ | 田所陽向 | |
ミネバ・クロード | 明坂聡美 | |
ザッハ・クロード | ||
アリューゼ・ヴェローナ | ||
レガート・クロード | ||
星竜デネブ | ||
セト・バハムート | ||
邪竜ドグマ | ||
アーリア・バハムート | ||
アマイヤ | 五十嵐裕美 | |
ラギカ・バルシス | ||
アレンティノ | ||
ナフィーヤ・ロドム | ||
ケルク=ナダ | ||
アニマ・アウローラ | 明坂聡美 | |
ゾラスヴィルク | ||
ミーレン・ドーソン | 愛美 | |
イケル・ロートレック | 小林裕介 | |
炎竜レツィーユ | ||
パメラ・ホーク | ||
バス・ラシュール | ||
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イェルノー・ケラス | ||
雷竜ゲドゥザ | ||
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シェオ | ||
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