【黒ウィズ】幻魔特区スザクⅢ Story1
Story1 人間とガーディアン
移送用ロッドの完成を待っている間、君はキワムたちの近況を尋ねた。
いちばん気になるのは、やはりアーノルドたち人間との関係だ。
「これまでは、あんまり人間とは触れ合ってなかったにゃ。」
「そうね。333号ロッドが壊れてからは、収穫者との戦いで手いっぱいだったし……。」
「人間のことも信用してなかった。のこのこ会いに行ったら捕まると思ってよ。」
「私も、この地下施設の管理を任されて以来、スザク大ロッドの人間と関係を持つことはありませんでした。
お互い干渉する必要はありませんでしたし……人間は、C資源を利用しながら、それを恐れてもいましたから。」
「この地下施設の存在はタブーになっていたんだ。触らぬ神に崇りなし、というやつでね。」
交わることなく1000年を過ごしてきた、人間とガーディアンたちの溝。
それを、キワムが埋めたということらしい。
「すごかったぜ。正面から堂々と大ロッドに乗り込んでさ。」
笑顔のスミオに、キワムは苦笑を返す。
「たいしたことじゃないって。俺は、必要だと思ったことをやっただけだよ。
アッカがさらわれたとき、俺は何もできなかった。
だから……アッカを助けるためには、なんでもしなきゃ、って思ったんだ。」
「そう思って実際にやってのけてしまうというのが、たいしたことなんだ。素直に誇れよ、キワム。」
君は、アーノルドの方を見た。
彼らは、ガーディアンのことを、どう思っていたのだろう?
「キワムの言うことを信じるか否か。我々も、最初は半信半疑だった。
ガーディアンの存在を知ってはいたが、あまり接触はなかったからな。
だが、話しているうちに、わかってきた。彼らは人と変わらない心を持つ存在なのだと。
それで深い事情を聞いてみれば、事は人類存亡に関わる問題だった。
最終的には上層部もうなずいてくれたよ。」
キワムは本当に、話し合いだけで、スザクロッドの人問たちを動かしたらしい。
すごいことだ、と君は素直に思った。
強い意志のもとに最善を尽くす――
言うのはたやすいが、簡単にできることではない。
「そうだな。つくづく思い知らされたよ。
今の俺たちに必要なのは、強い意志だ。
そして、いちばんそれを持っているのは、キワムだった。」
「トキオさん……。」
「キワム。この作戦、いや、スザクロッド自警団の指揮は、おまえに任せる。」
「えっ!?でも――」
「おまえこそが適任だ。俺も、おまえが前を走ってくれるなら、安心してついていける。」
トキオは、軽くキワムの肩を叩いた。
無造作な動作だったが、君はそこに、20年分の重みを見た気がした。
「全力で、おまえを支える。
だから走れ、キワム。おまえの願うとおりに。」
キワムも、その重みを感じたのだろう。
強い瞳で、彼はトキオを見返した。
「わかった。トキオさん……俺、やるよ!」
Story2 初級 決戦の月へ
「これが……宇宙……。」
窓の外に広がる星の海を見て、キワムたちは一様に息を呑んでいた。
ついに完成した移送用ロッド。それに乗り込んで、君たちは果てなき星空へと飛び立った。
蒼く輝く星を離れた先にあったのは、きらめく星々のたゆたう、漆黒の海原。
「頭じゃ、わかっちゃいたけどよ……。」
「ああ……こうして目の当たりにすると、まったくとんでもないな……これは……。」
「お、落ちないよね。これ、ちゃんと落ちないで飛ぶヤツよね?」
「んー、落ちなかったとしてもさ、燃料が切れたら、いろいろ終わりなヤツじゃない?」
「怖えこと考えてんじゃねーよ。ほれ、ミュールみたく楽しめ、楽しめ!」
「宇宙! これ宇宙!すごいし! すごいし!!」
“どうやら、問題はなさそうですね。
君たちのフォナーに、アサギからの通信が届く。
“地上との通信も良好。あとはこのまま月に着くだけです。
“ほ、本気で行くのかい?んん一……僕ぁ知らないぞー。タモンさん、怒ったら怖いんだぞぉ。”
画面に映るアサギの後ろに、以前捕まえた収穫者――ウシュガが映っている。
“いいから貴様は知りうる限りの情報を吐け。”
“んひィいいい~!”
宇宙に出てはしゃいでいられたのは、最初の数時間だけだった。
目的地――月が近づくにつれ、次第にみんなの口数は減っていった。
誰もが、感じているのだ。かつてない死闘が待ち受けている気配を。
あるいは。
これが最後の戦いになるかもしれないという、不気味な予感さえもを――
***
「ぺっ! レベリオー、ぺっ!」
君たちは、ミュールの操るレベリオーから吐き出された。
「あいてて……。えーと、ここが……。」
「ガーディアン製造施設……だよね?」
周囲に、閑散とした屋内空間が広がっている。
月に到着した君たちは、ミュールのレベリオーに呑み込まれた状態で、ガーディアン製造施設――
収穫者たちの牙城へと突入したのだ。
なんでも、月には空気がないらしく、生身で外に出るのは危険だ――ということで、そういう手はずになったのだが。
「レベリオー、キワムたち食べずことできまして!よきよき!えらいこ、えらいこ!」
「こっちはけっこうドキドキもんだったけどな……。」
“おう、おまえら、突入は成功だな!
移送用ロッドに残ったアトヤとコベニからの通信が、フォナーに届く。
“アシはこっちで守っておくから、安心して行ってきな!”
「よし、じゃあ、さっそく――」
施設の奥に向かうべく、先へと向き直ると。
突然、けたたましい警報音が鳴り響き、フロアのあちこちから機械兵が現れた!
「さっそくのお出迎えだな。やはり向こうも、こちらの侵入を予期していたか。」
「言うまでもないけど、反応多数!100や200じゃきかないわよ!」
「上等だ! 今さらそんなんでビビッかよ!」
キワムたちは、
それぞれのガーディアンアバターを展開する。
「花開け、我が心に咲く赤い果実よ――"インフローレ"!」
「我が心を貴き出でよ、毒牙の機神――"エクスマキナ"!」
「我が心から這い出でよ、月白の蛇骨――"エクスアルバ”!」
「我が心の化身よ、共に進もう、我と共に挑め――"アウデアムズ!」
「えーと、えーと……とってもヤムヤム――"レベリオー"!」
「こんなのとっとと蹴散らして、アッカを助けるぞ!みんな!!」
「「「ああ!」」」
***
キワムたちはガーディアンの力を使って、
君はカードから魔法を放って、迫り来る敵の大群を撃破していく。
「くそっ、なんだこいつら!ぜんぜん減ってる気がしないぞ!」
「ミュール、こいつらまとめて喰っちゃえねーのかよ!?」
「カリュプスのえき、入ってなしですゆえ、食べる無理のです~!」
倒しても倒しても湧き出る機械兵たち。
今のところ、こちらに被害は出ていないが――
「このまま戦い続けてたら、さすがに魔力が保たないにゃ!」
ガーディアンの展開にしても、心身の疲労を招く。
人間でないからと言って、キワムたちが無限に戦い続けられるわけではない。
「……キワム、ミュール、魔法使い!先へ向かえ!」
「トキオさん!?だけど――」
「こいつらを突破して前に進めるパワーがあるのは、おまえたちだけだ。
俺たちのガーディアンアバターは、むしろ敵を翻弄するのに向いてる。逃げ回りながら片づけておくさ。」
「この施設の探査も、並行してやっておくから!アッカの居場所がわかったら、フォナーで連絡するね!」
「こいつらブッ飛ばしたら追いつくからさ!先行ってろよ、キワム!」
「みんな……。でも――」
「いいから行けって!アッカを助けるためだぜ!」
「……っ、わかった……!」
キワムは、“ここに留まって戦いたい”という気持ちを振り切るように頭を振った。
「すぐ助けて、すぐ終わらせてくる!みんな、やられるなよ! 絶対だぞ!」
そして、君とミュールの方を振り向いた。
「魔法使い、ミュール。一点突破で行くぞ!」
「おまかせくだれませな!」
***
「うぉぉおおおおおおおおおっ!」
トキオは、アウデアムスとレベリオー、それに黒猫の魔法使いの一撃が、群がる敵陣に小さな風穴を開けるのを確認した。
キワムたちがその風穴に飛び込んだ直後、
「そら、こっちだ!」
デバイス化したエクスアルバから射撃を放つ。
キワムたちの背後を狙った機械兵たちが、回避を余儀なくされた。
「ノイズ! ひっかき回してやれ!」
スミオはノイズをデバイスからアバター状態に戻し、一気に敵陣をかく乱する。
「インフローレ、戦闘と並行して探査を続行!行ける!?」
『無論じゃ。文字通り、片手間で済ませてやろうぞ!』
敵を薙ぎ払うインフローレの周囲に、探査情報を示すホログラムプレートが展開する。
「1体1体の戦闘性能は低い。落ち着いて立ち回れば、数で押し切られることもない!」
「どうしても、時間はかかっちゃいますけど!」
「ひょっとして、タモンたちの狙いは、俺たちをここで消耗させること……とか!?」
「おそらくな。俺たちを――というより、キワムとミュールをだ!
収穫者たちは、コインのC資源を応用して、ガーディアンアバターを強化している……。
だが、パワーに優れたアウデアムスと、C資源を喰らうレベリオーは、奴らにとって純粋な脅威となる。
「そっか……これだけの数の敵がいたら、どうしても、あのふたりの攻撃力に頼っちゃうから……。
あのふたりか消耗して、収穫者側が有利になる……。」
「悔しいが、あいつらが疲労した状態で戦うより、俺たち抜きで戦ってもらう方が、勝ち目がある。」
「なら、とっととここを掃除して、早いとこ追いつこうぜ。みんないっしょなら、絶対負けね一よ!」
「ああ。奴らの思い通りになど行かせるものか。このまま――」
「! みんな、避けて!」
攻撃が、来た。
広い部屋すべてを埋め尽くすほどの圧倒的な衝撃波がすべてを薙ぎ払う。
「うあっ!」
「くうっ!」
「ああっ!」
3人は軽々と吹き飛ばされ、床を転がる。
部屋中にひしめいていた機械兵たちも。
とてつもない衝撃の直撃を受け、半ば壊滅状態に陥っていた。
「いったい何が――」
うめきながら、起き上がって――
トキオは、驚愕に目を見開いた。
「なんだと――!?」
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