【黒ウィズ】キワム&クロ編(サマコレ2020)Story
開催日:2020年6月30日 |
目次
story
寄せては返す波を見て、なんだかいいな、とキワムは思う。
その言葉を証明するように戻りゆく波が、浜辺に立った足を撫でる。
足の周りの砂が、ぞぞぞと動く不思議な感覚に、キワムは思わず笑ってしまった。
笑ってヤチヨに答えてから、キワムはしみじみと腕組みした。
ホログラムのアッカがニヤニヤして言うと、トキオが苦笑してサングラスの位置を正した。
俺たちの力は心のカ――ソムニウム次第なんだ。こういうところで心の洗濯しとかないと、いざってとき戦えなくなるぜ。
キワムは逃げるようにして、クロとともに浜辺を駆け出した。
でも、やっぱいいよな。みんなとこうして笑い合えるのって。
あのとき魔法使いがいてくれなかったら、俺もみんなも――
足元のクロが、いきなり走り出す。
キワムは小走りになってクロを追った。
そして、大きな岩陰を回り込み、見た。
仔犬を抱えた少女がひとり、何をするともなく、地平線を見つめているのを。
クロは、少女の近くで足を止め、興味津々という様子で彼女を見上げる。
少女は、小さく甘をかしげてから、クロを、そして追ってきたキワムを見た。
雪のような少女だった。ふわりとやわらかく降りてきて、目を離した隙に消えてしまいそうな。
淡く、優しく、少女は微笑む。
それもまた、雪の積もるような微笑みだった。
小ロッド、という言葉で、キワムは我に返った。
私はハズミ。ガーディアンは、こっちのチラよ。
キワムは、わずかに息を吸い――選んだ言葉に乗せるようにして、吐いた。
みんな、死んだの。
このロッドを守っているのは……私ひとりよ。
***
自分たちが、人間に造られたガーディアンであること。
その事実を自覚することもできぬまま、1000年もの時をロッドで過ごしてきたこと。
それを聞かされて、ハズミは、茫然と目を見開き――
やがて、ぽつりと、それだけ言った。
でも、まさか……1000年も、ここを守ってたなんて。
ハズミは、困ったような笑顔を浮かべた。
その顔が、驚きや衝撃はありながらも、決して悲観や憤怒にまみれないのを見て、スミオが後ろでコソコソささやく。
今、スザク大ロッドから小ロッドに移住する希望者を募ってるの。ガーディアンじゃなくて人間のね。
それで、あなたさえよかったら、このロッドにも移住者を――
ハズミは顔色を変え、首を横に振った。
外から襲ってくるんじゃなく……ロッドの内部に現れるのよ。毎夜毎夜、忽然としてね。
不可解な話に、キワムたちは眉をひそめた。魔物は、カリュプスが生み出す分身体だ。
カリュプスの破壊衝動に従い、各地に現れ、猛威を振るう。
小ロッド――そしてガーディアンとは、それら魔物の脅威を取り除くために生み出された存在なのだ。
だから、ロッドの外に魔物が出現するのは道理だ、しかし――
私ひとりだから、できることよ。何の力もない人が移住してきたら――きっと、守ることはできない。
あなたたちも、早くここを去った方がいいわ。夜には、戦いになるから。
勢い込んで言いかけて。
キワムは言葉を呑み込み、頭を振った。
そのつもりだったけど……ちょっと引っかかってさ。
story
ハズミに共闘を申し出たキワムたちは、7号ロッドで夜を待った。
黒い巨獣が、魔物と組み合い、かぶりつく。
そのさまを目の当たりにして、キワムは凝然と凍りついた。
いや……考えるのはあとだ!
我が心の化身よ。共に進もう。我と共に挑め――″アウデアムス“!
キワムのソムニウムを受けて、クロが黒い巨獣に変化し、横から置物に突っ込んでいく。
魔物は猛然たる突進を受け、派手にバウンドしながら廊下を転がった。
起き上がる魔物へ、2体の黒獣が挟み込むように襲いかかる。
鋭い爪で引き裂かれ、太い牙で噛み裂かれ、魔物は悶えるように絶叫した。
隣のハズミが、突如、胸を抑えてうずくまる。キワムは思わずそちらに意識を向けた。
アウデアムスが、困ったように鳴いた。あわてて戦場に視線を戻すと、魔物の姿は消えていた。
あっ!ハ、ハズミ、平気か?どこか痛いのか?心臓が悪いとかだったちするのか!?
ハズミは、困惑げに視線を移す。
鏡映しのように並び立つ、2体の黒い獣へと。
その言葉が。過去の記憶を呼び覚ます。
キワムは、ハッと目を聞く。
我々ガーディアンに〝人がデザインした特定の心〟を埋め込む工場なのですよ!
すべて造られたモノに過ぎない!その心にふさわしいアバターを形成し、任務をまっとうするためだけのね!
同じ心を設計されたガーディアンなのか……)
***
ハズミは言ってた。仲間がみんないなくなったって。それでもずっと戦ってきたって。でも――
守りたい人たちを守れないで、自分だけ生き残ったって……なんにもならない。どんな未来も望めやしない。
だからハズミは……ハズミの心は。敵を求めたんだ。仲間たちの思い出が詰まったこの場所を守るために。
……守ってる間は、生きていられるから。
俺も、みんなを守れなかったら――それで、敵をすべて倒しちまったら……あの子と同じになっていたかもしれない。
彼女の心が敵を求めたから、ソムニウムが応え、ガーディアン・アバターを分裂させたのか……。
攻撃して、破壊したら……彼女はどうなるの?
ヤチヨの疑問に、全員、しばし黙りこくった。
その答えは、半ばわかっていた。経験していた。
だが、〝あの戦い〟から1年を経てもなお、口にするには、勇気のいることだった。
やがて、トキオが口を開いた。それは自分の役目だと言うように。
……心が、半分壊れる。それは、間違いないだろう。
俺たちは、ガーディアンだ。その道を選んだ。人間だけじゃない、ガーディアンだって守る。そのために戦ってきたんだ。だから――
ハズミは守る。ハズミの心は……絶対に壊させない!
キワムに、すべてを打ち明けられて。
ハズミは、茫然と立ち尽くした。自分が、造られた存在だと知ったとき以上の衝撃に撃たれて。
じゃあ、私は……いったい、なんのために生きてきたの!!?
切り裂くような絶叫が、ハズミの喉からほとばしる。
キワムは無言で、その叫びを受け止めた。
それが己の心をも切り裂く声だとわかっていても。ハズミの瞳を見据え、黙って、耐えた。
ハズミの背後で、何かが揺らいだ。彼女の揺らぎに応じるように。
アッカが警告した瞬間、その揺らぎは、確かな実体を得て、重く重く廊下を踏みしめた。
地面を覆う白雪を、ぐしゃりと無残に踏みにじるように。
物言わぬ魔物を見つめ、ハズミは、震える声でつぶやく。
やっぱ、すげー難しいよな。人生って。
あれが私のせいで生まれたものなら……私が戦ってきた意昧って……私が……私が生きる意味なんて――何も!
そのー言に、ヤチヨたちがぎょっとなる。
キワムは構わず、言葉を続けた。
自分自身に告げるなら、どんな言葉が響くのか。ただそれだけを考えながら。
人生は、すげー難しいけど……頼れる仲間が山ほどいれば、きっと乗り越えて行けるんだ!
ハズミの魔物が、凄惨な叫びを上げた。
そんなことができるのか、と。そんなことできるわけがない、と。彼女の心を代弁するような激しさで。
キワムは、ハズミの横にまっすぐ立って、共に心の魔物を見据えた。
あいつに挑め!俺たちといっしょに!あいつを、心の魔物を乗りこなせ!ハズミ!
ハズミは、涙のたまった瞳でキワムを見た。
恐れと、不安と、悲しみの詰まった瞳。
だが、その奥には――かすかに――力強い決意の色が、確かにあった。
魔法のような、その言葉に。
ハズミはうなずく。顔を上げる。
大地に根を張る草の芽が、光を求めて雪を割り、己の意思で立つように。
吼える魔物を毅然と見据え、涙を千切って立ち上がる。
黒き獣が、共に立つ。
***
トキオとスミオは、ライティング形態となったアバターを駆り、縦横無尽の動きで魔物を翻弄する。
魔物が咆嘩し、駆け出してくる。最後の力を振り絞るようなー撃が、唸りながら迫り来る。
巨獣が、がしりと魔物の突撃を受け止めた。1歩も引かず組み合って、その進撃を食い止める。
ハズミは叫ぶ。これまでの1000年――そのすべてに告げるように。
ー撃は、1000年の重みを込めて轟いた。
***
笑い合うキワムたちを見て、ハズミは、どこかまぶしそうに目を細める。
俺たちだけじゃない。これからこのロッドに来る人たちも。きっとみんな、ハズミのいい仲間になると。
頼れる仲間が山ほどいれば、難しい人生も乗り越えられる……だっけ?
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