【黒ウィズ】アッカ編(Christmas stories 2016)Story1
2016/12/14
月での戦いから、4年。
正式にスザクロッド自警団となったキワムたちは、人間たちとガーディアンの架け橋として、活動を続けていた。
今や、全ガーディアンが自らの出生の秘密を知り、それぞれに悩みながらも日々を生きている。
彼らと人間の間の軋練を解消し、共に前を向いて歩いていくための道を整える。それこそがキワムたちのすべきことだった。
sなー、アッカ。俺もキワムみたく成長したいんだけどさー。どうすりゃいいんだ?
ある日のこと。
新たな任務についての説明を受けるためスザクロッドの一室に呼ばれたスミオが、そんなことを言い出した。
tその話、俺も興味があるな。
心の成長に伴って身体が成長したと聞いたが……心を〝乗りこなす〟だけでは足りないのか?
Aただ成長するだけじゃ、だめなんじゃない? 無意識レベルで゛大人になった、って思えるくらいじゃないと。
アッカのホログラムが、いたずらっぽく微笑む。
月での戦いで、アッカは肉体を失った。
代替ボディの製造はまだ完了していないため、ロッカがフォナーから表示するホログラムを通しての会話になっている。
Rギシシ。〝成長したい〟って思ってる時点で、まだまだ子供なのかもよ。
sええ~。なんだよそれ、面倒くせ~。
yなんとかならないのかなぁ。
口を尖らせるスミオの隣で、ヤチヨが真剣につぶやいた。
それを聞いたスミオは、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。
sそうだよな、ヤチヨは早く大きくなりてーよな。でないと釣り合いが取れないもんな~。
yイィィィンフローレエッ!
sちょ、そういうとこがガキなんだろ!
Rこりゃ先は長そうだね~、アッカ。
Aそうだね、ロッカ。でも、いいんじゃない?
焦ってなるようなものじゃないよ、大人なんて。人間だって、〝気づいたらなってた〟って感じだろうし。
と、そこで、部屋の扉が開き、キワムがなかに入ってきた。
kみんな、次に向かうロッドについて――……なんだ? 何かあったのか?
Aにしし。セーシュンの悩みってヤツ?
***
qアサギ先生よぉ……どうも最近、ちょいと俺らをコキ使いすぎじゃない?
gどういうわけか、各地でカリュプス分身体の動きが活発化している。仕方のないことだと思え。
qやれやれ。億劫な話だ。年末も近いってのによ。
タモンがぼやいていると、部屋のディスプレイにアッカの姿が映った。
Aあ。サボリ?
qなわけないでしょ、アッカちゃん。俺ら、仕事に関しちゃ真摯な大人よ?
Aだったらいいけど。サボったら、すぐわかるんだからね。
qへいへい。まったく。恐ろしいもんだね、カムラナの力ってのは。
タモンは、わざとらしく嘆息してみせてから、ちらりと視線を送ってきた。
qしかし――あの月での決戦から、もう4年か。
俺らがハチスカちゃんたちと力を合わせて、月光暗黒大魔神を打ち破ったあの日から……。
m真顔で大ボラを吹かないでいただけますか、タモンさま。
hだいたい、月光なのに暗黒ってどういうことだ。
qお~っと失敬、お耳にクソが詰まってて聞こ~えなァァ~~い。
女性陣から向けられる白い視線を、タモンは鼻歌交じりに無視した。
qんで、アッカちゃん。まだボディは完成してないワケ?
A簡単じゃないの、知ってるでしょ。
wんんー、でもそれってさ~あ、高純度のC資源を使ったプレミアムボディの話だろう?
ただ同型のボディを造るだけならさあ、別に、マスプロダクション型ガーディアンと同じ構造でいーんじゃないの~?
Aせっかくなら性能のいいボディにしたいじゃない。でないと、トイボアの力にも制限がかかっちゃうし。
h今さら、それはどの力が必要か?
ぽつり、とヒミカが口を挟んだ。隣で、トキモリもうなずいている。
mあなたを利用しようとした我々が言う言葉ではありませんが……トイボアの力は必須のものではないのでは?
どこか、言葉を選んでいるような口調だった。
自分たちガーディアンの命と心をもてあそぱれた復讐のため、アッカに同じ運命を強いることを、己の罪として意識していた彼女だ。
どうしても、そういう口調になるのだろう。それがわかっているから、アッカは、あえてあっけらかんと答えた。
Aそうはいかないよ。私だってスザクロッド自警団の一員なんだから。キワムたちといっしょに戦う力がいるの。
タモンが、すうっと不気味に目を細め、意味深な笑顔を形作った。
qなーに隠してんの、アッカちゃん?
俺ら、これでもアッカちゃんの〝親〟だからさあ。わかっちゃうんだよねえ、そういうの。
hロクな親じゃなかったがな。
Aホントにね。
qお耳が痛いねえ。
おおげさに肩をすくめてから。
タモンはアッカに背中を向けて、世間話のように続けた。
qま、言いたくなけりゃそれでいいけど。
ハチスカちゃんだったらこう言うんじゃない? カクシゴトナンテ ミズクサイゼ、アッカー! ……ってなァ。
甲高い裏声で表現するタモンに、ウシュガが目をぱちくりとさせた。
wどうしたんですか、タモンさん。――変ですよ?
qウシュガちゃんが言う!?
アッカは、あきれの視線で部屋を見回した。
Aなんだかんだ、元気そうね、あなたたちも。
hま、それなりにな。
***
zもうじき、高純度C資源の精製が完了します。
Aありがと、カムラナ。やっと生身の身体に戻れるんだ。
カムラナは、じっとアッカを見つめた。
お互い、肉体を持たぬ者同士。会話なら、データをやりとりするだけですむ。
それでもふたりはホログラム体で会話することを望んだ。それは言葉だけでなく、仕草で意思を伝え合う必要も、時にはあるからだった。
zタモン・シャズたちの言うとおりです、アッカ。あなたにはマスプロダクション型ガーディアンのボディで生きるという選択肢もある。
4年の付き合いだ。心配してくれていることはわかる。アッカは、やわらかい微笑みを返した。
A決断の権利は私にあるんでしょ? カムラナ。
もう決めたの。だから、やるよ。私。
zわかりました。
付き合いが長いのはお互いさまだ。だからカムラナも、それ以上は言わず、素直にうなずいた。
z引き続き、準備を進めましょう。
Aうん。お願いね。
(ときどき、わからなくなる。
これ、は……本当に私の心?)
「彼女は茫漠たる心の持ち主。他者の心境を鏡のように映し出す。
その心から生まれたのがトイボア。他者のソムニウムを転写し、複製する変身能力を持つアバター。
〝鏡〟。自分の心がそうデザインされたものと聞いたのは、タモンたちの手で月にさらわれたあとだった。
怒りとか、悲しみとか――自分はどうやら、そういう感情が薄いらしい、というのは、キワムたちを見ていてなんとなくわかった。
だが、それが、〝他者の心を映し出し、能力を複製する〟ために設定されたものだと聞いて――
怖くなった。
これまで自分の気持ちだと信じていたものが、〝そうではなかったのかもしれない〟と、そう思うと――
「ヤチヨは変なこと言うのね。あなた達も私も、それにあの人たちも……そもそも人間じゃないんだけど。
だから、あなた達みーんな、世界中にあるロッドを守るために作られたガーディアンじゃないの?」
「もー、今の今までどこに行ってたのよ! ずいぶん探したんだからね!!」
「うるさいうるさい! はぁーなぁーせぇーッ!!」
A(キワムたちといっしょにいて、自分では、変わったつもりだったけど……
それは本当に、私の心の変化なの?
キワムたちの心を映していただけで、私自身の心は、生まれたときから何も変わってない……とか……)
そうではないとは言い切れない。
〝怒り〟と感じたものはキワムたちの怒りで、〝悲しみ〟と感じたものもキワムたちの〝悲しみ〟に過ぎなかったら。
(だとしたら……
私の心って……いったいどこにあるんだろう……)
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