【黒ウィズ】ケネス編(GP2019)Story
2019/09/12
目次
登場人物
story1 前編
<神都での君の朝はカフェオレで始まる。
カイエ社のオフィスでタイプライターとにらめっこしている君の傍に、いつものように甘くて香ばしい匂いが近づいてきた。>
<長い休みを取っていたからね、と君は返した。
あのあと、調査したところ、トルリッカの一室と神都のデパートの10番目の試着室が繋がっているのがわかった。
それを利用して、君は異界を行き来していた。
だが繋がる頻度が不規則で一度どちらかに移動するとしばらく滞在しなければいけなかった。
今回もトルリッカでの調査中に、図らずも移動してしまったので、またこうしてこの世界で食べるために働いていた。>
<基本的にカイエ社の朝は静かだった。
たいていは、ビルの上階で暮らすヴィッキーの家に居候しているちゆうと君だけしかいなかった。>
<だから、たまに昼間にいなくなるのか、と君は思った。
君は彼らが泥棒であることは知っていた。
普通ならそんな仕事をしている人々と関わるのは良くないだろうが、ギャスパーには彼なりの大きな計画があった。
戦争を起こさせない。
方法はともかく、その目的には賛同していた。そんなことを考えていると。>
<ギャスパーが出社してきた。>
<ピカピカに磨かれたデスクにつくと、彼もまた毎朝の定番を所望した。>
<少し遅れて、ケネスも出社してきた。>
<彼はいつも通り、デスクにはつかず、さっそくソファに寝っ転がった。>
<率直な要求だな、と君は思った。
しかし給与をもらって働くことで、君もお金の大事さはしみじみ感じている。なので。
断った。
最近、猫の飼える部屋を借りたので、そこまで余裕がないのもあった。
この異界で猫を飼うのは、なかなか出費のかさむことだった。>
勝ち続けてたら、ギャンブルなんて面白くもないだろ。負けるから勝てるかもしれないって思えるんだぜ。
<とギャスパーが一枚のプレスリリースをケネスに渡した。>
そのパーティーでそのポーカーマンに勝てば、賞金が出るそうだぞ。
そこで集まる金を盗み出す。
工部局内のバランスを壊して、自分たちの勢力が優位になるように画策しているんだ。
<戦争を起こすために?と君はギャスパーに尋ねた。>
金なら腐るほどあるからな。
<君は取材があるから、と返して、断った。>
<君は出ていく3人を見て思った。
ボーナス、いいなあ。
と。>
<ボーナスいいなあ、と思っていた君だが、泥棒業に参加しない君のためにギャスパーは特別な計らいをしてくれていた。
以前、遭遇した『キキキさん』の事件を元に記事を書いたことがあった。
それが意外と好評だったので、不定期で連載することになったのだ。
その記事に関しては出来高としてお金が払われることになっていた。
<君は気が早いと思いつつも、最近ヴィッキーに教えてもらった『通販』のカタログのことを思い出していた。
この世界ではカタログに載った商品を指定してお金を払うと、その商品が届くようになっていた。
カタログで見つけたキャットタワーという商品に君はとても興味があった。
狭い部屋でも猫の遊び場が確保できるようになる商品である。立体にするというのは、目から鱗が落ちる思いだった。
<そうだね。と君は返して、目的の場所に向かった。>
<そこはデパートの脇にある自動販売機というものだった。これもこの世界で知ったとても変わった商売の形だった。そこはデパートの脇にある自動販売機というものだった。これもこの世界で知ったとても変わった商売の形だった。
お金を入れると、扉が開くようになっていて、果物の缶詰や調味料が手に入れられるのだ。
君は最近、気に入っているアプリコットの缶詰をさっそく購入した。
<この自動販売機のまわりで噂になっているのが、『小銭ばあさん』という都市伝説だった。
ここで買い物をし、お釣りを取ろうとすると。
<と、老女が声を掛けてくるのだ……。
謎謎謎(ゾゾゾ)ッ!
君は戦いの最中のように鋭く隣に立つ老女を見返した。
老女の接近にまったく気づかなかった。>
<ウィズもか細い声を上げた。ウィズですら気づかなかったのだろう。
人が近づいてきて、ふたりとも気づかない。そんなことがあるだろうか。
老女は、裕福とはいえないが、丁寧な暮らしぶりがわかるような身なりだった。
君は都市伝説で聞いた通りの答えを返す。
この小銭は自分のものです。>
<とこれまた都市伝説通りに老女は立ち去りかかる。
そこから君は君独自の問いを相手に投げかけた。
どうして小銭が欲しいんですか?
老女は足を止め、君を見た。>
<答えは小銭のことではなかった。>
<謎めいた言葉がすぐに老女の息子の名という答えに結びついた。
それだけ言うと老女は再び立ち去ろうと歩き出した。
老女は大通りに出ると、人の波にさらわれるように、姿が見えなくなった。>
story2 中編
<機械人形ポーカーマンのデモンストレーションを見に来ていたケネスたちは、その日何度かの参加者の敗北を見た。
そして、新たな敗北者も。>
<ポーカーマンが持ち札をこちらのテーブルに広げた。>
人形とポーカーをしたことがないから負けたことがない。ま、勝ったこともないけどな。
どうせ奪うなら、仕事の方を奪ってほしいもんだぜ。
機械が働き、俺達はポーカーを楽しむ。そんな時代にならねえかなあ。
<主催者の男は細長い顔をした、いかにもこうした興行を盛り上げることが得意そうな人間である。
ポマードで整えられた横分け頭の下には、水玉模様の蝶ネクタイがさもありなんとひっついていた。>
さまざまなからくり人形はありましたが、こいつはそれとは違います。自分で考えて動くんです。
いまはポーカーしかできませんが、いつかこいつの後継機がそれ以上のことをやってのけるでしょうね。
<写真に映る男のにやついた笑顔を眺めながら、ケネスが言った。>
しかし、金の方は健全な使い方をされない。そんな金なら我々が頂く。
<そんな風によからぬ企みを話し込んでいるケネスたちとは対照的に、君は重たい表情で受話器を下ろした。>
<君は頷いた。
『小銭ばあさん』の残した言葉が気になった君は彼女が探しているファッティという人物を探そうと思ったのだ。
何かしら、都市伝説の発祥や謎に近づけるのではないかと思ったからである。
しかし、捜索は上手<いかなかった。
マギーペニーの話では、ファッティという人物はいないとのことだった。>
<君は理由を簡単に説明した。それを聞いたケネスは、あっけなくその原因を取り払ってくれた。>
そいつもその類じゃねえかな?ファッティなんて呼ばれてるくらいだから、きっと太ってるんだろ。
<ケネスは電話を取り上げて、交換手にどこかにつなげるように命じた。>
ちょっとお前に頼みがあってな。ファッティって奴を探してるんだ。
どうせお前みたいなケチな悪党だ。知ってるだろ?
<しばらくやり取りしたあと、ケネスは受話器を置いた。>
<ケネスは君に立つように促した。君もすぐにコートを手に取った。>
<ケネスの知り合いと合流して、向かったのはN路街のさらに奥だった。
君は男にファッティの素性について尋ねた。
ところがファッティにゃ。てんで発明の才能がない。
動きもしない機械人形や発明品を売りつけたから詐欺師扱いになったんですよ。
子どもの頃に母親から、発明の才能があるって褒められたというのがあいつの口癖でした。
<君も、あの老女のことを思い出した。>
捕まって監禁されて、報復されたって話ですよ。なんでも毒ガスを吸わされたとかで、歩けなくなったとかです。
<最後の角を曲がるとそこには壊れかけのあばら家があった。>
<ケネスが家の扉を叩くと、扉はひとりでに開いた。>
<部屋の奥に人影が見えた。君とケネスは暗闇に目がなれるのを待って、暗い部屋に踏み込んだ。
人影は安っぽい白塗りの肌と丸く塗られただけの眼を持った機械人形だった。>
<君がポーカーマンの顔についた埃を払おうと傍に近づく。足に何かが当たった。
見るとそれは白骨化した死体だった。>
<案内の男はここに来る前に食べた脂っこい屋台の料理を喉元で押しとどめようと、胸を押さえた。
ケネスは傍に落ちていたノートを拾い上げる。
どうやら日記のようだった。ぺらぺらと読み進めて、ケネスが呟いた。>
<わかるの?と君はケネスに言った。>
<君はケネスから日記を受け取った。それを老女に渡せという意味だろう。>
何の才能もないのに、バカみたいな発明に命を奪われてよ。
<君はケネスに、いつものことなの?と尋ねる。>
俺にはその意味がよくわかんないんだよ。
<ファッティの母親に罪はないと思う、と君は答えた。>
生きるのは俺たちだぜ。余計なお世話だよ。
<君は親の顔を知らないといったケネスの言葉を思い出した。
彼にとってはどんな理由があっても、理解できないのかもしれない。親というものが。
日記の開いたページに目を落とした。ポーカーマンの完成に喜ぶ男の力強い筆致が走っていた。
その先のページは破り取られている。>
どうして知識もない男がそんなものを作れたんださっきからずっとそのことがひっかかってんだよ。
<君もそのことは気になっていた。>
<ファッティは能力に目覚めた。その可能性がある力を使い、ポーカーマンを完成させた。
ケネスが君に言った。>
story3 後編
俺は本番に強いタイプなんだよ。なっ?ウィズ。
<ポーカーマンとの対決はカジノを貸し切って催された。
ポーカーに興ずる人々が山のようにいた中で、参加者はこぞってポーカーマンとテーブルを囲みポーカーに興じた。
面白がって莫大な金を賭ける者や怒り狂ってポーカーマンを叩き壊そうとする者など反応は様々だったが。
テーブルに残る最後のひとりになるのは常にポーカーマンだった。
パーティーは進み、ようやくケネスがポーカーマンと同じテープルにつくことができた。
その時点では4人残っていた。>
<高額なチップを山のように目の前に叩きつけ、ケネスはそう言った。
それを見て、まずひとり席を立った。その代わりに別の紳士がひとり、席に着いた。>
だが、その場合前もって出していた参加費としてのチップは戻ってこない。
<言って、参加者のひとりは数枚のチップをテーブルの中央に出した。>
他の参加者はゲームを続けるには、これと同額かそれ以上のチップを賭ける必要がある。
<ポーカーマンは同じ数のチップを前に胸から飛び出す板でテーブルの中央に押し出した。>
<ケネスは同額のチップをテーブルに投げた。>
<ひとりの参加者が自分の手札をテーブルに投げた。>
だが、その場合、自分がベットしていたチップは戻ってこない。
ゲームが進めばテーブルの力―ドは5枚まで増える。その間、同じように賭けるチップの量をやり取りするんだ。
<他のふたりが、賭けたチップを動かさずにゲームを進めようとしたのを見て、ケネスが動いた。>
<相手はさらに高額のチップを前に出した。それを見てポーカーマンはゲームを下りた。
ケネスと紳士は何度か値段を釣り上げ、最後のラウンドに入った。>
<ふたりが互いのカードを披露する。>
<ふと、ちゆうがじっと戦況を見つめている君に気づいた。>
<君は、退屈そうだったから、そのあたりを散歩しているんじゃないかな?と返した。>
<ゲームが進むとテーブルに残っていたのはケネスとポーカーマンと、山のように積み上がったチップだけだった。>
<親であるポーカーマンがテーブルカードを3枚置くと、ケネスは目の前のチップの山を押し出す。>
オールインだ。
<ゲームを下りたポーカーマンのチップがケネスの下に渡っていく。>
だから絶対に負けないってのがわかる。
相手の張り方を見て、それが嘘か本当かを判断している。そして少しでも負ける要素があれば勝負をしない。
それなら、俺が大きく賭けたらお前はどうする?ずっと勝負を下り続けるのか?
機械に度胸はないのかよ。決められたように、決められた通りの判断しか出来ないのか?
お前は出来損ないの不良品だよ。違うって言うなら、魂見せてみろよ。
お前の魂を。
<その言葉がポーカーマンの挙動を狂わせた?あるいは何かの奇跡なのだろうか。
主催者が言うように、虫が中に入って悪さをしたのだろうか。
何度目かのラウンドの時に、ポーカーマンが告げた。>
<会場がざわついた。>
<ケネスもチップの山を差し出した。>
<ポーカーマンのカードは連続した数と同じスートつまりストレートフラッシュだった。>
<しかし、それを見てもケネスはいつも通りの不敵な態度を崩さなかった。>
でも確率は低くても、ひとつだけお前に勝てるのが残ってるぜ。
<ケネスのカードが披露される。>
お前にあるのは魂なんかじゃない。哀れな男の欲望だけだ。完璧な機械を作るというな。
ポーカーマン、ガラクタに戻りな。そっちの方がお似合いだよ。
<突如、ポーカーマンから煙が上がった。騒めく客たちを無視して、煙はケネスの手にするカードに吸い込まれる。
精悍なジャックの力―ドがだらしなく、そしてぶくぶくと太っていった。
ファッティ。
カードの絵は愛する母からそう呼ばれた男の姿に変わった。>
<煙を上げたポーカーマンヘ主催者たちが慌てて駆け寄る。
禁止されていたがやむを得ず、禁断の扉を開き、ポーカーマンの中を覗いた。
どれほどの複雑な機械が組み込まれているのかと思いきや、その中身は一枚の紙きれだった。
古びたノートの切れ端である。
『ざまあみろ!この俺は世界一の発明家だ!』
そう書かれているだけの紙きれがあるだけだった。
それがポーカーマンを動かしていた未来の技術の正体だった。>
<君は再びあの自動販売機の前に来ていた。
以前買ったアプリコットの缶詰はまだテーブルの上に置かれたままで、手を付けていない。
当然、缶詰を買い足しにきたわけではなかった。>
<君はウィズの方を見て、相槌を打った。覗きこんだウィズの瞳が丸くなった。
君が向き直ると、思った通り、老女が立っていた。
君はファッティの日記とケネスから預かったカードを老女に差し出した。
息子さんの遺品です、と言葉を添えて。
老女は弱々しい笑顔をして、ふたつを受け取ろうとするが、その手は君の元まで届かなかった。
伸びてきた手は途切れるように消えていった。そしてまた、老女も。
そこに残っていたのは、君とウィズと自動販売機だけだった。>
理由は他愛もないことだ。落ちている小銭を集めていた女性が男ともみ合いになって死んでしまったんだ。
息子を助けるために賠償金が必要だとかいう理由だったそうだ。
<とケネスは君を見た。君も神妙に頷く。>
僕は人の心の中にある闇をすっぽんぽんにしたいんですよ。助平ですから……。
<君はどう書けばいいかわからない。と率直に答えた。>
少しくらいイカサマしたって、誰も怒りゃしねえよ。
むしろ本当のことを言ったら怒る奴の方が多いからな。
何やったかな?『怪奇!きのこ人間と妖精の森』って映画やったかな?
もちろん、我々が盗む金も無くなった。ということはボーナスも無い。違うか?
<と言いつつ、ケネスはすでにカードを配り始めていた。>
<お互い2枚の手札とテーブルの3枚を交互に見比べる。>
<ギャスパーが黙って、進めろと仕草を送る。
テーブルの上にはさらに2枚追加され、5枚の力―ドが並んだ。これですべてのラウンドが終了した。
ギャスパーの近くでウィズが退屈そうに鳴き声を上げた。>
<お互いの手札を披露しあう。>
<ケネスは8と6のツーペア。ギャスパーはエースのワンペアだった。>
ひーひっひ!!これだからギャンブルってのはやめらんねーぜー!
<躍り上がらんばかりに喜ぶケネスとは対照的に、ギャスパーは頬杖をついたままだった。>
<ギャスパーはウィズを抱き寄せて、自分の膝の上に乗せた。>
例えば相手の手札を見て、合図を送ってくる者がいればそれは簡単だがプレイヤーの後ろに人が立つのは禁止されている。
でも、猫は禁止されていなかったな。
なぜなら、その猫がかっては偉大な魔法使いと呼ばれるほどの頭脳を持ち、人の言葉を理解するとは、誰も思わないからだ。
<君はバレたか、と思った。>
もう一度やり直すということは……。
ふふ、とんでもない助平ですね、天。
いや、違ってもいいから、お願い!貸して下さい!
<なんでやねん。と君は思わずちゆうの口調で呟いた。
だが今回はケネスにはひとつ借りがあった。ウィズにはキャットタワーを我慢してもらおう、と思った。
しかし、貸したお金は返ってくるんだろうか?
ケネスに貸したお金の行方。もしかすると新手の都市伝説になるかもしれないそんな気がした。>
黒ウィズGP2019 入選 ケネス・ハウアー
神都ピカレスク | |
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