【黒ウィズ】ケネス編(GP2019)Story
2019/09/12
目次
登場人物
story1 前編
<神都での君の朝はカフェオレで始まる。
カイエ社のオフィスでタイプライターとにらめっこしている君の傍に、いつものように甘くて香ばしい匂いが近づいてきた。>
ほい。黒猫はん、カフェオレでっせ。それにしても朝から熱心やね。
<長い休みを取っていたからね、と君は返した。
あのあと、調査したところ、トルリッカの一室と神都のデパートの10番目の試着室が繋がっているのがわかった。
それを利用して、君は異界を行き来していた。
だが繋がる頻度が不規則で一度どちらかに移動するとしばらく滞在しなければいけなかった。
今回もトルリッカでの調査中に、図らずも移動してしまったので、またこうしてこの世界で食べるために働いていた。>
ちゅーか、この会社で真面目に新聞社の仕事してるんは黒猫はんくらいやけどな。
<基本的にカイエ社の朝は静かだった。
たいていは、ビルの上階で暮らすヴィッキーの家に居候しているちゆうと君だけしかいなかった。>
社主のギャスパーはともかく、社員のケネスまで遅刻しているのはどういうことにゃ。
ふたりとも夜の方が本業やから、朝は遅いんや。
それはちゆうも同じじゃないにゃ?
ちゃうちゃう。ウチは空き巣専門やからどちらかといえば昼間が本番やねん。
<だから、たまに昼間にいなくなるのか、と君は思った。
君は彼らが泥棒であることは知っていた。
普通ならそんな仕事をしている人々と関わるのは良くないだろうが、ギャスパーには彼なりの大きな計画があった。
戦争を起こさせない。
方法はともかく、その目的には賛同していた。そんなことを考えていると。>
おはよう、ふたりとも。相変わらず朝が早いな。
<ギャスパーが出社してきた。>
当然ですやん、ギャスは~ん。今日も朝からギャスはんのデスク磨いときましたで~。
ありがとう。私の分のカフェオレも用意してくれるかな?
<ピカピカに磨かれたデスクにつくと、彼もまた毎朝の定番を所望した。>
はい~。もちろんですやーん。豆から挽きますから、豆から。
<少し遅れて、ケネスも出社してきた。>
ついでに俺のも頼むぜ、ちゆう。俺はコーヒーでいい。
<彼はいつも通り、デスクにはつかず、さっそくソファに寝っ転がった。>
あと、なんか食べるものないか?腹減ってんだよ。
えー、食べるもんなんかないっちゅーねん。どっかで買うてきたらええんちゃう?
じゃ、金くれよ。
なんでやねん!ウチはあんたのおかんか!
黒猫でいいや。金くれ。
<率直な要求だな、と君は思った。
しかし給与をもらって働くことで、君もお金の大事さはしみじみ感じている。なので。
断った。
最近、猫の飼える部屋を借りたので、そこまで余裕がないのもあった。
この異界で猫を飼うのは、なかなか出費のかさむことだった。>
なんだよ。どいつもこいつも冷たいな。俺は金がないんだぜ?ちょっとくらいわけてくれてもいいんじゃねえか?
先週、給料を渡したはずだぞ。
使ったから無くなった。どうだ、反論できるか?
いいや、出来ないな。反論しようのないバカだ。
またギャンブルですかー?ケネはん、弱いんやからやめといた方がええっちゅーねん。
弱いから勝っために努力をするんじゃねえか。わかってねえな、ちゆう。
勝ち続けてたら、ギャンブルなんて面白くもないだろ。負けるから勝てるかもしれないって思えるんだぜ。
真っ当なことを言ってるようで、全然真っ当じゃないにゃ。
このクズがっ!
金がないなら、こういうのはどうだ?お前好みだぞ。
<とギャスパーが一枚のプレスリリースをケネスに渡した。>
奇妙奇天烈摩詞不思議。未来の機械人形ポー力ーマン?なんだこりゃ。
今度、ポーカーをする機械人形がお披露目されるパーティーがあるそうだ。
そのパーティーでそのポーカーマンに勝てば、賞金が出るそうだぞ。
おお、俺向きじゃねえか。これに勝って賞金をゲットするんだな。
アホ程弱いくせに何言うてるねん。
その通りだ。お前が勝つ可能性に賭けるつもりはない。我々は真っ当に金を稼ぐ。泥棒らしくな。
そこで集まる金を盗み出す。
人のお金を盗むにゃ?
いい金ではない。これはU連合の息のかかった組織が主催している。そこで集めた金を工部局内の選挙資金にしようとしているんだ。
工部局内のバランスを壊して、自分たちの勢力が優位になるように画策しているんだ。
<戦争を起こすために?と君はギャスパーに尋ねた。>
ああ、そうだ。私たちはバランスを保つ為に盗む。そもそも私は金には興味がない。
金なら腐るほどあるからな。
だったら、少しくらいわけてくれよ。
働かない奴には金を渡したくない。ただしこの仕事が成功すれば、ボーナスを出してやってもいいぞ。
おお!マジかよ!
ボーナスですか?そりゃすごい!
その意気だ。そのポーカーマンのマスコミ用の内覧会がある。さっそく下見といこうか。
ヘヘヘ。俄然燃えてきたぜ。下見行くぞ、下見。黒猫、お前はどうする?
<君は取材があるから、と返して、断った。>
私たちは泥棒の手伝いは出来ないにゃ。
そりゃ残念だ。安心しろ。ボーナスが出たら、飯くらいおごってやるぜ。
<君は出ていく3人を見て思った。
ボーナス、いいなあ。
と。>
<ボーナスいいなあ、と思っていた君だが、泥棒業に参加しない君のためにギャスパーは特別な計らいをしてくれていた。
以前、遭遇した『キキキさん』の事件を元に記事を書いたことがあった。
それが意外と好評だったので、不定期で連載することになったのだ。
その記事に関しては出来高としてお金が払われることになっていた。
この都市伝説を記事に出来たら、私たちもボーナスを手に入れられるにゃ。
<君は気が早いと思いつつも、最近ヴィッキーに教えてもらった『通販』のカタログのことを思い出していた。
この世界ではカタログに載った商品を指定してお金を払うと、その商品が届くようになっていた。
カタログで見つけたキャットタワーという商品に君はとても興味があった。
狭い部屋でも猫の遊び場が確保できるようになる商品である。立体にするというのは、目から鱗が落ちる思いだった。
にゃはは。キミ、もしかして何を買おうかと考えているにや気が早いにゃ。
<そうだね。と君は返して、目的の場所に向かった。>
<そこはデパートの脇にある自動販売機というものだった。これもこの世界で知ったとても変わった商売の形だった。そこはデパートの脇にある自動販売機というものだった。これもこの世界で知ったとても変わった商売の形だった。
お金を入れると、扉が開くようになっていて、果物の缶詰や調味料が手に入れられるのだ。
君は最近、気に入っているアプリコットの缶詰をさっそく購入した。
『小銭ばあさん』出てくるといいにゃ。
<この自動販売機のまわりで噂になっているのが、『小銭ばあさん』という都市伝説だった。
ここで買い物をし、お釣りを取ろうとすると。
その小銭、譲ってもらえませんかね?
<と、老女が声を掛けてくるのだ……。
謎謎謎(ゾゾゾ)ッ!
君は戦いの最中のように鋭く隣に立つ老女を見返した。
老女の接近にまったく気づかなかった。>
その小銭、譲ってもらえませんかね?
出たにゃ……。
<ウィズもか細い声を上げた。ウィズですら気づかなかったのだろう。
人が近づいてきて、ふたりとも気づかない。そんなことがあるだろうか。
老女は、裕福とはいえないが、丁寧な暮らしぶりがわかるような身なりだった。
君は都市伝説で聞いた通りの答えを返す。
この小銭は自分のものです。>
そうですか。
<とこれまた都市伝説通りに老女は立ち去りかかる。
そこから君は君独自の問いを相手に投げかけた。
どうして小銭が欲しいんですか?
老女は足を止め、君を見た。>
息子を探しているんです。
<答えは小銭のことではなかった。>
ファッティ……。
<謎めいた言葉がすぐに老女の息子の名という答えに結びついた。
それだけ言うと老女は再び立ち去ろうと歩き出した。
老女は大通りに出ると、人の波にさらわれるように、姿が見えなくなった。>
story2 中編
コール!
俺もコールだ。
<機械人形ポーカーマンのデモンストレーションを見に来ていたケネスたちは、その日何度かの参加者の敗北を見た。
そして、新たな敗北者も。>
ショーダウン!
クィーンとジャックの2ペアだ。
<ポーカーマンが持ち札をこちらのテーブルに広げた。>
8のスリーカード。またしてもポーカーマンの勝利です。
ゲゲゲッシ!また勝ってもうた!
ポーカーをプレイ出来るだけでもすごいのに、対戦相手の心理まで読み取っているようだ。
こら、ケネはんより絶対強いんちゃうか?
バカ言え。俺が人形になんて負けるかよ。
そんなもんやってみなわからんちゅーねん。
いいか、ちゆう。言っとくが俺は生まれてから一度も人形にポーカーで負けたことはない。
おお!すごい!
そうだ。すごいだろ。
人形とポーカーをしたことがないから負けたことがない。ま、勝ったこともないけどな。
なんやただの屁理屈やん……。
そもそもポーカーってのは人間の楽しみだぜ。機械とか人形とかがその楽しみを奪うのは気に食わねえな。
どうせ奪うなら、仕事の方を奪ってほしいもんだぜ。
機械が働き、俺達はポーカーを楽しむ。そんな時代にならねえかなあ。
そもそもケネはん、奪われるほど働いてないっちゅーねん。
ああ、だから金がないんだ。働いてないからな。
金がないなら奪えばいい。それが我々の仕事だ。
いやーん。ギャスはん上手いこといいはるわー。
その前に、新聞社としての仕事をこなそうか。私とケネスは主催者と話してくる。ちゆうは会場を調べろ。
わかりました。ほな、鼠千匹入れるところ見つけてきます。
<主催者の男は細長い顔をした、いかにもこうした興行を盛り上げることが得意そうな人間である。
ポマードで整えられた横分け頭の下には、水玉模様の蝶ネクタイがさもありなんとひっついていた。>
――大した盛況ですね。
はっはっは。そうでしょう。これはねえ、はっきり言って一大発明品ですからね。
さまざまなからくり人形はありましたが、こいつはそれとは違います。自分で考えて動くんです。
いまはポーカーしかできませんが、いつかこいつの後継機がそれ以上のことをやってのけるでしょうね。
それは楽しみですね。一体どういう仕組みで動いているんですか?機械の中身を見ることはできますか?
おっと、それはいけません。中を開けるのは開発者だけしか許されてないのですよ。なんでも開けると中に虫(バグ)が入り込んで、故障してしまうとか。詳しい話は分かりませんが。
写真はいいですよね?
ええ。それは構いませんよ。男前に撮ってくださいよ。
ポー力ーマンをですか?それともあなたをですか?
ふたりとも。
とてもじゃないが、こいつが国の陰謀に関わっているようには思えないな。
<写真に映る男のにやついた笑顔を眺めながら、ケネスが言った。>
そいつはただ雇われただけだろう。表向きは健全なパーティーだからな。
しかし、金の方は健全な使い方をされない。そんな金なら我々が頂く。
で、どうやって頂くんだ?
会場の警備は厳重でしたわ。でも食糧庫に鼠が通れるほどの穴がありました。
今回はそこを使わせてもらう。俺とケネスでパーティーの最中に売り上げを食糧庫に運び込む。
それをウチの甚八たちが運び出すってわけですねええ考えやと思います。
そりゃありがてえ。帰りの荷物は軽いのが一番だからな。
<そんな風によからぬ企みを話し込んでいるケネスたちとは対照的に、君は重たい表情で受話器を下ろした。>
マギーペニーの人脈でもファッティという人物は見つからなかったにゃ?
<君は頷いた。
『小銭ばあさん』の残した言葉が気になった君は彼女が探しているファッティという人物を探そうと思ったのだ。
何かしら、都市伝説の発祥や謎に近づけるのではないかと思ったからである。
しかし、捜索は上手<いかなかった。
マギーペニーの話では、ファッティという人物はいないとのことだった。>
何だよ、黒猫。暗い顔してるな。
<君は理由を簡単に説明した。それを聞いたケネスは、あっけなくその原因を取り払ってくれた。>
そりゃ、きっとあだ名だぜ。街の小悪党の中にはあだ名で呼んだり呼ぱれたりしている連中がいるんだよ。
そいつもその類じゃねえかな?ファッティなんて呼ばれてるくらいだから、きっと太ってるんだろ。
<ケネスは電話を取り上げて、交換手にどこかにつなげるように命じた。>
よう。俺だ。えーと……お前にはなんて名乗ってたかな?ああ、マッサだ。マッサ・デカントだ。俺の事、忘れたのか?
ちょっとお前に頼みがあってな。ファッティって奴を探してるんだ。
どうせお前みたいなケチな悪党だ。知ってるだろ?
<しばらくやり取りしたあと、ケネスは受話器を置いた。>
行くぜ、黒猫。ひとつ貸しだな。
<ケネスは君に立つように促した。君もすぐにコートを手に取った。>
へえ、じゃあ、アニキいまはケネスって名乗ってるんですか。
いろいろわけがあってな。いまはその名前だ。
<ケネスの知り合いと合流して、向かったのはN路街のさらに奥だった。
君は男にファッティの素性について尋ねた。
ファッティってのはふとっちょって意味です。まあ、そりゃでっぷり太ってましたよ。
そいつは何したんだ?ただ太ってただけじゃないだろ。
詐欺ですね。詐欺というか……あいつからすれば真面目な発明だったんですよ。
ところがファッティにゃ。てんで発明の才能がない。
動きもしない機械人形や発明品を売りつけたから詐欺師扱いになったんですよ。
子どもの頃に母親から、発明の才能があるって褒められたというのがあいつの口癖でした。
母親ねえ……。
<君も、あの老女のことを思い出した。>
で、そいつはいまどうなってる?まだ元気に詐欺まがいの発明をしてるのか?
いやあ、期待しないほうがいいですね。あいつ機械人形が紅華会の幹部の鼻をへし折ったんですよ。
紅華会の奴をやったなら、いい機械じゃねえか。そういう機械なのか?嫌な奴の鼻をへし折るための機械。
それだったらまだよかったんですが、ポーカーをする機械人形が鼻を折ったんでその幹部はカンカンですよ。
捕まって監禁されて、報復されたって話ですよ。なんでも毒ガスを吸わされたとかで、歩けなくなったとかです。
<最後の角を曲がるとそこには壊れかけのあばら家があった。>
生きてたらいいんだけどな。
<ケネスが家の扉を叩くと、扉はひとりでに開いた。>
<部屋の奥に人影が見えた。君とケネスは暗闇に目がなれるのを待って、暗い部屋に踏み込んだ。
人影は安っぽい白塗りの肌と丸く塗られただけの眼を持った機械人形だった。>
ポーカーマンだ。試作品って感じだな。
<君がポーカーマンの顔についた埃を払おうと傍に近づく。足に何かが当たった。
見るとそれは白骨化した死体だった。>
やれやれ……。ずいぶんダイエットしちまったじゃねえか、ファッティ。
<案内の男はここに来る前に食べた脂っこい屋台の料理を喉元で押しとどめようと、胸を押さえた。
ケネスは傍に落ちていたノートを拾い上げる。
どうやら日記のようだった。ぺらぺらと読み進めて、ケネスが呟いた。>
かろうじて字は書けているけど、計算は苦手だったようだな。ずいぶんでたらめな数学を信じてやがる。
<わかるの?と君はケネスに言った。>
詳しくはわからないが、こいつがわかってないってことはわかる。
<君はケネスから日記を受け取った。それを老女に渡せという意味だろう。>
母親に褒められたのが、そんなにうれしいものなのかよ。
何の才能もないのに、バカみたいな発明に命を奪われてよ。
おやおや、アニキのいつもの母親批判ですね。
<君はケネスに、いつものことなの?と尋ねる。>
俺は親の顔を知らないから、あいつらに同情する気はない。ただ世の中には親って奴に狂わされた奴がよくいる。
俺にはその意味がよくわかんないんだよ。
<ファッティの母親に罪はないと思う、と君は答えた。>
そこだよ、厄介なのは。母親にしても父親にしても、愛情だっていって罪も罰もなしで人の人生を左右する。
生きるのは俺たちだぜ。余計なお世話だよ。
<君は親の顔を知らないといったケネスの言葉を思い出した。
彼にとってはどんな理由があっても、理解できないのかもしれない。親というものが。
日記の開いたページに目を落とした。ポーカーマンの完成に喜ぶ男の力強い筆致が走っていた。
その先のページは破り取られている。>
俺が昼間見てきたポーカーマンは完璧な機械人形だった。まるで本物の人間のようにな。
どうして知識もない男がそんなものを作れたんださっきからずっとそのことがひっかかってんだよ。
<君もそのことは気になっていた。>
おい。ファッティが吸わされた毒ガスはなんていう名前かわかるか?
え?えーと……。サイトなんたらXとかって聞いたな。
サイトキシンXか。
<ファッティは能力に目覚めた。その可能性がある力を使い、ポーカーマンを完成させた。
ケネスが君に言った。>
どうやら、盗むものがひとつ増えたようだぜ。
story3 後編
つまり計画を変更したいというわけか。
ああ。ポーカーマンがファッティの能力で動いているなら、それを止められるのは俺しかいない。
それはわかったが、方法はどうする?ポーカーマンを止める方法だ。
いつも通りだ。賭けに勝てばいいんだよ。ポーカーでな。
しかし、お前……弱いだろ。
そうや、そうや。ケネはん、ギャンブル弱いっちゅーねん。
おいおい。日頃のギャンブルは遊びだ。こっちは仕事だぜ?
俺は本番に強いタイプなんだよ。なっ?ウィズ。
期待しておくにゃ……。
<ポーカーマンとの対決はカジノを貸し切って催された。
ポーカーに興ずる人々が山のようにいた中で、参加者はこぞってポーカーマンとテーブルを囲みポーカーに興じた。
面白がって莫大な金を賭ける者や怒り狂ってポーカーマンを叩き壊そうとする者など反応は様々だったが。
テーブルに残る最後のひとりになるのは常にポーカーマンだった。
パーティーは進み、ようやくケネスがポーカーマンと同じテープルにつくことができた。
その時点では4人残っていた。>
俺はでかい勝負がしたい。一番高いレートで勝負しようぜ。
<高額なチップを山のように目の前に叩きつけ、ケネスはそう言った。
それを見て、まずひとり席を立った。その代わりに別の紳士がひとり、席に着いた。>
デハ ゲームヲ カイシシマス。
ギャスはん。ウチ、ポーカーのルールよくわかってないんですけど、配っているひとが親でいいんですよね?
ああ。ポーカーは参加者が順番で親をやる。そして最初に2枚ずつカードを配る。
フォールド。
勝負を降りる場合はフォールドと宣言すればいい。
だが、その場合前もって出していた参加費としてのチップは戻ってこない。
ベット。
<言って、参加者のひとりは数枚のチップをテーブルの中央に出した。>
チップの数を設定する行為はベットだ。その勝負に自信があれば、ベットするんだ。
他の参加者はゲームを続けるには、これと同額かそれ以上のチップを賭ける必要がある。
コール!
<ポーカーマンは同じ数のチップを前に胸から飛び出す板でテーブルの中央に押し出した。>
いいぜ、やろう。
<ケネスは同額のチップをテーブルに投げた。>
これでゲームが成立した。次は親が中央に3枚のカードを置く。あれと自分の手札で、カードの役を作るんだ。
こっからが本番っちゅーわけですね。
<ひとりの参加者が自分の手札をテーブルに投げた。>
フォールド。
勝負を降りる場合はフォールドだ。それもひとつの戦術だ。
だが、その場合、自分がベットしていたチップは戻ってこない。
ゲームが進めばテーブルの力―ドは5枚まで増える。その間、同じように賭けるチップの量をやり取りするんだ。
<他のふたりが、賭けたチップを動かさずにゲームを進めようとしたのを見て、ケネスが動いた。>
レイズだ。レイズ。もっと大きい勝負をしようぜ。
ゲゲゲッシ!ケネはん、あんなにー気に賭けんでもええのに……。ゲゲゲッシ!ケネはん、あんなに一気に賭けんでもええのに……。
あえてハッタリとして高額を賭けることもある。相手がそれを見抜けずゲームを下りれば、テーブルの上のチップは自分のものだ。
ふん。パッタリか?レイズだ。
<相手はさらに高額のチップを前に出した。それを見てポーカーマンはゲームを下りた。
ケネスと紳士は何度か値段を釣り上げ、最後のラウンドに入った。>
コール。ショーダウンと行こうぜ。
<ふたりが互いのカードを披露する。>
ジャックのスリーカード。俺の勝ちだな。
ゲゲゲッシ!ケネはんが勝ってもうた!なんちゅーこっちゃ!
ハッタリではなかったのか。あいつにしては珍しい。
<ふと、ちゆうがじっと戦況を見つめている君に気づいた。>
なんや黒猫はん、意外と冷静やな。あれ?そういえばウィズはんは?
<君は、退屈そうだったから、そのあたりを散歩しているんじゃないかな?と返した。>
<ゲームが進むとテーブルに残っていたのはケネスとポーカーマンと、山のように積み上がったチップだけだった。>
さてと……俺とお前の勝負になったわけだな。
ゲームヲ サイカイシマス!
<親であるポーカーマンがテーブルカードを3枚置くと、ケネスは目の前のチップの山を押し出す。>
せっかくふたりきりになったんだ。ざっくばらんな勝負をしようぜ。
オールインだ。
ゲゲゲッシ!!全部賭けてもうた!!
フォールド!
<ゲームを下りたポーカーマンのチップがケネスの下に渡っていく。>
ずっとお前の賭け方を見ていたけど、勝てない勝負は絶対にやらない。そういうやり方だ。
だから絶対に負けないってのがわかる。
相手の張り方を見て、それが嘘か本当かを判断している。そして少しでも負ける要素があれば勝負をしない。
それなら、俺が大きく賭けたらお前はどうする?ずっと勝負を下り続けるのか?
機械に度胸はないのかよ。決められたように、決められた通りの判断しか出来ないのか?
お前は出来損ないの不良品だよ。違うって言うなら、魂見せてみろよ。
お前の魂を。
<その言葉がポーカーマンの挙動を狂わせた?あるいは何かの奇跡なのだろうか。
主催者が言うように、虫が中に入って悪さをしたのだろうか。
何度目かのラウンドの時に、ポーカーマンが告げた。>
オールイン!
<会場がざわついた。>
やっぱり魂持ってるんじゃねえか。
<ケネスもチップの山を差し出した。>
チップだけじゃない。俺が勝ったら、お前のすべてをもらっていくぜ。
あわわ……緊張の瞬間やっちゅーねん。
だが、今日のケネスはやたらついている。機械すらその強運が飲み込んでしまうかもしれない。
ショーダウン!
ああ、勝ち負けを決めようぜ。
<ポーカーマンのカードは連続した数と同じスートつまりストレートフラッシュだった。>
ギャ、ギャスはん。あれって強いんとちゃいますん?
ああ、まずいな。
<しかし、それを見てもケネスはいつも通りの不敵な態度を崩さなかった。>
そうだよな。お前は魂なんてない。絶対に勝てると踏んだからこの勝負に出たんだ。
でも確率は低くても、ひとつだけお前に勝てるのが残ってるぜ。
<ケネスのカードが披露される。>
ロイヤルフラッシュだ。
お前にあるのは魂なんかじゃない。哀れな男の欲望だけだ。完璧な機械を作るというな。
ポーカーマン、ガラクタに戻りな。そっちの方がお似合いだよ。
<突如、ポーカーマンから煙が上がった。騒めく客たちを無視して、煙はケネスの手にするカードに吸い込まれる。
精悍なジャックの力―ドがだらしなく、そしてぶくぶくと太っていった。
ファッティ。
カードの絵は愛する母からそう呼ばれた男の姿に変わった。>
放蕩息子の帰還だな。
<煙を上げたポーカーマンヘ主催者たちが慌てて駆け寄る。
禁止されていたがやむを得ず、禁断の扉を開き、ポーカーマンの中を覗いた。
どれほどの複雑な機械が組み込まれているのかと思いきや、その中身は一枚の紙きれだった。
古びたノートの切れ端である。
『ざまあみろ!この俺は世界一の発明家だ!』
そう書かれているだけの紙きれがあるだけだった。
それがポーカーマンを動かしていた未来の技術の正体だった。>
<君は再びあの自動販売機の前に来ていた。
以前買ったアプリコットの缶詰はまだテーブルの上に置かれたままで、手を付けていない。
当然、缶詰を買い足しにきたわけではなかった。>
やっぱり買い物しないと出て来ないのかもしれないにゃ。
<君はウィズの方を見て、相槌を打った。覗きこんだウィズの瞳が丸くなった。
君が向き直ると、思った通り、老女が立っていた。
君はファッティの日記とケネスから預かったカードを老女に差し出した。
息子さんの遺品です、と言葉を添えて。
老女は弱々しい笑顔をして、ふたつを受け取ろうとするが、その手は君の元まで届かなかった。
伸びてきた手は途切れるように消えていった。そしてまた、老女も。
そこに残っていたのは、君とウィズと自動販売機だけだった。>
以前、あの自動販売機の近くで殺人事件が起こったそうだ。
理由は他愛もないことだ。落ちている小銭を集めていた女性が男ともみ合いになって死んでしまったんだ。
つまんねえな、たかだか小銭で。
彼女にとっては大事だったんだ。親類にも金を無心していたらしい。なんでも……。
息子を助けるために賠償金が必要だとかいう理由だったそうだ。
繋がっちまったな。
<とケネスは君を見た。君も神妙に頷く。>
息子のために命まで失っちまうのか。だから、親ってのは厄介なんだよ……。
先生、この都市伝説はどうですか?小説の題材になりそうですか?
興味はありますが、やめておきましょう。僕はもっと人の闇を取り上げたい。その話にあるのは世の中の無情さです。
僕は人の心の中にある闇をすっぽんぽんにしたいんですよ。助平ですから……。
では、黒猫が書くか?
<君はどう書けばいいかわからない。と率直に答えた。>
最後に残ったのは息子の大発明だった……てことでいいんじゃねえか?嘘じゃないしな。
少しくらいイカサマしたって、誰も怒りゃしねえよ。
むしろ本当のことを言ったら怒る奴の方が多いからな。
この前、ヴィッキーはんの髪型笑ったら、スネ蹴られた時のことやな?
ああ、だって変だっただろ。きのこみたいだったぜ。
ちゅーか映画の撮影で仕方なかったんやっちゅーねん。
何やったかな?『怪奇!きのこ人間と妖精の森』って映画やったかな?
きのこ人間……。何かのメタファーですか?
やかましいわ。
そんなことよりもギャス。ボーナスだ、ボーナス。ボーナスはどうなった?
そんなものは無い。ポーカーマンが壊れたせいでパーティーは中止、集まるはずだった金も無しだ。
もちろん、我々が盗む金も無くなった。ということはボーナスも無い。違うか?
異議ありだ!このメガネは我々に労働の対価を払うべきだ。
メガネだと……メガネに罪はないだろう。わかった。ポーカーで勝負してやろう。
いいのか?あの時の俺を見てなかったのか、いまの俺は強いぜぇ……。
<と言いつつ、ケネスはすでにカードを配り始めていた。>
人にはまぐれというものがある。しかし、長くは続かない。
<お互い2枚の手札とテーブルの3枚を交互に見比べる。>
よーし、勝負だ、のるか?
<ギャスパーが黙って、進めろと仕草を送る。
テーブルの上にはさらに2枚追加され、5枚の力―ドが並んだ。これですべてのラウンドが終了した。
ギャスパーの近くでウィズが退屈そうに鳴き声を上げた。>
どうだ、ギャス~。下りるならいまだぜ~?
下りるつもりはない。勝負だ。
よし!ショーダウンと行こうじゃねえか!
<お互いの手札を披露しあう。>
おやまあ……。
<ケネスは8と6のツーペア。ギャスパーはエースのワンペアだった。>
よっしゃぁぁー!ボーナスゲットだぜ!見たか、ギャス、俺の実力を!
ひーひっひ!!これだからギャンブルってのはやめらんねーぜー!
<躍り上がらんばかりに喜ぶケネスとは対照的に、ギャスパーは頬杖をついたままだった。>
ケネス、私の手札に触れてみろ。
は?何言ってんだよ……ってえ!えええ!
エースに変わってもうた……ということは?ギャスはんのエースのスリーカードやっちゅーねん!
にゃっ!?
<ギャスパーはウィズを抱き寄せて、自分の膝の上に乗せた。>
あの時、お前がやたら強かったのは相手の手札がわかっていたからだ。
例えば相手の手札を見て、合図を送ってくる者がいればそれは簡単だがプレイヤーの後ろに人が立つのは禁止されている。
でも、猫は禁止されていなかったな。
なぜなら、その猫がかっては偉大な魔法使いと呼ばれるほどの頭脳を持ち、人の言葉を理解するとは、誰も思わないからだ。
<君はバレたか、と思った。>
私が見た時はギャスパーはワンペアだったにゃ。まさか、力を使っているとは思わなかったにゃ……。
……ギャ、ギャス様、いまのはイカサマをしてしまったので、無しということにしてー……。
もう一度やり直すということは……。
ダメだ。
ですよねえ……。ということはボーナスはぁ?
もちろん、無しだ。
トホホ……。ボーナスってなんだよ……都市伝説かなにかかぁ……?
やっぱりケネはん、アホほど弱いなー。
天網恢恢疎にして漏らさず。天は悪事を見逃さないというわけですね。
ふふ、とんでもない助平ですね、天。
あ、そうだ!黒猫、いまのはウィズの責任だぞ!だからお前は俺に金を貸す義務がある。違うか?違うか?
いや、違ってもいいから、お願い!貸して下さい!
<なんでやねん。と君は思わずちゆうの口調で呟いた。
だが今回はケネスにはひとつ借りがあった。ウィズにはキャットタワーを我慢してもらおう、と思った。
しかし、貸したお金は返ってくるんだろうか?
ケネスに貸したお金の行方。もしかすると新手の都市伝説になるかもしれないそんな気がした。>
お願いします~、黒猫さま~!
黒ウィズGP2019 入選 ケネス・ハウアー
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