リー・メイメイ(STORY続き)
「リー・メイメイ」のSTORY全文が長文になるため、容量の都合で分離したページです。
STORY(EPISODE8以降)
バスの背に乗って梅田駅まで辿り着く。
もちろん、無賃乗車は良くないから、運転手に事情を話して、きちんとお金は払ったネ。
全て順調。問題なく進んでるアル。
残してきちゃった先輩たちは気になるけど、ま、きっと大丈夫ネ、強いし。
「あとは琵琶湖へ行くために電車に乗り込むだけネ!」
いざ、改札へ向かおうとしたけど、ふと周りを見て、いつもと空気が違うことに気づく。
なんだか、黒い服の人多くないアルか?
「あの女はまだ来てないようだな」
「ああ、あいつ俺たちをコケにしやがって」
「こっちへ向かったと報告は来てる。今度こそ、痛い目を見せてやるぞ!」
思いっきり待ち伏せされてるネ!?
まさかあの大男が仲間に連絡したってことアルか?
このままじゃ、駅に近づけないアル。
で、でも、これだけ人が出入りしてるんだから、誰かの影に隠れて改札を通ればいいだけネ。
ひらめいたアル!
近くのお店で帽子を買って、それを被れば完璧ヨ!
「これで完璧ネ。あとは隠れながら進めば――」
「見つけたぞ! あの女だ!」
「速攻でバレたアル!?」
黒服の男たちが囲むように集まってくる。
全員で3人、いや5人はいるネ。
「もう逃げ場はないぞ、諦めろ。我らが讃えし神のた――」
「ホアッチャー!!」
「ぐへえっ!?」
言い終わる前に黒服へ体重を乗せて飛び蹴りを放つと黒服は彼方へと吹っ飛んだ。
「まずは一人目アル!」
「お前、なにを!」
「もう逃げるのはやめネ! こうなったら、お前ら全員二次元の向こうにブッ飛ばすネ!!」
「一人でなにができると――」
「ハイアー!」
「あいったー!」
すかさず、隣にいた黒服を回転をかけた裏拳打ちで殴り倒した。
「ほい、二人目ネ! 鍛え方が足りないヨ、軟すぎてダメダメアル!」
「調子に乗るなよ、蜂の巣にしてやる!」
「バカ、やめろ!」
隠していたマシンガンを構えてると、すぐさま他の黒服が止めに入る。
「こんなところで撃ってみろ、仲間に当たっちまうぞ」
「アタシを囲むように布陣したのが仇となったネ」
「くそっ、だったら!」
そう言って構えを取る黒服たち。
構えが独特、というより素人丸出しネ。
護身術か、武術をかじったことがあるみたいだけどそれじゃあメイメイの敵じゃないヨ!
「かかれ!」
黒服たちがアタシに向かってきた。
落ち着いて深呼吸をして、構えを取る。
「チェイヤー!」
「ぐばあ!?」
「ヨイショー!」
「あべふ!?」
「セイアー!」
「ぶるは!?」
正拳突き、浴びせ蹴り、掌底打ち。
流れるように向かってきた3人へ技を叩き込む。
倒れ込む男たちに驚いたのか、それともアタシの勝利を祝福してくれているのか、白い鳩が飛び立った。
「ば、バカな、これじゃあ、まるでザコ……」
「アンタたちにはクンフーが足りないヨ」
ここにいた黒服たちは他にいないようアル。
こんなことなら追いかけてきたやつらも、さっさと倒してしまえばよかったネ。
「パパっと電車に乗り込んじゃ――」
殺気を感じて、咄嗟にその場から飛び退くと、さっきまでアタシがいた場所に拳が振り下ろされた。
「……またお前アルか!」
アタシが撒いたはずの大男。
こいつがここにいるということは、アタシが駅へ向かったって報告したのはたぶん、この大男ネ。
「どうせ、アンタも大したことないネ! アタシの拳で沈めアル!」
一気に大男の懐に飛び込む――
「アタタタタタ!」
最高速度の連打をたたき込み――
「ホアター!!」
渾身の一撃を打ち込んだ。
すると大男はうめき声の一つも上げず、その場に倒れた。
「アタシは神童と呼ばれた女ネ。アンタなんか、敵じゃないアルよ」
……大男が立ち上がる気配がない。
「あ、あれ? 本当に大したことなかったアル。映画のお約束なら殴っても効かない、とかそういうのじゃないアルか?」
指で突っついても起きる気配はないし、本当に今ので倒せたらしいネ。
「一番ホーム、電車が出ます。ご乗車の方は……」
「まずい、電車が出ちゃうネ!」
騒ぎに釣られて集まってきた野次馬をかき分けて改札を急いで乗り越えていく。
「ちょっとお客さん! お金!」
「ごめんなさいアル! 今急いでるから、着払いでよろしくネ!」
駅のホームを駆け抜けて、閉まりかけたドアへ手を突っ込んで開いて、電車に乗り込む。
「ふぅ、間に合ったアル!」
「お客様にご連絡致します。駆け込み乗車など、無理なご乗車はおやめください」
アタシのことを言ってるって自覚はあるけど、今のはちょっとした事情があるヨ。
一回くらい、見逃してほしいアル。
「でも、これで琵琶湖へ行けるネ。席も空いてるし、適当に座って――」
ガラガラの席をどこに座ろうかと見ていると、こちらをジーッと見ているメガネをかけた女の子が目に入った。
「い、今のは急いでたからアルよ! 普段はあんな乗り方なんて絶対しないアル!」
「あばっ!?」
「駆け込みは悪いってわかってるけど、事情があったから仕方なかったアルよ!」
「は、はあ……」
なんか見られてたから言い訳しちゃったけど、なんだか反応が薄いネ。
非難の目を向けてきたってわけじゃなさそうだし適当に座っちゃうアル。
「ふわぁ、本物の中華娘なのだ……」
なにか後ろから聞こえたような気がするけど、きっと気のせいネ。
このまま無事に琵琶湖まで行けるといいネ。
梅田駅を出て、数駅が過ぎた頃。
電車に乗ってしまえば、そう追いつけないだろうと思っていたアタシの前にソイツは現れたアル。
「そろそろ京都に着きそうネ。アイツらもさすがに追ってくるの諦めたアルか」
駅のホームが近づいてくると、遠目からでもわかるくらい大きな男が立っていた。
「あ、あの大男!? 倒したはずなのにどうしてここにいるネ!」
慌てて見つからないように身体を屈める。
こそっと窓から覗き見ると、大男が隣の車両に乗り込むのが見えた。
このままここにいたら見つかってしまうネ。
すぐに違う車両へ移動しないと――
バンッと大きな音と共に、連結部分にあるドアがひしゃげて飛んできた。
「え!?」
「危ないアル!」
飛んできたドアがメガネの少女に当たりそうになり、慌てて蹴り弾く。
「大丈夫アルか?」
「なな、なにが起こってるのだ!?」
「悪いこと言わないから、ここから早く離れたほうがいいアルよ」
ドシドシ、と足音が聞こえてきそうな巨体と共に大男がゆっくりと近づいてくる。
「お、大男なのだ!?」
「ふふん、またやられに来たアルか。人様に迷惑をかけるやつはアタシの拳で――」
あのときと同じように大男の懐に飛び込んで連打を叩き込む。だが――
「あいったー!?」
まるで鉄を殴ったかのような痛みが拳に走る。
「お、お前、身体に鉄板仕込むとか卑怯アル!」
不思議そうに首を捻ったあと、大男は自分のシャツをめくって、身体を見せてくる。
そこには鎖帷子が巻かれていた。
「全身にそんなの巻いて動き難そうネ。おかげでこっちの攻撃は当て放題ヨ!」
身体がダメなら顔を殴り飛ばせばいい話、わざわざ身体を狙う必要はないネ!
「セイヤー!」
顔を狙って放った上段蹴りだったが――大男は身体を逸らして簡単に避けた。
「なんと!?」
逆に大男が反撃とばかりに蹴りを放ってくる。
後ろへ飛び退き、避けようとするものの、リーチが長く、避けきれず。
大男の蹴りがアタシのお腹に重くめり込んだ。
「ぐはっ!?」
その衝撃に意識を飛ばされそうになるが、必死に繋ぎ止めて、なんとか踏ん張る。
「い、いったい、なにがどうなってるのだ!?」
「まだ逃げてなかったアルか。巻き込まれても知らないヨ」
またゆっくりと大男がアタシに近づいてくる。
ああいう防具は基本、胴体だけ。
だったら、アタシは滑り込むように身をかがめて、大男の足元へ蹴りを突き刺す。
「弁慶の泣き所、大いに泣きわめくといいネ!」
――だが、大男は顔色一つ変えずに、拳を振り下ろして来た。
「あぶな――」
振り下ろされた拳を左へと避けるが、大男はそのまま腕を乱暴に左へと薙ぎ払ってくる。
「――ッ!?」
慌てて防いだけどそのまま座席へと吹き飛ばされた。
腕への痛みに顔をしかめて、立ち上がろうとするがもう大男が目の前に迫っていた。
「日本のオタクテクノロジーはあーしがいただいちゃうから♪ 小娘はそこで永遠におねんねしてなさい」
「ええ!? あ、アンタ、その口調はなにネ!」
「あーしのバンデシネの総主、讃えし神のために持って帰らせてもらうわ!」
「バンデシネ……そうか、アンタは!」
振り上げられた大男の拳が振り上げられ、アタシへと振り下ろされる。
「あなたの神様に祈っておきなさい。ちゃ~んと天国へいけますように、ってね!」
やっと敵の正体がわかったというのに、ここでお終いなんて……
「ごめんネ、先輩……」
拳が目の前に迫る、覚悟を決めた瞬間――
「いけーっ、スケミン!」
メガネの女の子がなにかのボールを大男に投げつけた。
すると、ネバネバの液体のような物体が大男の全身を包み込む。
「おほほぉ!?」
「な、なにが起こってるネ!?」
「わたしの服溶かスライムは服を溶かす! 男の服は溶かせないけど、邪魔はできるのだ!」
「なにがどうなってるかわからないけど――!」
服溶かスライムに気を取られている大男を蹴り飛ばして距離を取る。
「助けてくれて、謝謝ネ!」
「ドアから助けてくれたお礼なのだ!」
「いや~ん、なんなのよ、これ!?」
大男が気持ちの悪い悲鳴をあげたかと思うと、その服はたちまち溶けていった。
「ど、どうなってるのだ! 服溶かスライムは女の子の服しか溶かさないのに!」
「この身体は男でも、心は乙女なのよ♪」
「ええ、なにアル、それ……」
「あばばば!? スケミン、それ以上はダメなのだ。見たくもないものが見えちゃうのだー!」
慌ててメガネの女の子が大男にひっつくスケミンに指示をして回収する。
なんとかパンツだけは残ってくれたようネ。
「こんな裸みたいな格好でお外にいるなんてあーしには耐えられないわ!」
裸みたいな格好?
――大男の足元を見ると服溶かスライムで溶かせなかったのか、鎖帷子が落ちていた。
「起死回生!」
防御がなくなった腹に拳の一撃をお見舞いした。
「ぐふうっ!?」
「どうネ、アタシの一発は!」
さっきまで鎖帷子で守られていたが、もうそんなことは気にせず、いくらでも打ち込めるネ。
「ま、まずいわ、あーしのとっておきが!? ここは一旦、退かせてもらうわよ!」
大男が見たくもない胸を隠しながら、全力疾走で電車から逃げ出す。
「待つネ! ここで仕留めさせてもらうヨ!」
「あっ、わたしも一緒に行くのだ!」
「危ないって言ってるアルよ!」
「ま、またスケミンが役に立つかもしれないのだ! 活躍するところを見せたいのだ!」
「……わかったアル。アタシより前に出ちゃダメアルよ?」
「了解なのだー!」
大男を追って電車を降りると、そこは阿鼻叫喚の地獄へと変わっていた。
「きゃあああ、裸の男が走ってる!?」
「へ、変態だ、だれか駅員を呼んでくれー!」
「あーしは変態じゃないわよお!」
悲鳴のする方向で大男がどこへ逃げたのかわかるのは助かるアル。
「見つけたネ!」
バス停の前で立ち止まっていた大男を見つけ、そのまま飛び蹴りを喰らわそうとするが――
「蹴るのはやめたほうがいいんじゃない?」
振り返った大男の手には、一人の女の子が捕らえられていた。
大男を追ってバス停へ来たアタシはパンツ一丁の変態オカマ大男とそのオカマ男の人質にされた、金髪のやたら露出が高い服を着た女の子と対面する。
「ちょっと動かないでよ。首へし折っちゃうわよ」
「な、なんや、こいつ! 変態変態変態変態、へんたーーーい!!」
後ろから女の子の首に腕を回していて、あのままあの大男が腕に力を入れれば、女の子は……
「人質を取るなんて卑怯アル。男だったら、正々堂々、戦ってみせるネ!」
「あーしは男じゃないの、オ・ト・メ!」
「どこからどう見ても男やんけ!」
金髪の女の子が暴れ始めるが、大男はその子の口をぐっと片方の手で抑える。
「あーしね、うるさいの大嫌いなの。静かにしないと、舌、引っこ抜いちゃうわよ♪」
金髪の女の子が全力でぶんぶんと頭を縦に振る。
「さてと、このままあーしを見逃してくれたら、この子はあとで解放してあげるわ。もしも、逃さないっていうのなら――」
「うぐぐ……!」
「や、やめるネ!」
軽く大男が腕に力を入れたのだろう、女の子が苦しそうにもがいた。
この子を護るためには、見逃すしかないアル。
「あばば、ど、どうするのだ!?」
「……わかったネ。もう追わないし、手は出さないからその子はちゃんと解放してほしいアル」
「ええ、あーしたちの讃えし神に誓ってあげるわ。それじゃあね、お嬢ちゃん♪」
――本当にこのまま行かせていいアルか?
そこにいるのは絶対に許しちゃいけない悪党。
女の子だって、本当に解放するかわからないヨ。
……映画の主人公たちならこんなとき、どうするネ。
そんなの決まってるアル。
「お前、神がどうとか言ってたネ……」
「ええ、あーしの国の讃えし神よ。アンタは神を信じてる?」
「……言ったはずアルよ? アタシは神童と呼ばれた女だって」
体内の気を全身に行き渡るように、長く、大きく、深呼吸で更に気を高めていく。
――次の瞬間。
大地をズシンと強く踏み込み、何もない空間に向かって拳を突き出した。
アタシと大男の間を、穏やかな風が流れていく。
「は? いったいなにを――ぶふあああ!?」
「神はアタシの中に宿ってるアル」
大男は呻き声と共に地に倒れる。
その腹には、拳の形がくっきりと残っていた。
「い、今のはいったい、なんなのだ?」
「“遠当て”ネ。高めた気を相手にぶつける技ヨ。内臓とかボロボロになって相手を殺しかねない技ネ」
「じゃ、じゃあ、あの人死んじゃったのだ!?」
「アイツは頑丈だから無問題ネ」
「うぐ、ぐぐ……」
思ったとおり、身体は頑丈そうだから、ちゃんと治療を受ければ大丈夫そうアル。
しばらくは寝たきりになると思うけどネ。
「……老師、ごめんなさいアル」
本当は使うなって言われてた技だけど、今回だけは見逃してほしいネ。
映画の主人公なら、絶対に人質は助けるし、悪党だって見逃したりしないヨ。
なにより、アタシがそうしたくなかったネ。
「おい、あそこか!」
「お前たちそこを動くな!」
そう叫びながらこちらに走って近づいてきているのは――警察アル!?
「やばい、こんなところで捕まったら出遅れるネ! 電車で逃げるアルよ!」
「は、はいなのだ!」
事情を話してる間に、他の組織に出し抜かれるかもしれないアル。
アタシはメガネの少女と二人で駅に向かって走り出したネ。
静まり返った電車の中。
あれだけの騒ぎがあったせいか、乗り込んだ車両にはアタシたち三人しかいなかったアル。
ん――三人?
「……あれ? なんか増えてるアル」
「酷いやないか、あんなところにか弱い女の子を置いてくやなんて!」
気づくと隣にはさっき人質になっていたはずの金髪の女の子が隣に座り込んでいた。
「どうして、警察にいかなかったのだ?」
「なんて説明すればええんよ。半裸のオカマに捕まった思うたら、急に苦しんで倒れた、なんて誰が信じるん!」
「アイヤー、確かにそのとおりネ」
「それに、まだお礼言うとらんし……」
そう言いながら女の子がアタシの袖を握る。
「助けてくれて……ありがとう……めっちゃ、めっちゃ怖かったあああ!!!」
女の子がわんわんと泣き始めてしまう。
あんな見た目とは言え、殺されかけた上に人質にされてたんだから無理もないネ。
「もう泣かなくても大丈夫アルよ。アイツはアタシがやっつけてやったアル」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている女の子の顔をハンカチで拭いてあげたネ。
「う、ウチ、ただ琵琶湖に、アキハバラに行こうと思うてただけやのに……」
「あばばば!? 同じなのだ。わたしもアキハバラに行く途中だったのだ!」
「それは奇遇アル!アタシの目的地もそこネ! ちょうどいいからみんなで目指すアル。メイメイは強いヨ、旅のお供に最適ネ!」
「じゃあ、お願いするのだ。わたしの名前は高須らいむなのだ!」
「ウチも一緒でええの?」
「もちろんアル!」
「あ、ありがとうな! ええっと、ウチは淀川さねる、よろしく!」
「アタシの名前はリー・メイメイ!」
アタシたちが向かう先、アキハバラにはいったいなにがあるのか。
不安はない、胸の中にあるのはまだ見ぬものへと向かう好奇心と探究心。
新しい旅仲間も二人増えた。
胸の高鳴りがドンドン大きくなっていく。
電車の窓から外を見る。
アタシたちの旅路を祝福するように、白い鳩が空を飛んで行くのだった。