姫月 るーな(STORY続き)
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「姫月 るーな」のSTORY全文が長文になるため、容量の都合で分離したページです。
STORY(EPISODE8以降)
「う、うぅ……かっこよすぎかよぉぉぉ~~~~~」
「待たせたね、るーな。泣くのはあとにして、まずはここから脱出しよう」
ヴィンデットに手を引かれ、るーなが壁に開いた穴から外へと出ると、そこは今まで自分がいたコンクリート造りの部屋があったとは思えないほど、高級感あるオフィスビルのようなフロアだった。
「ねえ、ここは一体……」
「くそっ、来たか……!」
るーなの言葉は言い終わる前にかき消される。
長い長い廊下の向こう、黒服の集団がこちらへ向かって走ってくるのが見える。
「こっちだ!」
再び手を引かれたるーなは、ヴィンデットと共にあてもなくビルの中を逃げる。
だが、エレベーターや非常階段、脱出口として考えうる場所からは続々と黒服が現れ、いつしか2人は追い込まれるようにとある部屋へと飛び込んだ。
そこは、がらんどうの広い部屋。
全面ガラス張りになった壁からは、月夜の空が広がっている。
久々に見る外の景色に一縷の希望を賭け、るーなは慌てて窓へと駆け寄るも、そこにあったのは遥か遠くに地上を望む『高層ビルが足元に連なっている』景色だった。
つまり今自分はとびきり高い場所にいるのだと、るーなは理解する。
同時に、ヴィンデットは窓に拳を打ち付けて悔しそうに声を漏らす。
「くっ……まずいな……」
「えっ? 実は秘策があるとか、そういうパターンじゃないの!?」
「すまない……るーな……」
「あっ、ううん! ヴィンデットを責めてるわけじゃないの! なんか王子様的なサプライズがあるのかと勝手に思って! 悪いのはるーな! バカ! アホ!! えへへ……」
ヴィンデットを落ち込ませたと思い、自分の頭をポカポカと叩きながらるーなが小芝居をしていると、部屋の中に銃声が響き渡った。
途端に身を丸くするるーなの耳に、さらに銃声が1発、2発と続く。
着弾した窓の強化ガラスは何発か耐え続けていたが、やがて窓の一辺が砕け散ると、部屋の中に強風が吹き込んでくる。
部屋の入り口には大量の黒服達。
それぞれが手に銃を構え、るーな達をじっと見据えていた。
(あ~あ……これはもう……『普通に』逃げるのは無理だね……)
そう考えながら、るーなはそっと割れた窓の外へと視線をやる。
羽根を使った飛行能力を持つ吸血鬼の姿に戻れば、窓から飛び出して脱出する事ができる。
だがそれは、るーなにだけ許された手段だ。
ヴィンデットを置いて1人で逃げるなど、るーなにはできない。
「るーな……」
ふいにヴィンデットが、少しでもるーなの身を守ろうと黒服達を背にするようにるーなを抱きしめる。
これだけの人数からの銃弾を浴びるとなれば、それは無意味な抵抗だったが、その行為はどんな弾丸よりもるーなの心を撃ち抜いていた。
抱きしめられたるーなの口元には、ヴィンデットの白い首元が見える。
るーなに残された選択肢は2つ。
このまま共に蜂の巣になり、僅かに残った吸血鬼としての生命が尽きるのを待つか。
それとも――
「ヴィンデット……ごめんね……」
もう一つの選択肢。ヴィンデットを吸血鬼にする。
後者を選んだるーなは、吸血とは逆に自らの血を流し込むため、白い首筋へ牙を立てようと大きく口を開けた。
その時だった。
「やめておけ」
黒服の集団の方から、やけに落ち着いた声がした。
動きを止めたるーなに、声の主であるヴィンデットと似た背格好をした男が続ける。
「私は、そこにいるヴィンデットという男の兄だ。愚かな弟を連れ帰りに来た」
「え……兄って……? 確かお兄さんは死んだって……」
慌てるるーなをよそに、ヴィンデットの瞳は暗く、深く、濁ったまま。
ただ窓の外を見つめ続けていた。
「ほう……私は死んだという事になっているのか。確かに、お前に殺されそうになった事はあったがな」
ヴィンデットの兄を名乗る男が、呆れたように肩をすくめて言う。
現状を理解できないるーなは、不安そうに男とヴィンデットを交互に見やるが、ヴィンデットは何も言わず黙り続けている。
「しばらく大人しくしているようなので泳がせておいたが……やはり悪い癖が出たな。ヴィンデット」
「あ、あのぉ~……説明とか、してもらえたりする感じですかぁ……?」
「君は……確かるーなと言ったか。哀れな吸血鬼の娘……」
「やっぱり……あの監禁方法……そんな気がしてた」
「少しは頭が回るのかな? でなければ余程豪胆な精神の持ち主か、それとも……救いようのない間抜けか」
「ヤバ……ここまでストレートにディスられると、何も言えねえ……」
ヴィンデットの面影が見えるこれまたイケメンに思い切り馬鹿にされ、多少Mっ気のあるるーなは、なんだか怒るに怒れない。
であるからこそ同時に、ヴィンデットの兄であるというこの男の言葉が真実なのではと思うようになっていた。
そんな心中を知る由もなく、男はヴィンデットへと向き直ると、るーなにとって信じがたい言葉を吐いた。
「お前の言う生い立ちも、くだらん恋人ごっこも、全て嘘。お前の目的はこの娘の吸血鬼としての力。そのために彼女へ近づいた。そうだろう? ヴィンデット」
言われてもなお、ヴィンデットは黙ったまま。
蔑むような目を男へと向け続けている。
(は? 嘘って……なにそれ? ヴィンデットが……そんな事するわけないじゃん……)
ヴィンデットを疑うつもりはない。だが、男は自分が吸血鬼だという事を知っている。
そしてその話を聞いて、ヴィンデットが動揺する素振りもない。
何かが矛盾している事に、るーなも薄々感じ始めていた。
「嘘だなんて……嘘だよね? あ、違う。この嘘っていうのは嘘ついてたのが嘘っていう意味で……」
「当たり前だろう、るーな! 君は私に寄り添ってくれた初めての人! そんな君に嘘など吐くはずがないじゃないか! こんな得体の知れない男の言う事など……聞いてはいけない!」
両手を目一杯広げて、まるで何かの舞台役者のように仰々しく言い放つヴィンデット。
「そうだよね」と信じ安堵するるーなをよそに、男は耐えきれず吹き出し、ダメ押しとばかりに畳み掛ける。
「ヴィンデット。お前が吸血鬼に目をつけたのは彼女と出会ってからではない。去年、岐阜の山にある吸血鬼の村で、私の部隊がお前の姿を確認している」
(それって……るーなの田舎の事……?)
「何らかの手段で、東京にいる彼女の存在を知ったのだろう。そして彼女に近づいた。それもそうだ。いくらお前とはいえ、村中の吸血鬼を相手にするのはリスクが高いよなぁ。馬鹿な女をたらし込んで、適当なところで捨てる。お前が最も得意とするやり方だ」
「……一体何を言っているのか分からないな」
「忘れてしまったとでも言うのか? 毎度尻拭いをしてきた私の苦労も知らずに。ほら、これを見れば思い出すだろう?」
男は言いながら、ファイルのような物をるーなとヴィンデットの元へと投げた。
床を滑るソレから、数枚の写真がこぼれる。
写っているのは、およそ自然死とは思えない凄惨な女性の遺体の姿だった。
「異能者、超能力者、そして妖と呼ばれる者まで。力を手に入れるためならなんでもしてきた男だ。そうだろう? ヴィンデット」
勝ち誇ったように笑う男に向かって、るーなは珍しく明確に敵意を持って睨みつける。
るーなの愛は深く、重い。
常人では押しつぶされてしまうほどの、重すぎる愛。
これしきの事では、まだ揺らがない。
「そ、そんなの証拠にならない! きっとあれだよ! CGかなんかで……ちゃちゃーって作ったやつだよ!」
「……おい。連れてこい」
るーなの言葉には返事もせず、男は指を鳴らす。
すると黒服の1人が、同じように黒のスーツを着た男を連れてきた。
その男の顔に、るーなは覚えがあった。あの日、コンビニでるーなを襲撃した男だ。
ヴィンデットの兄を名乗る男は、その黒服の肩に手を置いて言う。
「この男は私の部下ではない。さあ、君。説明してくれたまえ」
「お、俺は……そこにいる、ヴィンデットとかいうやつに雇われただけなんだ」
驚き目を見開くるーな。
微動だにしないヴィンデット。
その様子を満足げに眺めると、兄を名乗る男は黒服に続きを促した。
「女を襲って監禁しろって命令だったんだ……吸血鬼としてどれほどの生命力があるのかテストするって……なあ、もういいだろう!? 俺の命は助けてくれるんだよな!?」
「……連れて行け」
「お、おい! 俺をどうするつもりだ!? や、やめろ!! 約束が違う……!!」
連行されていく黒服には目もくれず、兄を名乗る男が今度はるーなに向かって語りかける。
「馬鹿な君でも、これでやっと理解できたかな? 吸血鬼の小娘よ。ヴィンデットはお前に対する愛など持っていない。君が自分の意思で眷属にすれば、あいつのシナリオ通り。そうでなければ君を殺して生き血でもすすっていただろう。あいつはそういう男だ。道化を演じられているとも知らず踊り続けてたのは……お前だけ」
真実を裏付けるような数々の証拠を突きつけられた。
だが、どんな証拠を見せられようが、るーなはそれを信じない。
るーなの頭の中は、短いながらもヴィンデットとの日々が繰り返し流れ続けている。
頭を撫で、撫でられて、折れかけた枝同士が寄り添うように過ごした毎日。
何を言われても、あの光景だけがるーなの中の真実だった。
「あんたに……あんたにヴィンデットの……何が分かるっていうのよぉぉぉ!!!」
もう何も考えない。考えても意味がない。
思考を放棄したるーなはまっすぐに駆け出し、うすら笑う男へと襲い掛かった。
るーなが駆け出すのと同時に、黒服の部隊は銃を向ける。
その引き金が引かれる直前、るーなは人間の擬態を解くと吸血鬼本来の姿を解放した。
今のるーなには些細な動きさえ感じ取れる。
銃弾が発射された事を感知すると、るーなの身体は無数の小さな蝙蝠へと変化し分散。
無数の蝙蝠は弾と弾の隙間を縫うようにして、弾丸の雨を全てかわしていた。
(吸血鬼は……こんな事もできるんだよっ……!)
一度散った蝙蝠達が再び集結すると、今度はオオカミの姿へと一瞬で変容した。
唸り声をあげる肉食動物の巨体を前にし、黒服達は恐怖にたじろぐが、るーなは視線もくれない。
その目は真っ直ぐ、兄を名乗る男へ向いていた。
そして、何度か前足を掻くようにしてタイミングを図ると、唸りを上げて猛スピードで走り出す。
監禁生活で血が不足しているるーなは、飢餓状態から吸血鬼としての凶暴性が増している。
骨と皮になるまで血を吸い尽くしてやろうか。
それとも、バラバラの肉片になるまで切り裂いてやろうか。
どちらでもいい、とにかく自分とヴィンデットの邪魔をする者は殺す。
そう思いながら、男に飛びかかる。
その時だった。
バタリと、何かが倒れる音がるーなの背後から聞こえた。
その方向にいる人物は1人しかいない。
「ヴィンデット!?」
慌てて振り返り、床に突っ伏しているヴィンデットの姿を見たるーなは、踵を返して今度はヴィンデットの元へと駆け寄ると、彼の身体を抱き起こす。
ヴィンデットの真っ白なスーツ。その腹部には血が滲んでいた。
出血量を確認するまでもない。吸血鬼の鼻が、彼の血の匂いをありありと感じ取っていた。
「はは……なんて間抜けなんだ……流れ弾に当たるとは……」
「違うよ! るーながカッとなって突っ走ったから……」
致命傷を受け、絞り出すようにあげる細い声を必死で聞こうと、るーなはさらに顔を近づけた。
ヴィンデットの顔には、るーなの涙がいくつもこぼれ落ちている。
「君といた時間は……楽し……かった……」
「やだやだやだ!! 言わないで!! それ言うと死んじゃうやつだから!!」
2人を囲むように、黒服の部隊が銃を構えながらじわりじわりと近づいてくる。
るーな達に残された時間は、少ない。
「るーなが絶対に助けるから! 何がなんでも助けるから!!」
るーなは、これまでの人生で一番と呼べるほど脳を働かせ、この事態をいかに脱出するか考えていた。
『ヴィンデットを抱えてビルから飛び降りる』――腕力は人並みである吸血鬼には難しい。
『黒服の部隊を一掃する』――いくらなんでも数が多く、ヴィンデットを守りきれない。
最後の手段、『ヴィンデットを眷属にする』――吸血鬼に変容する際、肉体には大きな負荷が掛かる。衰弱しているヴィンデットが、吸血鬼になる前に死んでしまっては意味がない。
最良の手段を導き出せず、悩み続けるるーな。
そうこうしている間にも、黒服の舞台はもう目前へと迫っている。
万事休す。
打つ手もなく、るーなはヴィンデットを力一杯抱きしめた。
すると、ヴィンデットが小さな声でるーなへと囁く。
「君だけでも……幸せになっ――」
最後まで聞き取る前に、ヴィンデットはるーなを突き飛ばした。
その先――割れた窓の外へと押されたるーなは、重力の思うままに超高層ビルから落下していく。
慌てて羽根を広げ、ヴィンデットの元へ戻ろうとするも、監禁生活と先ほどの立ち回りで生命力が尽きかけているるーなに、そこまでの力は残されていなかった。
できるのは、羽ばたく事でかろうじて落下速度を軽減する程度。
「やだ……やだぁぁぁぁ!! ヴィンデットぉぉぉぉ!!!!」
絵本の世界では、お姫様は王子様と出会ってハッピーエンドを迎える。
しかし現実には、ハッピーエンド以外の結末もあるのだと。
この時るーなは、初めて理解した。
『15番線に列車が参ります。黄色い線の内側に下がってお待ちください』
アナウンス放送を聞いたるーなはベンチから立ち上がると、キャリーケースをゴロゴロと転がしながら目的のホームへと歩き出す。
るーなは、生まれ育った村へ帰ろうとしていた。
あの日、失意のまま帰路についたるーなを待っていたのは、全壊したアパートの姿。
表向きはガス爆発が原因という事になっていたが、大方ヴィンデットを狙う組織によるものだとは予想できた。
るーなの不幸はまだ続く。
営業中に行方をくらまし、1ヶ月も連絡がつかなかった事で当然バイトはクビになり、『アニ活』をしようにも悪評判が広がったるーなを選んでくれる『お兄さん』は1人もいなかった。
八方塞がりになったるーなにはもう、実家に帰るしか道は残されていなかったのだ。
新幹線から鈍行へ乗り継ぎ、さらにバスに揺られて3時間。そこからさらに山を登った先に、るーなの育った村はあった。
広大な田畑が広がる日本らしい田園風景に、まったく釣り合わない洋館がいくつか並んでいるのが見える。
懐かしいその光景を前に、るーなはため息をつく。
「帰って……来ちゃったな……」
もう帰らないと啖呵を切り、家出同然で飛び出した故郷。
あれから決して短くはない年月が経った。
友達もいない、恋人もできない。かといって本人がそれに満足しているわけでもない。
はたから見て、寂しいか寂しくないかでいえばかなり寂しい分類に入る生活を送ってきた。
そんな日々の果てにやっと見つけた王子様。
その王子様も、もういない。
故郷の風景を目の前にした事で、本当に全てを失ってしまったのだと、今さらるーなの中に実感が湧いてしまう。
「夢オチなんかない。これが現実ってヤツ。あ~あ……ほんっと病む……や、む……や……病まない!! るーなはもう病まないから!!」
無駄だったものは多い。
それでもるーなは、クソザコメンタルだった以前とは比べ物にならないほどの『強さ』を手に入れていたのだ。
「るーなはこれから、一生ひとりで生きていくんだ! 大体さぁ、ヴィンデットだってよく考えたらやっぱ怪しいと思ったもん。本当にるーなを騙してたのかもだしぃ……そう、きっとそうだよ! 早めに正体分かってよかった! はい、るーなちゃんの勝ち~! るーなちゃんしか勝たん~! 決めた。もう病まない、恋もしない! だって、王子様なんかいないから!」
自分を鼓舞するように声をあげると、るーなは再びキャリーケースをゴロゴロ鳴らしながら歩きだした。
るーなの家族が住む屋敷までは、まだ少し距離がある。
「会ったらめっちゃ怒られるかな……」などと、子供のような事を考えつつ歩を進めると、道の先に誰かが立っている事に気がついた。
ひょろりと細長いが、しなやかで強い体幹を思わせる立ち振る舞い。
風に揺れる銀髪。透き通るような肌。そして、白いスーツ。
それは、死んだはずの男の姿。
現実的に、そして精神的にも、るーなが決別したはずの男の姿だった。
瞬間、るーなはキャリケースを投げ出して、男の元へと駆け出していく。
「ヴィンデットぉ~~~!! 絶対迎えに来てくれるって、ずっとずっと信じてたぁぁぁ!!! るーなの王子様ぁぁぁ~~~!!」
舌の根も乾かぬうちに勝手な事を叫ぶるーなを、男は抱きしめる。
獣のような声をあげながら号泣する彼女の頭を撫でつつ、彼は静かに呟いた。
「るーな、2人で幸せになろう…………今度こそ」