オネスト・クンツァイト
Illustrator:風李たゆ
名前 | オネスト・クンツァイト |
---|---|
年齢 | 18歳 |
職業 | 神官 |
- 2021年11月4日追加
- NEW ep.I - Side.Bマップ4(進行度1/NEW時点95マス/累計150マス*1)で課題曲「DDDD」クリアで入手。
世界の果てにある村で神官として暮らす双子の兄。
原因不明の病を患った双子の妹や村人達の為に、何者かの信託を頼りに祠の封印を解く旅に出る。
スキル
RANK | 獲得スキルシード | 個数 |
---|---|---|
1 | ジャッジメント | ×5 |
5 | ×1 | |
10 | ×5 | |
15 | ×1 |
include:共通スキル(NEW)
- ジャッジメント【NEW】 [JUDGE]
- 高い上昇率の代わりに、強制終了のリスクを負うスキル。オーバージャッジ【NEW】と比べて、上昇率-20%の代わりにMISS許容+10回となっている。
- PARADISE LOSTまでのジャッジメントと同じ。
- 初期値からゲージ7本が可能。
- NEWで追加されるトラックスキップ機能や判定タイミング音機能で他のスキルと似たような条件にすることが可能。これらを組み合わせることでPARADISE LOSTまでのスキルと似たようなゲージ上昇率、判定タイミング音、中断(強制終了)にすることができる。
- 判定タイミング音をATTACK以下に設定:パニッシュメント
- 判定タイミング音をJUSTICE以下に設定:ヴァーテックス・レイ
- トラックスキップをSSに設定:ボーダージャッジ・SS(達成不能で楽曲が中断されるため注意)
- NEW初回プレイ時に入手できるスキルシードは、PARADISE LOSTまでに入手したDANGER系スキルの合計所持数と合計GRADEに応じて変化する(推定最大49個(GRADE50))。
- GRADE100を超えると、上昇率増加が鈍化(+0.3%→+0.2%)する。
- スキルシードは200個以上入手できるが、GRADE200で上昇率増加が打ち止めとなる。
- CHUNITHM SUNにて、スキル名称が「ジャッジメント」から変更された。
効果 | |||
---|---|---|---|
ゲージ上昇UP (???.??%) MISS判定20回で強制終了 | |||
GRADE | 上昇率 | ||
▼ゲージ7本可能(190%) | |||
1 | 200.00% | ||
2 | 200.30% | ||
35 | 210.20% | ||
50 | 214.70% | ||
▲PARADISE LOST引継ぎ上限 | |||
▼ゲージ8本可能(220%) | |||
68 | 220.10% | ||
102 | 230.10% | ||
152 | 240.10% | ||
200~ | 249.70% | ||
推測データ | |||
n (1~100) | 199.70% +(n x 0.30%) | ||
シード+1 | 0.30% | ||
シード+5 | 1.50% | ||
n (101~200) | 209.70% +(n x 0.20%) | ||
シード+1 | +0.20% | ||
シード+5 | +1.00% |
開始時期 | 最大GRADE | 上昇率 | |
---|---|---|---|
NEW+ | 145 | 238.70% (8本) | |
NEW | 253 | 249.70% (8本) | |
~PARADISE× | 302 | ||
2022/9/29時点 |
- 登場時に入手期間が指定されていないマップで入手できるキャラ。
バージョン | マップ | エリア (マス数) | 累計*2 (短縮) | キャラクター |
---|---|---|---|---|
NEW | ep.Ⅰ sideB | 4 (95マス) | 190マス (-40マス) | オネスト ・クンツァイト |
NEW+ | ep.Ⅴ | 1 (205マス) | 205マス (-) | モーガン ・フェール |
2 (295マス) | 480マス (-20マス) | EMANON |
バージョン | マップ | キャラクター |
---|---|---|
NEW+ | maimaiでらっくす | らん |
- カードメイカーやEVENTマップといった登場時に期間終了日が告知されているキャラ。また、過去に筐体で入手できたが現在は筐体で入手ができなくなったキャラを含む。
※1:同イベント進行度1全エリアのクリアをする必要がある。
※2:同イベント進行度1全エリアのクリアかつ進行度2の他エリアのクリアをする必要がある。
ランクテーブル
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
スキル | スキル | ||||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | |
スキル | |||||
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | |
スキル | |||||
16 | 17 | 18 | 19 | 20 | |
21 | 22 | 23 | 24 | 25 | |
スキル | |||||
~50 | |||||
スキル | |||||
~100 | |||||
スキル |
STORY
――長いこと、夢を見ていました。
私の大切な人の夢。
何度も傷つき、倒れても、立ち上がり戦い続ける。
やめて、という私の叫びは届きません。
あの人は、大切なもののために戦っていた。
涙が止まらないくらい悲しい姿だから、私は心の底からこう願うのです。
――私も貴方と共にありたい、と。
――――
――――――
――――――――
「オネスト兄さん、今日は診察の依頼でしたよね。そろそろ時間だけど準備はできてますか?」
「もう済ませてある」
世界の最果てにある名前すら忘れ去られた村。
この村で俺は双子の妹、シンシアと暮らしている。
神官だった両親は村の人達から信頼されていた。
両親が亡くなったあとも苦労するだろうと、村の人達は俺達の生活を支えてくれている。
だからこそ、俺にできるのは神官として少しでも村の人達の役に立つことだった。
「さすが兄さんですね。私が見てなくても、ほとんど一人でやってしまうんですから」
「そんなことはない。俺にできないことをシンシアはできるじゃないか」
「そうですか?」
「俺はお前のように美味い料理は作れない」
俺とシンシアの神官としての力は同等なのだが、妹はどうも資質の問題で覚えが悪い。
たまに神官の仕事を手伝ってもらうこともあるが、今は家事を担当してもらっている。
似ているところといえば、顔くらいだな。
「ふふ、兄さんは料理が下手ですからね。あんなまずい料理、私以外食べてくれませんよ」
「俺は作れなくていい。その代わり、お前が作ってくれるだろ」
「もう、しょうがないですね。でしたら、今日も作って待ってますから、無事に戻ってきてくださいね」
「ああ、楽しみにしてるよ」
いつもと変わらず他愛もない会話をして、シンシアは笑顔で送り出してくれる。
贅沢ができるような生活ではなかったが、俺にとってこの日常がなによりも大切なものだった。
「――眠ったまま起きない、ですか?」
病に倒れた者の治療も神官の仕事の一つで、この日も俺は身体の異常を訴える人の家を訪れていた。
そこで聞かされたのは、突然眠ったままなにをしても起きなくなるという話だ。
「ああ、この家だけではない。他の者達も皆、同じように起きなくなってしまったらしい」
「診てみましょう」
俺は眠っている患者に手をかざして診察する。
神官としての力を行使すれば、相手の状態の確認や簡単な病なら治療が可能だ。
しかし、今回は少し状況が違うようだった。
「これは、呪いか……?」
「なんだって!? 病じゃないのか!」
「正確には呪いから発現した病の類でしょう。ですから、病と言っても差し支えはないはず」
「それで、治せるのか?」
「……いえ、今の俺では無理です。呪いと病の二つを取り除く必要がありますから」
「そうか……」
「両親ほどの力があれば可能だったかもしれません。すみません、お力になれず……」
「……大丈夫だ、君が気にすることはないよ」
「いえ、治療法は俺が見つけます」
「わかった、頼むよ。このまま寝たきりが続けば食事もままならない。いずれは衰弱して……」
「必ず、見つけてみせます」
俺は両親から残された書物を読みふけり、この病を治す手段を探し続けた。
……だが、数日掛けてもなお手がかりすら見つからない。
俺にできることは衰弱死しないよう、力を使い延命することだけ。
このままではいけないということはわかるのだが、その打開策が未だ見つからない。
俺はなにもできない自分への苛立ちと力のなさに悔やみながら、帰路につく。
「ただいま」
治療を終えて帰宅した俺はふとなにかが違う、そんな違和感に襲われる。
「匂いがしない……?」
俺が帰るとシンシアが作ってくれた料理の匂いが出迎えてくれていた。
だが、この日は匂いどころかシンシアの「おかえりなさい」もない。
「まさか!?」
俺がシンシアの部屋に飛び込むと、そこには倒れたシンシアの姿があった。
慌てて駆け寄り、身体を揺する。
「シンシア! どうしたんだ、起きてくれ!」
何度も声をかけるがシンシアは反応せず、死んでいるかのように眠っている。
シンシアの様態を確認すると、例の病と同じ反応がした。
「そんな……」
――この日を境に、平穏な日々は崩壊していく。
シンシアが倒れ、数日が経った。
治療法を見つけようとする俺の行為をあざ笑うように原因不明の病は村中に蔓延し始める。
そして、ついにこの日、死者が出てしまった。
「とうとう死者が出てしまったか……」
「このままでは村が病で全滅してしまうぞ」
村人達が話しているところを通りがかると、俺に気づいた彼らが走り寄ってくる。
「オネスト、病を治す方法は見つかったか!?」
「いえ、それがまだ……」
「そうか……やはり、難しい病なのか……」
「このままでは、いずれ村は……」
「シンシアも病に倒れたのだろう? なにか困ることがあれば、わしらに言ってくれ」
「ありがとうございます……」
喜ぶべき村の人達の気遣いも、今の俺にとっては重荷でしかなかった。
この病を治療できるのは神官の俺しかいない。
そう思っているのだろう。
だが、俺には父や母のような力は無い。
俺には誰も救えないのか。
治療を終えて、家に帰ってきた俺はシンシアが眠る部屋に向かう。
「シンシア……」
眠っているシンシアにそっと治療を施す。
今の俺にできることはこれくらいしかなかった。
「もしも、妹を、村の皆を救うことができるのなら、例え相手が――」
その最中にお腹が鳴ってしまう。
一日中、村を回って治療していたのだから、腹が減っても仕方がない。
「食事にするか……」
たった一人の食事。
いつもなら二人分の食事と、向かいにシンシアが座っているが、そこには誰もいない。
俺は自分で作った料理を口に運ぶ。
「こんな不味い料理を作っていたら、またシンシアに笑われるな」
どれだけ不味くても食べなければ体力が持たない。
たった一人の味気ない食事を終え、俺は明日のために眠りについた。
できれば、これが悪夢であってほしいと願いながら。
「……きなさ……」
「ん……、誰だ……?」
眠っている俺の耳に男性とも女性とも取れる中性的な声が響いてくる。
この家には俺と眠っているシンシアしかいないはず。
なのに、どうして声が聞こえるんだ。
「病に苦しむ神の使徒よ、我が声を導きとせよ」
「貴方は、誰だ?」
「森の最奥にある四つの祠、その封印を解くのだ。さすれば、お主の願いは果たされるであろう」
「祠……」
祠の話は両親からよく聞かされていた。
神官の勤めは村の人達のために尽力することと、その祠を守護することだと。
だが、祠のことは代々、神官にのみ伝えられることで村の人は誰も知らないはず。
俺も一度、子供の頃に連れて行ってもらっただけでそれ以降は近づくことすら許されなかった。
「なぜ、貴方が祠のことを知っている」
「お主の願いはなんだ?」
「答えろ! 貴方はいったい――」
「願いを持たぬのなら、再び眠りにつくがいい。誰も救えぬ現実から目を逸らして」
「ま、待て! お、俺は……俺は……」
「求めろ、お主が求める願いを果たすために。救いの手はそこにある」
誰とも知らぬ相手が手を伸ばしてくる。
俺はその手を取ろうと――
「はっ!? い、今のは……」
気がつくと俺は自分の部屋で眠っていた。
さっきまでのは夢だったのか、そう思おうとしたが、手にふと違和感を覚える。
「これは、杖か?」
手にしてしていたのは見たことがない杖。
先端は三日月型をして、その中には石が嵌っている。
その石は何かを失ってしまったかのように力なく、くすんでいた。
「祠でこれを使えということか……?」
俺は誰に問いかけるでもなく言葉を口にする。
あの夢に出てきたのが何者かはわからない。
それでも祠を解放することで、シンシアや村の人を救うことができる。
――だが、それは同時に父や母達が大切に護ってきたものを俺が破るということだ。
俺は自分の部屋を出て、シンシアの部屋へ向かう。
そこには未だに目覚めることのない、眠りに蝕まれているシンシアの姿がある。
「……俺は何を今更迷っていたんだ」
今を生きるものを救うためなら、俺がどんな咎を背負おうとも構わないじゃないか。
たとえ、父や母、代々続いてきた教えを破ることになるとしても。
俺は杖を握りしめ立ち上がる。
大切なものを失わないために。
村の人達が寝静まった夜。
俺は誰も立ち入ることのない暗い森へと入った。
そこで異様な空気を感じ取る。
「なんだ? いつもの森と空気が違う。それにこの感じは……」
この森には薬草などを取るために入ることはある。
だが、今日はどこか張り詰めたような空気が漂い、肌がヒリヒリする感覚がした。
いつも以上に注意する必要があるようだ。
その奥には忘れ去られたかのように蔦や草で覆われた祠がある。
父はここを『バフの祠』と呼んでいた。
「この先か……」
俺は祠の扉に手をかけ、力を込めた。
長い年月、永遠と閉ざされていた扉は大きな軋む音を立てながら開く。
暗闇に包まれた地下へと続く階段。
俺は松明を手にその階段をゆっくりと下っていく。
この先は父や母も入ったことがない禁域。
いつの間にか強く握りしめていた拳に汗を掻く。
禁忌を破ることへの躊躇いは拭い去ったはずだが、まだ無意識に罪悪感を覚えているのだろうか。
「こんなところで止まってはいられない」
自分に言い聞かせるように口に出して、俺は祠の中へ進んでいく。
祠は大きくはなく、すぐに開けた場所へと着いた。
その中央には光り輝く大きな水晶が鎮座している。
「これが祠に封印されていたものなのか」
俺はそっと水晶に触れると、それがとてつもなく大きな力が込められていることを知る。
これはいったい、何を封じているのか。
触れただけではわからなかった。
「砕け……」
「誰だ!?」
どこからともなく聞こえてきた声に驚き振り返るが、そこには誰もいない。
ここにいるのは俺だけだった。
「今の声、夢の中の……」
あの時の声がなぜ、今また聞こえてきたのかわからない。
だが、今は皆を救うために目の前にある水晶を砕かなければならないと、そう思った。
俺は杖を大きく振りかぶり、水晶へと打ち付ける。
すると水晶は俺の予想に反し、まるで硝子細工のように砕け散った。
「む……これは……? いや、それよりもこれで封印は解け――」
砕けた水晶の欠片に触れようとした瞬間、その欠片が宙を舞い、次々と右腕に突き刺さっていく。
「が―――!?」
焼け付くような痛みが右腕を襲い、それと同時に自分の中に何かが流れ込んできた。
目の前が明滅し、吐き気が込み上げてくるが、俺は意識が飛ばないように歯を食いしばる。
永遠に続くかと思われた痛みにもがき耐えていると、痛みがゆっくりと引いていく。
「今のが封印を解いた代償なのか。……そうか、そういうことなんだな」
水晶が刺さった右腕を見てみると、そこに水晶の代わりに龍が這ったような入れ墨が残されていた。
この模様が何を意味するのかわからないが、まず一つ目の封印は解けたようだ。
だが、問題はここからだった。
声の主は四つの祠の封印と言っていたが、俺はこの祠しか知らない。
ここになにか手がかりがあればと思ったが、壁に描かれた絵も削れてしまい読み取ることができない。
「唯一、手掛かりがあるとすれば母さん達の遺品だろうか……長旅になるかもしれない、一度村に戻って支度を……」
俺は転がった杖を手に立ち上がろうとする。
その瞬間、杖の石が入れ墨と呼応するように輝き出した。
「この光は!?」
石から溢れ出た光は少しずつ纏まっていき、一筋の光となる。
杖を振ったりして動かしてみるが、その光は変わらずある一方向へと伸びていた。
まるでその方角に何かがあるかのように。
「……光の指す方向に次の祠があるんだな」
封印を解くための道標は手に入れた。
俺は刻まれた龍の入れ墨を見て、もう引き返すことはできないのだと実感した。
日が昇り始めた頃、村に戻った俺は旅の支度を終えシンシアの部屋に来た。
村の人達には治療法を探すため旅に出ることを話し、妹の世話をしてほしいと頼んでおいた。
「あとはこの術を……」
俺はシンシアに術を施し、そっと頭をなでる。
「……すまない」
これでもう心残りはない。
「さようなら、シンシア」
俺は杖が光指す方向へと歩みを進めている。
自分が知らない土地に足を踏み入れることへの恐怖や高揚はなかった。
あるのはただ、村の皆を救いたいという願いだけ。
しばらく進むと、視界の開けた場所に出る。
目の前に広がったのは大きな湖だった。
「祠はこの反対側か? この湖を泳いで渡るのは無理だな」
湖を沿って反対側へ行くとなれば時間がかかる。
できれば急ぎたいところだが、村で馬を借りてくるべきだったかもしれない。
そう思いながら湖の脇を通っていこうとするが、ふと杖が指す方角が変わっていることに気づく。
それは湖の中心を指しているようだった。
「湖の中に祠があるのか? だとすれば、祠にたどり着く方法を考えなければ」
潜ることができるか確かめるため、湖に手を入れると腕の入れ墨が急に疼き出す。
「うっ!? なんだ、この痛みは!」
変化は入れ墨だけではなく、杖に嵌められた石も激しい光を発する。
そのとき、湖の水面が激しく震え、段々と波は大きくなり、地面も立っているのがやっとなほど揺れ始めた。
「地震か? ……いや、湖から何か出てくる!」
湖から距離を取ると同時に、その中央から巨大な水の竜が姿を現した。
「な……竜だと!?」
竜の存在は伝記やお伽噺でしか聞いたことがない。
そんなものが実在していたことも驚きだが、なぜそんなものがこんな場所にいるのか。
水の竜は俺の数十倍ほどの大きさで、巨大な瞳で睨みつけてくる。
『罪人よ。何故、封印を解いた?』
「人の言葉を話せるのか!?」
『答えよ、禁忌を犯した罪人』
「確かに俺は禁忌を犯した。だがこれは大切な人達を救うために必要なことだ」
『愚かなものだ。悪神に唆され、己が罪すら自覚できずにいるとは』
「悪神、だと……?」
『その身なり、貴様は神官であろう。我らと同じく封印を守護する者が何故、封印を解くほどの愚行を犯した?』
「村が病によって苦しめられている。封印を解けば、その病を治療することができるはずだ」
『そのような些末な理由で封印を解いたとは。あまりにも愚かで返す言葉すら無い』
「ああ、愚かだと思う。しかし、俺にはこの方法しかないんだ」
『今すぐ去れ。たかが一つの封印を解いただけでは奴も動くことはできまい』
「待ってくれ、俺は――」
『去らぬのなら、貴様を葬る! 我がダダの祠には指一本触れさせはせん!』
「くっ――!?」
水の竜が咆哮を上げ、その巨体が大きく跳ね上がると湖の水が溢れ出た。
俺はその濁流に飲まれ、湖の中へと引きずり込まれてしまう。
『我が体内で朽ち果てよ』
水が流れる音が響く中でも、水の竜の声だけははっきりと聞こえた。
ここで終わるわけにはいかない。
無駄な足掻きとはわかっているが、俺はもがくように必死で手足を動かす。
「――――!?」
『ほう、この中を動けるか。やはり人ならざる力を得た貴様は、ここで葬らねばならんようだ』
水の竜が言う通り、この激流の中で泳げるとは思ってもみなかった。
俺は封印を解いたことで、何か力を手に入れていたようだ。
……だとしたら、ここで俺がなすべきことはもう決まっている。
――たとえ禁忌と言われようが、村を救うために、引き下がるわけにはいかないんだ!
水の竜を討ち、ここの封印を解く!
竜を討った話がお伽話にあるのなら、それをやってみせればいい。
竜といえど、不死ではないはずだ。
俺は術を発動させる。
これで多少は息継ぎをしなくても、水中の中で活動できるだろう。
『どれほどの力を得ようと人の身に変わりはない』
水の竜が体当たりを仕掛ける。俺は泳いで大きく回避した。
そのとき、視界の隅であの祠にあった水晶と同じものが水の竜の体表に見えた。
あれが水の竜に力を与えているのだとしたら、それを破壊さえすれば。
『どうした、そうやって避けているだけか?』
もう一度、狙う機会があるはずだ。
次で決めなければ俺の息はもう持たない。
再び水の竜がこちらに向かってくる。
まだだ、もっと近くに来い。そう、もっとだ!
今度はあえて当たる直前まで避けず、相手の体から離れないようにしなければならない。
巨体が迫る。
――今だ!
寸前で避け、巨体が掠めて傷みが走っても、目だけは決して相手から離さない。
水晶を視界に捉えた瞬間――
「すまない……」
大きく杖を振りかぶり、水晶に向けて振り下ろした。
『アアアアアアアア――!!!』
耳をつんざくような水の竜の絶叫が頭に響くと、竜は暴れるように空に飛び上がった。
水晶はまだ完全に砕けてはいない。
ここで杖を離すわけにはいかないと強く握りしめ、更に深く杖を突き刺す。
『ギアアアアアアア――!!!』
水の竜の二度目の絶叫が響き渡る中で、俺は確かに水晶が砕ける音を聞いた。
次の瞬間――水晶が突き刺さった時と同じ傷みが胸の中心を走る。
しかし、それはあの時とは違い、酷く冷たい氷で直接刺されているような感覚。
そして、空から湖へと落ちていく中、傷みと疲労で俺の意識は途絶えていった。
――意識が戻ると、俺は湖の淵にいる。
自分がどれだけ眠っていたのかわからないが、体の傷みは収まっていた。
「ッ……水の竜は!?」
倒したはずの水の竜の姿はなく、そこにあるのは何の変哲もないただの湖だった。
あの水の竜は消えてしまったのか。
それとも、水晶が自らを護るために作り出した水の彫像だったのか。
今はもう確かめる手段はない。
俺は目を閉じて水の竜の冥福を祈る。
長い時、この場所に縛られ封印を護り続けてきた守護者の使命は終わった。
勝手な考えではあるが、封印から解き放たれたことが幸福であってほしいと願う。
「次の場所へ向かわなければ……」
まだ朦朧としている意識をはっきりさせようと水で顔を洗う。
そのときにふと、自分の体の変化に気づく。
「入れ墨が、広がっている?」
右腕にしかなかったはずの入れ墨が、胸と腹にまで達していた。
禁忌を犯した印が体を侵食していくのを目の当たりにして、わずかだが戸惑いが生まれる。
水の竜はダダの祠と呼んでいたが、その封印はこれで解けたと思っていいだろう。
杖は再び、次の祠の場所を指し示す。
「……行こう、ここに答えはない」
水の竜が言っていた悪神という言葉が気になるが、今は考えても仕方がない。
俺は三つ目の祠に向けて歩みを進める。
村を救うために。
村を出て、もう半日が過ぎた。
光を頼りに進んでいくとそこは高い崖の上だ。
水の竜との戦いもあり、体と精神は疲弊しているが休んでいる暇などない。
一刻も早くことを成さなければ。
険しい崖道を登り続け、やっと頂上に出る。
「……ここがそうか」
このあたりに祠があるはずだが、それらしきものは見当たらない。
水の竜と同じように、ここの水晶も守護者と同化しているのだろうか。
辺りを見回すが、それらしき生物は存在しない。
ここにあるのは岩の山だけだった。
「まさか、崩れて岩の下敷きになっている……ということはないだろうな」
岩をどかしてみようと触れてみると、突然岩が動き出し、目の前で次々に組み合わさっていく。
『オオオオオ!!』
人の形となった岩が咆哮を上げる。
どうやら、ここの守護者はこの岩の巨人ようだ。
水の竜ほどの大きさではなかったが、それでも俺にとって脅威であることには違いない。
「貴方がここの守護を――」
『悪神ヲ、目覚メサセル者ヨ。ソノ身ヲ持ッテ裁キヲ受ケルガイイ!』
「また悪神か!」
俺が言い終わる前に岩の巨人はその巨大な腕を振り下ろす。
直撃は避けられたが、地面に叩きつけた衝撃で後ろに吹き飛ばされる。
「く――!」
背中を岩に強く打ち付けた。
「……え?」
強かに背中を打ち付けたはずなのに、俺は全くと言っていいほど痛みを感じなかった
来るはずの痛みが来ないことに戸惑う俺を、岩の巨人が襲いかかってくる。
「話を聞いてくれ! 俺は封印を解かなければいけないんだ!」
俺の問いかけに答えることなく、岩の巨人は再びその豪腕を振りかざす。
「話をする気はないか」
杖を構えて、岩の巨人の攻撃に備える。
単純な攻撃方法なら避けられるはず、とそう考えていたが甘かった。
無作為に振り回される腕。
それを避け続けるのは難題だった。
その上、俺は岩の巨人にあるはずの水晶の場所を見つけなければならない。
「はぁはぁ……どこにあるんだ……」
岩の巨人の体をくまなく探ったが、水晶がある場所がわからない。
体の奥にしまい込んでいるのだとしたら、砕く方法は皆無だ。
もう何度目かわからない岩の巨人の腕が俺を殴ろうと襲いかかる。
瞬間、杖の石が強い光を放つが、俺は岩の巨人の拳に殴り飛ばされてしまう。
「今の光は……?」
俺は杖に目をやると、その光は岩の巨人に向かって伸びていた。
今の自分の場所を確認すると、俺はちょうど岩の巨人が眠っていた場所に立っている。
なら、光は足元か後ろを示すのではないのか。
「まさかこの光は祠の場所ではなく、水晶の場所を示すものだったのか?」
俺は確かめるために攻撃を受けることを覚悟して岩の巨人の後ろへと回る。
光は――岩の巨人へと伸びていた。
同時に岩の巨人の蹴りが入って、後ろに飛ばされてしまう。
だが、手がかりは得られた。
杖が光指す場所を見つければ、水晶があるはず。
なら、場所を特定するためにもできる限り四方から岩の巨人に向かっていく必要がある。
俺は何度も何度も岩の巨人の体に接近した。
その度に岩の腕に打ち付けられるが、俺は立ち上がり向かっていく。
痛覚があれば痛みに耐えきれず倒れていたかもしれない。
恐怖で近づくことすらできなかっただろう。
「だが、今の俺は違う――!」
現に体が悲鳴を上げ、動きが少しずつ鈍くなってきている。
術を使用して傷を癒やしてはいるが、焼け石に水程度の効果しかない。
それでも続けることに意味がある。
「ここか!」
俺が岩の巨人に杖を突き立てた瞬間――
『オオオオオ!』
岩の巨人が過剰に反応し、俺を遠ざけようと腕を振り回し暴れ始める。
力及ばず砕くことはできなかったが、見つけることはできた。
水晶の形を取らず岩になっているとはな。
俺は改めて杖を構え直して岩の巨人と向き合う。
小回りの聞かない巨体。
俺は岩の巨人の懐に入り、岩の巨人に向かって全力で杖を突き立てた。
キイン、と金属音が響き岩が砕ける。
間違いないと確信できた三度目の感覚。
「安らかに眠ってくれ……」
力を失った岩の巨人が崩れ始め、ただの岩へと戻っていく。
その中に一つ、何かが刻まれた岩を見つける。
そこには『レヘラ』と刻まれていた。
これがあの岩の巨人の名前だったのだろうか。
だが、話ができない相手では確かめようもない。
俺は名前が刻まれた石が一番上へ来るように石を積み上げ、祈りを捧げる。
そのとき、俺は自分の体に砕いた岩が突き刺さっていることに気づいた。
もはや封印を解放したときの痛みすら感じることができないらしい。
「次で最後だ、待っててくれ…みんな…」
俺は最後の祠へと向かう。
刻まれた入れ墨が色濃く、首まで侵食していたことに気づかないまま。
最後の祠への道は今までの場所とは違い、さほど険しいものでなかった。
大きく広がる地下空洞。
何かに抉られたように広がる空洞を、俺は円を描きながら足早に地下へと向かっていた。
本来なら連戦の疲労と負傷で動くことすらままならなかっただろう。
だが、俺はこうして問題なく動けている。
岩の巨人との戦闘後、神官の力で治療を行ったが、普段では考えられないほどにその力は強まっていた。
「こんなに服をボロボロにして帰ったら、シンシアにまた叱られてしまうな」
シンシアが怒っている姿を思い出して、ふと笑みがこぼれる。
怒られようが、泣かれようが、笑われようがそんなのは構わない。
またシンシアの元気な姿が見られるなら。
そう考えたとき、急に腹が鳴ってしまう。
「シンシアの料理が恋しいらしいな。だけど今はこれで我慢するしかない」
俺は自分に言い聞かせるようにカバンから携帯食を取り出して口にする。
……だが、口に携帯食を入れているはずなのに、その味が全くしなかった。
「そうか……もうお前の美味い料理は味わえないのか」
携帯食を水で流し込んで俺は歩き始める。
シンシアを救えるのなら、俺の全てを失おうが構わない。
空洞を降りきって、俺は最後の祠にたどり着く。
そこに守護者の姿はなく、ただ一つ古びた石版が置かれていた。
杖の光はその石版を指し示している。
杖を振り上げて石版に振り下ろすと、それは簡単に砕けてしまった。
「ここで最後のはずだが……」
次に何が起こるのかと構えていると、砕けた石版が黒い靄(もや)へと形を変え辺りに立ち込める。
「何が起こっている?」
「お主が封印を解いたからだ」
頭の中に響くよう聞こえてきたのは、夢の中で聞いたあの声だった。
「全ての封印は解いた。これで願いは叶うのか?」
「ああ、そのとおりだ」
黒い靄が俺の体を包み込むように集まってくる。
振り払おうとするが、体が思うように動かず、そのまま黒い靄は俺の体の中へと入ってきた。
「ぐ……これは……」
「ああ、本当に感謝している。貴様の自己犠牲による献身は私を助けた」
体を包んでいた全ての靄が入ると、頭に響く声が大きく強くなっていった。
すると龍の入れ墨が黒く光り、俺の意識が薄らいでいく。
「お前は……」
「私か? 貴様らの言葉で表すのなら神だ」
「神、だと?」
「人である貴様らが崇めるべき存在。私こそがこの世の絶対である」
「神だと言うのなら、俺の願いを……」
「ああ、叶えてやるとも。貴様の体を奪い、全てを焼き尽くした後で!」
「話が違う! 封印を解けば、村を救ってくれるんじゃなかったのか!」
「死ねば呪いに悩まされることもないだろう。これほどの慈悲は他にあるまい」
「……そうか、守護者達が言っていた悪神とはお前のことだったのか」
「ふん、まったくもって忌々しい話だ。人の分際で私の行いを悪と決めつけ封印するなど。だが、所詮は人の技。長くはかかったが封印は破壊できた」
「なるほど、そういうことか……」
「光栄に思うがいい。貴様の体は私が有意義に使ってやろう」
「……自分の封印を解くために病を蔓延させる神ならば、悪神と呼ばれて当然だ」
「なんだと?」
俺は仕込んでおいた術を発動する。
龍の入れ墨の中に白い光が生まれ、それがゆっくりと黒い光を塗り替えていく。
「貴様、なにを!?」
「俺が神官であることを忘れたのか。これはお前をこの体に封印するための術だ」
「な……これほどの術を仕込む余裕など!」
「察しはついていたんだ。封印を解いたときに流れこんできた力は、村の人を蝕む呪いと同質のものだったからな」
白い光が広がっていくごとに、失いかけていた意識が段々と戻ってくる。
「人を、神官を甘く見るな。お前をもう一度完全に封印すれば、村の人に掛けた呪いも解けるはずだ」
全てはこのときのためにしてきたこと。
俺は村の皆を救うと決めた。
だから、守護者を手に掛けるという罪を犯し、この身を依代とすることを選んだ。
「ぐ……だが、詰めが甘かったようだな。よく見るといい、封印が止まっているぞ?」
白い光は龍の入れ墨を半分ほど掌握し、そこで侵攻が止まっていた。
力を強めるが、やはりそれ以上進むことはない。
「貴様の行いは全て無駄だ。たった一人で私を封印することなど――」
「……俺は、一人じゃない」
俺はもう一つの術を発動させた。
すると、体を蝕んでいた龍の入れ墨が消滅していく。
「封印するための術も、そしてこの術が使えたのもお前が与えてくれた力のおかげだ。半端者の俺ではここまでの術は使いこなせなかっただろう」
「入れ墨が消える? いや、移っている!? 貴様、呪いを誰に移した!」
人に掛けられた呪いを他者に移す術。
人の呪いを解き、護るため力を行使する神官にとって決して許されない術だ。
「神官として禁忌に触れる術。だが、もはや禁忌を犯すことに迷いはない!」
「私の力を封印するだけの器など! そうか、貴様――!?」
――術が発動した瞬間、光の龍が天へと昇っていく。
「悪神よ、お前は赦されざる行いをした。“我ら”の裁きを受けよ!」
「こんなことに巻き込んでしまってすまない」
「いいえ、構いません。私は全部見ていましたから。苦しみ、傷つき、悩んでいる姿も全て……」
「そうか……」
「だから謝らないでください。楽しいときも悲しいときも、いつだって二人で半分こしてきたじゃないですか」
「ありがとう。だが、これで悪神の呪いは消えて皆が目を覚ますはずだ」
「……もう、会えないのですか?」
「近くにいれば封印が解けてしまう可能性がある。離れていなければいけない」
「だとしても、会いに行きます」
「だが……」
「封印しなくていい方法を二人で見つけましょう。それぞれの場所で」
「見つかると思うか?」
「見つかります、二人で力を合わせれば。だから、またいつか一緒に暮らしましょう」
「……そうだな」
長く見ていた夢が覚める時が来ていた。
手を伸ばしても届かないとわかっていながら、彼女はその手を大切な人に向けて伸ばす。
「またね、兄さん」
「またな、シンシア」
――――
――――――
――――――――
全身を隠すようにフードを被った旅人が一人、荒野を歩いていた。
そこに馬車が通りがかり旅人の隣で止まると、馬車に乗っていた御者が声をかけた。
「おっ、こんな場所に旅人なんて珍しいな。どっから来たんだあんた。街までは遠いぞ? なんだったら乗っていくか?」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、ご一緒させてください」
旅人が馬車に乗り込むと、男はフードの中を覗き込もうとする。
「なにか?」
「荒野を一人で歩くなんて珍しいと思ってな。声だけじゃ男か女かわからなくてよ」
「そうですか、ならこれでどうでしょう」
旅人はフードを脱いで顔を見せる。
その顔は男性とも女性とも取れるような、中性的な顔だった。
「ええっと、結局どっちなんだ?」
「どっちでもいいでしょう。それより、一つお尋ねしたいことが」
「ん? なんだ?」
旅人は男に自分の顔がよく見えるようにそっと近付いた。
「同じ顔をした旅人を見たことはありませんか?」
その首筋には、龍のような入れ墨が見えていた。
-
-
チュウニズムな名無し
82021年12月13日 20:36 ID:k01qibv5そうやってほかの場所でも開き直って慣れ合ってスレ主やら動画主やらに迷惑かけてきたんやろなぁ
君らは楽しいんかもしれんけど他の人の事考えられるようになろうな
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
-
-
チュウニズムな名無し
22021年12月04日 12:08 ID:cpr5e3tsすまん、2時3時の某ブラヒムさんにしか見えん…
-
-
チュウニズムな名無し
12021年11月09日 19:43 ID:m1s2h8o3とてもカッコイイキャラなので育てようと思うのですが別のイラストってあったりしますかね?