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水戸 雫

最終更新日時 :
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作成者: ゲストユーザー
最終更新者: ゲストユーザー


通常夢のその先へ

Illustrator:gomzi


名前水戸 雫(みと しずく)
年齢17歳
職業高校2年生

イベントinclude:開催日(オリジナルNEW+)

  • 専用スキル「降水確率100パーセント」を装備することで「水戸 雫/夢のその先へ」へと名前とグラフィックが変化する。

絵を描くことが好きな高校生。

水戸 雫通常 / あなたの手を引いて

絵の道に進むことをどこかで夢見ているが、その夢には素直になれないでいた。


スキル

RANKスキル
1ゲージブースト・パラダイス
5
10降水確率100パーセント
15

include:共通スキル


  • ゲージブースト・パラダイス [NORMAL]
  • ゲージブースト・プラスの亜種。同様に初期値でもゲージ6本が可能。
  • 「ATTACK以下20回未満またはMISS10回未満」のため、どちらかの条件を満たしていればゲージ上昇UPの効果を得られる。
  • ゲージブースト・プラスと比較して、ATTACK以下20回のノルマが加わったことでゲージ上昇効果がより維持しやすくなった。代わりに、消滅後のダメージ軽減効果はなくなっている。
  • 譜面に依存しない5~6本用スキルとしては早期に入手でき、PARADISEから始めたプレイヤーにとってはもちろん、汎用スキルが充実していないプレイヤーにとっても即戦力になる。
  • PARADISE ep.Iで入手する場合、必要なマス数が少ない代わりに課題曲のノルマが難易度問わず4本なのがネック(この前に入手しているナイが持っている鉄壁ガードで抜けるのは始めたてのプレイヤーには厳しいかもしれない)。少しマス数は多くなるが、PARADISE ep.IIIの方が課題曲のノルマが軽いため、入手しやすい。
  • 筐体内の入手方法(PARADISE ep.IV実装時点):
  • PARADISE ep.I マップ2(PARADISE時点で25マス/累計30マス)クリア
  • PARADISE ep.III マップ1(PARADISE時点で55マス)クリア
  • PARADISE ep.IV マップ2(PARADISE LOST時点で320マス)クリア
GRADE効果
初期値ATTACK以下20回未満または
MISS10回未満を達成している場合
ゲージ上昇UP (175%)
+1〃 (180%)
+2〃 (185%)
+3〃 (190%)
+4〃 (195%)
+5〃 (200%)
+6〃 (205%)
+7〃 (210%)
理論値:114000(6本+12000/24k) [+3]

所有キャラ【 遠夜 灯 (1,5) / 水戸 雫 (1,5) / 灰飾 カナエ


  • 降水確率100パーセント [SUPPORT] ※専用スキル
  • 雨の日の思い出と同じ効果のスキル。
GRADE効果
初期値ゲーム開始時にボーナス +80000
ゲージ上昇DOWN (30%)
+1〃 +80000
〃 (40%)
理論値:104000(6本+2000/24k)


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ランクテーブル

12345
スキルEp.1Ep.2Ep.3スキル
678910
Ep.4Ep.5Ep.6Ep.7スキル
1112131415
Ep.8Ep.9Ep.10Ep.11スキル
1617181920
 
2122232425
スキル
~50
スキル
~100
スキル

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STORY

EPISODE1 雨「晴れ間の虹を探すのは、随分前にやめた」

 雨が、降っている。


 哀しいことや辛いこと、苦しいことがあった時……私が落ち込んでいる時の天気はいつも雨模様。

 どうしてって昔は考えたけど、今はすっかり慣れてしまった。

 時間が経てば、雨は止む。

 それは空から溢れる雨も、心の中の雨も同じで。

 だからそんな時には、絵を描くの。

 空に浮かぶ雲のような真っ白のキャンバスに、自分の色を落とす。

 この瞬間だけは、間違いなく世界は私だけの色だった。


 ぴちゃん。


 跳ねた大きな滴が、窓に当たって音を上げた。

 集中が途切れてしまったので、筆を止める。

 窓の外を眺めながら背伸びをすると、湿った空気が肺に満ちた感覚になり、思わず身震いしてしまう。

 同時に、どこからか憂鬱が急に押し寄せてきたような気がして、私はそっと窓から目を逸らした。

 視界に入ってくるのは、いつも通りの第二美術室。

 私以外誰の姿もない、孤独なアトリエ。

 そうは言っても、休日に高校の美術室に来るような人はそういないと思うけれど――

 私が自由に絵を描ける場所はここだけ。

 お父さんとお母さんは、私が絵を描くことをあまり良くは思っていないみたいだから。


 ――それでも私は、描いていたい


 絵を描くこと。

 それは私が唯一、自分がしたいって思ったことだから。

 それこそ、他にしたいことは思いつかないくらいに。


 ――でも、本当にそれでいいの?


 高校生にもなれば、周りから不安な声が聞こえてくる。恋や進路、将来の夢とか、そんな話。


 憂鬱な気分を振り払うように、再び筆を握る。

 でも、今日はこれ以上描ける気はしなかった。

EPISODE2 おかしな来客「変わらないと思っていた日常に、彼は突然入り込んできた」

 最終下校のチャイムが鳴るまで、美術室で絵を描く。それが私の日課。

 家に帰ってもやることは勉強くらいで、自分の自由な時間は学校にしかない。

 誰とも関わらず、ひとりで絵と向き合える場所はこの静かな〈第二美術室〉だけ。

 だから突然扉が開いて――私は驚き筆を落として固まった。


 「あれ、水戸さん? もしかして部活?」


 聞き慣れない声にドキッとして、私は顔を見られないように俯いたまま、首を縦に振った。

 まさか、美術部の顧問以外の人が来るなんて思っていなかった。


 「あー……ごめん、邪魔しちゃって……」

 「そ、そうじゃなくて! 少し、驚いただけ

だから……」


 正直に伝えると、彼は安心したのか、大袈裟に胸を撫で下ろした。

 そんな彼の所作を見て、少しだけ可愛いなって思ってしまったのは内緒だ。

 彼のことは知っている。クラスメイトの朝井陽真(あさいはるま)くん。

 ふわっとした髪型に屈託のない笑顔。でも身長は高くて……そのルックスとは裏腹な朗らかさがどこかアンバランスな感じを覚える。


 「水戸さん、俺……なんか変なことしちゃった?」

 「え?」

 「なんか、笑ってない?」


 指摘され自分の頬を触ると、緩んでいることに気付く。

 ほとんど話したことのない相手に、なんて失礼な態度を……。

 ぶんぶんと首を横に振り、そのまま視線を合わせないように俯いた。

 それが今の私にできる精一杯の否定だった。

 ……鏡を見たら、酷い顔をしているかもしれない。


 「まぁいいや……なんか、水戸さんって面白いね」

 「別に……面白く、ないよ」


 自分でも声が震えているのがわかった。

 緊張で胸が張り裂けそうになるのを止めようと、必死に筆を握りしめる。


 「ご、ごめん……今日の授業で使ったイーゼル、借りたまんまでさ」


 彼が指を差したのは、担いでたイーゼル。

 怯えていた自分の心の中のモヤッとしたものが、急にどこかへ飛んでいった。


 「……ふふっ」


 美術室からわざわざイーゼルを借りて課題をこなすなんて今時、珍しく熱心な人だなあと私は思った。


 「朝井くん……変わってるって、言われない?」

 「……たまに?」


 そう言って、朝井くんは大袈裟にやれやれ、と肩をすくめてみせる。

 それもまた可愛くて、また自然と頬が緩みそうになる。


 「イーゼルなら、こっちじゃなくて第一美術室……部活終わったら戻しておくから、そのまま置いていっていいよ」

 「わかった! ありがとう、水戸さん!」


 さきほどの呆れた顔から一転して、また屈託のない笑顔。忙しく変わる表情が、何故だか愛くるしく思える。

 こんな風に、私もなれれば良かったのに。


 「あれ、これ水戸さんの絵?」


 そんなことを考えていると、いつの間にか彼が自分の横に並んでいた。

 思わず思考が止まる。

 こんな距離に誰かがいたことがなくて、どうすれば良いかわからない。


 「なんか、不思議な絵だね」

 「……不思議?」

 「うん。綺麗な空の絵だけど、なんか寂しい気持ちになるっていうか」


 その言葉に、核心を突かれたような気がした。

 私の心の中を、覗かれてしまったような、感じ。


 「あ、悪い意味じゃなくてね。俺はこの絵、好きだな」

 「あ……」


 ――すき。


 そんな風に褒められたことは、記憶にない。

 上手とか、凄いとか、リアルとか、他人からの褒め言葉はだいたい見たままの感想だ。

 でも、褒められたくて……単に上手いって言われたくて描いているわけじゃない。

 私は、好きなことをしているだけだから。


 「……ありがとう」


 そう、消えそうな声で呟いた。

 朝井君には聞こえていなかったかもしれないけど。

 今の私は間違いなく照れた顔をしているだろうと思い、そっと窓の外に視線を向ける。

 そこにはまだ、大粒の雨が降り続いていて――


 「雨、全然やまないね。梅雨前なのに、ずっとこんな調子でやんなっちゃうな……」


 ――無邪気なナイフが、心に突き刺さる。

 私は痛みを堪えて、必死に言葉を絞り出した。


 「――そうだね」


 窓に映る朝井くんの表情はひどく悲しそうに見える。

 だけど、振り返ることはしなかった。

EPISODE3 センセイ「ひとりでも絵は描ける。でも、ふたりも案外悪くない」

 あの日から、私の放課後は一人じゃない日が前よりもグンと増えた。

 それは、先日の出来事がきっかけで――。


 「あの、ずっと見られてると集中できないんだけど……」

 「あ……ごめん。つい」


 最初はそこまで気にならなかったけれど、今週から毎日のように彼は訪れた。

 流石に人の気配がする事に慣れていないため、集中力が持たなくなってきた。


 「……朝井くんも、何か描いてみる?」


 その提案は、自分から彼を遠ざけるために言ったつもりだったけど――。


 「それって、俺に教えてくれるってこと!?」


 予想とは180度違う答えが返ってきてしまい戸惑う。


 「うわー! 嬉しい! よろしくね、センセイ!」

 「……センセイ?」

 「水戸さんのことだよ!」

 「え!?」


 私はうまくかわすことが出来ず、初めてあだ名をつけられてしまったようだ。

 だけどそう呼ばれるのは、意外にも嫌ではなかった。

 この時まではそう、思っていたのだけど――。


 翌日から、一日に15分だけ、彼に絵を教えることになった。

 本当に初歩の初歩から、ちょっとした応用まで。


 「うーん、やっぱすぐには上手くならないんだなぁ。センセイみたいな絵、どうやって描くんだろう」


 そんなことを言いながら、彼はキャンバスへ筆を走らせる。


 「そのセンセイ……って言うの、やめて欲しいな」

 「なんで? センセイじゃん?」

 「確かにそれは……そうかもだけど」

 「だったらオッケーだよね」


 「この前、教室でそう呼んだでしょ……私、困る」


 その時は、普段クラスでは必要以上のことを話さない私の傍に、他の女子が集まって来てしまい散々だった。

 でも、助けてくれた人もいて……。


 「ちょっと朝井、水戸さん怖がってんじゃん」


 そう言ってくれたのは、隣の席の藤木茜さん。

 小柄で髪を茶色に染めた、私とは縁遠いタイプのクラスのムードメーカー的存在。

 隣の席だけど、一度もまともに話したことはない。


 「えぇ~!? そっちのが怖がられてない?」

 「そんなことないわよ。ねぇ、水戸さん?」

 「いや……その、き、急だった、から……別に、怖かったとかじゃ……むしろ、嬉しかったというか」

 「だって。そういうわけだから早く水戸さんから離れなって」


 それから、たまに会話をするようになった。

 ともだち……とは言い難いけれど、彼女にはクラスメイトとして認められている感じがした。

 ――結果的に、彼のおかげなのかな……?


 あだ名で私を呼ぶ彼の顔をじっと見つめる。

 そのうち、だんだんといたたまれないような気持ちになってきて――


 「そっか、センセイじゃ恥ずかしいかー。じゃあさ、雫って呼ぶのはどう?」

 「な、名前……」

 「そ。だって同級生だし、これだけ毎日話してるのにさん付けじゃよそよそしい感じがしてさ。センセイと雫だったら、どっちがいい?」

 「う……雫で……」

 「よし、オッケー!」


 家族以外に名前で呼ばれるのはむず痒く感じるけど。

 なんだか心地いいなって、心のどこかで思ったんだ。

EPISODE4 言葉の魔法「誰かの言葉が自分の背中を押してくれるなんて、思ったことなかった」

 梅雨に入りたての6月。

 天気は今日も雨。これで4日連続。

 憂鬱な気分のまま、私は絵を描くでもなく、キャンバスの前に座っていた。


 「おじゃましまーす。あ、それって進路希望調査のやつ?」


 いつものように第二美術室に入ってきた彼は、扉を空けたまま私の手元を覗き見た。

 私は、あわててそのまま手に持っていた進路希望調査の用紙を鞄に押し込んだ。

 明日が提出日である真っ白なそれを、見られないように。


 「水戸さん、勉強できるもんなー。レベル高い大学とか狙ってるの?」


 やや不粋な発言のように感じたけれど、その無頓着な態度は彼の良いところなのかもしれない。

 私は、誤魔化しながらも苦笑する。


 「全然。私、そういうのないから」


 自分の未来を選択する――それは私には難しいことだから。


 「じゃあ、美大とか? 難しいって聞くけどさ」

 「美大……?」


 考えることを一番避けていた進路を言われ、紙を持つ手に力が入る。

 絵を学び、好きなだけ描けるなんて、どれだけ幸せなことだろう。

 だけど――


 「わ、私は多分……普通の大学に行く。レベルが高いとかでもなくて、こう、普通のところ」

 「でも、俺は絵が描けるところがいいと思うな」

 「……なんで?」

 「なんでって、絵を描いている時の雫が、一番いい顔してるから」


 瞬間、時間が止まったような気がした。


 ――ぴちゃん。


 周りの音は聞こえないのに、雨の音だけが響いて止まない。


 「俺は好きだよ」


 私に言ったんじゃない。

 私じゃなくて、何かに熱中してる違う人の事を指しているんだって言い聞かせる。


 「あ――」


 彼から、目が離せなくなる。

 彼は優しく微笑んで――私は雨の音さえ、心音で聞こえなくなった。

EPISODE5 決意の行方「少しだけ前を向いてみよう。それが簡単なことじゃないってわかっているけど」

 私は家族と久し振りに食事以外で机を囲んでいた。


 「その……」


 進路希望調査のプリントをそっと差し出す。

 プリントに空白はない。

 帰って来てから、必要な項目は全て埋めていた。


 「これを、見て欲しいんだけど……」


 そう言いながらも、私は俯いた。

 父と母が、どんな表情をしているのか見る勇気がなくて。


 「……これは、どういうことだ?」


 やっぱり、予想通りの言葉だった。


 「その……」

 「しず……話をする時は、ちゃんと顔を見ないと。何度も言ってるでしょう?」

 「……はい」


 憂鬱な気分のまま顔を上げる。


 「あれ……?」


 ――父も母も、怒っているようには見えなかった。

 どちらかといえば、困惑しているようにさえ見える。


 「どうした、雫?」

 「あ、ううん……なんでも」

 「そうか。それで……これはどういうつもりで書いたか聞かせてくれるか?」


 そう言って、父はプリントの進路希望欄、その第三希望を指した。

 書いてあるのは、家から一番近い美大の名前。


 「あ、あの、その……決まらなかったから、クラスメイトが薦めてくれて……」


 緊張した私はしどろもどろになりながら答える。

 その答えに、父はふむ、と顎に手を添えた。


 「そうか。雫」

 「あの……ダメ、だった……?」

 「いや、雫がそれならいい。今はな」


 そう言って、お父さんは席を立った。

 ――良い大学を出て、しっかりした会社に入って、幸せな結婚をする。

 それがお父さんの口癖だった。

 だからきっと、絵を描くのだってお遊びくらいにしか思っていない。


 「私は……しずがちゃんと考えているなら、いいんじゃないかしらと思うわよ」


 ――そう言う母もきっと、本当に賛成してるわけじゃないだろうな。


 「……うん」


 拭えない不安がこみ上げてきて、私も席を立つ。

 勇気を振り絞った行動は、自分が籠の中の鳥だと理解させられただけだった。

EPISODE6 理解者「みんな誰かのことをわかってるつもりでいる。でも、自分は自分のことしかわからない」

 今日も雨が降っている。

 梅雨らしいと言えばそれまでだけど、私の状況を代弁しているみたいで憂欝さが増した。

 進路希望調査を出すために訪れた職員室の扉が、心なしか、いつもより重たく感じる。


 「失礼します」


 どうしようか悩んだけれど、第三希望は消さずにそのまま残した。

 父に快くは思われなかったようだけど、ここで消してしまったら、二度と自分で選べなくなるような気がして……。


 「……はい、水戸さんの進路希望調査は確認したわ。念のために確認するけど、本当に美大は第三希望でいいの?」

 「はい、親には相談した上で書きました……」

 「そう、水戸さんがそれで構わないならいいんだけど……」


 私は先生へ軽く一礼して職員室の扉をあける。


 「あれ、雫?」


 ふいに目の前に現れたのは彼だった。


 「もしかして、第二美術室の鍵、持ちっぱなしじゃない?」

 「あ――」


 言われて、ハッとする。

 第二美術室はほとんど私しか使わないのもあって、先生から鍵を預かっている。

 でも今は、使う人がもうひとり――そのことをすっかり忘れていた。


 「ごめん。今から行くから……」

 「そっか。じゃあ――」


 一緒に行こうか、という彼の言葉は、開いた扉の音に遮られた。


 「あら朝井くんじゃない、ちょうど良かったわ。時間が大丈夫なら、進路のこと、先生に少し聞かせてくれない?」

 「え、あ……はい」

 「じゃあ、今から生徒指導室に行きましょうか」


 担任に連れられていく途中、申し訳無さそうに笑った彼は、少しだけ悲しそうに見えた。


 「――結構うちの家ギリギリでさ……俺、高校卒業したら就職するつもりなんだよね」


 彼はキャンバスの上で手を動かしながら、何食わぬ顔で言った。

 一瞬わけがわからず、筆を止めて彼を見る。

 彼はそれに気づいてこちらを向くと、いつものように屈託のない笑みを浮かべた。


 「いやさ、さっきの雫の進路希望調査の話、たまたま聞いちゃったから、不公平かなーって」

 「そう、なんだ……」

 「あはは、あんま興味ないよな。俺の話なんて」


 そうおどけて言われても、どう返せばよいかわからない。


 「興味がないわけじゃなくて。その、なんて言葉をかけたらいいか……てっきり朝井君は進学するんだと思ってたから」


 すると、彼は腕を組んで悩み始めた。

 頭を掻いたり、腕をとんとんしたり……。


 「確かに最近もっと学びたいことが出来たけど、そんな贅沢言ってられる状況じゃないからさ……って、ごめん、こんな込み入った話して。聞かなかったことにして?」


 彼の言葉は何でもない風を装っていたけれど、

どこか拒絶されているような、そんな寂しさを覚えた。

EPISODE7 私のやりたいこと「わからない。そう言ってしまうのは、簡単すぎるから」

 卒業したら就職する――そう聞かされた翌日から、彼は第二美術室に来なくなった。

 私は久し振りに暗くなるまで、ひとりでキャンバスに向かう。

 ちょっと前までは当たり前の光景だったはずなのに――どうにも落ち着かない。

 胸の奥を掻きむしりたくなるような胸騒ぎが、絵を描く邪魔をする。

 どうしてこんなに苛立っているのか、自分でもわからなくてもどかしい。


 「あぁ、もう……!!」


 耐えきれず、思わず筆を置いた。

 私は何で、こんなにも動揺しているのだろう。

 ふと、隣のキャンバスを見る。

 そこに描かれているのは、もちろん彼の絵。

 彼は最近、私にあまり絵の助言を求めなくなった。集中して描いている彼を邪魔したくなかったから、必然的に絵も見ていない。

 それに、私が立ち上がると、不自然にキャンバスを見えない方向にずらすから。

 見られたくないのかな……なんて思ったりして。


 ――今日は一人だし、見てもいいかな?


 少し罪悪感があったけど、好奇心が勝ってしまって布をめくる。


 「――え?」


 そこに描かれていたのは――笑顔でキャンバスに向かう、私だった。


 『絵を描いている時の雫が一番いい顔してる』


 私の頭に彼の言葉がリフレインする。

 彼は自分のことを顧みず、私のことを応援してくれていたんだ。


 「……ッ」


 悔しかった。情けなかった。

 気づけなかった自分が。

 思いとどまってばかりの自分が。

 良い大学を出て、良い会社に入って……結婚をして。代わり映えはしないけど、平凡で幸せを感じる人生が一番。それは、そうだと思う。

 絵は趣味で……どこにいたって続けられる。

 好きなだけなら、それでいいって。


 「あれ……?」


 手の甲に冷たさを感じて、私は自分が泣いていることに気付いた。

 いったい、何をやっているんだろう。


 ――私はどうして、こんなにも自分を応援してくれる人がいることに、今まで気づけなかったのだろう。

EPISODE8 精一杯の勇気で「おかしいと……思われたって、構わない」

 空にはどんよりと黒い雲が浮かぶ。

 もう少ししたら雨粒が降ってきそうな、そんな天気。

 でも、雨が降っていないだけ、私にとってはいつもより良い天気だ。


 「朝井くん!」


 ホームルームが終わり足早に教室を出ようとした彼に、思い切って声をかける。


 「え?」


 教室中のクラスメイトたちが私に注目しているのがわかる。足がすくんで小さく震えているのが、自分でもわかった。


 「なになに? 水戸って朝井とあんなに仲良かったっけ?」

 「もしかして、そういうアレ?」

 「教室でー?」


 怖い――注目されるのも、声をかけるのも。

 そんな時、背中を“とん”と押されて――。


 「ほら、しずくっち。野次馬が群がってくる前に早く行っちゃいなって」


 後ろにいたのは朝井くんがきっかけで仲良くなったクラスメイトの藤木さんだった。

 彼女はそっと私の耳元に顔を寄せて――


 「後でいい報告、聞かせてよね」


 瞬間、全身が熱を帯びるのがわかった。

 彼女が確信を持った笑顔で、もう一度私の背中を押した。今度は両手で。


 私はそのまま彼の下へと歩みを進める。

 彼は驚いたような顔で私を見ている。


 「ちょっと、一緒にきて……!!」


 そう言って、彼の腕を掴んで走り出す。

 向かうのはもちろん――第二美術室。


 中に入った私は、胸を押さえて息を整える。


 「……話が、したくて」


 息を切らしながら、おずおずとつま先から目線を上げると、彼は私に背を向けていた。

 私はありのまま、彼の背中に言葉を投げる。

 顔が見えなくて良かった。

 その方が、冷静でいられると思うから。


 「私、見ちゃったんだ。朝井くんの……絵」

 「……ッ!」


 彼は振り返ると、小さく顔をしかめて、それからどこか諦めたような顔をした。


 「まぁ、そうだよな……見るよね、普通」

 「……うん。来ないから、見ちゃった」


 彼が否定しようのない、私の言い訳。

 ずるいけど、事実なんだから仕方ない。


 「……自分が描かれてるなんて思わないよな。軽蔑……した?」


 私はそれに、首を横に振った。

 彼をそんな風に思ったことは一度もない。

 だから――


 「ううん。嬉しかったよ」


 そして、一拍おいてから、


 「ありがとう、ハルマ君」


 ハルマ君の瞳をしっかりと見つめながら言った。

 その言葉に、彼は戸惑いの表情を見せる。


 「私、美大を目指すことにした。ずっと自分の夢に向き合うのが怖かったけど、ハルマ君とここで過ごす日々が背中を押してくれたんだよ」

 「雫……」

 「だからこの前聞けなかった、ハルマ君の夢も聞かせてほしい」

 「…………」


 考えている彼を待つ。

 意地悪な質問だってわかってる。

 だけど、彼の口から、ちゃんと聞きたかったから。

 しばらくして、彼はようやく口を開いた。


 「ない」


 そう、端的に言った。

 けれど、それには続きがあって――。


 「ない……はずだった。でも今は違う。雫の絵をみんなが素敵だなって感じてくれて……それをずっと近くで見られれば……って思ってる……なんて。はは……」


 誤魔化すような笑顔。でも、照れているのか、頬が赤みを帯びていて。


 ――ぴちゃん。


 いつの間にか降り出した滴が窓にぶつかって、大きく跳ねた。

 会った時と同じ、雨音に包まれた第二美術室。

 でも、あの時と今とでは、確かに違っていた。


 ――だから、私も決心する。


 「なら、その夢……一緒に叶えない?」

 「それって……どういう……」

 「私、美大でたくさん勉強して、もっとたくさんの人に、私の絵を見てもらえるようになる。もっとたくさんの人に、素敵って言ってもらえるように」


 私の決意の言葉に、彼は満面の笑みで頷く。


 ひとりよがりの、叶わない夢じゃない。

 これはもう、ふたりの夢だから。

EPISODE9 彼の事情「あの絵を見た時――俺は、本当に素敵だなって思ったんだ」

 俺――朝井陽真が彼女のことを知ったのは、単なる偶然だった。


 その日たまたま日直だった俺は、クラスで借りたイーゼルを美術室に返しに行かなければいけなかった。


 美術の選択なんて取ってなかったから、間違えて手前の第二美術室に入ってしまったらしい。

 でも、そこに――彼女がいた。


 「あー……ごめん、邪魔しちゃって……」

 「そ、そうじゃなくて! ……少し、驚いただけだから」


 彼女は一人で絵を描いていた。

 隣の美術室には誰もいないし、居残りか……なんて思ったけど、そうじゃないのはすぐにわかった。

 いや、きっと誰でもわかる――彼女の絵を見れば。


 「なんか、不思議な絵だね」


 思わず、口から言葉が溢れてしまった。

 それくらい、俺はその絵に惹かれていた。


 「うん。綺麗な空の絵だけど、なんか寂しい気持ちになるっていうか」


 なんでか分からないけど、絵の印象が今の自分の心境に重なる部分があった気がした。

 俺の家は元々裕福じゃない家庭なのに、下の姉弟がどんどん生まれて、自分の居場所だけが狭くなっていった。

 周りの友人たちは皆遊び目的でテキトーな大学に進学するというのに、なぜ俺は家族のために働くという選択肢しかないのだろう。

 別にこれという夢があるわけじゃないけど、そんな“違い”に心のどこかで虚無感を覚えていたのかもしれない……と、今になって分かる。


 絵についての感想を述べた時、彼女は何とも言えない表情をした。


 「あ、悪い意味じゃなくてね。俺はこの絵、好きだな」


 だからすぐに言葉を付け足した。


 ――気まずい空気にしちゃったかな。


 慌てて別の話題を振る。


 「雨、全然やまないね。梅雨前なのに、ずっとこんな調子でやんなっちゃうな……」


 「――そうだね」


 それから、周りの友人に劣等感を覚えていた俺は第二美術室に足を運ぶことが増えた。

 彼女といる時間はなぜか楽しくて――


 「そんな贅沢言ってられる状況じゃないからさ」


 いつの間にか、雫の夢だけ応援して。

 自分はと言えば、現実を理由に色々と諦めていた。

 無責任な言葉で、勝手に夢を託した。

 それに気付いてしまって、俺は逃げだしたんだ。

 でも――


 「ちょっと、一緒にきて……!」


 彼女は、自分から俺の手を取りにきたんだ。


 「なら、その夢……一緒に叶えない?」


 なんてずるい女の子だろう。

 自分が進む道に他人をも巻き込んでしまうなんて。

 でも、きっとそんな人をずっと俺は望んでいたのかもしれない。


 彼女は雨を嫌っていたけど、俺は良く似合うと思っていた。

 でも、今は少し違うと感じている。

 雨上がりの太陽が照らす凛々しい紫陽花――そっちの方が、彼女らしい。

EPISODE10 紫陽花畑の少女「未来は自分で選ぶことができる。彼の“言葉”が、私を変えてくれたんだ」

 あれから私は先生にかけあい、進路希望調査の第一希望を〈美大〉に修正した。

 思い切って両親に告げた時、驚いていたけれど、やりたいことをやりなさいと言ってくれたんだ。

 それから私は美大の予備校へと通うことになり、放課後に第二美術室へ足を運ぶことはなくなった。

 それから時は流れて――高校3年生の、2月。


 「あ、定期報告」


 届いたのは、彼の絵の進捗だ。

 撮影者は茜ちゃん。


 「もう冬なのに……」


 彼の絵の中には、たくさんの紫陽花が咲いている。

 お天気雨の中、雨露に濡れた花が日光に照らされて淡く光っていた。


 「あれ?」


 前に見た時とは違うところが、ひとつだけ。

 紫陽花の中に少女がいた。

 地面にちゃんと立っているのに、どこか絵からは浮いていて。


 「なんだか、不思議な感じ……」


 不自然に見えるのに、主張は強くて、どこか引き寄せられてしまう。

 そうだ、この感想を言葉にするなら――


 「やっぱり、ハルマ君の絵、好きだな」


 自然と、頬に熱を感じた。

 その言葉は、私にとって特別なものになってたから。


 ――。

 ――――。

 ――――――。


 「ねぇ朝井……絵、見せちゃって良かったの?」

 「うん」

 「しっかし時間かかったよね。年末に就職先決まってから、ずっと描いてるんだもん」

 「まぁね」


 俺は手を止めずに答える。

 時間は十分あったはずなのに、いつの間にか当日になっていた。


 「仕上がり直前のやつ送ったら、インパクトなくならない?」


 まぁ普通に考えればそうだっていうのは、わかっている。

 でも、大丈夫だ。


 「雫は気づいてくれると思うから」

 「ふーん、アツアツですねぇ」

 「あ、あんまりからかうなよ……」


 そう言って、筆を置いた。


 「お、完成?」

 「完成。……なんとか間に合ったな」


 一息つくと、静かな廊下から足音が響いた。

 そのリズムはだんだん早くなっていって、第二美術室の前で止まった。


 ――ガラガラガラ!


 勢いよく扉が開くと、少し顔の赤くなった彼女がそこにいた。

 久し振りに見た姿に嬉しくなったが、今はそれどころではない。


 ――緊張した空気が教室に流れ、俺は生唾を飲み込んだ。


 「……結果は……合格です!」

 「しずくっちー! あんたならやれるって思ってたよ!」


 藤木が雫をハグして嬉しそうに笑いあった後、ちらりと俺を見た。

 多分、あとはしっかりやれってことだろう。


 「雫、合格おめでとう」

 「ありがとう! 皆のおかげだよ!」


 雫は満面の笑みを俺に向けた。


 「雫……これを、見て欲しいんだ」


 完成した絵には、彼女に見せたものとは、違うところがひとつだけある。


 「これって……」


 紫陽花に囲まれた少女――。

 その薬指には、指輪が輝いていた。

EPISODE11 お天気雨「あなたがいてくれるなら、雨が降っていたって構わない」

 梅雨は、嫌い――だった。

 雨が降っているのは、自分のせいだって思っていたから。


 「ありがとうございました」

 「いい絵をありがとう」

 「こちらこそ、気に入っていただけて嬉しいです」


 今の私は一応、新米画家だ。

 美大を卒業して二年。ゆっくりとだけど、私の絵を知ってくれる人が増えてきた。アトリエや事務所みたいなのはまだ持てるほどじゃないけど、こうして個展を開くことができるくらいには。


 「やっほ、雫」

 「茜ちゃん!」


 最初はちょっと怖かったクラスメイトの茜ちゃん。

 でも、今は私の一番の親友だ。


 「もう立派な芸術家って感じだねー……にしても、初日から雨とは残念」

 「あはは……でも逆に私らしい気がする」

 「あー、そうかも」


 高校時代も、大学時代も、何かと私のことを気にかけてくれていた。

 それは、今になっても変わらない。


 「でもさ、今日で良かったの?」

 「ううん、今日が良かったの」


 茜ちゃんはわからないような顔をしていたけど、すぐにわかったようで、満足そうに頷いた。


 「あれ?」


 突然差し込んで来た陽の光に顔を向ける。

 曇り空に囲まれてはいるけど、そこには確かに青空が広がっていた。

 つい見入っていると、上着に入れたスマホが震える。

 そこに表示されていたのは、彼の名前。

 スマホの待受画面はずっと、彼からもらった絵のままで、そこに彼の名前が重なって表示されている。


 「ふふ」


 奇跡的なタイミング。まるで私の心にも、青空が広がったみたい。


 「あ、朝井でしょ」

 「うん」

 「なんだかなーあいつ。こういう時に限って海外なんて」

 「いいの。これは二人の夢のためだから」


 彼は卒業してから、通信制の大学に入った。

 働きながら卒業して、今は美術関係の仕事をしている。

 自分が見つけた素敵なものを、世界へ広げていく仕事――まさに、彼にぴったりの仕事だ。


 「で、どんな話?」

 「言わないよ? 秘密です」

 「えー、けち」


 そう言って、二人で笑いあう。

 そのうちに、青空から雨が落ちてくる。

 だけど私はスマホを置くと、傘を持たずにそのまま外に出た。


 「雫?」


 そのままお日様を見て、一回転。

 街路樹も、花たちも、みんな輝いている。

 まるで、私たちを祝福しているみたいに。

 だって今日は、私たちだけの記念日だから。


 「素敵だね、ハルマ君」


 指に嵌められた指輪が、陽の光で小さくきらめく。

 あの日にもらった絵と違うのは、ひとつだけ。

 指輪は右手の薬指ではなく、左手の薬指についているということ。


 ――ねぇ、昔の私?

 私ね、今は――そこまで雨が、嫌いじゃないよ。

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コメント (水戸 雫)
  • 総コメント数9
  • 最終投稿日時 2021年06月09日 15:30
    • チュウニズムな名無し
    9
    2021年06月09日 15:30 ID:jv5zuu6z

    結構デカイ

    • チュウニズムな名無し
    8
    2021年05月23日 18:58 ID:cpyaw0hf

    .

    • チュウニズムな名無し
    7
    2021年05月18日 01:12 ID:gc4yvzm3

    >>3

    ガチでストーリー良すぎた…EPISODE10のラスト2行読んだ瞬間にエモすぎて心臓がロストした…

    最近ラブストーリーが鬱モノ多かったから死ぬほど助かる🙏🙏🙏

    • チュウニズムな名無し
    6
    2021年05月17日 15:26 ID:sh1is9lz

    >>4

    ちえ「」

    早苗「」

    うさぎ「」

    ジュナ「」

    • チュウニズムな名無し
    5
    2021年05月17日 15:07 ID:tcpae89p

    >>4

    彼氏の視点(もとい続編)が追加されてそこから鬱方面に行く予感がしてしまう

    • チュウニズムな名無し
    4
    2021年05月15日 20:31 ID:b8zt4pnm

    >>3

    PARADISE LOSTで鬱要素がLOSTしたんですね(^ ^)

    良かったです(^ ^)

    • チュウニズムな名無し
    3
    2021年05月15日 20:29 ID:b8zt4pnm

    ネタバレなので枝に

    • チュウニズムな名無し
    2
    2021年05月14日 23:53 ID:iiv7utsw

    水戸雫が 水戸 "泉"に見えて「えっ、ソルトシェイカー?」とか一瞬驚いてしまったおっさんデス…。

    • チュウニズムな名無し
    1
    2021年05月13日 14:03 ID:j1ka84ms

    降水確率100%ですー

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