ヨンジーガムロ・エピソード
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ヨンジーガムロのエピソード
ヨンジーガムロの元の名前はマンゴーポメロサゴ。自分を強く持っていて、美と芸術に関して、人並み外れた感性を持っており、自身のファッションセンスを貫き通している。生まれた時は強い食霊ではなかった。御侍から再三「お前が世界で一番美しく、一番素晴らしい」言われ続け、ヨンジーガムロという名を与えられ、神が世にもたらした福星であると教えられた。このような考え方の元、ヨンジーガムロは様々な芸術分野で活躍し、世界の最先端を常に探究し、自分のやり方を貫き通してきた。そうする事で世界の更なる美しさを創れると信じている。
※翻訳修正につき更新しました。
Ⅰ.別れ
「最終測定の結果が出た。ヨンジーガムロ、性格安定性Ⅱ級、活躍性Ⅱ級、知能Ⅱ級、戦闘力……またⅡ級」
先生が無表情に最後まで読み上げてしまった後、私は息を抑えて、頭を下げておとなしく彼女の前に立つ。
そして想像通り、私の額はデコピンされた。
「食霊は多いのに、どうして君を選んだのだろう?」
彼女は不機嫌な態度で続ける。
「何年経っても相変わらずだらしない恰好だ……荷物は?全部片付いたか?」
この瞬間、彼女の表情は私に漫画に登場する「自分の尻尾を追い、最後は諦め床に倒れる犬」を連想させたため、笑い声を出すところだった。ぎりぎり我慢できた後、急いでうなずいた。
自分の手を伸ばして、手元のヨンジーペンを先生に見せる。「これを持って行けば十分ですわ。」
「ここにこれだけ長い期間住んで、他に持ち帰りたい物がない?言っただろう、この部屋の物は全部持って行っても大丈夫だ」
私の決定に不満を抱く。
「本当に十分ですわ。逆に持ち物が多くなったら運びにくいですわ。このペンさえあれば、ここのこと、先生のことを思い出す時、絵を描けますわよ」
私は甘美な微笑を浮かべて、そして彼女の袖を少し引いて、心の中で「おかしいわ」と一言を補った。
「覚えておきなさい。ここを出た後、一生懸命君の御侍を支えなければならない。元々霊力が低いのに、こんな素敵な人物に選ばれたのは運のお陰だ。いい生活を過ごしたいなら、彼の命令に違反してはいけない。さもないと、先生も君を助けられない」
「わかりましたわ。絶対に御侍さまの言うことに従うことを保証しますわ」
「……では測定の書類を持って、私と一緒に行きましょう。君を迎える人が来た」
私は微かに頷いたが、ココロの中の高いテンションを我慢できない。
私と他の仲間たちは、誕生してからずっとこの育成センターにいる。最初私たちは、ただの混沌の原霊だった。この白い服を着た人間たちは、毎日霊力薬剤で私たちを育成する。そして私たちも人の姿になった。
この白い服を着た人たちは「先生」だ。
先生たちは私たちの霊力トレーニングと行動習慣の担当者である。彼女は私たちが強い優れた食霊になる時、連れて行ってくれる人が来ると言ったことがある。そしてこの人たちは「料理御侍」と呼ばれる。
育成センターの食霊は、料理御侍に選ばれた人のみ、ここを出る。
運が良い場合、御侍は私たちと契約を取り結んで、離れる事のない相棒になる。そして御侍は私たちに名前を与えて一緒に外へ行く。
しかし運が悪い場合、御侍に選ばれない可能性もある。そして堕神と戦う戦場に送られ、消えるまで戦う。また記憶を失うと再び原霊の姿でここに戻る。
私はここを出たい。戦場で死にたくないけれど自分の能力を考えれば見込みはない。
私の霊力は低すぎるため誰も私と契約を取り結びたくない。同じ理由で、私が外に出て戦う必要もない。
最初、先生たちはこんな私に対して鉄が鋼にならないのを残念に思っていたが、時間を経るにつれて直接私のことを無視した。だから私は毎日自分の育成室で絵を描いて、時間を潰す。
永遠にこんな生活が続くと思ったけど、先週先生が私がある料理御侍に選ばれたことを告げた。
本当に?
私はこの信じられないサプライズを聞くとぼんやりと口を開けていた。本当に実感が湧いたのは、育成センターのゲートから出て、御侍の車に乗った時だった。後ろにだんだん遠ざかっていく灰色の建物を見ている。これでやっと目の前のすべてに実感が湧いた。
――もう二度と帰らなくてもいいわ。
Ⅱ.困窮
御侍様のオフィスはとても静か、針一本床に落としても聞こえる。私はおとなしく座って、両手を膝の上に置いておく。隣の執事さんも手を後ろにして立っている。
今、御侍様が何かを書いている音しか聞こえない。
私はこっそりと覗いてみる。御侍様の外見は堂々としている。残念ながら今は蚊を挟むこともできるくらい眉間にしわを寄せている。冷たそうなのでそんなに人に好かれない人なのだろう。
次の瞬間、私の視線に気づいたようで、御侍様が急に顔を上げて、私の目をまっすぐ見た。びっくりした私は早く頭を下げた。そして勇気を出して彼に笑顔を見せた。
初対面だから、嫌われてはいけない……
御侍様が不快そうな表情をして、執事さんに聞いた。
「なぜ彼女はまだここにいる?」
私の笑顔はすぐ固くなった。
「長官はヨンジーガムロさんに会いたいと言ったことがありますから」
執事さんも少し緊張した。
「さっきも見ただろう」
御侍様はテーブルに置いた測定結果の書類を指す。
「総合能力:レア級。状況を把握してしまった」
御侍様は壁掛け時計を見ると、
「他の用事がないなら、先に彼女を連れて下がりなさい。これから私はますます忙しくなるからしばらく家に戻らない」
話が終わると、再び仕事に耽った。
「かしこまりました、長官」
執事さんは御侍様にお辞儀をすると、私に「こちらへどうぞ」の姿勢を見せた。
「では、ヨンジーガムロさん、こちらへ。長官の仕事を邪魔しないようお願いします」
私は慌てて立ち上がった。
「御侍さま、私はただのレア級の食霊ですが、長い時間トレーニングを受けました。だから、御侍さまと一緒に仕事をさせて下さい。お願いです」
御侍様は顔を上げて、意外そうな視線で上から下まで私を見ている。そして腰間の銃を沢山のパーツになるまで分解してテーブルに置いた。
「10秒で組み合わせたら、お前を連れていく」
「……」
「お前にはできない」
彼は私の呆然に対して驚かない。次に迅速にパーツを銃に組み合わせた。
「お前は戦闘用の食霊じゃない。だから好きなことをすればいい」
その後、テンションが低くなった私は執事さんと一緒に御侍様の家に戻った。
「ヨンジーガムロさん、ここは貴方様の部屋でございます。ではごゆっくり」
「ありがとうございます。執事さん」
落胆していたけど、私はまた元気を出して、執事さんに丁寧にお礼を言う。
「ああ、お礼なんて言わなくていいです。元々これは私の仕事ですから」
執事さんはたぶん私の不安に気づいた。しばらくして、次のように決定したようだった。
「ヨンジーガムロさん、ここにいる間、もし欲しいものがあれば、是非私にお申し付けください」
「ここにいる間……それはどういう意味です?」
執事さんの言葉から別の意味を読み取った。
そして、次に彼がした話は眠れないほど私を不安にさせた。
Ⅲ.宝物
日差しに体を照らされている私は草の匂いが混じる空気を吸い込んだ。
「とても運が良いわ!」
昨夜の大雨が止んだ。遠くに見える樹の間に虹が現れる。私はすぐ画用紙を広げて、目の前の景色を描き始めた。
育成センターを出てから、外の世界は本当に素晴らしいと思った。夏のアサガオ、晴れの陽射し、雨の雫、どれも美しすぎた。
全ての景色を描きたい!
残りの秋の紅葉、冬の雪花、そして春の桜も、それら全ての姿をこの目で見たい。
二ヵ月前、執事さんが親切にも教えてくれた。御侍様はこの都市の監督官。彼は一緒に敵に勝つための強い食霊を求めている。しかし、どこで間違えたかわからないが、最終的に育成センターは私を送ってきた。
保護条約の規定により、育成センターを出た食霊の三ヵ月以内の帰還は不可とされている。だから間違っても、御侍様は私を三ヵ月間だけは留めて置かざるを得ない。
「ヨンジーガムロさんに会う前は、長官もこんなことになるとは思っていませんでした。しかしせっかくこっちにいらっしゃったのだから、食霊さん、長官の仰った通り、この期間はあなたがやりたいことをしましょう」
なるほど、間違えたのね。
この真実を知った時、テンションが本当にガタ落ちした。でも、またすぐ元気を出した。
執事さんから絵具と画用紙をもらった。
ヨンジーガムロは夏限定のデザート。もし外での自由時間が三ヵ月しかないなら、一日も無駄な愁傷に使いたくない。全ての瞬間を描くことに使いたい、せめてこの絵で今この瞬間の素晴らしさを記録する。
紙を大切に取って、それを持って自分の部屋に帰った。
「御、御侍さま?」
御侍様が私の部屋にいるなんて思わなかった。
彼は私の絵を見ている。着ている服は、彼とまだ初対面だった時と同じ制服。
執事さんは、御侍様は非常に忙しいと言っていた。私は育成センターに帰るまで彼に会えないと思っていた。
「この絵を描いたのはお前か?」
御侍様の語り口は穏やかではなかった。彼のしかめた眉を、私は少し怖いと思った。
「はい」
「持っているのを見せてくれ」
「わかりました」
私はおとなしく御侍様に絵を差し出したけど、目つきはやはりびくびくしながら彼を見つめている。
「なぜこれを描いたんだ?」
「……え?」
御侍様の質問に対して、私は呆けた。
彼は部屋の絵を全部見渡すと「掃除の使用人、荷物配達の郵便屋、水をやる庭師、そして、お前に貴重な時間も沢山くれてやったのに、こんなくだらないものを描いて一体何の役に立つ?まあ、この虹の絵だけは少し面白い」と言った。
御侍様の口ぶりには理解不能の文字が溢れている。
私の心は前触れもなく刺された。
深呼吸して、どこから湧いたかわからない勇気で、前に出て御侍様の手元から絵を引き抜いた。彼の不思議そうな目をじっと見ている。
「申し訳ございません私は御侍さまの話を認められません」
「何故だ?」
「確かに、御侍さまにとってこれは珍しくもない普通の日常かもしれませんわ。でも私にとってこれは一生の宝物でございます。もし御侍さまも三ヵ月の自由しか持てないなら、この世界の草でも、通行人でも、虹でも、重要さは同じものに感じるはずです。当然、美しさも同じです!」
「御侍さまのような偉い方には、この気持ちはいつまでもわかりませんよね」
御侍様は驚いた。
もういいわよ、追い出されるでも、お仕置きされるでも、路頭に迷うでも大丈夫。そもそも時間も残りわずかなんだから。
一気に言いたいことを言い切ってしまったため、気持ちが落ち着かなくなった。周りの霊力の泡はコントロールが効かず、湧き上がっていた。全力で自分の感情の昂ぶりを抑えたかったが、急に虚脱感が来たので、目の前が真っ暗になって意識を失った。
Ⅳ.新生
目覚めた時に、私はもうベッドで横になっていた。
執事さんはやきもきしている。
「ヨンジーガムロさん!もう目覚めましたか?よかった!」
意識が戻ってすぐに、私は部屋の絵を見る。
それらの絵がまだ残っているのを見て、ほっとした。
「ああ、私はもう大丈夫だわ、執事さん」
「愚かなお方ですね。どうして何も食べなかったのですか?」
やばい、まさか見破られていたなんて思わなかった……
食霊は人間のように食事することができる。でも、普通の食べ物は食霊の霊力源にならない。特製の食霊魔法薬剤でこそ霊力が補給できる。
だが執事さんにもらった薬剤を、全部私は捨ててしまった。
だから執事さんに「エヘヘ」と舌を出しながら謝る。
「ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」
執事さんは私の頭を撫でる。
「いいえ、私は別に。長官はヨンジーガムロさんを救うために――」
「ゴホ!」
執事さんの後ろから咳払いが聞こえた。執事さんはすぐ黙って席を譲る。ここでやっと、執事さんの後ろの御侍様が見えた。
相変わらず無表情。
「全てのものの重要さが同じだと言っていたのに、お前は自分の体を乱暴に扱った。自分でもできないことを、どうやって他人に信じさせるのだ?」
御侍様の言葉は冷たいが、私は認めざるを得なかった。
「どうせ生きていても意味がないからです」
「何だと?私がお前を救うために使ったこの二ヵ月とたくさんの薬剤も意味がないということか?」
「そうです。あんなところに戻らなければならないなら……待ってください、二ヵ月?私は二ヵ月も眠っていたのですか?」
御侍様の話の要点に気づいた私は、すごく驚いた。
「私を、私を送り返さなかったのですか?どうして?」
「私の食霊として、最も重要なことは私の指示に従うことだろう。私はいつかお前を帰すと言ったか?」
「……いいえ……あの……」
私がしどろもどろになって隣の執事さんを見ると、執事さんが謝った。
「申し訳ございません食霊さん。私は長官の言葉を誤解していましたので……長官は貴方を帰すつもりはございません」
目を大きく開けて、深呼吸してみた。
「では、ではあの日、好きなことをすればいいと言われたのは……」
「だから、私は忙しいため、お前に自分の好きなことをさせたかったのだ。つまりしばらく私のことを気にしないで欲しかったのだ」
「じゃあ、貴重な時間をやったのに、くだらないものを描いて何の役に立つなどと言ったのは?……」
「お前の絵は育成センターで見たことがある。正直、この部屋の絵より大変良いと思う。お前は芸術的な才能が高い。育成センターはお前のいるべき場所ではない。だから覚えておいて欲しいのは、芸術は生活をコピーするものではなく、生活から精錬されるものだということだ」
予想外の展開に驚いた。
御侍様の言葉の意味がわからないとは言わない。ただ、今まで考えたことがない。この三ヵ月以外の、未来を想像する機会があることなど。誰も教えてくれなかった。私の存在する意義など。
御侍様が私のベッドのへりを叩く。
「泣くな。来なさい」
目尻の涙を拭いて、立ち上がり御侍様に従って窓辺に行く。
「見なさい」
「見る?何を?」
私は戸惑って窓の外を見て、一瞬呆然としてしまった。
外で紅葉が舞っている、夏はもう静かに過ぎてしまった。私はまだここにいる。まだ消えていない。
口を隠して、嬉しそうに笑った。
今から、信じる。このヨンジーガムロの命に存在するのは、夏だけではない事を。
Ⅴ.ヨンジーガムロ
ティアラ大陸で、一種類の食べ物は食霊一人だけ召喚できる。そして、全ての食べ物で食霊が召喚できる訳ではない。
月日の経つうちに、召喚された食霊の数はますます多くなる。召喚されていないが探知できた食霊は各国が争う「希少資源」となった。
光耀大陸に、そんな「資源倉庫」が南離市という都市に設置された。
南離市は特別な都市だ。所属は光耀大陸だが、他の都市より開放されているため、世界各地の商売人や旅行者がたくさん集まっている。
高い自由度のお陰で、国際化が最も高い光耀大陸の都市になった。経済と科学技術が高くなる一方、腐敗と罪悪も生じやすい。
ヨンジーガムロの御侍は、南離市の治安を守る監督官。彼は頭がいい人だが、自分の食霊を召喚したことがない。しかし、この事実は彼が南離市の安全部門を統率するリーダーになることの妨げにはならない。
去年の冬、ある堕神を待ち伏せする任務中に、人間の姿に偽装していた堕神が彼に自爆攻撃をした。怪我した監督官は半月間ベッドで横になった。
その事件が解決された後、上司は彼に命令を下した。彼は自分の食霊を持たなければならないと。
仕方ない、命令には従わなければならない。
一般民衆が知らないのは、南離市内で特別な人は自分が欲しい食霊と契約を取り結ぶことが可能だということだ。
流れはあの「資源倉庫」、ヨンジーガムロが言う「育成センター」で実施される。
育成センター内の、まだ料理御侍に召喚されていない食霊はある手段で混沌の胚胎によってコントロールされる。実験員は彼らが完全な食霊になるまで育成する。そして食霊たちはやって来た御侍に選ばれる、あるいは必要な戦場に送られる。
この食霊たちは事前に複数のレベルで分けられた。レベルによって必要な権限も異なる。元々、監督官の権限でレベルが最も高い食霊と契約するのは可能だった。
しかし怪我を負った監督官はわかっていた。上司の命令は、完全に自分の安全のためではないものだ。
彼の高い戦績がたくさんの非難を招いてきた。強い食霊は彼の保護になるように見えるが、実は彼の権力を弱化する最も良い手段になる。
だから、育成センターに入った検察官は、最高レベルの食霊を選ばず、誰も行きたくないレア区に行った。そこにいたヨンジーガムロと呼ばれる食霊が彼の視線を引いた。
あの頃のヨンジーガムロは、まだ単純でロマンチックなことが好きな女の子だった。武器がない彼女は自分の部屋で想像の中の素晴らしい世界を描く。
検察官は彼女の絵を見た。
あの絵に彼は自分の夢を見つけた。
「この都市を誰もが憧れる理想郷にする」
そして、その時のヨンジーガムロはまだ知らなかった。彼女からは見えないガラス窓の外に、彼女の絵の中にある素晴らしい世界を現実の物にしている人がいることを。
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