日暮夕陽・ストーリー
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日暮夕陽
1.社長
ある日、桜の島のとある町で。
隣人:ねぇ、聞いた?あの探偵社営業再開したらしいよ。
隣人:探偵社?あの深夜食堂の上にある日暮探偵社の事?社長に不幸があったばかりじゃ……
隣人:新社長が来たそうよ……さっき少し様子を見に行ったら……食霊だったわ……
隣人:ええ?どういう事?
隣人:はぁ…雰囲気最悪だったわ。私前に訪ねた事があるでしょう?あの時はとても賑やかだったのに。今は外からでも、中の重たい空気を感じ取れるようになってたわよ……
隣人:まぁ……葬式を終えたばかりだから……でもあの新社長は何を考えてるのかしら?まずちゃんと休んだ方が良いのに、なんですぐ営業を再開したの?
隣人:さぁ……
同時刻
日暮探偵社
ある少年が、彼にとって少し高いデスクの前に座り、真面目に本を読んでいた。ただ本を読むと同時に、時々ソファーに座っている少女らに目線を送っていた。
この社長席に座っているのは、日暮探偵社の新社長、抹茶。
かき氷:あれ?
かき氷:ずっとこっちを見てどうしたの、クッキーが食べたいの?抹茶さん。
抹茶:ありがとうございます、お気持ちだけ頂きます。
りんご飴:うん。
りんご飴:うん……
普段のりんご飴ならすぐクッキーに飛びつくが、今の彼女は魂を失った人形みたいに座っていた。一番活発な彼女が、落ち込んで声もかすれている。そんな彼女を抹茶は心配だった。
抹茶:(無理をさせすぎたのかもしれません……)
抹茶:あぁ……
旧友が二人の少女と楽しい日常を過ごしていた頃の記憶は、まだ脳裏に刻まれている。重たい空気が流れる探偵社は、時間の流れが遅くなっているようだった。
抹茶:(出来るだけ早く、元通りになりますように)
2.冷静
前日
日暮探偵社
りんご飴:一旦冷静になろうってどういう事?!私は冷静だけど!
抹茶:……
抹茶は何も言わなかった。しかし、りんご飴が彼の視線から読み取ったのは――
――彼女の言う「冷静」とは、他人から見れば駄々をこねているようにしか見えないと。
りんご飴:……私は必死に冷静さを保っている!きちんと君の話に従って、危ない事の調査はしてない!ここ何日はどこにも行かずずっと部屋にいたし。これでもまだ冷静じゃないなんて言うの?!
りんご飴:君はよく落ち着いていられるね?君にとってあの人の死因は本当にどうでも良い物なの?動揺すらしないの?
りんご飴:はぁ……はぁ……
少女は興奮しきっていたが、少年は先程の彼女の失礼な物言いに反応はしなかった。彼はむしろ穏やかだった、更には心配している視線を彼女に送った。それでやっとりんご飴は落ち着きを取り戻し、自分の口を押さえながら後ずさった。
りんご飴:ごめんなさい、私は……私は……
抹茶:謝らなくて大丈夫です、貴方の苦しみは分かります。ただ、りんご飴、このままではいけません。
りんご飴:このまま?私は……何もしてないのに……大人しく抹茶さんの指示に従ったのに……調査はしてない、危ない場所にも行ってない……私は……
抹茶:あぁ……
抹茶:今の貴方はむしろ何かした方がいい。周りを見て、別の問題を考えてみるべきです……
りんご飴:でも私……今の私は……
抹茶:ごめんなさい、確かに無理をさせすぎたかもしれません……
抹茶:もう遅いので、早く休んでください。明日から探偵社の営業を再開するにあたって、貴方の力は不可欠です。
りんご飴:あ、明日?!
抹茶:そうです、明日。
少年は真剣な目付きで言った。
抹茶:皆が日暮探偵社を求めています、なので僕たちはこのまま落ち込んでいてはいけません。きっと彼も、貴方が今のまま落ち込み続ける姿を見たくないでしょう。
りんご飴:………………
りんご飴:私……本当に出来るかな……
3.警戒
今日、日暮探偵社は営業を再開したが、りんご飴の気持ちはまだ沈んでいた。探偵社では気まずい静寂が続いていた。
チーン――
突如、探偵社のドアが誰かに押し開けられた。ドアベルもビックリするくらい鳴りやまない。
女の子たちが慌ただしく入口から押し入り、重たい雰囲気をふっと飛ばした。
ラムネ:え?!本当に営業してる!なんで営業してるの?りんご飴、顔色良くなさそう……本当に大丈夫?
りんご飴:うん……大丈夫だよ、気にしないで……
たこ焼き:ほぉ~これで大丈夫って言うんや?
たこ焼き:あんさん自分の顔見てみぃや。あんさんが依頼人の面倒を見るんか、依頼人があんさんの面倒を見るんかわからへんよ?
たこ焼き:せや、元から経営は厳しかったって聞いとったし、そろそろ家賃も払えんなっとるんやろな?はぁ……能力を持ってへんから、部下の労働力で稼がないかん奴の生活は本当に楽やなぁ……
抹茶:……
女の子たちが抹茶に向ける視線はまるで侵入者を見ているかのようだった。彼女らは毛を逆立てた猫のように自分らの友人を守っていた。でも抹茶の変わらない表情は、女の子たちの警戒心を余計深めた。
たこ焼きとラムネは直接抹茶と話す事を拒んでいたが、もう一人――お好み焼きはそうではなかった。
彼女は抹茶のデスクの前まで歩き、両手でデスクを叩き、対決する気満々の雰囲気を出していた。
バンッ!
お好み焼き:あのさぁ、アンタは今の彼女らの状況が見えてへんのか?酷すぎひんんうううううう――
細長い綺麗な手がお好み焼きの背後から伸びて、彼女の口を押えた。いつの間にか彼女の後ろに現れた青年は申し訳なさそうな顔で抹茶に笑いかけた。
抹茶:!
おでん:迷惑をかけて、すまねぇなぁ。
抹茶:……いいえ、そんな事はございません。
馴染みのある声が聴こえて、お好み焼きは振り返った。彼女は怒りながらジタバタしていたが、一言も発せないでいた。
お好み焼き:ううううう――!!
おでん:いいからいいから、とにかく帰るぞ。
お好み焼き:!??
青年の動きは優しいが振りほどく事を許さない。彼はお好み焼きの手を取って彼女を外に連れ出した。
しばらくして、りんご飴に寄り添っていたラムネとたこ焼きも、抹茶に挨拶もせず出ていった。全てを見ていたかき氷は抹茶の前で何か言いたげにしていたが、結局は何も言えなかった。
再び静寂を取り戻した探偵社で、抹茶はため息をついた。
4.日暮
夕方。
夕陽の光と夜の深い色が、徐々に混ざり合っていく。巨大な光の玉は雲に抱かれて、まもなく地平線に沈む。
町は夕陽の暖かい橙色に染まり、少し冷たい風が吹く度、耳元で髪が揺れた。
???:おぉ――!これは美しい!抹茶見ろ!見ろよ!この太陽は本当に明るくて綺麗――
抹茶:落日熔金、暮雲合璧。
???:なんだそれ?
抹茶:……夕陽は熔けた黄金のよう、空の雲はまるで白玉。
???:おー良い詩!良い詩だ!
抹茶:貴方は確か学者ですよね?
???:ゴホン――まぁ、俺の専攻は文学ではないからね。お前たちが好きな東方の詩歌については詳しくないよ。とにかく美しいから良いではないか。
親友が自分の好きな物を語っている時の楽しそうな姿を見て、抹茶は思わず顔が綻んでいた。
抹茶:探偵社を「日暮」と名付けたのは、夕日が好きだからでしょうか?
???:そうだ。だけど名前を付けた日の景色は、今日程美しい物ではなかったのが残念だ。あの時、「日暮」の他にもいくつか候補があって、凄く悩んだのにな!
抹茶:……
???:どうして他の候補について聞いてこないんだ?
抹茶:未解決の謎でしょう。
???:ハハハハ、当たり、さすがお前だ――ああ……あの頃の俺にこの景色を見せたら、絶対悩まなかっただろうな。
???:あーもしかしたらお前が傍にいるお陰で、今日の夕陽はより綺麗に見えたのかな。
同じ夕陽でも、一緒に見る人がいなければ、心境も変わる。寂しさが幾分加わった。
抹茶:(あの子の今の姿、貴方も見たくないでしょう……)
抹茶:(出来る限り早くあの子を立ち直らせなければ……彼女たちが言ってあげれば、きっと彼女も分かってくれるでしょう……しかし……)
探偵社からの帰り道、抹茶は眉をひそめて女の子たちが自分を警戒していた事を考えながら、気もそぞろに歩いていた。
突然――
おでん:危ない!
抹茶:!!
抹茶:大家さん!申し訳ありません、大丈夫ですか?
おでん:あたしは大丈夫よ、逆にお前さんは――大丈夫かねぇ?
おでん:もし都合が良ければ、あたしの店に寄ってかねぇか?
5.誤解
今はまだ夕方、青年の店はまだ準備中だった。しかし今は珍しく一人の客が座っている、この客は彼の店で唯一お茶を飲む人でもあった。
青年の聞き上手で優しい声色は少年をリラックスさせた。そのため少年も自らの悩みを話し始めた。青年は静かに少年の話を聞いて、話し終わった後、青年はやっと口を開いた。
おでん:なるほどねぇ、直接彼女たちと話をしてみるといいよ。
抹茶:はい、僕もそう思います。ただ話す機会が――
抹茶がまだ言い切らないうちに、扉が開く音がした。
お好み焼き:おでん、どないして急にアタシを呼び出し…………えっ?
おでん:あら、偶然ねぇ、では良い機会だしゆっくり話をするといい。
お好み焼き:なんでアンタがここにおんの?丁度ええわ、アタシもアンタを探しとった。
少女はまだりんご飴とかき氷の気持ちをよそに、急いで営業を再開した事を怒っていた。彼女は店に入りながらおでんを睨んだ。
おでんはいつも通りの笑顔を浮かべていた。お好み焼きは彼の表情が変わらない事にムカつきながらも、頬を膨らませながら抹茶の方を向いて座った。
お好み焼き:なんでそない急いで営業を再開したん!探偵社はそこまで金がないんか!家賃が原因ならアタシたちが払ったるわ!もう少しりんご飴とかき氷を休ませてやれや!
お好み焼き:おじさんの件からまだ数日しか経ってへん、アタシですらまだ乗り越えられてへんのに、ましてやあの子たち……あの子たちにとっておじさんは家族や!
抹茶:はい、知っています。
お好み焼き:じゃあなんで――!!
抹茶:しかし、彼女たちをこのままにさせてはいけません……憎しみで何も見えなくなってしまうと、心や頭にはあの悲劇の事しか残りません。彼女はこの泥沼に沈むべきではありません……今のままではいけません……
抹茶:貴方たちがもたらしている光さえ……気付かなくなっている……
お好み焼き:アンタ……ふざけんな!あの子、あの子は……
抹茶:……
抹茶の冷静で、平然とした目を見て、お好み焼きの声はどんどん小さくなっていった。
お好み焼き:で、でも……それでも……あの子をもっと休ませたげても問題あらへんやろ……
抹茶:暇を持てあましてしまうと、考える時間が増えるだけです。
抹茶:自分の過ちを考え、自分は何が出来るかを考え、ひたすら考えて……自分はどうすればあの帰らぬ人を追えるのかと……
抹茶:真実は確かに重要です、しかし全てを捨てるに値する物ではありません。彼女には自分のための真実を見つけて欲しい……そしていつか、彼女には元通りになって欲しいです。
抹茶:酷な事ですが、彼女を忙しくさせる事でしか、全てを忘れさせる事は出来ないです。例えそれが一時でも。彼女に皆は彼女を求めていると分からせ、彼女の危険な発想をやめさせたい。
お好み焼き:…………じゃ、じゃあはっきり言うてくれよ!アタシらはアンタを誤解してしまったやないか!
抹茶:この言葉は、僕に言われても、彼女の心には届きません……
抹茶:ずっと彼女の傍に寄り添ってきた人しか、この全てを彼女の心に届けられません。
お好み焼き:……
お好み焼き:……うっ…………
抹茶:ん?どうしましたか?
お好み焼きの顔が真っ赤になり、どもっている様子を見て、抹茶は困惑して首をかしげた。隣のおでんは笑いをこらえながら、お好み焼きの肩を押した。
おでん:言いたい事があるなら、言ってみたらいい。抹茶は根に持つタイプじゃないよ。
お好み焼き:うっ……うぅぅ……ごめんなさい!!
抹茶:えっ?あの……これは……
お好み焼き:ごめんなさい!あんなに酷い事を言ってしもて!態度も酷すぎて!全部アタシらが甘すぎたせいや!アタシ……アタシは……
抹茶:えっ……ええ!!な、泣かないでください!大丈夫ですか……
お好み焼き:だ、大丈夫……アタシ、アタシたちはただ……りんご飴とかき氷の事が心配やったんや……
お好み焼きはおでんの袖を引いて、自分の目を拭い始めた。彼女の目尻はまだ赤いが、表情は最初の意気揚々とした感じに戻った。
おでん:おいっ……あたしの服はティッシュじゃないよ……仕方ないな……
お好み焼き:知っとるわ!抹茶さん、安心してな!アタシに任せて!
6.帰らぬ人
お好み焼きは出ていった、店にはおでんと抹茶の二人しかいない。おでんは微笑みながら抹茶の方を向いた。
おでん:ハハッ、彼女はいつも慌ただしくて……でも、ほら、きちんと話せばなんとかなったでしょ?
抹茶:はい、ありがとうございます。
おでんは自分の杯に酒を注ぐと、抹茶と乾杯した。杯を交わす音を聞いて、抹茶はまた少し意識を彼方に飛ばした。
親友を思い出していた。あの頃、自分もあの男と一緒に今のように居酒屋にいた。一人は酒を飲み、一人はお茶を飲んだ。
???:食霊と人間が友人になるなんて、結構珍しい事だろう?
抹茶:そうですね。契約があるので、どうしても人間との関係は主従関係になってしまいがちです。
???:チッ、極悪非道の人間よ、そんなに世界の支配者になりたいのか!
抹茶は食霊の味方をしている男を見て、苦笑いし首を振った。
抹茶:まあ、別の理由もあります。
抹茶:……
???:うん?別の理由?人間には他の問題があるのか?遠慮せず言え、俺は怒らないから。
抹茶:……食霊に比べて、人間の命は脆すぎて、短すぎます。
???:そうか?あぁ、そう言われると確かに……ハハッ、悪いな。
抹茶:ぷっ……どうして謝るのですか?
???:ハハハハハ、俺の生きる道は花火のように絢爛としているからな!どんなに短くても、素晴らしくド派手が一番だ!
抹茶:貴方……また何かをするつもりですか?
???:えっ?!バレたか?ハハハハハ!まあ安心しろ、大した事じゃない!もし俺に何かあっても、お前がいてくれるだろ。
抹茶:……僕がいたとしても――!!
???:おいおい、冗談だよ、怒るな……よっしゃ、乾杯しよう!抹茶、お前はジュースを高く上げろ!
抹茶:……これはジュースではありません、今年の最高品質のお茶です。
???:はいはい、お茶ですーお茶ですーへへっ、俺のような友がいるのは本当に大変だな!では乾杯!
7.傍にいる
今日は営業再開の二日目。昨日と同じく、少年はデスクに座り、二人の少女はソファーに座っていた。空気は相変わらず重たい。
風鈴の音と共に、三人の少女が突如現れた。彼女らは何も言わず、直接りんご飴とかき氷の腕に絡んで、抹茶の前で二人を抱きしめた。
抹茶:……?
りんご飴:うわっ?!
かき氷:えぇ……
りんご飴:ど、どうしたの?!か、髪--せっかく整えた髪型!
りんご飴:何?どうして急に意味不明な事を言うの?あっ、痛い痛い痛い痛い!
お好み焼き:うるさい!特にアンタ、アタシの話を聞け!
お好み焼き:おじさんの事、アタシたちもずっと悲しかった、悔しかった!でもなぁ--でもなぁ!りんご飴!
お好み焼き:アタシたちはアンタらの事をもっと心配してるんだよ!みんな、アンタのことが大好きやねん、アンタも……アンタにも何かあったら……アタシたちはどうしたらええねん
りんご飴:……
たこ焼き:あんさん!その顔をやめぇ。いくら過去の事を考えても何も変わらん!どうして周りの人を大切にしないん?ずっとウチからあほと呼ばれたいんか!
りんご飴:……私…………
ラムネ:りんご飴……ラムネたちはずっと傍にいるから。お願い、おじさんみたいに遠い所に行かないで……お願い……お願い……あうぅ……
りんご飴はやっと気付いた、自分が苦しみに沈んでいた間、大切なものを失いそうになっていた事を。
この時、りんご飴の悲しみは凝り固まり、無視しきた感情が胸で揺れた。喉が詰まり、口を開いても息が苦しい。彼女の体は少しずつ震えていた。
りんご飴は少女らの腕を振りほどくのをやめ、抱きしめられる事を受け入れた。彼女は突然、このギュッと彼女を包む温もりは確かにあると、自分の手が届くところにあることに気付いた。
彼女の心に潜んでいた不安の気持ちは、突如優しさに変わった。
りんご飴:……
りんご飴:……………………
りんご飴:う……うっ…………ううう……………………
りんご飴:……ごめんなさい……私、私は本当にバカだ……………………!
りんご飴の細い指は、少女らの服をギュッと握りしめ、まるで全ての苦しみを彼女らに伝えるかの様に。あの日以来、彼女は初めて人の前で泣いた。
その後、お好み焼きたちもつられて泣き始めた。少女らが泣き叫ぶ様子を見て、抹茶は仕方なく頭を振った彼は彼女たちのために、甘いお菓子を買いに立ち上がった。
彼は階段を降りながら、笑顔を浮かべていた。
抹茶:良い友人をもちましたね……
8.おかえりなさい
少女らは泣き疲れ、小動物の様にソファーに固まって、時々すすり泣く声を発しながら、抹茶が買ってきたお菓子を食べていた。
彼女らは赤い目をして、社長椅子に座って本を読んでいる抹茶を見て、小さな声でつぶやいた。
お好み焼き:どないしよ、最初は誰が行くん?
たこ焼き:じゃあウチから?昨日一番酷くあたったのはウチやし……
お好み焼き:……ゴホゴホ!いや、平気や、ちょっと菓子で咽せただけや。
ラムネ:えーー!一人ずつ行くの?ねぇ、一緒に行こうよ……?
たこ焼き:じゃあ一緒に行こうか!
自分に向かって歩いてくる三人の少女が見えた抹茶は顔を上げた。彼の表情は優しいままだった。
少女らの緊張した様子を見て、抹茶は首を傾げた。
お好み焼き:ごめんなさい!
たこ焼き:本当にごめんなさい!
突然謝られて、抹茶は少し気が抜けた。でも彼はすぐ普段通りの笑顔を浮かべ、背伸びして少女たちの頭を撫でた。
抹茶:大丈夫ですよ。僕が貴方たちにきちんと説明しなかったせいで、こんな誤解が生まれたのですから。
たこ焼き:あの……これを受け取ってくれへん!ウチらの手作りお菓子や!つまらないもんですが、召し上がってください!
抹茶:これは……
お好み焼き:えっと、ア、アタシも持ってきた!
たこ焼き:良ければ受け取ってくれへん?これからもりんご飴とかき氷の事をよろしくお願いします、社長はん。
抹茶:(社長さん……)
この呼び方を聞いて、少年は少し驚いた表情を浮かべた。彼は思わず微笑んで、耳も珍しく赤くなっていた。
抹茶:ありがとうございます
三つのプレゼントは少女らのお詫びと感謝の気持ちが込められていた。同時にこれらのプレゼントは、抹茶が日暮探偵社の社長としてやっと彼女らに認められた証でもある。
彼自身も、この探偵社と一緒にこのまま歩き続けたいと願った。
日々の日常を大切にしていきたいと。
壁に掛けられた変顔をしているあの男の写真を見ると、少し懐かしい気持ちになった。そして、少しだけホッとした。
抹茶:(最後の最後に、自分が守りたい物に気付いた……だから彼女たちの事を僕に託した、ですよね?)
抹茶:(僕に任せてください。僕は、必ず彼女たちを守って見せます。これからは前を向いて歩いて行く……貴方の分まで)
そしてーー
時が過ぎ、探偵社の生活も少しずつ元に戻っていた。
かき氷は毎日部屋を綺麗に掃除している。外から帰ったりんご飴はいつでも温かい淹れ立てのお茶を飲める。
抹茶は、不変の優しい笑顔を浮かべ、彼にとっては少し大きすぎた椅子に座って、彼女達に向かって言った。
抹茶:お帰りなさい
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