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蓮の実スープ・エピソード

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蓮の実スープのエピソード

闘争心がなく、善心を持ち、心の中にはきちんと自分の考えを持っている女性。

蓮の実スープの琴の音は催眠効果を持ち、なおかつ治療効果もある。

自分の邪教での経歴は無数の被害者の中でもまだましな物だと思っており、出来る限り自分の力でより多くの人を助けたいと思っている。

Ⅰ.傷跡

薄暗い室内で、琴の音が響く。

分厚いすだれが隔たる事で、目の前の光景が真実かどうかわからなくなっていた。


何かが倒れる鈍い音が次々と聞こえてきて、先程まで騒がしかった部屋は、今はもう静かになっていた。

私は琴を撫でる手を止め、琴を抱いて部屋を出た。


外で待機していた黒い服を着た男たちは、私の合図を見て、すぐに動いた。

彼らが部屋に入っていくのを見て、心配する気持ちが漏れ、思わずため息をついた。


夕陽に照らされた小道に、暖かな黄色い斑点が映し出されていたが、私にこれを眺める余裕はなかった。


気付けば庭の外まで歩いた。屋内では微かに灯りが灯っていた。


普段ならば、御侍様はまだ帰ってきていないはず……


とにかく、御侍様に夕食を作ってあげよう。彼女のために料理を作るのは久しぶりだった。彼女と共に夕食を食べる事も。

こんな事を考えながら、少しだけ気分は楽になっていた。


しかし、全ての準備を終えた後、私は御侍様が部屋に閉じこもっている事に気付いた。

「御侍様、夕食が出来ました。先日仰っていた菓子を作らせて頂きました」

私は戸を叩きながら聞いた。

しかし、いくら待っても返事は来ない。

「御侍様?」

試しにもう一度呼んでみた。


居眠りしているのか……まさか病気にでも?

考え込んでいた時。

「ギシッ」という音と共に、御侍様は戸を開けて部屋から出てきた。

次の瞬間、彼女の赤く泣き腫らした目に気付いた。心の中の不安が増幅した。


「御侍様……目が……」


御侍様は辛うじて笑顔を取り繕っていたが、声が枯れていた。


「先程少し寝ていたから、目が乾いてこすっただけ、気にしないで」

「食事にしましょう、蓮の実の手作り料理を食べるのは久しぶりだ」


御侍様は話し終えるとすぐに部屋から出ていった。彼女の説明に反論は出来なかったが、不安な気持ちは抑えきれなかった。

――先程私を見ていた彼女の目は何かを隠していた、そして彼女は嘘をついていた。

Ⅱ.暴虐

夜風が窓の隙間から潜り込み、蝋燭の火が震えた。あたりは静寂に包まれていた。

机に寄り掛かって座っている私の思いも、この火のように不安定に揺れていた。


私はここに来てまだそれほど時間は経っていない、しかし御侍様は既にこの聖教という場所で長く生活していた。

私と同じ、御侍様も琴師だ。


ここに来る前、彼女はある年老いた琴師に育てられた。

小さい頃から、琴を習っていた彼女は、高い天賦の才にも恵まれ、幼い頃から有名だった。


ある日、彼女のお師匠様が聖教の人の面倒事に巻き込まれた。

あの横暴な人たちは二人にちょっかいを掛け始めた、美しく琴の才能もあった御侍様を気に入った。


お師匠様が再三止めても、御侍様はお師匠様を守るために聖教の人たちに付いてここにやってきた。


偉いと自称している人らが、自分たちの権力を振りかざし、毎日酒に溺れていた。

御侍様は彼らのために場を盛り上げるために琴を弾く事を強要されていた。奏でるのは普段弾く事のないような低俗な音楽ばかり。


それから、彼女の琴の音は埃が被るようになった。

最下等の琴師として、卑賤な生活を送っていた。


私が召喚された事で、御侍様の生活は少しだけ好転した。


私が催眠効果のある音色を奏でられるからでしょう。

あの人らはこの事を知った後、いつもの軽蔑した視線を改め、笑顔で私に琴の音を使って食霊を制御そして催眠するよう言ってきた。


聖教への「貢献」があったため、御侍様の地位は少しだけ良くなったが、それと同時に他人の恨みも買った。


幸い、私の琴の音には催眠効果以外にも治療効果があるという事を彼らは知らなかった。


この微々たる力で、私はできる限りあの人らに制御され、酷い怪我を負った食霊達の傷を治していた。


御侍様は優しい。

このような卑怯な手段で私の同胞を迫害する聖教も気に食わなかった。


あの人らの目的は知らないが、苦しく、絶望的な表情を浮かべる同胞を見ていると、私はこれ以上現実を無視する事が出来なかった。

――例え予想できない程の危険性があったとしても。


同朋を救う事に浸りすぎていたせいか、私は自分にとって最も重要な御侍様を蔑ろにしていた。先ほどの会話のおかげで、私はやっと気付いた。御侍様の境遇は最初から何一つ改善されていないという事を……


「あの方たちの仕業でしょうか?」

「……」

「いつからですか?」

「大丈夫……平気よ……」

「申し訳ございません、もう少し早く気付けていたら……」


私は丁寧に御侍様の傷口に傷薬を付けた。酷い傷が白い包帯に隠された事で、締め付けられていた私の心はやっと少しだけ落ち着いた。


今日偶然発見できなければ、私はあの遊興にふける人らがこのような酷い事をすると本当の意味で気付けなかったでしょう。

初めの手荒い指図から、今のような手を上げて怒鳴り罵るようになるとは。

楽しくないから、機嫌が悪いから、酔ったから、こんな事があの人らの発散する理由となっていたのだ。


Ⅲ.暗晦

深夜、御侍様の部屋から再び小さな泣き声が漏れた。戸の前に居た私は心が乱れた。

壁を隔てても、必死で抑えている苦しみが嵐のように私に襲い掛かった。


この状況はしばらく続いた、しかもまだ悪化している。


御侍様は依然として部屋に鍵を掛け、全ての人を、そして私も拒んだ。


もしかすると、私に今の憔悴しきった顔を見せたくない、或いは私に迷惑をかけたくないと思っているのかもしれない……

しかし私は彼女を心配する気持ちを抑えきれない。


それでも、私に出来るのはただ彼女に薬を煎じてあげるだけ。病気を言い訳にあの人らからの指示と命令を避け、少しでも楽させようとする事しか出来なかった。


しかし、遂に限界がやってきた。


かつて見たある物語の事を思い出した。

子どもが棉の代わりに重い石をぬいぐるみの体に入れていた。ぬいぐるみはその重みに耐えきれず破裂し、最後は静かな隅に捨てられるという。




あの日、私は血の匂いを嗅ぎつけた。幸い気付くのが速かったため、戸を破り弱っている御侍様を助ける事が出来た。


彼女の服は涙で濡れ、最後の力を振り絞って同じ言葉を繰り返していた。

「逃げたい……ここから逃げたい……」


御侍様の震えた絶望的な声を聞いて、この牢獄から必ず脱出すると決心した。

――例えどんな代償を払ってでも。


私は必死で御侍様を慰め、彼女に自分の決心を伝えた。

ここから離れる信念が、彼女を繋ぎ止める最後の支えとなる。




「本当に……決めたの?」

菖蒲酒は眉をひそめ、心配そうな目で私達を見た。

「ええ、これ以上御侍様を苦しめたくありません……」

「でも知っているでしょう、ここから逃げる事がどれだけ危険か」


「裏切り者として認定されたら、どんな結末になるか」


「御侍様がもう苦しまなければ、私は構いません」

「……まあ、それでこそあなただわ。それなら私も協力してあげる」

「ありがとうございます……しかし、貴方の境遇から、巻き込むわけにはいきません」

「こうなれば、私も見過ごす事はできないわ。あの人たちを脅かさないで」


「前回作った薬は、琴師様のお口に合った?今回また新たな薬を調合した、もう少し飲みやすくなるとは思う。どうぞ」

菖蒲酒は包んだ薬を私に渡してくれた。


彼女の確固たる意志を見て、私は言葉が詰まった。




菖蒲酒は私が聖教で出来た最初のそして唯一の友人。


彼女は彼女の御侍様と同じく、「毒医」と呼ばれている。

彼女は医術に精通しているが、特に毒の研究と仕様を得意としているためか、全員から少し距離を置かれていた。


元々は彼女と交流はなかった。

ある日、彼女は食霊を治療している私に気付いた。


しかし予想外なのは、彼女は私を告発しなかったのだ。


逆に真面目に、容赦なく私の拙い医術にダメ出しをしてきた。そして最後は自ら私に助力してくれた。

あの嫌そうにしながらも、真剣に言ってくれた様子は今でも覚えている。


驚きつつも、噂で聞いたような無慈悲な人ではないと気付いた。


本当に彼女と親しくなったのは、たまたまだった。


あの時、私は気付いたらある場所に辿り着いていた。様々な変わった薬草が育っており、種類は多いが乱雑ではなかった。薬草を育てている人がちゃんとしているのがわかる。


琴以外、私は薬草にも興味を持っていた。しかし奥が深い故に、最も基本的な事しか知らなかった。

広がる薬草畑の中で、私がわかるのはいくつかだけ。それでも、私は惹かれて少しずつ奥へと進んでいった。


ある若緑の薬草に惹かれ、思わず手を伸ばしてその葉を触ろうとした時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「気を付けて、この子に刺されたら、一日中麻痺状態になってしまうわ」

聞こえて来た声によって、私の動きは止まった。菖蒲酒は遠くない場所からゆっくりと歩いてきた。


「あら、あなたはこっそりと食霊を助けていた食霊じゃない。どうしたの、今回は私の薬草畑の薬草を採ろうとしているの?」

彼女は眉を上げ、堂々とした表情を浮かべながら、その声は夏のように爽やかだった。


彼女からは敵意を感じられなかった。


その頃から、私はよくこの薬草畑を訪れ、菖蒲酒から薬草と医術の知識を習いに来ていた。

彼女も丁寧に私に複雑な知識を説明してくれた、そして少しずつ親しくなっていった。


彼女は私以上に医術を愛し、大らかな性格も共に過ごしていて心地が良かった。


そして、菖蒲酒はこの聖教で唯一私の御侍様を「琴師」と呼んでくれる食霊でもある。


私にとって菖蒲酒は果てない闇の中に突如現れた明るい光。この明るい光が周りの人に温もりを与える。


私と菖蒲酒は依然としてこっそりと食霊の治療を続けた。


聖教の人らにとって、食霊は様々な実験に使うただの「実験品」に過ぎない。


根本的に彼らの苦しみを消し去る事が出来なくとも、せめて少しでも苦しみを減らしてあげたい。


Ⅳ.再生

私たちは脱出計画を練り始めた。

この時初めて本当の意味で聖教の広さを認識した。まるで世間から隔離され、複雑に錯綜する巨大宮殿のようだった。


上の立場にいる人らは、鮮血と金銭で作られた牢獄を気にしていないようだった。


全ての準備が整い計画を始めようとした時、失敗の雷は容赦なく降り注いだ。


ここでは、全員の動きは全て聖教の監視下に置かれ、隠れる事は出来ない。

一切の隙間がない網によって、私達全員、または私達のような人を全て包み、巻き込み、死に至らしめる。


結局、私たちの行動はバレ、御侍様と私は牢獄に入れられた。


私は何度も、何度も御侍様を慰めた。しかし今回御侍様は泣かなかった。逆に線が断ち切られた人形のように、あの人たちの好きなようにされていた。


あの時私は見た、御侍様の目から最後の光が消えたのを。


暗くて空が見えない牢獄で、数え切れない罪と血に囲まれていた。

初めて聖教の秘密に直面した。いや、食霊の傷などから想像出来ているため、秘密とは言えないだろう。


冷たい感触と苛まれる事、これがここへの印象だった。


牢獄での夜は耐え難かった。どれくらいの日にちが経ったかわからない。黒い服を着た人が再び私の前に現れた。

彼らが私に告げた。


「あの女は牢の中で自殺した。でも悲しむな、すぐにてめぇも俺たちの実験材料になるからな。ハハハハハッ――」


自……殺……?

死んだ……

御侍様が……死んだ……?

私の頭は急に真っ白になった。


目の前の食霊を皮肉するように男は話を続けた。

「最後にあいつに会ってみたいか?」

「土下座してくれるなら、許してやろうか――ハハハハッ――!」


膝が硬い地面に触れた際、あの人らの笑い声はますます大きくなった。

でもこの時、御侍様の死より気になる事は何もなかった。


痩せ細った女性が牢の隅に横たわっていた。傍にはまだ乾いてない血痕が残っていた。


蹌踉として牢に入った私は彼女の傍に蹲った。本来琴を奏でるはずのボロボロの手を握り締めた。

涙は止めどなく溢れた。もし、もっと早く決心出来たなら、この全てを止められただろうか……


自分に強さが足りなかったから、この人らに好き勝手させてしまった……


私がまだ悲しみに暮れていた時、突然背後から物音がした。続いて人が倒れる音が聞こえてきた。

足音が近づき、私と御侍様の前に立ちはだかった。歩いて来た人はマントを下ろした。

見慣れた顔を見て、私は驚いた。

菖蒲酒……?」

「ごめん……遅くなった……」

話が終わらないうちに、首から痛みを感じた。微かに菖蒲酒が針を持っているのが見えた。




目が覚めると、知らない部屋にいると気付いた。部屋の様子から聖教には見えなかった。

私は軽く眩暈がする頭を揉み、混乱した記憶を整理し始めた。


意識を失う前に見た最後の一幕を思い返して、私をここに運んできたのは、菖蒲酒……?


部屋から出て周囲の状況を確認しようとした時、黄色い服を着た女性が入ってきた。

「琴師様、体の調子はいかが?」

「フフッ、琴師様には多くの疑問があるであろう。慌てるでない、妾が一つずつ答えてやろう」


目の前の女性は明るい笑顔、優雅な姿を見せているが、どこか危険な香りがした。

そして、どこかで彼女を見た事がある気もした。


少し話をした後、彼女が聖教の新たな聖女、チキンスープであると知った。

彼女がどうやって上に昇り詰めたのか、色々な噂で聞いた事はあったが、私はあまりそのような流言を信じる方ではないので、それほど動揺はしなかった。


今一番気にかけているのは、御侍様と菖蒲酒の居場所であった。


「琴師様はゆっくりと休むと良い。妾はまた来ます故。琴師様が気にしている事は、自然と知る事になるであろう」

私はしばらくこの庭園に留まる事となった。

チキンスープの言うように、今の私にとって、ここが一番安全だろう。


しばらくして、チキンスープが再びやってきた。


彼女は相変わらず優雅で、天性の自信と魅力を持っていた。

少し気を抜くと、彼女の掌に転がされる事となるだろう。


思考を整理した所、彼女は私に敵意を持っていないはず。さもないと、ここまでして私の面倒を見るはずがない。

ただ彼女の本当の目的をまだ知らない、或いは彼女がどんな条件で交渉をしようとしているのかを。

今も最も心配なのは菖蒲酒の事だった。彼女はチキンスープと一体どんな関係が……


私は少し不安になっていたが、相手に見抜かれないためどうにか平静を装った。


しかし次の展開は私の想像よりも良い物であった。


チキンスープ菖蒲酒と一緒に私と御侍様を助けたのだと。菖蒲酒が針で私を刺したのは、私を昏睡させ死体として御侍様と共に逃げ出せるようにするため。

他人から見れば、裏切って逃げた「蓮の実スープ」は既に処刑されて死んでいる。


チキンスープは聖女の権利を少し使っただけで、私達をこうも簡単に聖教から連れ出す事が出来た。

聖女の権力がまさかここまで強いとは、あの偉い人らと同じく、人の命を自由に出来るなんて。

しかし本当に私を驚かせたのはチキンスープの次の言葉だった。

「琴師様には墨閣という組織を作って頂きたい――聖教を殲滅して欲しい」


「聖女様、それはどういう……?!」

「あら、これは琴師様の願いでもありましょう」

「私は……」

「琴師様はあの食霊たちを助ける際、思う事はありませんでした?」


「琴師様が一時的に彼らを助ける事ができたとしても、聖教は永遠に彼らを見逃さないでしょう。被害者は増える一方です」

「あぁ、ご安心ください。琴師様はゆっくりと考えてくださって構いません。妾は時間だけはたっぷりとあります故」


チキンスープの言葉は蛇のように、少しずつ私の心の最も奥に潜んでいる欲望を掘り出していた。


一瞬震えて、顔を上げると、彼女の視線がかち合った。

その瞳はまるで底が見えない深淵。中に未知の危険が潜んでいると知っていても、惹かれてしまうような。


チキンスープが去った後も、私はまだ落ち着く事は出来なかった。


彼女の話通り、私が出来るのはただ焼け石に水というもの。被害者は未だに増え続けている。


同胞を助ける理由は、半分は傍観者として痛ましく思う気持ちから、半分は自分の行為に対する懺悔。

自分の本意ではないにしろ、私の行動は確かに彼らへ牙を向けさせるような事になった。


今はもう彼らの為に何も出来ないが、これ以上同じ事が起きるのは阻止できるかもしれない。


全ての罪悪の根源はあの聖教にある。


今の私の力は弱い。聖教に抵抗するのは到底不可能な事。

しかし、もしチキンスープの言う通りに墨閣を作り、より多くの力を集められたら、勝利の可能性がないとは言えない。


ただ、何故聖教の聖女様が聖教の敵に回るのかはわからない。

今想像できる答えとしては、彼女がある目的を達成するためには聖教の存在が障壁となっている事。彼女が欲しいのはこの障壁を取り除く道具であるのではないかと。


あの魅惑的な笑顔の裏に隠されたのは、聖教よりもっと深い陰謀かもしれない。

私はそれを知る術はない。ただ警戒心を強める事しか出来ない。


今の私に、自分のやりたい事を支える十分な資本が無い事は重々承知している。彼女と協力するしか、抗う機会は訪れない。


Ⅴ.蓮の実スープ

霧雨が降り注ぐ、霧の幕が揺れる。

蓮の実スープは懐中の白い菊を二つの墓碑の前に置く。青い裾には土が付いていた。

でも彼女は気にせず、身体を屈めて墓碑の上に落ちた花びらなどを拭い去った。


遠くないところにいる董糖は傘を差して静かに待っていた。


「全ては過ぎ去った……そこまで自責せずとも」

「ええ……ただ残念な事に、御侍様は亡くなる前にお師匠様に会う事が叶わなかった事……」

「お二人が共にここで永眠する事が、最も良い結末だったのかもしれない」


「もうすぐ雨は止みます。行きましょう」

「もう良いの?……もっと話したい事があるのかと思っていた」

「もう十分です。長い付き合いなので、彼らはわかってくれるでしょう」

蓮の実スープは微笑んだ。目には優しさが浮かんでいた。



蓮の実スープは御侍の葬式を用意した後、御侍の師匠を探し始めた。

幸い、師匠は相変わらず同じ町で生活していた。


ただ世の移り変わりを経たご老人の目から、故人との思い出は涙となって消えていった。


師匠がこの世を去った後、御侍の最後の願いを叶えるため、蓮の実スープはニ人を同じ墓に埋葬し、この親子に最後の団円をさせた。



蓮の実スープ董糖が墨閣に戻った時、空は晴れ渡り、霧も春風によって吹き消された。


庭園から忙しない足音が響いた。杏仁豆腐が焦りながら走って出てきた。二人を見て喜びの表情を浮かべた。


董糖姉さん、蓮の実姉さん!やっと帰ってきました!」

「杏仁ちゃん落ち着いて、何かあったの?」


「中に酷い怪我をしたお姉さんがいます、菊酒姉さんが助けたんです。怪我が酷くて、董糖姉さんたちがいなくて、私は彼女を助けられない……心配していたら……菖蒲姉さんを呼ぼうとして……」

「心配しないで、菊酒が連れて帰ったのなら食霊の可能性が高い。簡単に死ぬことはないだろう」

「そうですね、私も手助けします。だけど念のため、菖蒲酒を呼ぶ必要はありますね」


董糖蓮の実スープは話しながら部屋に入った。


怪我をした女性は全身血まみれ、ボロボロの服の下には数え切れない傷が見える。

雨水が含んだ服によって更に乱れ、酷い怪我を負っている様子だった。

彼女は目を閉じて、苦しい顔をしていた、黒髪が余計に蒼白な顔面を映した。


しかし、彼女はしっかりと火銃を握り締め、何かを守る姿勢を取っていた。


蓮の実スープはすぐさま傷の様子を見始めた。

窓の傍に立っていた菊酒は神妙な面持ちで話し始めた。


「一歩遅かった。町には堕神の死骸があり、邪教の痕跡もあった。しかし、より人類の戦場に近い様子だった」

「堕神は彼女に倒されたのだろう、邪教の者は……多分逃げた。 他の者は……逃げた者もいれば、死んだ者も……」


カラン!

物が落ちる音が響いた、女性の腰にあった令牌が床に落ちていた。


董糖はそれについた血痕を拭い、軽く呟いた。


「宮保……」



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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