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光に向かって・ストーリー

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光に向かって

プロローグ


 パッ――

止められていた血液と酸素が一気に頭に上って、脳がガンガンする。血管は破裂しそうになっていた。

 脳がクラクラして、灼熱で思考が全て溶けてしまいそうなのに、両手は冰に包まれているかのように冷え切っていた。

冷たい空気を大きく吸って肺の中に入れたが、空気に混ざっていた鉄のサビ臭さで吐き気がした。

 視界に少しずつ闇が広がっていく中、無表情の顔が目に突き刺さった……


ある日

日暮探偵社


依頼人:娘がいなくなりました、探して頂きたいんです。私にとって、彼女は本当に大事な娘なんです。


 依頼人は中年の男性。高級そうな洋服を身に纏い、様になっていた。しかし、彼の額の髪で隠されている部分に、絆創膏が貼ってあった。

 かき氷の視線がその絆創膏に注がれていたからか、彼は少し居心地悪そうに眉をしかめた。


依頼人:不注意で転んでしまいました。あの、何か問題でも?

りんご飴:いえ!かき氷はただお客様の怪我を心配していただけです!


 ボーッとしていたかき氷の背中をりんご飴が叩いた事で、彼女はようやく我に返って俯いた。依頼人は彼女の無礼を気にする様子はなく、一つ咳払いしてまた話を続けた。


依頼人:とにかく、娘の資料と写真は全部用意しました。報酬はいくらでもお支払いします、ただ出来る限り早く娘を連れ帰って来て欲しいのです。

りんご飴:えっ?待って、待ってください!

依頼人:何か不明な点でも?

りんご飴:お客様、もう少し確認したい事が……茜ちゃんがいなくなる前、何かおかしな行動を取ったりしてませんでしたか?または、誰かに接触していませんでしたか?

依頼人:そんな事はないです。茜は良い子です、いつも私の話をよく聞いてくれます。

りんご飴:……では……普段良く行く場所または親しい友人はいますか?

依頼人:いいえ、彼女は臆病な子なので、他人と付き合うのを苦手としています。いつも私にべったりでした。

りんご飴:そうですか……

依頼人:あの、他に聞きたい事はありますか?もしないのなら……

抹茶:お客様はこの後何か用事はありますか?もし急ぎでなければ、少しお茶を飲んでいかれるのはいかがでしょうか?

抹茶:うちの探偵は仕事が早いので、すぐにお嬢さんを連れて帰る可能性もあります。お客様も一刻も早く大切な娘に会いたいでしょう?

依頼人:……では、お願いします。


 上手く隠してはいるが、その男の目に一瞬だけ過(よぎ)った苛立ちを抹茶たちは見逃さなかった。抹茶は更に何かを聞こうとしているりんご飴を制し、首を横に振った。


抹茶:お茶をお淹れします。

りんご飴:では、私たちはここで失礼します。

抹茶:はい、いってらっしゃい。


 りんご飴かき氷を連れて探偵社の外に出た。りんご飴は顔を上げて探偵社の窓際で彼女たちを見守っている抹茶の姿を見て、力強く頷いた。


りんご飴:依頼人は抹茶さんに任せて……あの子を探すのは、私たちのミッションだ!


1-2

遊園地

入口付近


 茜の父親によると、彼女は内向的で、外出を嫌い、少し暗い女の子だという。そのため、りんご飴かき氷が彼女を見つけた時、彼女が見せた明るい笑顔に戸惑いを隠せなかった。


少女:あれっ?こんなに早く見つけられちゃうなんて?!こいつらはあいつの部下よりも使えそうね。


 少女は何かを呟きながら、段ボールの山から体を出そうと試みた。しかし、踏み外してしまった。


かき氷:危ない!


 前に倒れそうになっていた少女の体は、少し冷たさを感じる両手によって支えられた。暴れていた彼女は片手でその手を掴み、もう片方の手はバクバクと鼓動している自分の胸を抑えた。


少女:ふぅ……

かき氷:……大丈夫?

少女:うん、ビックリした……

りんご飴:怪我してない?!

少女:平気よ、このお姉さんが助けてくれたおかげで。


 落ち着いた彼女は、りんご飴かき氷から少し離れた場所まで歩き、口角を上げて笑顔を浮かべた。


少女:ねぇ、パパがあなたたちにあたしを探しに来させたんでしょう?

かき氷:うん……茜ちゃんだよね?

少女:そうよ!でも、あたしはあなたたちと一緒に行きたくないわ、でも……

かき氷:……


───

……

・でも、何?

・……?

・何かやりたい事があるのね、聞かせて!

───


少女:あたしと一緒に遊園地で楽しく遊んでくれたら、行ってあげても良いわ!あたしは思いっきり遊びたいの!今まで遊園地に行った事がなかったから。まだ入る方法を見つける前に、あなたたちに見つけられちゃったのよ!


 少女が指さしたのはこの町で一番大きな遊園地。その中から楽しそうな笑い声とアトラクションの音が聞こえてきて、彼女のテンションも上がっていた。

 彼女の笑顔からはわがままそして憧れも見えた。しかし、りんご飴は彼女の表情を見て少しだけ顔をしかめた。


りんご飴:(彼女は……どうして……少し悲しそうに見えるんだろう……)

少女:一緒に遊ぼうよ!一回だけ!お願い!あたし、友だちとここに来た事ないの!遊んでくれたら帰るから!だから、お願い!

かき氷:……


 りんご飴の袖が引かれた、彼女が振り返るとかき氷が彼女を手招いていたのが見えた。かき氷は彼女の耳元で何かを囁いた。


かき氷:彼女は普通の人間だし、直接連れて帰ろうよ。


 かき氷の解せないという視線を注がれたりんご飴は軽く頭を横に振った。


りんご飴:大丈夫、行ってみよう。

かき氷:……?

りんご飴抹茶さんにもっと時間をあげないと。この件はそんな簡単な物じゃない気がする。

少女:ねぇ、二人でこそこそと何を言ってるの?あたしにも聞かせてー

りんご飴:ううん、何でもないよ。どこから遊ぼうかなって。さあ、行こう!


1-4


隣人(女性):キャーーー!

隣人(男性):フゥーーー!


 遊園地の客たちの絶叫の中で、りんご飴は遊園地に入って更にテンションを上げた茜にコーヒーカップの近くまで引っ張られた。彼女がコーヒカップに向けた目は、興奮してキラキラしていた。


少女:これはどうやって遊ぶの?力いっぱい回せばいいの?!ずっと回るの?!そうなのね?!

かき氷:うーん……そうみたい……


───

えっ、待って!ちょっと、ゆっくりうわーーーーー!

・かかかかかき冰ーー!!

・速すぎるよ!

・茜ちゃん待って!!!

───


少女:わーい!

かき氷:……うっ!

りんご飴:やあああああああーーーーー!


 しばらくして、コーヒカップ近くのベンチにて。


少女:うえっ……速すぎた……うえっーーーーー

りんご飴:ゴホゴホッ……うえっ……気持ち悪い…………

かき氷:はい、水。

りんご飴:……あ……ありがとう……茜ちゃん……コーヒカップはそうやって遊ぶ物じゃないよ……ゲホゴホッ……


 冷たい水が喉を通って、眩暈が少し緩和された。数分にも渡る回転の中、ハイテンションな茜を前に、りんご飴はこの世に別れを告げるような錯覚を覚えた。

 気持ちよくはしゃいだ茜もベンチにドカッと座って、息を荒くしていた。顔が青くなっているりんご飴と違い、回転し過ぎた事で気持ち悪くなってはいたが、すぐに落ち着いて次のターゲットを物色していた。


少女:楽しかった、こんなの初めてだわ!あっ!あれは!あれは何!

かき氷:あ、あれはジェットコースター……

少女:あれがジェットコースター?!乗りたい乗りたい!行こう!りんご飴行こうよ!

りんご飴:えっ?!無理……無理無理、少し休ませて!もう限界!

少女:イヤよ!あと一日しかないのだから、思いっきり遊びたいの!

かき氷:……一日しか、ない?

少女:行こう行こう!

りんご飴:茜ちゃん、本当に一回もここに来た事がないの?お父さんにも連れて来てもらってないの?

少女:……

りんご飴:あの……茜ちゃん?

少女:ううん、何でもない!早く行こう!


 少女は一瞬だけ口角を下げたがすぐにまた上げてた。その様子を見たりんご飴かき氷はお互いに目配せをした。少女はというと、スカートを掴んでいた手を放して、二人の手を取った。


少女:行こう!約束してくれたでしょう!今日は一日付き合ってくれるって!


1-6


日暮里探偵社にて。


 窓から陽ざしが射し込み、床に光の模様を描いた。明るい光はソファーに座っていた二人には届いていない。ずっと冷静な表情を浮かべている抹茶と比べると、その向かいに座る男性は額から玉のような汗を流していた。


依頼人:探偵社の……社長さんですよね。あの、もし他に何もなければ……先に失礼しても……私はまだやる事があるので、茜ももしかしたらもう家に帰っているかもしれません……私は家で彼女の帰りを待たないと……

抹茶:茜さんは……ご自宅に……帰りますでしょうか?

依頼人:……

依頼人:何を仰っているんですか。茜は私の娘です、家に帰らないで、どこへ行けると言うのですか?

抹茶:お客様のお嬢さん……ですか……

依頼人:何もないなら、失礼致します……用事があるので、ここで油を売ってるわけにはいきません。


───

……

・(やはりそうですか。)

・(こんな時に、そんな話をするなんて。)

・(彼の言葉から、娘さんへの愛を感じられない……)

───


抹茶:……ではお客様にとって、茜さんはどういう存在でしょうか?


 同じころ、遊園地のショップにて。


少女:着てみて!ほら!

少女:これカワイイじゃないの!りんご飴に絶対似合うわ!


 りんご飴はドレスを持って、怪訝そうに興奮している少女を見ていた。

(さっきまでショーウインドウに張り付いて、目をキラキラさせていた女の子が、自分でこのカワイらしい服を着ようとしていないなんて……?)


少女:早く早く!

りんご飴:茜ちゃんは着ないの?


 りんご飴は不思議そうに茜の事を見ていた。

先程まで興奮していた様子から、少女はこのドレスの事を大層気に入ってる事が伺えた。しかし、今は他の誰かにこれを着せようとしている。


少女:えっ……あたしは……いいよ!着ても似合わない!似合わないから……


 少女が慌てて否定している様子を見て、りんご飴は首を傾げた。ただ彼女が更に問い詰める前に、茜によって試着室に押し込まれてしまった。


少女:えへへ……怖がらないで、優しくしてあげるわー!

りんご飴:じ、自分で出来る!こ、来ないで!いや、私の服を脱がさないで!


2-2


 キャンディ色のドレスに強制的に着替えさせられたりんご飴は、多くの客の注目の中、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。膨れた頬から、彼女は今怒っているという事実が伺えた。


りんご飴:……

少女:あら、りんご飴、カワイイわ!ほら、怒らないでよー

かき氷:似合ってるよ。

少女:でしょでしょーカワイイ!あたしも着れたら良いのにな……


───

……?

・(どうして着れないんだろう……?)

・(予想が合っているなら……)

・(この不自然な沈黙って……)

───


少女:あっ、いや、なんでもないわ!次行こう!次に!


 手を高く上げて興奮している少女の姿を見て、りんご飴は我に返った。彼女は少し眉をひそめて、笑顔を浮かべている茜を見た。


りんご飴:(…………この子に……一体何があったの……)


 次の瞬間、茜の袖に隠されていた腕の傷がりんご飴の前に現れた。その瞬間、不自然な数々の出来事と脳内の推理が繋がった。


りんご飴:(ひょっとして……私の推理は……当たったの?)


遊園地

デザート屋


少女:美味しい、こんなに美味しいケーキを食べるのは初めて!これも美味しい!あれ?りんご飴かき氷、どうして食べないの?


 少女は何も食べない二人を不思議そうな目で見ていた。


少女:……どうしたの?食欲がないの?あなたたちが食べないならあたしが全部食べちゃうよ?本当に食べるわよ?!

りんご飴:……茜ちゃんは家に帰りたい?

少女:……

少女:……えへへ!言ったでしょう!思いっきり楽しんでからじゃないと、あたしは帰らないわ!

少女:……安心して!遊び尽くしたら!大人しく帰るから、あいつに迷惑掛けさせないから!……大人しく帰るわ……


 少女の声が少しずつ小さくなっていく。かき氷ですら何かがおかしいと気付いた。二人の食霊の女の子は目の前の俯いて、強がった笑顔を見せる茜を見て、拳を握り締めた。


りんご飴:……茜ちゃん、何か手伝える事はない?!

少女:……


 りんご飴は茜の冷たい手を自分の手の上に乗せた。長らく感じてこなかった温度に触れて、ずっと強がって元気を装っていた少女は少しずつ震えだして、綺麗な目には涙が浮かんでいた。


少女:……あなたたちを巻き込んじゃう……警視庁の人だって……あたしの話を信じてくれなかった……

少女:大丈夫!あたしは平気よ!今日はいっぱい遊んで欲しいの!こんなに楽しく遊べたのは……本当に初めてなの……

少女:ごちそうさま!もう十分休んだわよね?ジェットコースターに乗ろう!


2-4

一方

日暮探偵社


依頼人:……は?どういう意味ですか……も、もちろん最愛の娘ですよ!抹茶さんはユーモアに富んだ人ですねアハハッ……

抹茶:本当に……所有物ではなく……娘として扱っていますか?

依頼人:……

抹茶:友人から聞いた話ですが。茜さんのお母様がまだいらしていた頃は、彼女は元気で明るい女の子だったと。お客様が仰ったような……内向的で、臆病で、誰にも会いたくないような子ではないと。

依頼人:……妻がいなくなった事で、彼女に大きなショックを与えたのは事実です。

依頼人:抹茶さん、少し踏み込みすぎではないですか?茜を連れ戻してくだされば、それ相応の報酬を支払います。他の事は、貴方たちには関係ありません。


 男の顔から以前までの温和で冷静な表情が消え、敵意すら滲み出ている冷たい表情で、顔色一つ変えない抹茶を見ていた。


抹茶:お客様、どうしてそんなに緊張されてるのですか?僕はしがない小さな探偵社の社長に過ぎませんよ。

依頼人:フン、そうだ、貴方はただの小さな探偵社の社長だ、だから……

抹茶:だから、お客様は警視庁の力を借りる事で、例え僕が何を知ったとしても、何も出来ないと?

依頼人:……

抹茶:だから、彼らは奥様の助けを求める声も、茜さんの救いを求める声も全て無視してきた。お客様はきっと財力を笠に着てきたのでしょう……

抹茶:確かに財力はお客様の力です……そのため、お客様は全てが自分の思い通りになると思っているのでしょう……

依頼人:……もう全部知ってるなら、話は早い。で、いくら欲しいんだ?

抹茶:食霊の僕たちにとって、お金はどうでも良い物です……

依頼人:……じゃあ、何が欲しいんだ?


───

……

・(仕方ない。)

・(終わりましたね。)

・(この方法しかないのでしょうか。)

───


 抹茶は獰猛になっていく男を見て、仕方なく茶碗を机の上に置いた。


抹茶:……元々……お客様には改心する可能性があると思っていました……貴方も知っているはずです、この世はそう簡単に思い通りにならないと。

抹茶:ほら、茜さんはもう不平に抗う事を覚えました。では、もっと強い力を持つ僕たちは、彼女の勇気に応じなければなりませんよね?


遊園地

花火大会


 いつの間にか空は暗くなっていた。

最後の陽ざしが消えると共に、夜の帳は完全に下りた。

遊園地のスポットライトは一気に点灯し、様々なカワイイ動物の影絵が地面に映し出された。ライトの光と影絵が交錯する中、遊園地の客たちは遊園地で一番広い広場に集まっていた。

 ドンッーー

 花火が空でパッと咲いた。大きな音と共に、七色の光の帯が広がり、そこにいる全ての人の目に七色の星空を映し出した。

 最後の火花が流星のように落ち、しばらくして観客たちはやっと我に返った。茜もぼんやりと静かな夜空を見ていた。


りんご飴:茜ちゃん?茜ちゃん、もう終わったよ。

少女:あっ、そうだよね……終わっちゃった……

りんご飴:じゃあ、帰ろう、え!茜ちゃん、どうして泣いてるの!


 少女の目から流れ落ちた雫は地面で散った。茜は必死で笑顔を保とうとするが、涙は止めどなく溢れてた。


少女:うっ……どうして止まらないの、最後は笑顔を見せたかったのに……

少女:今日はすごく楽しかった……嬉しかった……でもまだ満足できてないの……

少女:今日をずっと覚えておくって決めたのに……どうして最後は涙でお別れしないといけないの……

りんご飴:茜ちゃん……大丈夫だよ。今度、また一緒に遊ぼう。

かき氷:……泣かないで。

少女:…………今度なんて、ないよ。


2-6


少女:…………今度なんて、ないよ。

りんご飴:えっ?

少女:ううん、もう帰らないと。


 茜は優しい笑顔を浮かべた、今日りんご飴たちが知り合った元気いっぱいの女の子とはまるで別人のような笑顔を。

この優しい笑顔の裏にあるのは、彼女たちにもわからない気持ち。諦めの意味も込められた笑顔は、珍しくかき氷の胸を詰まらせた。

 かき氷は自分の服の胸元を握り締めた。


かき氷:(どうして……息が……苦しいの……)

少女:行こう、もうすぐ閉園の時間よ。

少女:行こう……全てが終わる時間だ……

りんご飴:全て?

少女:ふふっ、今日が終わるっていう意味よ。行こう、あたしを家まで送って?今日だけの、あたしの親友たちー


 巨大な邸宅の前に立っている三人の少女は、薄気味悪い雰囲気のせいで少し震えていた。


りんご飴:あ、茜ちゃん……本当に帰るの?私たちが中まで送ってあげるよ!


 強がっているりんご飴を見て、茜は笑いだした。


少女:誰だって、自分の苦難に立ち向かわなければいけないわ。でも、あたしは今日一緒に楽しく過ごせた友だちに知り合う事ができた!あたしは二人の事を絶対に忘れないよ!

りんご飴:茜ちゃん……

少女:もう良いよ、ここでお別れしよう。中に入ると、あいつに怒られちゃうわ。

りんご飴:……


 茜はりんご飴と繋いでいた手を離した、そして隣のかき氷の方を見た。


少女:かき氷……あまり喋ってなかったけど、こんなに長く付き合ってくれてありがとう!かき氷みたいなカッコ良い女の子が大好きだわ……あなたのような人になりたい……

かき氷:……

少女:あっ……話し過ぎちゃった。じゃあ、さようなら。

かき氷:待って!

少女:うん……?

かき氷:……ありがとう……

少女:えっ?どうしてあたしに?感謝すべきなのはあたしの方だわ。もう行くね。


 かき氷はまだ自分の服の胸元を握り締めていた。彼女自身でも茜に何を感謝しているかわからなかった。しかし茜の笑顔を見た時、探していた何かを見付けられた感覚がした……

 だけど……その感覚は気持ちの良いものではなかった……

 茜が一歩一歩邸宅に近づいて行くのを見て、残された二人は長い間沈黙していた。


りんご飴:私たちも……帰ろう……


───

……うん……

・茜ちゃんに会いに行こう。

・探偵社に帰ろう。

・どこに?

───


りんご飴:……


 二人は暗い道を歩いていた。普段のりんご飴なら、暗い光に照らされた草花にも目を向けて、その独特の魅力を探っていただろう。しかし、今日の彼女に、それらを観察したい気持ちはなかった……


りんご飴:……かき氷……

かき氷:……

りんご飴:茜ちゃんに……会いたいよ……

かき氷:……どうして?

りんご飴:知りたいの、彼女は一体何を経験したのか……家に帰りたくないなら、ここから連れ出したい……えっ!かき氷どこに行くの?!

かき氷:茜ちゃんのところ。

りんご飴:でも……抹茶さんたちに迷惑を掛けるかもしれない――

かき氷抹茶さんたちは気にしないと思うよ。

りんご飴:……

かき氷:行こう、彼女に会いに。


 かき氷は珍しく自分からりんご飴の手を引いた。驚いたりんご飴の視線は、彼女たちを恐怖に陥らせた邸宅の方に向かった。

 邸宅は二人の想像と違い、茜が帰っても温かな光が灯る事はなかった。

この暗く薄気味悪い邸宅は、まるで二人の気持ちのようだった。


かき氷:……入ろう。

りんご飴:うん!


りんご飴√宝箱


 かき氷の助けでりんご飴は邸宅を囲む高い壁を乗り越えた。この壁は境界線のように、邸宅と邸宅の外を二つの世界に分断していた。

 二人は腰を折ってこそこそ宅に潜入した。でも思いの外、この宅の中に警備はない、とても静かな場所。


りんご飴:茜ちゃんはどこにいるの?

かき氷:もう少し探してみよう?

???:やめて――やめて――すみません、もう二度としませんから!


 凄惨な悲鳴を聞いた二人はすぐ立ち上がった。かき氷は声の方向に階段を登る。りんご飴は地団駄を踏む。


りんご飴:あいつ!!あ――かき氷待って!

少女:いや――――!!!!

かき氷:動くな!

少女:か、かき氷姉さん!どうしてここに?!

依頼人:お前は誰だ!なぜ俺の家にいる!

りんご飴:やっぱり!君がずっと茜ちゃんを虐待してたから茜ちゃんは家出したんだ!

依頼人:お前らには関係ないだろ?!これは俺の娘だ!これの全ては俺がくれてやったんだ!出て行け!あぁ、思い出した、お前らはあの探偵社の連中か!お前らの探偵社を潰してやる!


 本性がバレた男は怒り狂って茜を守る二人の少女を見ていた。彼の表情は醜く歪んでいた。高く上げた杖を振り下ろそうとした瞬間、かき氷は慌ててりんご飴と茜を背後に匿った……


玉子焼き:動くな!


 キンッーー

 鋭い光が一閃し、冷たい光を放つ太刀が杖を食い止めた。いつの間にか少女たちの前に現れた玉子焼き、その凛然とした視線を浴びた男は後ずさった。


依頼人:お、お前は誰だ!

玉子焼き:私はこの町の巡査です!傷害罪の現行犯として逮捕する!

依頼人:……お前、俺が誰だかわからないのか?!

玉子焼き:誰であろうと、私は全ての犯罪者に対して最も公平で公正な裁きを下すまでです!


 邸宅の入口。

 玉子焼きに連れて行かれた男を見て、茜は心配そうな目で傍に居る二人を見た。


少女:……助けてくれてありがとう……でも……こんな事したら……探偵社……あとあなたたちの友達だってあいつに……

りんご飴:安心して、私たちは強いから!

かき氷:うん!

少女:……

りんご飴:この後の事なら、この名探偵りんご飴にお任せあれ!でも茜ちゃん、報酬を支払ってくれないと、家賃すら払えなくなっちゃう……

少女:今は家賃の心配をしている場合じゃないでしょう!ほら……早く友達と一緒にこんな場所から離れて……

りんご飴:アハハッ、心配ご無用。どうして玉子焼きが急にここに現れたかわかる?うちの英明(えいめい)な社長さんにはきっと何か考えがある筈だわ!

少女:うん?

りんご飴:ただ、茜ちゃん、後ろに隠したナイフを私に渡してくれない?


 急に優しい口調で話しかけるりんご飴に、茜は無意識に後ずさった。


少女:……

りんご飴:約束するよ、これから私たちの力を借りたい時は、私たち探偵社の者が必ず傍にいてあげる。だから、あの男みたいな間違った道を歩いてはいけないよ?良いわね?

少女:……本当に……助かるの?

りんご飴:絶対、大丈夫。

かき氷:そうだよ、約束する。

少女:うん……


抹茶√宝箱


 かき氷の助けでりんご飴は邸宅を囲む高い壁を乗り越えた。この壁は分界線のように、宅と外、二つの世界を分けた。

 二人は腰を折ってこそこそ宅に潜入した。でも思いの外、この宅の中に警備はない、とても静かな場所。


りんご飴:茜ちゃんはどこにいるの?

かき氷:もう少し探してみよう?

???:やめて――やめて――すみません、もう二度としませんから!


 凄惨な悲鳴を聞いた二人はすぐ立ち上がった。かき氷は声の方向に階段を登る。りんご飴は地団駄を踏む。


りんご飴:あいつ!!あ――かき氷待って!

少女:いや――――!!!!

かき氷:動くな!

少女:か、かき氷姉さん!どうしてここに?!

依頼人:お前は誰だ!なぜ俺の家にいる!

りんご飴:やっぱり!君がずっと茜ちゃんを虐待してたから茜ちゃんは家出したんだ!

依頼人:お前らには関係ないだろ?!これは俺の娘だ!これの全ては俺がくれてやったんだ!出て行け!あぁ、思い出した、お前らはあの探偵社の連中か!お前らの探偵社を潰してやる!


 本性がバレた男は怒り狂って茜を守る二人の少女を見ていた。彼の表情は醜く歪んでいた。高く上げた杖を振り下ろそうとした瞬間、かき氷は慌ててりんご飴と茜を背後に匿った……


玉子焼き:動くな!


 キンッーー

 鋭い光が一閃し、冷たい光を放つ太刀が杖を食い止めた。いつの間にか少女たちの前に現れた玉子焼き、その凛然とした視線を浴びた男は後ずさった。


依頼人:お、お前は誰だ!

玉子焼き:私はこの町の巡査です!傷害罪の現行犯として逮捕する!

依頼人:……お前、俺が誰だかわからないのか?!

玉子焼き:誰であろうと、私は全ての犯罪者に対して最も公平で公正な裁きを下すまでです!


 邸宅の遠くない場所にて。


玉子焼き抹茶さん!この度の通報誠にありがとうございました。これ程長い間、警視庁があの男の行いに気付く事が出来ていなかったなんて。申し訳ございませんでした。

抹茶:いいえ、自分を責めないでください。全ての巡察が君のように権力と金銭に目が眩まない訳ではありませんから。彼がこれ程長い間君たちを誤魔化せたのは理由があったのです。

玉子焼き:しかし……

抹茶:君は既に彼を逮捕して、やるべき事をやりました。君の祖母は君の事を誇りに思うでしょう。

玉子焼き:……はい、しかし将来彼が抹茶さんたちに報復するのではと、心配しています。

抹茶:それなら、最も心配するべきなのは君自身ではありませんか?彼の事を思いっきり殴りましたよね。

玉子焼き抹茶さん、私は冗談を言っていいる訳ではありません。

抹茶:はい、お気持ちは感謝致します。しかし心配しないでください、彼にこれ以上人を傷つけさせません、茜さんそして僕たちも含め。

玉子焼き:……?

抹茶:権力や金銭は、一時的に武力と対抗する事は出来ますが、長く持つ物では決してありません。対抗できるのは、正義を貫き通している微弱な光と、そして……少しの計略です。

玉子焼き:計略?

抹茶:シーッ、この後の事はあの二人に任せましょう。

玉子焼き:あの、抹茶さん、本当に彼女たちにあなたがなさった事を伝えなくても宜しいのでしょうか?

抹茶:彼女たちの方が、あの少女により良い結末を与える事が出来ると、僕は信じています。


数か月後

日暮探偵社


りんご飴:ええっ!かき氷、聞いた?

かき氷:うん?

りんご飴:茜ちゃんを虐待したあのくそ親父からお金を貰って真実を隠蔽していた警視庁の高官たちが全員飛ばされたんだって!

かき氷:……?

りんご飴:彼らの行為に長い間不満を抱いていたけど彼らを処理できずにいた長官が、急に汚職の証拠を持って現れたみたいよ。あいつらは全員不意を突かれて、一網打尽にされたらしいわ!

かき氷:……

りんご飴:えっ!抹茶さんを見てどうしたの?早く着替えて!茜ちゃんと遊園地に行く約束をしたでしょう!今回は彼女にお好み焼きを紹介してあげないと!早く早く!遅れたらみんなにデザートを奢る事になっちゃうよ!

かき氷:うん、今行く。



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