夜明け来る城・ストーリー
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夜明け来る城
プロローグ
光耀大陸
南離市
南離市は光耀大陸の玄関口であるため、各国の文化がこの地でぶつかり合い、入り交じるようになった。各地の美食、建築物、芸術、更には堕神や食霊に関する最先端技術などが集まり、独特な都市が形成された。
夜が更けたが、南離市の中心部は明かりがついたまま眠らない。しかし周囲の地域は既に闇に呑まれ、空には数える程の星が見えているだけ。中心部と周囲は明確に分けられていた。
庭付きの洋館の中、ヨンジーガムロはバルコニーに立ち、景色を見ながら絵を描いていた。描かれている景色と実際の景色は似ても似つかなかった。
絵の中の都市は全てが明るく、空に浮かぶ満月と輝きを争っていた。あちこちに灯りがついており、街道はまるで昼間のようだった。
突然の来客によってヨンジーガムロの創作は中断された。来客は彼女の御侍が生前選んだ後継者、監督局の現監督官だ。
ヨンジーガムロ:鐘さん、遅くにどうしたの――何か急用でもあるの?
鍾監督官:明日午後地下オークションが開催されるという情報がさっき入ってきた。君の作品もリストに載ってるらしい!あれだ……前監督官が一番好きだった、雨上がりの虹を描いた作品だ。
ヨンジーガムロ:「雨上がりの郊野」?まさか、それは私の手元にあるわよ。
鍾監督官:本当か?この情報源は確かなんだがな……最近怪しい人と接触していないか?盗まれたりはしていないか?
ヨンジーガムロ:……鐘さん、その絵は御侍様のオフィスに飾ってますわ。毎日掃除に行っているし、なくなってたら絶対に気付くわよ。
鍾監督官:君……はぁ、もう何年経ったと思ってるんだ、まだそんな事をやってたのか。もし前監督官がそれを知ったら、心配するだろう。
ヨンジーガムロ:もぉ、私は大丈夫だわ。それより、そのオークションをどうするつもり?
鍾監督官:……正直なところ、このオークションは何回も行われてきたが、ずっと尻尾を掴めていないんだ。
鍾監督官:相手はとても慎重で、対外的には普通の美術展を装っていて、私たち調査員はどうしたって取引の現場に辿り着けない。
ヨンジーガムロ:……なら、鐘さん、今回は私に行かせて。
鍾監督官:出来るか!ダメだダメだ!危険だ。
ヨンジーガムロ:あら、私は一応食霊だわ、しかも御侍様から偵察のテクニックを教わってるし。鐘さん――鐘おじさん、まさか私の事が信じられないの!
鍾監督官:違う、これは私たち監督官の仕事だ、余計な事をしなくて良い。
ヨンジーガムロ:フンッ、余計な事って何よ、オークションに掛けられているのは私の作品よ――誰にも私の芸術を破壊させないわ!貴方たちの調査員じゃ調べられないんでしょ!
ヨンジーガムロ:いつも外を散策するように言ってくるのに、今回は行かせてくれないなんて……たかが美術展じゃない、行ってみたいわ、早く住所を教えて~
鍾監督官:はぁ、わかったわかった。でも絶対無茶はしないと約束してくれ。
ヨンジーガムロ:わかってるわよ、鐘さん安心して。
鍾監督官:あと、明日は会場近くで待ち伏せするつもりだ。もし何かあったら、すぐに私に連絡しろ、無茶だけはするな、わかったか?
ヨンジーガムロ:はいはい、わかったわ!
ストーリー1-2
翌日夕方
ホテルのロビー
回転ドアを通ると、町の喧騒はすぐに聞こえなくなった。青銅で作られた彫像、水晶で出来たシャンデリア、一目見ただけで柔らかさが伝わってくる絨毯に、休憩エリアから聴こえてくるピアノ演奏、そこにはリラックス出来る空間が広がっていた。
ヨンジーガムロはサングラスを頭にずらし、すぐに美術展の看板を見つけ、それに従って会場に辿り着いた。
会場はロビーの隅にあった。雑な設営を見て、ヨンジーガムロは心の中で低評価を下した。作品を見るフリをしながら、自分にしか聞こえない声でぶつぶつと呟き始めた。
ヨンジーガムロ:フンッ、何が美術展よ、素人しか誤魔化せないわ……あら?でもこの彫刻は悪くないわ、誰の作品かしら。
ヨンジーガムロ:あっ……ダメ、調査をしに来たのよ、作品を見に来たわけじゃないわ。しかしこんな小さな場所で、オークションなんて出来ないわね?
スタッフ:おいっ、お嬢ちゃん下がって、ここは勝手に入って良い場所じゃない。
曲がり角から突然飛んで来た声でヨンジーガムロは驚いた。
ヨンジーガムロ:あら?どうしたの?
顔を出してみると、上の階に繋がる階段の前に、スタッフ四人が立ち塞がっていた。一人の少女はその場に立ち尽くして、何も言わない。ヨンジーガムロは少し考えて、ゆっくりと近づいて行った。
───
ハイ、お兄さん方……
・ここでオークションが開催されるって聞いたけれど、本当?
・乱暴しないで、人を呼ぶわよ。
・上にも展示があるの?
───
スタッフ:お客様、上の階は貸切られており、条件を満たした者のみ参加出来ます。我々は規定に従って仕事をしているだけです。
一人のスタッフが小さな紙片を取り出し、ヨンジーガムロに見せた。横にいた少女がそれを覗いたのを、ヨンジーガムロは止めなかった。しかし紙片に書かれていた内容に彼女は驚いた。
ヨンジーガムロ:わおっ、これだけの現金を持っていないと入場出来ないのね。
スタッフ:十分な資金がないなら、どうか一階で鑑賞を続けてください。
ヨンジーガムロ:……鐘さんの調査員が入れない訳だわ、こんな大金持ってる筈ないもの。あれ……私のカードは……今日持って来たかしら……
スタッフ:何か仰いましたか?
ヨンジーガムロ:いえ。さあ、お嬢ちゃんも邪魔しないであげて。ここは遊び場じゃないわ、他の所で遊んできて。
生姜牛乳プリン:あたしはお嬢ちゃんなんかじゃない!生姜牛乳プリンという名前があるわ!
生姜牛乳プリンは言い終えると、無表情でその場を離れた。離れる時、危うくヨンジーガムロにぶつかるところだった。
ヨンジーガムロ:ねぇ?!貴方――
生姜牛乳プリンに詰め寄ろうとしたヨンジーガムロだったが、その背中を見ながら眉をひそめた。
ヨンジーガムロ:(これは……食霊の霊力?彼女も食霊だわ!どうして一人でこんな所に、まさか……)
ヨンジーガムロ:まあ良いわ……まず入場して調査を進めなければ……あっ!見付けた!私のカード!
ハンドバッグの奥から銀行カードを取り出したヨンジーガムロは、長く息を吐いてから自信満々の笑みを浮かべた。
ヨンジーガムロ:ねぇ、そこの大きいお兄さん~近くで現金を引き出せる場所はあるかしら?
スタッフ:お客様、直接こちらで引き出せます。
ヨンジーガムロ:ふっ……親切だと……褒めるべきかしら……
ストーリー1-4
ヨンジーガムロは現金が入った重たいケースを運びながら、無事二階に上がる事が出来た。会議室が格調高く設営され、美術品はカテゴリに分けられてそれぞれガラスケースの中に飾られていた。ライトに照らされ、高貴な雰囲気を醸し出していた。
ヨンジーガムロ:あら~これでこそ美術展だわ!まあ所詮は……ゴホゴホッ、とにかく主催者の趣味は悪くないわね。
この時、入口にいたスタッフが準備したショッピングカートをヨンジーガムロに渡した。この非日常的な動作はヨンジーガムロを戸惑わせた。しかし人目に付かないよう、彼女は郷に入っては郷に従うしかなかった。
ヨンジーガムロ:信じられない?!さっきの評価を撤回するわ……どうして、美術展を、こんな風にしたの!美術品のバーゲンセールか何か?とんだ茶番だわ!
複雑な気持ちを抱えたまま、ヨンジーガムロは会場にいる一人一人を見て、全員からおかしな雰囲気を感じ取った! きちんとした身なりをしているのに、全員芸術を殺す共犯者にしか見えない……
やっと冷静になった頃、ヨンジーガムロは自分の絵を見つけた。絵の前には真面目そうな青年が立っていて、真剣に贋作を眺めていた。
ヨンジーガムロ:……やっと見つけた!本当に「雨上がりの郊野」だわ……
青年:貴方もこの絵を美しいとお思いですか?
ヨンジーガムロ:……貴方は?
青年:私はヨンジーガムロ先生の忠実なファンです。貴方は存じ上げていないかもそれませんが、この「雨上がりの郊野」は、先生の初期の作品なんです。
青年:まだ未熟ではありますが、天性の才能を感じます。眺めているだけで俗世間の事を忘れさせてくれて、喜びを感じさせてくれる!
ヨンジーガムロ:せ……先生……
青年:いかがですか?!もしや貴方も先生のファンですか――
ヨンジーガムロ:いえ、お邪魔しました……引き続き鑑賞してください……
ヨンジーガムロは決まりが悪そうに笑いながらその場を離れた。彼女は乾いた唇を舐めて、少し気まずそうに自分の頬を擦って、小声で呟き始めた。
ヨンジーガムロ:……まさか私のファンだとは思わなかったわ……だけど……贋作の前で出会うなんて……いたたまれないわ……
ヨンジーガムロ:あっ、彼女は……
先程下の階で出会った少女の辛口評価を聞いて、ヨンジーガムロは泣くにも泣けず笑うにも笑えない気持ちになった。
ヨンジーガムロ:(何か気に障る事をしたのかしら……本当にハッキリ言ってくれるわね……)
青年:フンッ、子どもに何がわかる。この絵の真髄も理解しないで、デタラメを言うな!先生を侮辱するな!
生姜牛乳プリン:真髄?芸術のために芸術をするのなんて、極端に陥ってしまうだけよ。偽物の美というのは、現実逃避の創作に過ぎないわ。
青年:何を言ってるんだ!芸術は現実を超えるべきだ!
指で髪をいじりながら二人の論争を見て、ヨンジーガムロは自分の過去を思い返していた。
あの時の自分は、育成センターの小さな部屋に閉じ込められていた。外の世界を妄想する事しか出来ず、もし御侍に連れ出されなかったら……
とにかく、生姜牛乳プリンの言う通り初期の作品は理想が高過ぎていた事を、ヨンジーガムロは認めていた。
ヨンジーガムロ:……
生姜牛乳プリン:あたしが知っている限り、ヨンジーガムロは最先端の芸術家として知られているけど、彼女の作品は滅多に出回る事はないから、一般人にはあまり知られていない。だけどその作品は頻繁に高値で取引されている。
生姜牛乳プリン:期待していたけど、この目の前の作品は、芸術という観点からも、技術という観点からも、こんな高値に値しないわ!
青年:貴様……ガキに何がわかる!本当の芸術の前で大口を叩くな!どっか行け!もう二度と顔を見せるな!
青年はキレながら生姜牛乳プリンを追い払った後、申し訳なさそうに振り返って近くにいたヨンジーガムロの方を見た。
青年:どうかあの女の子の言う事を信じないでください。ヨンジーガムロ先生は真の芸術家です、彼女の作品は美の象徴、未来の象徴です!それこそ私の憧れた世界なんです!
ヨンジーガムロ:(……褒められるのは嬉しいけれど……だけど……この絵は私と御侍様にとっては大切だけど、純粋に芸術の観点から見ると、確かに……はぁ……しかもこれは私が描いた物ではないし!)
ヨンジーガムロ:貴方はこの絵を大層気に入っているようだけど、買うつもりなの?
青年:その通りです!今日はこの絵のためにここに来ました。貴方は美しい、しかしこの絵だけはどうしたって譲れません。
───
しかし、この値段は高過ぎないかしら?貴方が追い求めているのは自分の執念のため?それとも……
・それともこの絵の芸術造詣?
・それともこの絵その物の価値?
・それともこの絵の裏にある物語?
───
青年:……
ヨンジーガムロ:私にとって、芸術に必要なのは真の共鳴であって、値段を吊り上げる事ではないわ。こんな風に高尚にすぎて大衆に理解されなくなるのなら、その価値は既に失われてしまっているわ!もしかしたら……ヨンジーガムロ自身も、このような情景を見たくはないでしょう。
ストーリー1-6
高尚な美術展、華麗な衣服を身に纏う貴婦人と紳士たち、現金がたくさん積まれたショッピングカート。普通のオークション会場では絶対に見る事の出来ない光景、これはまるで風刺画のようだった。
ヨンジーガムロ:はぁ……何の手掛かりもみつからないし、あいつに追い払われてしまったわ……贋作を競り落とそうとしたのに……値段を高く吊り上げすぎよ……
恨めしそうに長い溜息をついて、ヨンジーガムロはなりふり構わずベンチの上に座り込んだ。
客:なんだこの嬢ちゃんは!
客:マネージャー早く来てどうにかしてくれ!
騒がしい話し声につられ、ヨンジーガムロは声のする方を見た。人に囲まれていたのは生姜牛乳プリンだった。
マネージャー:お嬢さん、展示物は勝手に触ってはいけませんよ。本当に欲しいのなら、落札しなければなりません。
生姜牛乳プリン:だけど、これは元々他人の物だわ。
マネージャーは心の中で一瞬慌てたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
マネージャー:お嬢さん、これは確かに私たちの展示物です。貴方がこれを欲しがっているからと言って、タダで差し上げる事は出来ませんよ。誰であっても、ルールに従って頂かないと。皆さんも、そうでしょう?
客:そうだ、ショーケースに飾られているのに、どうしてあんたの物になるんだ?
客:本当に欲しいなら買えばいい、いくらもしないだろう。
生姜牛乳プリンはいくつもの声に包まれていた。ヨンジーガムロはその様子を見て思わずため息をついた。食霊の力は人間を遥かに超えるが、ここ南離では食霊であっても法律を守らなければならない。
ヨンジーガムロは心の中で生姜牛乳プリンが余計な行動をしないよう祈りながら、彼女を見つめた。人々の話し声は止まらない、生姜牛乳プリンは遂に口を開いた。
生姜牛乳プリン:なら、買うわ。だけどどこでこれを手に入れたか教えてもらいたい。
マネージャー:……勿論ですとも!しかし、ここはオークション形式を取っています。この場にいる全員が参加出来て、一番高値を出した人がこの展示物を落札できる……お嬢さん、お金は足りますか?
マネージャーは口でそう言いながら、人ごみの中にいる仲間に目配せをした。
オークションではよくある場面だ。値段を吊り上げて、言いがかりをつけてきた人に買わせなければ、もう相手をしなくても良くなるという算段。
客:四倍出す!
マネージャー:四倍――お嬢さん、貴方はどうでしょう?
マネージャーは価格を更新し、ニコニコしながら生姜牛乳プリンを見た。ヨンジーガムロは最新の価格を見た生姜牛乳プリンが、眉間に皺を寄せて、服の裾を握り締めている様子を見ていた。
マネージャー:お嬢さん、もっと高値を出せますか?
生姜牛乳プリンは少し項垂れて落ち込んだ、しかしその目に映る諦めきれない気持ちを見たヨンジーガムロは思わず唇を噛みしめた。
マネージャー:四倍一回目、四倍二回目……はぁ、この珍しいルビーの懐中時計はこの女性の物になるみたいですね。
───
待って――
・私が貰うわ。
・私が買うわ!
・十倍出すわ!
───
この時、全員の視線はヨンジーガムロに注がれた。しかし彼女が気にしていたのは生姜牛乳プリンだけだった。彼女は驚きと困惑の表情を浮かべている生姜牛乳プリンの元に近づいて行った。
ストーリー2-2
ホテルのバー
ヨンジーガムロはドリンクを二杯頼みソファーの上に座った。ストローをいじりながら、向かいに座った生姜牛乳プリンを観察した。
ヨンジーガムロ:貴方も感じたわよね?
生姜牛乳プリン:うん、わかってるわ。君も食霊だよね。
ヨンジーガムロは彼女の落ち着いた様子を見て、突然悪戯っぽく笑った。
ヨンジーガムロ:ふふっ、更に言うと、私こそ貴方が言っていた――どうって事ないヨンジーガムロだわ!
生姜牛乳プリン:……
生姜牛乳プリン:その……あたし……
ヨンジーガムロ:正直、さっきの評価に関して、ヨンジーガムロ本人としては――概ね同意しているわ!そして助言をしてくれてありがとう……色々、あったけれど……
ヨンジーガムロ:ふふっ、これからはもう逃げたりしないわ、私の大作を期待していて!ねぇ、その時計は謝礼として――
生姜牛乳プリン:いえ、お金は絶対に返すよ!
ヨンジーガムロ:あら……そう……そんなに高くないから……本当に大丈夫だわ……
生姜牛乳プリンは真面目な顔で首を横に振った。
生姜牛乳プリン:改めて自己紹介させて。あたしは生姜牛乳プリン、アンティーク時計の修復士だよ。……この時計はあるおじいさんの持ち物なの……いつも修理を依頼してくれるの。この懐中時計は彼にとってとても大切な物だと言っていたから、買い戻してくれて本当にありがとう!
ヨンジーガムロ:そうなんだ……じゃあどうしてそんなに大事な懐中時計がこんな場所に……
生姜牛乳プリン:あたしもわからない……おじいさんは懐中時計を博物館に寄贈してより多くの人に見せようとしていたの。だけど少し前、窃盗に遭ったみたいで……
生姜牛乳プリン:その後……文化財修復センターに行った時、偶然このオークションのチラシに懐中時計が載っているのを見て……おじいさんがなくした時計を見つけられると思って……だから……
ヨンジーガムロ:あっ!じゃあこの時計は盗品って事よね?!生姜牛乳プリン、何かこの懐中時計はおじいさんの物である証拠はないかしら?
生姜牛乳プリン:ん……ある!おじいさんがこの懐中時計を持っている写真ならあるよ!
ヨンジーガムロ:良かったわ!
ヨンジーガムロはテーブルを叩き、生姜牛乳プリンの肩を抱きしめて、興奮した様子で精一杯に揺らした。生姜牛乳プリンの髪が乱れ、必死で逃れようとした。
ヨンジーガムロ:これなら十分だわ!無駄遣いにならなくて済んだ、やっぱり私には探偵の才能があるみたいね!
生姜牛乳プリン:あの――ヨンジーガムロさん……あれ?一体何の話を……うぇえ……
───
空には満天の星が浮かんでいて、月はあと少しで満ち、この時は空高く懸かっていた。夜も更け、ホテルの入口は賑やかだった。監督局のライトによって現場は明るく照らされ、包囲されていた。
調査員たちはオークション参加者の身元を一人ずつ調査していた、全ての展示品も押収された。そして今回最も重要な証拠品である――ルビーの懐中時計は、鍾監督官の手元にあった。
ヨンジーガムロ:鍾さん!この懐中時計を返してくれない?
鍾監督官:それはダメだ、案件が終わるまで諦めろ。
ヨンジーガムロ:鍾おじさん~今回手柄を立てたのは私、これも高値で買い戻したのに経費として請求してないし、早めに返してくれても良いじゃない!
鍾監督官:これは今回最重要の物証だ、返してしまったら、後で上司に聞かれた時どう答えたら良いんだ。
───
えっと……
・私の絵があるでしょう?
・鍾おじさん、お願い!
・何か代わりの物を探せば良いじゃない。
───
鍾監督官:それは無理だ、しかも現場で君の絵は見つかっていない。目を付けておいて欲しいと言っていた君のファンも見当たらない。
ヨンジーガムロ:えっ?
生姜牛乳プリン:鍾監督官……割り込んでしまってすみません。この懐中時計の持ち主は、気前の良い老紳士よ。今回時計が盗まれた事で気に病んで今は床に臥せているの……
鍾監督官:気持ちはわかる、しかし決まりは決まりだ――こうしよう、明日上司に報告しておく。君も今回手柄を立てた、特別に処理して貰えるか聞いてみよう。結果が出次第、ヨンジーガムロに連絡させておく。
生姜牛乳プリン:ありがとうございます!
ヨンジーガムロ:鐘さん、ありがとう!
鍾監督官:しかし、盗品の売買は違法だ、不正な金を返す訳にはいかない、わかったか?
ヨンジーガムロ:……良いように使われた気がするわ。
鍾監督官:ゴホゴホッ。オークションの主催者が吐いた、君の絵は「蔵」と自称する奴が売りに来たそうだ。追跡調査するには、もう少し掛かるかもしれない……
鍾監督官:今回の案件は文化財の密貿易も含まれているから、まずそのルートの精査をしなければならない……
ヨンジーガムロ:フンッ!わかったわ!
ストーリー2-4
庭付きの洋館は、前監督官が殉職した後、ヨンジーガムロが相続しここの主人となった。
執事は夜食を持って行った後、ヨンジーガムロの指示に従って先に休む事にした。久しぶりの来客に、彼は喜んだ。
彼は客人も食霊であると気付いていた。これなら自分が老いたとしても、ヨンジーガムロがひとりぼっちにならなくて済む。
長官が息を引き取る前に心配していた事がやっと解決出来ると感じた執事は、ホッとして早々に眠りについた。応接間にいた二人は逆に盛り上がっていた。
ヨンジーガムロ:あああああ――信じられないわ!特別に単独行動を許すとか何とか言っていたくせに……タダ働きさせられただけだわ!
生姜牛乳プリン:……時間には限りがある、まず次どうするかを決めよう。
ヨンジーガムロ:えっ?生姜牛乳プリン冷たいわ!今は絵を売っている奴が「蔵」と自称している以外、なんの手掛かりもないわよね!
生姜牛乳プリン:あたし……その「蔵」の事を知っているかもしれない。
ヨンジーガムロ:誰?誰なの?
生姜牛乳プリン:うん……彼の所でオークションのチラシを見たの。
生姜牛乳プリンは複雑そうな表情を浮かべながら、何やら不愉快な記憶を思い出していた。
生姜牛乳プリン:あの男の名は羊方蔵魚(ようほうそうぎょ)、芸術創作センターの絵師よ。あたしたちの文化財修復センターと同じ、南離印館の傘下にある……
生姜牛乳プリン:だけど、彼は……ある人の命令しか聞かない。もしかしたら、彼らの仕業かもしれない。
ヨンジーガムロ:羊方蔵魚、「蔵」、絵師……きっと彼だわ!生姜牛乳プリン、彼に会わせてくれない?
生姜牛乳プリン:うん!もし本当に彼らの仕業なら、絶対に京醤肉糸(じんじゃんろーす)に伝えて、彼らの正体を暴いてやるわよ!
ヨンジーガムロ:京醤肉糸――その人は南離印館の館長よね?あら、貴方はすごい子だったのね、驚いたわ!
生姜牛乳プリン:うぅ――
軽やかな笑い声は応接間から遠くまで広がった。古い歴史を持つ洋館に、久しぶりに楽しい時間が流れた。
翌日午後
文化財修復センター
ヨンジーガムロはフル装備で生姜牛乳プリンと共に文化財修復センターにやって来た。
生姜牛乳プリン:本当にその服で来たのね……
───
特別な行動には特別なファッションを合わせないと!
・どう?COOLでしょう?
・パーフェクト!
・羨ましい?貴方の分も見繕ってあげるわ!
───
生姜牛乳プリン:大丈夫……時間がもったいないよ。
ヨンジーガムロ(スキン):誰かさんが昼まで寝てたからだわ、呼んでも起きないし!
生姜牛乳プリン:あれは君が遅くまで騒いでたからよ!あたしの睡眠リズムを乱したの!
生姜牛乳プリンは珍しく顔を赤くしていた。まるで時計のように正確な彼女は、ヨンジーガムロの所に行ったら全てが乱れてしまった。恥ずかしいような、怒りたいような、だけどなんだか気楽でもあった。まるで御侍と共に旅をしていた時に戻ったような気がした。
ヨンジーガムロ:ほらほら~早く行こう!
午後の芸術創作センターには誰もいない、空っぽな建物は妙に静かだった。
生姜牛乳プリンはヨンジーガムロをある扉の前まで連れて行った、そして中から少しだらしない男の声が聴こえて来た。
羊方蔵魚:今回は本当に私のせいではないですよ、あんなに早く監督官がやってくるなんて思ってませんでした……
生姜牛乳プリン:やっぱり――
生姜牛乳プリンが扉を開くと、そこには書籍と画用紙が乱雑に積まれた空間があった。まず目にしたのは、優しそうな笑顔を浮かべている青年だった。広い袖口に裾の長い服を着ていて、オーラがあった。
明四喜:……
生姜牛乳プリン:えっ?
羊方蔵魚:へっ!また面倒な奴が来たよ!文化財修復センターはそんなに暇なのか?よくこう毎日毎日うちに来られるな――明四喜様、どうにかしてくださいよ。
羊方蔵魚本人は本棚の後ろに隠れていて、姿が見えない。 明四喜は微笑みながら首を横に振った。生姜牛乳プリンの背後にいるヨンジーガムロを見て、更に笑みを深めた。
明四喜:問い詰める前に、まず不才の言葉を聞いてはくれないだろうか?誤解を避けるために。
ストーリー2-6
明四喜の言葉を聞いた後、生姜牛乳プリンの表情は固まった、彼女はまさか自分が予想していた事とこうも異なるとは思いもしなかった。ヨンジーガムロも目を見開いて、しばらく呆然としていた。
ヨンジーガムロ:つ、つまり……密貿易の事は、とっくに知っていたの?私の絵を偽造したのは、容疑者が私のファンだと知って、これを餌に誘き寄せようとした?
明四喜:勿論です、南離印館は文化財の密貿易を許しません。
明四喜:不才もヨンジーガムロさんに連絡を取ろうと思っていましたが、その過程で作品に危害が及ぶ可能性も鑑みて、このような策を取らせて頂きました。
ヨンジーガムロ:あっ!まずいわ!つまり計画を台無しにしてしまったのね!
羊方蔵魚:そうだそうだ、せっかく完璧な贋作が描けたのに。目標がそれを買えば、その絵に捺した俺の判子を通してあいつの声を盗聴出来たんだけどな……
生姜牛乳プリン:……本当にくだらない能力よ!
羊方蔵魚:チッ、計画を台無しにしたのはあんたらだ。ハッ、ほんと最悪だ!
羊方蔵魚は文句を垂れ流し続けているが、姿を見せる気配はない。明四喜を隔てているため、生姜牛乳プリンは彼をどうにも出来なかった。突然、彼女は何かを思い出したかのように口を開いた。
生姜牛乳プリン:ヨンジーガムロ!会場にいた君のファンが容疑者かもしれない!彼は捕まってないよね?絵は彼に持っていかれたのかも。
ヨンジーガムロ:そう言われると確かにそうだわ……つまり、今彼の事を盗聴出来るという事?!なんて偶然かしら!
明四喜:ふっ、これは運命によって定められた偶然……羊方蔵魚、決着の時です。
全員が静かになり、羊方蔵魚は集中して声を拾い始めた。暗礁に打ち付ける波の音、扉を閉める音、そして静寂。しばらくすると、途切れ途切れに会話の声も聞こえて来た。
羊方蔵魚:これは、海辺にいるようだ。あっ、話し始めた――
羊方蔵魚:クソっ!あのバカ共監督局に捕まってんじゃねーよ……必死でやって来たのに……どうしてだ!
羊方蔵魚:波の音が大きすぎて、はっきり聞こえない――
羊方蔵魚:悔しい……早く船に乗せた……移さなければ……フンッ!なんで南離印館なんかが……俺も……不公平だ……
羊方蔵魚:聞こえてきた内容をその場にいる全員に伝えていたが、騒がしい環境のせいか相手が小声で言っているせいか、途切れ途切れでしか聞き取るのがやっとだった。
羊方蔵魚:いつになったら、世界はこの絵の中みたいに……詐欺、これは詐欺だ……ヨンジーガムロ……全部お前のせいだ……こんなに美しい世界は……存在しないだろ!
羊方蔵魚:あっ……違う……これは……騙された!騙されるとは、あのクソ野郎――
羊方蔵魚:あっ、バレたみたいだ!
羊方蔵魚:まだ喋ってる――絶対に明……
羊方蔵魚はすぐさま明四喜の方に目を配った、その後すぐにわざとらしい大きなため息をついた。
羊方蔵魚:あいつは絵を破壊した、もう何も聞こえない。
明四喜:ああ……気付かれてしまったか。
明四喜はひそめた眉を伸ばし、意味深なため息をついた。
ヨンジーガムロ:あっ!どうしよう!そうだわ、船は海辺にあるはず!監督局に連絡して、調査に向かわせても良い?
生姜牛乳プリン:海に近い場所は多過ぎる、時間も足りないよ。
明四喜:構いませんよ、不才は既に彼の居所を掴みました。ヨンジーガムロさん、監督局に連絡を……続いての事は、協力を仰ぎたいです。
───
わかったわ!
・私も一緒に!
・どこにいるの?
・どうやって気付いたの!
───
明四喜:場所ですか……ヨンジーガムロさんは、行かない方が良いと思いますよ。
海辺
暗礁の裏にある小船
青年:お前か?!ありえない、どうしてこんなに早く――くっ、来るな――
明四喜:今怯えるなんて、些か遅すぎやしませんか?この日が来るのはわかっていたでしょう。
青年:許してください……魔がさしただけなんです、何も言ってません、本当に、ただこっそりお金を稼ぎたかっただけです、買いたかった……あっ……
明四喜:野心というのは実力があってこそのもの、貪欲なクズよ!
小船は波に揺られていた、座り込んだ青年は既に理性を失っているようだった。ボーっと前方を見つめるだけ、口からはよだれが垂れていた。
明四喜は微笑んだまま青年を見下ろした。沈んで行く太陽と共に、辺りは暗くなっていく。
警笛が遠くから少しずつ近づいてきている。太陽は水平線に沈んだ、夜は、まだ始まったばかりだ。
ヨンジーガムロ√宝箱
スイーツ店
テラス席
ヨンジーガムロ:もお!最後まで参加できなくて、悔しいわ!あら……美味しい!
生姜牛乳プリン:一緒にスイーツを食べる約束をするんじゃなかった……完全に時間の無駄よ!
ヨンジーガムロ:フンッ!わざわざルビーの懐中時計を持ってきてあげたのに、しかも今日は中秋の名月、この店を予約するのに苦労したわよ!
ヨンジーガムロ:気に入らないのなら、帰っても良いわ。貴方の分も頂戴。
生姜牛乳プリン:いや、そういう訳じゃ、君が口うるさいって言ってるだけよ!
足音が聞こえた後、魅力的な声が聞こえて来た。
明四喜:ヨンジーガムロさん、不才も同席して宜しいでしょうか?
ヨンジーガムロ:あっ、どうぞ座って!
ヨンジーガムロは明四喜から情報を得ようとしているが、隣にいる生姜牛乳プリンはむすっと黙り込んだ。
ヨンジーガムロ:明副館長、昨日奴を逮捕出来た?見つかった?!
明四喜が座る前に、ヨンジーガムロは待てずに質問を投げかけた。明四喜は口角を軽く上げた、春風を浴びたような爽やかさをもたらし、落ち着いた様子で答え始めた。
明四喜:幸いにして指名に背く事なく、容疑者は既に捕まりましたよ。不才の管理が行き届いていないせいで今回の件が起こりました。彼は我ら南離族の者です、才能に恵まれず、重用されなかったために、恨みが生まれてしまった……
ヨンジーガムロ:はぁ、人はやっぱりつまらない事にこだわり過ぎてはダメだわ!
明四喜:実を言うと、ヨンジーガムロさんに会いに来たのは、別件で相談があるからです。
ヨンジーガムロ:え?副館長どうぞ仰って!
明四喜:不才は南離印館を代表して、ヨンジーガムロさんに我らの芸術創作センターに入って頂きたく思います。
ヨンジーガムロはいつものような二つ返事をする事はなく、とても冷静に、静かに向かいにいる明四喜を見つめた。生姜牛乳プリンは口を開こうとしたが、止めなかった。
明四喜:南離印館は所属している者の自由を制限する事はありません。例え南離族であっても、特別何かをしなければいけないという事はありません――これに関しては、生姜牛乳プリンはよく知っていますよ。
明四喜は笑顔とは言えないような表情で少しだけ緊張している生姜牛乳プリンの方を見た。彼女は少し頑固な食霊だ。
明四喜は以前直接彼女を誘った事があった。最終的に生姜牛乳プリンは南離族に残る事になったが、残ろうとした理由は彼ではない。
明四喜はこの件に関してはそこまで気にしてはいなかった。しかしヨンジーガムロは、将来南離印館の影響力を強めてくれる人物になる可能性を秘めているため、早めに囲っておかなければならない。
明四喜:南離族と他の所属員本人の了承の上、たまに任務をこなして頂く事はあります。自分たちの能力を発揮し、共に南離市を築いていく――ただそれだけです。
明四喜:ヨンジーガムロさんに何か考えがあるのなら、どうか仰ってください。
ヨンジーガムロ:そうね、本当の事を言うと、これからもっと多くの作品を展示して、皆と交流したいわ……トレンドに触れて視野を広げていかないといけないわ。そうでしょう、生姜牛乳プリン!
生姜牛乳プリン:……
明四喜:ヨンジーガムロさん、博物館に展示区域を常設するのはどうでしょうか?もし作品を販売したいのなら、印館には正規のオークションもございます。
ヨンジーガムロ:それは良いわ。ただ価格は自分で決めたい。私の許可なく吊り上げる事は許さない、今回みたいな事がまた起きて欲しくないから。
明四喜:勿論です、我ら南離印館は経費が十分にございます。ヨンジーガムロさんの提案になんら問題はございません。
ヨンジーガムロ:なら、参加してあげてもいいわ。
明四喜:ありがとうございます。では、二日後南離印館にいらしてください、迎えの人を用意しておきます。
ヨンジーガムロ:わかったわ!
生姜牛乳プリン:……
ヨンジーガムロがすぐ南離印館に加入する事を決めたのを見て、生姜牛乳プリンは少しだけ呆れた。今後自分の同僚になるのかと複雑な気持ちになっていた。だけれどヨンジーガムロの爽やかな笑顔を見ていたら、彼女も思わず口角を上げた。
生姜牛乳プリン√宝箱
スイーツ店
テラス席
明四喜が離れた後、少し微妙な雰囲気になっていた。生姜牛乳プリンは嬉しい反面複雑な気持ちも抱えていた。目の前のスイーツは既にぐちゃぐちゃになっていた。
ヨンジーガムロ:これ以上スイーツをいじめないで!
生姜牛乳プリン:……流石に軽率過ぎるよ!
ヨンジーガムロ:えっ?
生姜牛乳プリン:あの男とは今後あまり関わらない方が良い!
ヨンジーガムロ:どうしたの急に?
生姜牛乳プリン:あっ、顔をつつかないで……何を考えているのか読めなくて、怖いと思わなかった……今度あたしに会いに来てくれたら、京醤肉糸に会わせてあげる!
生姜牛乳プリンは口が尖るぐらい両手で自分の頬をしっかりと守った。
生姜牛乳プリン:いい加減にして!冗談を言ってる訳じゃないの、ちゃんと気を付けてよね!
ヨンジーガムロ:わかったわかったわ。安心して、協力関係を結んだだけだから、大丈夫!
ヨンジーガムロ:それより貴方の方よ、そんなに気を張りすぎないで。人生で一番大事なのは、甘く楽しく過ごす事だわ。難しくないから、ほら笑って――
生姜牛乳プリン:わわっ!君とは違って、正確にコントロールする事があたしの完璧主義なのよ!
ヨンジーガムロ:わかったわ~ほら早くこのスイーツを食べてみて、中秋の名月限定品よ。本当に美味しいから、目を見開く程にね!
生姜牛乳プリン:……
生姜牛乳プリンは反論する気力も失い、やけくそのようにヨンジーガムロの前にあったスイーツをいっぱい取って口に運んだ、確かに味は美味しかったようだ。ヨンジーガムロが恨めしそうに自分を見ているのに気づいて、更に美味しく感じた。口角が上がり、甘い笑顔を浮かべた。
数日後
南離博物館
生姜牛乳プリンはルビーの懐中時計を持ってその主を見舞いに行った。人の良い紳士は生姜牛乳プリンに礼を言い、その時計を直接博物館に寄贈して欲しいとお願いした。
満面の笑みを浮かべているおじいさんを見て、生姜牛乳プリンはヨンジーガムロからの巨額の借金を背負っているプレッシャーが少しだけ楽になった気がした。
生姜牛乳プリンは鼻歌を歌いながら文化財修復センターに戻った。中に入った瞬間積まれた段ボールに気付いた、そして力持ちの女の子・彫花蜜煎(ちょうかみせん)が忙しなく働いていた。
生姜牛乳プリン:えっ?彫花蜜煎、どうしてここにいるの?こんなにたくさんの荷物、何をしているの?
彫花蜜煎:あっ――生姜牛乳プリンおかえりー明四喜副館長に言われて、文化財を運んで来たの。
生姜牛乳プリン:何の文化財?
彫花蜜煎:ちょっと前の密貿易事件の文化財だぞ。明四喜様が自ら監督局に掛け合って、所有者がわからない文化財を全部「無償」で博物館に寄贈する事になったの!
生姜牛乳プリン:あっ?!無償……
ルビーの懐中時計を買うため抱えた借金のプレッシャーがまたのしかかってきたような気がした。生姜牛乳プリンは目の前が真っ白になり、心の中に重しが入れられたように、どんどん心が沈んでいった。
彫花蜜煎:えっ?生姜牛乳プリン大丈夫?行かないでよ、手伝ってー
生姜牛乳プリンは聞こえなかったかのように、飛ぶようにその場を離れていった。まるで少しでも足を止めたら、後悔に呑み込まれるかのように。
彫花蜜煎は訳も分からず、ただ去って行く生姜牛乳プリンの背中を見つめて笑いながら首を振った。生姜牛乳プリンをあんなに走れるぐらい元気にさせてるから、きっと良い事なのだろう?
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