ラムチョップ・エピソード
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ラムチョップのエピソード
孤高の存在。かつて「神」に裏切られた経験によって堕化寸前になった事がある。その影響によって、元は白かった翼はいまのような黒く骨だけの翼になった。全てを蔑み、自分への誇りを捨てない。堕落した後は礼儀などを捨て、自由気ままに生きるようになった。
Ⅰ.信仰
「この世がいつまでも光に包まれますように」
「この世がいつまでも光に包まれますように」
敬虔な言葉でつまらない礼拝は締めくくられた。全ての信徒は立ち上がって、厳かで静かな教会から離れた。
私は庭にある木の下に座り、教皇様の傍で穏やかな笑顔を浮かべて信徒一人一人に応対するクロワッサンを見て、口を曲げた。
午後の日差しは暖かく、眠気を誘う。私が両腕を枕にして、葉っぱの隙間から降り注ぐ光を見つめているとだんだん視界がぼやけ始めた。
「起きなさい、ラムチョップ」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、私は気怠そうに目を開けた。光はその人の翼によって遮られた。
クロワッサンはつま先で私を蹴ってから、持っていた分厚い資料を私の足の上に投げ捨てた。
「うっ……こんなに、何だこれは」
「宿題」
「はっ?!」
「先生が出した宿題です」
「あああああビールの奴絶対わざとだ!食霊が宿題をやる必要なんてどこにあるんだ!やらん!」
「立たされても知りませんよ」
「フンッ」
私は嫌そうに資料の表紙を摘まみ上げた。一ページをめくっただけで、密集した字によってまた眠気に襲われた。
「私達食霊が宿題をやる必要はないだろう。堕神を倒せれば良い」
「ラムチョップ!」
「わかったわかった、やればいいのだろう、やれば」
クロワッサンの監視の元、私は分厚い資料を持って彼と共に図書館へと向かい、ビールが出した宿題を完成させようとした。
「そうでした、大司教様の加減はどうですか?」
私は陽の光に照らされて金色になっているクロワッサンの髪を見つめてボーっとしていた。彼が話しかけてきた事に気付いて意識を取り戻した。
「……御侍、彼は……むぅ……最近いつも本を読んでいる……」
「本?」
「ああ、変な文字が書かれている本だ。共通語の文字でもないし、デダラメのような、私には読めなかった。毎日娘の写真を見ながら泣いているよりはましだろう」
「はぁ……時間を作って、御侍様と共に見舞いに行きます」
「ああ、早くあの爺さんにうちのクソジジイを慰めて欲しい」
「ラムチョップ!」
「わかったって、もうクソジジイとは言わねぇ」
髪を掻いてから、私を見ていた女の子たちに向かって手を振った。
軽く笑顔を見せただけで、彼女たちは顔を真っ赤にしていた。可愛らしいな、隣にいるアイスみたいに冷たい奴と全く違うな。
フンッ。
「あああああ――混沌の力と霊力融合の可能性?!小論文を書けって?!ああああなんだこれ!」
「……先生は授業中言っていましたよ。ラムチョップ、もしかしてまた居眠りをしていたのですか」
「してねぇよ!催眠術みたいな声してたからだ!」
「……良いでしょう、どこがわからないのですか、教えます。きちんと学んでください、万が一こういう状況に出くわしたら大変ですからね」
「はぁ、貴方もビールもそう、考えすぎだ、あれこれ心配して」
クロワッサンが少し怒っているのに気づき、私は口を閉ざし大人しく彼の傍に座りこれ以上反論しなかった。
「あー疲れた!なんで安息日なのに図書館で読書しなきゃなんないんだ、フィッシュアンドチップスたちを探して酒でも飲もう!」
「ちゃんと授業を聞かなかったからですよ。そうだ、次の安息日に私と御侍様は大司教様に会いに行きます」
「わかった、向かいだし、わざわざ言わなくても良い」
「大司教様の面倒をきちんと見てくださいね」
「わかってる、母親か!」
クロワッサンをからかった後、急いで逃げて追って来たクロワッサンを撒いた。
「はははは!ラムチョップはまたクロワッサンを怒らせたのか?はははは!」
「ちくしょう!私は一応先輩だろ!」
道端でアイスをかじっていたフィッシュアンドチップスとアンディーは、私の額の赤い痕を見て爆笑していた。横にいたクロワッサンはどうしようもない顔で肩をすくめた。
「私もそうしたくなかったのですが、彼は前を見ずに自分で電灯にぶつかったのです」
「ははははは!」
夕陽に照らされて、私たちの影は延びていた、長く長く伸びていた。こんな時間がいつまでも長く続いて欲しかった。
Ⅱ.光
クロワッサンとフィッシュアンドチップスと別れを告げ、私は少し暗い屋敷に戻った。
最近家の雰囲気はずっと良くない。御侍は家にいても明かりもつけない、屋敷の中はいつも薄暗い。
使用人たちがカーテンを開けようとしても御侍に激しく怒られる。彼は一人でずっと薄暗い書斎にこもって、私には読めない難解の本を読み続けた。
「坊ちゃん、旦那様は今日も食事をとってません」
心配しているメイドを見て頷いた。彼女を先に休ませ、私はメイドが用意したスープを持って書斎の入口にやって来た。軽くドアをノックした。
「おいっ――ジジイ!食事だ!」
ドアの向こう側は何もないかのように静かだった。私の額に青筋が浮かび、歯を食いしばりながらどうにか優しい口調を努めてドアを開けさせようと声かけた。
「ジジイ、早く出て来い。二日も食事をとってないらしいな」
……
依然として反応がないドアを見て、私は我慢をやめ足を上げて思いっきり書斎のドアを蹴った。目に酷い隈を作って、何かにとりつかれたようにデスクの上で必死で何か書いている御侍を見つけ、怒ったまま中に入った。
「クソジジイ!エリヤはテメェを助けるために死んだんだ!そんな顔して!彼女の命を無駄にしたいのか!」
私は思いっきり彼の胸倉を掴んだ。しかし彼はまるで今私を認識出来たかのように、興奮しながら彼が書いていためちゃくちゃな数式を私に見せてきた。
「あ?ラムチョップ!来たのか!見てくれ!」
「……あ?」
「見てくれ!こうすれば!こうすれば私達は貴方達を同じ力がもてる!もう二度とエリヤのような子どもが死ぬ事はない!見てくれ!」
「……」
「助けてくれるなら!貴方が私を助けてくれるなら!私は……私は……全ての人を救える……きっと出来る……」
食霊として、私は肉親が死んだ苦しみも、人間が堕神に相対した時どれだけの絶望を味わっているかも理解できない。
しかし、私は目の前のジジイが、このまま深淵に堕ちてしまう事だけは見たくはなかった。
彼はあんなに良い人だったのに、エリヤはあんなに良い子どもだったのに。
彼らはこんな結末を迎えるべきではない。
「……どう助けて欲しいんだ?」
「食霊!食霊の助けが欲しい!」
「……ダメだ。他人を傷つけるのは絶対にダメだ」
「……なら、堕神、堕神でも良い!堕神でも絶対出来る!」
まるで最後の藁を掴んだかのようなジジイ。彼はぽっちゃりしていて少しアホっぽいジジイだったのに、エリヤが亡くなって、半月も経ってないのにやせ細って骨しか残らなくなった。
既に少し狂っている御侍を見て私は拳を握り締めた。最終的に、ゆっくりと頷いた。
堕神だけなら。彼の元に連れてこられる……こうする事で彼が、悲しみから抜け出せるのなら。
私にとって、堕神を探す事は難しくはない。法王庁には毎日のように救助要請が届いているから。
クロワッサンの奴は人間と食霊の間を取り持っているだけで大分消耗しているから、堕神を片付ける仕事は私に任せれば良い。
しかしそいつらをジジイの元に届けるのは簡単じゃない。
私は色んな方法を使って堕神をジジイに届けた。傷も負ったが、幸い彼は堕神を受け取った後、前のように狂った様子は見せなくなって来た。
「ラムチョップはきちんと貴方の面倒を見ているようだな」
「心配かけてすまない、私はもう悲しみから抜け出せたよ」
「それは良かった、良かった」
ジジイとジジイには話す事がある、私は二人の会話を邪魔する事は無かった。薄暗い屋敷から出ると、クロワッサンが庭の木の下に座っているのが見えた。
彼が居眠りをしているなんて珍しい。
疲れ切っているのだろう。
法王庁を運営するのは想像以上に難しい。財閥や貴族などに関わる事もあるから、複雑極まりない。
私は彼の鼻をおちょくるために拾った葉っぱを下ろして、静かに彼の隣に腰を下ろした。
「うっ――」
「起こしたか?」
「……い……いえ。眠ってしまったのか」
「安息日だろ、昼寝しても良いだろう」
「しかし……まだ支援要請がたくさんたまっています……」
「私が見る、寝てろ」
「……しかし……」
私は眉を上げ、威嚇するようにクロワッサンを見た。彼の目から疲労が見えた。
「どうした?私を信用できないのか?」
近頃の人間との揉め事で、彼はまた変な事を考えてるんだろう。こいつは、いつもそうだ。
「私はずっと……御侍様と大司教様の事が羨ましかった」
「うん?」
「彼らは一番の友人で、共に成長し、お互いを信じあっている」
「羨む必要あるのか?私たちもそうじゃないか?」
「……ぷっ、そう、そうですね。ラムチョップ」
「うん?」
「私はあなたをいつまでも信じます。だから、私の一番の兄弟になってくれませんか?」
「な、何を言ってるんだバカ!」
私は顔を背けて、熱くなっている耳を隠そうとした。しかし目の前に一本の手が伸びてきた。
「ラムチョップ、全員が私を裏切らないと言ってくる、誰を信じたら良いかもうわかりません」
彼の言葉の意味を理解した。
人間にとっても食霊にとっても残酷なこの世界は、自分の魂を守る一縷の光がなければ、魂はすぐに暗闇の中に堕ちてしまう。
彼は彼の魂を守るその光を私にくれると言っているのだ。
少しだけ照れ臭さはあるが、陽の光のような暖かさが私の全身を包んだ。私は軽く彼の手を握り、初めて会った日のように言った。
「私はラムチョップ。食霊の名にかけ、クロワッサンの最高の兄弟になろう、永遠にクロワッサンに隠し事はしない。これは、何があっても変わる事はない」
Ⅲ.暗
法王庁の仕事はどんどん増えていった。
クロワッサンもどんどん忙しくなっていく。
彼の顔から笑顔が減った。彼を見る度、いつも疲れている様子だった。
彼のために何か分担できないか考えたが、体が追い付いてこない。最近体の中の霊力が異常に蠢いている気がした。
ずっと、何か良くない事が起きるような予感がしている。
私は実験のために彼が造った地下室に入った。メイドが言っていた連れて来られた少年と食霊を探しに。しかし地下室はスッキリしていて、堕神を研究するために乱れていた部屋はまるで元の普通の書斎に戻っていた。
「ジジイ……あの二人は?」
「あ?あの子らか。貧しい生活をしていたらしいから、少し金目の物をやって家に帰したさ」
ジジイが顔を上げた時、表情は前のような優しい感じに戻っていた。
まるで最近の狂っていた彼は私の錯覚かのように。
「ラムチョップ、ここ最近、心配かけさせてしまって、申し訳ない……」
ジジイは慈愛に満ちた笑顔を浮かべて、持っていた本を閉じた。
「ラムチョップ、最近たくさん怪我をしたようだな、どうしたんだ?」
「……いや……ただ、最近どうして霊力が、安定しないんだ」
「あっ、そう言えば、以前他の料理御侍に尋ねた事があった。貴方のように堕神を頻繁に狩っていると、霊力が詰まる現象が起きるらしい。私は特別に魔導学院に人をやって、氷涙湖の水で作った薬剤を取り寄せた」
「ジジイ……お前……」
「どうした?」
私を労わっているジジイの表情を見て、私は最後の緊張の糸を途切れさせ、彼がわざわざ用意してくれた薬剤を飲んだ。
彼はもう、抜け出せたのだろう。
ジジイの薬は効くようだった、蠢いていた霊力が徐々に安定し始めた。
しかし……
私が再び目覚めた時、暗闇の中にいた。
蠢いている霊力は今にも私の体を爆発させようとしているようだった。私は眩暈のする頭を抱えて、どうして自分がこんな場所にいるのかを考えた。
頭が混乱している中、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「ヴィト先生、本当ですか?こうすれば、私は本当に彼の力と彼の寿命を貰えるのですか?」
「はい。きっと出来ますよ。以前の実験で証明できたじゃないですか?」
「良かった……良かった……」
思考が絡まっていた、無意識に信じたくなかったからだろう。
影の中から私の目の前に来て、やっと最後の希望を捨てた。
彼は……一度たりとも……抜け出せてはいない……
見て見ぬふりをしてきた全てが頭の中でぐるぐると回っていた。牢屋の外にいるジジイに向かって何を話したら良いかわからなくなった。
「……どうしてだ?」
「どうして!先生の言う通りだ!どうして?!どうしてお前たち食霊は生まれながらに不老不死なんだ!どうしてお前たち食霊は生まれながらに強大な力を持っているのだ?!どうして!どうして死んだのはお前じゃなくてオレの娘なんだ!あのジジイも!あのジジイも教皇の座をお前たちに!彼はわかっていた!彼は知っていた!教皇の杖の中の宝石は私の娘を復活させられると!」
…………
……
ジジイの狂った目を見て、彼の食霊への憎しみを感じた。
そして……あの時、間に合わなかった私への憎しみを……
Ⅳ.黯(あん)
私はかつて本の中に書かれていた、監禁や拷問された事で発狂する人を鼻で笑っていた。
しかし私が再び理性を失った時、私もそういう人になってしまうとわかっていた。
あのクソジジイは、私を殺さなかった。
彼は私の体から全ての霊力を抜き出し、自分の体に入れようとした。
彼は私の体を欲した、最高の実験対象にするために。
私の脳内では二つの声が絶えず言い争っていた。
彼はただ……狂わされただけ……
アイツはクズだ、殺せ、殺せ!
かつれの彼はあなたに良くしていた……
彼がした全ては、あなたを利用するために過ぎない、あなたのようなバカが彼を信用させるように仕向けたに過ぎない!
彼は……
アイツを殺せ!
誰かが助けに来てくれる。
いや、こんなに経っている、もう誰も助けに来てはくれない。あなたはこの真っ暗な地下室の中、自分の愚かさによって死んでいく。
いや、きっと助けに来てくれる、それはあなたの最高の兄弟かもしれない。
……彼は本当に来てくれるのか……
彼はきっと来てくれる……
陽の光が差さない暗闇の中、体を裂くような痛みを感じ、日々自問自答を繰り返した。
自分が誰であるのか分からなくなる瞬間さえあった。
自分の声が聴こえなくなって来た。
自分の存在を疑うようになって来た。
私は本当に生きているのか……疑うようになって来た……
「彼はもうダメになってしまうのではないか?」
「彼は食霊だ、そこまで弱くないだろう」
私を支える唯一の考え、それは誰かへの信頼……
あの人は……なんて言うんだったか……
彼には、白い翼があった気がする……
「そうだ、クロワッサンの方はもう疑い始めたのではないか?」
「フッ、疑ってもしょうがないだろう、簡単に誤魔化せる。実験が成功すれば、彼も受けなければならない」
どうだ、彼はクロワッサンだ。
私の最高の兄弟だ。
彼らは……彼に手を出す気か?
ダメ……ダメだ……
殺せ……彼らを殺せ!
「そうだ、法王庁の方にどう言っているんだ、食霊が沢山いなくなってるが」
「フッ、彼らが知らない訳はないだろう。実験が成功すれば、彼らは自主的に他の食霊を送ってくるさ」
じゃあ……私は……私は誰だ……
私はどうして、ここにいる……
そうだ……私は彼らを殺さなければ……彼らは危険だ……
「あっ、また意識をなくした」
「問題ない、消滅していなければ続けられる」
……やめろ……
ここから……出せ……
再び目を開いた時、目の前は血に染まっていた……
しかしどうして……
クロワッサン……どうして……その人の傍に立っているんだ……
クロワッサン……離れろ……
「ダメだ!彼は暴走して自爆しようとしてる!あんなに人が死んだ!」
「……クロワッサンに伝えろ、ラムチョップが堕化し法王庁を裏切ったと!あの人達は彼が殺したと!」
違う……私じゃない……
クロワッサン……そいつらから離れろ……
「クロワッサン様!ラムチョップは堕化しています、あんなに多くの人を殺したんです!情に流されてはいけません!」
「クロワッサン様、堕化した食霊一人のために自分の責務を裏切るような行動をしてはいけません」
彼が来てくれるのか……
彼は本当に来てくれるのか……
「……本日より、ラムチョップを法王庁から除名します。法王庁の力を全て使い、反逆者であるラムチョップを捕え審判します」
彼は。
来ない。
Ⅴ.ラムチョップ
ラムチョップは自分がどうやって逃げ出せたのか自分でもわかっていない。
彼は実験された事で一時的に自分の名前すら思い出せなくなっていた。
目の前の光を浴びて彼はボーっとしていた。
彼は自分が何をするべきか分からなかった。
ただ頭には一つだけ考えがあった。
あの人たちを探し出して。
彼らを殺す。
しかし体は再び倒れてしまった。
この時彼はやっと気付いた、マドレーヌと言う女性が彼を救ったという事に。
その女性は彼と同じ、食霊だった。
そう……この時からやっと彼は自分の事を思い出せるようになった。
長い監禁や拷問は一人の心を壊すのに十分だった。しかしラムチョップは再び光を目にして、少しずつ意識がはっきりしていった。
記憶は未だに混乱している部分もあるが、骨や心に刻まれた痛みから、ある名前だけは脳裏に深く刻まれていた。
法王庁に自分を審判させるよう命じた人。
自分を再び地獄に突き落とした人。
しかし……こんなに深い憎しみを抱いているのに、彼を殺す気にはならなかった。
このような疑問が彼の脳裏でぐるぐると回っていた。彼は自分に何が起きたのかわかっていない。
記憶は細かく砕かれ、完全な状態ではなかった。
「……なんだ?」
突然マドレーヌに呼ばれラムチョップは仕方なく騒々しい女性の方を見た。彼は頭痛がするのか、こめかみを揉んだ。
「どうかした?また何かを思い出したのかしら?」
「……ああ」
マドレーヌという女性は、ラムチョップからしたら彼女を褒める言葉は一つも浮かばない。しかし、彼女は彼にとって今唯一の腐れ縁だ。
「またあのイケメンくんの事を思い出していたんでしょう!さあさあ!紹介して!とっても良い顔をしていたから、紹介して欲しいわ!」
「……クソ女あいつから離れてろ」
マドレーヌは普通の女の子のような優しい思いやりはない。最初から、彼女は遠慮なく繰り返しラムチョップを踏んだり、楽しそうにヒールを押し付けたりした。
彼女の悪い性格のおかげか、ラムチョップはどうにか最初の燻ぶった状況から抜け出す事が出来た。
彼は少しずつ色んな場面を思い出していた。
しかし完全ではない。
脳裏に浮かぶ場面によって彼はいつも眠れぬ夜を過ごしていた。
彼は止まらない、全てをはっきりさせようと決めていた。
彼はその人たちに、それ相応の代価を支払わせようとしていた。
「ねぇねぇどうしたのかしら?前の愛人を思い出して、新しい愛人を捨てようとしているの?私の傍から離れたら泣いちゃうわ!」
「どけ、離れられないのは私の財布からだろ」
「ふふ、私たちの間を繋ぐのは美しく輝くお金とその綺麗な顔だけだわ~」
「……」
「ねぇ――そんなに急いでどうしたの!創世日にイケメンくんもくるからでしょう!ちょっと、待って!」
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