ブリオッシュ・エピソード
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ ブリオッシュへ戻る
目次 (ブリオッシュ・エピソード)
ブリオッシュのエピソード
どんな人や物事に対しても、親しみを持って接する。古のエルフの伝承や物語に精通している。彼は誕生してから長い間、世界と隔絶された結界の中で生活していた。そのため結界から出て世界を見た時、全ての物事に対し好奇心や新鮮さを感じた。ティアラ神を信奉しており、神の足跡を探すために各地を旅している。
Ⅰ.神がもたらした希望
目覚めた時、私の体は温かい光に包まれていた。
目の前に現れたのは、ハーフエルフ族の女の子の驚いた顔だった。
「君が私を呼んだのですか?」
口を開けたまま呆気にとられている女の子はなんだか可愛らしかった。彼女は力強くまばたきをして、話し始めた。
「……私、私は祈ってました、するとここが光り始めて、貴方が……」
私は身を屈めて、そっと彼女を引っ張り上げた。
「私はブリオッシュです。御侍様は可愛い人ですね」
光は次第に弱まり、周囲は元の様子に戻って行った。自分が巨大な洞窟の結界の中にいる事がわかった。
外では吹雪が吹いているが、中は幻想的な光景が広がっていた。
時折、飛び交うホタルが指先に止まる事も。
「ここはまるで童話の中の世界ですね」
思わず感嘆すると、御侍様は悲しそうな顔で私を見ていた。
幼い御侍様は悔しそうに口を尖らせながら話した。
「お母さんは、私たちハーフエルフは昔から純血のエルフに拒絶されてきたと言っていた……」
「争いを避けるために、仕方なくここにやって来たんだと……」
「私たちはここに滞在することを余儀なくされて、先祖たちがこの結果を創ったんです」
「世界中の霊力が少しずつ消え去っているから、私たちの霊力も弱まり、多くの仲間が深い眠りに落ちました、このままだと……」
御侍様の声は少しかすれていた、彼女の言葉が指し示す結末は言うまでもなかった。
「結界も消えるという事、ですか?」
結界はハーフエルフの最後の浄土。こんなにも美しくロマンチックな場所が、もし消えてしまったら、それはどれ程残念なことか……
御侍は軽く頷いた、その目には惜しむ気持ちと悔しさが映っていた。
私の出現はすぐ他のハーフエルフたちの注意を引いた。
長老は私を訪ね、彼らの事を助けるようにお願いしてきた。
一族の期待の眼差しの中、私は顔を上げて結界の外に広がるつかみどころのない白色を見た。
「神は本当に私たちの呼びかけを聞いてくださるのだろうか……」
結界の中にいれば、いつでも温かい光を浴びられる。私は熟睡している御侍様の姿を見て、心の中で嘆いた。
霊力の流失を止めなければ、いつか、御侍様も……
私はハーフエルフの霊力の流失を防ぐ方法を探し始めた。
「長老、イリス族の歴史を教えてください、そしてこの世界についてもっと知りたいです」
「お願いしますブリオッシュ。では私と一緒に来てください……」
長老の指導の下で、私は魔法の研究に没頭した。ハーフエルフと似た力の中から突破口を見つけたいと思った。
御侍様は古くて神秘的なエルフの物語に興味を持っているようだった。
彼女はこっそり私の後ろに付いて、図書館に行こうとしていた。
しかし、まだこれらの知識を勉強する歳にはなっていなかったので、長老はいつも彼女を部屋に帰らせていた。
彼女の期待の眼差し、パチパチとまばたきする目を見て、私は思わず声を出して笑ってしまった。
「エルフのお話を聞きたいですか?」
霊力は依然として流れ続けていた。世界は巨大な砂時計、霊力は消え行く砂のようだった。
長老は、力の源である神を見つければ、ハーフエルフの滅びは食い止められるかもしれないと言った。
「伝説によると、神はどこかで眠っているそうです。ブリオッシュ、貴方は神を感じ取れますか??」
私は目を閉じて、魔法で神との繋がりを構築してみた。
神のこの世界への加護は感じられたが……
「申し訳ございません……私は偉大なる神を感じられません。彼の痕跡は至る所にありますが、どこにも居ないです」
霊力が絶えず流失していく、方角がはっきりしていない以上、イリス族は危険を冒してまで結界を離れる事は出来ない。
事態はなんの進展もないまま停滞した。
Ⅱ.砕け散る事は新生を意味する
カウントダウンが終わる日はいつかやってくる。
日々を共にしてきた仲間たちは一人ずつ無限の眠りに落ちて行った。ある夜、御侍様はお話を聞き終わるといつものように騒いで次の話を聞こうとしなかった。
「ブリオッシュ、ここはどんどん静かになっていきますね」
「はい、御侍様大丈夫ですか?」
「大丈夫です。だけど疲れました、なんだか……眠たいです……」
御侍様の姿を見て、美しさは今にも消えてなくなるということがわかった。
「ありがとう、ブリオッシュ。私たちのためにしてくれた全てにありがとう……」
「貴方は……神がもたらした希望、私たちの希望……」
私は座って、そっと御侍様の手を握った。
「いえ、貴方こそ神が私に与えてくれた最高の賜物です」
また一日が過ぎて、外から甲高い風の音が聞こえてきた。
結界が消えた。
結界の守りが亡くなったことで、風雪が洞窟に流れ込んだ。一面に白が広がる中、私は初めて人間の世界に足を踏み入れた。
長老から人間について聞いたことがあった。
「一部のエルフからすると、人間は下等な生物である、そして……私たちにも人間の血が流れています」
「これが一族が排斥されている原因ですか?」
「ブリオッシュはどう思いますか?この件をどう見ますか?」
「はい。私はあらゆる生命の誕生は全て神の恵みだと思っています。エルフも人間も、大切な宝物です」
そう、大切な宝物だからこそ、そのために全てを捧げる必要がある。
「偉大なる神よ、どうか私を導いてください……」
洞窟の外にあるのは雪に覆われた大地。雪の上を歩いて、これからする事を計画した。
遠くに都市の影が見えた。少しだけ休憩して、そこに行くことにした。
雪は依然として降っていた、世界を穢れのない白に染めていく。
果てしない大地の向こうは人間の生活領域。初めてここに足を踏み入れたけれど、私の心は曇りのない鏡のようだった。
結界は確かに霊力の流失によって砕けてしまったが、もしかしたらこれはまだ始まりに過ぎないと、私はこの時突然気付いた。
ハーフエルフが踏み出せなかった一歩が、今、踏み出された。
彼らは、私は神がもたらした希望だと言った。
私は神ではない。だけど私は……彼らの希望になりたい。
Ⅲ.神の導き
雪は疲れを知らないようで、ずっと降り続いていた。私も長時間歩き、やっと目の前で林を発見した。
木の葉の遮りがあるためか、降ってくる雪は先程より少し減った。この林を過ぎると、やっと町に辿り着ける。
この時、近くから激しい戦闘の音が聞こえてきた。
空気の中に邪悪な気配が漂っていた、堕神だ。
様子が心配で、私はすぐにそちらに向かった。
一人の食霊が全力で戦っていた、彼の後ろの遠くないところには震えている人間の女の子がいた。
どうしてか、あの人間の女の子から、眠っている御侍様の姿が見えた。
目下堕神を消滅させる事が最優先だったため、私は魔法の杖を取り出して、戦闘に参加した。そしてその食霊と共に敵を倒した。
起きる事には全て理由がある。彼らに出会ったのも、神の導きかもしれない。
「モンブランだ。彼女は僕の御侍、ナフ」
ナフはモンブランの後ろに隠れ、片目だけ出しておどおどしたようすで私を見つめた。
先程の緊張感からまだ抜け出せていないからか、モンブランは優しく女の子を見つめ、彼女の恐怖が消えるのを辛抱強く待っていた。
「ナフ、心配するな。ブリオッシュは僕たちの命の恩人だ」
ナフを慰めながら、モンブランは私を町にある彼らの家に招待してくれた。
そして、私はしばらくナフとモンブランの家に滞在する事になった。
私が初めてここに来た事を知ると、二人はより一層熱心になった。
モンブランは町の色んな事を紹介してくれた上に、彼らが林で堕神に遭遇した理由も教えてくれた。
「なるほど、ナフの病気のために、オペラ山脈に登っていたのですね?大変でしたね」
「運悪く、疲れ切っていた時に堕神に遭遇してしまった……」
「あんたがすぐに現れてくれて本当に良かった、ありがとう……ブリオッシュ」
「これは私一人だけの功績ではないですよ、君もお疲れ様です」
モンブランとナフに出会った事で、旅の途中で思いがけない喜びを得られた。モンブランも神に深い興味を持っていたようだった。
彼は私に色んな事を聞いてきた、徐々に私たちは良き友人となっていった。
ナフもよく私にお話をするようねだった。彼女の期待した表情はいつも私に御侍様を連想させた。
これは本当に神の導きかもしれないと思った。
深い眠りに落ちた仲間たちを呼び覚ます方法を、探す手を止める事はなかった。
ナフの不治の病を治すため、モンブランも地道にあらゆる方法を探した。
残念なことに、ナフは結局一年も耐えられなかった。
モンブランはしばらく落ち込んだが、すぐに気を取り直した。その時、私は再び旅に出ようとしていた。
「ブリオッシュ、神には……本当に命を逆転させる能力はあるのか?」
「神は何でも出来ます、私たちは神の施しを受けられるかもしれません」
別れる前モンブランの強い目を見て、ある考えが浮かんだ。「私は旅を続けようと思っています。一緒に行きませんか?」
私が誘うとは思わなかったようで、モンブランは驚いた顔で私を見た。
「本当に?僕も、一緒に?」
「もちろん良いですよ、私は君と一緒に旅行したいです!」
この土地には神の加護がある。神の導きがある限り、私は希望を捨てたりしません。
そしてこれからの旅は、もう一人ではない。
Ⅳ.神の施し
食霊にとって、時間は悠遠で長く果てしない。
モンブランが同行してくれたおかげで、神を探す旅は退屈ではなくなった。
私たちは様々な面白い物事を見て、様々な幸せと悲しみを見てきた。
そして、頻繁に出没する堕神も。
最初はこの生物の事をよく知らなかった。しかしそれらからはエルフと似たような力を感じ取れた。
食霊、堕神、エルフ……
知らず知らず、何かが繋がっているのかもしれない。
しかし、その中の秘密を解くには、鍵が必要だった。
私たちは長い旅を経て、大陸の最北端のナイフラストにやって来た。
この地域は寒いのに、町は賑やかだ。
服装の違いから、私たちはすぐにこの町の人間の注意を引いた。
「わあ!魔法使いだ、カッコいい……」
「神恩理会の人に見える……」
「あれ――?そう?でも見た事ないな、新しく来たのかな?」
私は騒々しい話し声の中からある単語を捉えた。
「モンブラン、神恩理会は知っていますか?」
「うん、聞いたことある。宗教協会で、食霊のことを……神が人間に与えた福音だと思っている団体」
――「貴方は……神がもたらした希望」
耳元で突然懐かしい言葉が響いた。
――「霊力の流失を止めることは出来ないかもしれないけど、貴方が来たのにはきっと理由があると思います」
――「もしかしたら……本当に何かが起きるかもしれない」
――「ブリオッシュ、諦めないでください。私たちが眠りに落ちても、貴方がいます」
それは私がこの世界に来て過ごした長い時間の中で、既に遠くなっていったが、消えたことのない大切な記憶です。
入り乱れていた思考は瞬く間にはっきりとした。私は、鍵を見つけたんだと思う。
Ⅴ.ブリオッシュ
ブリオッシュは自分の使命を忘れた事はない。
何年経っても、イリス一族の記憶は彼の心の中で一番大切な物だった。
魔法を研究する時の長老の辛抱強い指導も、御侍がお話を聞いている時のまばたきも。
あの時、ブリオッシュは「神がもたらした希望」と呼ばれていた。
しかし、ブリオッシュだけが知っていた、彼に出来ることはほんの僅かしかないと。
知恵を絞って方法を探す日々、ブリオッシュは何度も自分に問いかけた。
滅びに向かう結末を、どうすれば完全に変えられるのか?
結界が本当に砕けた時、彼は騒がしい人間の世界にやって来た。
冷たい風は彼の思考を呼び覚ました。彼は自分が閉じ込められていた事に気付いた。
広大な大地を踏みしめ、激しく鼓動する心臓を抑えきれないブリオッシュは、深い眠りは終わりを意味していない事を知った。
彼はもう迷わない、それを新たな始まりとした。
神恩理会を知った後、ブリオッシュは躊躇う事なくそこに加入した。
「神は人々を救うため、食霊を遣わし、正しさとは間違いとは何かを教え、苦難から逃れられるようにした」
彼は自分が是非を見分けられるよう人々を導けるかどうかわからなかったが、これこそが神の導きだと信じていた。
すぐに彼とモンブランはそこで多くの友人と知り合い、そして神恩軍の一員となった。神を探す道は果てしないが、同じ理念を持つ神恩理会に入るのも悪くないと、ブリオッシュは思った。
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ ブリオッシュへ戻る
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する