辣子鶏・エピソード
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辣子鶏のエピソード
機関術(機械やからくりに関する技術)への知見がある。そして奇門遁甲(きもんとんこう/中国の占術)に関する戦陣が得意。瀕死の回鍋肉で実験し、彼を救った。回鍋肉から義手を要求されたためそれを装着してあげた。「誰でも楽しく生きていける安全な桃源郷を望んでいる」と回鍋肉に告げたことがある。様々な場所で遊ぶことを好むが、酷い怪我を受けた食霊を連れて戻ることが多々ある。そのため機関城はどんどん広くなっていく。他者が機関城を触れると怒り狂う。
2/26 〜編集中
Ⅰ.若かりし頃
木の幹から両足をぶら下げ、両手を枕にして、遠くないところに蝋梅が満開になっているのを見ていた。
淡い蝋梅の香りが立ちこめていた、このいつも騒がしい山に違った趣を与える。
ああ……また冬が……
あの蝋梅……綺麗……
「城主ーー」
「辣子鶏(らーずーちー)ーー猫耳ちゃん来てたぜ!早く降りてこい!あんたを待ってんだ!」
庭の方から聞こえてくる馴染みのある声に気付き、木から飛び降りた。するとすぐ小さな手が俺の肩に乗っていたモフモフ鳥を掴んだ。
「ヘヘッ!捕まえた!!」
「チューンッ?!!」
「腐、腐乳!モフモフ様を乱暴に掴んではいけません!」
柔らかい子供の声が聞こえてきて、気分が良くなって思わず笑顔を浮かべた。
俺は高麗人参のやつに何度も、猫耳ちゃんとモフモフ鳥を交換してくれないかと頼んだが、全然同意してくれない……
チッ……
「城主様ごきげんよう。今回伺ったのは、人参様の代わりに……」
はぁ……年端もいかないのに、あの爺臭い木偶の坊の真似をして……
俺は手を振って、猫耳麺のお世辞を遮った。
「わかっている、また修繕が必要な山河陣を見付けたんだろ?場所を伝えておけ、後で向かう」
顎を支えながら短いため息をついた。
猫耳麺の手には氷粉(ビンフェン)が運んできた点心があった。二本の短い足を揺らすその小さな姿を見て、俺は昔のことを思い出していた。
「城主様……どうしていつも人参様の事を木偶の坊と呼ぶのですか……?」
「あーこれは……話すと長くなるぜ……」
俺は辣子鶏、機関城の城主で、高麗人参の木偶の坊の兄弟子でもる。
でも、あいつはいつも俺を兄弟子とは呼ばない。
あいつはいつも真面目なのに、これに関してだけは……ああ……人参の師匠である爺さんの話を借りると……少年の反抗期?
俺たち二人が誕生したのは、遥か……遥か昔のことだった。
遥か昔過ぎて、光曜大陸にはまだ小さな国々しかなく、堕神もまだ堕神という名がついていなかった。
天地の間から突如生まれたその変わった獣を、俺たちの師匠、つまり今で言う御侍によって、悪獣と名付けられた。
そして俺たちもまだ食霊という名がついていなかった。
人参の師匠の言葉を借りると、俺たちは天地の間に生まれ、悪獣と相反する者であり天地の霊であると。
だけど、俺からすると天地の霊なんて複雑すぎる。
俺たちは皆と違っていた、両親や兄弟がいなくても、いつも一緒に遊んだ。
皆違う年月を経て、違った人生を過ごし、共に成長した。
俺たちと人間は、不老不死の寿命以外にはなんの違いもないように思えた。
俺は兄弟子たちと一緒に年寄りの髭を引っ張ったり、授業をサボったり、こっそり山を下りてお酒を売っている婆さんから酒をせびった。
しかし、この世界には「永遠」という言葉があった。
しかし、この世界には「何事も永遠には続かない」という言葉もある。
俺の師匠は兄弟子と比べると、とても活発な爺さんだった。
もちろん彼が俺を召喚したばかりの時、まだじいさんではなかった。
俺は今でも彼が俺を召喚したあの日の事は覚えている。あたたかな光に包まれた後、狼狽していた彼は、得意げな笑顔を見せた。
彼は言った。
「私の機関術は特別な物だ、きっとこの世界に平和をもたらす事が出来る!君は天地の間からやって来たのなら、私と共に戦ってはくれまいか?」
決して負けを認めない燃ゆる炎を灯していたその両目は、俺が見た中で一番美しい色だった。
綺麗だ、気に入った。
そして負けず嫌いな青年は段々と爺さんになっていった、俺は今のままだ。
天地と格闘しようとしている爺さんはいつも彼の兄弟子に一方的にちょっかいをふっかけるのが好きだった。
ただ、今日はいつもより激しかった。
「私が身につけた能力は!!!まさにこの時のための物!有能な人はこの少陽山にこもり、権力のある者を守っていたら!他の苦しんでいる人々は誰が救ってくれるんですか?!」
「……弟弟子よ……」
「辣子鶏、君も一緒についてきてくれ!!!」
「……」
「なんだ?!行きたくないのか?!富を捨てられないのか?!」
「いや、行くのは良いが、ただ……」
「ただなんだ?」
「なんで顔をぐちゃぐちゃにして泣いてるんだ……おいおいおい!!俺の袖で拭くな!」
Ⅱ .天井の城
「……しかし城主様は……お二人は少陽山を離れたのではないですか?なのにどうして弟弟子と呼んでいるのでしょう?」
指で軽く押すと、猫耳麺の顔に小さなえくぼができた。思わずまた何回もつつくと、傍にいたリュウセイベーコンによって思いっきり手を跳ね除けられ、やっと手を止めた。
「あぁ、あのクソジジイは少陽山を離れたけど、半月ごとに戻っては彼の『大業』を支えるための金を借り行ってたんだ」
「あれ?でもこれは人参様が木偶の坊なのとどういう関係がありますか?」
「はぁ……ゆっくり話すから、俺たち二人の腐れ縁は長いぜ……」
少陽山を離れた後も、俺たちと少陽山の悪縁は終わっていなかった。
少陽山は、伝説によると四象の青龍神君が残した山脈とされている。そこに集まっている多くの有能な人材は様々な玄学の能力を持っており、妖を捕まえて降臨ますることができる。特に風水占い、奇門遁甲、機関術方、天文地理を得意としている。
高麗人参の師匠はその中でも極めて優れた人で、占星術の簡単な器具があれば過去や未来のことを算出することができる。
放蕩している俺の師匠である爺さんが得意としているのは、もう一つの代表的なもの、機関術だ。
少ない木材で作った簡単な機械で百斤の重さを運ぶことができる。
さらに爺さんは奇門遁甲の術も得意としているため、どんな機械の木鳶や木馬やコオロギも、彼にとって作るのは造作もなく、そうして生まれたそれらも活き活きとしている。
俺も彼に頭を押さえつけられて、長い間研究してきたから多少はわかる。
彼が頬杖をつきながら色々あーでもないこーでもないと何かを描いているのを見て、机の上に置いてある物差しで彼の頬を突いた。
「クソジジイ、俺たちは一体これから何を作るんだ?」
「チッ、この地上は悪獣が絶えない、道も険しい。私たちは一日千里進める物がないと、助けなければならない人を救えない!」
「……険しい?一日千里」
「ああ!」
「じゃあ、離火みたいに空を飛べばいいじゃないか?」
「!!!その通りだ!!!そうだ!!!空を飛べば良い!!!なら飛べる悪獣は……」
「バカだろ、弾弓を見た事無いのか?大きい弾弓を作ればいいだろ?」
人間ってのは、こういう所が良くない。既成概念にとらわれてしまう。
だけどこういう所から、俺たち天地の霊……いや、食霊にはない揺るぎなさが生まれるのだろう。
彼らは一つの事を決めて執着し始めると、自分の命に等しい程の長い時間を掛けてこの目的を達成しようとするのだ。
爺さんの眼の奥底にちらつく火花を見て、俺も彼の作業を手伝いたくなった。
時間は少しずつ爺さんの髪にこっそりと雪を撒いた。彼が老いていくと共に、その設計図もますます大きくなっていくのを、俺は日々見守っていた。
少しずつその設計図は最初の小さな木鳶ではなくなった。それは少しずつ大きくなって、気付けば城になった。
「ク、クソガキ……死ぬ前に……一つだけ願いがある」
「……クソジジイ、言え」
「私は……君が、この天上の城を完成させ、帰る場所のない天下の人たちのために……帰る場所を作ってあげるのを見届けたい……」
息が詰まって緊張した様子の爺さんを見て、彼の枯れ枝のような手の甲を叩いた。
「わかった、俺に任せろ。安心して行け」
「じゃあ……私の事を……師匠と呼んでくれないか……」
「クソジジイ……それは二つ目の願いじゃねぇか」
「私は……もうすぐ死ぬんだぞ!」
彼の段々弱くなっていく目を見て、俺は彼の手を掴んだ。
手の甲は枯れていて、手の平には職人ならではのたこがいっぱいあった。
「……わかった。師匠、天上の城の事は、俺に任せてくれ、安心して行ってきな」
「ああ……天上の城が完成したら……君の所に酒を飲みに来るぞ……」
「バカ野郎、死んだらどうやって俺を探しに来るんだよ……」
「私は……必ず来る。辣子鶏……君と一緒に笑って、一緒に騒いで、一緒に楽しく過ごせる人を見付けるんだ……さもなくば私は死にきれないよ……」
「……俺様はこんなに綺麗なんだ。、見付けられないはずがないだろう」
かつて大好きだった炎は少しずつ消えていく。老人の目は次第に混沌として……
その日は強い雨が降っていた。高麗人参とその師匠のような、滅多に少陽山を離れない人さえも先生が住んでいた茅屋に来てくれた。
いつも無地の服を着た二人は俺の傍に立っていた。全身真っ赤な俺より、二人の方がもっと悲しそうに見えた。
「辣子鶏……泣いているのですか」
……木偶の坊、普段は何も言わないのに、どうしてわざわざこんな時だけ俺にとどめを刺すんだ。
Ⅲ 山河大陣
(※誤字と思われる箇所を編集者の判断で変更して記載しています)
爺さんが亡くなった後、俺は彼の天上の城を完成させる事に専念した。
この老いぼれは、自分だけさっさと消えて、こんなに難しい宿題を残し逝きやがった。
こんなに巨大な城を飛ばすには、機関術や奇門遁甲だけではもう足りない。陣法、星象、五行八卦、陰陽玄術……
使える方法は全部使わなければならない……
そういったあらゆる分野の知識のせいで、俺は何度も自分の髪の毛をむしってしまった。
「あああああ――クソジジイ!!!!俺様が禿げたら!世界の果てまで追いかけて、お前も禿げにしてやる!」
「ははははは!!!若いのは良い事じゃ!!!元気だなぁ!」
「……辣子鶏、落ち着いてください」
俺の左側に座っているのは東坡肉という食いしん坊だ。毎日肉の美味しい食べ方を研究しているだけのように見えるが、各分野の知識に関して師匠であるクソジジイに負けていない。
正確に言うと、彼は俺の師叔であり、彼を召喚したのは伝説の青龍であると言われている。
右の方にいるのは、俺の事を兄弟子と呼ぶべきなのに、一向に読んでくれないバカな弟弟子――高麗人参だ。
あの天上の城を飛ばすため、俺は皆の力を借りざるを得なかった。たった一つの陣法の断章を得るために、陣法にたけている奴を全て訪ねた。
努力は志ある人を裏切らない。俺はどうにかあの巨大な城を空に浮かび上がらせた。
まだ下に落ちたりするが、少なくとも進展した。
この時、俺は非常に機関術に長けている者がいる噂を聞いた。
だけど、俺が駆けつけた時には、大規模な爆発しか目の当たりにできなかった。
俺は急いでその機関師のいるところに飛び込んだ。
「で……出ていけ!!!」
あの機関師は俺と同じで、父も母もない天地の霊だった。
何者かを庇うために、無理やり爆弾で敵を追い払ったようだが、制御できない巨大な爆発が彼の手を奪った。
しかし、その時の彼の目はキラキラと輝いていた。目の奥には優しさと、俺にはよく分からない執念が点滅していた。
まるでかつて夕焼けの中で見た爺さんの目のようだった。
炎を灯していた。
それは目が離せないほど綺麗だった。
「……チッ、面倒くさい」
俺は彼をまだ散らかっている機関城に連れて帰った。思いつく限りの方法を使って、彼のために腕をつけようとした。
しかし、絶えず消えていく霊体を見て、俺は途方に暮れた。慌てていると、傍に会った陣法が掛かれている木材が目に入った。
(あっ……この陣法は……よくわかんねぇけど……ダメもとで試してみよう……)
もちろん、結果的に俺様のような天才は何でも成し遂げられると証明された。
「ふー、なんとか霊力の漏出を抑える事ができた。後でゆっくりお前の手を改造してやるぜ。だけど一体何があったんだ?どうして共倒れになるまでやり合ってた?」
「……あの人たちは、それを山河大陣と呼んでいました」
山河大陣?
それは何だ?どうして今まで聞いた事がないんだ?
「国師監の国師様が改造した大陣です。悪獣の襲撃から、土地を丸ごと護る事ができると……」
「それは良い事じゃねぇか?」
「しかし……数えきれない程の生霊が必要となるのです……あの子どもたちは、彼らが選んだ生贄です」
国師監……
生霊を生贄に……
……高麗人参の木偶の坊!一体何してんだ!?
しかし、俺が急いで少陽山に帰った時、高麗人参の師匠が教えてくれた。
「人参……彼は王によって寒獄に入れられた。王は既に自ら殉陣しましたが、人参は王の言葉がなければ、決して獄から出ないと言っています」
「……ふざけんな!俺が呼び出してきてやる!」
Ⅳ.木偶の坊
俺が寒獄に辿り着いた時、高麗人参の奴は相変わらず爺臭い落ち着いた姿で、その寒獄の中央に静かに座っていた。
牢獄の門が朽ちても、彼はそこから離れようとはしなかった。
俺は強引に連れ出そうとしたが、東坡肉が俺を止めた。
「これは其奴の『忠』であり、其奴が追い求めた道である。そして、其奴自身の心にあるわだかまりは、彼自身にしか解けないのじゃ」
もっと何か反論したかったが、高麗人参はゆっくりと目を開けた。
その瞳の中の光は……
爺さんそして回鍋肉に少し似ていた……
「………高麗人参の木偶の坊!!!!お前の事なんてどうでも良いわ?!俺はもう行く!!!」
「だからずっと人参様の事を木偶の坊と呼んでいるのですか?」
「ああ、陽の当たらない場所で長い間閉じこもってる奴は木偶の坊じゃなかったら、なんなんだ?」
「うっ……」
わかるようでわかっていない猫耳麺の頭を揉んで、心の底からため息をついた。
もちろん……
木偶の坊って呼んでいるの理由はこれだけじゃない……
はぁ……
山河陣が出来てから、光耀大陸全体はまるで天地を覆されたようになっていた。
悪獣が姿を消したことで訪れた平和は、全ての人々を驚喜させた。
しかしその後の混乱は、俺には到底想像の出来ない物だった。
天敵がいなくなった事で、人間はかつてない程の悪意を見せるようになった。
俺たち「天地の霊」だけでなく。
更には彼ら自身の同族に対しても同じだった。
俺と回鍋肉は少しずつ機関城を夢の中の仙境に変えていったが、光耀大陸という土地は、少しずつ煉獄になっていった。
数え切れないほどの災難は、人災によるものだった。
数え切れないほどの悲劇は、悪意によるものだった。
俺は自分の傍にある小さな天地を庇うだけで精一杯だった。
だが、自分は世界を救う英雄であるという夢を持った木偶の坊が何人もいた。
俺が再び彼に会った時、彼は相変わらずかつて寒獄だった場所にいた。数え切れない程の糸に絡まれ、毎晩数え切れないほどの悲鳴と慟哭、悪意に纏わりつかれていた。
それでも、彼は依然として冷静にその中から最も重要な部分を見分けることが出来た。
面倒くさい……
そして彼は、彼とは無関係な「天下蒼生」のために、俺に向かって頭を下げた。
もううんざりだ……このバカ……
あの人たちはお前と何の関係があるんだ……
「……山河大陣が崩れているため、陣形を書き直して修復する必要があります」
「……チッ、お前知っているだろう。少陽山の皆が死んでから、俺は人間に対して好感なんて持ってない」
「吾はこの大陣を離れることは出来ません。これら全て、陣法の断章を熟読しえいるそなたにしか出来ません。お願い致します、兄弟子……」
………………チッ、この木偶の坊。
決して自分のために頭を下げない木偶の坊が、頭を下げてきた。
兄弟子って呼んで欲しいけど、こんな時にじゃねぇ。
気が付くと、俺は袖の中できつく拳を握っていて、爪が手の平に刺さっていた。
お前らバカ共は本当に面倒くさい!!!!
……もう良い。
守ってやろうじゃねぇか。
お前も俺と一緒に笑って、一緒に騒いで、一緒に楽しく過ごせる一人だからな。
小さな山河陣なんざ、俺様の眼中にない。
俺がいること機関城を守れるなら、天地と戦うのも吝かじゃねぇ。
Ⅴ辣子鶏
この世には天上の城がある。
その城は奇門陣法で動き、五行で補っている。
枯れ木が鳥となり、それは南陸と言う。
南陸の背は幾千里もあり、その翼はまるで雲のように広がる。
数万里も空で飛行し、世俗から離れていて、人々の憧れである。
その城の名は――機関城と言う。
その天上天下唯一無二の巨大な城には、あまり頼りにならなそうな城主がいる。
「良心がないのか、それとも自由すぎるのか」
人生経験の多い東坡肉でさえ甥弟子の事が読めないでいた。
機関城全員にとって彼は、事務仕事を好まず、いつもこっそりと遊びに行っては高価な物を買って、機関城の印だけ押して部下に支払わせる頼りない城主だ。
しかし、このような良心のない城主は、機関城全員にとって、唯一城主として認めている者でもあった。
彼らにとって、辣子鶏がいる限り、この世にはもう何も心配する事はないのだ。
まさに彼の存在があって初めて、この天上の城は本当に意味で憂いも心配もない仙境になる。
「お前らが機関城にいる限り、気ままに笑い、気ままに騒いで良い。俺がいる限り、たとえ天が落ちてきても怖くねぇぜ。あいたたたた――カニ!カニが俺の手を挟んだ!!マオシュエワン助けろ――」
「手を挟まれるのが怖いのなら、カニで遊ぶなよチキン野郎?!ああああ、来るな――」
この上品そうな坊ちゃんはいつもこんな風に軽々しく感動的な話をするが、その後すぐにバカな事をし始める。
辣子鶏は、自分が城民から高く評価されていると思ってもいないのだろう。
彼自身が簡単に克服出来る困難は、他の人からすると歴史に名を残すのに十分な功績であると、彼が思っていないのと同じように。
彼は、彼の外見と同じように、自由気ままに日々を生きているのだ。
彼が経験してきた心を壊すほどの苦しみは、彼にとって大した事ではない。
彼はいつも思う存分笑顔を浮かべている。たまに横暴すぎて機関城の皆をイラつかせてしまうが、同時に皆に乱世の中大笑い出来る勇気を与えている。
辣子鶏はいつも面倒くさいとしきりに言うが、冗談を言うように他の人に考えられないような責任を担ぎ出す。
「人参の奴は!!!木偶の坊だ!!!」
これは彼がよく口にする言葉だ。
彼はいつもぶつくさ言っている、高麗人参は大義のため、何もかも犠牲にしているが、誰も彼の事を思ったりはしない。バカみたいだと。
しかし彼自身も高麗人参の「兄弟子」の一言で、彼が背負わなくても良い重荷を背負った。
「辣子鶏というひとは、生まれつき人を安心させる。彼を見ていると、この世の何もかもは大した事じゃにと、思ってしまう」
「彼は生まれながらにして人の前に立つべきひとだ。彼を見ていると、私たちが経験した全ての困難は、つまらないものばかりだと思い始め、前に進む勇気をくれる」
このような性格だから、辣子鶏の周りは皆彼を羨み、慕っている。
そして段々と彼の周りにひとが増えていった。
最初は数人しかいなかった機関城は、今や巨大な城となっている。
もちろん、これもこの城主のクセのおかげだ。
彼はいつも災害にあった場所に行き、「ゴミ」を拾ってくる。
時には手が切れていたり、時には足が切れて居たり、最悪の場合体の大半が破壊されている者もいた。
「おいっ、お前綺麗だな、これからは俺の所にこないか?これでお前は俺の子分だ、俺がお前を守ってやる」
彼はいつも、綺麗だから拾って来たと言う。
しかし機関城で負傷者の手当をしている仲間たちは、いつも新しい仲間の傷口を処理しながら、腹の中でツッコミを入れていた。
「血まみれでボロボロなのにどうやって綺麗だってわかったんだ」
彼が一番好きなのは、逆境の中でも諦める事なくキラキラと輝く両目であると、彼は永遠に誰にも教える事はないだろう。
それは、眩しく、熱い、全てを壊せる程の暗い炎だ。
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