悪戯専門家・ストーリー
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悪戯専門家
プロローグ
海上の季候は陸地とは異なる。海域にはそれぞれ特徴があり、天候が変わりやすく、温度差も激しい。
今目の前に広がっているこの紺碧の海は、常に冷気を放っているように見えた。しかし、空に雲は一つもなく、太陽が容赦なく照りつけているため、蒸し暑く汗が止まらない。
干からびてしまいそうになっている魚介スープだが、そのめんどくさがりな性格のせいで、日陰の方に動こうともしない。
モヒート:あんた!デッキで寝んな、干物になっちまうぞ!
魚介スープ:ふわぁあーー
モヒート:おい、コラッ!返事は!
魚介スープ:うるさい……
モヒート:もたもたすんな、囲まれてるのが見えねぇのか!
魚介スープ:そうなの?
魚介スープはのそのそと体を半分だけ起こして辺りを見回すと、すぐに元の体勢に戻って不満をあらわにした。
魚介スープ:疲れた……大袈裟だよ、ただの漁船でしょ。
モヒート:ハッ!俺を疑ってんのか?俺様のカンは一度も外したことねぇんだ!あいつら、この海域に入ってからずっと後をつけてきてる、ぜってぇ怪しい!
ドンドンッ――
突然周囲の漁船から数本の竹矢が放たれた。しかしそれらは力なく魚介スープたちがいる船のデッキに鈍い音を立てながら落ちただけだった。先頭の漁船には身長差のある二人が立っていて、魚介スープたちの方に向かって何かを叫んでいるようだ。
海賊甲:その船にいる全員…きっ聞け!我々はっ……かい、海賊だ!ここから離れたければ、金目のもんを、全部渡せっ!
バチッ――
軽やかな音が一帯に響く、背の高い海賊が叫んでいた海賊の頭をはたいた音だ。
海賊乙:アホッ!金はいらねぇ、道具と資材だけで良いつったろ!
モヒート:……
魚介スープ:何の茶番?
モヒート:は?海賊?
魚介スープ:……強盗ってことだよ。
彼らが海賊たちについて話をしていると、天気が急激に変わった。それまで燦々と輝いていた太陽は、遠くない海面から立ち上った黒い雲に隠れてしまい、空は一気に暗くなった。
海賊甲:うわっ!黒嵐だ!にっ、逃げろ!
海賊乙:……二人も早く逃げたほうが良いぜ!ひっでぇことになる前にな!
海賊甲:うわあああーーもう間に合わねぇ!黒嵐がもう来ちまってる!!!
怯えている海賊たちの視線の先に見えるのは、水平線の方から、巨大な波を巻き込みながら猛烈な速度で押し寄せてくる黒い嵐だった。
稲光が瞬き、雨と風が吹き荒れ、嵐が始まった。
ストーリー1-2
天地が真っ暗になっている中、嵐によって発生した渦は想像を絶する吸引力で全てを呑み込もうとしていた。海の猛威を前にした人間はとてつもなく脆くて小さい。
モヒートはすぐさま異変に対応し、巧みな操縦で船を全速力で走らせ、一足先に逃げた漁船たちを追い抜いた。
嵐は彼らを追いかけ、波一つで最後尾にいた漁船をひっくり返した。漁船は渦の中心に向かって吸い込まれていき、波風の音の合間に海賊たちの助けを求める叫び声が混ざり、食霊二人の耳に届いた。
モヒート:チッ!めんどくせぇ、こんな弱っちい奴が海賊だなんて……ラム酒こそ本物の大海賊だぜ……
魚介スープ:ラム酒……昔は海軍大佐だったんでしょ?普通の海賊と全然違う……あいつらはもっとそうだ、本当の海賊は全然そんなんじゃないし。
モヒート:ごちゃごちゃうるせぇな、海賊かどうかなんて今はどうでもいいだろ!こいつらのお陰で転覆せずに済んだんだ!魚介スープーー
魚介スープ:はぁ、はいはい、助けに行って欲しいんでしょ……まったく、口と心が裏腹でめんどくさいな。
モヒート:フンッ!俺はそんなこと言ってねぇだろ、カン違いすんな!
嫌々ながらも、魚介スープは素早く海賊たちを助けに行った。いつもの怠けた様子からは思えない程にキレの良い動きをしていた。まるで、かつての厳しい鍛錬の成果を、忘れていないかのように。
嵐の中、彼は海に落ちた最後の一人を必死に船に押し上げた。しかし不運にも大きな波が襲ってきて、彼は空高く投げ出され海に落ちてしまった。
大きな衝撃によって眩暈がした彼だったが、この懐かしさを覚える感覚によって過去の場面が過ったーー
───
魚介スープは、過去の自分が堕神を倒そうと奮闘している姿を黙って見つめた。血まみれになった自分は、海賊や堕神との戦いで傷ついた御侍の方に振り返る。
魚介スープ:旦那さん、大丈夫?
???:大丈夫だ、魚介スープ、良くやった。俺たちは、ゴホゴホッ……生き残れたよーーうっーー
魚介スープ:??!
御侍から返事をもらったことで魚介スープが気を抜いた瞬間、刃が閃いて、血が彼の頬に飛び散った。鋭いナイフが御侍の胸を貫いたのだ。
海賊は大きな笑い声を上げながら、ナイフを引き抜いた。まるで相打ちになったことを喜ぶかのように、狂ったように笑いながら倒れた。
あの土砂降りの夜、魚介スープは大切にしていた全てを失った。
ーー本当に、役に立たないな、昔と変わらない。
ーー力を尽くしても、何も守れやしない。
ーー彼らを救えると思ってるのか?人間は救われない!人間が全てを壊しているんだ!
ーーなんて無能なんだ。
ーー諦めろ!何もしなければ、失望することはない。
───
混乱の中、大きな手が魚介スープを暗い渦の中から引っ張り出した。そして嵐をくぐり抜け、デッキに戻った。
魚介スープ:うっ!ゴホッ、ゴホゴホッ!
───
⋯⋯
・問題ない。
・ちょっと昔のことを思い出してた。
・疲れた……
───
モヒート:辛いなら横で休んでろ!あいつら、この先に島があるって言ってたぞ、そこに行けばもう安全だ!
魚介スープ:……
───
夕方
島
海賊甲:ゴホゴホッ、あ、ありがとうございます……
モヒート:礼は良い。しっかしあんたら弱すぎねぇか?その程度なら、大人しく陸地にいた方が良いぞ。
海賊甲:おおお仰る通りで……これから気を付けます……
魚介スープ:……ねぇ、助けたのは僕なんだけど?
海賊乙:君にも礼を言うぜ!さっきは俺らが悪かった、君ら良い奴なんだな。
モヒート:余計な話はもういい、あんたらどうやってこの島を発見したんだ?こんな島があるなんて俺は全然気付かなかったぞ!
海賊甲:それは……
この時突然、凶悪な風貌をした重装備の男たちが、海岸の岩陰から飛び出してきて、モヒートと魚介スープを取り囲んだ。
海賊甲:あっ、いっ言い忘れてました。この人たちみんな、俺たちとグルです!
モヒートと魚介スープは顔を見合わせた。先程まで純朴そうに見えた笑顔が、また怪しく見えるようになったのだ。
ストーリー1-4
海賊甲:あっ、いっ言い忘れてました。この人たちみんな、俺たちとグルです!
モヒート:グル?
海賊乙:アホッ!何がグルだ、仲間って言え!
もう一人の海賊がどもっている海賊の頭をはたき、慌てて弁明した。
村長:フンッ!わしがこのガキ共の代わりに説明しよう。
海賊甲:そっ、そそそ村長!
海賊乙:村長……いらしてたんですか!
村長:大きな黒嵐が起きて、お前らの船もない、わしをバカにしておるのか!ふざけるなと言ったはずじゃ!お前らのバカげた計画のせいで、ご先祖様に恥をかかせるつもりか!
村長:わしの話を聞かない上、まさか他の連中もたぶらかしておったとは!黒嵐はご先祖様の怒りじゃ!フンッ!話は全部聞いたわい、このお二人がいなきゃ……
村長:資材を補充するどころか、今年の祭りの時はお前らの名前が刻まれた木札が祠堂に祀られるところじゃったぞ!
身体を支えられながら現れたご老人は、年老いていたがその怒鳴り声に張りがあった。その気迫にモヒートも驚き、思わず魚介スープに耳打ちをし始めた。
モヒート:魚介スープ、このジジイすげぇ怒ってるけどよ、明らかにあいつらのために懇願してるよな?
───
⋯⋯
・直接聞けば?
・僕に聞くなよ。
・僕にはわからない。
───
村長と呼ばれたご老人は、モヒートたちの様子を伺い、すぐに海賊たちを怒鳴るのをやめた。そして、モヒートたちに向かって謝罪を始めた。
村長:ご両人、わしはこの漁村の村長、あいつらはここの村民じゃ。あのバカ共は祭りで行われるドラゴンボートレースに必要な資材を集めるために、「海賊」に成りすましてお二人を騙してしまったのじゃ。誠に申し訳ない。
モヒート:いやーあいつら下手過ぎて全然海賊に見えなかったから、全然騙されなかったぜ。
村長:ゴホンッ!とにかく、この島にとってドラゴンボートレースはとても重要なんじゃ。今年は嵐の頻度が高く、皆海に出られずにいた……そこでこのバカ共はどこからか噂を聞いて、金持ちから財を奪って貧しい人を救い、財宝を見つけるような海賊になりたいと言い出して……
話を聞いたモヒートは、海に伝わる自由で強いラム酒軍団の伝説を思い浮かべた。彼も彼女のおかげで海での冒険を始めたのだ。ほんの一瞬だが、彼はこの村人たちに共感した。
村人乙:あんたら全然金持ちじゃねぇのに、誤解して襲おうとしてしまって、本当に申し訳ねぇ!
魚介スープ:なにそれ、謝ってんの?それとも貶してんの?
モヒート:魚介スープ良いじゃねぇか、俺たちが伝説の財宝を見つけた日にゃ、きっと大富豪になるぜ。
魚介スープ:ポイントはそこじゃない……はぁ……どうしてあなたなんかと友だちになったんだろ……
村長:島に来てくれた者は皆客人じゃ、しかも村人を救ってくれたお二人は賓客に値する。わしの村に是非泊まっていってはくれぬか?村長として、お二人を祭りとドラゴンボートレースに招待させて頂きたいのじゃ……
モヒート:さっきから言ってるそのドラゴンボートレースってのはなんだ?面白れぇのか?
魚介スープ:聞いただけでしんどそう……
村長:ああ、しんどいのう。毎年この時期になると、謎の怪人がここにやって来ては、強引にわしらにドラゴンボートレースをさせるのじゃ。わしらが負けたら、島中を暴れてあらゆる物資を略奪していくのじゃ……皆毎年それに苦しんでおる。
モヒート:じゃあ、勝ったらどうなるんだ?
村長:恥ずかしながら、わしらは一度も勝ったことがないのじゃ……あの怪人に勝てば、この島を見逃してくれるらしいとしか……
モヒート:なーんだ、ただのボートレースじゃねぇか!俺らがいれば今年は楽勝だぜ!
魚介スープ:ねぇ、やめて、しんどいからやだ!
ストーリー1-6
嵐が過ぎた後の空は、雲一つなく快晴だった。石造りの仮設港に停泊した船の上、魚介スープはまたデッキで寝転がっていた。倉庫からはモヒートが何かを漁っている音が聞こえてくるが、彼は微動だにしない。
モヒート:おいっ魚介スープ、また日向ぼっこしてるのか?焦げてもしらねぇぞ!早くこの資材を運ぶのを手伝え!
魚介スープ:招待なんて言って……体よく僕たちに厄介事を解決して欲しいだけでしょ。
モヒート:別に難しい事じゃねぇしよ、早く起きろ、本当に干物になっちまうぞ!
魚介スープ:静かな干物になるのも悪くないかも……ここにはマンガも、お菓子も、何もないし……
モヒート:手伝わねぇのなら、うまい飯にありつけねぇぞ!
魚介スープ:うまい飯?どこにあるの?
モヒート:……俺様にはあんたを連れて行く義務はねぇ!
魚介スープ:ちぇー自分で行くよ……ついていく。
魚介スープは文句を言いながらも、一番小さい袋を持ってゆっくりとモヒートの後を追った。海風が吹く中、長い角を持つ青年とめんどくさがりな少年は前後に並んで、砂浜に大きさの異なる足跡を残した。
───
静かな午後
祠堂外の空き地
村人乙:あのクソガキは今日も悪戯しにくると思うか?
村人甲:さあな、毎年来てるし、しかも年々エスカレートしてる。前回は祀ってる木札を安置していた机をひっくり返してたぜ!気を抜くなよ。
モヒート:何の話してんだ?
村人乙:うわっ!バカ野郎!驚かすな!
村人甲:……おや客人じゃねぇか、秋の野郎かと思ったぜ。
モヒート:秋?
村人甲:祭りの時にいっつも邪魔しに来るクソガキだ。今回も邪魔しに来るはずだから、ここで見張ってるんだ。
村人乙:そうそう。でも可哀想だよなあいつも、両親ともいねぇし……
村人甲:しっかしひでぇ事をするもんだ、ご先祖様を敬わないし、祭りにも参加しねぇ。毎回痛い目見てるのに、まだ学習ねぇのか。
モヒートは荷物を下ろして、村人たちのそばを横切った。会話に参加しようとしているが、どう口を開いたらいいかわからず、話を聞くことしか出来なかった。一方魚介スープは、良い匂いがする鍋の方へ真っすぐ向かって行った。
村人甲:おや、これはご先祖様に供えるための料理、魚のすり身で作った団子だ。客人も良かったら食べていかねぇか?大丈夫さ、俺たちもたまに味見をするから、うまいぞ。
魚介スープ:ありがとう……ん……うぇっ……
村人乙:おいっ?どうしたんだ?熱かったのか?!出来立てだからちゃんと冷まさねぇといけねぇよ!
魚介スープ:うぇっ……苦いっ!
村人乙:苦い?ありえねぇ、俺も食べてみる……うわっ!本当に苦ぇ!
秋:シシシッ!苦いに決まってんだろ!ゴーヤの粉をたっぷり入れたからな!バーカ!
声変わりをしている最中の男の子の声が、近くの木の裏から聞こえてきた。痩せ細った小さな人影が走って逃げて行くのを魚介スープは見た。村人たちは追いかけたが、すぐに足を止めた。
村人乙:秋は足が速えんだ、追いつけねぇ!はぁ……この鍋全部食えなくなっちまった!ご先祖様に苦い団子を出したら、機嫌を損ねてしまう!
───
チクショウーー
・このままじゃダメだろ!
・あのガキをぜってぇ懲らしめてやる!
・あいつやり過ぎだろ!
───
魚介スープは感情をあらわにしたモヒートを無視して、ただじっと秋が去った方向を見つめていた。そしてゴーヤの粉が入った鍋に視線を戻し、珍しく真面目な顔を見せた。
ストーリー2-2
深夜
祠堂裏手の林
島の夜はとても静かだ。祠堂裏手の林にしっとりとした潮風が吹き込み、葉っぱの揺れる音や虫の鳴き声が聞こえる。昼間とは全く違う雰囲気を纏っていた。
大きな岩の後ろから怪しい物音がする、それは静かな夜には似つかわしくない音だった。
モヒート:ククッ……
魚介スープ:なに?
モヒート:まさか怠け者が自ら動き出すとはな!はははっ!
魚介スープ:……
モヒート:なんだその目は、何か間違ったこと言ったか?あんたと知り合ってから、ここまで積極的に動くのを見たことがねぇよ。何に対しても無関心だと思ってたぜ!
魚介スープ:……あれはお供え物だ、先人や英霊たちを祀るための物……
───
⋯⋯
・先人?
・それがどうした?
・また昔のことを思い出してるのか?
───
魚介スープ:……もういい、言ってもわかんないだろうし!
モヒート:フンッ!とにかく秋ってガキは手強いみてぇだから、足引っ張んなよ。
魚介スープ:うるさい!これでも昔は悪戯の達人って言われてたの。あいつもあなたと同じ天邪鬼で、幽霊は信じないって言いながら、一番幽霊に会いたがってるんだと思う。
モヒート:だからここは幽霊が出るって噂を広めてもらったのか?こんな罠に引っかかる訳がーー
魚介スープ:シーッ!来た!
朦朧とした月明かりの下、林の中を軽やかに駆ける痩せ細った小さな人影が見える、秋だ。
魚介スープは陰から秋を見つめていた。秋が一歩ずつ自分が隠れている岩の前に設置した罠に近づいてくるのを見て、久しぶりにワクワクしていた。
秋:うわっ!
突然秋の叫び声が聞こえて来て、魚介スープとモヒートは驚いた。二人は息を殺し、秋が罠の位置まで辿り着いたことを確認した。しかし、罠が作動する音はしなかった。
秋:わははっ!なんだよ、この世に幽霊なんている訳ねぇじゃん!何がご先祖様を祀るだ、何が先人だ、全部嘘じゃんか……シシッ、祠堂を潰してやる、どうせ先人なんて帰ってきやしねぇし……
魚介スープ:???
モヒート:クソガキ、俺をからかってるのか?!
魚介スープが反応するより先に、祠堂に向かって走り出した秋を追いかけようとして、モヒートは岩を跳び越えた。しかしーー
シュッシュッーー
モヒート:うあああああー!
思いがけず罠が発動してしまい、地面から現れた大きな網によってモヒートは包み込まれ、太い木の上にまで吊り上げられてしまった。
秋:バーカッ!こんな罠で俺が捕まると思ってんのか!ハハハッ!吊るされて動けなくなった気分はどうだ?ハハハハハッ!
秋は近くで隠れたまま呆けている魚介スープに気付かず、モヒートを煽った後、彼を放置し祠堂の方へと走って行った。
───
深夜
祠堂
モヒート:クソッ!!!あのガキが祠堂に来たのを見たのにいねぇじゃねぇか!どこに行きやがった!捕まえたらタダじゃおかねぇからな!ぜってぇ懲らしめてやる!!!
魚介スープ:そんな大きな声で喋ったら、先人たちが起きちゃう。秋にはちゃんと届いてると思うよ……
モヒート:フンッ!こっからは別行動だ!俺は奥を探す、あんたは出口を塞いでおけ!俺たち二人でクソガキ一人捕まえられねぇ訳がねぇ!
魚介スープ:……好きにして。
モヒートが怒り心頭な様子で奥に入っていく姿を見て、魚介スープは肩をすくめた。それまであった微かな怒りはこのごたごたでなくなってしまった、そして身体に残ったのは疲労感だけ。
窓枠によって切り取られた月の光は、静かに並んでいる木札に注がれた。この空間だけ、万物が眠っているような沈黙が広がっていた。そして、哀愁が漂っていた。
魚介スープ:ふぅ……先人を祀る事に……本当に意味はあるの?
ストーリー2-4
深夜
祠堂
魚介スープ:ふぅ……先人を祀る事に……本当に意味はあるの?
魚介スープはいつもの無表情とは違う、複雑な表情を浮かべている。門の枠にもたれたまま意識を彼方へと飛ばしていた。彼の影は、月の光の角度によって少しずつ動き、遂には木の影と重なった。
遠くから眺めていると、まるで影がないように見えた。
ダッダッダッーー
秋:バカバーカッ!お前なんかに捕まらねぇよーだっ!ハハハハッ!
秋の奔放な笑い声が祠堂の静けさを破った。彼は複雑な道をするっと通り抜け、魚介スープがいる出口の方へと真っすぐ向かった。個々の道を熟知している動きだったが、待ち伏せしていた魚介スープにまんまと止められた。
秋:あっ?!おっ、お前は……
逆光なため、秋は魚介スープの顔がはっきりと見えない。彼には古びた衣装を着て、身体が硬そうな、まるで伝説のキョンシーのような人影しか見えなかった。その上ーー
秋:おおお前っ、影がねぇ!!!お前はっーー
秋:幽霊だあああああ!!!!!
先程まで得意げだった秋は驚いて、走って逃げ出してしまった。魚介スープが乱された思考を整理していると、なんとまた足音が近づいて来た。
青白い顔をした秋が戻って来たと思いきや、真っすぐ魚介スープに抱き着いた。そして秋を追っていたモヒートは、ちょうどこの瞬間を目撃した。
モヒート:???
魚介スープ:???!
秋:お、お前は、幽霊なのか?
魚介スープ:…………
秋:もし、幽霊なら、教えてくれない?ど、どうして母ちゃんと父ちゃんは一度も帰って来てくれねぇんだ!
秋:祭りの晩、俺はいつも徹夜して、待ってた……でも、でも……どうして!どうして一度も帰って来ねぇんだ!
秋:昔は俺が悪さすると、いつも二人でお仕置きしてくれたんだ……だけど、今俺がどんなに頑張って悪さしても、二人は……二人はお仕置きしに来てくれねぇんだ……うううぅ……
秋:なあ!なんか言えよ!教えてくれ……どうして喋らねぇんだ!!!
魚介スープ:……
モヒート:…………
モヒートはそのまま抱き合ってる二人の様子を伺いながら、笑いたいか泣きたいか、どちらでもなく複雑な気持ちになった。それでも、敢えて凶悪な振りをした。
───
おいっ!クソガキーー
・泣いてどうする。
・恥ずかしくねぇの?
・漢ならメソメソすんなっ!
───
秋:うっ……お前になんか用はねぇんだよ!自分から罠に飛び込んだバカなんかに説教されたくねぇんだ!
モヒート:んだとっ?!俺様はなぁ……幽霊の言葉がわかんだ!あんたにわかんのか!!!
秋:信じる訳ねぇだろ、最初から騙すつもりだったろ!
モヒート:ゴホンッ!騙すも何も、俺じゃなくて……そんなのはもうどうでもいい!俺様は悪竜だ、幽霊の言葉がわかっても不思議じゃねぇ!あいつはさっき俺に教えてくれた、あんたの両親はそもそもここから離れちゃいねぇってな。
秋:……ほん、本当に?
モヒート:ハハッ、当然だ!あんたが両親を想っている時、両親もあんたのことを想ってる。だから、あんたが忘れない限り、永遠にあんたの心にいるぜ。
魚介スープ:……
秋:……本当に嘘じゃない?
モヒート:チッ!あんたを騙して何のメリットがある?自分でよく思い返してみろ、両親が恋しくなった時、目を閉じると自然と二人の姿が見えるだろ?時々二人の声が聞こえる時もあんじゃねぇのか……
秋:なっ、なんで知ってんだ!俺を監視してたのか?!
モヒート:……バーカ。これは常識だ、皆一緒だからな!
魚介スープ:……
モヒート:クソガキ、もう駄々をこねるのをやめろ!漢なら俺様みたいに強く勇敢であれ、例えあんた独りになったとしてもだーーおいっ、話はまだ終わってねぇぞ、逃げるな!止まれー!
タタタッ――
モヒートは呆れた顔で、どうして秋を止めなかったのか問いただそうとしたが、魚介スープの方を振り返るとその気は失せてしまった。雨の日に傘をさすことすら億劫な彼が、袖で目尻を拭いているように見えたのだ。
ストーリー2-6
祭り当日まで、モヒートはずっと「魚介スープはあの時泣いていたのか」について興味津々にしていた。
モヒート:あの時泣いてたよな?
魚介スープ:いや。
モヒート:いやぜってぇ見間違えじゃねぇって、ちゃんと答えねぇなら黙認ってことにするぞ!
魚介スープ:だから泣いてない!!!
モヒート:なーんだ、ジジイが死ぬ前にごちゃごちゃ言ってた言葉が役に立ったみてぇだな。あんたみてぇなやつも泣くとはな、気にしてたんだな。
魚介スープ:違う……
モヒート:シーッ、あれ秋じゃねぇか?祭りに参加すんのか?あいつはいつも出ねぇって皆言ってただろ?
魚介スープ:あなたの気が済んだんなら、もういい……
───
二人が話している間、遠くないところにいた秋もどうやら目立つモヒートに気付いたようだ。複雑な顔で一目睨んだ後、そのまま行列の後について海辺に向かって行った。
魚介スープは嫌そうな顔をしながらも、興味津々なモヒートの後を追って海辺に向かった。すると、村人たちがしっかりと作られたドラゴンボートを囲んで、何か激しく討論しているのが見えた。
村長:皆静かに!騒ぐな!
村長が全力で制止すると、顔に刻まれている皺がより一層深くなっていった。
モヒートはその様子を見て少し笑いそうになったが、辺りを見回した。突然、よく知っている姿が一瞬過った。
ラム酒:……
モヒート:は?あれは……ラム酒か?どうして彼女がここに?見間違えか……
モヒートが改めて確かめようとしたその時、それまで穏やかだった海面は突然沸騰したかのようにブクブクと大量の泡を発生させた。それはすぐに治まったが、海面はかなり下がったように見えた。
モヒート:なんだ?様子がおかしい……これは堕神の気配だ!
魚介スープ:……なんでこんな時に?!
モヒート:おいっ、喧嘩してる場合じゃねぇぞ!早く海から離れろ!
女王巻貝:ブクブク……おや?なんと懐かしく忌々しい匂いだろうか!あら、また一人増えた?ドラゴンボートレースは人数が多ければ勝てるものじゃない、今回の勝者もワタクシに決まっているーーそして今度こそ、この島を丸ごと呑み込んでやる!ハハハッ!
モヒート:女王巻貝?!
女王巻貝:あれ?アナタたちは前のヤツとは違う……まあいいわ、全員揃っているし、約束の時間にもなった、ならーー勝負開始!
モヒート:は?!約束ってなんだ?!
女王巻貝は話し終えると、すぐに巻貝に乗ってスタートダッシュを決めた。そして、彼女に纏わりついていた寄生型堕神たちは、強烈な悪意を放ちながら海辺に留まっている。
村長:早く、早く追えっ!
モヒート:村長?女王巻貝と知り合いなのか?!あれは堕神だぞ!!!どういう事だ?!
村長:あれこそわしが言っていた、レースを強要してくる怪人じゃ。レースは既に始まっておる、説明する時間はない!頼む、頼みます!今この島を救えるのはお二人しかおらんのじゃ!
───
つまらないレースなんかに参加するつもりはないよ⋯⋯
・早く行ってあげて。
・ここで見学してるよ。
・わかったよ、やれば良いんでしょ。
───
モヒート:よしっ、じゃあここはあんたに任せた!レースの方は俺様に任せろ!
モヒートはニヤリと笑って、手近なドラゴンボートに華麗に飛び乗り、女王巻貝を全速力で追いかけた。
村長:頼む!あの恐ろしいヤツに勝ってくれ!
ラム酒√宝箱
快晴の午後、静かな海面。村長や村人たちは海辺から避難したため、喧騒も去って行った。ここには魚介スープと海から飛び出した堕神たちだけが残っている。
魚介スープはまた、嵐が吹き荒れたあの夜を思い返していた。そう、希望さえも完全に失ったあの夜を。最終的に、彼のそばには誰も残ることはなかった。
魚介スープ:全然似てないじゃん……
秋:何が?
魚介スープの漫然とした回想は、背後から聞こえてきた声によって遮られた。振り返ると、そこにはあの「クソガキ」がいた。
魚介スープ:……どうして逃げなかったの。
秋:は?どこに逃げればいいんだ?
魚介スープ:さあ……皆と一緒に行けばいいんじゃない。
秋:皆?なんだそれ、皆は武器を取りに帰っただけだ、逃げてなんかねぇよ!ここが俺たちの家だ、他に行くところなんてない!
秋:俺は武器なんか持ってねぇから、帰るのが面倒だっただけ。お前が怖がっているように見えたから、付き合ってやってんの。
魚介スープ:……
その後、村長は島にいる全ての戦闘員を引き連れて、海辺に戻って来た。事は順調に進み、なんと戦闘する間もなく事は解決したようだ。
モヒートは満面の笑みを浮かべて島に戻って来た。島を取り囲んでいた堕神たちも、女王巻貝のもとへと戻って行った。
魚介スープ:勝ったの?
モヒート:当然だろっ!しかし……村長、どうして女王巻貝なんかに狙われてんだ?
村長:……話すと長くなるのう、あれは……
秋:またかよ、その話もう八百回も聞いてるぜ。むかーしむかし、海の奥深くから突然現れたんだろ?
秋:そこで偶然通りすがったラム酒様が先頭に立って、怪物共が島を占領するのを阻止してくれたんだ。
秋:その後の話は知らねぇ、村長の話はいつもそこで終わっちまうんだ!
村長:ゴホンッ!まあ大体そんな感じじゃのう。ラム酒様もお二人と同じ不思議な力を持っておった。何らかの原因で、その時に今年再戦する約束をしたようじゃが……
秋:でも村長……ラム酒様が女王巻貝に俺らの島を守らせるよう命じたって言ってなかった?
村長:伝説ではそう言われておる……しかし女王巻貝はそれ以来、毎年この島に嫌がらせしに来ているのじゃ……確かに実際には誰も傷つけてはおらんのじゃが………
モヒート:じゃあもういいじゃねぇか、どうせあいつはもうこの海域から離れるって言ってたしよ、もう嫌がらせにこねぇから心配すんなっ!
魚介スープ:……村長、最初から僕たちに手伝わせようとし--
村長:--おおおっ、恩人よ!!!感謝する!!!
魚介スープの言葉を遮るように、村長は年に見合わないありえない速さで、深く腰を曲げてお辞儀をした。
村長:お二人はこの村の恩人じゃ!必ずやお二人の功績を記録して、後世にこのご恩を伝えましょう!
モヒート:……
魚介スープ:…………
秋:……しまった、村長の話がまた長くなるぜ……
モヒート:あっ!じゃあ俺はラム酒の意志を受け継ぎ、堕神を倒した大英雄ってことか?!
モヒートの武勇伝を聞く気にはならなかった秋は、海の方に目を逸らした。すると遠くに数隻の艦船があるのに気付き、遠ざかって行くのが見えた。
秋:見ろ!艦隊だ!ラム酒様はやっぱり約束を忘れていなかったんだ!本当に来てくれたんだ!でもなんで帰っちゃったんだろ?
村長:……ラム酒様はやはり立派なお人じゃ!事が解決したのを見て、わしらに気を遣って黙って去って行ったのじゃ!
モヒート:フンッ!やはり見間違えではなかったか。島に上陸したのなら、どうして俺を彼女の軍団に引き入れなかったんだ!!!
秋:何考えてんだ。ラム酒様はきっとお前みたいな厚かましい奴に驚いて、帰っちゃったんだよ……
魚介スープ:はぁ、もう好きにして。
海から生ぬるい潮風が吹いて来た。皆各々今日起きた出来事について好きに話して、気を緩めている。
その騒がしくも和やかな雰囲気にあてられ、知らず知らずのうちに魚介スープは微笑みを浮かべた。
魚介スープ√宝箱
祭りの後、魚介スープの要求に応じて、二人はしばらく島でゆっくり休むことにした。魚介スープと共に日向ぼっこを始めたモヒートだったが、すぐに飽きたようだ。
モヒート:退屈じゃねぇか?
魚介スープ:……
モヒート:なんか喋れ!
魚介スープ:ふぅ……ふぅ……
モヒート:俺様の夢はな、ラム酒を超えて、スーパーな宝を見つけることだ。あんたみてぇに一日中ダラダラしてたら、一生見つけらんねぇだろうな!
魚介スープ:うぅ……
モヒート:んああああ!またボートレースやろうぜ!つまんねぇ!
魚介スープ:ぐぅぅ……
モヒート:もういいっ!一人で遊んでくる。
魚介スープ:好きにすれば……休憩の邪魔だけしないで……
魚介スープは日向ぼっこをしながら、モヒートが船で島を何周も回っているのを眺めていた。何周も、何周もしていると、まだ遠くに行っていない女王巻貝を引き寄せてしまった。女王巻貝は巻貝に乗り、モヒートの船と肩を並べた。
女王巻貝:ブクブク……何をしてる?ここにも宝があるのか?
モヒート:負け犬はさっさと帰れ!
女王巻貝:アナタは申し分ない相手だった、しかしワタクシはまだ力を出し切ってなどいない!
モヒート:待て……「ここにも」って、あんた宝の在処がわかるのか?
女王巻貝:……フフッ、当然。ワタクシは宝が満ち溢れている場所から来たのだ。約束がなければ、こんな所に長く滞在などするものか!それにワタクシは幾度も海を横断しておる、多くの隠された伝説を知っている。
モヒート:例えば?
女王巻貝:そうだな……例えば黄金帝国の伝説、桜の島に隠された秘密……
モヒート:黄金帝国?桜の島?
モヒート:もっと詳しく聞かせてくれ!
女王巻貝:タダで教える訳がなかろう、知りたければ……
モヒートの卓越した操船技術に興味を持った女王巻貝はこう叫んだ。
女王巻貝:知りたければ、ワタクシに追いつけ!ハハハハッ!
モヒート:待て、まだ話は終わってねぇぞ!!!
遠くからずっと様子を見ていた魚介スープは動じなかった。逆に暇つぶしに来た秋が呆れてこう言った。
秋:お前の友だち、騙されやすそうだな……
魚介スープ:そうだね、好きにさせたらいい。
秋:ってことは……あいつはお前をここに置いてったってことか?
魚介スープ:どっちでもいいよ、どうせ僕はお宝に興味なんてないし、ここにいるのも悪くない……マンガがあればもっと良いけど……
秋:マンガってなんだ?これのことか?
秋はボロボロな紙の束を魚介スープに渡した。紙は濡れている上に丸まっていて、書いてある文字は読み取れない。
魚介スープ:……木、嬰……島……巫女、救……読めない、どこで見つけたの?
秋:海で拾った。
魚介スープ:ボトルメール?わからないけど、悪戯かもね……
秋:チェッ、よく言うよ、この前幽霊に化けたのはどこの誰だよ。
魚介スープ:好きに言えばいいよ……
同時刻、島から遠ざかって行く艦船の上、ラム酒は甲板の上から島を見ていた。視線の先には、モヒートが船で島を回っている様子が見える。
何か面白いものでも見たかのように、いつも冷静なラム酒は微かに口角を上げた。
ラム酒:ほお、以前会った時と比べて、成長したようだな。まったく、実に面白い子だ。
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