タコス・エピソード
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タコスのエピソード
戦争で国が滅ぶところを目の当たりにしているため、世界の平和を願っている。争い事を嫌っており、喧嘩している人を見かけると仲裁に入る。少し天然ボケのように見えるが、仕事は完璧にこなす。とても真面目な努力家なため、たまに無理をしてしまうことがある。
人々の気持ちを届けるために郵便屋さんになった。彼女のハトたちは一度嗅いだことのある受取人の匂いなら嗅ぎ分けることが出来る。このハトたちは本来軍事用に育てられたものだが、彼女とハトたちはもう争いに参加する気はない。
正式名称は「タコス」だが、彼女は「タコ」と呼ばれることを好む。
Ⅰ一通目の手紙
親愛なるリリカお姉さんへ
リリカお姉さん、タコですよ！この間お別れしたばかりなのにとても会いたいです、とにかく話したいことがまだたくさんあるんです。
最近どうしてますか？少し寒くなって来たので、体に気をつけて、ご飯もきちんと食べてくださいね！
うぅ……そちらもここと同じかはわかりません……
そちらにいれば、戦火は届かないはずですよね？
そうだと良いな、そうしたら安心して生活出来ますね。
そうでした！リリカお姉さん、とても良い事があったので伝えたかったんです！
私、郵便屋さんになったんですよ！
どうしてそうなったかは……話すと長くなります！
あの時、御侍さまはまだ若いお姉さんでした、リリカお姉さんと同じくらいですね！
御侍さまの笑顔をあまり見たことがありません。それもそのはず、戦火にさらされた国で生活して、心から笑える訳がありませんよね……
でも、彼女が笑わないのは、別の理由があるのです……
彼女の旦那さま、えっと御侍さまから彼のことを「おじさん」と呼ぶように言われています、おじさんが前線に行ってしまったんです。
彼女がいつも隠れてこっそり泣いているのを私は見ていました。
きっと、おじさんに会いたい気持ちが、心から笑えなくさせているのです。
唯一おじさんと連絡取れるのは、三か月に一回の手紙だけです。
御侍さまは言っていました、その日をとても楽しみにしていると、郵便屋さんがベルを鳴らすあの瞬間が何よりも楽しみだって。
気付けば、私もとても手紙が楽しみになっていました。だって、その時の彼女は一番嬉しそうで、幸せそうだから。
リリカお姉さんは言っていましたよね、意味のある事をしようって。
その時はいくら考えても答えを見つけられませんでした。
だけど色んな人が戦争のせいで離れ離れになっている所を、気持ちをすぐに相手に伝えられないでいる所を見ていると、私はとても悲しくなりました！
だから、彼らのために何か出来ないか、考えたのです！
前線は本当に危険です！時々負傷した人が連れ戻されることがあるんですが、いつも大騒ぎになります。
みんな、自分の家族もそうなることを恐れているのです……
だから、多くの郵便屋さんは前線に行きたがらないんです……そのため、戦地にはなかなか手紙が届けられません。
手紙にはずっしりとした気持ちが詰まっています、それを伝えたい相手の心に届けられないなんて、勿体なさ過ぎます……
だから、リリカお姉さん、私は郵便屋さんになろうと思ったんです。
離れ離れで会えなくなっている人々の気持ちを伝えようと思ったんです！
私にとって意味のある事というのは、きっとこれだと思うんです！
リリカお姉さん、これは私が郵便屋さんになってから初めて書いた手紙ですよ。
届くまでどれぐらい掛かるでしょう？とても楽しみです、ハトさんたちにきちんとこの手紙を守るよう伝えておかないとですね。
手紙を届ける途中、もし何か面白い事があったら、また聞かせてあげますね！
あなたに会いたいタコより
Ⅱ二通目の手紙
親愛なるリリカお姉さんへ
リリカお姉さん、お元気ですか？
あなたがいる所が平和でありますように、ご飯もきちんと食べてくださいね。
私はあれから手紙をいっぱい配達しました、より一層この仕事はとても意味のある仕事だと思うようになりましたよ！
私はただ手紙を配達しているだけに過ぎません、だけどこうすることで人と人を結びつけることが出来て、私はとても誇らしいです。手紙を受け取った人から溢れ出る喜びの気持ちを見ると、私もとても幸せな気持ちになります……
私は、みんなの笑顔を見るのが大好きなんです！
配達を始めて、面白いひとたちとも知り合うことが出来ました！
一番印象深いひとは、配達の途中で出会ったひとです。
彼からは食霊の気配がしました。だけど最初は彼じゃなくて、白いお馬さんを見つけたのです。
本当に普通のお馬さんでした！
でも、なんだかとても苛立っていて、怒った顔で遠くの方から駆けて来ました！
ハトさんたちが教えてくれなかったら、ぶつかって転ぶところでした。
えへへ……その時、ちょうど次に配達する手紙の確認をしていたので、気付きませんでした。
すると後ろから「おいっ、パイン！待て！」と叫びながら走ってくるひとがいました！
その時初めて、さっき感じた食霊の気配は走ってきたお兄さんのものだと気付きました。
うぅ、もう少し早く気付くべきでしたね……
でも、パインって呼ばれた白いお馬さんは、その声を聞いても止まることはありませんでした……
でも、私も食霊なので、お兄さんと協力して二人でパインを止めることに成功しました！
幸い、近くに人間はいませんでした、そうじゃなかったら騒ぎになっていたかもしれません。
お兄さんの名前はシュラスコ、とても情熱的で親切なひとです。
旅の途中たまたまここを通りかかったらしくて、パインは彼の良き相棒だそうです。
彼はどうしてパインが怒っているのか説明してくれました。
リリカお姉さん、どんな理由かわかりますか？
最近パインの胃腸が悪いみたいで、シュラスコお兄さんがいつも食べているおやつを禁止したから、怒ったみたいなんです！
本当に……とってもカワイイですよね！！！
きっと、シュラスコお兄さんとパインの関係は、私とハトさんたちの関係と一緒なんだと思います！
ハトさんは私の頼れる仲間です！
シュラスコお兄さんは私に旅で見てきた事をいっぱい話してくれました。色んな場所に行ったことがあるみたいで、とてもスゴイです！
彼はこんなことも言ってくれました。
どこも戦火に包まれている訳ではないと、愛と平和に満ちた場所もあると。
そういう場所は活き活きとした草原や、花を咲かせようとしている蕾や、賑やかな町があるそうです。
天気の良い日は、澄み切った青い空にふわふわな雲が浮かんでいて、とても綺麗だそうですよ。
それはいったいどんな景色なんだろう？うぅ、きっとリリカお姉さんがいる場所と同じぐらい素敵なはずです！
良いなぁ、この国でも早く戦争が終わらないかな……
私もあんなに綺麗な空が見たいです……
私が郵便屋さんだと知ったシュラスコお兄さんは、いっぱい私のことを励ましてくれました！そしてぎゅっとハグをしてくれました！これは友だち同士のハグで、感謝と称賛のハグだと言ってくれました。
郵便屋さんがいるから、人々は離れ離れの苦しさから少しでも抜け出すことが出来る、距離によって隔たれた気持ちも繋がると言ってくれました。
私が今やっている事は、本当にとても大切で意味のある事なんだと改めて感じました。
リリカお姉さんもそう思いませんか？
シュラスコお兄さんは友だちを作るのが好きみたいです。食霊でも、人間でも、堕神でも！みんなと友だちになりたいみたいですよ。
リリカお姉さんもきっと、彼と友だちになれると思います！
ここだけの話、シュラスコお兄さんとリリカお姉さんはとても似ていると思います。
でも、この手紙を書いている時、シュラスコお兄さんはもうパインとここから旅立っています。
明るくて元気なお兄さんのこれからの旅路も順調でありますように！
もし全世界のひとがシュラスコお兄さんみたいだったら、平和は訪れるんでしょうか？
わあ……！もうこんな時間、リリカお姉さん、私はもう休んできますね。
お姉さんも体に気を付けて！
あなたに会いたいタコより
Ⅲ三通目の手紙
親愛なるリリカお姉さんへ
リリカお姉さん、最近どうですか？
戦争はいつになったら終わってくれるんでしょう……
前線はまだ混乱状態のまま、手紙の数は減ってしまっています。
隣国が負けて、敵が町の中まで入って来たそうです。だから多くの避難民が私たちの所にやって来ました。
今までの仕事内容に加え、避難して来た人たちの手紙も届けています。
手紙を受け取った時の喜びや悲しみの涙を見ていると、とても複雑な気持ちになります。
手紙を書けなくなった人たちはどうしているのでしょう？
生活が苦しくてもう書けないのでしょうか、それとも……
これ以上考えたくありません、戦争なんて本当に大嫌いです……
あとおじさんの手紙も、最近届かないみたいで……御侍さまはとても心配しています。
無事でいてくれますように。
とにかく……早く戦争なんか終わって欲しいです！
そうすればみんなはもっと笑顔になれるのに……
リリカお姉さん、実は私たちの生活も苦しくなってきました。
戦いは隣国で起きているけど、私たちの方にまで及んでいます、そして避難民もいる関係で……
みんな怯えきっていて、外は閑散としています。
手紙を配達するのも前より難しくなりました、細心の注意を払わないといけません。
でも……でも！みんなの気持ちを届けるために、私はこれからも配達を続けます！
そう言えば、私&%*￥#私は
……#%（&*%……
あ@#￥……なた%&……*（&……
ああっ、リリカお姉さんごめんなさい。言いたいことはたくさんあるんですけど、砲火のせいで字が上手く書けません。
何かが起きたみたいです、見て来ないと……
また手紙を書きます。
お姉さんどうかお大事に！
あなたに会いたいタコより
Ⅳ四通目の手紙
親愛なるリリカお姉さんへ
リリカお姉さん、お久しぶりです。手紙、遅くなってしまってごめんなさい……
この三年間、どう過ごしてきましたか？
最近、知り合った日のことをよく思い出します。
あの時、私が売店の前に立って御侍さまのことを待っていたら、あなたが話掛けて来ましたね。
あの時、私が売店の前に立って御侍さまのことを待っていたら、あなたが話掛けて来ましたね。
あの時、私はまだ召喚されたばかりで、この世界のことはあまり分からず、友だちもいませんでした。
リリカお姉さん、あなたが御侍さま以外で初めて出来た友だちなんですよ！
あの時言ってくれた言葉は、今でも全部覚えています！
この三年間、本当に色々ありました、手紙を配達する以外にも……
うぅ、あの日慌てて手紙を出したのは、敵が侵攻してきたからなんです。
私の国の防衛線が突破されて、町が地獄になってしまったのです。
避難民も、国民も、みんな……
おじさんは御侍さまを守るために亡くなりました。
彼女はこの事実に耐え切れず、おじさんと一緒に逝きました。
私には御侍さまの決断が正しいかどうかなんて判断出来ません。きっと燃えるような愛を内に秘めているから、この決断が出来たのでしょう。
その後……少しずつ戦火が止み、私はようやくシュラスコお兄さんが言っていた美しい空を見ることが出来ました。
でも、一緒に見たかった人たちはもう誰もいなくなりました。
リリカお姉さんはどうですか？この三年どう過ごしていましたか？
手紙を書くのが久々で、書きたい事が山ほどあるんです。
考えたら本当に長い時間が過ぎましたね。
またあの日がやってくる……
本当は……リリカお姉さん、今になっても私は信じられないんです。
いつになったら会えますか？本当に会いたいんです、言いたい事もいっぱいあるんです、手紙だと全然書ききれないんです！
私は今でも郵便屋さんをしていますよ、毎日ハトさんたちと手紙を届けています。
きっと、これからも、私はずっと郵便屋さんでいると思います。
リリカお姉さん、どうか私のことを応援していてくださいね。
あなたに会いたいタコより
Ⅴタコス
書き終えた手紙を封筒の中に入れ、タコスはゆっくりと暖炉に近づいた。
三年前同様、彼女は手を伸ばして、手紙を燃え盛る炎の中にくべた。
生きていれば、少なくとも手紙を通じて気持ちを相手に届けることができる。
しかし、この世にいない場合……溢れ出る気持ちをどう処理すればいいのか。
ハトたちは静かにランプの上に立っていた。
タコスは自分の行為に意味はあるのかわからなかった。
彼女の思念は海水になり、静まり返った夜に波打ち、心を濡らす。
彼女は窓の外の夜空を見上げながら、数年前の午後に思いを馳せた。
「わあ！可愛らしい女の子がいるわ！なんて名前かしら！」
宝物を見つけたかのように、長い髪の少女はタコスの前にやって来た。
「わ、わたしはタコスです……よかったら"タコ"って呼んでください！」
「可愛い名前ね、貴方と同じくらい可愛いわ！」
少女はタコスの返事に満足したのか、まばたきをして素敵な笑顔を浮かべた。
「私はリリコよ、お友だちになりましょう、どこから来たの？」
タコスがこの世界にやって来た時、どこを見ても瓦礫が広がっていた、耳元には砲火の轟音が響き続けた。
戦火に包まれたその国で、平穏な生活なんて望むことは出来ない。
リリカと出会ったことで、タコスの暗い生活に少しだけ安らぎが訪れた。
こんな過酷な環境の中であっても、純粋な心をもったまま生活している人間がいたのだ。
絶望に吞み込まれることなく、平穏な生活を望みながら。
長い間、タコスはどうしてリリカが純粋のままいられたのか、わからなかった。
わかったのは、彼女の病床で最後に会った時だった。
「私の命は短すぎるの、ちゃんと楽しまなきゃいけないのよ」
「例えこんな砲火が飛び交う世界にいてもね……」
タコスは真剣に考えた後、郵便屋さんになることを決めた。
離れ離れになってしまった人々のために気持ちを届け、通わせることの出来ない心を繋ぐために。
そして……一番大切な友だちのために。
戦争が終わると、各国は再建を始めた。
タコスはハトたちと手紙を届け続けた。
彼女はこの仕事を愛していたのだ、そしてもっと広い世界を見ようとしていた。
コンコンーー
「こんにちはーー誰かいませんか？手紙をお届けに参りました！」
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