猫耳麺・エピソード
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猫耳麺のエピソード
高麗人参の従者、大人しく利口、物静か、目が見えない。真面目な表情をしているが、背伸びをして真面目を装っている。本当は少し天然。
高麗人参の代わりに命令などを伝達する役目をこなしている。
人間は地府の諦聴を彼の猫だと勘違いしているが、諦聴の能力を持っているのは猫耳麺。
※誤字と思われる部分も原文のまま掲載しています。
Ⅰ.手に入れた幸せ
誰の言葉かわからないけれど、僕はこんな言葉を聞いたことがあります!
ーー何かを失った時、天は必ず何かを与えてくださる。
僕は他の食霊とは少し違う。
僕は生まれたつき、皆と同じ世界を目で感じることが出来ない。
でも、大丈夫!
僕は見る事は出来ないけど、他の人が感じる事が出来ない素晴らしい物を感じられる。
__僕は多くの人よりも敏感な聴覚を持っている。
……どれだけ敏感なのか……
うん……
八宝飯さまたちと前に試したことがある。多分、僕が山頂にいても、麓の声は少し頑張れば、聞こえると思う。
八宝飯さまたちは凄いと言ってくれた。
この聴覚で、他の人が知らないたくさんの事を知る事が出来る。
知ってる?一人一人の心音は全て異なっているんだ。ある人の心音は廟堂の上の荘厳な礼楽のようで、ある人の心音は水郷の間の悠揚な小曲のよう……
とにかく、人によって心音は異なる旋律を奏でている。
そして、人間や我々食霊だけでなく、樹木、草花、鳥、獣、さらには水、風に至るまで、皆がそれぞれの声を持っている。
全ての音が混じり合うと、最高に良い曲が出来上がるんだ。
それに、蕎麦がいるおかげで、世界が見えなくても、生活に不自由はない。
そうだ、蕎麦は僕の伴生獣で、僕よりもぶつまと大きい猫なんだ!彼はすごいんだ!
この世界に来ることが出来て、仲間に出会えて、僕は本当に幸運なんだ!
あの言葉の通り、失うのは、より良いものを得るためであると。
だけど……
人参さまは僕に、今のように美しい生活は、虚しい虚像に過ぎないと教えてくれた。
人間よりも強い力を持っている僕たちが努力しなければ、もしかしたら、僕はもう素晴らしい音を聞くことが出来なくなるそうだ。
だから、例え僕の力が強くなくても、僕は出来る事を精一杯やるんだ。
……一つだけお願いを聞いてくれるなら、力がもっと強くなることを望む!
そうすれば、僕は仲間を守ることが出来るかもしれない。
Ⅱ.過去
地府。
誰もがここを怖い場所だと思うだろう。
でも実際、ここはとても良い場所なんだ。
人間の役所で解決できない無念を解決出来る上に、人参さまは光耀大陸にとって、大切な大切な事を研究している。
だから真っ暗な大陣に閉じこもって、滅多に目を覚まさない。
たまに目を覚ますと、僕が生まれる以前の話をしてくれる。
人参さまはいつも僕にこう言うんだ。彼が教えてくれるお話は、おとぎ話で、噂で、実際にあったとは限らない、あまり気にしないでと。
でも、彼の心音を聞くと、これらは彼が実際に経験した痛ましい歴史である事がわかった。
堕神は全ての人間と食霊の敵だ。
この世界に堕神という怪物が現れて以来、誰もが絶望に陥った。
その時、堕神を阻止するために、人間は無数の犠牲を払って、無数の研究をして、少しずつ法則をまとめて、最終的にやっと現在の食霊を召喚する方法が生まれた。
この方法が正式に誕生するまで、堕神との戦いの歴史には、苦難と血の涙が綴られていた。
長い苦しみを経て、光耀大陸はついに天幕と呼ばれる巨大な障壁を張り、外界からの脅威を防いだ。
だけど、外からの侵入を防ぐだけでは十分ではないみたいだ。人の心の闇と恐怖を呑み込んで生まれる怪物を殺す方法がなければ、光耀大陸に安寧をもたらすことは出来ない。
そして、その裏にある辛酸苦痛は、僕たちには想像もつかないものだ。
人参さまは、かつて山河陣の陣法の携わった、あの偉大な君主の臣下だ。
何年経っても、陛下から罷免の勅を下されない限り、彼は臣下のまま。彼が無数の対価を払い、後世に悪名を残してまでの作り上げた山河陣を守らなければならないと。
暴虐の法令によって歴史から消された君主に会った事はないけれど、人参さまはとても良い方だから、彼が忠誠を誓っている人はきっと良い人に違いない。
人参さまは、山河陣を守るために巨大な玄鉄の門を使って暗い地下に閉じこもっている。情報収集のために、大陣を離れる事はほとんどない。
この巨大な門は彼を世界から遮断した、僕だけがこの分厚い鉄の門の向こうから彼の声を聞く事が出来る。
地府の仲間たちは、日々、山河陣の修復に希望を求めて、古墓を巡っている。
皆はこの土地を守るために多くの事をしているけれど、僕に出来る事は人参さまの伝言だけ。
彼のために、地府の皆のために、いろいろな事をしたい。
だから僕は地府の門に立って、皆が傷だらけになって帰ってくるのを感じる度に。
僕は願う。
もっと強くなれたらいいのにって。
そうすれば、皆の役に立てるかもしれないのに。
Ⅲ.地府
肩を軽く叩かれて、僕は振り向いた。
宙に浮いている泡椒凰爪さんは僕の頬を軽くつつき、背後の台を指差した。
「あ、おはようございます。あの資料はもう片付いたのですか?」
凰爪さんは指を曲げて、頷くような動きをした。僕は急いで台の方に向かって、竹簡を抱えた。
竹簡を抱えて資料室に向かうと、1番上の竹簡が堕ちそうになった。
慌てていると、誰かが竹簡の半分を受け取ってくれた。
「猫耳ちゃん、一気にそんなに運ばなくても。蕎麦は?手伝わせないの?」
「蕎麦はまだ寝ています。それに蕎麦は人参さまを守らないといけません。これくらいなら一人で運べますよ」
無常様の背後から、忘川さまがニヤニヤしながら出て来ては僕の髪をくしゃしくしゃに撫でた。
「へへっ、いじめじゃないよ、油条は厳しすぎるよ」
無常さまと忘川さまの口喧嘩を聞いて、ため息をついていると、人参さまの声が耳に入ってきた。
「諦聴、無常連れて来てください。頼みがあります」
「はい!」
僕が服の裾を引っ張ると、竹簡を抱えてくれた無常さまが振り返った。
「人参様?」
「はい。無常さまに用があるみたいです!早く行きましょう!」
急ぎ足で地宮に走って行くと、急に襟をつかまれた。
「猫耳ちゃん、二人ともまだ資料を置いてないよ」
「ああ、そうだったな。お前が持っていろ」
無常さまは相変わらず無口で、手にしていた竹簡を一気に忘川さまに手渡した。僕が持っていた分も忘川さまに渡した事で、その重さに忘川さまはよろけそうになった。
「え……え?!無常さまは、本当に大丈夫でしょうか?」
「あいつなら問題ない」
「おい!この野郎!どういうつもりだ?!あーもうっ!逃げるな!!!!!」
無常さまについて早足で地宮の門までやってくると、門のそばで蹲っていた蕎麦があくびをした。人の声が聞こえたのか顔を上げて、だるそうにこちらを見た。
僕たちであると気付くと、ふわふわな尻尾を軽く振り、身を起こした。前肢を伸ばし、グルグルと喉を鳴らしながら、何故か道を塞いでいる。
「蕎麦!無礼ですよ!こちらは無常さまです!無常さま……蕎麦が、ごめんなさい……」
無常さまに謝ろうとしたら、彼が立ち止まって動かない事に気付いた。蕎麦のふわふわな尻尾を見つめながら唾を飲みこんでいるようだったが、僕が声を掛けている事に気づいてハッと我に返った。
「……構わない」
うん……確かに人参さまは、無常さまはふわふわとした小動物が好きだと仰っていました。
だけど、蕎麦はこんなに大きいし……小動物、と言えるのかな……
「蕎麦、早く道を譲って!人参さまが無常さまに用があるんですよ!」
「ニャア〜」
寝起きで威勢の良い蕎麦の体を引っ張ると、やっとだるそうに門の横に移動した。
蕎麦が去ると、重い鉄の門が人一人通れるほどの隙間を開けた。
「無常、入りなさい」
「ハッ」
いつものように無常さまの後をついて入ろうとすると、人参さまの声がした。
「諦聴、吾の書庫の中にある、十番目の書棚の子庚号の巻物を、持ってきてくれませんか」
「あっ、はい!行ってきます!」
Ⅳ.墓地
巻物を抱えて戻ると、無常さまは既に地宮から出て、蕎麦の前に立ってぼんやりと眺めていた。
「あっ、無常さま、ただいま戻りました!人参さまとのお話
はもう終わったのですか?」
「ああ」
「……遅くなって、ごめんなさい」
「問題ない、巻物」
「あっ、ここにあります!」
手に持っていた巻物を無常さまに渡すと、受け取った後僕の頭を撫でた。
「荷物をまとめろ、明日出発だ」
「……?」
「リュウセイが怪我をした。八宝飯も同行する。今度の案内人は、お前だ」
「ぼ、僕ですか?!」
「そうだ。人参様は、リュウセイを除けば、お前が一番詳しいと言っていた」
「でも……でも……」
僕は皆と同じように外出出来る事に興奮したが、自分の能力に対する不安で戸惑っていた。
すると、玄鉄門の中から人参さまの声がした。
「諦聴。貴方を信じています。皆を無事連れて帰ってください」
「はい!」
それから三日後、僕は無常さま、八宝飯さまと一緒に、巻物に記された死地の前に立った。
長い棒をぎゅっと握り締め、身を翻して蕎麦の背中に座った。
死地から聞こえてくる風の音は、岩壁に当たり不気味な泣き声のように聞こえた。落ち葉は、地面に落ちた瞬間に粉々になった。
長い息を吐いて、両手を耳に当てた。風は谷の中の嘶きや咆哮、無数の枯骨が残した悔しさを運んできた。
「僕についてきてください。蕎麦が踏んでいない所は絶対に踏まないでください!」
「ああ」
「安心しろ、猫耳ちゃん!」
蕎麦はいつもの気だるけな様子から一転、真顔で背筋を伸ばした。尻尾は警戒するように少し立てて、変な音が出続けている幽谷をじっと見つめた。
蕎麦の首の後ろを軽く撫で、頭を下げて首と頬に頬ずりをした、柔らかな毛が不安を拭い取ってくれた。
「蕎麦、僕の目になってくれますか?」
「ニャア!」
「出発しましょう!」
Ⅴ.猫耳麺
光耀大陸には、「地」という名の陰府がある、地府帝君はその名を地蔵という。常に霊獣を伴って、地府の安寧を守る。
霊獣は虎首、獅子尾を持ち、虎に似て虎に非ず、獅子に似て獅子に非ず、善を好み奸邪を嫌う。
その耳は万里を聞き、万民の無念を聞き、忠奸の是非を論じ、魔を祓い、厄を祓い、安楽を護る。
その霊獣の名は、諦聴。
猫耳麺は生まれた時から、他の食霊とは違った。
「めくら」
これはその頃の彼の呼び名だ。
傍には恐ろしい巨大な獣がいたが、莫大な財力と物資を消耗し、生贄の法まで使って召喚した「物」を忌み嫌う妨げにはならなかった。
彼らが国を挙げて召喚しようとしたのは、堕神から彼らを守り、ひいては敵国の攻撃をも防げるチカラだった。
——彼のような可愛らしいだけで、何の役にも立たない子どもではない。
そして、彼は捨てられた。
しかし彼は、法陣の中に坐って、自らの命を犠牲に自分を召喚した者の事を覚えていた。最期の瞬間まで笑っていたその人の声を、一度しか聞いていないのに覚えていた。
その人の声はとても綺麗だった。朝の鳥のさえずりのようで、冬の初陽のようにあたたかくもあった。
「猫耳麺って言うのか?良いね。次は君がこの土地を守ってね」
その後猫耳麺は、そのとても綺麗な心音が、少しずつ止まるのを聞いた。
彼は自分がどのように地府に流れ着いたのか覚えていない。追い出された後、彼は長い間彷徨っていた。
蕎麦が彼を守ってくれたが、苦労も多かった。
そして、今まで聞いた中で、最も荘厳で、最も懐の広い心音を聞いた。
祭礼で鳴らす編鐘のようでもあったし、大典で奏でる礼楽のようでもあった。
その人は足音がない、手もひんやりしていて、他のひととは少し違っていた。
彼は腰をかがめ、猫耳麺の汚れた小さな手をそっと引っ張った。
「行く場所はありますか?」
「……僕……僕は……行くことろはない……」
「なら、吾と一緒に来てくれますか?」
猫耳麺は自分の心臓の鼓動を聞いた。目の前の人についていきたいと、目の前の人の心音が、今までで一番安心出来るものだと。
「でも……でも、僕はめくらなんです……何の役にも立たない、堕神を招くだけです……」
「構いません。そなたの聴力は優れています。目が見えない事だけに執着しないように」
「僕は……」
「貴方の聴力は人より遥かに優れています。目で見る事が出来なくとも不自由はない。自分を卑下しない。まだ慣れていないのなら、まずは吾のためだけに伝言してくれれば良いです」
猫耳麺はそのまま名前まで知らないその人について帰って行った。地府に着いて初めて、彼の名は高麗人参で、彼と同じく食霊であることを知った。
普段は大陣に籠っていることが多いが、この度わざわざ出てきたのは、彼を捜すためであった。
初めて必要とされた猫耳麺は戸惑っていたが、皆が騒いでいるうちに、埃だらけの服を着替え、汚れた自分を綺麗に整えた。
猫耳麺を探しに出かけている間、大陣は数日停止していた。地府に帰ると、高麗人参は急いで大陣に戻り、一人残された猫耳麺はどうして良いかわからず自分の服の裾を掴んだ。
しかし、彼は怖くはなかった。目の前にいる者たちが、とても良い心音をしていたから。
「おっと、良い目だ。キラキラしている!本当にめくらなのか……いった!リュウセイ、悪かった、オイラが悪かった!ごめん、いたっ!!!足を放してくれ!!!」
「猫耳麺?そうだな、少し距離を感じるな……おチビ、どう呼んだら良い?」
「人参から聞いたけど、耳が良いらしいな!遠い声も聞こえるってな!」
「へぇ、じゃあ猫耳ちゃんでどうだろう?なあ、猫耳ちゃん?」
いっぺんに色々言われた猫耳麺は、返事に困ったり笑い声や怒号もあって、殴り合いになりそうな雰囲気もあって、どうして良いかわからずにいた。すると、突然彼の心を落ち着かせるような声が響いた。
「今日より、過去の名を捨てよ。受け入れるなら、吾は貴方を諦聴と呼ぶ」
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12022年01月21日 21:45 ID:sn9666d31話スクショ置いておきます