淑女探偵・ストーリー
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淑女探偵
プロローグ
南離市
骨董通り
今日は十日に一度の骨董市の日、街は大勢の人で賑わっていた。骨董を買い漁って一獲千金を狙う人、遠くから来た行商人や旅人も多い。
掛け声や談笑する声は絶えないが、大抵の人は見物しているだけ。そこから少し歩くと、通りの外れには大きな看板を掲げたお店があった。そこにはまた違った景色が広がっている。
机が一台に茶碗が二つ。洋風の召し物を身に纏った片児麺(へんじめん)は端座して、白い手袋をはめた美しい手で、慎重に巻物を持っていた。彼女は真鍮の虫眼鏡を使って、それを少しずつ真剣に調べている。
甄番頭:片児麺様をこんなに夢中にさせるなんて、この古い巻物も喜んでいるでしょうね。
豆沙糕:はい……片児麺様がこんなにも喜んでいるところを見たのは久しぶりです。あの……今日猫さんは遊びに出かけたのでしょうか?姿が見えないので……
甄番頭:それがですね、一週間程前から行方不明になっているんです!最近ちょっとおかしいんですよ、隣の陶磁器屋の犬も、向かいの雑貨屋のオウムも、みんな行方不明になりました。
豆沙糕:えっ……皆見つからないのですか?
甄番頭:そうなんです。しかしおかしな話ですよ、犬や猫がふらっとどっか行くのはまだわかります、だけどオウムは一日中鳥かごの中にいるんですよ?自分から抜け出して飛んで行っちゃうとは思えないんです!
豆沙糕:じゃあ……
片児麺:甄番頭、この巻物には続きがあるはずです、それはありますか?
甄番頭:おっと、生憎こちらはたまたま入手した物でして。その人の話によると、彼の家にはたくさんの巻物があるそうですが、その時はこれしか持ち歩いていなかったと……
片児麺:そう……では、一先ずこちらだけ頂きます。残りの巻物の情報を気に掛けてくださると助かります。
甄番頭:もちろんです!あいつは最近別の所で商売をやっているようで、店を閉めたままですが……あいつが顔を出したら必ずや引き留めておきます!ご安心を!
片児麺:はい、お願いしますね……豆沙糕(とうさこう)、何を呆けているの?帰りますよ。
豆沙糕:片児麺様、すみません……行方不明になった小動物たちのことを考えていました……可哀そうです……
片児麺:行方不明?
甄番頭:それがですよ!ペットだけじゃなくて、お店の物も結構無くなっているんです!最初は何も気にしていなかったんですが、先日皆に聞いてみたら、通りのお店全部から何かしらが無くなっているようなんです……家宝まで失くしてしまったお店もあるとか!
片児麺:確かにおかしな話ですね……配下にこの辺りを調べさせておきます。
甄番頭:ありがとうございます!
豆沙糕:片児麺様、良かったですね!もしかしたら猫さんも見つかるかもしれませんよ!
豆沙糕:片児麺様、そんな目で私を見ないでください……私はただ、もし雪丸が行方不明になったら、悲しいなと思っただけなんです……
片児麺:そう言えば……雪丸は?
豆沙糕:あれっ……
ストーリー1-2
豆沙糕:雪丸ー!雪丸ー!お兄さん、雪丸を見ていませんか?
片児麺:……
豆沙糕:雪丸……どこに行っちゃったの……
夕方になり、人通りは少なくなっていた。片児麺たちが見知っている店主たちに聞いても、豆沙糕の後ろを付いて回っている小さな白ウサギの行方は誰も知らない。
豆沙糕:片児麺様、どうしましょう……だっ、誰も雪丸のことを見ていないと、本当にいなくなっちゃいました……
片児麺:……慌てないで。雪丸は貴方の伴生獣でしょう?何か感じませんか?
豆沙糕:そうでした……!片児麺様、少し待っていてください、やってみます……
豆沙糕:え?
片児麺:どうしたの?場所はわかりましたか?
豆沙糕:……いいえ、雪丸は自分の位置をわかっていないみたいです……
豆沙糕は泣きそうになりながらも、目を閉じて雪丸の場所を一生懸命探っていた。
豆沙糕:麦芽飴を食べたみたいです……なんだか懐かしい味がしたと、それ以上は何も……
片児麺:麦芽飴か……甘い物は控えた方が良い。しかし、少なくとも雪丸は現時点では安全のようですね。
スルッーー
少し離れたところで、突然微かな衣擦れの音がしたため、それは片児麺と豆沙糕の注意を引いた。
豆沙糕:誰……雪丸……雪丸ですか?
???:??!
彫花蜜煎:あれっーーバレちゃった!豆沙糕はいつからそんなに鋭くなったの?
豆沙糕:……彫花蜜煎(ちょうかみせん)……どっ、どうしてここにいるんですか?てっきり雪丸なのかと……
彫花蜜煎:どうしたの?もしかしてあのおバカなウサギがまーた逃げちゃったの?
片児麺:……前にもこんな事があったのですか?
彫花蜜煎:片児麺さま、その通り!あのおバカで食いしん坊なウサギは、何回も他人の物を盗み食いして、店主に捕まってたぞ。うわっーーちょっと豆沙糕引っ張らないでよ!
片児麺:では、早めに戻りましょう。もしかしたら雪丸はもう帰っているかもしれません。
―――
はい⋯⋯
・もう一度探してみませんか?
・片児麺様の言う通りです……
・少し不安です。
―――
彫花蜜煎:ほら、グズグズしないで、まずは帰ろう。もしいなかったら、皆を集めて一緒に探しに行けばいいよ!
三人は足早に南離印館へと戻った。先程まで誰もいなかった出店に、突然笑いをこらえている青年が現れたことにも気付かずに。
羊方蔵魚:ふーっ!危なかった!あとちょっとでバレるところだった!
その青年は辺りを見回し、誰もいないことを確認した後、外套でふっくらしている胸元を隠しながら、入り組んでいる路地に潜り込み、姿をくらました。
ストーリー1-4
夕方
南離郊外
夕日に照らされ、草花は影を長く伸ばしていた。青年は地面に寝っ転がったまま、楽し気に飛び跳ねている雪丸と遊んでいる。
羊方蔵魚:雪丸か、名前はちょっとダサいな。いやいや、チビちゃんのことを言ってる訳じゃないよ。どんな名前でも、あんたは可愛いって!
雪丸:ペロペローー
羊方蔵魚:ほーら、たくさん食いな。これは八宝斎の黄金麦芽飴だ、大枚をはたいて買って来たんだからな!
青年は持っていた布袋から黄金色に輝く麦芽飴をもう一つ取り出し、雪丸の前に置いた。
雪丸:ポリポリポリポリーー
雪丸は満足げにポリポリと音を出しながら美味しそうに食べていた。その青年がどんな表情をしているかは全く気付かないまま。
羊方蔵魚:やれやれ……「人は金銭のために身を滅ぼし、鳥は餌のために滅ぶ」か……チビちゃん、たらふく食いな……もしかしたら、もう食えなくなるかもしれないからな!
羊方蔵魚:うっーー酒臭いな!買い手が来たのか!
謎の買い手:……
羊方蔵魚:あいやー!旦那ぁ、ずっと待っていましたよ、来ないのかと思いました!
謎の買い手:約束のものは?
羊方蔵魚:ほら、こちらにーー
謎の買い手:……ウサギ?
羊方蔵魚:この子は雪丸、なんとも珍しい食霊の伴生獣です。へへっ、猫や犬よりもずっと貴重な動物ですよ、たまには味を変えてみるのも良いでしょう?もちろん、以前と同じように……まず飼ってみても良いでしょうー
青年はそう言いながら、目に狡猾さを滲ませた。目の前の買い手は、手を下す事がないと確信しているようだった。
謎の買い手:……フンッ、俺様が動物を飼っているのは肥えさせてから食うためだ、貴様には関係ない……お酒と他の物はどうした?
羊方蔵魚:もちろん用意してありますよ!しかしお酒ですが、また明日同じ時間に来て頂けませんか?
謎の買い手:……良い酒を頼んだ!
羊方蔵魚:安心してください、私は南離市のお酒に精通しているんです!杏花春、狼酒、梨花白、苦葉青……
謎の買い手:全部持ってこい!
羊方蔵魚:よっ!旦那は太っ腹ですなぁ!しかし……良いお酒は良い値段がしますよ、報酬も良い報酬にして頂かないと……
謎の買い手:……
羊方蔵魚:この間頂いた巻物や宝飾品などは、まだありますか?
謎の買い手:………………明日持ってくる。
羊方蔵魚:ありがとうございます!
―――
あっ、そうでした⋯⋯
・雪丸は麦芽飴が好きなんです。
・旦那ぁ、麦芽飴も一緒にどうですか?
・是非こちらを雪丸に食べさせてあげてください。
―――
謎の買い手:面倒だ!
羊方蔵魚:ウサギは太らせた方が旨いですよ!
謎の買い手:うるさい!
謎の買い手は片手で雪丸を抱いて、面倒くさそうにしながらも青年が渡して来た布袋を受け取った。
羊方蔵魚:お気を付けて!ウサギの餌代もきちんと明日清算させて頂きますね!もしかしたら今後も必要になるかもしれませんしね……
謎の買い手:…………
外套を深く被っている謎の買い手は、林の中に消えていった。青年は指折り計算しながら、ブツブツと呟いている。
羊方蔵魚:こんなに良いカモは滅多にいないけど……今回金を巻き上げたら、もう止めにしておこう!
ストーリー1-6
片児麺たちが南離印館に戻った時には、もう日が暮れていた。
焼き小籠包:片児麺様、豆沙糕、お帰りなさい。彫花蜜煎には会いましたか?片児麺様たちを探していたみたいですーー
彫花蜜煎:はーい!うちはここだぞ!
焼き小籠包:あら、彫花蜜煎!ビックリさせないでください!明四喜(めいしき)様が遺跡から古い品物をたくさん持って帰って来たのですが、いくつか研究したい石碑があって、仕事場に運ぶのを手伝ってもらえませんか?
彫花蜜煎:急がなくていいでしょう?石碑を放置しても壊れる訳じゃないし。それより、雪丸は見なかった?
焼き小籠包:えっ?雪丸は豆沙糕と一緒に出掛けたんじゃ?まさかまたいなくなったんですか?
片児麺:つまり……雪丸がよくいなくなるのは皆知っていることだったのですね?まさかここまで常習化しているとは……豆沙糕、貴方の監督不行き届きではないですか?
京醤肉糸:いや、厳しくし過ぎたのやもしれんな!
片児麺:……
彫花蜜煎:わっ、館長様もいたの!
京醤肉糸:ああ……松の実酒(まつのみざけ)が酷いんだ、皆がいれば事足りるのに、私まで引っ張り出して来た。明四喜が一日前倒しで帰って来るとは思わず、準備が間に合わなかった……
片児麺:松の実酒は正しい事をしたまでです。館長様は何の準備が必要なんですか?逃げる準備でしょうか?
京醤肉糸:心外だな、私は皆のことを信頼しているんだ。しかも、今回は遊びに出掛ける訳じゃない、最近街が少し乱れているらしいじゃないか……片児麺、骨董通りがいつもと違うとは思わないか?
片児麺:……フンッ、館長様は情報通でいらっしゃいますね、よく出歩いているからでしょうか。
豆沙糕:うぅ……
豆沙糕:雪丸、雪丸と……私の間の繋がりが、消えました……
片児麺:消えた?!どんな感覚か言えますか?
豆沙糕:えっ……感覚……なんだか、悲しいです……?
片児麺:落ち着くと良い、弱っている感覚がなかったのなら、雪丸が生きている証拠です。繋がりを感じ取れる範囲から出てしまったのかもしれません。
彫花蜜煎:あのおバカウサギ、まさか逆方向に逃げたんじゃ!
焼き小籠包:肝心なのは、今どこを探していいのやら……
片児麺:もしかしたら……
京醤肉糸:もしかしたら、骨董通りのペット失踪事件と繋がっているかもしれない。私は既に手掛かりを掴んでいる、私自らが調査に向かおうじゃないか!
―――
⋯⋯
・外に出て遊びたいだけでしょう?
・こちらも手掛かりを掴んでおります。
・この件は私が処理します。
―――
片児麺:館長様は大人しく館内で遺跡の収穫物の整理をお願いします!手掛かりについても、今回は豆沙糕と雪丸も巻き込まれています、きっと隠し立てはしませんよね?
京醤肉糸:はぁ……見抜かれてしまったのなら仕方がない。そうだな、最近書画商を自称している食霊が骨董通りで積極的に活動しているらしい、名前は羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)と言う。詳細は、もっと調べなければわからない!
片児麺:ありがとうございます、羊方蔵魚ですか……私が疑っている人物と同じかもしれません……ほら、豆沙糕、調査に向かいますよ。
焼き小籠包:私も行きます!
彫花蜜煎:こんな大事なこと、うちももちろん手伝うぞ!
京醤肉糸:おいっ、貴方たち全員行ってしまったら、ここはーー
片児麺:館長様がいれば問題はありません。館長様のことを大変信頼しております故。さあ、急ぎましょう。
ストーリー2-2
夜
骨董通り
タッタッタッーー
甄番頭:はいはいっ!
片児麺:突然申し訳ございません、甄番頭にお伺いしたい事がございます。
甄番頭:これはこれは!片児麺様じゃないですか、こんな時間に何の御用でしょうか?
片児麺:今日仰っていたあの巻物の持ち主は、もしかして羊方蔵魚という者ですか?
甄番頭:えっ?お知り合いでしたか?そうです、彼ですよ。
片児麺:……やはり……番頭は彼の居場所をご存じありませんか?もし可能でしたら教えて下さると助かります。急ぎの用があるのです。
甄番頭:それは……
片児麺:あの巻物にとても興味があるのです……ええ、もちろん、番頭への仲介料は惜しみません。
甄番頭:いやいや、そういう意味では……
しばらくすると、手分けして探していた面々が街の入口で合流した。
片児麺:皆、何かわかりましたか?
彫花蜜煎:何人もの店主が骨董品やペットを失くしたと言っていたぞ。
焼き小籠包:しかも、最近来た書画商のことをよく知っているみたいでした!
片児麺:間違いなく羊方蔵魚と関係があるみたいですね。行きましょう、情報交換は歩きながらでも。
道中、豆沙糕は戸惑った顔をしていた。路地に入ると、とうとう我慢出来ずに片児麺に疑問をぶつけた。
片児麺:どうかしましたか?
豆沙糕:先程……どうして、番頭にあのひとは事件に関係していると言わなかったのでしょうか?
―――
彼に伝えても大局に影響はありません。それに⋯⋯
・まだ確証がないので、結論付けるにはまだ早いです。
・金銭は人の心を揺さぶる、道理で説得するより、利益で動かした方が早いです。
・番頭の立場はまだわかりません。
―――
豆沙糕:そういう事ですか……わかりました、ありがとうございます。
すると、片児麺が急に足を止めた。一行が前を向くと、遠くの川に面した邸宅の外で、長い髪の青年が笑いながら何かの液体を酒壺に流し込んでいる所が見えた。
焼き小籠包:話が通じそうな方のようですが……
彫花蜜煎:お酒の中に何を入れているんだろう?
焼き小籠包:シーッ、声を抑えてください、気付かれてしまいますよ。
彫花蜜煎:フンッ、あなたの声の方が大きいぞ!片児麺さま、うちが先に行くから、援護して。
片児麺:……
焼き小籠包:どう援護しろと言うのですか……ちょっと押さないでくださいよ!ねぇ!
彫花蜜煎は焼き小籠包を前に押し出すと、気付けばどこかに行ってしまった。
焼き小籠包:えっと……こ、こんにちは……
羊方蔵魚:…………
焼き小籠包:あれっ?にっ、逃げた?!
片児麺:……
ストーリー2-4
この季節の夜は、月が明るく風も涼しく快適だ。月は川沿いの小さな邸宅と、そこにいる人々を照らしている。
月明かりの下、片児麺たち一行は彫花蜜煎を囲んでいた。そして、彫花蜜煎は「褒めて」と言わんばかりの得意げな表情で、逃げようとしていた羊方蔵魚をしっかり捕らえ、彼を高々と持ち上げていた。
羊方蔵魚:おっ、お嬢さん!軽々しく異性に触れてはいけませんよ!
彫花蜜煎:大丈夫大丈夫、そんなの気にしないから。
羊方蔵魚:私重いでしょう?疲れたのでは?まず私を下ろしてはいかがでしょうか?その後じっくりお話をしましょう?
彫花蜜煎:だから大丈夫だって、疲れてないぞ。
羊方蔵魚:じゃあ……
焼き小籠包:心配しないでください、彼女は力持ちなので。それに、下ろしてしまったら、また逃げるじゃないですか。
―――
誤解です、全部誤解なんです⋯⋯
・見ず知らずのひとたちに囲まれて驚いただけですよ!
・突然大勢の美人が現れて、ビックリしただけですよ!
・ちょっと皆さんにお茶を用意しに行こうとしていただけですよ!
―――
焼き小籠包:ふふっ、貴方の言い分を信じるとでも?体に雪丸の毛が付いているじゃないですか!
羊方蔵魚:こっ、これは今朝市場に行った時に付いた動物の毛ですよ……雪丸なんて知りませんって……
焼き小籠包:フンッ!化けの皮が剥がれましたね!毛なんて付いていませんよ、嘘を付いていますね!
羊方蔵魚:……私は……
片児麺:今更何を言うつもりですか。彫花蜜煎、彼の頭に石を縛って、川に沈めてください。
羊方蔵魚:まっ待ってくれ!お嬢様方、落ち着いて、話をしましょう!
片児麺:話し合いですか、しかし一回しか受け付けませんよ。私たちの誰かが貴方が嘘を付いていると思った瞬間、すぐに川底行きです、わかりましたか?
羊方蔵魚:はぁ……この仕事を長らくやって来たけれど、まさかこんな目に遭うとは……
片児麺:……皆、この言葉をどう思いますか?
焼き小籠包:嘘です!
彫花蜜煎:沈めよう!
羊方蔵魚:本当に待ってくれ!全部言います、全部吐きますから!
羊方蔵魚は時間を掛けて、事情を全て説明した。
焼き小籠包:つまり……最近のペットと骨董の盗難事件は、全てその謎の買い手の仕業ということですか?
羊方蔵魚:そうです。ずっと観察していたが、その買い手は別にペットを虐待したりはしていない、むしろ私から餌や必要な道具を買っているぐらいです。
焼き小籠包:それはおかしくないですか!わざわざ骨董品を盗んで、その盗んだ骨董品を使って盗んだペットを養っているということですか?
片児麺:しかし、貴方はその盗品を受け取って、その買い手の手伝いをしている事になりませんか?
羊方蔵魚:それはっ……だから誤解ですって!あいつは身を隠しているから、この方法でどうにか捕まえようとしているだけですよ。貰った報酬は……えっと、盗品だって一時的に保管しているだけです。
羊方蔵魚:そうでした!今回渡すお酒には一杯飲んだだけで倒れてしまう「一杯酔」を混ぜ込みました。あいつが酔いつぶれた後に捕まえようとしたんですって、皆のためにこんな事をしているんです!
焼き小籠包:酒壺に川の水を混ぜ込んでいたでしょう?口当たりが変わって、成功率が下がるじゃないですか。
彫花蜜煎:この悪徳商人め!何が皆のためだ、儲けようとしているだけじゃん!
片児麺:しかも、雪丸を誘拐して良い理由にはならない。
彫花蜜煎:嘘ばっかり、川に沈めてあげる!
羊方蔵魚:そんなあああ!嘘なんてついてませんって、本当の本当です!命だけは勘弁してください!もし私が死んだら、その買い手にはもう連絡がつかなくなりますよ!
片児麺:はぁ……彫花蜜煎、彼を一旦下ろしてください。私たちの目的は雪丸を取り戻すこと、まだ彼の協力が必要です。羊方蔵魚よ、罪を償うが良い。
彫花蜜煎はそう言われてすぐに手を放した。それに反応出来なかった羊方蔵魚は地面に落ちて、夜空を見上げながら憂鬱な表情を浮かべていた。
そんな彼に片児麺は近づき、彼を見下しながら険しい表情を見せていた。月は彼女の後ろで光り輝いている。
片児麺:明日、雪丸の奪還と行方不明になっている小動物の救出に協力しなさい。その他については目を瞑ってあげます、わかりましたか?
羊方蔵魚:……ゲホゴホッ、わかりましたわかりました!仰せのままに、貴方様のために働かせて頂きます!
ストーリー2-6
翌日
南離郊外
羊方蔵魚:……まだ来ないのかよ!
日が昇り、待ち合わせの場所で待ち焦がれている羊方蔵魚は、言葉とは裏腹に気持ちを顔に出さず、人懐っこい笑みを浮かべていた。
羊方蔵魚:早く来いって……来ないと、いい加減お嬢様方の視線で体に穴が開きそうだ!しかも本当に良い酒を持ってきたし、水も加えていない……おっと!来たな!
羊方蔵魚:あいやー!旦那ぁー!さあさあさあ!今回は良い品を持って来ましたよ!
謎の買い手:……
少し離れた所にある雑木林の中、片児麺たち一行は取引の様子を伺っていた。
焼き小籠包:胡散臭すぎます、あんなのに引っかかる訳がありません!
彫花蜜煎:あいつを信じるんじゃなかった。人数では勝っているし、突撃しよう?どう見ても頼りないぞ。
彫花蜜煎:……あの買い手は引っかからないに杏花酒を掛けるぞーーねぇ、どうして何も言わないの?
焼き小籠包:私はお酒は飲まないので、勝っても意味がありませんよ。
片児麺:少し落ち着きなさい。
ゴクゴクーーバタッーー
片児麺:……飲んで……
彫花蜜煎:倒れた?!
焼き小籠包:あれっ?本当に……
彫花蜜煎:みっ、見間違いじゃないよね!本当に酔っ払って倒れたの?!
豆沙糕:本当に倒れていますね……
片児麺:……行ってみましょう。
計画があまりにも順調に進んだからか、一行は疑心暗鬼になった。羊方蔵魚が謎の買い手が付けていたお面を外すと、すぐに先程まで抱いていた疑問が消えた。
焼き小籠包:堕神の暴飲王子ではないですか、お酒に目がないのは納得です……
彫花蜜煎:納得は出来るけど、弱すぎない?
片児麺:堕神の実力を侮ってはいけません。今回はたまたま弱点をつけたから、制御出来ました。羊方蔵魚、彼を起こして、何か手掛かりを掴めないか探ってください。
―――
わかった!
・お酒を掛けて起こします。
・解毒剤を飲ませます。
・起きてくるまで待ちます。
―――
暴飲王子:……うっ、酒!良い酒だ!
羊方蔵魚:上物だろう?まだ飲みたいか?ならちょっと聞きたい事があるんだけど、どうしてペットを盗んだりしたんだ?
暴飲王子:俺……ヒック、俺様だってやりたくなかったんだ!南離市の警備が厳しくて、野生の獣が見当たらないんだ、ヒック。もう魚は食べ飽きたから、ちょっと別の物を食べようとして仕方なく……ヒック……
羊方蔵魚:は?ペットはあんたの食料になったのか?
暴飲王子:まあ、最初はそのつもりだった、貴様も知っているだろう……ヒック……だけど、猫が可愛すぎて、俺様の堕神としての孤独な生涯の中、唯一の仲間になったんだ……食べられる訳がないだろう……酒は?早く酒を寄越せ!
羊方蔵魚:飲み過ぎだ、おかしな事を言うなよ、本当に肉が食いたいなら俺に頼めばよかっただろう?
暴飲王子:肉を買う?そんな、そんな事が出来るのか?ヒック、もういいだろう!
羊方蔵魚:あの……お嬢様方、どうしますか?
片児麺:……続けなさい。
羊方蔵魚:よしっ……聞こえたか、続けろ!
暴飲王子:ゴクゴクゴクーーヒック、良い酒だ!
羊方蔵魚:飲み続けろって言った訳じゃないんだけど……話の続きをしろ。で?雪丸はどこに隠した?
暴飲王子:もちろん、ペットとして大事に……犬も可愛かった!インコも話し相手になってくれるし……ウサギに変えれば食べられるかと思ったら、まさかウサギもあんなに可愛いなんて、食べられる訳がないだろ……
片児麺:つまり……ペットたちは全員無事ということか?
暴飲王子:そりゃそうだ!無事どころか、ちょっと太らせちまったかもな……奴らを養うために、結構な骨董品を盗んじまった……ヒック!ペットは愛でなきゃいけないんだろ?何か問題でも?
目の前で酔っ払っている暴飲王子を見て、どうしたもんかと一行は顔を見合わせた。
片児麺√宝箱
雪丸や他のペットたちは、暴飲王子の言った通り皆少し丸くなっていた。どうしてか、その子たちは家に帰ってから偏食になっていた。
南離市
北埠頭
片児麺:彼は貴方の伴生獣、霊力で生きているため、食べなくても問題はありませんよ。
豆沙糕:しかし……なんだか元気がないみたいです、毛並みも前程柔らかくありません……
片児麺:……コホンッ、それは確かに問題ですね……
京醤肉糸:片児麺は冷たいな。ほら豆沙糕、これは八宝斎の黄金麦芽飴だ、雪丸にやると良い。
片児麺:館長様!
京醤肉糸:片児麺、伴生獣は別に甘い物の食べ過ぎでお腹を壊したりはしない、そこまで厳しくしなくとも良いだろう!
片児麺:玉磨かざれば器を成さずーー
京醤肉糸:わかったわかった、北の遺跡へ行く船団がもうすぐ出発する、私に説法するためにここに来た訳じゃないだろう?
片児麺:……
京醤肉糸:何をそんなに心配しているんだ?
片児麺:暴飲王子の処分について、これで正しいのかどうか、少し不安です。
京醤肉糸:ああ……確かに慣例に従うなら、堕神は全て抹殺しなければならない。だが……長い歳月を経て、貴方も見て来ただろう、慣例が全て正しいとは限らないと。
片児麺:しかしあいつは……
京醤肉糸:面白い奴じゃないか、しかも力も持っている、北の遺跡は彼の力で道を切り拓かなければならない。お酒と何かモフモフした物を与えておけば、大人しく言う事を聞いてくれるし、願ってもない人材だろう?
京醤肉糸:ははっ……モフモフと言えば、誰かさんも好きらしいな!もしかして暴飲王子が雪丸を奪ったから、報復しようとしているのかな?
片児麺:……どうやら館長様は暇を持て余しているようですね、松の実酒にお伝えしなければーー
京醤肉糸:残念だが、松の実酒は先に出発している。告げ口がしたければ、戻って来てからにしろ!
片児麺:その図太さ……何も変わっていませんね……
京醤肉糸:おや、褒めてくれて嬉しいよ。初心忘るべからずだ!
暴飲王子:コホンッ、邪魔するぞ。あの館長様、遺跡は危険って聞いたんだが、堕神であっても多分精神的にキツいと思うんだ……だから、ペットを一匹お願い出来ないか?
暴飲王子:出来れば雪丸のようなウサギが良い……でも俺様は金は持ってない、補助金を申請出来ないか?労働を愛し、遺跡探索に生涯を捧げる事を誓ってやる!もうここに戻らなくても良い!
京醤肉糸:?!
片児麺:……
羊方蔵魚√宝箱
南離市
骨董通り
再会はいつだって感動的だ。片児麺は盗まれたペットたちを飼い主に返し、たくさんの感謝の言葉を浴びた。あの守銭奴の甄番頭ですら、約束していた仲介料を断って、情報料だけを受け取ったそう。
羊方蔵魚:甄番頭の野郎……はぁ、人々に囲まれるのは、本来俺だったはずなのにな。
彫花蜜煎:ねぇ、欲張らないでよ、あんたの正体をバラさなかった事を感謝しなさい。これからは大人しくしてよね!見張っているぞ!
羊方蔵魚:デタラメ言うな!俺はきちんと法を守っているし、善良な市民だ!
彫花蜜煎:善良な市民ね!じゃあ「一時保管している」骨董品は、全部持ち主に返すんだろうね?
羊方蔵魚:それは……
彫花蜜煎:暴飲王子が言ってたぞ、彼はここ数年貯めた宝物を全部あんたに渡して、お酒とペットの餌に変えたってね。全部記録してあるから、言い逃れは出来ないよ!
羊方蔵魚:それは全部俺への報酬だ!全部金に換えて、酒を買ったんだ!
彫花蜜煎:嘘ばっかり!あんたのお酒は半分以上水が混ざっているし、しかも骨董品で換えたお金で何年分のお酒が買えるのやら、あんたは麻袋一つ分をぶんどったらしいじゃん!大人しく全て返しなさい、そうじゃないと……
彫花蜜煎は細いけれど無限の力が秘めている自分の腕を叩いて、羊方蔵魚に向かってキラっと歯を見せた。
彫花蜜煎:ふふーん……善良な市民か、それとも川底の住民になるか、選ばせてあげる!
羊方蔵魚:あああああ!大損じゃん!!!くそっーーちょっと、待ってくれ!
彫花蜜煎:何を待つの?うちは早くあんたを川底に沈めたくてうずうずしているぞ!
羊方蔵魚:……全部渡すから!でも、自分で店主に返してくる。
彫花蜜煎:ええと……
羊方蔵魚:盗品を全部出して、元の持ち主に返せって言われたけど、どう返すかは指定してこなかっただろ?俺は自分で返したいんだ!
彫花蜜煎:……いいでしょう!でも見張らせてもらうぞ!
羊方蔵魚:わかった!
二日後、複雑な表情をしている彫花蜜煎とニコニコしている羊方蔵魚が最後の持ち主の家から出て来た。骨董通りはいつも通り賑やかだった、二人が人混みをすり抜けたところで、彼女は爆発した。
彫花蜜煎:この恥知らず!
羊方蔵魚:そんなのどうだって良いよ、金が稼げれば問題ない。
彫花蜜煎:全部口から出まかせじゃん、命がけで店主たちの家宝を取り返しただなんて……まさか本当に皆騙されるとは、しかも割引してくれる約束まで取り付けて……この悪徳商人!
羊方蔵魚:だからなんて言われようが、金が稼げれば問題ない!
彫花蜜煎:フンッ、今度うちの目に悪行が止まったら、川底があんたの家になるから覚えておきなさい!
羊方蔵魚:ははっ、金が稼げればなんでもいいよ!今回はどうもありがとう、またこんな良い機会があったら是非俺を呼んでくれよな!
彫花蜜煎:羊ー方ー蔵ー魚ー!!!
羊方蔵魚:おいおいっ!下ろせって!俺は他人のために命をかけられる善良な市民だ!おいっ!
二人は喧嘩しながら、人混みの中に消えていった。角を曲がった所、古い井戸と枯れ木のそばに、目を細めて薄い唇で弧を描いている者がいた。
明四喜:ふふっ、羊方蔵魚か?素晴らしい人材ですね。ヤンシェズ、今度彼を連れて来てください。
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