モヒート・エピソード
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モヒートのエピソード
モヒートが航海するのは、失われた宝を見つけるため。
そのきっかけはラム酒。そのカッコよさに惹かれ、憧れた。彼女の事を話すと、目がキラキラして、ただのファンになる。
単純で優しい性格だが、外見のせいで人間からは恐れられている。
口では気にしないと言っているが、本当はとても落ち込んでいる、強がりで自分のことを「悪魔」とも呼ぶ。傷つきたくないため、知らない人に対して怖い顔を見せ、遠ざける。でも困っている人を見ると、いつも助けてしまう。気付けば、今の素直じゃない性格が形成された。
Ⅰ.渇望の的
御侍がまだ生きていた頃、時間があればいつも俺を彼の船に連れて行ってくれた。
もう海に出ることはねえ船だが、埠頭で静かに停泊している船体には、たくさんの傷があった。
それらは御侍の輝かしい航海の歴史を表す勲章だ。
御侍はよく俺に「やりたい事があるなら、目標に向かって頑張れ」と言ってくれた。
年老いた御侍の背中を見ていると、彼の重い病気の事が浮かぶ……
やりたい事?チッ、そんなの考える暇なんてねぇよ。
「目の前に面倒を見なきゃいけねえやつがいるんだが……」
まずい、うっかり声に出しちまった。
「ああ、モヒート、何か言ったか?」
「いっ、いや!聞き間違えたんだろ!」
クソッ、もういい年なのに、なんで耳は良いんだよ。
「本当か?何か聞こえた気がしたんだけどな……」
「それがどうした?!大した事じゃねぇだろう?——またこんなに長く船の上に居たのかよ。もう真っ暗じゃねぇか!」
天気が良いと、御侍は一日中ここに滞在する。声を掛けないと、ここで寝てしまう事だってある程だ。
海沿いの夜風は冷える、俺は上着を脱いで彼に投げた。
「もう十分見たろ……早くそれ羽織っとけ、帰るぞ!」
「モヒート、ここに来るのはイヤなのか?」
「は?なんだその質問、そんな事言った覚えはねぇ!」
バカか?!イヤだったらついて来ねぇよ!
病は日に日に御侍の体を蝕んだ。だけど彼は気にもせずに、ただひたすら俺に向かって生きる意義を探すように言ってきた。
こうして、最後の時を過ごした。
1人だけの生活が始まって、俺は彼が言っていた言葉を思い出すようになった。
契約は消えてしまった。なら俺がやりたい事って一体なんなんだ?
果てが見えねぇ青い海は俺の憧れだ。
彼と仲間たちの海での話を聞き過ぎたせいか、あの頃のワクワクした気持ちも俺に残っているようだ。
この果てない海を征服出来るとしたら、どんだけ最高の気分になれるんだろうな!
未知なる海の果てで、キラキラした宝物たちは見つかる事を期待しているかも知れねぇ!
……しかし、何から始めたらいいんだ?
この世界についてはまだよく知らねぇ。まずは色んな所を回って見るしかねぇな。
もし連れが見つかれば、もっと良いな。
こうして、俺は荷物を整理して、一人旅を始めた。
ただ……
この旅は思い通りにはいかなかった……
Ⅱ.角が生えた奴
「あああ!恐ろしい!うあああ!」
「角が生えているよ、何と恐ろしい……」
「……」
逃げ惑う人間たちを見ていると、沸々とした怒りが湧いた。
「はあ?!この野郎!角がどうした。角があっちゃいけねぇのかよ?!」
「怒ったぞ!神様!母さんー!!!」
「……」
旅の途中、道を聞くために人間に近づくと、怖がられて悲鳴が上がるか何も言わずに逃げられてしまう。
……なんだ?俺の見た目がそんなに恐ろしいのかよ?!
引き続き街を歩いても、人間に近づくと一様に怯えた表情を見せる。
腹が減って、辺りを見回りして、ある人間の青年に声を掛けた。
「おいっ!待て!近くに酒場はあるか?」
その青年は驚いて転ぶと、怯えた顔で俺と俺の角を見た後、何も言わずに速足で逃げて行った。
チクショー……人間共は本当に見る目がねぇな。
「足元を見ろよ?!こんなでけぇバナナの皮が見えねぇのか!よそ見してたら、次はもっと痛ぇ目に遭うぞ!」
バナナの皮を踏んで転びそうになった人間の男の子を引き留めた。
俺の声に驚いたのか、男の子は固まった。すぐに彼の母親がやってきて、彼を背後に隠した。そして俺を見つめたままゆっくりとこの場を離れた。
周りで警戒した目で俺を見るやつらを見て、拳を握りしめた。
フンッ、あんたらなんざ、どうでもいいわ。
Ⅲ.斬新な征途
酒場で休憩していると、周りの人間たちが何かについて話していたのが聞こえた。
ラム酒という食霊が堕神を倒した後、海賊に転身したらしい。その事が気になって、俺はあいつらの話を聞き入った。
食霊には人間を遥かに超える力がある。だから酒場が騒がしくても、隅に座っていてもあいつらの話が聞こえてくる。
話している奴はラム酒と知り合いのようだった。だけどこれは重要じゃねぇ。重要なのは……
ラム酒って奴……カッコ良すぎるだろ!!!
円熟していて、優雅で、静かな迫力がある。
堕神を滅し、海を征服する——
彼女に出来る事なら、俺にも出来るはずだ!
故郷を離れた日の黄昏を思い出しながら、俺は埠頭に立って海風を迎えた。
時が来た。
海が俺を呼んでんだ。行くしかねえ!
埠頭近くにある商団隊に入り、あるよく晴れた早朝にあいつらと一緒に海に出た。
ラム酒の軍団は近くの海域にいると聞いたから、俺はデッキ辺りを眺め、どうにか憧れの人の姿を捉えようとした。
航路を進み、街から遠ざかっていく。夜になると、明るい街はぼやけた光にしか見えなくなっていた。
真っ暗な海面を眺めていると、心が騒いだ。
これから待っている物事が楽しみでしょうがねぇ。
無事三日が過ぎた。だけど俺は知っていた。警戒を怠ってはいけねぇと。
穏やかに見える海の奥深くには、堕神が潜伏していてこちらの動向を伺っている。商船には人間もいる。俺はいつでも臨戦態勢でいなければならねぇ。
夜が更けると、海風は強くなった。堕神は荒れ狂う波の中から姿を現した。
辺りの気配を慎重に探ると、波が船体を打ち付け、大きな音を響かせていた。
敵は一人だけじゃないようだ。
「フンッ、光を浴びれねぇ野郎共が……俺様を見くびるなよ!!!」
こんなに気持ちよく戦ったのは久しぶりだった。力が漲って来る。俺一人しかいねぇけど、余裕で倒せた。
次々と現れた堕神は全て俺に倒された、だが海面は荒れたままだ。
さっきまでのは前菜に過ぎないと、船体の下から激しい揺れが伝わってくる。こっからは大将のお出ましの様だ。
Ⅳ.危うい出会い
挑発するような耳障りな鳴き声を上げながら、巨大な堕神が海面から姿を現した。
さっきまでの戦闘で体力を消耗したが、俺はまだ戦えた。だがこれが最後の敵じゃなかったら、真剣に作戦を考えなきゃまずい。
「大砲の向きを変えろ、砲撃!」
聞き覚えのない女の声が聞こえてきた。すぐに、大きな堕神の体に砲火が見えた。
驚いて声がした方を見ると、巨大な船体が暗闇から現れ、海賊の旗が風に靡いていているのが見えた。
カッコいい海軍の装いをした金髪の女が、目の前の異形をしっかりとした眼差しで見つめている。
突然の砲撃は堕神に大ダメージを与えたようだ、すぐに形成が逆転し俺たちは力を合わせて敵を倒した。
「この付近では、しばらく堕神は現れないだろう」
戦闘が終わると、金髪の女性は辺りを見回しながら俺にこう伝えてきた。
「……はぁ?なんだ?俺は別にまた敵が来る事を心配してねぇよ!」
目の前の女性食霊の気配は物凄いもんだ。加えて戦闘中の冷静な判断、彼女の正体が気になった。
「船長、異常がない事を確認しました」
「ああ、わかった、警戒を怠るな」
船長……
食霊……
金髪の女……
「ラ、ム酒?!あんたが、ラム酒なのか?!」
「私を知っているのか?」
彼女は淡々と答えた。
「コホンッ、そ、そうだ。噂を、あー、少し聞いた事がある」
俺は興奮でしどろもどろになってしまった。何を言っているのか自分でもわからねぇ。
かの有名なラム酒船長がまさかこのような英姿だとは、思いもしなかった。こっ、こんな……
カッコいいとはな!!!!!
あと大事なのは、まさか本当に会えるとは思わなかった!
話を続けようとしたが、ラム酒は依然として冷ややかな表情を浮かべていた。
「あの大型の堕神はこの海域のボスです。神出鬼没で、誘き寄せるのは容易ではありません」
彼女の部下がさっきの状況を説明してくれた。前からこの海域を狙っていたようだった。
「じゃあ、さっきのはどう説明すんだ?あの野郎は普通にしれっと出て来ただろう?!」
「もしかすると……以前この近くにいた食霊では奴らに敵わなかったからではないでしょうか。貴方は強いようでしたので」
聞き間違えじゃねぇよな。部下が俺を褒めているようだ。しかもラム酒の隣で……
「はあ?!コホンッ……みっ、見る目あるじゃねえか!」
「ジェイラン、喋りすぎだ。自分の仕事をしろ」
冷たい声が俺たちの会話を遮った。ラム酒は俺を一瞥した後、振り返ってこの場を離れた。
その後、ラム酒の船から騒がしい奴らが降りてきて、商船の人間たちがいくら静止しても、金目の物を全て持っていった。
「……はあ???何してんだ?!おいっ、物を返せ!」
さっきまで肩を並べて戦ってただろ。なんで急に強盗なんて?!
俺は既に船に戻っているラム酒を睨んだ。彼女の姿は月光に照らされた事でより一層カッコよく見えた。
その姿は振り返って、冷たくそして挑発的な言葉を投げつけてきた。
「取り返したいのか?フンッ、力を磨いてから出直して来い」
「おい、舐めるな!!!いつか必ず奪い返してやる!」
「自分の船すらないのに、寝言を言うな」
気のせいか、彼女が再び振り返る前、口角が上がっているように見えた。
「お、おい!!!待ってろ!いつか自分の船を手に入れて見せる!」
船だけじゃねぇ。失われた宝も見つけねぇと!
英気を帯びた顔は俺に目もくれず、振り返った。そして彼女の軍団と共に闇世の中に消えていった。
Ⅴ.モヒート
海辺で長い時間を過ごしたモヒートだったが、海に出た事はなかった。
彼が召喚された時、彼の御侍は既に重い病のせいで海に出られなくなっていたからだ。
彼は御侍の傍に付き添い、御侍が話す波瀾万丈な世界を想像する事しか出来なかった。
故郷を離れた後、モヒートは一人で世界中を回った。色んな面白い物事にも出会った。
そしてある酒場で、彼はラム酒の噂を聞いた。
ラム酒の強さとその円熟の境地はモヒートの憧れとなった。彼は海に出て、ラム酒のようになりたいと思い始める。
だけど彼は本当に憧れの的と海で出会えるとは思っていなかった。
堕神を殺す時の英姿も、洒脱で奔放な態度も、全てがモヒートが持つ憧れを更に燃え上がらせた。
強いオーラを持ち、一人の力で全軍の指揮できる高みまで登ったが、立場が衝突すると毅然と全てを捨て、自由に海の上を航海する事を選んだ。
どんなにスタイリッシュで気持ちの良い人生なのだろうか。
憧れの人の眼中にはないが、彼は落ち込まなかった。むしろ彼女の言葉を聞いて更に闘志を燃やした。
ある日、モヒートは船でミドガルのある海域に辿り着いた。初めてここにやってきたため彼は下船し、しばらく休む事を決めた。
「おいっ、そこの、何者だ?」
船にあるラム酒をリスペクトした海賊旗が目立っていたため、モヒートは下船してすぐに埠頭でパトロールしていた海軍に呼び止められてしまった。
彼は気にせず、あくびをしながら前を進んだ。
「おい、待て!」
頭から角が生えている上に、怖い顔をしているからか、海軍は彼の前に出て止める事はせず、ただ遠くから命令を飛ばしていた。
モヒートはそんな声を煩わしいと思った。
「うるせぇ?!うるせぇよ!何もしてねぇぞ?!」
度胸のある若い海軍がこう言った。
「一人でここに来ている上に、あんな海賊旗を掲げている、そう見ても怪しいだろ?」
「はあ?!ふざけてんのか!何言ってんだ!ああ?!」
モヒートの声によって野次馬が集まり、近くでパトロールしていた他の食霊も寄ってきた。
彼は囲まれて怒り心頭の様子だ。
食霊の力を使ってこの窮地から逃れる事は出来たが、それは人間には不公平だと彼は感じた。
誤解されるのは嫌だったため、彼は海軍たちと交渉する事を決めた。
しかし、海軍は彼がおかしな行動をするのではないかと恐れたのか、縄で彼を縛ってしまった。
「おいこの野郎、このモヒート様にそんな事をしてタダで済むと思うな?!」
「早く放せ!俺は悪竜だ。悪竜に喧嘩を売ってどうなるかよく考えてみろ!!!」
怒り心頭だが、人間に手を出すのは絶対に避けたい。
これはモヒートの中で最も重要な食霊のルールの一つだ。
モヒートはひたすら大きな声で叫んだ。愚かな人間が彼を解放するように頼むしかなかった。
すると、彼は食霊の気配がすると感じた。そして叫ぶ事をやめて、気配がする方を向く。
見知らぬ少年がボロボロなセーラー服を着て、マンガを持ったままボーッとモヒートの方を見ている事に気付く。
あいつも食霊だ!
モヒートはどうにか彼に助けを求め合図を出したが、少年は彼を一目見てすぐにどこかへ行ってしまった。
無視された?!
モヒートは固まってしまった。どういうことだ!
彼は偉大な志を持つモヒート様だ。人間はまだしも、同じ食霊すらも見て見ぬフリをして助けてくれないとは!
チクショー絶対後でとっ捕まえてやる!
少年の後ろ姿を眺めながら、縛られているモヒートはそう心の中で決心した。
埠頭近くの警備室。
モヒートの目的が宝探しで、海賊旗を掲げているのは海賊が一番宝探しに向いていると聞いた海軍は、呆れて言葉を失った。
「……つまりな、これは掲げようと思って掲げて良いもんじゃないんだ。わかったか?」
両手の縄が解かれ、モヒートはイラついた表情で椅子に座り、海軍の説教を受けた。
真面目な顔の海軍を見て、竜人の青年は思わず叫んだ。
「……わかったわかった!うるせぇな!人間のクソルール多すぎなんだよ。うぜぇ!」
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