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レッドベルベットケーキ・エピソード

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レッドベルベットケーキのエピソード

「カーニバル」のオークションハウス「マジックケイヴ」のオークショニア、そして「カーニバル」の宝物店「ドラゴンネスト」のオーナーでもある。趣味は、変わった宝を集めてオークションに出品し、得たお金でより多くの宝を手に入れる事。よくオークションをオペラに変えてしまう程に出しゃばりで、皆その情熱的で明るすぎる性格に戸惑うことがある。また、いつも肝心なところで逃げ出してしまう、命に関わる時だけ、たまに役に立つ。

Ⅰ.黄金馬車


陰鬱な霧を纏った夜風が馬車の窓を通り、燦燦たる宝石を名残惜しそうに触れる。

見知らぬ町の暗い街灯が次々と灯っていく。蛾は無謀にも車内の燭台に飛びつき、灰と化した。


ああ、なんという甘い香り……


街の泥濘、粗悪な煙草、飲み屋の焦げたベーコンの匂いの間から微かに匂う……金の香り。


どうやら、また仕事が舞い込んできたらしい。


重いベルベットのカーテンをめくると、みすぼらしい身なりをした若者がぎこちなく馬車の前に立っていた。


「貴方が……黄金馬車の持ち主ですか?」彼はおずおずと尋ねた。


「そうよ〜正真正銘の黄金馬車よ。車に積んである宝物も、全てあたしのもの。何かご用かしら?」

あたしは琥珀のグラスを揺らし、自らやって来た「カモ」をゆっくりと眺めた。


「貴方の所で魔法の宝物が買えるという噂を聞いたんです……本当ですか?」


「そうよ、どんな願いも叶えてくれる宝物、どんなに狂った夢でもね……」

あたしは少し間を置いて、若者の期待に満ちた眼差しを満足気に眺めた。

「腕に抱く美人も、貴族という身分も、更には不老不死ですらも……あたしの黄金馬車で買えるわ」


「俺は金が欲しいんです!毎日家にいるだけで金が手に入るような日々を……あんなクソみたいな仕事、もう一日だってやってられない!」

彼の口調は突然キツくなった。


「アハハッ、実に素直なお願いね。頭の良い若者よ、金こそが万能だ」

あたしは背後から檀木で出来た箱を取り出して開けた。中で神秘的な模様が彫られた金色の鈴が冷たく光っている。


「これは、いくら……いくらしますか?」若者は軽く唾を呑んで、渋い声を出した。


あたしは右手を伸ばし、五本の指を開いた……華やかなルビーのような指を。

冷たく眩い光を放っている。


「5……金貨500枚ですか?」


あたしは笑って首を振る。

「あら、違うわ……5枚よ、それも銅貨でいいわ」

「だけど、あたしと契約を結んでもらわないといけないわ。契約に違反したら、金貨500枚だけでは済まないよ」


夜風は嗚咽しながら凛と馬車に乗り込んだ。燭台の火が歪み、震える蛾が粉々になった。

琥珀のグラスに入った酒を口に含み、宝物を抱えて去っていく若者を眺めながら、カーテンを下ろした。


この若者と再会したのは、僅か2ヶ月後のことだった。

正確に言うと、目の前にいるのはもう死にそうに痩せ細った老人だけど。


「カモ」の成長速度が思いのほか早くて、笑みを堪えられない。


「あらら、その様子だと、契約を違反したのね?」

「この毒婦!お前……ゴホッ……俺を呪うなんて!」


濁った灰色の目には憤りと悔しさが満ちていた、だけど……後悔はないようだ。


「呪い?同意の上結んだ契約なのに、こんなに早くそれを破るとは……フフッ……理解出来るわ……金の味は、一度味わってしまったら止められないからね」


金色の鈴が1回鳴らすと、金が貰える。

契約で決めた規則として、1日に1回しか鳴らしてはいけない。


心地よい鈴の音はまるで金貨が落ちる音色のようだ。1回、2回、3回……欲望の火はゆらゆらと点滅し、蛾は火の中で踊り狂う。

ああ、なんて美しい光景なのだろう。


人間はいつも、自分の物じゃない何かを求める事に夢中になる。

だけどなんという事でしょう、彼らは何の代価も支払いたくないんだと。


「鈴を振るには代価を支払う必要がある。1日1回だけなら、数年分の寿命が減るだけかもしれないけど、1日に振る回数が増えれば増える程、失われる生命力は倍になるわ。可哀想な子、一体何回振ったんだろう?本当……欲張りね……」


「頼む……助けてくれ……医者にはもうすぐ死ぬって言われた、いくらお金があっても治せないって……」

彼はついに挫けて、まるで空を舞う灰のように、冷たい車椅子の上に倒れ込んだ。


あたしは愉悦の表情で目を細め、冷たく華やかなルビーの手で頭を抱えて笑った。

「言った通り、今度の代価は金貨500枚じゃ済まないわよ」


Ⅱ.真紅の雨夜


雨季がやって来た。

夜の10時、人通りはまばらだ。時折毛皮がツヤツヤとした黒い影が通りを走り抜け、垢の溜まった下水道に素早く隠れていく。


穢れた腐臭。

嫌いな「ネズミたち」がやってきた。


黒ずくめの見知らぬ男たちが馬車を取り囲む。

「商売」を始めて以来、高額な違約金を払いたくない愚かで欲張りな顧客が絶えない。


「紳士たち、場所を間違えたのでは?あたしはただの商売人よ、暴力は嫌いなの」


「お前がレッドベルベットケーキか?」

先頭の男は腰のリボルバーを右手で触り、確信めいた口調で問いかけて来た。


久しぶりに聞いた名前に、あたしは少し呆然とした。


「あら、昔からの知り合いみたいね……なら一杯どうかしら、まずはその邪魔な物を下ろしたら?」


「黙れ、盗んだ物を全てだせ、あと……お前の命もな」

男は淡々と銃を構え、引き金に人差し指を掛けた。


「獣のようなじゃれ合いより、コミュニケーションの方が好きだけれど……折角来てくれたんだもの、丁寧に対応しないとね」

あたしも笑うのをやめた。


冷たい雨が降り注ぐ、黄金馬車は雨に洗われ、一層輝いて見える。


ネズミたちは道端に倒れ、尻尾を振って命乞いをしてくる。


「フフフ……安心して、殺さないから。何しろ……あなたたちにもいくらか値が付きそうだからね」

あたしはしゃがんで、笑顔でネズミたちを眺める。

「すぐにあたしの旧友が迎えに来るからね……“ダークマーケット”だと、ネズミもあますところなく使えるのよ」


血走った目が大きく見開いたけど、言葉が話せなくなっていて、嗚咽しか出ない。

「ダークマーケット」の商人は、あたしよりも人を苦しめるのが得意だ。


馬車に戻ると、あたしは指についた血を丁寧に拭いた。

これからネズミたちが輝く金になる事を思えば、今日はそれなりに収穫があった方だ。


「君がベルベットケーキか」

暗所から、冷淡な若い声が響いた。


「申し訳ないけど、今日はもう店仕舞いしたわ。買い物がしたいのなら、また改めて頂戴」

立て続けに邪魔されてあたしはイラついていた。


「買い物はしない」

すらりとした青年が出て来た。彼の見た目は声と同じように不愛想で、何の感情も読み取れない。

「でも、僕の元に君が欲している物があるかもしれない」


「あら、もう少し詳しく聞かせて頂戴」

何か面白い気配を感じたあたしは、少し興味が湧いた。


「骨董品を管理して欲しい、きっと興味があるはずだ」

単刀直入に言われて、あたしは戸惑った。


「あなたは……どこかのオークションの……それとも骨董品店の……オーナーかしら?」

あたしは訝し気に彼を観察したが、どう見ても「骨董」や「オーナー」にはとても結びつかない見た目をしている。

彼には何の欲望もないように見えたから。


「いや、骨董品には興味がない。ただ、君の手でどうなるか見たいだけだ」

彼はそこに立っているが、まるでただの骨のように淡々とあたしを見ていた。

「君のことはキャンベルから聞いている、彼は君の長所を惜しみなく褒めていた」


キャンベル……


雨夜の暗い下水道のような、薄暗く湿った記憶が呼び起こされた。


Ⅲ.籠の鳥


キャンベル伯爵に初めて会った日も、こんな長く退屈な雨夜だった。


着飾った老紳士はあたしを古城に連れて行き、彼のコレクションルームに案内した。


薄暗い蝋燭の下、キラキラと輝く宝石の山が冷酷で魅惑的な光を反射していた。

長い歳月を経た骨董たちはコレクションケースの中に飾られていた、まるで美人の標本のようだった。


ほんの十数分前まで、あたしは薄暗い古びた商店に蹲っていた。

人の言いなりにしかなれない御侍が、この老紳士から十枚の金貨を受け取ると、あたしは彼が破産する前に売った最後の「商品」となった。


「御侍、あなたに商才はないけれど、今回だけは商売らしい商売をしたんじゃないの」

離れる直前、あたしはいつものように彼に軽い冗談を投げ掛けた。


御侍は口を開き、顔に絶望の色が浮かんでいたが、何も言わなかった。

夜の雨がガラス窓を叩き、この短い沈黙を埋めてくれた。


思えば、あたしを召喚した時も、彼は緊張して言葉が出なかった。

随分経ってから、彼はそっとあたしに抱きついて来て、笑いながら……

「これからはお前が俺の家族だ……俺の……妹だ!」


人間の抱擁は、暖かいはずだった。


でも今思い返すと、嫌悪を覚える。


十年も暮らしてきた、今やがらんとした店を見渡す。

埃が被った棚の上には、小さな女の子の笑った写真が置いてある。


死んだ妹の代替品なんて、捨てても惜しくはないのだろう。


人間の安っぽい温もりは、たった数枚の冷たい金貨にも及ばない。

ーーつまらない。


レッドベルベットケーキ嬢、新しい家へようこそーー」

キャンベル伯爵はあたしの回想を遮り、彼は優雅に手を上げ歓迎のポーズを見せた。


ベルベットの幕の下、冷たく輝く精巧な鳥籠がいくつもの宝石の間に置かれている。


「近頃、貴族の間で食霊を飼うことが流行してるらしいわ……キャンベル伯爵、あなたもあたしをコレクションにしたいのかしら?」


「いや、ただ美しい鳥はそれ相応な場所にいた方が良いとは思っている」

キャンベル伯爵はにこやかに微笑んだ。グレーの眉毛を上げていて、機嫌が良いのだろう。

「それに、教養のある紳士は、自分の鳥を売ったりはしないものだ」


ええ、ここはあの貧乏で小さな商店とは違うーー

美味しい食べ物が尽きない、檻の中には柔らかなビロードの毛布が敷かれていて、金塊が高く積んである。

暖炉の中では黄金のような炎が踊っていて、暖かい……


時計の振り子は催眠しているかのように「カチコチ」と揺れている。

金のように甘い夢も、悪くない……かもしれない。


キャンベル伯爵はコレクションマニアだ。


人間がコレクションをする動機は占有欲だけじゃない、多くは自慢がしたいんだ。

無機質な宝石や骨董品は、精巧なガラスケースの中、眩しいスポットライトを浴び、皆の羨望の視線の中でしかーー復活出来ない。


彼にとって、あたしも例外ではないようだ。


彼は自ら貴族としてのマナーや振る舞いをあたしに教えた。

接待、パーティー、自宅でのオークションでも、精巧な鳥籠に閉じ込められたあたしは特別な司会で、或いはーー展示品だった。


最近は、伯爵から権限を貰い、余ったコレクションを売る手伝いもしている。

テキトーに選んだ品物だったのに、帳簿を精査すると彼は喜びの表情を浮かべた。

「ああ、これは驚いたな。貴方は生まれつきの商人かもしれない、凄まじい進歩だ」


「商人?うーん……簡単に金が手に入れられるなんて、なかなか良い仕事ね」


伯爵は帳簿を下ろし、背後から重そうな金色の箱を取り出した。中にはやや古いデザインの純白のドレスが入っている。

「明日の夜宴で、このドレスを着なさい」

伯爵は穏やかに眉を上げる、目からはいつもと違って優しさと慈愛を感じた。


「はぁ、その大きな箱には宝物がいっぱい入っているのかと思ったわ」


「でも……伯爵様、あたしに白は似合わないわ、あたしは派手な赤の方が好きよ」

何の気なしに視線を移すと、そのドレスの襟元の刺繍が見えた。


イヴ。


伯爵の顔が記憶の中にある、あの絶望した顔と重なる。

弱い人間は自分を欺く幻想に耽る。もううんざりだ。


「ふふっ……それもそうだな」

伯爵は自分の考えを否定するかのように、笑って首を振った。


しばらくして、彼は平然とした表情でもう一つの品を取り出した。

冷たい光を放つ、ルビーのブレスレットだ。

高級感のある作りで、かなり価値があるようだ。


「このブレスレットなら君によく似合うはずだ。グルイラオで最も高価なルビーで、1グラムあたり金貨千枚はするだろう」


伯爵はルビーのブレスレットをあたしの手に嵌めた時、冷たく硬い感触が肌に触れ、奇妙な感覚を覚えた。

体内から何かが急速に失われていくような感覚。


ブレスレットをいじりながら、あたしは考え込んだ。


「面白い、高そうに見えるし、気に入ったわ」


Ⅳ.砕けた枷


伯爵は重い病気を患った。


いつもがらんとしているホールは、今や色んな人で埋まっている。

普段伯爵の元に姿を見せない子どもたちが、財産分与で揉めているのだろう。


キーーキーー

肥えたネズミが湿った地面に落ちた食べ物の残りカスを齧っている。

吐き気を催す腐臭がする。


あたしの今の境遇では、お坊ちゃんとお嬢さんらが喧嘩している滑稽な場面を想像する余裕もない。


「この食霊はいつまで閉じ込められてんだ?俺はもう三日も寝てねぇよ、ほんとついてねぇ!」

時折看守の罵声が聞こえて来る。


「坊ちゃんが、伯爵様がし……伯爵様の葬式が済んだら、始末すると言っていたけど……」


「霊力のない食霊だろう……もとは伯爵のおもちゃだったんだし……もう殺した方がいいだろう、坊ちゃんは何を考えてるんだか……」


「シーッ!余計な事を言うな!旦那様はこの食霊を特別視していた、コレクションルームへの出入りも許可していたんだとよ……あそこには大きな金庫があって、坊ちゃんたちは暗証番号を知らないらしい……」


「わかんねぇな……旦那様は本当にイヴ様に似てると思ってんのか?イヴ様は優しくて頭も良くて……商才もあって……しかし残念だ……ひょっとして年を取って、娘の事を思い過ぎて、ボケたのか?」


会話は次第に聞こえなくなった。石壁にある燭台はあの純白のドレスの刺繍のような、繊細な影を落とした。


数日後、病に侵された伯爵は深夜に死んだ。

追悼の鐘が古城に響き渡り、辺鄙な地下室にまで響き渡った。


伯爵の死で古城全体が忙しくなり、地下室の看守からも人員を割かなければいけなくなった。

そのため、先日あたしを「おもちゃ」と皮肉った看守ただ一人だけが、今入口でヤケ酒をしている。


目の前の華美な鳥籠は汚れとネズミの排泄物にまみれ、忌まわしいものになっていた。

これ以上、こんな鳥籠にいるのはごめんだ。


男が酒の最後の一口を飲み干したところで、あたしはそっと口を開いた。

「ねぇ、一人で飲んでもつまらないでしょう?あたしと取引でもしない?」




予想通り、地下室から出ると道のりはスムーズだった。

看守の協力を得て、黒マント姿の私は弔問客に紛れ込み、コレクションルームの裏口に忍び込んだ。


コレクション棚の宝物は既にほぼなくなっている、金色の金庫だけが部屋の中央にぽつんと立っていた。


「早くしろ!次の瞬間に誰かが入ってくるかも知れねぇんだ!」

看守は、低い声で面倒臭そうに催促して来た。


暗証番号のボタンについた埃を指先で払う。

記憶を頼りに、数字を押すと。


カチャッ──

金庫が開いた。


「うおっ!本当にこんなに金があるとは……ハハハッ……!」

看守は手を震わせながら用意していた麻袋を取り出し、素早く金を詰め込んだ。

「まったく伯爵は魔が差したものだ……暗証番号をお前にしか教えてないなんてな……坊っちゃんが目の敵にする訳だ!」


あたしは椅子に座って、のんびり金を詰め込むその醜態を眺めた。

「仕事が速いわね」


看守は重たい麻袋を締め、あたしがちっとも動かないのを見て面倒臭そうに眉をひそめた。

「早く出て行け!捕まって俺に迷惑を掛けるな!」


「ふふっ……どうしてそんなに急いでいるの?ここにもっと高価な宝物があるのに、取らなくていいのかしら?」


「まだ何かあるのか!」

彼の目には欲望しか見えない。


あたしは自分の右手を差し出した、赤いブレスレットが艶やかに光っている。

「……このブレスレットは、その箱の中の金を全てよりも高価よ」

「グルイラオで最も高価なルビー、1グラムで金貨千枚らしいわ」


「渡せ!それも早く渡せ!」

麻袋を縛ったばかりの看守は目を赤くしてブレスレットを見つめ、はぎ取ろうと手を伸ばした。


あたしは手を戻し、困ったように首を振る。

「残念だけど、このブレスレットには魔法が掛かっているの、誰もあたしの手首から外す事は出来ないわ……どうしよう?」


目を真っ赤にした看守が斧を手にした瞬間、あたしは嬉しそうに口角を吊り上げた。

人間って、実に操りやすいわ。


看守はよろけながら振りかぶり、「宝物」を手にした。


ふふっ、ようやく鎖が切れた。


「手首から外せないのなら……手も一緒に取ればよかったのね、あなた賢いわね〜ふふっ、考えもしなかったわ……まあ、痛いのがイヤだっただけかもだけど」


ずっしりとした感触が消え、雲の上にいるように体が軽やかになった。


「金の回収を手伝ってくれてありがとう、これは……全部あたしの物よ」

体が霊力に満ち溢れるのを感じ、それを指先に集めた。


男はまだ滑稽な体勢で懐の「宝物」を抱いている。

恐怖の影が迫っているのにも気づかず、その目にはまだ熱狂的な金色が浮かんでいた。


ドンッーー

ハンマーはついに鳥籠を打ち砕き、破れた翼で遠くへと飛んだ。彼女の自由を祝うために、再び弔鐘が鳴る。


Ⅴ.レッドベルベットケーキ


「カーニバル」では、誰でもやりたい事が出来る。


夜になり、月が優しく満ちると。

闇夜に潜行する狩人や獲物を惑わす。


狂気な夢が綺麗な金色の星々の間に浮かぶ。

誰かが匂いを嗅いでやってくる。


黄金馬車は静かに眠らない街に入る。

泥濘に車輪の跡を残しながら。


「来たか」

ジェノベーゼはいつものように淡々としている、女性の治っていない腕を見ても表情は変わらない。

「キャンベルの息子に困らせられたようだな」


「あの単細胞馬鹿……“あれ”であたしを殺そうとするなんて。一番許せないのは……あたしの大切な右手を壊したことよ!」

レッドベルベットケーキは怒りながら、少し欠けた宝石の右手を撫でる。

「大金を使って、グルイラオで一番の職人に嵌めて貰ったのに……腹が立つわ!」


「“あれ”は……タルタロス大墳墓の材料か、枷や武器に加工すれば食霊を制御出来るらしいな」

レッドベルベットケーキの愚痴をよそに、ジェノベーゼは考え込んでいた。


「そうよ、あれは何年もあたしを縛っていた、今更またやって来るなんて……まったく、あいつらを始末するために、騒ぎを起こしてしまったわ。ほんとネズミって嫌い……」


レッドベルベットケーキはまだブツブツと文句を言っている、ジェノベーゼをちらりと見るが、彼が何の興味を示さないのに気付き、話を変えた。


「……馬車でネズミを追い回すくらいなら、あなたの骨董品を管理してた方がよっぽど楽だと思ったの。でも……ここの福利厚生ってどうなの?」


「福利……厚生……?」

ジェノベーゼが不思議そうに顔を上げる、無表情な顔にようやく戸惑いの色が浮かんだ。


「あたしがいれば、あなたの持っている骨董品はきっと高値で売れるわ!あたしが手に入る金もきっと馬車の上よりも多いはずよね~」


「金や骨董品には興味がない。君が必要なら、全部持っていってもいい」


ジェノベーゼは依然として表情を変えず、だらりと椅子の背もたれに体を預ける。


「この世界は虚妄のゲームに過ぎない……“カーニバル”はこのゲームを少しでも面白くするためだけに存在している、君たちが“カーニバル”に来た意味もそうだ」


「言っている意味がわからないけれど、そんなのどうでもいいわ……待遇は悪くないし、交渉成立!」





クラシック音楽が豪華な宴会場に響き渡る、着飾った貴族たちはグラスを交わし、談笑している。

優雅で平凡な貴族の舞踏会にしか見えない。


だが、貴族たちの目には熱と渇望がこもっていた。

シャンパンが揺れ、シャンデリアが眩い光をこぼす。


「レディース・アンド・ジェントルメン!素晴らしい天国、宝物で作り上げた名所、“マジックケイヴ”へようこそ!」

赤い礼服に身を包んだ若い女性が宝石のような華やかな声を上げながら、螺旋階段をゆっくりと降りてきた。


ステージの中央の赤い幕が開き、ショーケースの中の骨董品たちがスポットライトを浴びて輝き、美しさがよみがえる。

まるで黄金の棺の中で目を開いた美人のように、その刹那の輝きが人の心を捉えて離さない。


骨董品の「美人」に酔いしれる客たちは貪欲な眼差しを向ける。

まるでこの世にある美しく高価な宝物全てを飲み込んでしまうかのようだ。


欲に限界はない。

食べている人たちはその欲が……最終的に自分を飲み込んでしまうという事に気付かない。


レッドベルベットケーキは満足そうに客たちの反応を見ながら、ステージ中央の鳥籠型の玉座に向かった。

そっと腰を下ろすと、彼女は傲慢で自由な鳥のように両腕を広げ、こう声を上げた。


「皆様、本日のオークションは間もなく始まります。どうか思う存分……狂ってくださいね!」



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タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
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  • RPG(ロールプレイング)
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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