デビルドエッグ・エピソード
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ デビルドエッグへ戻る
デビルドエッグのエピソード
スペクターファミリーのお坊ちゃん。いつも可愛い子ぶっているが、実はとてもイタズラっ子である。特にイタズラで誰かを脅かすのが好きで、クリームチキンはよくその洗礼を受けている。しかし、彼はとても怖がりで、よくヴィーナー・シュニッツェルに泣かされている。
Ⅰ.カボチャの道具
窓の外から光が差し込んでくる。まだ完全に日が昇る前に、僕はこっそりベッドから抜け出した。
部屋の外はとても静かで、誰もいない。僕は急いでプラスチックで出来たクモをホールにぶら下げて、ブーブーボールを廊下の絨毯の下に仕込んで、最後はクリームチキンの部屋に忍び込んで時計を遅らせた。
全ての準備を終わらせた後、僕は安心して隅っこに隠れて、今朝のショーが始まるのを待った。
イタズラで新しい一日を迎えることが、一番テンションが上がるんだ!
うぅ……でも……たまに失敗することもある……
「シャーッ」
閉まっていたカーテンがいきなり開いたと思ったら、大きな口を開けた幽霊のぬいぐるみが目の前に現れた。
「うわぁー!うっ、痛い……!」
無意識に後退すると、後ろに硬い台があることを完全に忘れてぶつかってしまう。
「あはは!ビックリしたでしょ、朝っぱらからしょうもない事考えて」
僕は腕をさすりながら、得意げな顔をしているパンドーロを見上げた。
「なっ、なんでここにいるってわかったの……僕のゴースト2号とブーブーボールはどうして君が持っているんだ?!」
パンドーロは僕のぬいぐるみとブーブーボールを投げ捨て、見下してきた。
「フンッ!どっかのおバカさんが窓の外にこんな物を捨ててたから、すぐにわかったわ。このボールなら、賢いあたしがついでに絨毯をめくって見つけたのよ」
「……1回の失敗はどうってことない、次はちゃんと隠し通すから!」
「そうだ、もうすぐ朝ごはんの時間だし、早くホールに行こう!」
彼女が気付く前に、僕は急いで話題を変えた。
まだ仕込んであることに、彼女は絶対気付いていない!
彼女が驚く様子を想像しながら歩いていると、突然ホールの方から大きな物音が聞こえてきた。
イヤな予感がする……
僕たちが駆け付けてきた時には、床に黒い残骸が散らばっていて、横には斧を収めているトマホークステーキがいた。
「2人とも、おはよう」
「あれ、その黒いのは何?」
「なんでもない。壁にクモがいたのが見えたから駆除しただけだ」
「……」
「デビルドエッグ、顔色が悪いようだが?」
「気にしないで、このあたしがイタズラを暴いてやったから落ち込んでいるのよ」
朝の挫折を経て、何もする気が起きなくなった。
つまんなそうに城を何周した後、近くに町に行って息抜きする事にした。
空にはカボチャの形をした雲が飛んでいて、紫の目をした黒猫がキャンディをくわえて屋根に上っている。賑やかな町には奇妙な飾りつけがいっぱい飾られていた。
ハロウィンがやってくるんだ!僕はこの光景を見てやっと気付いた。
湧き上がる興奮が悩みを吹き飛ばしてくれた。僕はすぐさまいつも通っている雑貨屋さんへと足を運ぶ。
なんてったって、ハロウィンはイタズラが一番盛り上がる日だからね。良い物は誰かに取られちゃってるかもしれない。
目まぐるしい棚の上に置いてある小さな道具に目を奪われた。
カボチャの形をしたそれは、何千種類ものおかしな音を出せるらしい。
それがあれば、もっと良いイタズラが思いつくかも!
僕は慌てて手を伸ばしたけど、誰かの手とぶつかってしまう。
振り返ると、シャツと短パンを着た、僕と同じくらいの身長の人間の子どもがいた。
「これは僕が先に見つけたんだ!」
「知らない、俺が先に取ったんだから俺のもんだ!」
僕が機会を奪おうとすると、彼はそれを抱きしめて放そうとしない。
2人とも一歩も引かず、手を放すつもりはないようだ。
腕がしびれてきた頃に、僕は思わず口を開いた。
「手を放さないなら、賭けをしよう!どっちのイタズラが怖いか勝負だ!勝った方がこの道具を買える!」
彼は負けず嫌いなのか、すぐに顔を上げて「いいよ!かかってこい!」って答えたのだ。
Ⅱ.ハロウィン前夜
この試合に勝つために、僕は必死で頭を回転させ、イタズラ計画を考えた。
でも考えても考えても、良い案が浮かばない。
簡単で普通なイタズラじゃダメなんだ……絶対に誰にも予想がつかないような、とんでもないイタズラじゃないと。
目を泳がせていると、壁に映った自分の影が見えた。まるで巨大な人型の怪獣みたいだ。
人型の怪獣……
突然閃いた!脳裏に様々な怪物の姿が浮かぶ。
そうだ、堕神と呼ばれている怪物だ。
僕の印象だと、あいつらはいつも廃墟とか暗闇の中に居たがる、凶悪な猛獣よりも厄介。
もし……あいつらの仮装が出来たら、きっと怖いはず!
僕は早く試したくてうずうずしていたから、すぐにこっそりと準備を進めた。
でも町中の図書館をひっくり返しても、あいつらに関する記述はほとんどなかった。
もしかして、戦争の後怪物たちは綺麗に消されて、誰もあいつらの姿を覚えていないの……
でも資料を見つけられないと、再現することはできない。きっと迫力は半減しちゃう。
「明日がハロウィン前夜なのに、早くしないと、絶対に人間の子どもには負けない!」
強烈な負けん気の強さが僕を刺激する、自分を励ました。
じゃあ、あそこに行くしかない……
深夜3時、月はまだ枝先で眠っている。
僕は誰もいない廊下を歩いて、一番上のお姉さんの書斎に忍び込んだ。
並んだいくつもの大きな本棚を見つめて、僕は目を見開いた。
図書館と比べたら、ここはどう見ても巨大迷路だ!
でもせっかく入れたのに諦めちゃダメだ。
僕は唾を飲み込んで、自分の運に任せる事にした。
びっしりと詰め込まれている本の背表紙に目をやっていると、なんだかクラクラしてきた。
ふらついていると、何かにぶつかったのか、ガラス瓶が滑り落ちる音がした。
月明かりを頼りに、僕は厚いガラス瓶の中で黒い光を放っている靄のようなものが見えた。
心の中に大胆な発想が浮かぶ。
本物の堕神が見つからないのなら、このちっこいので代わりにしよう。
「ちょっと借りるだけだし、すぐに返すから!」
僕はガラス瓶をそっとマントの下に隠して心の中でこう呟いた。
もうすぐハロウィン前夜だ。
完璧な計画を実行するため、僕は自分の部屋に閉じこもって、絵具と筆を探した。
夜の宴会が始まったら、僕はゴーストの格好をしてこのちっこいのを連れて現れる。
その時になったら、きっとみんな驚いて叫びまくるはずだ!
暗くなってから、僕は幽霊の格好をしてドアの後ろに隠れて、時間が来るのを待った。
「今日は、頼んだよ!」
そうガラス瓶に声を掛けると、靄が急に激しく動き出した。瓶にぶつかって、鈍い音が響く。
「パリンッーー」
まずい!
ガラスが割れる音が響いた。僕が反応する前に、黒い靄が立ち上った。
部屋の中は徐々に寒くなって、強烈な匂いが広がる。
生臭くて、キツい。
これは……
もしかして堕神の気配?!どうして?!
黒い靄は呻き声を上げながら襲ってくる。
状況を把握した頃、僕はもう腰が抜けて動けなくなっていた。
あたりは真っ暗になり、自分が沈んでいるのを感じる。まるで何かによって、深淵に落とされているような……
伸ばした両手は何も掴めなかった、訳のわからない眠気に襲われ、必死で最後の声を出して、救援を求めた。
「たっ……たすけて……」
Ⅲ.遠い悪夢
僕は……たくさん夢を見ていたみたいだ。
魔導学院で戦闘訓練をしていた夢。
堕神を殲滅する任務に何度も何度も行く夢。
スペクターファミリーを作って、戦争の中で生き残った夢。
「バンッ!」
門が蹴り開けられた後、忙しない足音が聞こえてきた。
金色の何かが目の前で動いているけど、どうしてもはっきりと見えない。
まどろんでいると、あたりはどんどん騒がしくなった。
彼らは、誰……?
突然清らかな泉のような力が流れ込んできた、騒がしい声も徐々にはっきりと認識できるようになる……
「デビルドエッグ!ねぇ……あたしの声は聞こえる?!」
「坊ちゃんはどうされたのですか?」
「彼の部屋で変な音がしたから、急いで来てみたらもう倒れてた」
「落ち着いてください、悪夢に魘されているだけのようですよ」
視界がチカチカする、気付けば意識が戻って、目の前にいるみんなの顔もぼんやりと見えるようになった。
思わず名前を呼んだ。すると心が震え、嵐によって遥か彼方の記憶が呼び起こされる。
戦争が終われば、全てが終わると思っていた。
だけど、堕神は絶え間なく襲い掛かってきた。まるで絶望の地獄にいるようだった。
自分が引き裂かれそうになった時、彼らはなりふり構わずに走ってきて、僕を怪物の口から取り返してくれたんだ。
遠い昔の出来事だし、大きなショックを受けたから、僕はあの日の事をあまりよく覚えていない……
でも、目の前の彼らを見ていると、あの日の光景と重なる。
あの日重傷を負った僕は、長い昏睡に陥ったと、ヴィーナーが教えてくれた。
どれだけ眠ったのかわからない。ただ起きたら、戦争はとっくに終わっていて、僕たちはこの広くて綺麗な城に引っ越していた。
「坊ちゃん、貴方が今見ているあそこで、私たちはこれから生活をします。もうじき春がやってきます。すぐに執事さんが手入れした庭園を見る事ができますよ」
ヴィーナーは微笑みながらこう言ってくれた。
「ヤッター!新しい庭園は絶対に楽しいんだろうな!絶対にマンドラゴラを育てる!」
かつて言った言葉が浮かんで、より多くの思い出が引き寄せられた……
Ⅳ.優しい絆
当時、僕達は魔導学院にいた。人間の代わりに堕神を消す事が使命だった。
僕にとって、戦闘は大変だった。
戦闘テストで合格したことはないのに、いつも戦場に追いやられた。
研究員は僕のケガなんて気にした事ない、堕神は訓練場にある模型よりも怖くて、いくら倒してもキリがない……
いつも、トマホークステーキたちが僕の前に出て、守ってくれた。
城の隅っこに隠れていると、いつも彼らが落ち込んでいるところを見た。
可愛らしいイタズラをしたら、少しは楽しくなるのかな。
人間の子どもたちはよくこういう事をするって聞いたんだ。彼らの楽しそうな笑い声を、いつも遠くから聞いていたから。
あの頃の僕は、まだ拙いイタズラしか出来なかった。どれだけ大惨事になっても、城の中は笑い声が絶えなかった。
僕はただ、みんなの悲しい顔や、不安そうな顔が見たくないだけなんだ。
そして、僕だって自分のやり方で、彼らを守りたいんだ。
僕はもう「スペクター」というコードネームを持つ戦闘集団じゃない、家族になった「スペクター」ファミリーの一員なんだ。
心の中により多くのあたたかい力が集まっていた。この力は僕を苦しめる未知なる力を分離させてくれて、少しずつ息が出来るようになった。
再び目を開くと、もう全てがはっきりと見えた。
そこには、よく知っている部屋と知っている人達がいた。
「ふぅ……ビックリさせないでよ!やっと目が醒めた!」
「坊ちゃんもう心配しなくて大丈夫ですよ。あの瘴気はもうヴィーナーが制御しています」
「大丈夫です。皆ここにいます」
心臓はまだバクバクしている。彼らの心配そうな顔を見ていると、鼻の奥がツンとなって、思わず声を上げて号泣した。
誰かを傷つけてしまうものは、イタズラとは呼べない。
イタズラというのは、みんなに特別で唯一無二の楽しみを与えるものなんだ。
涙が溢れて止まらない、顔に塗った絵の具が地面に落ちているから、きっと今の僕はとんでもなく滑稽なピエロみたいになっているはずだ。
「うぅ……ごめんなさい……勝手に書斎の物を取ってごめんなさい……」
「何があったのですか?」
ヴィーナーは少し呆れた口調をしているけど、優しく僕の頭を撫でてくれた。
恥ずかしさと恐怖でいっぱいだったけど、僕は全部話した。
「という事だったの……本当に、これにあんなものが入っていたなんて知らなかった……心配かけて……本当にごめんなさい……」
自分の声がどんどん小さくなっていくのがわかる。
僕は俯いたまま、怖くて彼らの表情を見られない。
でも予想していた怒声が飛んでくることはなかった。
「あんたね……!はぁ、とにかく無事で良かったわ。もう無茶しないでね、あたしがすぐに駆け付けなかったからどうなっていたか」
「坊ちゃん、気分は悪くありませんか?今すぐあたたかいお茶を淹れてきますね」
「せっ……責めないの?」
「反省しているみたいだし、いいんじゃない。フンッ、もう二度と部屋に閉じこもらないでね!」
「坊ちゃん、お忘れですか?私たちは家族じゃないですか」
家族……
全身に温もりが広がる。僕は顔を上げて、彼らの顔を見た。
「うっ……わあああん」
そして、すぐに心の底から感動が湧き上がって、涙がまた零れた。
「落ち着いてください、これ以上泣いたらお嬢様に知られてしまいますよ」
「あれ、ヴィーナーもたまには優しいわね」
パンドーロはわざとからかうような事を言い出した。
「おや?それはどうでしょう。ヴィーナーが数日前音楽室で起きた事を知ったら、もしかすると……えっと……あの……私は何も言っていません!」
クリームチキンは勝手に言い出して、また勝手に黙り込んだ。
……クリームチキンのバカ!
空気がピリッとしているのを感じ、僕は頭を回転させて逃げる方法を百通り思い浮かべた。
「では、焼かれた楽譜や弦は、貴方たちが仰ったネズミの仕業ではない、という事でしょうか?」
背筋に冷たいものが走る。僕は視線を開いているドアの方へ向けると……
「コホンッ……坊ちゃんもご存知ですよね、あれはただの事故……ぼっ……坊ちゃん、逃げないでください!!!」
「知らない!僕は何も知らないよ!」
誰かさんが爆発する前に、僕は急いで部屋から逃げ出した。
「待ってください……ヴィーナー……説明を、説明を聞いてください……私は……」
「あはは、ヴィーナーはこうでなくっちゃ!」
後ろの声はどんどん小さくなっていった。僕は走りながら、気分は晴れ晴れとしている。
時計の鐘が鳴り響く。僕らの宴会は、まだ始まったばかりだ。
Ⅴ.デビルドエッグ
次の日、デビルドエッグは約外通り雑貨屋に向かった。そして、自ら人間の子どもに賭けをやめると謝った。
「負けを認めるよ……ハロウィンのイタズラは失敗したんだ……あの道具は譲る。でも、あれがなくても僕は完璧なイタズラが出来るから!」
決意表明して、彼は振り返ったあと道具から目を逸らした。
「うそつき、目を逸らしても意識はずっとあれに向いてるじゃん。そんなに欲しいなら、譲ってやるよ」
「本当に?!」
「ウソついても意味ないだろ。お姉ちゃんが言ってたんだ。譲り合いをしようって」
男の子の言葉に、デビルドエッグは大層喜んだ。まさかこのような結果になるとは彼は思いもしなかったのだ。彼は笑いながら、ポケットの中から1枚のビスケットを取り出した。
「お礼にこれあげるよ!」
男の子がそれを齧った瞬間、デビルドエッグはとっくに遠くまで逃げていた。
「うっ……このビスケット偽物じゃねぇか!このうそつき!」
「チッチッチッ……ウソなんてついてないよ。これはハロウィンのイタズラだから!」
夕方、デビルドエッグはたくさんのお菓子を持って城に戻った。
よく知っている分岐路で、彼は思わず足を止めた。
目の前には大きな門があるはずなのに、今は白い霧で覆われた不気味な墓地しか見えない。
白い石碑がいっぱい地面に刺さっていて、枯れた枝はまるで痩せ細った死体の様だ。
デビルドエッグは思わず身震いをする。しかし、再び目を開けた時、先程まで見えていた光景は幻影のように消えてしまった。
そしていつもの門は、いつものところに立っていたのだ。
彼は信じられない様子で目をこすったが、突然一つの人影が彼に近づいてきた。
「うわぁー!幽霊だー!!!」
「坊ちゃん、よく見てください」
「うぅ……ヴィーナー、か……」
「坊ちゃん、今日はハロウィンです。遅くまで外にいて、何かおかしな事が起きたらどうするのですか?」
「さっ、さっき!変な墓地が見えた!!!」
「……今後はホラーマンガを控えてください、幻覚を見るようになりますから」
「うぅ……もうこれ以上話さないで……すぐに帰るから……」
ヴィーナー・シュニッツェルはその場に立ち尽くし、逃げ帰って行くデビルドエッグの後ろ姿を見つめ、眉をひそめた。
「このままじゃやはりダメなようです、何か方法を考えないといけませんね……」
一方。
静かな書斎の中、トフィープディングは分厚い本を開いて、新聞を抜き出した。
紙が地面に落ちた刹那、それは燃え上がる火によって燃やされた……
「リガー社の報道によると、”契約”技術の運用に成功した後、魔導学院は実験改造技術を使用し、対堕神武器の製造にも成功した。そして、実験結果は予想を遥かに上回るものだった……」
「……魔導学院は引き続き技術の安定性を追求し……日常でも使えるよう調整を続けているようだ……」
◀ エピソードまとめへ戻る
◀ デビルドエッグへ戻る
Discord
御侍様同士で交流しましょう。管理人代理が管理するコミュニティサーバーです
参加する