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刺身・エピソード

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刺身のエピソード

いつも魚を抱えて街中を歩き回っている。

印象深い朗らかな笑顔で絶えず人々を温かく包み込む。

周囲の人々を笑顔で癒し、明るく元気にしてくれる。

Ⅰ 紅葉の中

 僕の記憶は海から始まった。

 宝石が撒かれているかのように澄んでいる海は空と繋がり、眼前に広がる青い景色は地平線まで続く。

 そこには僕とお姉ちゃん、御侍様と一緒に過ごした記憶があった。


 今の僕の目の前には、木を覆う紅葉が炎よりも深い赤色を見せている。

 ここは御侍様が亡くなった後、僕とおねえちゃんを引き取ってくれた紅葉館だ。


「朝から憂鬱になるなんて君らしくない。」


 聞きなれた穏やかな声が後ろからした。


「お姉さんに見つかったら、また心配されるだろう。」

「おはようございます、お館。」


 ふり返ると、たくさんの野菜を抱えたすき焼きを発見した。彼はこの紅葉館の主だ。


「野菜の搬送を手伝わせてください!お茶漬けのお姉さんにあげるの?」

「気が利く子だよね~こういう子は好きだよ。」


 すき焼きは誰に対しても優しい。彼が怒るのを一度も見たことがない。


「前は時々御侍様と他の村人を手伝って、物を運んでいたんですよ~」

「前は海辺の漁村に住んでいたよね。」

「そう、あそこのみんなはいい人。いつも笑ってて、魚もくれる」

 僕はペラペラと喋りはじめた。

「あそこがすごく好きみたいだね。どうして離れたんだ?」

 すき焼きの質問に答えられなかった。

「うん、他にもいろいろなことがあったから。」


 僕はちょっと落ち込んだ。これらのことを全部話せば、きっと退屈で長い話だと思われちゃう。


(世界がわかりやすい美しさだけだったらよかったのにってずっと思う。すべての人が笑える世界がいいな~)


 しかし、僕がどれだけ祈りを捧げても役立たない。

 世界には両面がある。光もあれば、闇もある。

 闇はずっと存在するものだ。堕神だって似た同士だろう。

 世界を変えられないなら、自分を変えるしかない。


「自分ができることを見つけたい。お姉ちゃんとみんなの役に立ちたい。」

僕は勢いで自分の思いを口にした。

「おや?」

 すき焼きは興味深い声を出した。


「いい弟だなあ~!俺の弟にもなってくれよ~」


Ⅱ なぜ迷う

「え!?あの……」

「はは……冗談だよ。」


 すき焼きの冗談っぽい口調は僕を困惑させた。


「私の弟をからかわないでください、お館。」


 お姉ちゃんはいつも身に持っている薙刀を手にして、私達の目の前に歩いてきた。

 地面と擦れる薙刀は危ない音を出した。


「女の子が刀を持つなんて、危ないことだよ。」

 和服の袖で口の半分を隠したすき焼きはこう言った。

「私は毎日練習しているの。お館が知らないだけよ。」

 お姉ちゃんはまじめで率直な人だ。特に僕に関わることについては。


「あー、そうか」

 すき焼きはそれ以上何も言わず、ただ不思議な笑顔を見せていた。

「早く食材を届けよう~」

「はい!よし!」

 そう答えながら、僕とすき焼きはおねえちゃんの隣を通り過ぎた。


 なぜか沈黙するような雰囲気になった。

 そのときから厨房から帰るまで、すき焼きはずっと黙っていた。


寿司は本当にバカだね。」


 その瞬間、僕は自分の耳を疑った。こんな低い声で喋るすき焼きを初めて見た。

 まるで他人事のように喋っている。


「そういえば、刺身寿司に自分の考えを伝えたことがあるのか?」

「うう……」

 僕は無言のままに頭を下げた。

「ないか…わかりやすい子だね。」

 すき焼きの表情はまたいつもの優しい笑顔になった。


「わかりやすいのに、寿司は知らないのか?いや……別の可能性もあるかも。もしやりたいことがあるなら、おすすめの場所があるよ」

「え?じゃお願いします」


 僕は反射的に答えた。


「じゃあ、明日俺についておいで!」


Ⅲ 春風を浴びるように

 道がどこへ続くのか分からないが、僕はすき焼きについて楓林を通った。

 赤い落葉が世界を染め、冬到来の時期を少し暖かくした。


「着いた、ここだよ。」


 すき焼きは僕を地味で静かな部屋へ連れて行った。

 ここは数畳の広さを持つ和室で、机には温かいお茶が置かれており、白い蒸気がゆらゆらしている。


「ここでちょっと待ってて。」


 それだけ言い残し、すき焼きは部屋を出た。


 僕は適当に位置を選んで座った。

 ここからはいつもの楓が見えない。この季節では、満開の桜も見えない。


 その時、窓の外からピンクの花びらが飛んできた。


 あれ?もしかして桜?今は秋なのに?


 そう思って視線を窓の外に向けると、次の瞬間、少しカールした金髪を持つ女の子が屋根から飛び降りた。

 なぜか、僕の思考も呼吸もすぐ止まった。

「あなたは新人の学生なの?」

 春風のような女の子は僕の前に降りた。

「学生?」


 この言葉の意味が分からない。


「ここは鳥居私塾だよ~みんなが新しい知識を学ぶところ。先生はいろいろなことを教えてくれるの。」

 女の子は愛らしく笑った。


 じゃ、僕に何ができるのか、先生は知っているのか?

 そう聞こうとすると、ピンクの髪の和服を着た少女が突然屋根に出現し、さっきの女の子に言った。


「あなたのお兄さんが来たよ!」

「もう気づかれてしまったの!?」


 女の子は突然緊張した表情になった。


「お先に失礼するわ!またね!」


春風のような女の子は、風のように去った。


Ⅳ 鳥居私塾

どら焼き、どうしてここに?」

 屋外から淡々とした男の声が聞こえてきた。


「さん……」


どら焼きの声ははっきり聞こえなかった。彼は妹と鬼ごっこをしていたのだろうということくらいしか分からなかった。


「今の子供たちは本当に元気だな!」

 すき焼きの声も聞こえてきた。

「君は刺身?」

「にゃ~」

 クールな声は猫の鳴き声を伴うと、意外に優しいイメージを与える。

「はい。」


 僕はその青い羽織を着ている青年に視線を向けた。猫を抱いている彼は刀を持っている。

 変わった人だな。

 その時、僕は本当にそう思った。


「はじめまして、僕はさんまの塩焼き。」

 簡単な自己紹介だ。女の子に先生と呼ばれていた食霊だよね~


 僕は思わず期待した。

 先生はどんな質問をしてくるだろう?


 しかし、現実は想像と違い、先生はまじめに綺麗な言葉を並べることをしなかった。

 彼はただ猫を撫でながらこう聞いた。


「あなたはどんな存在になりたいのか?」


 僕の心が突然震えた。この言葉は何度も心の中で響いた。

 答えはただ一つだ。


「大事な人の笑顔を守りたい。」

「うん。」


 さんまの塩焼きは無表情の顔で僕を見つめ、すき焼きは部屋に入った後からずっと扇子を扇ぎながら黙っていた。


「ここでは剣で大事なものを守る方法を学べる。同時に貴重なものを優しく扱う方法も学べる。」

 さんまの塩焼きはそう言いながら、猫を抱いて立ち上がった。その時、ドアの外から他の猫の鳴き声が聞こえてきた。

「ここは、そういうところだ。」

 彼の声が少し大きくなった。

「はい!」

 ちょっとびっくりした僕はすぐに答える。

「ここはいつでもあなたを歓迎する。」


 それだけ言い残し、さんまの塩焼きは飛んできた猫たちと一緒に去った。


「ここはどう?」

 すき焼きは僕のそばに来てそう聞いた。

「うん、とっても素敵な場所だね!」

 僕は笑って答えた。

(無口で変わった先生だけど、意外と尊敬される存在なのかも~)その後、僕たちはそこから帰った。


 次にそこへ来たのは、桜が丁度満開のころだった。

 正面から吹く春風が、花の香りを送ってきた。


Ⅴ 刺身

 刺身の最初の記憶では、 海と二人だけしかいなかった。

 一人は彼をこの世界に召喚した漁師で、もう一人は互いに頼り合って生きる姉の寿司だ。


 刺身にとって、漁師は父親のような存在だ。

 彼は刺身に船の操縦方法、網を散いて魚を取る方法、自分が知っている魚料理の作り方を教えた。


 しかし、この父親のような人は、数年後のある日、出航したきり、帰らぬ人となった。


 刺身寿司はそこで待ち続けることはせず、自ら漁師の行方を探すことにした。

 彼らはずっと放浪者のように各地を回り、いろんな国に行った。

最後に彼らは、美しい海岸を持つ小さな島に辿り着いた。


 彼らはその村でいろんな人と出会った。

 優しい村人は帰る場所が無い二人を見ると、時々家まで招く。


 刺身も漁師たちの手伝いをする。たまに魚で得意料理を作ってあげる。

 軽い貨物の搬送も手伝う。刺身も漁獲に参加する。

 おかげで初めて自分の努力で漁師から報酬として一四の魚をもらった。


 刺身は時々魚を抱いて街道を回る。

 誰かが困ったら、彼は助けに行く。

 彼は報酬を重視しない。ただ人々の笑顔が好きだから。


 こういう時、彼も幸せな笑顔を見せる。

 笑顔さえあれば、すべてはなんとかなるから。


 しかし、生活はこれで安定したわけではない。

 刺身はその可愛い顔と優しい性格のために、時々近所の子供にいじめられる。

 その時、姉の寿司はいつも彼を守る。寿司の傷はほとんどがこのようにして負ったものだ。


 その時に刺身ができるのは、ただ笑って姉に「大丈夫」と言うことだ。

 そうすると、いつも強くて厳しい姉が珍しく笑ってくれるから。


しばらくすると、ある夫婦が刺身寿司の目の前に現れた。彼らもこの前の漁師と同じ、漁業で生計を立てている。

 夫婦には自分の子供がいない。

 刺身寿司を見た時、彼らは満面の微笑で自分の子供のように可愛がってあげようと言った。


 刺身はとても嬉しかった。

 たぶん漁師のような彼らの職業と、生活環境の影響が錯覚を与えたからだろう。

 刺身には、夫婦の声さえも優しく聞こえる。


 その時、刺身の世界もまた優しいものになった。

 あの夫婦は彼に優しかった。

 彼らは一緒に出航して漁獲に行き、本物の家族のように談笑していた。


 平和な生活がずっと続き、刺身はいつも自分と一緒にいる寿司の存在感が薄くなったことにも気づかなかった。


あの夜、ぐっすり寝ていた刺身は変わった音に目が覚めた。 好奇心に駆られた彼は様子を見に行ったが、夫婦のいつもと違う顔を見た。


 さらに信じられなかったのは、 夫婦が姉にあんな残酷な目つきを向けたとことだ。


 いつも優しく自分の頭を撫でている婦人の手が、寿司の顔を叩いた場面を、刺身は自分の目で見た。

 理由は、いつも無表情な寿司の無口な性格と夫婦が勝手に思い込んだ寿司の敵視だ。


 あの日、刺身は初めて姉寿司の前に立ち、毅然とした態度で姉を守った。

 彼は自分の両手を広げ、何度も守ってくれた姉のために、すべての悪意と傷を防ごうとした。


 これまで守られていたのは自分だとよく分かっていた。

 今回、彼は逃げなかった。そして逃げられなかった。


 刺身の記憶の中で、初めての反抗は姉を守るためだった。

 その日反抗した後、刺身寿司はすぐ夫婦の元から離れ、その漁村を出た。


 彼らはまた目的の無い旅に出た。しかし、どこも帰る場所ではない。


 こんな生活が、彼らが紅葉に隠された小さな屋敷を発見するまで続いたのだ。


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