ゼリー・エピソード
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ゼリーのエピソード
人気のアイドル、甘い歌声と元気な笑顔で沢山の人を魅了する。彼女を見るとどんな嫌なことも忘れられそうだ。
Ⅰ 思い出の手紙
金色の砂浜、青い海と空。
太陽は海を照らし、海面に光が浮かび、涼しい風が正面から吹いてくる。
天気がこんなにいいと気持ちもよくなり、出かければすぐ彼に会えるような気がする。
今日は久しぶりの休みだ。アイドルになってから、こんな穏やかな時間はめったにない。
波の境界線に沿ってゆっくり歩き、波に濡らされた足が砂浜で長い線を描いた。
残したばかりの足跡は、しばらくするとまた波に呑まれる。
突然、足が硬くて冷たい触感に打たれた。
よく見ると、黄色いリボンが結んであるドリフトボトルだ。
透明なドリフトボトルのなかを覗くと、陽光と黄色くなった手紙しかない。
誰が誰に届けるドリフトボトルなのか分からない。私はただ行くべきところに行くよう祈りを捧げた。
ドリフトボトルを海に帰すと、瞬間、太陽に照らされている海が輝いているように見えた。
「何を考えているんですか?」
聞きなれた淡々とした優しい声だ。
本当に会えたんだ、心はそう思っているけど、彼の方を向く時には、私はいつも満面の微笑で挨拶する。
「あはは~今日は会えると思っていたんだ!」
「うむ、今日は休みを取らないのですか?明日からのスケジュールはすでに埋まってます。」
プリンはサングラスを軽く押し、上着のポケットからノートを取り出し、来週の予定を真面目に説明し始めた。
「あの人の手紙は?届いた?」
アイドルとして、イベントは勿論重要だが、これだけはどうしても気になる。
「ない。」
プリンに何度も聞いたが、答えはいつも同じだ。
「そう…か…ずいぶん昔のことだから、彼女はきっともう幸せな生活を手に入れたんだろうね。」
「私もそう思う。」
プリンは微かな微笑を見せる。それは私が一番好きな表情だ。
詳しく説明するなら、数年前に遡らなければならない。
あの時、私は無名の地下アイドルから少女アイドルへとデビューしたばかりだった。幸いみんな私の歌が大好きで、だからすごく嬉しかった。
多忙な日々にも段々慣れてきて、プリンが決めてくれたスケジュールにも慣れた。だってみんなに笑顔を届けることができれば、自分はずっと舞台で歌を歌い続けられると信じていたから。
「疲れました?」
プリンは淹れたばかりのお茶をファンとの面会を終えた私に渡した。
「ううん!全然疲れたりしないわよ!みんなの笑顔を見ると、ゼリーはまた元気いっぱいになった!」
私は笑いながら答えた。
私がこう答える時、プリンはいつも顔をしかめて無表情の顔を崩す。私にとって、それはサングラスに隠された彼の顔から読める唯一の感情だ。
「私はあなたのマネージャーです。すべての行動はあなたを第一優先に考えて決めます。だから、無理をしないで。」
「うん!大丈夫!みんなの笑顔がゼリーの元気の源だから」
プリンは軽いため息をしてから、持っている大きい袋を開けた。
「ファンからのプレゼントです。」
「うん、いつも通りに孤児院の子どもたちに寄付しよう!ゼリーは今後もっといい歌をたくさん歌って、プレゼントをくれた人たちに感謝する。」
地下アイドルだった頃、私はいつもプリンと一緒に古い街道にある孤児院に行っていた。
私は時々そこに行って子供たちのために歌を歌っていた。今はそれほど頻繁ではないけど、それでもそこの子供たちに何かを届けたいと思う。
プリンはもう何も言わなくなり、袋から緑の封筒を取り出した。
「これだけは孤児院に寄付しなくてもいいと思います。」
その言葉を残し、プリンは部屋を出た。
また自分だけの部屋になった。私はテーブルの上で静かに待っている手紙へ視線を向けた。
Ⅱ 匿名の手紙
封筒の表面はざらざらしている。封筒自体も手作りみたいだ。
封筒の表面に私の名前が書いている。それは歪んで不格好で、子供が書いたものと思われる下手な字だ。
人間から見て、ゼリッチはどのような存在なのか知りたい。
手紙の内容を見たい原因じゃないかな。
私は慎重に封筒を開けて中を見ると、二枚の紙が入ってる。
一枚は普通の黄緑色の便箋で、何も書いてない。
もう一枚はどこからか切り取った紙切れみたい。
知らない住所が書いてある。
これはあの人の住所なのか?
私は自然にそう思った。
最近、時々この手紙を見て呆然とするが、手紙の伝えたい意味はずっと理解できないまま。
「あなたの手紙がほしいんでしょう。」
プリンの声が後ろから聞こえてきて、びっくりした。思考に夢中になって注意してなかっただけか。
「手紙を書いてあげる?ゼリッチが?」
プリンの話をすぐには理解できなかった。
「でもあの人は何も書いてなかったよ。ゼリッチは人間の感情がよく分からない。何を書けばいいかな?」
「あなたにとって、彼女は舞台から見えるファンと同じです。違いますか?」
「はじめ……まして?」
私はすこし分かったような気がした。
「うん!ゼリッチもう分かった!ありがとう、プリン!」
その日の夜、私は初めてペンを手に取った。黄緑色の便せんを長く眺め、アイドルとしてファンと交流する時の言葉をいろいろ考えたけど、ずっと書く決心がつかなかった。
だから、私はその黄緑色の便箋を新しい便箋に変え、こう書いた。
「私はゼリー。お名前を教えて?」
不思議な気持ちだった。このような気持ちを覚えるのは初めてだった。私の期待、彼女は感じることができるかな?
私の手紙を読んだ彼女がどんな反応をとるか、私には全然わからない。
アイドルとしての私は、今までずっと舞台のファンの笑顔を見てきた。
手紙だけの交流だなんて、なんとなく緊張しちゃう。
このような気持ちを抱き、私は手紙をプリンに渡した。
数日後、返信が来た。
手紙によれば、彼女の名前はレイシだ。
レイシは私の歌を聞いた後、すぐ私のファンとなった。
私の歌声は彼女に希望と激励をもたらした。
彼女の人生の中で、それは聞いたことがない幸せな歌だと、彼女は書いた。
たった数行の返事なのに、私は小躍りでもしたいほど嬉しかった。
手紙の書式に従わず、署名もない数行の文字で、メッセージを伝える紙切れだけなのに、気が付くとそれは私の心の中に沁みこんでいた。
不思議な親近感が心と心の距離を縮めた。ほかの人に手紙を送るというのはこれほど人を喜ばせることだと、初めて知った。
私は御侍様が亡くなった後、ほかの人と深く交流する時間もほとんどなくなっていたの。
そして、私は今度はすぐ返信を書き終わり、前回と同じようにプリンに渡した。
「何かいいことでもありましたか?」
「うん!はは……ゼリーに手紙を送ってきた女の子は、ゼリーの歌が好きなんだって~」
「うん、私も大好きですよ。」
プリンは冷静に言った。
「うむ……」
顔がなぜか熱くなる。私の心から湧いてくる小さな喜びは、いつだって全部目の前にいるこの人のせいなんだな。
Ⅲ 一人しかいない島
レイシとの文通のおかげで、私は新たな期待を持つようになった。
基本的に二日ごとに彼女の手紙が届き、交流する話題もだんだん日常的なものに広がった。
知ったばかりの人なのに、時には古い友達を持ったような気がする。
女の子同士の深夜の会話のように、私はレイシと互いの気持ちを分かち合う。
私は時々レイシにプリンの文句を言う。プリンはいつもスケジュールを理由にし、孤児院に子供を見に行くのはダメ、以前のようにファンたちのアンコールに応えるのはダメなどと言っている。
しかしレイシはプリンが頼りになる人で、可愛くて不器用な部分があると言っている。
プリンは頼りになるのは私もよくわかっている。しかし、不器用という言葉は彼と無縁だと思う。
プリンと出会ってから今のように私のマネージャを務めるまで、プリンができないことを見たことがない。いつもきちんと生活を管理している。
強いて言えば、あまり笑わないことぐらいかな。
私はレイシに出会ったことがない。だからこそ、このようなよく知らない者である彼女と交流する時、普段言えないことを言えるようになる。
たぶんレイシの場合も同じだろう。だからいつも彼女のことを私に教えてくれる。
例えば、初めての友達であるヨーエとの出会い、その後ヨーエが突然いなくなったこと、数年後「ヨーエ」と再会したことなど。
何かを覚えておくみたいに、ヨーエに関してレイシはいつも非常に詳しく説明する。
冷静で理性的なプリンと違い、「ヨーエ」はうるさくて優しいおっちょこちょいだ。
これはレイシが描いたヨーエのイメージだ。
レイシはヨーエのことが好きなんだろうな。
その気持ち、私にも分かるよ。
だって彼女がいつも幸せそうにヨーエのことを話すから。
「どうしてくすくす笑っているんです?」
プリンの声はいつも淡々としている。
「クスクスなんかしてないわよ!えへへ~」
気のせいか、プリンの顔からかすかな微笑が見えたような気がする。
「呆然としてないで、早く準備しなさい。そろそろ出発の時間です」
「はい!」
私はすぐ立ち上がり、そして思わず笑い出した。
その日、レイシの最後の手紙が届いた。
「一緒に笑えるのは非常に幸せなことだと、あなたは言っていた。
だから私は想像してみたの。
もしできれば、私は遠方の小さい島に行きたい。
国も街もなく、堕神も戦争もない小さな島に行きたい。
そこには騒ぎや悩みもない。
だから頭の中でずっとあなたの歌声を再生できる。
後は島で私に残っている過去の記憶を大事にするだけ。
そうすれば、きっとあなたが言った微笑ができるようになるのよね。」
彼女はこう書いた。
また私に理解できない言葉。
Ⅳ 歌い上げられる未来
「ねえプリン、レイシが行きたい島ってどこにあると思う?」
私は頬杖をついて、スケジュールを作っているプリンに聞いた。
「おそらく遠いところでしょうね。」
「じゃ一体どこ?プリンはわかる?ゼリッチは知りたい。ゼリッチに教えてくれない?」
「この話はまたあとで。今はよく休みましょう。後でマスコミに対応しなければならないので。」
プリンは手帳を閉じ、立ち上がって部屋を出た。
「うう……」
プリンってば、答えたくない質問には、いつも言い訳を作って話題を変えるんだから。
「後悔したくないなら、彼女に来てもらって、歌を聞かせるんです。彼女にとって、君の歌声は一番のプレゼントかもしれません」
「うん。」
また突然振り返ったプリンに驚き、無意識に答える。
「後……後悔?ゼリッチのこと言ってるの?」
その日の夜は、なぜかいつもより長い気がした。
私は引出しに保管していた黄緑色の便箋を取り出した。時間が経ったせいか、紙には黄色い点ができている。
もうこんなに長い時間が経ったの?
私が食霊だからか、時間が経つことに特に思いもない。
「ゼリッチも堕神なんていない、平和で幸せな世界を見てみたい。
あなたが言う島はどこにあるのかしら。
私のコンサートに来てもらえないかしら?
みんなのために描く美しい未来を、あなたにも見せたいの。」
私は未来への期待を手紙に込め、言葉を紡いだ。
私は便箋とコンサートのチケットを封筒に入れ、いつも通りプリンに渡した。
しかし、レイシは返信してくれなかった。
三日間はあっという間に過ぎた。
にぎやかな舞台の前に、たくさんのファンが集まっている。
私は幕の後ろからこっそりと外を覗いたが、その時初めてあることに気づいた。私はレイシの顔を知らない。
でも想像したことがある。レイシはきっと明るく笑っていて、かわいい女の子だ。
しかし想像だけでは彼女を見つけられない。
観客席の方は徐々に暗くなり、みんなの顔もはっきり見えなくなった。
一方舞台は明るくなり、そこは私の世界だ。
いつもと同じコンサートが始まった。だけど今日は、いつもと違う感情に包まれていた。
「みんな元気ー?私はみんなのゼリッチだよ!今日もゼリッチの甘くて柔らかい歌声でみんなの笑顔を守るよ!」
舞台の前のファンは歓喜の声を上げ、音楽が流れ始めた。
(レイシ、聞こえる?
ゼリーが伝えたい未来は、みんなが一緒に歌を笑えるところだよ。
だから、一人でそんなに寂しい小さな島になんか行かないで
みんなでこの世界で幸せに生きていこう)
真っ暗の舞台の下に、ただ黄と緑のライトがリズムに合わせて揺れていて、まるで星の光に照らされている海のよう。
その瞬間、なぜか遠い記憶を思い出した。
夜空に浮く月は静かな林を照らしている。
痩せている二人、風が葉を吹く時立てる「シャシャ」という音、そしてよく知っている歌声。
あれ?それはゼリッチの歌声?
コンサートは無事に終了した。
最後までレイシに会えなかった。
でも、私の目は涙で溢れていた。
これは感動したからか、嬉しいからか、それとも、後悔からか――
Ⅴ ゼリー
女の子は先ほどまでの緊張した顔と違う、柔らかな笑顔を見せる。その瞬間、空の星が彼女の青い瞳に浮かんでいるように見えた。
女の子は男の子の手を取り、彼を慰めるように言った。
「ヨーエ、ほら天使に会えるって、わたし、言ったよね。」
男の子は頷き、恥ずかしそうに笑った。
「私ね、あなたの声が、聞こえるよ!私、あなたの歌声も、聞こえるよ!」
女の子は突然興奮して、柔らかい声もややかすれるようになってきた。
「これって、天使の魔法なの?だったらヨーエにも声を出させることができる?」
ゼリーはぽかんとした。
「え……そ、そんなことゼリッチにはできないよ。ゼリッチは、天使なんかじゃないもの」
女の子の目の光がすぐ消えた。
「神様が忙しすぎて、私達のお願いを聞いてくれる時間がないって修道女さんが言ってた。
代わりに、神は天使を派遣して私達を救ってくれるって教えてくれたの。だから私ずっと待ってるの。声がはっきり聞こえるまでずっとずっと待ってる……。」
「そんなこと、ゼリッチにはできないよ。無理だよ。」
私の回答を聞いた女の子は悲しそうに俯いたが、すぐに顔を上げて再び私に聞いた。
「私が願いすぎたせいなの?じゃあ、私ははっきり聞えなくてもいい。ヨーエだけに話せるようにしてほしい。これでいい?」
「ごめんね、ゼリッチには無理だよ。」
ゼリーは慌てて言った。
「救いって何なのかよく分からないけど、ゼリッチにできるのは、歌を歌うことだけ。
でも、明日になれば、すべては過去のこと。
涙も苦しみも、すべては今夜、星になっちゃう。だから、大丈夫。悲しまないで。笑っていきていこう!」
女の子はゼリーを見つめ、今にも泣き出しそうだった顔がちょっと明るくなった。
「あ!そうだ!ゼリーが歌を歌ってあげよう!そうすれば天使が来るかもしれないよ!」
ゼリーは笑顔で言った。
深呼吸。彼女たちに幸福が訪れますように。
ゼリーの歌声が響き渡る。草木の葉などが風でそよぎ、清らかで悠長な歌声が響いていた。
「ヨーエ、これ、やっぱり天使の魔法だよね。」
女の子は月光に照らされながら歌っているゼリーを見つめる。
ゼリーの髪は風に舞い上がって輝いている。
男の子は女の子と肩を並べて座り、黙って頷いた。
二人の子供はもう一度視線をゼリーに向けた時、ゼリーの後ろにかすかな輝きが出現し、そしてゆっくりと散って消える。
月がゼリーに魔法をかけたように見えた。
まるで広がる翼のようだ。
ゼリーにできることは少ない。けれど今この瞬間に誰かを笑顔にできるなら、ずっと歌い続けよう。
これしかできないけれど、これしかできないからこそ、すべてをこの歌声に乗せて。
「ゼリッチの歌声で、これからもみんなを守るよ!」
ずっとずっと……生きている限り。
私は、歌うことをやめない……。
ゼリーは強くそう思ったのだった。
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