サンドイッチ・エピソード
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サンドイッチのエピソード
ポーカーゲームが大好きで、いつどこでもポー
カーが出来るようにカードを肌身離さず持ち歩
いている。
ポーカーに夢中になりすぎて他のことはどうで
もいいらしい。
Ⅰ 運命の夜
真っ黒な夜空、真っ黒な雲。
稲妻は時々雲の隙間から光を放出し、まるで町の隅に位置するこの別荘を押し潰そうとしているのだ。
真っ黒で何も見えない部屋だったが、
突然、落雷が別荘の窓口を叩き、さっきまで暗い窓口を照らした。
その瞬間、俺はあの窓の下に寄りかかる痩せた人を見た。
「あの……」
俺は聞いてみた。
「御侍様?」
その人は大きく震えたあと、しきりに震え続け、どうやら泣いているようだ。
「御侍様、俺、サンドイッチだよ。」
御侍様の他人を近づけさせないオーラを感じ、俺はただ離れた場所に立って言った。
なかなか返事がないので仕方なく、俺はたんすに座ってトランプをし始めた。
遠方の稲妻が再び空を切り開く。一瞬の光だが、目の前の御侍様をはっきり見るには十分だった。
人形のようなかわいい顔と貴族風の淡い金色のカールした髪、レースがいっぱいのワンピースを身に纏う姿、さらに周りの内装を見ると、御侍様が貴族であるという事実が簡単に分かる。
御侍様は伯爵の娘だ。ただ、彼女の父親は賭博に夢中な伯爵だ。
賭博に二十四時間を使う彼は、ギャンブラー伯爵という別名をつけられた。
当時の貴族は莫大な権力を持ち、王座はただの飾りだった。
すべての貴族は娯楽に溺れ、賭博は単なる時間の潰し方の一つに過ぎず、特に何の価値もなかった。
ただ、俺にはよく分からない。
生活が豊かであるお嬢様は、なぜこのような雨の夜に一人で泣くのか?
御侍様は高価なワンピースの袖で涙を拭き、何事もなかったように立ち上がった。
目がまだ赤いままだったが、何事もなかったかのように必死に無理をしていた。
表情と心が一致しない御侍様を見て、俺はついに笑った。
意地になったのかもしれない。御侍様は背中を私に向け、椅子に座って黙り込んだ。
良く考えてみると、御侍様はまだ十二歳の女の子だ。
最初、俺は彼女が天真爛漫、大人のことなど分からない子供だと思っていた。
食霊である俺は毎日夢のようなお喋りに付き合い、あるいはトランプの手品を披露して喜ばせるだけで十分だと思っていた。
しかし……
「サンドイッチのギャンブルはすごいでしょ?」
俺の思考は御侍様の声に中断された。
「自慢じゃないけど、ギャンブルでまだ負けたことがない」
俺は自分の胸を叩き、自信満々に御侍様にひけらかした。
稲妻は黒い空を切り開いた。
激しい音で耳がやられそうなほどの雷鳴のせいで、笑っている御侍様の言葉は俺の錯覚のような気がした。
「それじゃ…父のすべてを奪ってもらえない?」
そう、すべてはあの夜から始まった。
Ⅱ 妄言
ここは広いカジノで、伯爵が自分のためにわざわざ建てた地下室だ。
御侍様に連れられて俺はここに来た。
ギャンブラー伯爵はいつも通りお気に入りのテーブルに着いており、目の前の金貨を無駄遣いしている。
周りの人々はみんな笑っている。
なぜか、彼らの笑顔はだんだん歪んでいくように見える。
「神の祝福があらんことを」
御侍様は言い終わると、いつも通り伯爵が好きな食べ物を持って静かに下がった。
伯爵が取りやすいように、彼女は食べ物を盛る皿を伯爵の右手の隣に置いた。
しかし、伯爵は一目も御侍様を見なかった。
どうやら御侍様はもうこういう扱いに慣れているのだ。彼女は何も言わずにその場を去った。
しかし、俺には分かる。パンで野菜と肉を挟むこの料理は、裕福な生活をしている御侍様が作れる唯一の料理だ。
俺がここに居られるのも、御侍様のおかげだ。
俺はただ場内を見ながら、手すりに座って大好きなトランプマジックをしている。
俺に気付く者はいない。
賭博に夢中になった伯爵が、ようやくテーブルから御侍様が心を込めて作った食べ物に手を伸ばしたとき、心底不満だったせいか、俺の体は思考よりも早く行動に移った。
俺が投げたスペードAは一直線を描き、テーブルの隙間に入った。
カードと伯爵の手との距離は、ほんの少ししかなかった。
気づくと、場内のすべての人が伯爵を挑発する無礼な俺を見ている。
ちょっと意外な展開になった。
しかし、今の状況では引けない。
俺は手すりに沿って滑り、伯爵の前に跳んだ。
伯爵は意味深な笑顔を見せているが、俺から見れば、それはただの悪意の塊だ。
駆けつけた兵士たちに囲まれたが、俺は精一杯朗らかな笑顔を作った。
招かざる客である俺を抹殺せよと兵士に命令する代わりに、伯爵は興味深い表情で俺に聞いた。
「お前は一人でここに押し入り、わざわざ命を捨てに来たんじゃないのだろう?」
Ⅲ 新たなギャンブル
自分が食霊であることを伯爵に見抜かれたかどうかは分からない。
だが、ここから出ようと思えば、誰にも捕まらない自信がある。
俺は遠慮せずにテーブルの前に座り、スペードAを取り出して横にし、手でトランプを伯爵の前に差し出して挑戦状を出した。
「勝負しよう、伯爵さま」
伯爵は何か笑い話でも聞いたかのように大声で笑い、周りの人たちも一緒に笑い始めた。
「こんな冗談久しぶりだ」
伯爵は鼻で笑った。
「じゃ、お前は何を賭けるのだ?」
伯爵はもう一度俺を見ると、再び笑い始めた。
悪意に溢れた伯爵の中傷を気にせず、俺はテーブルの上のトランプを手に取った。
私はテキパキとシャッフルを終え、一枚のカードを取り出してテーブルの真ん中に置いてから、順番にカードを配り始めた。
ギャンブルだけは誰にも負けない自信がある。
「伯爵さま、あなたの前に置いてあるトランプをチェックしてください。今私が持っているこのカードは、さっきあなたに配ったカードの中にはない」
俺はそう言いながらテーブル中央のカードをオープンした。
伯爵は全く気にかけない態度でカードをオープンしたが、顔は上げたままで、ただ少しだけ下をちらっと見た。
カードを見た瞬間、伯爵は驚いて前方に傾き、目を大きくしてカードを眺めた。
なぜか、この表情を見た時、思わず嬉しくなった。
きっと今の伯爵が大馬鹿のように見えるからだろう。
まさか俺の言った通りになるとは思わなかったのだろうが、伯爵はできるだけ短時間で自分を落ち着かせ、目の前の俺をより露骨に嘲笑った。
「それがどうした?この一文無しの貧乏め。」
「もっと多い権力と土地がほしいのだろう〜」
「………」
「ならば、もし私が負けたら、私がギャンブルであなたが望む権力と土地を取ってあげます。私が勝ったら、あなたはすべての権力と土地を譲渡してください」
「それでは平等な賭博ではないな」
「私の実力を疑っているのですか?」
「ははは、そうではない。私は面倒が苦手なんだ」
話がここまで及ぶと、ずっと固まっていた兵士たちが突然俺に迫ってきた。
「今のお前には二つの選択肢しかない。一つは私の下僕になる、もう一つは大人しく死ぬ」
この男は何も分かっていない。
俺が食霊であること、彼に対する御侍様の感情、彼にとって最も大事なものは何か。
ここまで哀れな気持ちを抱いたのは、これが初めてだ。
俺は逃亡も反抗もしたくない。
俺はただいつも通りの笑顔を見せ、相手の言うことを聞くことにした。
「それじゃ、新たなギャンブルを始めましょう!」
Ⅳ 堕念
この国のもう片方の土地に、城のような別荘がある。
そこは莫大な権力を握る大公爵の領地だ。
この高貴な大公爵は突然名門の貴族をたくさん招き、別荘で宴会を開いた。
大公爵が自ら宴会を開くなど滅多にないことだから、たくさんの貴族が宴会に来た。
今の貴族社交界で名高いギャンブラー伯爵も、大公爵の盛大な宴会に招待された。
同時に、俺はウェーターに扮して宴会に潜入した。
夜が深まり、今は宴会終了後の秘密時間だ。
ここは大公爵がギャンブラー伯爵のために、わざわざ用意した場所だ。
さっきまで城のように光り輝いていた別荘は仮装を外し、闇に包まれた。
周りの枯れた枝に止まっているカラスが、橙の光を放つたった一つの窓を睨んでいる。
カラスの目は光に照らされ、血のような光が浮かんでいる。
窓の向こう側には大きなカジノテーブルがある。
俺はテーブルの中央部に立ち、伯爵と大公爵は対面で座っている。
片方は優雅な動きでパイプを咥えて相手を見て笑っている。
もう片方もちっとも引かずに、両手をテーブルの上に置き、左手の人差し指でテーブルを叩きながら傲慢な笑い声をあげている。
二人とも黙っている。
俺はいつも通りシャッフルしてカードを配ってから、カードを静かに置き、ギャンブルの開始を待つ。
「一発勝負です。さあ伯爵さま、公爵さま、始めましょう」
「せっかく公爵さまとギャンブルができるのだから、ここは面白いやり方を取ったらどうでしょう?」
「おや?伯爵さまは何かご提案でも?」
「賭けるものが多いほど面白くなると思います。そうでしょう?」
「それで?」
大公爵は自分から明言したくないようだ。
「公爵さまには及ばないが、私の全財産を賭けて、公爵さまのこの別荘と近くに位置する土地とを交換させていただきたいのです。」
ギャンブラー伯爵はこう言った。
ギャンブラー伯爵が欲しいのはどれほど貴重なものなのか知らないが、正直「全財産」という言葉に驚いた。
相手により多くものを賭けさせるのは、ギャンブラー伯爵の慣用手段だと分かっているが、ギャンブラー伯爵が一か八かのギャンブルを提案するとは思わなかった。
たぶん俺に影響され、過度な自信を身につけたからだろう。
大公爵は予想通りの表情を見せた。
「ギャンブラー伯爵のご高名はかねがね。さすがに並大抵ではない気概です。ならば、町の西部に位置する大きい牧場を追加します。どうでしょう?」
「公爵さまがそう仰るなら…」
自分の策が効いたと思ったギャンブラー伯爵は、あえて躊躇する様子を見せてから、公爵の提案を受け入れた。
時間がゆっくりと経った。
最初は自信満々だった伯爵も、だんだんと顔面蒼白になってきた。
俺は結果を知っている。
突然、窓の外からカラスの鳴き声が伝わってきて、長く続いた静寂を切り開いた。
ギャンブラー伯爵は反射的に手を差し伸べ、いつも大好きな食べ物を取ろうとした。
しかしテーブルの上には何もない。彼ももうすぐすべてを失ってしまう。
俺も退場しよう。
伯爵さま、あなたは負けた。公爵にも、そして俺にも。
Ⅴ サンドイッチ
サンドイッチは彼の御侍様と一緒ににぎわう街道を歩いている。
街中の人々はみんな笑っていて、まるで何事もなかったかのようだ。
この国の貴族政権は二年前に崩壊し、国民は今自由自在に生活している。
ある者は日傘の下で午後のお茶をのんびりと楽しむ。
ある者は友達や恋人と一緒に映画館や劇場に行って時間を潰す。
数年前のギャンブラー伯爵の話をまだ覚えている人などほとんどいない。
ギャンブラー伯爵の物語は、だんだん食事後の逸話になってきている。
ギャンブラー伯爵の作ったすべてを破壊した者は誰にも知られていない。時間が経つとともに、伯爵の存在自体曖昧になってきた。
「美しいお嬢様、ぼくはポップコーン、ぼくと一緒に愛の冒険をしてみない?」
知らない声が彼らの足を止めた。
「冒険に行きたいなら自分で行けよ!」
サンドイッチはすぐ御侍様の前に立って反論した。
「え?お嬢様一人じゃないのか?まったく気づかなかった」
「喋る前に、石段から降りたらどうだ?」
サンドイッチとポップコーンはにらみ合い、どちらも引く気配はない。
「はい、これぐらいにしておきましょう。そろそろ営業時間よ」
睨み合ったまま譲らない二人を見て、御侍様はこう言った。
「ポップコーン?ねえ~」
御侍様は穏やかで優しい笑顔を見せた。
「誘ってくれてありがとう。でもお断りさせてもらうわ。時間があったら、ぜひうちのお店に来てね~」
街中はどこも人で一杯だが、ある目立たない場所に、長い行列ができている。
ここはSandwichという店で、数年前この街にできた飲食店だ。
華麗な内装などはないが、お客さんの往来は絶えない。
あの店はさまざまなパンと食べ物を提供する。最も特徴的なのは、食べ物をパンで挟む食べ方だ。
既存の組み合わせだけでなく、お客さんは好きなように自由に組み合わせることもできる。これも一つの売りだ。
おいしくて食べやすい料理を提供し、さらにおもしろい食べ方を開発したこの店は、人気が増える一方だ。
店のオーナーはまだ未成年の女の子。
彼女は人形のようなかわいい顔と微かにカールした浅金色の頭髪を持つ。
オーナーは非常に客好きで、いつもお客さんにコーヒーを淹れる。
美しい女の子とおしゃべりをするため、この店で愉快な午後を過ごすお客さんも多い。
店の常連なら、みな知っている。
たまにきちんとした身だしなみをした老紳士が店に現れる。低価格イメージの店は、彼の上品な衣装に合わない。
老紳士はいつも一杯のコーヒーをオーダーし、隣の席を選んで店内の料理を食べ、黙って午後を過ごす。
老紳士がなぜこのようなところにきたかを聞く者は一人もいない。みんな貴族の特別な暇つぶしだと思っている。
もちろん、この店にはもう一つ、話題性が高いことがある。
食事の時間になると、店の外にいつも長い列が作られる。
そこで、朗らかな金髪少年が突然現れて質問をする。
「運と頭脳のギャンブル、僕とどうですか?」
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