プリン・エピソード
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プリンのエピソード
やや堅物傾向、何事も整然と整えたがる。ゼリーのことをとても気にかけているが、その他の人には冷たい。常にゼリーのそばにいて、彼女に尽くしている。
Ⅰ 木漏日の街
賑やかな商店街から離れた、物寂しい古い街道。壁は色が斑になってぼろりと剥げ落ち、改築されたことなどありはしない。
しかし、ここには木がふんだんにあった。陽光が葉の隙間から通ってところどころに影を作るのは、恐らくこの街独特の景色だ。
一筋の陽光が葉の隙間と透明なガラスを部屋に差し込み、テーブルを照らしている。
私はいつも通りレストランの木造テーブルの前に立ち、真っ白な布でテーブルの上のガラスコップを持ち上げてきれいになるまで拭いた後、またそれを置き戻した。
太陽の光に照らされて美しい七色の光を放出しているそれは、陽光の色彩を透かしているが故だ。
まだ営業時間では無いが、ここは私の住んでいる孤児院まで近いので、私はいつも一番に来ては営業前に準備をしていた。
私は綺麗な環境と規則正しい生活が好きだ。
修道女である御侍様と一緒に過ごした修道院生活の影響だとは思うが、別段これを嫌ってはいない。
御侍様は既に数年前にお亡くなりになられているが、御侍様が遺されたこの孤児院を見守るため、私は報酬の高いこのアルバイトを選んだのだ。
そんな仕事であるが、一番に来るのも私だが、一番遅く帰るのもまた私である。
報酬が時給制だから、という訳では無い。
本当の理由は、ある深夜に近くのどこかからか聴こえてきた歌声。何故かあの歌声は、私の中に浸透した気がする。
ある時はその歌声の源を探してみたこともあったが、結局見つからなかった。
もう今はただ、歌声が夜と共に現れるのを期待している。そしてそれが聞こえたら、歌声が樹木に囲まれるこの街道から消えるまで。
ずっと、静かに聞こう。
Ⅱ 無名の家
いつの間にかここに来ていた。古い街道にある、とある修道院を改築して造った孤児院に。
この名もない古びたところに、御侍様が最も守りたかった人々が住んでいる。
枯れかけた木柵に囲まれているこの建造物はかなり古い。多分、この歴史を知る者はもう居ないだろう。
年を経た木々が孤児院を遮り、灯火もない夜にもなるとより一層寂しさを増す。
しかし…そうだな、ここを休憩する場所としよう。
「プリン…あなた…ドアの前に立って…何をしているの…?」
ふと、小さい体がぼろぼろの木造門をくぐって来た。グレーの髪に青い瞳を持つ彼女の声量は、全力で叫んだところで辛うじて普通の人並みか否か、というレベルである。
それこそ、今夜のような静かな時でなくては彼女の声を聞くことなど決して叶わないだろう。
「戻ったばかりだからね」
私は手話で、彼女に言葉を返した。
少女は警戒したような、まるで怯えたような目で私をちらりと見やり、そしてすぐに頭を下げて目を逸らす。
彼女の趣味ならとっくに知っていた。誰も居ない深夜になると、いつも一人でクスノキの木の下で静かに座るのだ。
あそこは、御侍様が彼女に文字を教えていたところだった。
それに気づいた最初のころ、私は彼女が御侍様のことを懐かしんでそこに居るのかと思っていたが、今はそうとは限らない気がした。
あの子はいつも同じ時間に部屋を出てあの木の下に座りに行く。
その時の彼女は、何かを待っている表情をしていた。
「今日…新しい仲間が来た……」
痩せている肩がほんの少し震えている気がした。
「うん、わかってるよ」
実は今日レストランへバイトをしに行く前に、私は既に修道女たちからその話を聞いていたのだ。
朝早くから食材の準備をしていた修道女たちが、その帰る途中で、捨てられた少年を拾ったのだと。
その少年はあまりにも無口で、どんな質問されても何も答えないのだ、とも。
仕方なく連れ帰ったその少年に、修道女たちは呼びやすくするため名を与えた。―――ヨーエ、と。
「もう、夜も遅い。風邪を引いたらどうする?早く戻って休みなさい」
少し近づきながら手話で伝える。彼女は軽く頷いた後、大人しく建物の中へと戻っていった。その後ろ姿を見つめ、ふと御侍様から聞いた話を思い出す。
彼女はどうやら耳が不自由なせいで孤児院の大門の外に捨てられていたらしい。とは言えまだ僅かながら機能は働いていたし、他者との交流も可能。
だから御侍様は、彼女に文字と手話を教え込んだ。
この孤児院の中で、孤児たちは確かに皆家族を失っている。
しかし、まともな交流ができないのは彼女だけだったからだ。
時間が刻一刻と過ぎていく。彼女の耳の機能も、同時に衰退していっている。はっきりと聞こえる言葉はきっと僅かだ。
絶えず笑みを浮かべていたその顔も御侍様が亡くなってから暗くなり、性格すら内向的になってしまっている。
ああ、この子はきっと、とても繊細なのだろう。
彼女は正常な聴力を失っていくにつれて、言葉や表情から人の真意を推しはかる能力と読唇術を身に付けていった。
時折、この子は付き合い難いなと思う。
彼女の目は疎外感に満ちており、何故かそんな瞳と向き合うと、私のからっぽになった心を見透かされているような気分になった。
随分前から、私は自分が中身がない存在なのではないかと思い始めていた。
いろんなことを学んだ。いろんなことを知った。けれど、本当にやりたいことなど見つかりはしない。
何かに執着する自分がどうにも想像できないのだ。
そして日々退化を繰り返す耳を持った彼女には、世界は一体どんな存在なのだろうか。そんな疑問の答えを想像できないのと、同じように。
Ⅲ 歌う少女
「プ…リン…」
誰かが私の服を軽く引き、おかげで私は止まった時間から戻った。
本当に不思議だ。さっきまで人を探していたが、あの歌声を聞くと、人を探すことなど忘れてしまっていた。
「どうして一人でここまできた?」
いつもと違い、私はやや責める口調で彼女に聞いた。
「一人…じゃないよ。」
彼女はこう答えた。
私はようやくそのとき、彼女の後ろに立つ、同い年くらいの金髪で青い目を持つ男の子に気づいた。
確か、この子は孤児院に来たばかりの子で、名前はヨーエだ。
もう仲良くなったのか。最近はすっかり人見知りになっていたのに。
そう思ったとき、歌声が止まった。
ハッとして振り返ると、そこには緑色のツインテールの少女がいた。
「よかった、あなたたちを迎えにきてくれたんだね!」
少女は笑いながらぴょんぴょん飛び跳ね、私に近づいてくる。
「はじめまして。私はプリンと言います。この子たちが迷惑をかけたようです。すみません」
私は頭を下げて謝った。
「大丈夫だよ。ゼリッチの歌を聞いてくれる人は久しぶりだから、ゼリッチは今超嬉しいよ~」
ゼリーの声は甘くてかわいい。その笑顔も元気いっぱいだ。
「あなたはここに住んでいるのか?」
「うーん一応放浪中だから。『住んでる』とは違うかな?」
「放浪?」
「うん……それも違うね。実はゼリッチ、アイドルになるための訓練を受けてるの~」
その瞬間、ゼリーは躊躇した。
「アイドル?」
ますます理解に苦しむ言葉が出た。
「そう!ゼリッチはアイドルなんだよー、えへへ…」
ゼリーは自分の胸を軽く叩き、自信満々の口調で答えた。まるで自分が言ったことは本当だと証明しているかのように。
「アイドルは、歌でみんなに笑顔を届けられる人なんだよ!ゼリッチの夢は、みんなに笑顔を届ける最高のアイドルになることなんだ!」
ゼリーのかわいい笑顔を見た私は、その瞬間、見えない何かを掴んだ気がした。
月は雲の後ろに隠れ、しばらくすると、また雲間から顔を出す。
「それはなかなか凄いですね。羨ましいです」
私はこう言った。
私にはどうしても手に入れたいものもなく、物事に対して特別な感情も持っていない。
だから、自分の夢のために努力し続ける人が大好きだ。
いや、正確には憧れと言うべきだろう。
そう思った私は、思わず苦笑した。
朝の陽光が木の葉の隙間から差し、一日が始まった。
長年修理していない茶色の壁は日光を受けて亀裂が生じ、中の赤いレンガが見えている。
修道院から孤児院に改造された建物は、ホールと廊下にたくさんの神像が設置されており、窓にも神を描いたステンドグラスがはめてある。
部屋で寝る時間以外、子供たちはほとんどホールで毎日を過ごす。
今日のような天気がいい日には、子供たちは孤児院周辺の芝生へ遊びに行く。
私は静かに目の前のすべてを眺めている。すべては御侍様が望んだとおりだ。
あの内気な子は今日もクスノキの下に座っている。
今日はいつもと違い、クスノキの下には、木の幹の後ろに隠れてもう一人いる。
あの時、私は深く考える余裕はなかった。
ただ誰かが彼女のそばにいさえすれば、彼女の世界もより美しくなるだろうと思った。
子供たちの朝祈祷と食事の準備をした後、私はレストランへバイトをしに行った。
昼食と夕食の食材は、バイトに行く前に準備しておく。料理を作り、分配するのは修道女と大きい子供に任せる。
こんな平和な生活がずっと続いてきた。
ある日の深夜、あの痩せた子は珍しく私の視界に入らなかった。
今夜の月光は実に美しい。満月の光は大地を照らし、世界も表情をやわらげたように思う。
なぜか不安を感じた私は子供の部屋に行って確認した。
予想通り、不安は事実となった。
狭い四人部屋の中で、他の子供はぐっすり寝ており、彼女のベッドだけが空いている。
私の記憶では、その子は非情に無口な性格だ。
騒ぎを起こさないようにするため、私は一人で外へ探しに行った。
今のもう深夜だ。。もともと人の往来が少ない街道がさらに静かになった。
孤児院を出てから、彼女がいそうな場所を順番に確認してきた。
こうして、私はバイト先のレストランの近くまでついた。
この時、私は聞き覚えのある声を耳にした。
甘くて優しい歌声は、香りを運んでくる微風のようで、可愛らしいヒナギクのようだ。
この歌声は、なぜかすごく近い場所から聴こえる気がする。
後ろに一歩下がって向きを変えれば、声の主に会える気がした。
私にはよく知っている。今響いている歌声は、私がずっと探していたあの声だ。
何かに導かれたかのように、私は樹木に隠れた小道に入る。
空の大半を遮られた街道に立つ。今でなければ、ここの空き地を見つけられなかっただろう。
ここも高い樹木に囲まれているが、雲が月を遮っていなければ、枝と葉の隙間から月が見える。
月は葉の隙間から差し込み、その光は歌っている女の子を照らしている。
緑の髪は月に照らされながら風に揺れ、女の子は目を閉じているが、それでも明るい笑顔が見える。
その一瞬、私は思考できなくなり、周りの時間が本当に止まったかと感じた。
これが私が初めてゼリーと出会った夜だ。
Ⅳ 最初の願望
ちょうどその時、月は雲の後ろから顔を出し、私がわずかに見せた苦笑は、猫のように動く少女の瞳に映った。
「プリン、あなたはやりたいことないの?」
「ありません」
私の口調は自分でも恐いくらい冷静だ。
「じゃ、まずやりたいことを見つけるのを今の夢に決めたらいいんじゃないかなー?」
ゼリーは私の冷たい口調に影響されることなく、元気いっぱいに私に言った。
「やりたいことがまだ見つからなくても、別に悪いことじゃないよ。逆に考えれば、何でも試せるって可能性があるから!それはそれで素敵じゃない?」
その言葉に、私はまるで生まれ変わったかのような気持ちになった。何も変わっていないのに、心の奥に潜んでいる暗闇が目の前の少女によって一掃された。
原因は、わかっている。きっと彼女の歌声が、今までずっと楽しみにしていた声と同じだからなのだろう。
彼女が語った言葉だからこそ、私の心に響いた。
「レイシ、ヨーエ、帰ろう。」
私は、彼らの方へと振り返る。その瞬間、私はこのまま帰りたくないという衝動にかられた。
こんなことは初めてで、困惑してしまう。自分で自分を制御できない…こんなことがあるのか。
私はその後、とても不思議な行動に出た。なぜその時そうしようと思ったのかは分からない。
「そうだ、もしよかったら、私達と一緒に帰りませんか?少しの間、休む場所くらいは提供できると思います」
私は、とても自然にゼリーにそう聞いた。言い切った後になって、私は自分で自分に驚いてしまう。
普段の私なら、決してそんな行動にはでないはずなのに。
そんな自分に、私はおそらく初めて自分にあきれてしまった。
表情を変えずに、内心はわけがわからず思考停止状態。
そんな私に、ゼリーは言った。
「本当にいいの!?ありがとう、プリン!その提案、とっても素敵だわ!よろしくね、みんな!」
あの瞬間に見た、彼女の笑顔を私は一生忘れない。
今思い返しても断言できる。
あの瞬間に、私は変わったのだ。
彼女の歌声とその笑顔を守る――その夢は、今も変わらない。
これからも私はずっと、尊敬するゼリーに尽くすだろう。
Ⅴ プリン
「え? ゼリッチ、もう行っちゃうの?」
「行かないで、ううう… …」
「そうよ、まだ来たばかりなのに!」
今日はゼリーが孤児院に来てから六日目の朝だ。
たった数日だが、ゼリーはすでに孤児院の子供たちのアイドルだ。
彼女はあっという間にみんなの心を捕らえてしまった。
子供たちはみんなゼリーのことが大好きだ。ゼリーがまもなく離れると聞くと、全員で彼女を取り囲み、出発を止めようとしている。
「ゼリッチは絶対またここに来て、みんなに歌を披露するから。ただ、今はやらないといけないことがあるの!」
ゼリーは笑って答えた。
「大事なこと?」
子供たちは首を傾けて聞いた。
「そう、ゼリッチはもっともーっと!素敵なアイドルになるんだよ!」
「わあ!それってとってもすごいね!」
その話をきいて子供たちは湧き上がる。
彼らは将来、立派な料理御侍になって独り立ちしたいと常々話していた。
なにものにもとらわれず、皆の役に立てる料理御侍は、彼らのあこがれの存在であった。
ゼリーが孤児院を去ることにしたあの日のことを、プリンは今でもはっきりと覚えている。
あの日、プリンはゼリーと共に孤児院を離れることにしたからだ。
プリンを止める子供はほとんどいない。プリンはまるで舞台の観客のように、ゼリーとゼリーを取り囲む子供たちを見ていた。
そんな中、急にプリンは服の袖を引っ張られた。驚いて振り返ると、それは、レイシだった。
「プリンも行くの?」
「ええ、今日中にここから離れます。」
「そう…寂しいね」
「夜の外出はやめましょう。私はもう探しに行けません」
「うん、ヨーエが付いているから、大丈夫だよ。」
「ならいいでしょう。でもあまり遅い時間までは駄目です。外は危険ですから」
そこで、レイシがにっこりと笑った。
「プリン…やりたいこと、やっと見つかったんだね。」
このやり取りは、手話で行われた。
プリンはいつもレイシとはそうして交流していた。
レイシの後ろに立っているヨーエは、それをただ静かに見ていた。
「ヨーエ、レイシをよろしく。私の代わりに、レイシの傍にいてあげて」
ヨーエは大きくうなずういた。
そんな彼を見て、私は昨日の夜のことを思い出していた。
修道院は、いつも通り消灯時間を迎えた。
建物の光はほとんど消えたが、その部屋の窓は灯火に照らされていた。
「どこへ行くつもりなんですか?」
ゼリーから旅立ちについて聞かされたプリンは、真剣な表情でゼリーに聞いた。
「ゼリッチにもわからないよ。今までずっと御侍様と一緒に行動していたから。」
無邪気に笑っているゼリーは、いつも通りだ。彼女がもういなくなってしまうなんて、私には信じ難かった。
「…本当に行くのですか?もう少しここにいてもいいと思いますが」
「みんないい人で、ゼリッチはみんな大好きだよ。でも、決めたの」
「だけど、もしあの黒い服の者たちに捕まったら… …」
「黒い服の者たち?誰?プリンの友達?」
「… … …」
「どっちにしても一人は危険ですね。」
プリンは額に手を当てて言った。
「え?プリンはもしかしてゼリッチのことを心配しているの?」
ゼリーは天真爛漫な顔でプリンを見つめ、そして何かひらめいた様子で、ずいっとプリンに近づいた。
「じゃ、プリンがゼリッチのマネージャーになってよ!」
「マネージャー?」
「うん!プリンがいれば、ゼリッチは全然怖くないよ。」
プリンはしばらく考えて答えた。
「私は御侍様の代わりに、この孤児院を見守らなければならないから、ここに残ります」
そこまで言った後、まっすぐにゼリーを見つめる。
「…さっきまではそう考えていました。だが今は違う。正直、私は子供との付き合いが苦手なんです。だからずっと自分にできることを探していた……」
プリンは低く唸った。
「マネージャーの仕事はゼリーのスケジュールを決定、管理すること、ですね?」
「うん!」
「それなら私にもできそうです。よし、今日から私はゼリーのマネージャーになりましょう。」
私は、これからずっとゼリーのそばにいよう。
彼女の歌声と、ずっと寄り添っていられるように。
プリンはこの日、強くそう誓った。
「ありがとう、プリン!ゼリッチも頑張るね!」
嬉しさのせいか、それとも緊張のせいか…ゼリーの声が突然高くなった。
「大丈夫です。ゼリーはそのままでいい。貴方が触れられる範囲すべてを守ります」
プリンはゼリーの頭を撫でた。これはプリンが御侍様から学んだ唯一の慰め方だ。
守りたいものを守るのは、口だけで実現できないと、プリンはよく分かっている。
それでもプリンは「彼女を守りたい」と思った。
だからプリンは孤児院から離れる道を選んだのだ。彼の目的は自分を変えることだけではなく、子供たちによりいい生活を送らせることだった。
自分が働けば、そのわずかな給金を、彼らに届けることができる。
それに、彼らの大好きなゼリッチがもっとみんなの愛される存在になれば、みんなを喜ばせることができるだろう。
最初はストリートで歌い出したが、すぐにアイドルとして活躍することになった。
ゼリーの人気は段々高まってきた。
これほど忙しくなる前は、二人で週に一度、孤児院に戻り、子供たちを見舞っていた。
しかしゼリーの人気はますます高くなり、芸能活動も忙しくなる一方だ。
プリンの仕事と責任は重くなり、ゼリーへの制限も日々増えている。
しかし、二人が忙しかった時期に、孤児院に悲劇が起きた。
貪食女と呼ばれる堕神が孤児院を襲ったのだ。たった一瞬で、孤児院は廃墟となった。
プリンが孤児院に戻ったとき、目の前にはすでに廃墟しかなかった。
彼が守るべき場所はすでに無くなった。
修道女の話によると、生き残った子供たちはみんな他のところに移されたそうだ。
ただ、レイシは行方不明、ヨーエは生きているかどうかすら不明だった。
実はレイシは救出されたようだが、ヨーエがまだ孤児院に残っていたので、彼女はヨーエを救けるために、孤児院に戻ったらしい。
その後、料理御侍が気絶したレイシを発見し、彼女は再度救出された。
しかしヨーエは見つからず、生死不明だったので、レイシはまたこっそりとヨーエを探しにいってしまった。
そして、そのまま行方不明になったらしい。
修道女の説明を聞いてから、プリンは廃墟と化した孤児院を見つめ、不思議に思う。
自分はもっと悲しむだろうと思っていたのに。
かつてのすべてが破壊された。それでも実感がない。
ただ心のどこかが欠けているように感じ、まるでブラックホールのようで、プリンは息苦しくなった。
こんなことになったのは堕神のせいなのか?
それとも自分のせいなのか?
もしあの時孤児院を離れなかったら、違う結果になったのか?
自分がいたら、少しは子供たちを救えていたと思う。
プリンは時々、そんな後悔に苛まれる。
もう子供たちの笑顔が見られない。そのことを、プリンは誰よりも分かっている。
でもゼリーに知られたら、彼女はきっと泣くだろう。
そんなある日、ゼリーはプリンに内緒で、こっそりと抜け出し、孤児院へと行ってしまった。
抜け出したゼリーは、名前の頭文字が「オム」から始まる熱狂的なファンの食霊に追いまわされた。
何があったのかは詳しくしならないが、その後、ゼリーは孤児院に帰ろうとしなくなった。
プリンは名前の頭文字が「オム」であるゼリーの熱狂的なファンである食霊をブラックリストに入れた。
彼らの腐れ縁はその時に始まったのである。
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