ポップコーン・エピソード
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ポップコーンのエピソード
相当なナルシスト。男を毛嫌いする一方で、女の子の前では博学多才を装ってカッコをつけたがる。映画館で映画を見るのが好きだが、いつも一人ぼっち。
Ⅰ 天使
両手でポップコーンを持って、僕は一人で映画館から出てきた。
新しく上映した映画は悪くない。
今日も一人で見にきたけど。
ポップコーンを咀嚼しながら、僕は映画館のポスターの前で呆然とする。
なぜ毎回映画が見たい時に限って、女の子は皆用事があるんだろう?
惜しい、次また誘おう。
じゃないと冷たくした気がして申し訳ない気持ちになる。
そう思って、僕は家に帰ろうとしたその時、目がある一幕を捕らえて固まってしまった。
軽くウェーブして淡い金色を帯びた長髪が温かい夜風の中で優雅に靡く。
小さくてかわいらしいスタイルに整った顔。
人形みたいにキラキラした両目は人を酔わせてしまうような光が閃いている。
天使……
言い様のない気持ちが僕の心臓を直撃した。
これはまさに恋愛だ。
まだ触れていないが、僕は感じ取れる。
彼女は僕の周りをうろちょろする女の子たちとは違う。
彼女は特別だ。
手に持っているポップコーンを投げ捨て、僕は襟元を整えて、深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、大股で前へ歩みだす。
天使の前までやってきて、彼女のちょっとびっくりした顔を見て、僕は真心を込めて誘う。
「美しいお嬢さん、僕はポップコーン。この僕と一つ愛の冒険をしないかい?」
言い終えてすぐ、一人の見知らぬ男がいきなり飛び出てきて、僕と天使の間に侵入してきた。
「冒険したいなら一人で行け!」
見知らぬ男が無礼極まりない台詞を吐いた。
眉を軽く上げて、僕は蔑む目でこの男を見やる。
「え?!もう一人いたのか、気づかなかった!」
僕の言葉を聞いて、男は更に不機嫌になった。
「話はそこから降りてきてからにしろ」
こいつが先に突っ掛かってきたくせに。
何か言い返そうとしたそのとき、さっきから傍らで沈黙を貫いていた僕の天使が、突然口を開いた。
「もういいでしょ。もうすぐ店開きの時間よ」
「ポップコーン、でしたね?」
「お誘いありがとう、でもお断りさせてもらうわ。暇な時はいつでも、私の店にいらしてね」
それから天使はすまなそうな笑顔だけ残して、そいつと一緒に行った。
この僕が、ふられた……
Ⅱ ネバーギブアップ
この僕がふられたなんて、信じられない。
二人の離れていった後ろ姿を見ていたら、これまでにない気持ちが溢れ出してきた。
でもこの状態は長く続かなかった。
僕はすぐに冷静さを取り戻した。
たぶんあまりにも長い間僕をときめかせられる相手が現れなかったせいで、このような失態を犯してしまったんだろう。
よく考えると、僕を拒絶したのは天使じゃなく、となりのアホ面の男だ。
離れる前に天使が僕に出した誘いが何よりの証拠になるだろう。
ふ。
僕を拒絶する女の子などありえない。
すべてはあのアホ面のせいだ。
そう考えることで、僕はあっという間に気持ちを整えた。
今考えるべき問題は、どうすれば奴を避けて我が姫君と優雅な逢瀬ができるかという点だ。
女性友達に聞いて、僕はすぐに天使の店を見つけた。
Sandwich、いい名前だ。
どういう意味かは知らないが。
連日来てはいるが、誘うチャンスまでは漕ぎつけていない。
唯一の進展は二人の名前と関係がわかったということ。
天使の名前はデリア。
デリア・ヴィヴィアン・リー。
そして、あの煩わしい男。
奴は彼女の食霊、サンドイッチだ。
一週間をおいて、僕は再びSandwichのドアの前にやってきた。
今度こそ、デリアをデートに誘ってみせる。
「すみません、本日は休みです」
入るなり、サンドイッチが看板を下げ、無表情で僕の前にやってきた。
「おちょくってるのか?」
あちこちの席に座っている客を指して僕は冷たく言い放つ。
「こんなに人がいるじゃないか」
「こんなに人がいるから、お前みたいなめんどくさい奴は帰れ」
サンドイッチは白い目で僕を見て、さっさと帰れと合図をする。
「めんどくさいとは失礼だな。僕はデリアに呼ばれたんだ」
デリアに迷惑をかけたくないから、僕は声を低くしてサンドイッチの耳元でささやいた。
「僕らの仲に嫉妬しているのか?」
「は?何馬鹿なことを言ってるんだ?」
サンドイッチは身を翻した。
と思うと指の間に一枚のトランプが挟まれている。
「出ていく気がないなら、俺が直に送り出すしかないな」
「試してみればいい」
僕は目を細めて言い返す。
一発触発の場面に、客たちがちらちらとこっちを見てくる。
その時、親しみのあるきれいな声がした。
いつの間にかデリアがそばに現れて、僕たちを引き離した。
彼女は僕にあの魅惑的なほほえみを見せると、すぐサンドイッチに振り向いて説教を始めた。
「お客様に失礼でしょ?」
「こんな奴も客?」
「し!やめなさい!」
「…………」
Ⅲ デート
叱られた後、サンドイッチは不貞腐れた顔を残していった。
これでいい。
ロミオとジュリエットの逢瀬に邪魔が入ってたまるか。
たとえペットでも駄目だ。
「こんにちは、僕の美しい天使ちゃん」
サンドイッチが離れるなり、僕は待ちきれずに挨拶を迫った。
「ああ……」
デリアは軽く笑って、きれいな声で言う。
「できれば名前で呼んでほしいけれど……」
「わかった、愛おしいデリアさん。この僕にあなたと共に映画を鑑賞する幸運を恵んでくれないかな?」
「う……」
デリアは躊躇する顔を見せた。
彼女はきっとあのめんどくさい男のことを考えてるだろう。
まあ、まだ始まったばかりだから、焦って困らせてしまったら元も子もない。
「少しばかりの時間さえ頂ければいい」
少し腰を折り曲げてお辞儀をする。
「一晩で十分だ」
「……まあ、いいでしょう」
何か決定をしたように、デリアは笑って誘いを受けた。
夕方、晩餐の後、僕は得意げに不満たらたらのサンドイッチに別れを告げ、デリアと共に映画館に入った。
『グレニック』
それは愛をテーマとした災害映画で、一人の食霊と人間の共演である。
そのストーリーは美しくロマンチック、デートには最適な選択である。
その夜、僕とデリアはその映画が作り出した雰囲気に浸っていた。
映画が複雑なシナリオまで進むと、僕は彼女にその起因を説明し、彼女の視聴体験を向上させたりもした。
彼女の喜び様が目に見えた。
映画の後、僕とデリアはゆっくりと帰路を歩いた。
その間、彼女は何度も何か言おうとしてやめた。
おそらくどう気持ちを伝えればいいのか
悩んでいるのだろうと思った。
まあその気恥ずかしさは理解できる。
ここは男のほうが積極的になるべきと考え、僕はさりげなく彼女の手を取ろうとしたが彼女は軽く驚いて、手を慌ててよけた。
それほどの恥ずかしがり屋さんかな?
更に積極的に攻めるべきかな?
そう考えて、僕はデリアのきれいな顔に振り向いて、彼女の緊張を和らげるために何か言おうとしたら彼女もこっちを見ていた。
その口は少し躊躇ったあと、ようやく言葉を発した。
ようやく僕に告白か?
さあ来るといい。
ほかの娘より僕はきみの告白が聞きたい。
「ポップコーン、映画に連れてきてくれてありがとう。ただ……」
Ⅳ 間奏
それからデリアが僕に何を言ったかはよく聞こえなかった。
大地の揺れと、煩わしい叫び声が僕たちの話を遮ったから。
「御侍様、よけろ!」
巨大な黒い影が僕たちの前に現れた。
考える暇もなく、僕はまだぽかんとしているデリアを抱き上げ、屋根の上に跳んだ。
それからようやく、僕は何が起こったのかが見えた。
それは一匹の堕神だ。
サンドイッチに追われてきた堕神だ。
「サンドイッチ!いくら自分の御侍が僕に惚れたことに嫉妬しても、こんな下劣な邪魔の仕方はないだろう!」
破壊された街を見て、僕は憤った。
「デリアが怪我したらどうする!」
「え?」
デリアが困惑するような声を出した。
サンドイッチのやり方に戸惑っているのだろう。
せっかくのデートが邪魔されたんだ。
彼女もきっと僕と同じように不機嫌に違いない。
「何言ってんだこの問題児は!さっさと降りて手伝え!」
相変わらずこのサンドイッチは礼儀を知らないようだ。
「デリアに免じてその無礼を許してやろう……」
そう呟いて、僕はデリアを降ろした。
「告白は少し待ってくれ、すぐに終わらせてくる。帰ったらさっきの続きをちゃんと聞いてあげるから」
「え??」
「サンドイッチ、きみは本当に使えない奴だな」
線上に入るなり、僕はすぐに肝心な問題に気付いた。
この堕神の表皮は非常に硬い。
トランプを主な攻撃手段とするサンドイッチでは
相手になれるはずがない。
それでも、僕は腹いせにこいつを貶した。
これは僕とデリアの完璧に終わるはずの夜を邪魔した罰だ。
「下らないこと言ってないで、何とかしろ!」
サンドイッチは困ってる顔で僕に叫んできた。
やはりこいつはバカだ。
「まずは弱点を探す。僕が街で攻撃して表皮を軟化させる。きみが最後の一撃を食らわせるんだ。」
僕は少し考えただけで最適な手段を見つけた。
「ん?」
サンドイッチが少し意外そうな表情を見せた。
こいつが何を考えているのかわかっている。
「かっこつけるのもタイミングというものがある。決勝の一撃をきみに譲りたくはないけど。」
僕は振り返ってデリアを見やった。
「今はデリアと皆の安全が最重要事項だ」
「……チッ、このやろ」
「さあ、いくよ」
僕の合図で、二人共に堕神に飛びついた。
結果、問題は完璧に解決された。
堕神が死に、治安官も現場にやってきて、民衆をなだめ、損害を確認し始めた。
素晴らしい結末だ。
僕の服が破れたことだけが玉の瑕となった。
それくらいで僕の魅力を損なうことはないけれど、少し不快に感じた。
「あの……ありがと」
サンドイッチはデリアを連れて僕の前にやってきて、少し躊躇った後、僕に礼を言ってきた。
「デリアが無事ならそれでいい」
サンドイッチを無視して、僕はデリアに優しく話しかけた。
「これで僕がこの煩わしい奴よりずっと頼れるということが分かっただろう。こいつから離れて僕と一緒にいよう。必ず幸せにしてあげるから」
「えっと……」
「前言撤回だ、やはりお前は嫌な奴だ」
「不服ならやってみるか?この役立たず」
「てめえ……」
「やめなさい、二人とも」
Ⅴ ポップコーン
グルイラオは、南北両側の海域をつなげた、ノールズ大陸でも最も豊かな地域の一つである。
商業性を主とし、優れた地理的環境を有するこの地域は、新しくて面白いものに欠かない。
商人たちは世界各地から商品を集め、ここに引き寄せて高値で売りさばくのが最も一般的なことである。
ここを一回り回れば、ティアラワールドのすべてを見てきたと言っても過言ではないだろう。
しかし、ビジネスのあまりの発展にも欠点はある。
それは新参者にとって、ここで自分の商売を立ち上げるのは難しすぎるということである。
貴族や大手商会ならば、特別な手段を使ってここで商売を立ち上げるのは難しくないだろう。
だが、店を開けたとしても、星の数ほどある店の中で最も輝けるかどうかは話が別だ。
それは金だけではどうにもならないことだ。
それゆえに、グルイラオで長く名を馳せてきた店には、必ず独自の優れた点がある。
中でも最も有名なのは、とある商店街の隅に位置するとある店である。
装飾はシンプルで、位置も目立たないが、客足は絶えることがない。
Sandwich、これはその店の名前だ。
客の話では、Sandwichが有名な原因はそのユニークな食事の方法の他に、ここでの面白い日常も功を奏している。
「カフェモカを一杯、ありがとう」
ポップコーンは微笑みながらサンドイッチに注文した。
「かしこまりました、ミスター」
サンドイッチの目は冷たく危険な輝きを発した。
「それとサンドイッチを一つ」
サンドイッチが離れようとすると、ポップコーンの声が再び響いた。
その上にポップコーンは非常に卑しく付け加える。
「ああ、忘れるところだった。サンドイッチの作ったサンドイッチは非常にまずいから、愛おしいヴィヴィアンに作ってもらえる?」
「……誰が御侍様の名前を呼ぶのを許可した?」
「ああ、これはもしかして僕は脅されているのか?サンドイッチは理解していないようだな、お客様は神様だぞ?」
「……」
「……」
二人の口げんかはすでにここの日常になり、この光景を見て客が笑いながら呟く。
「ポップコーンはリアちゃんを落とせると思うか?」
「どうだろうな、私的には彼はサンドイッチを落としにきたんじゃないかと思うが」
「はははは」
「まったくあの二人は……」
階段で、少し曲がった淡い金色の長髪を揺らしながら、デリアは困ったように首を振った。
太陽の光が店の中に射し入る。
窓のそばには、一人の老紳士がコーヒーを持ち、静かに彼らのことを見ていた。
「このような平和な生活も悪くないではありませんか?伯爵様」
老紳士のその言葉は他人に言っているように聞こえたが、自分自身に言っているようにも聞こえた。
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