キムチ・エピソード
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キムチのエピソード
トッポギの姉。踊りが達者な旅芸人。
か弱く見えるが、芯が通っている。
トッポギのことをとても大事にしているが、
叱るべきときにはちゃんと叱る。
Ⅰ 放浪
(※誤字と思われる箇所を編集者の判断で変更して記載しています)
「お嬢さん、どうかお恵みを……」
そのしゃがれた声は、道に跪いている一人の老婆から聞こえた。その様子はどう見ても健康とは言えない状態だ。伸ばした手が震えていて、両眼に一片の光も見えない。
「姉様……」隣の妹が私の袖を引いて、私を見上げた。
彼女の言いたいことはわかっている。トッポギはいつもこうね。優しいし、甘いし、他人に影響されやすい。
周りを見回した。建物の裏にたくさんの若者が私達をずっと睨んでいる。
私は妹の頭を撫でて、首を振った。
「…なんで?」
妹の顔には疑問と落胆ばかりだ。
私はなにも言わず、ただ彼女の手を引いてすぐその場から離れた。
彼女はまだ小さい。我々食霊でもできないことがあるという状況をまだ知らない。
「姉様、なんでさっきは助けてあげなかったの?それぐらいのお金ならすぐ稼げるよね?」
旅に戻ったら、妹がずっと私の手を揺らしてくる。
先の件についてまだ不満そうだ。
「お金の問題ではないのよ。ポギちゃん」
妹の疑問を放って置けないから、私が彼女に向けて真面目に説明してみた。
「私達じゃ助けられない。災厄の影響は大きすぎる。今日見たのはほんの一部でしかない」
「…でも、この一部だけでも助けられるじゃないの?」
妹の顔は苦しくなった。その顔をみて、私はため息を漏らした。
「ポギちゃん、さっきのことなら、お金を渡す方がその老婆にとって悪いことよ」
「……」
先のことを思い出して、妹の顔を見ると私も悲しくなった。
私としても、その老婆を助けたかった。
堕神により起こされた災厄を避けるため、私と妹は故郷から離れて、放浪の身になった。
私達は誰よりも放浪の辛さと家に帰れない苦しさを理解している。
それに、誰よりも安定を望んでいる。
Ⅱ 無常な日常
この前のことを省略して、私と妹は次の街に着いた。
憂鬱を和らげるため、私は彼女を連れて街の一番賑やかなとこに行った。
気がついたらもう夕暮れ時になった。妹の笑顔を見て少し安心した。
帰ろうと思ったところ、目の前の人々が騒がしくなってきた。声が熱々の油に水を入れたようにバンと爆発した。何かを抗議しているようだ。
突然、人群の中から一人が石像の上に跳んだ。
「難民を受けるな!城門を閉めろ!」
その喊声は騒ぎを超えて、現場に一瞬の沈黙をもたらした。だけどその後に人々はだんだん同じことを叫び始めた。
「難民を受け入れるな!城門を閉めろ!」
「……」
他の通行人の説明により、事情がわかった。
数日前、光耀大陸の北に大勢の堕神が現れた。
料理人ギルドは報告を受けたあとすぐに大量の料理御侍を派遣して、防御線を立てた。堕神との戦況をコントロールしたけれど、いくつかの中小規模の町が破壊されたようだ。
料理人ギルドは家を失った難民を安置できず、彼らの南方への逃亡を放任した。
それが今の状況を招致した。
大量の難民が城門外に集まって入城をお願いしているけど、町の住民は受けたくないようだ。
「なんなんだよ。次から次へと。」
通行人も苦情を言い続けた。
「同情しないわけではないけど、私達も余裕がないのよ。」
「で、でも、そのまま放って置くの?」
妹が手を握り締めて、心配そうに聞く。
「そうするしかないさ。何日か経ったら他の町に行くんだろう」
通行人は首を振った。
「これが今の世だ。嬢ちゃんたちも自分のことを考えとけ」
話が終わったら、その通行人は離れた。
妹の顔がどんどん苦しくなってきた。それを見た私は、彼女を抱きしめて慰めた。
「大丈夫だよ。元気を出してね。」
Ⅲ 妥協
その日の夜、城門が閉じた。
民衛司は町中に張り紙を貼りまくった。住民たちにこの間に町から出ないで、緊急時は民衛司へ問い合わせ、確認するようにとの告知だった。
私と妹は不穏な夜を過ごした。
妹には悲しいことを見せるべきじゃない。
彼女の考えていることはわかっている。
翌朝、やはり彼女は全然寝られなかったみたいで、目にクマを作り、ぼんやりした様子で私に声をかけた。
「おはよう、姉様……歌の練習をしてくるわ」
「青き…青き山が曙光に染まった。」
「日暮れ…日暮れ…日暮れに夕日が沈む。」
曲調が間違ってるだけではなく、歌詞すら絶え絶えだ。
窓台にもたれかかる私は、庭で歌っている妹を見て、思わずため息を漏らした。
ホント、うかうかしてるんだから……
ちょっと考え、私は外に向かって声をかけた。
「ポギちゃん、ちょっと来て~」
「え?あ!ハーイ……」
何度か呼んだあと、うかうかなポギちゃんはようやく自分が呼ばれてることに気づいた。そして部屋に戻った。
「姉様どうしたの?」
目がぼんやりしている妹を椅子に座らせた。
「お姉ちゃん話したいことがあるの」
私は彼女のこめかみのあたりを軽く押して、できる限り落ち着いた声で話し始めた。妹がこの世に来る前のことを。
「最初は、私と御侍様の二人だけの頃……」
どうやって堕神が私の生まれた町を滅ぼしたのかを。
私と御侍はどんな苦しい旅をしたのかを。
そして、人情の良し悪しと世の中の無常のことを。
これらの昔話を話した。同時に彼女がまだ知らない世界も教えた。難民の中の厳しい掟や、救われた者が恩を仇で返すことなど……
話が終わった後、部屋が沈黙に包まれた。間を置いて、私は再び話し始めた。
「お姉ちゃんはただ、あなたが時代の縮図しか見ていないと教えたいの」
「大勢が来る時、私達食霊でも自らを守ることしか考えていない。」
「だから、考え過ぎるのはやめて。じゃないと悩みが尽きないよ。」
妹は頭を下げて、何かを考えているようだけど悩んでいるようにも見える。
しばらくして、彼女は頭を上げた。目の周りが赤くなっている。
「姉様がそう言っても、私はあの人達に何かしたいの」
「……」
Ⅳ 歌と踊り
(※一部誤字と思われる箇所を編集者の判断で変更して記載しています)
「痛っ。」
私はベッドに横になっている妹の四肢を揉んでいる。
揉んだ箇所のあざが目に見えるスピードで消えていく。皮膚はまた何もないようにすべすべに回復していく。
でも、内側の痛みはそんなに簡単に消えるわけではない。
「姉様、痛い!!」
腕にちょっと力を入れてただけでも、ポギちゃんからは我慢できないような反応が出てくる。
「お姉ちゃんは痛くない!」
わたしは彼女のおでこをちょっと叩いた。静かにしろと合図した後、元の動きに戻った。
「これで間違いを理解したでしょ?」
「あ、あの人達があんなに理不尽なんて知らなかった。」
ポギちゃんが小さい声で悔しがっている。そして、何かを思い出したように文句を言い始めた。
「助けに行ったのに!なんでそんなに乱暴なの?もう、あのおじさんが受け入れない理由がようやくわかったわ」
「ほら、食料の配給初日だから、こうなることくらいわかるでしょ?」
私は微笑みながら説教した。
「だから、お姉ちゃんの言ったことを聞いて、ね?」
「……いいの!」
少し黙った後、ポギちゃんが急に頭を上げて私を見た。その瞳に見たことのない光が輝いている。
「また行きたい。姉様、助けて、ね?」
「……やれやれ……」
頑固になった妹には敵わない。どうせ他にやることがないし、そんなに放浪の難民の力になりたいなら、好きにしても別にいいでしょう。
トッポギも食霊なので、危険な目に遭うことは多分ないでしょう、せいぜい少し辛酸を舐めるくらいかしら。
と思いながら、民衛司にこれからの志願活動を申請した。
「無理しないで。」
寝る前にもう一度彼女に言いつけた。
「大丈夫よ姉様安心して。」
ポギちゃんが私の袖を握って、自信満々な様子で言った。
一週間あっという間に経った。いつもの些事をしている私は突然思い出した。
「妹の様子、見に行こうかな?」
ちょっと使えそうな食料を手提げかごに置いて、私は城門の兵士に説明した後に、上に上がった。
城壁を歩きながら、いつもの情景をもう一度見た。
難民たちはばらばらに兵士が指定した場所に座っている。時折数人が混乱を引き起こそうとするも、すぐに鎮圧されていく。
「だから、何をしても無駄なのよ」と、私は首を振って、引き続き妹を探していく。
「私達はそんなに多くの人を助けられない、何も変えられない。ポギちゃんはなんでそんなに頑固なの?」
ようやく難民の群れから遠くない箇所で妹を見つけた。声をかけようとした時、私は忘れられない風景を見た。
日差しの下、妹は一人で難民たちの前に行く。難民たちが彼女を見て、何かの命令を受けたように集まった。
混雑もない、喧嘩もない、兵士たちが秩序を維持する必要すらない。難民たちが自分の位置を見つけて、揃って座っている。
「戦火が私達の家を呑み込んだ。」
「私達は泣きながら離れた。」
「思い出させないでください……悲しいことを。」
曲調は激しくないけれど、込められた感情は深い。
その曲は人を感動させる魔力を持って、誰もが自分の仕事を置いて歌をよく聞きたくなるくらい。
「涙と鮮血が道に文字を残した。」
「これは私達は自分への手紙だ。」
「心に銘記して、だが浸るな。逝者のために、精一杯生き延びよう。」
妹が全身全霊で私達が演じたことのない曲を歌っている。
ぼろぼろな人たちが、地面に座って一心不乱に聴いている。
この場面を見て、私は反省し始めた。
私が……間違ってたかも。
手提げかごを置いて、外套を脱いで、私は妹の後ろに来た。
彼女が私を見て、微笑んで歌い続けた。その声はますます力が入っていた。
あるリズムの停頓をきっかけにして、私は彼女の後ろで踊り始めた。
私達の歌と踊りは、本当に何かを変えるかもしれない……
Ⅴ キムチ
それは料理人ギルドが本気を出して、料理御侍が逆襲し、堕神を徹底に辺境から追い出した前のことである。
たくさんの者が突然の戦火により家から離れた。
その中には食霊すら存在した。
敵は多く、その状況では誰もが避けるしかなかった。
その中でも、ある御侍と食霊はもっとも凄惨だと言えるだろう。故郷が侵入された時、彼らが向かうのは一つの食霊小隊でも敵わない堕神だった。
家族と友人はおろか、その御侍自体でも、今回の抵抗で重傷を負った。
彼の食霊は彼を連れて各地に奔走したが、結局命を助けることはできなかった。
その御侍様は最後の力でもう一人の食霊を召喚した。
それから、二人の食霊は一緒に放浪の生活を始めた。
長い旅の中で、二人は空いた時に歌と踊りを演じる日々に、徐々に慣れていった。
気晴らしの手段であり、二人の趣味でもあった。
自らの感情を表すことでもあった。
姉は御侍と一緒に各地に奔走した経歴によって、食霊でも人間でも決められた運命に逆らえないと黙認した。
だから独自のやり方を選んだ。
彼女は一人を救えたとしても百人を救えないと思った。
そんなことをやったら自分は永遠に悔しさと悲しさの輪から出られないと思った。
だが妹の方はそう思わなかった。
彼女は一人でもたくさんの人と事を変えると信じていた。
情緒は他人に移られるものだ。
力は歌と踊りで付与できるものだ。
時代が変えられないなら、見える範囲だけでも変えるのも悪くないと信じていた。
史書により、光耀大陸の北に韓城があり、北の防衛線が割れ目が出現した時大勢の難民が来た。
この混乱な時期に、二人の姉妹が歌と踊りで難民たちの心を宥めた。そして、彼女たちは各地に行って、心の力をもっとたくさんの人に与えた。
人々は彼女たちの歌を伝唱した。
最も広く歌われている一句は
「心に銘記して、だが浸るな。過去を未来に生きる力に成せ」
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