チョコレート・エピソード
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チョコレートのエピソード
独特の魅力をもった青年。
いつどこでも惚れた相手に贈れるように、
常にバラの花束を持ち歩いている。
彼の魅力的な青い瞳に三秒以上見つめられると、
心を奪われそうになるらしい。
Ⅰ 生き別れ
大雨が降ってきて、路上の人々はみんな雨宿りに走ったが、彼らだけがそのまま立ち尽くしていた。
一人はオレの御侍。もう一人は王国軍の一員で、
これから軍令に従って異国へ戦争に赴く彼女の恋人だ。
「もういくのね?」
オレの御侍は背を向け、恋人に言った。
「ああ」
「きっと戻ってこれるよね」
「ああ、きっと」
ザーザー降る雨の中、二人は無表情のまま向かい合っていた。
「でも、待たないでくれ」
その一瞬、御侍の目から涙がつたった。
こんな言葉を残して帰った恋人を眺め、呆然としていた。風邪ひくよ、と伝えたかったが、どう言えばいいか分からなかった。
御侍はその日から高熱が出て、昼も夜も悪夢に襲われ、意識朦朧の状態でベッドに横になっている間も、恋人の名前を呼んでいた。
オレは時々彼女の手を握り、彼女を慰めようとする。
時にはタオルで彼女の顔を拭いて涙の痕跡を消し、彼女が再び元気になることを願う。
御侍は病気が治ると、恋人についての話を一切しなくなり、他の男からの好意も受け入れない。
日々さびしくなっていく彼女を見て、オレはとても心配している。
彼女が少しでも多く笑うように、オレは恋人の甘い言葉を覚えて彼女に言った。
しかし、御侍はオレにこう言った。
「ありがとう、チョコレート。でも彼の言葉じゃないと、意味がないのよ」
その時、自分が決してあの人になれないと知った。
Ⅱ 裏切り
時間が経てば自然と元気になるとオレは思ったが、数年が経っても、御侍は相変わらず毎日町の入口に行き、そこで恋人の去った方向を眺める。堕神が横行していて、国同士が争っているこの乱世は、すべてを捨てて戦う人を必要としている。だから御侍の恋人は彼女を捨てた。しかし、御侍は恋人のことをずっと捨てなかった。
彼女のうしろ姿を見ているオレは、複雑な気持ちで胸がいっぱいだ。この世界に召喚された時から、オレは「完璧な愛情をもたらすことができる」という肩書きを与えられた。
オレさえ召喚できれば、真の愛情を手に入れられると、人々はそう妄信している。
オレは遠いところに住んでいる食霊の友達を訪ねたいという理由で、御侍から長い休みを取り、一人で彼女の恋人がいる国に行った。
もしあの人の手紙があれば、御侍はそんなさびしい表情をしなくなるだろう。
徹夜して道を急ぎ、ようやく軍営に到着した後、聞いたのは信じられないことだった。
「彼はここにはいない」
「戦死したのか?」
「戦死?笑わせるな。あいつはただの逃亡兵だ。たぶんどっかで名前を隠して生活してるんだろう」
その答えを聞いた時の気持ちをうまく説明できない。ただ帰る途中で、踏み出した一歩一歩はすごく重く感じた。ずっと彼を待っている御侍にどんな顔で会えばいいか、分からなかった。
そして帰った後、もう一つの凶報が待っていた。
「かわいそうに、まだ結婚してないんだろう?」
「そうよ、恋人が戦争に行ったらしい」
「だから病気にかかっても世話をする人もいないんだ。何と哀れなことだ」
周りの人々は漫然と噂話をしていた。
オレは御侍が棺桶に入り、土の中に埋められ、墓石が立てられるのをただ見ていた。彼女はいつ病気にかかったのか?なぜオレに黙ってたんだ?
オレは持っているバラを御侍の安らかな笑顔の脇に置いた。
「この花の色、君によく似合うよ」
オレは墓石を撫でて呟いた。
Ⅲ 遺言
あの男が妻子と楽しく喋っているのを見つけたとき、体中から殺意が湧き出した。
こんなに怒ったことは、今まで一度もなかった。
「殺す」
「殺す、彼女を裏切ったあいつを殺す」
「死んで当然の報いだ」
「あいつに関わっている人も、生かしてはおけない」
オレは恐ろしい思いに完全に支配された。一歩踏み出す度に、心の中の殺意はより一層深くなる。
しかし次の瞬間、何者かが道を遮った。
目を細めてみると、知らない食霊だ。
「どけ」オレは気にせず言った。
「あいつらを殺して何かが変わるか?」
こいつ、まるでオレの目的を知っているかのように、木に寄りかかってオレを見ている。
「お前には関係ないだろ」
オレは衝動を抑え、言葉を繰り返した。
「どいてくれ」
「それは、彼女が一番望んでいないことだ」
オレから溢れる殺意にまったく怯えていない様子で、懐から手紙を取り出してオレに渡した。
「悪いな、自己紹介が遅れた。私はサタンカフェのオーナーだ。この任務委託状の要請に従い、君が今からやろうとしていることを、止めさせてもらう」
オレは封筒を開けなかった。封筒に書かれた見慣れたサインを見ただけで、オレは震えを抑えられなかった。荒れ狂う怒りは一瞬にして悲しみに変わった。涙をこらえ、封筒を開けた。
「どこにあるかも分からないサタンカフェ様:
私の体は来年の春までもたないでしょう。しかし、どうしても心配なことがあります。私の食霊のことです。いつ彼と別れることになるか分かりませんが、私がいなくなっても、彼が悲しまないよう面倒を見ていただけませんか?彼の長い生涯の中では、私はただの過ぎ去りし者。彼により多く、いい人や出来事に出会ってほしい。封筒に、私の一番大切なものを入れてあります。それが十分な委託料になることを願っています。
サリナ」
Ⅳ ありがとう
オレはこの見知らぬ食霊の顔を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「これはどういうことだ?」
「見た通りだよ」
彼は笑顔のまま答えた。
「手紙の差出人は、十分な報酬と共にサタンカフェ行きの黒い郵便受けに入れた。だから、任務を遂行させてもらう」
「お前の力で、オレを止められるのか?」
「君を止めたいのは、私じゃない」
彼はオレの目を見て言った。
「サリナだ」
オレは茫然と立ち尽くし、ため息をついた。
荒れ狂う霊力がいつの間にか安定し、周りの樹木も静けさを取り戻した。オレは近くにある小屋に視線を向けた。殺意が削がれた後、たださびしく、虚しく感じる。
「生きていた間はあいつに夢中だったのに」
オレは小声で独り言を漏らした。
「最後の願いもオレのことか。本当にわがままな御侍様だ」
「人間との絆も面白いもんだろう?」
食霊はポケットからネックレスを取り出し、オレの手のひらに置いた。
「行く場所がないならサタンカフェを覗いてみるのもいい」
数日後、オレはカウンターで仕事をする彼を見ながら、心の中の質問を口にした。
「なあ、オレにこの報酬を渡したら、君赤字だろ?」
サリナが封筒に入れた報酬は、恋人があげたネックレスだった。きれいな皮糸に一粒の青い宝石が飾られた、彼女がいつも肌身離さずつけていたアクセサリーだった。
彼はいつも見せているとびきりの営業用スマイルを向けてきた。
「残念だが、赤字商売をしたことは一度もないんでね」
ざあ――……彼がコーヒーを淹れる動作はまさしく熟練だ。それからオレの目の前にカップを置いた。彼は、オレが右手につけた青宝石のネックレスを見て、言葉を続けた。
「報酬は、もう受け取った」
オレはカップを持ち上げて軽く飲むと、ほろ苦く、どこか優しい味が染み渡った。
「コーヒー。その、ありがとな」
「どういたしまして」
Ⅴ チョコレート
「チョコレート」は苦くて甘い味で、ティアラの人々から「愛を示すもの」と見なされている。ある料理御侍がチョコレートという名の食霊を召喚した後、ティアラの人々は「完璧な愛をもたらすことができる」という肩書きをチョコレートに授けた。
これまでの御侍は、多少チョコレートの「おまけ効果」に期待したが、実はチョコレート自身愛の意味など知らない。サリナと呼ばれる女性がチョコレートと出会った後、彼はようやく愛の意味を少しだけ知った。
残念なことに、サリナの愛は悲劇に終わった。事実を受け入れられないチョコレートは、サリナを傷つけた人に代償を払わせようとしたが、
サリナの手書きの手紙を持ってきた「サタンカフェ」の店長に止められた。
心配する対象を失い、やりたいこともないチョコレートは、気まぐれに鬱蒼とした森の中にある「サタンカフェ」へ行った。
ただ自分を止めた食霊が普段何をしているかを知りたいチョコレートだったが、あの苦しいような胸がドキドキするような気持ちが何かを知った。
縁というものは、いつも気づかぬうちにそばにあるものだ。
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82019年04月10日 03:28 ID:n3shisjx間違えました、Ⅴですね
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72019年04月10日 03:27 ID:n3shisjx2/2
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62019年04月10日 03:26 ID:n3shisjxもう提供されていたらすみません、エピソードⅣです
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22019年03月24日 22:23 ID:lkx6stufあと怒りの表現がだいぶ違います。英語は殺意が心から身体中に広がったとか、こんなに怒ったことはないとか体の細胞全てが悲しみと怒りに叫とかかなり長いし激ギレですけど本家中国版は木が揺れるぐらいであっさり目っぽいです
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ななしの投稿者
12019年03月24日 22:08 ID:lkx6stuf英語版と中国語版なんですけど、2話、続きがあって、
「(前略)恋人を残して逝くなんて辛いよね。(中略)少し待っててね、彼を君の隣に連れてくるから」
でコッッッッッッワと思いました。
コーヒーさんのところも「オレは衝動を抑え、言葉を繰り返した」じゃなくて「切り裂きたい衝動を抑え」だったと思います
日本語版、時々削ってある気がします。
間違っていたらごめんなさい。