エクレア・エピソード
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エクレアのエピソード
目立ちたがり屋。だらしなく見えるが、ちゃんと自分のポリシーを持って行動している。
ただし自意識過剰なため相手とまともなコミュニケーションは取れない。
Ⅰ 出会い
「おい、何してんだ?女の子をいじめてんのか?」
電気が湿った空気の中で跳ねて、女の子を囲んでいるチンピラどもに炸裂した。
「稲妻!?」
「てめぇか!エクレア!邪魔しやがって!」
チンピラどもは稲妻を恐れて後に引いていく。
引いてはいるが、顔は威嚇したままだ。
それで俺様が怯えるとでも思ってんのか。
舌を鳴らすと、俺様は右手を高く上げる。
電光が手のひらからあいつらの足元まで跳ねていった。
「俺様の稲妻には目がないぞ。女の子をいじめる奴らなんて怪我しても知らないぜ?」
「お前、こいつが何者か知ってるのか!?何故こいつをかばう!まさかお前も―――ばばばばば」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
稲妻がもう一度やつらの前に炸裂する。
それを見てチンピラどもは何も言えずさっさと逃げていった。
俺様はいじめられていた女の子の前にやってきた。
彼女の服には引っ張られた痕跡があった。
もし俺様が現れなかったら、彼女はもっとやばいことになっていたかもしれない。
「おい、無事ならさっさと家に帰れ。こんな所でうろちょろしてるとやばい連中に目をつけられるぞ。」
別にこいつを家まで送る、みたいな事をするつもりはない。
俺様はただこいつが俺様の縄張りでいじめられてたから連中を蹴散らしただけだ。
それに、例え優しくしても、こいつは他の奴らみたいに俺様の稲妻にびびって逃げていくだけだろう。
身を翻して離れようとしたその時、後ろから笑い声が聞こえた。
馬鹿にしてるのではないかと思い、睨んでやろうと振り返った。
「何笑ってんだ?」
「別に。捻くれた慰め方だなって思って」
「慰めてねぇ、警告しただけだ」
わけのわからない奴だと思ったが、次の言葉は思いもよらないものだった。
「助けてくれてありがとう。うちに来る?お礼がしたいから」
彼女の真摯な表情を見て、俺様はちょっとばかり迷った。
この街で、俺様が何をしても近づいてこようとした者はいなかった。
――まあ、どうでもいいと思ってるが。
たまに人を助けても、そいつはすぐに逃げ出す。
まるで俺様の稲妻にやられるのを恐れているように。それがむかつく。
俺様を家に招待するなんて初めてのことだ。
嫌な感じじゃない。
「そういうことなら、行こう」
足元の小石を蹴飛ばして、両手を後ろに組んで歩き出したが
すぐに立ち止まった。
「おい、家どっちだ?」
また笑われた。
睨みつけると、彼女は柔らかいしぐさで反対方向を指した。
「こっちよ。ついてきて」
「……おう」
Ⅱ オルゴール
「座ってて、ご飯作るから」
「早くしろよ、俺様は忙しい。パトロールの途中だからな」
「はいはい、すぐできるわ」
実際さっきの野郎どもを蹴散らしたら今日のパトロールは終わるつもりだった。が、他にもいろいろとやることがある。
街道の管理――町長のじじぃはあの街道が俺様のものだと認めてないけど――容易くないことだから。
さっき玄関に入ろうとした時、ドアの反面に伏せて吊るしてる木の札に気付いた。
この町では珍しいことだ、他の家は基本花輪を吊るす。
俺様は深く考えなかった。
もしかしたらここは秘密基地だったりして……っと、あいつが戻ったら聞いてみよう。
長く待ちすぎて退屈している俺様は、体に蓄積した電気が身の回りで跳ね回ってることで更にイライラし、耐えられず部屋の中を歩き回り始めた。
いくら見てもこの家は秘密基地にしか見えない。
内装はシンプルで、いろんな花が置いてある。
電気が花に落ちないように気をつけなければな。
棚の上には、木の台座の上に卵が載ったような形をしたオルゴールがきれいに置いてある。
これを見たことがある。
ゼンマイを回すと卵の殻が開いて、中に隠された秘密があらわになる、というようなものだ。
卵の中にどんな秘密があるのか暴いてやる、と手を伸ばしたら、オルゴールに触れる前に体の電気が空中でアークを描いて銅製の殻を通り、オルゴールの中に入ってしまった。
俺様はすぐに電気を制御した。
ちょうど俺様がオルゴールの中に入った電気を回収しようとしたとき、彼女は皿を持って入ってきた。
「ごめんごめん、家にお客様を上げることがほとんどないから食材が少なくて、簡単なものしか作れなかった――何見てるの?」
彼女は皿をテーブルに置いてこっちにやってきて、俺様がオルゴールを見ていたのに気付いた。
「このオルゴールを見てたの?これは友だちからもらったものなの。卵は開けられるよ」
彼女は両手を伸ばしてオルゴールを取ろうとした。
オルゴールのゼンマイは木で包まれてるから感電することはないだろうと思って、俺様は彼女を止めなかった。
まさか台座の下に隠されているゼンマイが金属製だなんて思いもしなかった。
電流が卵を通じて内部の芯から下部に伝わり、彼女が触った瞬間、電気がビリっと走った。
カン!
オルゴールが手から床に落ちた。
床に接触した瞬間、卵の殻が砕けて、中の二つの踊る人形が転がりだした。
「おまえこれ脆すぎッ……だろ」
壊れたオルゴールを見て悲しそうにしていた彼女を見て、俺様は口を閉ざした。
しばらく沈黙が続いたら、俺様は謝ろうと決めた。
理由はどうあれ、間違ったことをしたら謝る。
――これは俺様の原則だ。
ただ間違ったことはあまりないから、この原則はあってないも同然だけどな。
「わりぃ、さっき電気が走っていって、注意しようとしたが間に合わなかった……」
「大丈夫よ」
しょんぼりした顔を止め、彼女は俺様を慰めようとした。
「壊れたものは仕方ないよ。わざとやったわけじゃないから、気にしないで。その友だちもかなり前からいなくなって、今の今まで連絡の一つすらよこさなかったから、もう私のことなんてとうに忘れたんでしょうね……――ほらお客様!早く座って食事をしましょう」
追求を許されず、俺様は彼女に椅子まで押された。
それからはただ彼女のペースに乗せられて、愉快な食事をしただけだった。
気付くともうかなり遅くて、そろそろ帰るべき時間だった。
ドアが閉まった後、俺様は壊れたオルゴールのことを思い出した。
……オルゴールを一つ返さなければならない。
Ⅲ 噂
あの子のオルゴールは普通のオルゴールじゃない。
何度も店に聞きに行ったが、いつもないと言われた。
それからある日、俺様が店の前を通った時、
ショーウインドーの中で似たようなオルゴールを見つけ、店に入った。
しかし、俺様が店主と話してる時、店にいる連中が小声で噂してるのが聞こえた。
そっちを見やると、あいつらは慌てて視線を逸らした。
疾しい気持ちがあるに違いない。
「彼があの、毎日何もせず町でブラブラしてる食霊だよな。ショバ代を取りにきたんじゃないだろうな?」
「それは知らないが……昨日オレは見たんだ。あいつがあそこに行ったのを、あの……」
「なに、あんな場所に行ったのか。やはりろくでもない奴だな」
どの場所を指しているのかはよく聞こえなかったが、後ろでこそこそ他人のことをあれこれ取り沙汰するという行為に苛立った。
俺様のことを言ってるのなら、面と向かって言えばいい。
手から雷光がビリビリ走り出して、俺様は後ろの奴らの話を遮った。
「俺様に何か言いたいことでもあるのか?」
「エクレア!?」
「ああ?何シラを切ってんだ。俺様がここにいるのを知ってんだろう。俺様は、陰でこそこそ噂する奴が大嫌いなんだ。一度だけ聞く、さっき何言ってたんだ?」
「俺たち……俺たちは……ま、まず雷を抑えてくれ!俺を打たないでくれ!」
「安心しろ。大人しくすれば、俺様の稲妻が当たることはない」
「あんたが以前助けた女は、札を掛けて売ってる奴なんだ。あいつと一緒にいるとあんたの名誉を傷つけることになるぞ!」
「!?」
こいつが何をペラペラ言ってるのか最初はわからなかったが、あの子の家のドアに掛かっている木の札を思い出すと、ようやくその意味を理解した。
町の住人はドアに花輪を吊るすのが普通だ。
独り身の女が木の札を掛けるということは客を取ってるということを意味する……
「彼女も好きでやってるわけじゃない。死んだ父親が多額の借金を残したから、返済するためにああするしかなかった」
「彼女の事情は知ってるけど、そんな事をしてる奴と関わってもろくなことにならないから誰も近付きたくないんだ!」
パン!パン!
もう聞きたくないから、俺様は雷でぺらぺらしゃべってる二人を撃った。
意識を失った二人を見て、俺様は手を叩いた。
「俺様は、陰でこそこそ噂する奴が大嫌いなんだ!あいつの事を知りもしない貴様らに何かを言う資格はない!今回はこれくらいで勘弁してやる。次はないと思え!!」
俺様は目が泳いでた店主に金を渡して、オルゴールを持って店を出た。
その時の俺様があの二人をしめたのは、背後で他人のことを噂する奴らが嫌いだからであって、彼女とは何の関係もないと思った。
後で気付いた。
あの時そうしたのは、俺様たちが同じ、他人に嫌われて理解されない人間だからだ。
Ⅳ 友人
俺様はオルゴールを持ってあの子の家にやってきた。
ドアの札が伏せてあるのを見て、出かけているのかそれとも客を取っているのかわからなかった。
だがすぐにドアが開いた。
一人の男が家から出てきて、俺様を見るなりいやらしい笑みを浮かべた。
「まさか食霊にも興味があるとはな。人間とさほど変わらないじゃないか。しかし、こいつも人気あるな……ぐはっ!」
俺様の稲妻がこの男に炸裂した瞬間、彼女が家から出てきた。
倒れてる男を見て、気まずそうな顔をしている。
その男はもう意識を失っていたから、何が起こったのか言わずともわかっただろう。
俺様たちは見つめ合った。
何を言えばいいのかわからない。
すると、彼女の方から沈黙を破った。
「なんでここに……」
「オルゴールを返しに来た」
「……え?」
俺様がオルゴールを渡すと、彼女は一瞬驚いた。
「お茶でもどう?」と言われ俺様はそのまま家に上がった。
「まさかずっと気にしてたなんて思わなかったありがとう……でも、あのオルゴールはもう意味ないの」
彼女はお茶を淹れてきて、向かい側に座った。
彼女の話では、あのオルゴールは以前片思いしてた男の子にもらったもので、その後彼は両親と一緒に町を出た。
それから何の連絡もない、と。
「今……たとえ彼が戻ってきても、私はもう彼のそばにいる資格はない。私がどうやって生活を維持してるか知ってるでしょう?」
「知ってるが、それがどうした?」
「あなた気にしないの?私と一緒にいたら、あなたも誤解されちゃうよ。私がただお礼がしたくてあなたを招待したこと誰も信じないよ。彼らはきっとあなたが……」
「それがどうした?俺様はこの町でたくさんの人間を助けたが、俺様が食霊ってだけで奴らは遠ざけた。礼を言われたことすら稀だ」
「でも……」
「でもなんだ?そんなことはどうでもいい。俺様の稲妻を見ればあいつらも黙るだろう」
「とにかく……ありがとう」
それから、俺様たちは友だちになった。
俺様は町での縄張りを彼女の家まで伸ばした。
彼女をいじめたり、俺様を後ろ指で指したりする奴がいれば、俺様はためらいもせず稲妻を見舞わせた。
理解し合える友人がいるのはいいことだ。
俺様は以前よりも好き勝手にやった。
例え怒らせてしまっても彼女は他の奴らのように俺から離れたりしなかった。
彼女は今までたった一人の俺様を受け入れてくれた人間だ。
――もちろん、彼女の友人になったのも俺様一人だけだ。
Ⅴ エクレア
エクレアがこの町に来る前、ここは一つのチンピラグループの縄張りだった。
家の安全を守るために、町の住民はショバ代を払わなければならなかった。
しかしエクレアがあいつらを追い払った。
稲妻のせいで、住民たちはあまりエクレアに近付いたりしなかったが、彼に感謝はしていた。
が、エクレアがこの町を自分の縄張りにする、と宣言したらみんな逃げてしまった。
住民たちは、エクレアも以前の奴らのようにショバ代を取ると思ったが、彼はそうしなかった。
たまにイタズラしたり、噂されることに対して不満を言ったりしたが、エクレアは基本他人にひどいことをしなかった。
その上、住民たちをチンピラから守ったりもした。
しかし、彼は性格が衝動的な上に、よく稲妻をコントロールできず他人を傷付けたりしたものだから、住民たちはあまり彼に近付きたいとは思わなかった。
彼は悪い奴ではないが、それらの原因で知らないうちに住民たちに遠ざけられていた。
エクレアは遠ざけられれば遠ざけられるほど彼らの注意を惹き付けたくなってしまう。
髪型を変えたいと聞くと、すぐ「アフロはどうだ?」と聞いたり、強引に釣り勝負を持ちかけて、人が真面目に釣りをすると、湖に電流を流して魚を取ったり…
彼がわざとイタズラをしたのではないことを理解しているのは、生活が苦しくて笑顔を売るしかない一人の女の子だけだった。
こんな小さな町では、噂はすぐ流れる。
町の人々は彼女の事情を知っているが、あまり彼女に近付きたくなかった。
それどころか後ろ指を指したり、子供たちに絶対近づいてはいけないと教えたり。
女の子はどう思われているのか知っていた。
でも彼女は気にしなかった。
彼らは自分と何の関係もないと思っているから。
もちろん、彼女は自分が他人の目を気にしていると、エクレアが誤解していたことを知っていた。
もっとも他人の目を気にしているのはエクレア自身だったとも知っていた。
だから彼は暴力的な手段で他人の噂を止めたりした。
実際、エクレアの内心では友だちを欲していた。
彼はこの想いを認めたくないだけだった。
だから彼は他人の目を気にしてきた。
もし誰かが好意で近づいてきたら、彼はすぐそれを受け入れて、その好意に応えるだろう。
彼女はエクレアとは違う。
彼女が気にしているのは、好意を寄せていたあの男の子が今の自分がしていることを知ったら、他の人と同じように自分を蔑んだりするだろうか?ということだった。
しかし実際、愛はいつも人の予測を超える。
その少年は最終的に彼が生まれた町に戻り、ひそかに想いを寄せていたあの少女を見つけた。
その少女は何も変わっていなかった。
賢明で、寛容で、優しく自分の心を癒してくれる。
そして彼は彼女にプロポーズした。
少女は少年の想いを受け入れたいが、彼を欺きたくなかった。
故に彼女はここ数年のことを少年に告白した。
それを聞いても少年の気持ちは変わらなかった。
彼の話では、彼が外で商業をしていたとき、危うく堕神に殺されかけたのだそうだ。
死に際に彼の唯一の願いが、愛するあの子と共に暮らすことだった。
だから彼は他人の偏見など気にしたせいで愛する人を失いたくない。
最終的に、二人は結婚した。
エクレアは唯一の友人のために、いろんな造形の綺麗な電光を放ち、結婚式を彩って、その結婚式を町でもっとも賞賛される話題にした。
少女の夫は借金を返済し、彼女と一緒に町を出た。
エクレアは元の日常に戻ったが、時々少女が出る前に言った言葉を思い出す。
「稲妻で噂を止めるのは、あなたが自分の悪口を聞くのが怖いからでしょう。エクレア、恐れてはダメよ。稲妻をしまえば、きっとみんな仲良くしてくれるはずよ。それに、暴力は自分をも傷つけてしまうから、自分のことは大事にしないといけないのよ」
長い間、エクレアはその言葉を認めなかった。
夫がいたから、彼女が変わったと思った。
しかしミルフィーユという食霊と出会ったことで、彼はようやく彼女の言葉を理解した。
言葉での衝突は相変わらずだったが、今回負けたのは相手じゃなく、自分自身だった。
「きみ、エクレアだったな。私と共に来ないか?」
「ああ?」
「きみの稲妻は非常に面白い。もし私と共に来る気があるのなら、その稲妻で私のデザートを壊さないように気を付けた方がいい」
自分を負かした上に誘ってきたミルフィーユを見て、エクレアはかつての少女の言葉を思い出した。
稲妻をしまえば、一緒にいてくれる奴が現れるのか……?
エクレアはこの初対面の食霊を完全に信用するつもりはないが、試してみてもいいのではないか、と思った。
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