ビール・エピソード
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ビールのエピソード
歳はおよそ万に近い。長生きしすぎたせいですっかり享楽主義になっており、話していることが本気か冗談か分かりづらい。日がな詩や歌を詠んで過ごしている。
Ⅰ 遊歴の始まり
僕の御侍様は、人間にとって長寿と言える寿命を全うした。
彼は生徒たちに見送られ、笑顔でこの世を去り、自然に還った。
彼の遺作を整理して図書館に送った後、僕は自分の荷物を纏めて自分の旅に出た。
僕は御侍様が死ぬ前の頼みを覚えている。彼は、歴史を伝え続けて欲しい、自分の代わりに僕にこの世界を見続けて欲しいと。
同時に彼は、僕には自分の答えを見つけて欲しい、と。
僕はたくさんの山と川を歩いてきた。空と太陽が遮られるほどの森も通った。壁に歴史を刻み込んだ古城を通って、建ったばかりのきれいな町にも行ったことがあった。
善良な人間と食霊の助けを受けたことがあった、悲しい過去も聞いたことがあった、自分が消えてしまうほどの危険にさえ出会ったことがあった。
しかしこのすべてのおかげで、僕は更にこの世界、そして僕の御侍に感謝している。
彼は僕をこの世界に連れてきてくれた、そのおかげで僕はこの全てを見ることができた、体験することもできた。
僕も好んで僕の見聞をもっと多くの人々に詠った。
たとえ学齢前の子供たちでも、僕のストーリーを聞いて喜ばしい笑顔を見せてくれた。
あの日、僕は桜の島に向かう途中、道で倒れてる虫の息の奴を見つけた。
彼の見た目はかなり幼い。体がもう満身創痍にも関わらず立ち上がって目の前の堕神に対抗しようとしていた。
彼は堕神の包囲網を突破したばかり、僕は彼が再び苦境に陥る事を見過ごせなかった。
だから僕は手にある麦の穂を振って、彼と共に堕神を撃退した。
戦闘は終わったが、彼のよろよろな姿を見た僕は、彼を抱っこした。
「……何をする!!!!!降ろせ!!!!!!!!」
手にある重さは僕に彼はまだ子供だと感じさせた。
懐にいるチビを見て、僕は思わず先輩としての責任に目覚めた。
「もう怖くないから。家まで送ってあげるから!あそうだ、君の名前は?」
多分照れてるだろうチビは、顔を赤くして僕の懐から抜け出そうと藻掻いていた。
前に出会った友達から聞いたことがある、この歳の子供は自分はもう大人だと主張しがちだと。
彼の気持ちを尊重するため、僕は頷いた。
「この歳ですごいな。名前は?」
なぜか突然彼のおでこに青筋が浮き出てきた、よくわからないが、合わせてあげよう。
「俺を見下ろすな!!!その口調で俺に話しかけるな!俺はもう子供じゃない!殴るぞ!」
僕は思わず笑いながらチビの髪を撫でてやった。
「よしよしよし、もう子供じゃないよね。道はまだ危ないので送ってあげるから家はどこ?」
「……おまえ!もういい。自分で帰る!何をする!!!!離せ!!!!!!!」
道のりで拾ったこのチビはミネラルオイスターと言う食霊だった。なぜ一人でこんな遠い場所に来たのかはわからないが、先輩として僕は彼を家に送ることにした。ちょうど僕の行くところと道が同じだしね。
これも何かの縁だ。
Ⅱ 療養の日々
彼は怪我をしているから、僕は付近にある友人の私塾に彼を連れて行った。
「秋刀魚、久しぶりだな」
長い間会っていない秋刀魚を見て、僕は思わず彼を抱きしめた。
けど彼は思った通り、僕の抱擁を避けた。
「僕の友達が怪我をしている、場所を貸してくれ」
今の自分が気まずくならないために、僕は荷物の中に用意した酒を渡した。
彼は酒を好んでいないけど、いつもここに来て酒を飲みながら桜を見る奴らのために僕のプレゼントを受け取る。
優しい子だな。
「ついてきてくれ」
まるでもう僕に凝視されたくないように、秋刀魚は僕たちを私塾に入れてくれた。
疲れて僕の背中で寝落ちていたミネラルオイスターを静かな部屋に落ち着かせて、僕は前にあったことがあるどらやきの頭を撫でた。
「久しぶりだな。まだ気持ちを伝えてないのか?言わないと一緒になれないぞ!」
「な…何を言ってるんだ!」
顔真っ赤などら焼きが僕の手を払って、逃げた。なぜかわからないが、傍らのたい焼きと桜餅は笑いを我慢しているようだった。
う……僕の言い方が悪かったのか?
ミネラルオイスターの療養の日々はそれほど辛くはなかった。秋刀魚の学生たちはみんな僕の物語が好きだ。
だから僕はここにいる間、彼らが興味のある物語を少しずつ聞かせてあげた。
ミネラルオイスターはひねくれた子だ。
彼はこっそりこっちに向いてきて、僕の歌を聞いてたときの表情はとても真面目だった。
でも僕が彼を見ると、彼はすぐ何もないように顔の向きを戻した。
暴いてはいけないと僕はわかってる、じゃないとまた殴られるから。
僕は歌声に引き寄せられてきた子猫を膝に乗せて、そっと寝た子供たちに毛布をかけた。
ドアを出ると、ベッドにいるはずの怪我人は三毛猫を抱えてドアに寄りかかって寝ていた。
子供じゃないと自分で言ってるじゃないか。
私塾には余分な客室がないから、僕は生カキと相部屋になっていた。
ミネラルオイスターはなんと本当に子供ではないと話し合って分かった。本当の歳すらはっきりとわからない。
でもこの歳が一万に近い爺よりは若いだろう。
彼の身長を見た僕は、思わずこの知り合ってばかりの友人のことが心配になった。
「どうすれば身長が伸びるのか調べてあげるから、心配するな」
「黙れこの野郎!!!!!」
Ⅲ 二人の旅
しばらくして、ミネラルオイスターの傷はほとんど治った。
僕は彼と一緒に私塾の入り口に立って、秋刀魚と子供達に別れを告げる。
僕はあのよく彼の懐に寝ていた三毛猫が彼の足元に伏せて、足で彼の靴を軽く叩く様子を見ている。
「ちゃんと別れを言ってあげるんだよ。この子は君を友達と思っているからね」
「……ち、めんどくせ」
「ハハハ、口ではこう言ってるけど、実際はこいつのことが結構好きだろう」
「黙れ!!!」
鳥居私塾のみんなに別れを告げ、僕たち二人の旅になった。
ミネラルオイスターの本質はいい食霊だ。僕が歌うとき彼はいつも静かに聞いている。僕が寝たとき彼はこっそり夜の警備をし、食べられる果物を見つけたとき僕の分も用意してくれる。
毎回食べ残りだと主張するが、彼の手にあるまだ成熟していない青果実を見るに、味はきっと僕の分よりまずいだろう。
「残さず食べろ!」
「君の分は酸っぱいだろう。交換しようか?」
「……おま……俺は酸っぱいものが好きなんだ!」
一人では長い旅でも、二人なら長く感じない。
間もなくして、僕達はナイフラストにやってきた。
すべての土地には人の好奇心を煽る伝説がある。
「お兄さんお兄さん!この伝説の亡霊が宿っている冠を見てください。これを被る王の国は必ず滅ぶらしいぜ!」
「お兄さん見てください!これは昔滅んだ小国の王女の死に間際につけていたネックレスだ!今なら金貨5000枚だけで買えるぜ!!」
「お兄さん!これは古王朝の王の墓の宝の地図だぜ!!!」
聞いただけで面白く感じる!
近寄って詳しく見ようとしたら、後ろから襟を掴まれた。ミネラルオイスターが僕を引っ張りその貴重な場から離れた。
「馬鹿かお前は!どう見ても嘘だろう!」
「でも……もしかしたら……」
「もしかしたらじゃない!」
「万が一…………」
「万が一もない!行くぞ!」
「でも……」
「黙らねえと殴るぞ!」
ミネラルオイスターは基本いい奴だけど、骨董商を見るたびに僕にきつく当たってくる。
僕達は長く一緒に旅をしてきたけど、別れの時がだんだん近づいてきた。
ついにある日、彼があるところの城壁を呆然と見ていた時、別れる時が来たと僕は悟った。
「俺はもう行く」
「おお。気をつけてな」
「…………お前も……気を付けろ。騙されんなよ」
「う…………分かった」
「口先だけでなく、本当に気をつけろよ。最近堕神が増えたから、夜の野外にいるときは気をつけろ」
「うん!」
「じゃあ行く」
「うん!さようなら!」
「さようなら……」
僕は再び一人の旅に戻った。
月と星が明るい、綺麗な野原には蛍が飛んでいる、美しい光景だ。
「ミネラルオイスター見て!……あ……」
言いかけて僕は気づいた。
二人の旅はもう終わった。
でも大丈夫、次に会う時、僕は君が見逃した美景や、聞きそびれた物語を全部歌ってあげるから。
Ⅳ 再会
「ということは、この前の町の地震でたくさんの人を助けたのは貴方なのね?」
魚香肉糸は手で顎を支えて、質屋を通じて集めた情報を引き離して、興味津々で僕を見ている、でもあの日の記憶は再び僕を困惑に陥れた。
「正解ではないな。僕は一人のお嬢さんと一緒に助けたのだよ」
「たくさんの人を助けたのに、どうしてそんなに憂鬱そうなの?」
「あの子は欲しい答えを見つけたのかな……」
「また他人の心配?貴方自身は?」
「僕もまだ探している。探し続けている…その答えを…」
「自分で見つけてこそ意味がある。貴方もわかってるでしょう?」
「う……まあいい。それはさておき、ダックはどこだ? 一緒に酒を飲みたいのだが」
「タバコを買いに行ったでしょう。もうすぐ帰ってくるはずよ。夜は串串香たちと一緒にご飯だけど、一緒に行く?」
「いくいく」
僕と魚香肉糸は竹煙の迷陣から出た。
煙は自然に散る前、強い風に吹き飛ばされた。外に立って目から火花が飛び散っている二人は長い間会っていない僕の親友だった。
僕は彼らが何をやっているのか気づいていない、気づくと僕はもう二人に挟まれてた。
「おや!ダック!ザリガニ!二人共いたんだ!!ちょうど良い!」
長い間会っていない二人の友人は世界を滅ぼしてやるような姿勢だった。
僕の突然な介入で、彼らは相手に放とうとした攻撃を強引に止めた。
勢い余って二人は躓いた。
「死にたいのかてめえは?!!」
「そなたですかビール…」
怒りと挨拶が重なったけど、僕を困らせるほどではなかった。
僕は頭を傾げて笑いながら手を伸ばして、二人の肩を引き寄せて、親しげに彼らの肩を叩いた。
「久しぶりだな二人共。全く、お互い認めてるのに、なんで喧嘩するんだ。飲みに行くぞ!」
「誰がこんな奴を認めたんだ!!!」
「ビール、吾はこのような荒っぽいやつを認めた覚えはありませんよ」
「仲いいな君たち」
やはり簡単には変わらないか。
この時二人の肩を抱いている僕は二人のこの後の話を聞いてなかった。
僕の視線が及ぶところには、更なる驚喜で懐かしい人が現れたから。
なぜかわからないが、彼のその可愛らしい顔はいつも怒っている。
今もそんな目で僕を睨んでいる、僕は思わず彼に歩き寄った。
「ミネラルオイスター久しぶり。僕はね、君に聞かせたい歌がたくさんあるよ」
Ⅴ ビール
ビールの御侍は高齢な教授だった。
歴史学者として、ビールの御侍は学術界でかなり有名な存在だった。
彼はいつも普通な歴史学者の服装を身につけていた、顎全体を覆うほどの髭、いつも微笑んでいるような目つき、ギラギラしていた手、首からルーペを提げていた。
ビールを召喚した時、彼はびっくりした。
でもすぐ、彼は好奇心に駆られてビールの傍に寄ってきて、真面目に彼の服飾を研究し始めた。
長い時間の研究の後、彼はようやく初めてこの世界にきて少し茫然としたビールに気付いた。
彼の御侍はとても温和な人だ、彼の最大の執着は彼がずっと愛していた歴史だ。たとえそれで有名になっても、この爺さんは初心を忘れず、ずっと夢の完成に執着していた。
彼は難しそうな文献を少しずつ訳したり、壁画から人知れずの歴史の欠片を組み合わせて、誰でも読める物語にしたりした。
彼はいつも古い眼鏡をかけて、暗い灯の下で自分で還元したばかりの歴史を一文字ずつ書き記した。
あの時のビールの趣味は彼のそばに座って、静かに一冊の古い或いは新しい本を開けて、その中からこの彼らに命を与えた世界のことを読むことだった。
ある日突然、ビールの御侍は一冊の本を彼の手に押し込んで優しく言った。
「これは君の歴史だ。よく読むといい」
本の中のビールは、すでに一万年近い歴史があった。
一番最初に祭りに使われた酒として、ビールは初めて彼の服がなぜこんな様子なのかを理解し始めた。なぜ生まれてきた時から持っていた記憶が、祈雨或いは豊作を祈る儀式なのか……
彼は頭を上げてその慈愛の目を向けてきた爺さんを見て、心の底から彼の召喚、そして彼から与えられたものに感謝していた。
その日から、ビールの歴史に対する趣味は、愛に変わった。
愛しているからこそ歌う。
ビールは彼の御侍に聞いたことがあった。これらの儀式は本当に有効なのか?
彼の祈願は、最終的に誰に受け止められるのか?叶えてもらえるのか?
そしてその髭だらけで何でも知ってるような老学者は長く考え込んだけど、明確な答えを出さなかった。
「これはとても複雑で困難な問題だ。人それぞれ自分の答えがある。ビールにも、いつか自分の答えを見つけてほしい」
優しい老学者は最後自分の作品の中でこの世を去った。
御侍が死んだあと、ビールは一人旅に出た。
彼は自分の目で、亡くなった老人に代わってこの世界を見守っている。
彼はたくさんの人と知り合った、たくさんの人間や食霊と親友になった。
歌声で歴史を伝えて、その目で歴史の誕生を見る。
これは彼がずっとやってきたことだ。そのために彼は独りで無数の春夏秋冬を歩いてきた。しばらく休んだことはあっても止まったことがない。
ビールは本当は酒があまり得意ではない。彼の親友の二人は彼がいることで拳でやり合えず、酒の飲み比べをするしかなかった。
ビールはにこにこして二人を見て、止めないし混ぜることもしない、ただゆっくりと、彼に無理やり付き合わされたミネラルオイスターに酒を注いだ。
「彼らは僕の友達だ。彼らの物語を知りたいなら、歌ってあげよう」
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