麻婆豆腐・エピソード
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麻婆豆腐のエピソード
正義感が強く、問題が起きると黙ってられない性格。
同時に情熱的で大胆不敵、とても凛々しく頼れる姉御である。
Ⅰ お店
お婆ちゃんはあたしにお店を残して亡くなった。
お婆ちゃんの料理の腕はとても素晴らしかった。特に彼女の作った麻婆豆腐の美味しさは広く知れ渡っている。
作りたての辛くて香ばしい麻婆豆腐を熱いご飯にかけるだけで、その鮮やかな色は食欲を激しくそそる。
美味しい麻婆豆腐と自由におかわりできる白ご飯のコンビは、一般のレストランの半額よりも安い値段で食べられる。
この値段は数十年一度も変わってなかった原因もあって、港でここの麻婆豆腐を知らない人はいない。
大した給料を貰えない人たちは仕事が終わったあといつも熱々の麻婆豆腐を食べるためにお婆ちゃんのお店に来る。お婆ちゃんもいつも笑顔で彼らにたっぷりの白ご飯を盛った。
お婆ちゃんの麻婆豆腐を食べたことのある人はその味を褒めない人はいなかった。
その麻婆豆腐のためにわざわざ遠くからここを尋ねる人さえいた。
その美味しい味でどうしてもっと高い値段を取らないのかと、お婆ちゃんはよくご近所に聞かれた。
その度にお婆ちゃんは笑って答えた。
「彼が戻ったとき、あの時と同じ麻婆豆腐を食べて欲しいから」
お婆ちゃんの恋人は港の船員だった。二人が知り合ったきっかけはお婆ちゃんの作った麻婆豆腐だった。
でも彼は仲間たちと海に出たあと、ずっと戻らなかった。
彼らは嵐に遭遇したとか、仙境に行って帰り道を忘れたとかよく噂された。
海で凶悪な堕神に殺された噂もあった。
お婆ちゃんはずっとお店で恋人を待っていた。でも髪が白くなっても恋人は帰ってこなかった。
泣き崩れた店員たちに囲まれたお婆ちゃんは柔らかく笑ってあたしの手を握って、
「麻婆豆腐、店は任せたよ……もしあの人が戻ったら、私の代わりに最も美味しい麻婆豆腐を作ってあげるのよ……」
我慢できず涙を流したのは、あの時が初めてだった。
滑り落ちたお婆ちゃんの手を見て、あたしはお婆ちゃんの手を見て、あたしはお婆ちゃんの掌に顔を埋めて約束した。
「必ずお婆ちゃんの代わりにその人を待ってる……必ず……」
あれから、あたしはこの小さな店でお婆ちゃんの代わりにその二度と帰らないかもしれない人を待ち続けた。
「女将さん!麻婆豆腐をもう一つ!」
「はいよ!」
あたしはスムーズに次々とお客さんたちの前に麻婆豆腐を届ける。
初めて麻婆豆腐を食べた一人のお客さんはその辛さに耐えられず舌を吐き出して手であおっている。店員さんは慌ててお茶を淹れてあげて、それを飲んだら今度はお茶の熱さで飛び上がった。
その光景を見てお客さんたちは笑いだした。
港の片隅で、麻婆豆腐のお店は今日も変わらず繁盛している。
Ⅱ かちこみ
安くて美味しい麻婆豆腐は港で仕事をしてる人たちの一番の好物に留まらず、このあたりの住民たちも時々ここで麻婆豆腐を買って晩ご飯のおかずを増やす。
値段が安いだけに大して儲かっていないけど、それでも繁盛してるお店のことをよく思っていない人たちがいる。
新しい商会が来たあと、本来村人と外を繋げるためだけの小さな港はだんだん大きくなってきた。
それが原因で、港での商売を狙ってる人たちはお婆ちゃんのお店が邪魔で仕方ないらしい。
ご近所の話では、お婆ちゃんのお店とそう離れてない場所で大きなレストランが開いたらしい。でもそこは値段が高い上に大して美味しくないから、麻婆豆腐の味が舌に染み付いた近所の人にはあまり人気がなかった。
レストランのオーナーは、人気がない原因は自分になくお婆ちゃんの店にあると勝手に思い込んでいるらしい。お婆ちゃんの店を潰せば自分たちの店が必ず今のお婆ちゃんの店のように繁盛すると思っている。
だから、彼らはいろんな方法であたしを追い出そうとする。
数人のチンピラが棍棒を持って大手を振って店の前にやってきた。店員たちが注文を取りに行ったら、彼らは突然暴れだした。
混乱の中、小葱が突然の大きな音にびっくりしてあたしの懐に飛び込んできた。
一番近いところにいた店員が蹴られて、店のテーブルにぶつかった。
驚いたお客さんたちは逃げたり隠れたりして大混乱。
あたしは小葱のお尻をポンポンしてそばにいる店員に渡して、料理を作ることで濡れた手を服で拭いてキッチンを出た。
ごちゃごちゃにされた店を見て、あたしは眉を顰めて棍棒を持って憎ったらしい顔をしているチンピラたちを見て、目を細めた。
「どうやら、話し合いの余地はないみたいだね」
コテンパンにやられたチンピラどもはあたしの店から転がり出た、折れた棍棒と顔についてる鼻血で更に無様に見える。
皆の歓声と嘲笑いの中で、彼らはあたしを指差して負け惜しみの捨て台詞を吐いた。
「た、ただで済むと思うな!!!」
あたしは笑みを浮かべて適当に手を振った。
「次はアンタらみたいな雑魚じゃなくて、もっと殴りがいのある人をよこすようにアンタらオーナーに言っておきなさい!」
皆の拍手と笑い声の中で、あたしは皆に一礼をして店に戻って、店員を呼んで倒れたテーブルと椅子を片付けて、店を再開する準備に入った。
片付けの途中、お婆ちゃんが亡くなる前からずっと店に居た一人の店員の目が少し怪しく見えたから思わず気になった。
彼のキツく顰めた眉の間を見て、
「老洪、どうしたの?何か困ってることがあったら皆に言うのよ」
老洪はまるで悪夢から目が覚めたように、
ビクってして慌てて少し無理に笑った。
「だ、大丈夫だ」
背を向けた老洪の曲がってる背中を見て、あたしは眉を顰めた。
Ⅲ 裏切り
老洪がますます怪しくなってきた。彼は嘘をつけない真面目な人だ。でも最近彼はよくこそこそカウンターを覗き見る。何がしたいのかあたしにはわからない。
ある日、買い出しから帰ってきたあたしは引き出しの整理をしてたとき、カウンターの奥に隠してあった印章が触られた痕跡があると気づいた。
お金を取るときに引き出しを乱したんだろうと思って、あたしはあまり気にしなかった。
喧嘩を売りにくる奴がますます増えた。あたしも開店前のウォーミングアップがわりに奴らを追っ払うことに慣れてきた。でもある日、奴らは現れなかった。
あたしと同じように毎日のかちこみを話題にすることに慣れたご近所も気になったあたりを見回って、
「女将さん、あいつらとうとうビビってこなくなったんだな!」
あたしが答える前に、雑貨屋さんが慌てて駆けつけてきた。
「女将さん!早く逃げるんだ!」
「……どうしたの?」
「あのレストランのオーナーが人いっぱい引き連れてこっちに向かってきたんだ!アンタ一人ではとても相手になれない!早くここから逃げるんだ!」
それを聞いて、皆心配そうにあたしを見て、早く貴重品を持って逃げてしばらく身を隠すようにと説得してきた。
あたしは数十年経営し続けてきた小さな店を眺めてしばらくためらうと、断った。
「皆怖いなら早く逃げるといい、ここはあたしに任せろ」
意外なことに、あたしの言葉を聞いて、元々怖がってた店員たちは皆残ると決心した。ご近所さんたちまで家から箒などを持って加勢しようとした。
皆に礼を言う前、敵の群れがぞろぞろと到着した。
一番前に立ってる豪華な身だしなみのオーナーの得意そうな顔をみて、あたしは何か大事なことを見逃した気がした。
「女将さん、今日は喧嘩をしにきたわけじゃない。借金のことで話に来た」
「借金?あたしがいつアンタに借金をした?」
「それは自分に聞くんだな」
彼は懐から紙切れを取り出してあたしの目の前に突き出した。その下にうちの店の印章が押してある。
「ほら、これは女将さんの店の印章ではないのかな〜」
そのいやらしい笑みを見て、前日の引き出しの中で位置がずれた印章のことを思い出した。
まさか……
あたしは得意そうに笑ってるオーナーを睨みつけた。
「アンターー!」
「ははは、どうやらわかったようだな?でももう遅い、この借用書があれば、女将さんは店を俺に譲るしかないな!三日だけ待つ、さっさと店を閉めて出て行け、じゃないと衛兵を連れて差し押さえに来るぞ!」
「アンターー!これは偽物だ!」
「でも印章は本物だろ!まさかこの印章を認めないのか、女将さん?ははははは!!」
「別に認めなくても大したことじゃない」
あたしたちが対峙してる時、一つの声が緊張の雰囲気を破った。
振り返ると、一人スーツの男が軽そうに眉の端をあげて微笑みながら挨拶をした。
「その印章に関してなら、俺が説明しよう」
その男は周囲の視線に慣れた様子で、オーナーの手から借用書を抜いて、しばらく観察したらゆっくり老洪に近づいて、その肩に手を置いた。
「この借用書はまだ新しい、それに字も女将さんのものじゃないし。オーナー、こんな臆病者を味方につけるとは、邪魔にしかならないじゃないか?ほら、アンタ、この前女将さんが買い出しに出たとき、街角でレストランのオーナーと何を話した?何を渡した?」
「俺はーー」
「アンタ、言うことに気をつけろよ。あの日俺のダチが全部聞いたぞ……」
男の言葉を聞いて、老洪の顔が真っ白になった。彼は突然地面に跪いて、あたしに顔を下げた。
「女将さん、俺は、そうするしかなかったんだ……まさかその紙がそういう意味とは知らなかったんだ……字が読めないから……女将さん……」
何度も頭を地につけた老洪を見て、何かあったのかすぐにわかったけど、それでも少し悔しかった。
「老洪……どうして早く言ってくれないの……」
「……女将さん……アンタもそんなに金がないことは知ってるんだ。母さんの病気は、いくら麻婆豆腐を売っても賄えないよ……」
泣き崩れた老洪を見て、あたしはキツく拳を握った。
陰謀が露見したオーナーは逆ギレして吠え始めた。
「全員かかれ!この店を潰せ!!いままでよくも俺の商売を邪魔したな!」
簡単に状況を覆したその男はあたしたちを後ろに庇って冷笑した。
「話はまだ終わっていないのに、何喚いてんだ?おいお前ら、この港のボスは誰なのか、オーナーさんに教えてやろうじゃないか。ここは俺たち景安商会の縄張りだ、たかがレストランのオーナーの分際で生きがるな!」
Ⅳ 許し
混乱のあと、オーナーが連れてきたチンピラどもは商会のメンバーたちにコテンパンにやられた。
あいつらはまだ吠えながら拳を振り回してるが、顔が豚のように膨らんで歯も何本か欠けたその無様な様子は周りで見ている住民たちの笑い種にしかならない。
住民たちを帰らせたあと、店員たちも早めに退勤させた。最後老洪だけが帰らずに残った。
あたしはその男に振り向いた。彼はさっき喧嘩のために巻いた袖を下ろして、部下から上着を受け取った。
「なぜあたしを助けたの?」
「あんな奴らが俺の縄張りを荒らすのを看過できなかった、って理由はどうだ?」
男の笑顔を見て、あたしは不満げに眉をひそめた。
「あたしってそんなに騙しやすい人に見える?」
男は笑顔のまましばらくあたしを見つめると、やがてその笑ってるようで笑ってない顔をやめて、スーツの上着を腕に掛けた。
「正直言うと、俺が君の店に来たのは、あのずっと現れていない先生を探しに来たのだ。北京ダックさん、噂はかねがね、よろしく」
彼の視線に沿って振り返ると、いつの間にか店から出てきた北京ダックの奴が、いつも持っているキセルを片手に店の入口に寄りかかっている。
「これはこれは、景安商会の会長さん、或いは佛跳牆さんと呼ぶべきでしょうか」
訳がわからないままお世辞を言い合い始めた二人を見て、頭が痛くなったあたしはひとまずこの二人のことを後回しにすると決めた。
二人ともあたしに遠慮するつもり全くないみたいで、さっさと店に入って落ち着いて、何やら大事なことを話す雰囲気だった。
地面に跪いたまま頭を上げない老洪を見て、あたしは再びどうしようもない気持ちになった。
あたしは彼を起こして、服についてる埃を落とした。
「老洪、どうして」
いつも大人しい性格の男は落ち込んだ様子で立ち尽くして、頭を低くしてあたしを見ようとしない。
彼はいつも大人しそうに笑ってた。こんな悲しい表情を見るのは初めてだ。
「女将さんには悪いことをした、婆さんにも顔向けできない、しかし……俺は本当に金が必要なんだ……すまない……すまない……」
「ちょっと待ってて」
あたしは店に入って、こんな短時間で、北京ダックと佛跳牆はもうかなり仲良くなったみたいで、二人は訝しそうに店に入ってあたしを見やる。
「麻婆豆腐?どうした?」
「この前の情報料、決済して」
「え?受け取らないんじゃなかった……」
北京ダックは困惑した様子だけど、それでも腰から財布を取ってあたしに渡した。
「自分で取るといい」
あたしは中から少しお金を取り出して、財布を北京ダックに投げ返した。
「それだけでよろしいので?」
「いい。後で詳しい事情を話しに行くから」
あたしは店を出た。老洪はまだ離れてない。
あたしはお金を彼の手に押し付けた。彼は驚いた風にあたしを見て目を見開いた。
「女将さん?!」
「そんな目で見ないで、店の面倒はあたしが見るってお婆ちゃんに約束したんだ。アンタも店の一員でしょ」
「ありがとう、ありーー」
「喜ぶのはまだ早いよ。お金は渡したけど許したとはいってない。犯した過ちは自分で頑張って償いなさい。明日から、アンタの勤務時間を二時間増やす、このお金を全部返すまで給料は半減。それとトイレ掃除も手伝いなさい」
「はい、はい……女将さん……ううう……」
「何泣いてるのよ!」
「ううう女将さん…………」
Ⅴ 麻婆豆腐
麻婆豆腐はとても豪快で義を重んじ、寛大な人だ。村人たちが困ってる時、彼女はいつも惜しみなく力を貸してくれる。
彼女の御侍も、村人たちの間で称賛されていたお婆さんだった。
お婆さんに子供はいなかったから、麻婆豆腐は彼女の店を引き継いで、お婆さんが得意な麻婆豆腐を更に美味しく作った。
なぜ値段を上げないのかと、麻婆豆腐はよく聞かれる。
その度に麻婆豆腐は笑いながら頭を振って答えない。
繁盛してるお店はある人たちの反感を買い、彼らは卑しい手段で麻婆豆腐を追い出そうとしたが、佛跳牆の助力で大して賢くもない陰謀はすぐに露見した。
麻婆豆腐はその金に困って馬鹿なことをした店員を追い出さなかった。彼はお婆さんの時から、十数年ずっと店に居た男だ。
そのお婆さんを自分の母親のように思ってる中年男はどれだけ孝順な人なのか麻婆豆腐は知っている。男がなぜ自分を頼らないのかも知っているーー確かに店は繁盛してるけど、値段が低いだけに収入がかなり少ないから。
だから、麻婆豆腐はあの金持ちに声をかけた。
北京ダックと言えば、彼はいつもとある邪教の情報を集めている。港の近くで生活している麻婆豆腐は彼の情報源の一つだ。
その邪教の悪行を知った麻婆豆腐は無条件に彼の要求を飲み、彼の情報源の一つになり、邪教に関する情報を集めて彼に渡している。
彼女は一度も北京ダックから金を要求したことがない。たとえそれが北京ダックがあらかじめ彼女と約束した正当な報酬でも。
たとえ北京ダックが強引に彼女に金を渡したとしても、彼女はいつもこっそり北京ダックの荷物にその金を返した。
だから彼女みずから北京ダックに情報料を要求したとき、北京ダックはかなり驚いた。
なぜこの頑固な人が顔を赤くして自ら報酬を要求した?
店の中に隠れて少しの事情しか聞こえなかった北京ダックは面白そうに顎をさすった。
すぐに、彼は佛跳牆から店員のことを聞いた。
だから、佛跳牆が満足して店を出たあと、店に戻った麻婆豆腐を待ってるのは北京ダックの笑ってるようで笑ってない、面白がるような表情だった。
「助けが必要なら言ってくれればいいのに、自分一人で背負う事もないでしょう。吾らは戦友ではないか?」
麻婆豆腐が不機嫌そうに彼を睨んだ。
「あたしのことはもういい。なぜアンタがここにいることを佛跳牆の奴が知っているんだ?彼はどんな用事でアンタを探しに来たの?」
北京ダックは目を細めて話題を変えようとする麻婆豆腐を見て、彼女が怒り出す前に答えた。
「彼は景安商会の会長です。最近陸上での商売に乗り出そうとしています。商人にとって一番重要なのはもちろん情報です」
「それで?彼をたかったの?」
「人聞きの悪いことを。これは同志間の協力し合いですよ」
「悪徳商人どもが……」
「おや、吾は別に商人ではありません。吾はただの質屋の店主です。でもまぁ、賢い人と話すのは楽しいですね〜」
麻婆豆腐は不機嫌そうにこの煙を吸って吐く奴を見やる。北京ダックは平静を装ってるけど、大商売が成功させたことの喜びを隠しきれてない。
「小葱、こんな金持ちのことなんて放っておいて、行こ」
麻婆豆腐は足元のパンダを抱き上げた。
「えーそう言わずに。吾はまだ麻婆豆腐を食べてませんよ」
「作ってあげない」
「では小葱を抱かせて」
「抱かせてあげない!」
麻婆豆腐と北京ダックが小葱を奪い合ってるところ、一人の老いてよろよろな姿が、一人の若者に支えられて店の前にやってきた。
「帰ってきた……ようやく見つけた……ようやく帰ってきた……」
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