炎炎の熾火・ストーリー
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目次 (炎炎の熾火・ストーリー)
炎炎の熾火
プロローグ
感謝祭前夜
願いの館
温泉の湯気が部屋全体に広がっている。フォカッチャは手慣れた動きで通用口から入り、背後に誰もいないことを確認するとようやくホッとした表情を浮かべた。
フォカッチャ:ブイヤベース?どこに行ったんだ……まさか、また温泉でのぼせてんのか?!
フォカッチャ:待ってろ今俺が助けに……!ぐぁっ!
フォカッチャが温泉に飛び込もうとした瞬間、隅っこに佇む姿に気付いた。
フォカッチャ:ブイヤベース?!いるじゃねぇか……ビックリさせんなよ、なんで返事しねぇんだ?
ブイヤベース:……
フォカッチャ:なんだ?何があったのか?
フォカッチャがもわっと広がる湯気を払うと、無言で立ち尽くすブイヤベースが見えた。眉をひそめ、いつもの淡々とした様子とは明らかに違っていた。
ブイヤベース:わたし……
ブイヤベースは何かを言おうとしたが、フォカッチャの格好に気付くと一瞬口ごもった。
フォカッチャ:……感謝祭かなんかのイベントをやってるから、無理やりこれで接客させられてんだ……はぁ、このシッポマジで邪魔だな……
ブイヤベース:そう、可愛いですよ、似合っています。
フォカッチャ:お前っ、ジロジロ見んじゃねぇ!で、何があったんだ?
ブイヤベース:その……この貝殻が……砕けました。
フォカッチャ:貝?
フォカッチャがブイヤベースの視線を追うと、文字が刻まれた貝が見えた、そしてその表面にはヒビが入っていた。
フォカッチャ:ここのお守りじゃねぇか、なんでそんな事になってんだ?
ブイヤベース:ええ、ここに落ちていて、何日経っても誰も取りに来ません……そして、今日……砕けていたのです。
フォカッチャ:そこにはお前の念力が込められてるんだろ?
ブイヤベース:ですから心配しています……お客様が危険な目に遭っているのではないかと……
フォカッチャ:早くそいつを探し出さねぇとな!どれどれ……貝に書かれているのは……チャール?
ブイヤベース:お客様の名前ではありません……しかし、お客様と関係のある人かと思います……
フォカッチャ:まずはこのチャールを探そう!行くぞ!
ブイヤベース:しかし……あなたを探しているボロジンスキーの声が聞こえたような……
フォカッチャ:あははははっ!空耳だろ!俺の今日のノルマは終わってる、今は人探しが第一だ!
ブイヤベース:わかりました……ありがとうございます。
ストーリー1-2
しばらくして
カーニバル
子分:リーダー、チャール男爵の情報掴めました!
フォカッチャ:わかった、耳が遠い訳じゃねぇんだから、そんな大声を出すな!
子分:えへへ、さーせん……あれ?リーダーはいつからそういう服に興味が……いたっ!
フォカッチャ:情報を教えろ!
子分:はっ、はい……コホンッ、チャール男爵は有名な慈善家で、主に児童を支援しています。今日、彼は自分の荘園でパーティーを開くらしいですよ。
フォカッチャ:パーティー……?どこだ?
子分:へへっ、きっと行くつもりだと思ったんで、場所だけじゃなくて招待状も手に入れてきましたよ!
フォカッチャ:よくやった。ブイヤベース行くぞ、そのパーティーとやらを見てみようじゃねぇか。
ブイヤベース:うん……
フォカッチャ:待て……正門はダメだ、シーザーに見られちまったら……絶対チクられる……
ブイヤベース:何故シーザーに見られたらダメなのですか?
フォカッチャ:……あー、この話は後ですっから!早く行くぞ!
夜
とある荘園
豪華で広大な荘園は月光を浴び、美しいメロディーと光が輝いている。フォカッチャとブイヤベースがロビーまで辿り着くと、侍者の格好をした人がまっすぐ立っているのが見えた。
使用人:お二方どうぞこちらへ、宴会ホールでございます。
フォカッチャ:待て……招待状をチェックしねぇのか?
使用人:チャール男爵はとても寛容な方です、貴方様の服装がパーティーの入場券になります。
フォカッチャ:俺の服装が……入場券?
使用人:ふふっ、お忘れですか?今回の我々のテーマは「文明と野獣」です、お二方の服装はまさにこのテーマにピッタリです。特に人魚の扮装は実にリアルですね、チャール男爵がご覧になったらきっと喜ぶでしょう。
ブイヤベース:……
使用人は終始礼儀正しく微笑んでいた。訳がわからなくなったフォカッチャが視線をドアの向こうに向けると、そこには動物に似た多種多様の服を纏った人々が行き来していたのだ。
フォカッチャ:貴族ってのは色んな遊びを知ってんだな……
しばらくすると--
二人は大きな宴会ホールを歩き回ったが、チャール男爵は見つからなかった。
フォカッチャ:ったく、香水の匂いで鼻が曲がりそうだ。ブイヤベース、場所を変えないか……
フォカッチャ:あれっ?あいつまーた消えやがった……
フォカッチャは鼻をつまみながらあたりを見回した。すると、そう遠くない隅っこで、ブイヤベースが華やかなドレスを身に纏った女性たちに囲まれているのが見えた。
貴族女性A:あら~どこの坊ちゃんかしら、なんてお美しいのかしら~
貴族女性B:ふふっ、明日はお時間ありますでしょうか?ちょうどお茶会を開こうと思っておりまして……
ブイヤベース:あっ、あの……ごめんなさい……
フォカッチャ:まずい、ブイヤベースのやつ顔真っ赤じゃねぇか、また倒れたら……おいっ!ブイヤ……
フォカッチャが人混みの中に割り込もうとした時、真っ赤な人影に阻まれた。
貴族女性C:見ない顔ですね、チャール男爵のご友人かしら?
フォカッチャ:あー……おっ、俺は……
雪のように顔を真っ白に塗った女の顔が近づいてくる。フォカッチャはどう答えたら良いか迷っていると、近くのテーブルに置かれたフルーツ盛りに気付き、咄嗟に応えた。
フォカッチャ:パッ、パッ……パイナポーだ!
貴族女性C:……ふふっ、なんて特別な名前かしら。パイナポーさん、よろしければ、私と一杯いかがかしら……
―――
⋯⋯
・すまん、興味ねぇ。
・ここの酒飲んで何になんだ。
・俺たちにはまだやる事がある。
―――
フォカッチャは目の前の貴族を避けて、ブイヤベースの前に割り込み彼の手首を掴んだ。
フォカッチャ:少しどいてくれねぇか?こいつは俺の連れだ。
貴族女性A:あら、まさかそういう関係だったとは。ふふっ、申し訳ないわ~
貴族女性B:お連れの方がいらっしゃったのね、残念ですわ。
ブイヤベース:うん……
二人が人混みを通り抜け宴会ホールを後にすると、彼らの背後の死角から濃紺の人影が出て来た。
ハカール:ふふっ、アナタが簡単にあしらわれるとはね。さっきの光景は、ちゃんと脳に焼き付けないと。
貴族女性C:そんな暇があるなら、あの厄介な2人を始末する方法を考えたらどうだ。
ハカール:安心しなさい、あの二人にワタクシの計画を邪魔させたりしないわ……それにしても、香水つけすぎたんじゃない?正体がバレたら、「顔のない男」の名声が台無しよ。
ラザニア:私の偽装がバレることはない。成金はバカみたいに香水をつけるのが好きだろう……もう無駄話はいい、仕事に戻れ。
ハカール:ふふっ、やっぱり、あのワンちゃんがいるのを見て焦っているみたいね。
ラザニア:……
ハカール:そう怒らないで。本番の準備に取りかかる、アナタの健闘も祈っているわ。
ストーリー1-4
少し静かな廊下の曲がり角、パーティーの喧騒はここには届かないようだ。周りに人がいないことを確認すると、フォカッチャとブイヤベースはようやく足を止めた。
フォカッチャ:はぁ……ようやく逃げ出せた、人間の貴族ってのはやっぱ手強いな。
フォカッチャ:チャールって一体どこの誰だ、あれだけ聞き回っても、誰も居場所を知らねぇなんて、おかしいだろ……
ブイヤベース:うん……
フォカッチャ:どうした?何見てんだ?
ブイヤベース:ここに、扉が……
ブイヤベースが手を木製の壁に当てると、急に機械が動いているような音がした。壁がゆっくりと動き出し、奥へと繋がる廊下が現れた。
フォカッチャ:よく見つけたな!
フォカッチャが驚きを隠せないでいると、奥から微かに物音と人の声が聞こえてきた。
???:うっ……たす……たすけ……
―――
⋯⋯
・その場でもう少し様子を見る。
・声を出して尋ねる。
・直接行って確認する。
―――
二人が歩き出すと、微弱ながらも助けを求める声が絶え間なく聞こえてきた。彼らは躊躇う事をやめ、同時に足を速めた。
ドンッ!
木製のドアが衝撃で開かれた。整然とした貯蔵室の中、縄とテープで縛られた男がソファーに倒れ込んでいる。彼の派手な服から見ると、この男も貴族の類だろう。服が少し乱れているが、胸元にある赤い宝石のブローチがとても輝いていた。
突然の来訪者に、男は興奮を抑えきれないでいた。しかし、彼の口にはテープが貼られており、うまく話す事ができず、必死で悲鳴を上げて助けを求めるしかなかった。
フォカッチャ:慌てるな、すぐに外してやるから!
???:はぁ、はぁ……誰かが助けてくれると思った!本当にありがとう!
???:でも、見たことのない顔だな……
フォカッチャ:コホンッ、俺たちは少し特殊なんだ、守秘義務がある……それより、お前はどうしてここに閉じ込められてるんだ?
???:ある邪悪な女が私を拉致したんだ!彼女は私の部屋に入り込んで、何も言わずに私を拉致した!今夜のパーティーの主役は私だというのに、なんて事だ!
フォカッチャ:お前がチャール男爵か……コホンッ、ブイヤベース、あれを彼に見せろ。
ブイヤベース:はい……これに、見覚えはありますか?
???:なんだそれは……どうして私の名が書いてあるんだ?
フォカッチャ:はあ?お前の名前が書いてあるんだから、お前のお守りだろう?
チャル男爵:私の……?貝殻なんか買った覚えはないが……
ブイヤベース:あなたは確かに願いの館に来た事はありません。これは……あの子があなたの代わりに願ったものです……
チャル男爵:願いの館?あの何でも叶えてくれるという人魚の?私は何回も行ったが、一度もお守りを手に入れた事は……
何かを思い出したように、男爵は急に目を輝かせた。
チャル男爵:私の名前が書かれているのなら、私の物だろう、返してくれてありがとう。
ブイヤベース:では、貝殻を贈った女の子の事は覚えていますか?彼女は春の日施設の子です。
チャル:はっ、春の日施設?!
ブイヤベース:?
ストーリー1-6
急に慌て出した男爵を見て、フォカッチャもブイヤベースも呆気に取られた。しかし、相手はすぐに落ち着きを取り戻し、大声で語り始めた。
チャル男爵:--春の日施設のことか!私は長年あそこを支援している。この貝殻はきっとそこの子どもが感謝の気持ちを込めて、私に贈ろうとした物だろう。感謝の気持ちを持ってくれるとは、本当に慈善活動をした甲斐があった!
フォカッチャ:本当か?ある慈善家を知ってるが、あいつは名声が欲しいから慈善をやってただけで、実はすっごく悪い奴だった……
チャル男爵:私は違う、私は本当にあの子たちのことが好きなんだ。このパーティーも、寄付金を集めるために開いている。寄付金さえあれば、あの子どもたちもきっと楽しくて暖かい冬を過ごせるだろう!
ブイヤベース:しかし、本当に子どもたちが好きなら……どうして彼女のことを覚えていないのですか……彼女からの贈り物まで忘れてしまうなんて……
チャル男爵:そっ、それは支援した施設が余りにも多いからだ。ほら見ろ、あそこの棚にあるのは全部慈善活動を通して頂いたトロフィーと感謝状だ、あれは確かな証拠だろう。
ブイヤベース:……例え嘘だとしても……このお守りはあなたのものです……大切にしてください。
チャル男爵:ああ、もちろんだ!
―――
⋯⋯
・お客様の願いを守る事、それがわたしの役目ですから……
・こうすればお客様もわたしも、安心できます……
・名前が刻まれていますから、持ち主に返すべきです……
―――
フォカッチャ:わかったよ……つまり、貝殻にヒビが入ったのは、こいつがここに縛られたからか?もう危険はないってことか?
ブイヤベース:いいえ……ヒビはもっと危険なことを意味しています……つまり、あの邪悪な女性は……
フォカッチャ:おいっ!あの女がまだここにいるかもしれねぇ!おいっ、チャール、あの女の顔を覚えているだろ、案内してくれ。
チャル男爵:チャール男爵と呼んでくれ……コホンッ、もちろんだ、私を守ってくれ、後で報酬を用意しよう。
フォカッチャ:報酬なんかいらねぇよ……早くしろ!
3人は慌てて貯蔵室から離れることにした。そして廊下で正装姿の老人に出会う、彼も同じく急いでいるようだ。
老人は男爵を見るや否や、驚きを隠せなかったが、すぐに恭しく挨拶をした。
執事:旦那様……!先程……書斎から出て来たではありませんか……どうして……
チャル男爵:書斎?私は貯蔵室にいたのだが。
執事:しかし……私たち全員見たのです……
フォカッチャ:?!
ブイヤベース:……
チャル男爵:なんだとっ?!そんなバカな……私は……私は自分の書斎で何をしていた?!
執事:それは……わかりません。旦那様が書斎から何か資料を取り出し、宴会ホールへ……向かったことしか。
ゴーン--ゴーン--ゴーン--
時刻を知らせる時計の音が響き渡る。イヤな予感がして、3人は共に背筋が凍った。事情がわからない執事たちは呆然としており、ただ沈黙が流れる。
フォカッチャ:つまり、お前とそっくりな奴が現れたって訳か……
何か似たようなことがあったような……フォカッチャが必死にそれを思い出そうとする。隣に立っているブイヤベースも黙ったままだ。
同時に、何らかの騒ぎ声と共に、慌ただしい足音が聞こえてきた--
使用人:旦那様!大変です!荘園の護衛たちが、全員……倒れています!!!
チャル男爵:?!!!
ストーリー2-2
使用人:旦那様!大変です!荘園の護衛たちが、全員……倒れています!!!
使用人の話を聞いて、男爵の顔が真っ青になった、彼は小声で呟く。
チャル男爵:あの女、あの邪悪な女は一体何がしたいんだ?
チャル男爵:あぁ……今日は本当についていない!
急に何か思い出したように、彼はポケットからあの貝殻を取り出して、地面に投げつけた。
フォカッチャ:何してんだ?!
チャル男爵:これはやはりいいものじゃない!売れば金になると思ったのに……あの小娘、きっと何かイヤな願いでもかけたな!
チャル男爵:こんなガラクタ捨てて正解だったな!あのクソガキ、よくも私を呪いやがって!
ブイヤベース:わたしは……お客様に邪悪な願いなど、願わせたりしません……
チャル男爵:何を言っても無駄だ!あの資料……いや、いかん!
男爵は急に慌て出して、声を荒げながら宴会ホールの方へ向かった。
フォカッチャ:おい、俺たちも行くぞ!
ブイヤベース:ええ。
明るい宴会ホールは混乱していた。2人は男爵の後について行くと、床に紙と写真が散らばっていて、客たちが唖然とそれを見ていた。
フォカッチャが周りを見回したが、執事が言っていたあの男爵とそっくりの人は見つからなかった。
お客:ほら!偽善者のフリをしている人攫いが来た!
騒がしい中、誰かが急に声を上げたせいで、3人が注目を集めることになった。
フォカッチャ:人攫い?
チャル男爵:ちっ、違う!それは濡れ衣だ!!!
チャール男爵が客たちの視線を恐れて、フォカッチャとブイヤベースの後ろに隠れた。
チャル男爵:私は濡れ衣を着せられたんだ……あのペストマスクをつけた女に図られたんだ!あいつがわざとパーティーでこんな噂を流したんだ!
チャル男爵:約束しただろう!私の安全を守れ!
フォカッチャ:まだ状況がいまいちわからねぇが……何が書いてあるんだ?
チャル男爵:ダメだ!見るなー!!!
フォカッチャは男爵の叫び声を無視し、床に散らばる紙を拾い上げた。
紙には取引の詳細が書かれている、マフィアや違法組織と児童施設との取引だった。
子どもたちの名前、出身、写真なども明記されていて、最後にどこに行ったのかまではっきりと記録されていた。
ブイヤベース:……
フォカッチャ:これは……人身売買の取引記録か?!
予想外の状況を前に、フォカッチャは呆気に取られた。文書に書かれている数字は徐々に怒りとなって、彼の胸元の炎の印が一層熱くなる。
フォカッチャ:てめぇ!施設の子どもたちに何をした?!
急に熱くなった空気に当てられ、男爵はよろめいた。彼の胸元は大きな手で掴まれ、周りの騒ぎ声もが次第に大きくなる。
貴族女性A:まさか、施設を援助すると言っておいて、裏であんな取引をしているなんて……彼の爵位も不当な手段で手に入れたものかもしれないわね……
貴族女性B:彼がそういう人だなんて、この前彼の施設にお金を寄付したのに!
お客:嘘つき!慈善家として今日のパーティーを開いたのも、何か企んでいるに違いない!
皆の非難を浴びて、男爵の慈善家の仮面は剥がれ落ちた。崩れ落ちた彼を見ても、フォカッチャの怒りはまだ消えない。
―――
この野郎、よくも子どもたちを傷つけたな⋯⋯
・あの子たちは金儲けのための道具じゃねぇ!
・嘘をついたら覚悟しろと言っただろ……
・代価を支払え!
―――
フォカッチャが男爵に殴りかかろうとした時、男爵の顔は突然歪みはじめ、目も真っ赤に染まった。
フォカッチャ:お前……!
ブイヤベースは叫びながら、急いでフォカッチャを自分の方へと引っ張った。次の瞬間、フォカッチャがいた場所に何か鋭いもので切られた跡が現れた。
男爵の口元にはいつの間にか獣のように牙が生え、爪も鋭くなっていたのだ。
チャル男爵:あああぁー!!!お前たちを殺す!!
ストーリー2-4
チャル男爵:あああぁー!!!お前たちを殺す!!!
フォカッチャ:?!
あっという間に、男爵だった者はまるで獣になったように咆哮し、勢いよく襲い掛かってきた。
突然のことで、宴会ホールの人たちはパニックになり、悲鳴が響く。
フォカッチャ:ブイヤベース!みんなを連れて逃げろ!俺がやつを抑える!
ブイヤベース:ええ、あなたも気を付けてください。
息ピッタリの2人が立ち回る。幸い、獣のような男爵の破壊力は強いが、動きはそこまで俊敏ではなかったため、フォカッチャはすぐに彼を床に押さえつけることができた。
気絶した男爵は抵抗しなくなり、少しずつ人の姿に戻って行くが、見た目は十数も老け込んでしまった。
まだ襲い掛かってくるかもしれないので、念のため、フォカッチャは男爵を縛り付けた。それが終わると、彼は周りを見渡し、思わず眉をひそめる。
フォカッチャ:なんだか……ちょっとうまく行き過ぎじゃねぇか……
―――
⋯⋯
・チャールを拉致した女は……
・どうしてチャールが急におかしくなったんだ……
・あのチャールとそっくりなやつは一体……
―――
フォカッチャはモヤモヤしながら自分の髪を掻き乱す。すると、2階の角で一瞬人影が見えた。その胸元には、一筋の目立つ赤い光がある。
フォカッチャ:あ?あれは……チャールの赤い宝石?!ちょっと待てー!!!
ダッダッダッ--
広い廊下に慌ただしい足音が響く。フォカッチャが追いかけると、屋根裏の部屋まで辿り着いたが、あの人影を見つけられなかった。
フォカッチャ:確かこっちに向かったはずだ、どこに行ったんだ……
???:何を探している。
フォカッチャ:誰だ?!
灯りが一つもない暗闇の中、唐突に一人の男の声が響いた。そして、マスクをつけた髪の短い男がゆっくりと闇から姿を見せる。
ラザニア:私は……荘園に雇われた護衛だ。
フォカッチャ:護衛か。じゃあ、さっき男爵になりすましたやつを見なかったか?
ラザニア:いいえ。
フォカッチャ:……クソッ!逃げられたか!
ラザニア:……チャールがあんな罪を犯したというのに、まだ彼に手を貸すつもりか?
フォカッチャ:別に手を貸してねぇよ、真実を突き止めたいだけだ……
フォカッチャ:前にもあったんだ、全く同じ姿の人間が2人現れるっていうおかしな事が……あいつはあれと関係があるかもしれねぇ……
ラザニア:真実を突き止めてどうする?もう過ぎ去ったことだ、今から何かが変わるとでも?
フォカッチャ:もちろん変わる!あのクソ教授が自分の身代わりでも見つけて、自分の罪を償わずにまだ生きているなら……見過ごす訳にはいかねぇだろ!
ラザニア:……死んだのは本物の教授で、まだ生きているのが身代わりの可能性もあるだろう?
フォカッチャ:あ?それは……待て、俺が言っている教授が誰なのかを知っているのか?お前……
ラザニア:フンッ、私からの誘いを断ったばかりじゃない。チャンスを逃しておいて、今更後悔しても仕方がないわ--パイナポーさん。
男が鼻で笑いながら、急に女のような声でそう言って来た。その声は、どこかで聞いたことがあるような……
フォカッチャ:お前は……さっきの女か?!
しかし、これ以上問いただすことはできなかった。相手は窓から飛び降りると、暗闇に消えていったから。
フォカッチャ:コラーッ!逃げんな!!!
もう追いつけないと観念したフォカッチャは仕方がなく窓から降りることにした。
フォカッチャ:なんでもねぇ……どうだった?あいつらは全員無事か?
ブイヤベース:ええ、安心してください。
フォカッチャ:ふぅ……お前の貝殻残念だったな、あんなクソ野郎に渡っちまってよ……
ブイヤベース:残念だったのはあの貝殻ではなく……あの女の子の素敵な願いです……
ブイヤベース:あなたの炎は……大丈夫ですか?
フォカッチャ:ああ、俺なら大丈夫だ!あっ、抑えるのを忘れてた、ヤケドしてねぇか?
ブイヤベース:ええ、あなたが大丈夫なら問題ありません。
フォカッチャ:じゃあ、一旦戻ろう、チャールも連れてな。ジェノベーゼならあいつが急に変身した原因がわかるかもしれねぇ。
ブイヤベース:そうしましょう。
ストーリー2-6
しばらくして
カーニバル
ジェノベーゼ:うん……
ジェノベーゼ:もう無理だね。
フォカッチャ:そうか……仕方ねぇ、あいつはブイヤベースのお守りも壊したし、これは自業自得だ……
ブイヤベース:……どうして、急に化け物になったのですか?
ジェノベーゼ:新型の毒薬が投与されたようだ……しかも、市販の物やまともなラボが開発したものではない……誰かが自分で開発して、彼を実験台にしたのだろう。
フォカッチャ:それはすげぇな、ジェノベーゼでも解けない毒が作れるなんてな。
ジェノベーゼ:解毒できない訳ではない、治療できるタイミングが過ぎてしまっただけだ。
フォカッチャ:うっ……わかったわかった、うちのジェノベーゼ様が一番だ!
ジェノベーゼ:……この人間を、どうするつもり?
ブイヤベース:……わたしも、わかりません……
ジェノベーゼ:ならちょうどいい、こいつを僕に預けてくれないか。人間を実験台にするなんて、久しぶりだ。
フォカッチャ:……やはり生きているうちに良いことをするべきだな、でないと死んでもろくなことがない……
―――
⋯⋯
・それは彼自身が選んだ道です……
・あの子どもたちが、普通の暮らしに戻れますように……
・今後も……願いの対象をきちんと見定めないといけませんね……
―――
同時刻
とあるバー
夜が更け、大地が暗闇に覆われている。人目がつかない隅っこで、ハカールは優雅な動きで酒を注ぎ、ゆっくりと視線を向かいに移した。
ハカール:あの2人はカーニバルの者だったのね、だからカレがつけていた貝殻から不思議な力があったの。
ハカール:でも今回は随分と大人しいじゃない、アナタらしくないわ。
ラザニア:この程度の報酬で大暴れするメリットがない。金庫に指紋認証がなければ、ここまで手間を掛けずに済んだが。
ハカール:フフッ、でもあの体を使わせてくれてありがとう。ついでに新薬の実験もできたわ。まぁ、もう少し改善する必要があるわね……
まるで日常会話のように、ハカールは淡々と話した。ラザニアは彼女の手元にある様々な液体が入った箱をチラッと見るだけで、これ以上興味はないようだ。
ラザニア:あの男は別に大貴族ではない、どうして彼を選んだ?
ラザニアがそう質問した時、ハカールはちょうどステーキの最後の一口を呑み込んでいた。彼女は満足そうにそれを味わいながら、こう返す。
ハカール:別に選んだ訳じゃないわ。カレが……ルールを破っただけ。取引で勝手にあの子どもたちに手を出したからね……
ハカール:ワタクシはルールを守れない者とは取引をしない主義なの、だからカレはもう用済み。だけど……ルールを守れない人だもの、ワタクシの秘密を暴露してしまうかもしれないでしょう。
ハカールは意味ありげに微笑み、銀色のナイフを見つめるその瞳は銀色が映りより一層恐ろしい光を放っていた。
ハカール:秘密を守れるのは、死人だけよ。
ラザニア:……流石だな。これであいつが代わりに君の罪を背負うことになったし、一石二鳥だな。
ハカール:フフッ、お互い様でしょう?アナタこそ、あの子犬の前で正体を見せて大丈夫なの……?
ハカール:追い回されて面倒だなんて言って、結構楽しんでいるんじゃない?
ラザニア:あいつの仲間が現れなかったら、あの場であいつを殺すつもりだった。
ハカール:あら?そうかしら?そんな風には見えなかったわよ?
彼女の質問を無視して、ラザニアは綺麗になったナイフを仕舞い、ドアの方を向く。そして、こう言い残した。
ラザニア:用事があるからもう行く、ここの会計は頼んだ。
ハカール:あら~無粋なヒトね。
フォカッチャ√宝箱
カーニバルのレストラン
夜が更けているが、カーニバルはまだ賑やかだった。だが、レストランのあたりだけ、少し重い空気が漂っている……
フォカッチャとブイヤベースが戻った時、何故か灰まみれになった青年たちがレストランの前にしゃがみ込んでいて、そのせいで客が誰も入らなくなっていた。
子分:リーダー!おかえりなさい!
フォカッチャ:静かにしろって何回言ったらわかるんだ!早く仕事しろ、何しゃがんでんだ!
子分:実は……その、何があったのかわからないんですけど、レストランのシェフが大暴れしているんです、俺たちに八つ当たりばかりして……
子分:俺たちの仕事は……その……リーダーと同じくらい頼りないって……リーダーが今日キッチンを爆発して逃げたとも言っていました。リーダーの真似をしないで、ちゃんとしろって。
子分:で、でないと……俺たちを丸焼きにするって……
フォカッチャ:……
フォカッチャ:あはははっ!そう言えば大事な用事を忘れてた!だよな?ブイヤベース!
ブイヤベース:はい……?
フォカッチャ:ほら貝殻を……
ボロジンスキー:貝殻ってなんのことだ?それのためにこんな長い時間サボってたのか?チッ……海で貝殻を探しに行ったのか、貝殻に食べられたのか知らねぇけど、なんだその有様は。
背後から伝わってくる聞き慣れた声に、フォカッチャが背筋を凍らせる。
ボロジンスキー:フォカッチャ、よくやってくれたな!今すぐにレストランを綺麗に片付けろ、どこにも行かせねぇよ!
フォカッチャ:なんだと?!
ボロジンスキーの話はまさに晴天の霹靂だった、フォカッチャはこの時ようやく破壊し尽くされたレストランの様子を確認したのだ。まるで強盗にでも入られたようだ。
フォカッチャ:なんだこれっ?!おいっ!俺が出る前は普通だったぞ!
ボロジンスキー:あんたが呼んできたやつらのせいだろ?!リーダーとか呼ばれて、何がリーダーだ!
フォカッチャ:おっ……俺とあいつらは関係ないぞ!……あっ?どこに行った?!あいつらは?!
いつの間にか、もう誰もいなくなっていた。絶望を感じたフォカッチャだったが、結局全て自分でやるしかなくなった。
ブイヤベース:手伝いましょうか……
ブイヤベース:今日、わたしを手伝ってくれましたから。
ブイヤベースの言葉はまるで砂漠のオアシスだった、希望が見えてきたフォカッチャはこのチャンスを逃さなかった。
フォカッチャ:あああああ!兄弟!やっぱり俺にはお前しかいねぇんだ!
ブイヤベース√宝箱
春の日施設
陽射しが柔らかい芝生を照らす。施設はいつも通り、静かで穏やかだった。院長のおかげで、フォカッチャとブイヤベースはすぐに依頼人のベリーを見つけることができた。
フォカッチャ:……というわけで、お前たちが言っているチャールおじさんは、実はとんでもねぇクソ野郎だったんだ!
女の子はフォカッチャたちの言葉を信じられず、目を丸くして、涙をこぼした。
ベリー:チャールおじさんがそんな人だったなんて……あたしと弟が施設に入れたのは全部おじさんのおかげだったの……良い人だと思ってた……
ベリー:ううっ……ありがとう、お兄ちゃんたち……迷惑かけてごめんなさい……あたしがあの貝殻を貰いに行かなかったら……
女の子は自分を責め、涙が止まらない。それを見ている2人はどうすればいいかわからず、不器用に彼女を慰めるしかなかった。
フォカッチャ:お前のせいじゃねぇよ!お前とこの施設にいる子どもたちはみんな被害者だ!悪いのはあの男爵の方だ!
フォカッチャ:今回の事件がなければ、俺たちは真実を知れなかった、もっと多くの被害者が出ていたかもしれねぇ。だから、お前は良いことをしたんだ、お前のおかげで、みんなが助かったんだ!
フォカッチャの話を聞いて、女の子は希望を見つけたように目を瞬かせる。
そして、ブイヤベースも笑みを浮かべ、一つの小さな真っ白な貝殻を取り出し、ベリーに渡した。
ブイヤベース:他人を守る気持ちは悪くありません、あなたは本当に素敵な願いを願ったのです……
ブイヤベース:だから……その気持ちをあなたに送りたいと思います。この貝殻が、あなたとあなたが守りたい人を守れますように。
ベリー:うん……わかった、お兄ちゃんたちありがとう!
女の子の後ろ姿を見て、2人はホッと肩をなでおろした。その時、ブイヤベースの異変にフォカッチャが気付く。
ブイヤベース:あの人……どこかで見たような……
ブイヤベースの視線を追うと、フォカッチャは1人の背の高い男の姿を見つけた、彼は院長と何か話しているようだ。
その男の警戒心は強く、瞬時に2人の視線に気付き、すぐにその場を立ち去った。
フォカッチャ:あいつ……
院長:ベリーとの話はもう済みましたか?
フォカッチャ:どうしてあいつを追う時は、いつもうまくいかないんだ……院長、さっきお前と話していた男は、何者だ?
院長:ああ、あれは我が施設の大恩人です!たった今、彼が大金を寄付してくれました!
院長の話を聞いて、2人は驚きを隠せなかった。
フォカッチャ:あいつは、一体……
善悪がわからないその人物に、フォカッチャは混乱し髪を掻き乱す。しかし、彼はすぐに悩むことをやめ、庭で遊ぶ子どもたちを見て、心から微笑んだ。
フォカッチャ:これで、子どもたちは良い冬を過ごせそうだな……
ブイヤベース:ええ、本当に良かったです……
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