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ミネラルオイスター・エピソード

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ミネラルオイスターのエピソード

怒りっぽく、誰に対しても強烈な警戒心を解かないので近寄りがたい。しかし距離感をつめていくと、ツンデレな一面を見せることがある。行動を共にしているパスタに実力を認めて欲しいと思っている。子どもぽく見られることを何よりも嫌うので、身長の話をしてはいけない……。


Ⅰ 疎外

俺がいるこの村は、グルイラオの辺境にある村である。そこは、封鎖的で貧しい場所だった。

そこの人々は愚かで無知だったーー少なくとも、俺にとってはそう映った。


この村の者は、みな自分たちの住むその場所での生活に固執していた。

彼らにとって、外界との婚姻自体が罪深いこととされ、ほとんどの人々は近しい知り合い同士で婚姻を結んでいる。

村の人間は、見たことない物、見たことない人間は、全て厄災を招くと考えていた。


ーーそれが外より来た旅の者であろうと、彼らが混乱の中で召喚してしまった食霊だろうと同じことだった。


この全ての物事から阻害された地に何故か俺は召喚されてしまった。

彼らは食霊というものを見たこともなければ耳にした事がなかった。まるで堕神にさえあったことが無いかのように。

村の外に蔓延る堕神すら、まるでそこにいないかのように、彼らは目を逸していた。

村の者は皆、俺の出現は最悪の予兆だと畏怖した。

勝手に呼び出された俺からしたら迷惑な話だが、彼らのこれまでの生活を考えたら、仕方のないことだろう。


村の者は俺を見ると、目の前から消したいという思いから、硬い石や腐った野菜を平気で俺に投げつけた。

もちろん俺は黙ってやられはしなかった。目には目をーー投げつけられたものを奴らにそのまま投げ返してやった。

彼らは俺に怯えて逃げていく。自分がしたことをやり返されただけなのに、まるでひどい目に遭ったとでも言わんばかりの態度で。


こんな時、かなりの確率で少し離れた場所に隠れてあたふたしている男の姿があったーー奴は、俺を召喚した男だった。

彼は俺と目が合うと、怯えた様子で逃げて行った。触れたくはないが、俺のことが気になるらしい……そんな彼との奇妙な関係を俺はずっとくすぐったく感じていた。



俺が住んでいたのは質素な茅葺き小屋だった。

雨が降ると、荒廃した屋根を通り抜け、ポタポタと俺の体に降り注ぐ。

雨に濡れたくなかったが、俺はどこに行くこともできない。行き場のない俺は、この寒い小屋でひとり自分の盾を傘代わりに過ごす外なかった。

だが、ここにいる限り誰も俺を脅かさない。ここに俺がいると知っている村のものは、この近くには決して立ち寄らない……だから、ここが俺の唯一の拠り所となっていた。


そんな雨の中、ふと外に視線を向けると、傘をさしてそこに立つ男の姿が目に入る。

俺をこの村へと召喚した愚か者だ。

それに気づいていたが、俺は敢えて気づかぬふりをする。気づいてしまえば、奴は逃げる。もし気づかなければ、あの愚かな男はずっとあの場所で寒さに震えながら、俺の様子を観察しているのだ。


風邪でも引いて寝込めばいい……と俺は、彼から目を逸らす。夜間暗くなるまで、彼はあそこに立ち続けるだろう。

そこまで俺が気になるなら近くに置けばいいものを、あの男は決して俺と関わりを持とうとしなかった。


話しかけてもろくに会話になりはしない。ただ俺のことを知らない、とーー自分は関係ないと喚くだけ。

奴が呼ばなければ、俺はこんなところに来なくて済んだのにーー恨みがないと言ったら嘘になる。

俺は、御侍とまともに話もできぬまま、ただこの村に居る、よくわからない存在となっていた。

いつかここから出て行くことになるだろうと思いながらも、その日を決められずに俺は村で過ごしていた。


そんなある日、村に堕神が現れた。よもや村に入ってくると思っていなかった彼らは大層に怯えた。

それだけならどうでもよかったが、御侍である男は異常に怯え、姿を見せなくなってしまった。

これが契約の力なのだろうかーーわからないが、どうしても彼を放っておくことができなかった。

どこかで俺は彼に認められたかったのだろう。だから、俺は重い腰を上げてしまったーー自分が村の者に認められたりすれば、御侍と共に過ごすことができるだろう、と……そんな淡い期待を持って。


だが現実はそんな俺の希望は妄想に過ぎないと、容赦なく打ち砕いてきた。

見事堕神を退けた俺の前に村人たちは近づいてきた。

「堕神は死んだのか?」

そう、村人は聞いた。彼は村長だったかーー初めて俺は彼の声を聞いた。

俺はただ黙って頷いた。さて、彼らはどんな態度に出るだろうかーー少なくとも、堕神を倒した、その功績を認めるだろうと思っていた俺に、彼らは聞くに耐えぬ罵倒を浴びせてきた。


「お前のせいだこの怪物!」

「堕神にやられた村の者を返せ!」

「お前さえいなければ、こんな怪物は現れなかった!!!」

「見ろ!この田畑を!全部台無しだ!お前のせいでな!!」


俺は興奮しきった村人たちを見て、こらえきれず俯いて自身を笑った。


(こんな状態になっても、俺はまだこの村に居続けるというのかーー)


これが契約の力なのか……わからないが、早くこの忌まわしい状況から解放されたいとーーそれがどんな形なのか、想像すらできないまま、切実に俺は願っていた。



Ⅱ 拠り所

堕神を退治したあの日以降、村人はより一層俺を避けるようになった。

それは御侍すら同じだった。彼は、たびたび訪れていたこの寂れた茅葺小屋に、姿を見せなくなった。

だが、寂しいとは思わなかった。むしろ彼に感じていたような親密感が、どんどんと薄れていって安堵すら覚えていた。

ここには誰も来ないーーだから、誰からも嫌悪の眼差しを向けられることもなく、心無い言葉を浴びさせられることもない。お陰で穏やかな日々を過ごすことができた。



日々することもないので、俺は村に現れた堕神を退治するようになっていた。

決して村人は俺に感謝をすることはない。

俺を堕神同様、いない存在として扱うようになった。

それが良いことか悪いことかわからないが……そんないない筈の俺に、時折御侍がやってきて、家の前に食物や生活品を置いていくようになった。

俺は食霊で食物は必要ない。だが、置いておいても腐ってしまう。彼が黙って置いていくそれらを、仕方なく食べるようになっていた。


いつか御侍がこの食事に毒でも仕込めば、もしかしたら俺も消えるかもしれないな、などと思う。いや、食霊は死なないらしいから、苦しむだけか……それは嫌だな、などと思う。

そんな堕神を倒すこととわずかな御侍と交流を除けば、俺はほとんどの時間を茅葺小屋でひとりの時間を過ごしていた。


こんな日々が流れていき、俺はこれからもこのままなのだろうかと考えていた。

いつまでもここにいても仕方がない、と思いながら、俺はそれでも行動に移せないでいた。

そんなある日、真っ赤な髪の、派手な格好をした眩しさで目を細めたくなるような出で立ちの美しい男が、小屋の門を開けた。

赤髪の男が微笑みを浮かべて私の前に立ち、そっと手を差し伸べてくる。

何事かと、俺は彼を茫然と見上げた。そんな俺に彼は笑顔で言った。


「君をここから連れ出しに来た。私とここから離れる気はないか?」

「なんだお前は。入る前にノックぐらい出来ねぇのか?」

「さて。ノックするようなご立派なドアは見当たらなかったがな」

「……悪かったな」

罰悪くなり、俺はチッと舌打ちをする。すると彼はそんな俺を見て、豪快に笑った。

「では、先程の続きを。お前はここから離れたくはないのか?私が知る限り、ここでの生活は決していいものではないと思うが」


「別に君を無理矢理にここから連れ出すつもりはないが、ここにずっと居ても、君が得られるものは何もないのではないだろうか?」

「お前には関係ないだろう」

「ふむ。決断を急ぐことはない。私は明日の朝この村を発つ。もし私と共に行くなら、村の入り口で会おう」

「……」

俺は黙って男を睨みつけた。その視線を受け止め、その男は不敵に笑う。俺の視線などものともしないーーそんな余裕を醸し出して。

「では失礼。明日、会えることを祈って」

そしてそんな一言を爽やかに告げ、高笑いをしながら、茅葺小屋から離れていった。


男が立ち去った後、俺はひとり考える。

そして、いつまでここでこうしているのか、俺は答えを持っていないことに気が付いた。

『いつか』ここから出て行くーーその決意だけはしていたというのに。

このままここにいても、御侍とよくわからない関係を続けるだけだ。その未来に希望はないと自分でも痛々しいほどわかっていた。

そして、俺は決心した。明日、この村を出る、とーー



俺は小屋の中を見渡し、荷物をまとめようとする。だが、数年は暮らしたであろうこの小屋で、持っていこうと思える物が何一つないことに気が付き、我ながら可笑しく思えた。

そうなって初めて、ここに固執していたのは、御侍との関係だけだったのだ、と自覚せざるを得なかった。

あんな御侍でも俺にとっては特別な存在だった。これが『契約』というものか……なんとも忌まわしい、と俺は舌打ちした。


そして俺は何も持たずに外に出る。

まだ空が暗かったが、うっすらと太陽が昇り始めているのが見えた。外の空気は少し肌寒く、そういえばこんな時間に外を歩くことはなかったな、と思いつく。

村の中心に出ると、まだ明け方だというのになぜか村人の姿があった。しかし彼らは遠巻きに俺を見るだけで、話しかけてすら来ない。不安と嫌悪の入り交ざった眼差しで俺を見ていた。

その様子でわかった。彼らは俺を見るためにここにいるのだ……ここから立ち去る俺を見届ける、そのためにこんな明け方から待機していたのだ。


俺は村人の群れに向かって、ジロリと一睨みしてやる。すると、彼らは「ヒッ」と情けない声を出して、身を縮こまらせた。

俺が奴らを攻撃すると思っているのだろう。そのバカげた妄想に俺は呆れて失笑してしまう。なんて愚かな者たちなのか、と。


そんな彼らを遠巻きにしながら、俺は、村の入り口へと向かった。

そこには、この村の者たちとまるで雰囲気の違う、華やかな出で立ちの男が立っていたーーそう、昨日の男だ。

これは俺の姿を認め、ニヤリと笑った。やはり来たか、とそう言わんばかりの偉そうな表情だった。

そんな彼を見て、俺は思わず笑ってしまった。

「なぜ笑っている?」

「ああ、自分のバカさ加減に思わず笑ってしまった」

「ふむ?」

よくわからないといった様子で、彼は小首を傾げる。そんな彼に、俺は自分の心境を説明してやることにする。


「俺はお前とともに、ここから出ていくことに決めた。そのことが可笑しいんだ」

「それの何が可笑しい?」

「俺はお前がどこの誰かすら知らんというのに、お前と一緒に行こうとしているんだ。この事実を笑わずにいられるか?」

「なるほど、確かに通常なら可笑しなことだ。だが、相手はこの私だ。この存在感があれば、信用するのに余計な説明は不要ーーということだな」


目を伏せ、自信満々でそんなことを語る彼に、俺は呆れていつも納得した。そうだ、何故か俺は彼は信用に足る男だ、とそう思ったのだ。

この村にはどうしようもないものしかいなかった。その誰よりも彼はその存在が神々しく、信じたいと思わせる存在だった。

だが、それを教えてやるのはさすがに癪で、俺はそれ以上この話を言及しなかった。仮にこいつが俺を裏切ろうと、ここから出ていくきっかけになったことは事実だ。

それ以上のことを、彼に求めるつもりもなかったし、仮に騙されていたとしても、その流れに乗って、ここを去れるならよいーーそう思えた。


「それで?これからどこへ向かうんだ?」

「そんなことは語る必要のないことだ。これから君は私の傍にいるんだ。もう一人でこの世界に向き合うのではない」

「……」

(どうやら、答えるつもりはなさそうだな)

やばいことになりそうなら、逃げてやればいい……俺は黙って彼についていくことにした。


そのとき、村の入り口から、黙って俺を見つめている存在に気が付いたーー御侍だ。

俺は一度振り返って彼を見る。彼は驚き身を縮こまらせる。しかし、そこには隠れる場所もなく、彼の間抜けな姿は俺に丸見えだ。

彼との契約がどうなるのかわからない……だが、ここから立ち去ることに、今はさほどの抵抗がなかった。

こんなにあっさり彼への執着が立ち消えるとは、と少々拍子抜けしつつも、どこかで安堵と寂しさを感じていた。



それからしばらくして、彼は俺をナイフラストにあるディーゼという名の旅館に連れてきた。そこのオーナーは赤いスカートの美しい食霊だった。

ディーゼ旅館の経営者である赤い目の優しい女性の名は、ボルシチと言った。

そのスカートのように美しい瞳をもっている彼女は、キラキラと目を輝かせ、俺を迎え入れてくれた。

そして彼女は、俺をここへ連れてきたものが「パスタ」という名前であることを教えてくれた。


その後、俺はディーゼ旅館に滞在し、ボルシチが持ってくる情報からパスタが選んだ任務を請け負うことになった。

唐突な成り行きに、少々面を食らいつつも、特に行く先もなかった俺は、任務完了後に入る生活費に惹かれ、そのままここに居ついてしまった。


これはとても簡単な等価交換だ。

ーー自分の労働によって、金銭をもらう。

なんともシンプルで、なんともわかりやすい。


ここでは誰も俺を嫌悪することもなく、災厄の元凶とみなす者も存在しなかった。

ここでの生活は確かに楽ではないものの、俺が望んでいたものだった。

ここにいてもよい、というのはとても居心地のよいものだ、と改めて思った。


パスタは任務に行くとき、いつも機械のような食霊を連れていた。名前はB-52と言うらしい。

そんな彼とは違い、俺がパスタに同行できるのは、限られたときだけだった。

置いていかれた任務の後、B-52の体には新しい傷ができていた。そう、自分が置いていかれるのは、そうした厳しい状況の任務においてだった。

俺は、自分もそうした危険な任務に同行したいことをパスタに伝えた。だが、パスタは俺の申し出を受け入れようとはしなかった。


「なぜだ!なぜ俺を連れていかない!俺の力なら、お前たちと共に戦えるはずだ!」

「……力だけあってもつれていくことはできないな。行くぞB-52

そんな彼の後を、B-52は黙ってついていく。俺は、立ち去る彼らの背中を見て考える。

ーー俺に欠けているものはなんだ?

その答えを見つけ出し、近いうちに必ず彼らと共に戦う……強く、そう思った。


Ⅲ 任務

その後も状況は変わらない。半年以上過ぎたが、パスタは俺に、比較的安全な任務しかさせてくれなかった。

そうした日々を重ね、俺の不満の声もでかくなる。


パスタ!いい加減俺も危険な任務に同行させろ!なぜ俺を置いていく!?」

「いつか、お前がこの世界の真実を見抜けるようになったら連れて行ってやる。今のお前にはまだ早すぎる」

パスタ!待てよ!」

「ーー話は終わりだ。行くぞ、B-52


無常に部屋のドアが閉まった。

彼はにべもなく俺の申し出を断る。そこだけはずっと変わらない。強い意志を感じた。


「くそ……!いつになったらいいんだよ!」

俺はパスタの過去を知らない。そして今彼が何をしようとしているのかもわからない。想像すらつかなかった。

だが、パスタボルシチの会話から、間違いなく俺がやっているような小事をこなしているのではないことはわかっている。

(早く……パスタたちと一緒に戦いたい!)

その思いは日に日に強くなっていった。


だがある日、ディーゼ旅館からB-52が姿を消した。

いよいよ俺の出番かーーと思ったが、やっぱりパスタは俺を厳しい任務に同行させてくれない。B-52が去った今、彼はその暗く長い道をひとりで歩いている。


ーー俺はパスタと肩を並べて歩きたい。

俺は、彼が一体何をしようとしているのか知りたい。

あのひどい環境の村から、俺を救出してくれた彼の助けになりたい……

いつしか俺は、そんなことを願うようになった。


だが今のままではパスタは決して俺を受け入れないだろう。

(……だから俺はもっともっと努力をしないといけないーー)


B-52が姿を消したことで、俺たちの生活に変化はなかった。だがこれは、俺とボルシチに限ったことだ。

彼が消えたことはパスタにとっては大きな損失だったようだ。もちろん彼は、それを表には出さない。だが、常に彼の様子を観察している俺は気付いてしまった。


B-52が消えたことで最も影響を受けているのは、おそらく任務遂行の効率だろう。

B-52がいた頃であれば、一週間もあれば終わっていた人も、今は二週間かかっている。

このままではいけない……と俺は焦り出す。

この感情は、なんだろう?


その答えは簡単だった。俺はいつの間にか、あのいつもカウンターの後ろに立ってボルシチと、何を考えているかわからないパスタを『家族』のように思い始めていたのだ。

特別な存在だから心配なのだ。少しだけ、かつて過ごした村で御侍に感じていた想いに似ているな、と思った。


それから数日後。まだパスタはひとり旅だった任務から戻ってきていなかった。

「困ったわ。桜の島に頼みたい任務があるのに……パスタは何時戻るのかしら」


カウンターでボルシチがため息をつく。そんな彼女を見て、俺は眉を顰め、探りを入れるように訊ねた。

「何の任務だ?俺が行くよ」


ボルシチはそんな俺の言葉を聞いて、申し訳なさそうに首をふった。

「……パスタから言われてるの。あなたに行かせてはダメだって。貴方には危険すぎるから」

「俺もあいつの助けになりたいんだ。頼む。行かせてくれ」


ボルシチは私の真剣な訴えに根負けしたのか、長い溜息をついた。

「……わかったわ。でも気をつけてね、桜の島はそう簡単に出入りできる場所じゃないから」



ボルシチの言っていた通り、桜の島は堕神の数が尋常ではない場所で、一歩足を踏み入れた途端、次から次へと堕神が襲ってきた。


どれだけ戦っても、堕神は後から後から現れる。絶え間なくやってくる奴らに、終わりが見えず、俺は疲労した体を支えた。

「くそっ!なんなんだ、こいつら……!」

視界が朦朧とし始めた。だが、眼前の堕神はまだ倒しきれていない。このままでは、やられてしまうーー


(俺は、ここまでなのか……?)


堕神の刃が頭上から振り下ろされたーーその瞬間。

「……え?」

俺の前に何者かが立ち塞がった。そして、その者は華麗な動きで、目の前の堕神を叩きのめした。


それはあっという間の出来事だった。これは、彼にお礼を言うべき顔を上げた。

「ありがとう助かっ……たあぁああっ!?」

お礼の言葉を言い終える前に、俺の体を急に持ち上げた。

「な……何するんだ!下ろせ!!お前、いったい何者だー!!!!!!!!」


Ⅳ 出会いと別れ


俺を救ったのはビールという食霊だった。

そのこと自体には感謝すべきだが、どうにも奴には言葉が足りなかった。

自己紹介もなく、唐突に俺を抱き上げ「よかったよかった」と目を細めて大喜びした。


……悪い奴ではないことはわかったが、そのような扱いを受けるのは非常に不本意で、俺は少しだけビールを苦手に思った。


ビールは戸惑う俺に気づくこともなく、旧友がいる、とある屋敷に強引に引っ張っていった。

そこは辺りが桜の木に囲まれた、とても静かな場所だった。彼はそこを『世を忍ぶための私塾である』と言った。


鳥居私塾の先生であるさんまの塩焼きは、ビールの連れてきた客である俺を、快く受け入れてくれた。


これには、感謝するしかなかった。

だが、俺をここに連れてきた薄ら笑いを浮かべるビールが、俺を私塾にいる騒がしい子どもたちのように扱ってくることには耐えられなかった。

俺はこれ以上彼らと関わりたくなくて、少し彼らと距離を置く。

さんまの塩焼きはそんな俺のデリケートな感情を察したのか一歩引いて接してくれた。

しかし、私塾の子どもたちとさんまの塩焼きの飼っている猫たちは、やたらと俺の傍に寄って来た。

特に生まれて間もない小さな猫たちは、俺を不安にさせた。その小さな命の温もりをどうしたらいいかわからなかった。


この時、ビールは俺が嫌う笑顔を浮かべていた。なんとも腹立たしいことである。

「この『慈愛』に満ちた微笑みが腹立たしいと?なんとも嘆かわしい……」

「自分で『慈愛』とか言うな!気色悪い!」

ビールの言葉は、更に俺をイライラさせた。


鳥居私塾の奴らは、俺が嫌悪感を剥き出しにしているにも関わらず、それでも傍に寄ってくる。

どうも奴らは、俺のことを遊びに付き合う優しい兄貴か何かと勘違いしているようだ。

それだけでも苛立ちが募るというのに、更に我慢ならないのは、ビールが俺の身長で俺の年齢を判断してきたことだ。

それについては「ふざけるな! 」と怒鳴ってやった。だが、彼はまるで堪えている様子はない。また、その事実に俺は立ちを募らせる。


ここに来て、俺はこれまでに知らない感情を多々実感した。

この場所で俺は、苛立ちと戸惑いに振り回された……けれど不思議と憎しみはない。

これは今までに俺が感じたことのない想いだった。

「君はここに来てからとても楽しそうだね。僕の見立ては間違っていなかった」


その言葉に俺は唖然とする。何をいけしゃあしゃあと、とんでもないことを言うのか。

……このビールという男、まるで信用ならない──


「僕は歌う〜この場所に君が来れば、きっと心穏やかになれると〜そして〜その見立てをした僕はとても素晴らしい〜」

そんな俺の心に気づくこともなく(気づいてもまるで素知らぬふりをしている可能性も大きいが)ビールは高らかに歌いだした。

そんな風に自らのことを歌うビールを眺めていると、無意識に体の力が抜けてくる。

(相手にするだけ無駄だ。こんなマイペースな奴……)


俺は大きなあくびをし、不本意にも彼の歌を子守唄にしてスヤスヤと眠ってしまった。

食霊の体は、人間のように脆くはない。だがひとたび重症を負えば、回復には一定の時間が必要だった。

だからこそビールは俺をここへ連れて来たのだろう。悔しいが俺は、彼に本当の意味で助けられたのだ。


奴は、優雅に一人旅をしていたなどと抜かしていたが、なぜか俺が体を休めている間ずっと鳥居私塾に居座っていた。

勿論彼は、ここの主人であるさんまの塩焼きの友人だ。ビールがここにいるのは、むしろ自然であり、だからこそ俺もここで静養ができた。

ビールはここでのことを『寄り道』と称したが、旧友と酒を酌み交わす姿は明らかに楽しげであり、とてもそんな風には見えなかった。

『寄り道』なんて戯言は、俺の静養のためにここに来た時間を無駄だと言いたいための嘘に違いない。


どうも彼は俺をからかって楽しんでいる節が見受けられる。 命の恩人であるものの、その辺は多少疎ましかった。


それから数週間ののち、やっと体の傷が癒えた俺は、ここから立ち去ろうとした。

勿論ビールには何も告げずこっそりと出ていこうと思った。

ここからの道のりは別々にすべきである。間違っても彼と歩むようなことがあってはならない──これ以上、彼にからかわれないように。そう決意し挨拶もなく鳥居私塾から出た。


さんまの塩焼きには後から手紙でも出せばいい……そう思って、鳥居私塾を後にした。

そんな俺を大いに驚かせたのは、鳥居私塾から少し離れた道中だった。

自分の前に、誰かが歩いている。歌を歌いながら、とても楽しそうに……嫌な予感で、俺は舷量がした。

これ以上前に進みたくない──自然と俺の歩みは止まる。後ろに一歩、更に一歩下がった。このまま、踵を返して一気に反対方面へと走り去るべきだ!


そう思って、くるりと背を向け、足を蹴り上げた。逃げるんだ……!そう心で叫ぶのとほぼ同時に、体が宙に浮かび上がった。

「どうした?僕は君と一緒に行くよ。遠慮しないで!」

「は、離せっ!誰が遠慮なんてするもんか!俺は一人で行くんだー!」


その頃には、俺はビールがどこに行こうとしているか知っていた。数ヶ月後には美しい桜が咲き乱れるその場所へと行くために、彼は旅をしていたのだ。

「お前には行きたいところがあるんだろ!俺が行きたい場所と別なんだ!ここで俺たちは道を違えるんだーっ!!」

そう叫ぶ俺を、ビールはいつもの薄ら笑いで見つめ、そっと俺を地面へと下ろした。


「確かに僕には行きたい場所がある。けれど、目的地は逃げない。今年が無理でもまた来年がある……だから今しばらくは君の傍に居ましょう。一人より二人──この危険な桜の島では、きっとその方がいい」

ビール……」

彼のその言葉に、俺は不覚にも少しだけ感動を覚えた。しかし、奴が俺の頭に手を伸ばし言い放った台詞が、そんな一切の感動を奪う。

「こんな小さな子が、また堕神なんかに襲われるかもと思ったら、放っておけなくてね」

「お前、いつか殺すっ!!」


ナイフラストへ戻る旅の途中、ビールのお供もあり、来る時のように時間はかからなかった。

ビールは多くの場所を旅したことがあるようで、多くのことを知っていた。彼はそれらのことを歌にするのが好きなようだった。

この短い旅で、俺が彼について確信したことが二つある。


ーつはビールはお調子者で、誰でも簡単にその懐へと受け入れてしまう。

もう一つは歌以外にこれといった長所が見当たらないこと。 せめてもの救いは、その歌は意外と嫌いではないことか。


(酷い言い方かもしれないが、見直したくなるようなことがあったとしても、奴は自らそれを打ち崩しにくるからな……)

それでも彼のことを、最初にあったときよりも、幾分か俺は好きになっていた。

まさかビールに対してそんな考えが浮かぶなど、魔が差したかと頭を抱える。

だが、それも仕方ない。明日にはディーゼ旅館に着く。そうなったら彼とお別れになる。こんな感傷を抱くのも、きっとそのせいだ。


今日で、奴と過ごす夜も終わりか──そんなことを思って、俺は最後くらいは素直になろうと、意を決して口を開いた。


ビール……もしまた会う機会があったらさ、俺たちが別れた後のことを歌にして歌ってくれないか?」

「え?……今、なんと?」

彼は振り返り、きょとんと瞬きをしている。だが、もう一度同じことを言えるほど俺はまだ素直にはなれなかった。


「ああ……なんでもない。気にしないでくれ」

「そうか。ならそれは話したい時にまた言ってくれたらいい。それよりも話しておきたいことはいっぱいあるからね!」

「……な、何だよ、話しておきたいことって」

嫌な予感がしつつも、俺はそう訊ねてしまった。……ああ、なんてことだ。俺はビールと一緒にいたせいか、間抜けな奴になってしまったようだ。


「君は以前どこにいたの?それと好きな食ベ物は何?あとはどんな女の子が好みとか?うーん、知りたいことはいっぱいあるね!」

「は?そんなこと、なんでお前に教えなきゃいけねーんだよ?」

「あ〜あ〜僕は歌う〜君のことをいろいろ知りたいのさ〜そして僕はそれを歌にして〜いろんな人に語り聞かせたいのさ〜」

「ふ、ふざけんな!絶対教えねー!」

「……つれないなぁ、君は。まあいいや。歌にはしないからさ、違うことを教えてよ」

「……なんだよ?」

「これはとても重要な話だ。どうして君のような小さな子がー人でこんな危険な桜の島に来たのか?僕はそれが気になって仕方がない!」

ビール!お前は絶対この手で殺すっ!」


その夜はもみくちゃになりながらも多くの事を語り合った。

俺のことだけ教えるのも癪だったから、ビールのこともいくつか訊ねた。そのお陰で少しだけ、奴の事も分かった気がする。

俺はといえば──何故か自分から語ることのなかったこれまでのことを、 ビールに話してしまっていた。……パスタのことも含めて。


すると、揺らめく明かりの向こうで、彼の表情が変わった。それは今までにない、真剣な表情だった。


「……オイスター、あそこには戻らない方がいい。このまま僕と一緒に旅をしよう」

「なんだよ、突然。ビール、なんでそんなこと言うんだ?」

「この世界にはさ、もっと美しいものがいっぱいあるんだ。だから、危険な任務をしなきゃいけない場所に戻ることはない」

「あそこは俺の家だぞ?そんであいつらは俺の家族なんだ。家族の元に戻らないで、どこに帰るんだよ?」

「……あそこは君がいるべきところじゃない。頼む。僕と一緒に来てくれ」

「なんだよ。まるでディーゼ旅館を知ってるみたいな口振りだな」

彼はふい、と俺から視線を逸らした。答えたくないということか。


彼は俺の方を見ようとしない。これまで和やかに続いていた会話は一瞬にして散ってしまった。

「……もう寝よう。明日も早い」

そしてビールは背を向けた。そうなってしまった彼を、無理に起こして話をしようという気にはなれなかった。

(今日が……最後の夜なのにな)

俺は仕方なく、彼に倣って布団を被る。そして眠れないまま、朝が来るのを待った。


──翌日。


ビールの顔からは、昨晩見せた険しい表情はまるで錯覚だったかのように消えていた。俺はホッとして、そのことについては敢えて触れないことにした。


そして、俺はビールとディーゼ旅館に向かって歩き出した。

奴はいつものようにおちゃらけていて、俺たちは楽しい道中を過ごした。


あの日──ディーゼ旅館を出たときは、 いつ戻れるか、まるでわからなかった。

きっとパスタB-52のようにはうまくいかないと……命を落としてもおかしくないと思っていたから、こうして無事に戻ってこれたことを、俺はなんだか不思議に思う。

それも、旅の途中で出会ったビールのお陰であることは、悔しいが俺も理解していた。


「ありがとう、ビール。 いろいろあったが、お前に出会えてよかった」

「……ねえ、オイスター。このまま僕と一緒に行かないかい?今ならまだ間に合う。歌を歌って、美しい場所を見てまわってさ。きっと楽しいよ」

「そうだな。ビールの言う通り、きっと楽しいと思う」

「じゃあ……!」


ぱあっとビールの顔が明るくなった。その表情はいつも通りの薄ら笑いではあったけど、いつの間にか俺は心地良いと感じるようになっていた。


「でもやっぱり俺の帰る場所は、ディーゼ旅館だ。またいつか俺が一人前になったらさ、一緒に旅行しようぜ」


俺は初めて彼の手を取った。そして、 まっすぐに彼を見つめて心から笑った。



──まだ、俺は未熟だ。パスタの言う『この世界の真実』を見抜けてはいない。


パスタに会ったら、勝手に旅館を飛び出したことを、怒るだろう。それでも、俺の帰る場所は──やはり、ディーゼ旅館だ。


パスタと共にあの村を出たときから変わらない。俺の戻る場所は、パスタのいる場所。


きっとこれは、これからもずっと変わらない。


(いつか……一人前になったら──そのときは、誰にも俺を『小さな子ども』だなんて言わせない)

そんなことを言われても笑い飛ばせるようになれる日まで、俺は……このディーゼ旅館で働こう。


「ただいまー!」


そうして俺は、ボルシチのいるディーゼ旅館のドアを勢いよく開いたのだった。


Ⅴ ミネラルオイスター

ミネラルオイスターはとても閉鎖的な村に生まれた。ものの良し悪しに関わらず、そこの人々は外界のものを受け入れなかった。


ミネラルオイスターのように突如現れた存在は、彼らにとっては災厄の予兆でしかなかった。

堕神の出現も当然の如くこの食霊の責任にされてしまう。

これはミネラルオイスターにとって、どうしようもなく不幸なことであっただろう。


一人の村人が村長の意向でナイフラストのディーゼ旅館へとやってきた。

彼はミネラルオイスターという食霊を召喚したらしい。家族がなく一人で寂しかった彼は、食霊でもいいから家族が欲しかったようだ。


だが、村人たちの反発は激しく、彼は食霊を家族として迎え入れるのを諦めなくてはならなかった。


彼の成長を見守っていたが、いつの頃からか村に堕神が現れるようになった、とその男は言った。

あの子は家族ではなくやはり災厄だった。恐ろしい.……もう自分の手には負えない。だから、あの子を堕神と共に消して欲しい、と涙ながらに語った。

「──わかった。その食霊は私が引き取る……だからすぐに立ち去れ。契約書を置いて、な」

バスタが冷たく言い放つと、男は金銭の入った袋と印の押された契約書を置いて逃げるように去っていった。


これまでにも、この旅館では食霊に関する願いを受け入れることはあった。


だが、すぐに元に戻ったとはいえ、話を聞いたパスタがあまりに悲しげな表情をしていたので、ボルシチは何も言うことができなかった。


もしかしたらパスタは、その食霊が自分たちの戦力になると考えたのかもしれない。

もしくは、外界を受け入れずに図々しい願いをしにきた村人を哀れに思ったか。


それとも──


パスタの胸の内は、彼と最も親しいボルシチですらわからなかった。


誰からも受け入れられないミネラルオイスターは、パスタの記憶の中にのみ存在する、皆に好かれようと努力して亡くなった愛しい人と重なっていた。


そうしてパスタミネラルオイスターに会いに行く。彼の目に、その食霊がどう映ったかはわからない。

ただ、ミネラルオイスターに接するパスタの態度は、意外にも優しくあたたかいものだった。

多くのことは自分で済ませて、ミネラルオイスターにはさせようとはしなかった。


ミネラルオイスターの実力不足ではない。

ただ彼の心が、まだ様々なことを受け入れられていない状態だったから、パスタは彼を醜いものから遠ざけた。


ミネラルオイスターがこの世界の真実を受け入れるまでは、あの村の者たちを……そして、彼を召喚した男のことを理解することはできないだろう。


ミネラルオイスターはひたすらに自分の力を証明しようとするが、その願いがパスタに聞き入れられることはなかった。

だからミネラルオイスターは、パスタが外出時に、本来パスタが行うはずの任務を自身で受けた。

結果を出せば、認めてもらえると──そんな純粋な気持ちでミネラルオイスターは、一人ディーゼ旅館から出て行ってしまった。


桜の島は、人間が暮らすことのできない場所だった。ミネラルオイスターは、それほど危険な場所が存在することを知らなかったのだ。

絶え間なく現れる堕神に自身の終わりを考えていた時──そこにビールが現れ、ミネラルオイスターの前に立ち塞がって彼を庇った。

そしてボロボロだったミネラルオイスターを、知人であるさんまの塩焼きが営む鳥居私塾へと連れていった。

ミネラルオイスターはそこでしばらく療養することになった。そこでビールと交流し、彼はビールと心を通わせた。


ミネラルオイスターは、ビールと知り合ったことで、より一層にディーゼ旅館のボルシチパスタを愛しい存在であると認識するようになった。

そんな彼を心配したビールだったが、彼の決意が固いことを知ると、いつでも君の助けになるよ、と言葉を残し去っていった。


そうしてミネラルオイスターが再び旅館に戻ったとき、珍しくパスタが激しい叱りを浴びせた。

初めてパスタが怒る姿を目にしたミネラルオイスターは、堪えられず笑顔になる。

「……何を笑っている?」

「ははっ、俺はさ、あんたたちが──大好きだって思ったからさ」


ミネラルオイスターは、やっと本当のパスタを見つけられた気がした。


それから暫くして、ミネラルオイスターは竹煙質屋へと向かった。

そこに、パスタが欲している情報があるからだ。

そこで、ミネラルオイスタービールと再会した。久しぶりに会う彼は、竹煙質屋のボスである北京ダックとほろ酔い状態であった。


ビールと一緒に飲んでいた北京ダックは、まるで友人かのようにミネラルオイスターの肩を組んできた。

「そなたがミネラルオイスターですね?ふう……教えておきましょう。彼についていてはダメです。あれは、危険な男です」

するとビールが、北京と同じようにミネラルオイスターの肩に腕を回し、そして強引に彼を引き寄せた。


「ぷは一……いいですか?もしパスタがいい奴なら、僕だって全人類を愛していると高らかに宣言できますよ!はん!」

すると北京ダックがそんな彼の腕からミネラルオイスターを引き戻して、ジッとミネラルオイスターを見つめた。

「貴方、本当は分かっているのですよね?パスタと一緒にいたら、大切なものを失うと」


そんな二人に、少しだけうんざりしつつ、ミネラルオイスターは深く息を吐いた。

「知ってるよ。パスタは家族だからな」

肌が触れるほどの距離感を嫌ったミネラルオイスターは、酔っぱらった二人を左右にぐいと押しのける。


「今回は情報をもらいに来たんだ。 十秒以内に教えてくれ。それ以上は付き合えないからな」



*   *   *


閉鎖的な村に召喚され、寂しい時間を過ごしていたミネラルオイスターは、パスタに拾われてその心がかなり変わった。


荒んだ心は前向きになり、今では自分を召喚した男すらも許していた。


そもそもずっと不思議だったのだ、何故あれほど心から離れなかった御侍から気持ちが離れたのか、と。


その答えは、パスタの机から見つかった。


「これは、契約書だ──俺の」


そこにあったのは、ミネラルオイスターと御侍の契約書だった。その契約はすでに破棄され、新たな契約人の名前欄にはパスタの名前が記されていた。


食霊が食霊と契約する──そんなことが可能なのかわからない。まるで聞いたことのない話だった。


だが、御侍はきっとこのことを信じたのだろう。もう、彼からの強い絆を感じることはない。


今なら御侍とは別の関係が築けたかもしれない。そう思えるようになったのも、パスタのお陰か……


ミネラルオイスターはその契約書をそっと机の中に戻した。


その書類の効力はどうでもよかった。ただ、彼がそんな書類を大切にしまっておいてくれていた──その事実が、 ミネラルオイスターの心を潤わせた。


そのとき、バタンと荒々しくドアが開いた。誰かと振り返ると、そこにはビールの姿があった。


「おお、こんなところにいたのか!ミネラルオイスター!お会いできて嬉しいよ!」

「なんだお前。何しに来た?」

「ああ、ボルシチ嬢に頼まれてね。情報提供に来たのさ」

「なんだ?聞かせろ」

「いやお話はボルシチ嬢に……」

「うるせえ!あいつらへの情報は俺が欲する情報と同意だ。早く言え!」

「……ミネラルオイスター、いい加減こんなところから出て、僕と一緒に旅に出ないか~そ〜して素敵な景色を見て〜歌を歌って穏やかな日々を送りましょ〜お〜」

「黙れ。いいからボルシチのとこに行くぞ。お前の下らねえ戯言には付き合ってられねぇんだよ!」


ディーゼ旅館のミネラルオイスターは、かつて村で迫害されていた頃の彼ではなくなっていた。

笑顔を見せ、信じられる仲間が増えて、自ら積極的に行動するようになっていた。


ミネラルオイスターは、 パスタがどれほど危険なことをしているかは既に理解していた。


それが、そんな簡単なことではない事もわかっていた。


だがパスタは、この世界で初めて自分を受け入れてくれた人だ。そんな彼は他者の助けを必要としている──パスタがもし悪い奴だったとしても、そんなことはミネラルオイスターには関係がなかった。


自分を救い出してくれたパスタに報いたいとミネラルオイスターは思っていた。


彼の未来がどんなものであっても、彼のそばに居続ける──もう、決めたことだ。その気持ちは揺らぐことはない。


ミネラルオイスターは自分の行動で、あの日自分に教えてもらったように、笑顔ばかり見せて本心を見せない男に教えたいと思っていた。


「一人で世界と向き合っているのではない」と――


そのために、1日でも早くパスタの支えとなれるよう、ミネラルオイスターは歩み続けるのだった。


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