餅米蓮根・エピソード
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餅米蓮根のエピソード
礼儀正しく、物静かで大人びた良い子。純粋で、周りの人をよく頼る。自力で解決できない問題や悲しい事があっても、決して騒がず、ただ静かに涙を流す、そしてその泣き顔はとても可愛らしい。良い子になろうと頑張っている、皆のために美味しい物を作ったりする、その料理も本当に美味しい。純真で物事を誰かと分け合う事が出来る、誰にも愛される天使。そばには大きさを自由に変えられる蓮根船が置かれている。
Ⅰ.烈日
午後、ワシワシと鳴く蝉の声が眠気を誘う。重くなってきたまぶたを開けているのに必死で、それでも姿勢を崩さないように我慢している。
「そうだ、腹筋を締めて体を安定させ、まっすぐの姿勢を崩さない!両手を脚の横に置くこと!」
「踊りを上達したければ、基礎が大事だわ。みんな、怠けちゃだめよ。」
綺麗な声がして、私はまた背筋を伸ばした。
すでに体はガタガタと震えているが、幸いスカートのゆったりとした裾に隠れていて、簡単には気づかれなかった。
私は歯を食いしばって、痙攣しそうな脚に力を入れて安定させた。
学生の間に行ったり来たりしている美人のお姉さんは、私の顔をじっと見て、優しくうなずいた。
「よし、みんな、25分休憩しましょう。」
それを聞いて、体をこわばらせて立っていた生徒たちは、まるで恩赦を受けたかのように、糸の切れた操り人形のように座り込んでしまった。
私はほっとして、横の榕樹に寄りかかった。
「雪掛姉さま、今日の授業は人文科学の授業なので、各地の風習を学ぶ予定でしたよね?」
「もちろん、踊りは民俗芸能として、各地の風習を並ぶいい教材になりますが……いきなり踊りの練習から始めるのは……しかも老虎先生の武道授業よりも難しい気がします。」
「そうですよ、雪掛先生、次回はもっと簡単なものから始めてもいいですか?」
「……」
「あなたたち、踊りは一朝一夕で身につくものではない。それを上達するには日々の練習と根性のみだ。」
その通り……踊りも絵画も、練習を重ねるうちに上手になる物。
うっ、早く今日の見学感想をノートに書かないと。
額に垂れた汗が目に染みる。しかし、私にはそれを拭き取る余裕がない。なぜなら、考えに没頭しているからだ。姉さまが目の前に立っていることにすら気がつかず。
私は背筋を伸ばし、緊張してまともに喋れなかった。
「あの……さっき、私、ちゃんとできてますか?それともどこか間違ったり……」
「いいえ、緊張しないで……貴方は最後まで頑張った人よ。辛くて大変だろうけど、諦めなかったんだね。」
彼女は身を乗り出して笑顔で私の目を見つめ、手首をそっと持ち上げた。
「偉いわ。餅米蓮根。」
頭が優しく撫でられ、頭から伝わってくるがほのかの温度が心の中に何か温かい物が芽生えさせたような気がして、私は顔を赤くして、下を向いてしまった。
「ありがとうございます、雪掛先生。」
「そんなに堅苦しいことを言わないの。お姉さんと呼べばいいよ〜それに、みんな書院で教えているんでしょう?」
「そうですね、雪……雪掛姉さま……でも、私はまだ正式に授業をしたことがなくて……うまく先生になれるかどうか……」
金駿眉先生との約束を思い出すと、私の声はだんだん小さくなってきた。
今日の授業が最後の見学で、そのあと正式に体験講義を始めることになっている。
もし……受からなかったら、学院にいられなくなったら、私はどこに行けばいいんだろう……
「餅米蓮根は一生懸命頑張ってるから、きっと大丈夫だわ。」
雪掛姉さまは、指先で私の顔をそっとつつきながら、愛嬌のある笑顔を見せた。
「うちの餅米蓮根は料理が上手で、字や絵が上手で、おまけにこ〜んなにもかわいいし、ここに残れなかったら、我が鬼谷書院の損失よ!」
「ほっ、本当?!」
雪掛姉さまを楽しそうに私の顔を揉み回している。
「もちろんだわ!だからもうそんな顔をしないで、ね?そうそう、私の踊りを見てみない?」
「踊り、ですか?」
「ええ。信じて、踊りは様々な悩みを解決してくれるわ。みんな、これからお手本をするから、ちゃんと見てくださいね。」
スカートは彼女の動きとともに躍動している。時には花のようにパッと咲いて、時には鶴のように羽ばたく。その舞姿に込められた情熱が視界に溢れている。
真っ赤な炎のような姿は、古代の文献に書かれた美しい言葉を思い浮かばせる。
私は息をするのを忘れ、踊る彼女に身惚れずには居られない。
踊りが終わったとき、彼女の顔には汗いっぱいで、それでも私に笑顔を見せてくれた。それは太陽よりも輝く笑顔だ。まるで私にそう言っているようだった。
「ほら、簡単でしょ?」
私は一瞬、その一等星の笑顔に何かを焼きつけられたように固まった。
もし、私も彼女のようになれるのなら……。
Ⅱ.温かき夢
夕方、淡い日暮れが降りてくる。窓の外では古木がザワザワと音を立てている。
テーブルの上には本との練習帳の山と見学の感想と心得がびっしりと詰まったノート。
初めての授業、うまくいくといいな。
頬杖をしながら、手にした筆をかじりながら、ロウソクの炎が戯れるように舞うのを見て、私はすっかり上の空になった。
小さな輪の中に、見慣れた優しい顔が浮かび上がり、いつものように微笑みながら、私の頭をそっと撫でてくれた。
「どうしたんだい、眉をひそめて…まだ若いのに。毛筆も可哀想に、ほら、歯形が並んでいるよ。」
「お父様……」
急に胸が熱くなり涙が目に溢れた。私は、目の前の人の姿が涙でぼやけて消えてしまうことを恐れて、あえて瞬きをしなかった。
夜の部終了の鐘の音が幻影を打ち砕き、ふと顔を上げると、生徒の喧騒と夜風が吹き込み、目の前にすでに父の姿はなかった。
夢なのだろうか……。
私は頬の温もりをそっと拭い、眠るときにテーブルの下に落としてしまった筆を拾い上げた。
「愛する娘に贈る」
これは何十年も前、十歳の誕生日にもらった毛筆。
お父様は博識の学者で、私に琴棋書画を教えること以外にも、庭の高いところにある新しい柿を摘むために私を持ち上げたり、徹夜で作ったたこを飛ばしに連れて行ったり…とてもおおらかなお方だ。
その時、お父様はいつも私と一緒に子供のように笑っていた。
私が召喚された時から、お父様は私に御侍と呼ばせることはなかった。
いつしか私は、自分がお父様と血のつながった意味での「子供」ではないことまで忘れていた。
でも…。
いつだったか、秋のある日、父の顔に皺が増え、髪には秋霜が降りて白くなっているのに気づいた。年月を経ち、庭の柿の木も枯れかかっていた。
しかし私は……いつまでも10歳のままだった。
「一生子供のままでいい。大丈夫だ、餅米蓮根はいつまでもわしの大事な娘だ。」
そう言って、ベッドに横たわっている父は私から薬の入った椀を受け取った。優しく微笑んではいるが、目の中に秘められている物寂しさは隠せなかった。
長い時間を経て、枯れた枝のような手のひらで私の頭を撫でると、そっとため息をついた。
「すまない、餅米蓮根…」
私はお父様の手のひらに顔を埋め、必死に考えても慰めの言葉が一つも出なかった。ただただ首を横に振り続けるだけだった。
わかってる。お父様は私を心配している。
穀物の見分けもつかなかった私は必死に頑張って、ようやく料理や菜園の手入れなどの家事までこなせるようになった。
ただ、お父さんに知って欲しい……私はもう、面倒を見てもらわないと生きていけないような幼い子供でないことを。
私は食霊で、いつまでも若々しく不老不死な存在と、みんなはいつも言っている。
でも、これが幸せなのか、それとも……呪いなのか、私にはもう分からない。
しかし、私はお父様にも、他の人にも言えなかった。
すでに永遠の生を享受している私では、生まれたときから死という結末に向かっている人間に、そんな思いを抱くのはとても残酷なことだ。
「もう泣かないで、会わせたい人がいる。明日、一緒に会いに行こうか。」
最後に、お父様はいつものように私の涙を拭いてくれたが、その目には何か重要な決断をしたような、私には理解できない感情があった。
Ⅲ.約束
「怖いか?」
目の前の見知らぬ黒髪の青年はにっこりと笑っている。私はおずおずとお父様の後ろに隠れ。
必死に涙をこらえて唇を噛み締めた。
お父様、どうして私をそんな人のところに連れて行ったの?
青年の背後には、人を喰らいそうな怪しい光を放つ巨大な怪物が潜んでいる。
「ガオーー!」
何の予告もなく、怪物は私に襲いかかってきた。
恐怖で体が動かなかった。手足や全身が、鉛のように重く感じる。もうかわす術はない。
「餅米蓮根!」
お父様は身を挺して私を抱きしめてた。あの衰弱してる体で…
ダメ!お父様!
お父様を傷つけないで!
心臓は強く握りしめられ、口を大きく開いたのに声を出せず、頭の中は真っ白になった。
もし、もし、私が本当に食霊だったら、きっと何かできるはず……何でもいいから、お父様を助けてあげたい……。
再び目を開けると、その生き物は恨めしそうに青年の背後に戻り、私をちらりと見てから墨が水に溶けるように空中に消えていった。
そしたら突然、一本の蓮根が地面に現れた。
「驚かせてしまいすまなかった……季節の変わり目だからか、彼の気性は少し不安定だ。」
その声は何事もなかったかのように淡々としていたが、彼の手足の間に巻かれた赤い糸が少し引き締まったように見えた。
「今まで霊力を使ったことがないと、貴方のお父様がおっしゃっていたので、どうやら今日は初めて霊力を使ったようだね。」
彼は蓮根を手に取って、なにか思いついたかのようだ。
霊力……。
不老不死とは別に、私の体にはまだそのような能力が残っているとは…
でも、どうしてお父様はそのことを私に教えてくれなかったのでしょう?
青年は蓮根を机の上にそっと置くと、お父様の方を向いた。
「食霊の力はいろんなところに役に立ちます。どうしてもっと価値のあることをさせなかったです?」
その問いかけに、私は無意識のうちにスカートの裾をギュッと掴んだ。
お父様はしばらく黙り込んで、ちらっと私を振り返った。その濁った目は、初めて会ったときと変わらず、慈愛に満ちた優しい目だった。
「大事な娘を心から幸せにしたいから……」
「あの日、偶然にも餅米蓮根を召喚した。召喚された時からずっとこの姿だった。しかし、その透き通った瞳は、生まれたばかりの子供のように純粋だった。」
「そのとき、世界はまだ平和だった。彼女はそんな戦争のない時代に何かを背負う必要はなかった。なによりも、食霊には幸せになる権利があるのだ。」
「だからわしは彼女を自分の娘のように育てることにした。……時々、彼女が食霊であることを忘れてしまうんだ。」
「しかし、彼女には仲間がおらず、自分を守る力もない。……そう思うと、彼女の親で、御侍でもあるわしは心配で寝食もできなくなった。」
というお父様の答えに、必死に堪えていた涙が溢れてきた。
「願わくば、一生餅米蓮根のそばにいてあげたい。しかし、今のわしではもうそんな力は残っていない。我が子は同族である貴方に任せたい。どんな条件であっても……これがわしの最後のお願いだ。」
お父様は震えながら杖を置き、目の前の青年に何度か厳かに頭を下げたが、青年は静かに頷いた。
「分かった。では彼女にチャンスを与えよう。それを掴めるかどうかは、彼女次第だ。」
それで、私たちは協定を結んだ。
「料理を担当する程度なら、厨房娘はいくらでもある。」
「学院では現在、書画の講師がまだ不足しており、残れるかどうかは1ヶ月後の最初の講義にかかっている。」
Ⅳ.試練
約束の日、私は早めに学堂に到着し、深呼吸をして拳を握りしめ、小さな声で自分に喝を入れた。
「自分のためにも、お父様の期待に応えるためにも!」
「頑張るのよ!餅米蓮根!」
勇気を出して、学堂の木戸を押し開いたら、突然、折り鶴で額に当てた。
「うぅ…」
私は額をこすりながら、目の前の騒がしい教室に顔をしかめた。もうすぐ授業なのに、雑談している生徒、戯れあう生徒、二三人のグループで談笑してる生徒……
広い学堂の中で、授業の準備ができてる人が一人もいなかった。
確かに、チャイムが鳴るにはまだすこし時間があるけど…この様子じゃ…
「あ、ごめんごめん!」
青い服の生徒が走ってきて、折り鶴を拾い上げ、不思議そうに私を上から下までじろっと見た。
「うん?青い服を着てない?服もうちの学生服じゃなさそうだし……あなた…どこから来たの?迷い込んでしまったのかな?」
「わ、私は餅米蓮根…生徒ではありません。この学堂で書画の授業を担当する先生です。皆さん、自分の席に戻ってください。」
「ええ?こんな女の子が……私たちの先生?年下に見えるんだけど…」
学堂は大騒ぎになった。怪訝な視線が雨のように私に振り注ぐ。
急いで説明することにーー
「私は食霊ですから、生まれたときからこんな姿だったんです。」
「食霊?全然見えないけど。」
「どう見ても普通の女の子じゃん、本当に私たちの先生を務められるの?」
……
予想以上に状況がまずい……揺れ動く感情に心を支配されないよう、深呼吸をして心を落ち着かせた。
──誰も信じてくれないのなら、証明してあげればいいこと。
鐘は鳴ったものの、議論の声が絶えない。
私は頭を上げておおまたで教壇に向かい、咳払いをして腕に抱えた分厚い本と絵の山を机の上に置いた。
「席に戻りたくなければ、このまま授業を始めても構いません。今日の授業は新しく開設された「書画」です。まずは簡単なところから始めたいと思います。本日は主に鑑賞と交流……」
「交流形式は自由です。30分後に各グループから代表者を指名し、感想をまとめて報告してもらいます。」
「今回の授業で使う参考資料です。これも私の駄作です。」
前は何百回も練習しても噛んでしまったのに、今はスムーズに口に出せて少し嬉しい気持ちになった。
みんなは静かに私を見ていた。私に折り鶴を「間違えて」投げつけた少年に資料を配ってくださいとジェスチャーをすると、彼は机から書画を取り出し、律儀にクラスメートに配った。
「この書画は……只者が書いたものじゃないよね。」
「鬼谷書院には結構変人が多いから、彼女も何か特別な力を持っているに違いない……」
「餅米蓮根先生、この絵を持ち帰ってもいいですか?模写したいです!」
「だめたよ、早い者勝ち!先生!この絵を借りてください!」
騒がしい教室だが、みんなは目の前の書画に集中していた。
そんな皆さんの疑問や不安を解消することができ、私も嬉しくなってきた。
やれました、私、やれましたね!
「見て!窓が!」
誰が叫んだかわからないが、窓の方を見ると、くねくねと動く不気味な黒い影が窓を掠めて飛んでいった。
次の瞬間、風のない部屋に折り鶴が動き始めた。恐怖で力の抜けた男の子たちは悲鳴をあげて床に座り込んだ。顔は自分の意志とは関係なくピクピクと痙攣し始め、おどけた表情をして見せた。
教室は大混乱に陥った。生徒たちは扉を開けて逃げ出そうとした、知らないうちに扉は誰かに鍵をかけられた。
どういうことなの…?途方に暮れた私は、その場に固まってしまった。
しかし、隅に身を寄せる女の子たちは、怯えて泣き叫んでいる。助けを求める視線を私に向けた………。
そうよ、餅米蓮根、今は泣いている場合じゃない!
先生として、みんなを助けるために何かしなきゃ。
「みなさん、落ち着いてください!」
いつのまにか、私もみんなを黙らせるほど大きな声を出せるようになったでしょうか。
「折り鶴を避けて、早く私のそばに!……心配しないで、先生が必ず皆さんを連れ出してあげますから!」
Ⅴ.餅米蓮根
「おい。なんでいつも食えないやつを書院に連れて込むんだ?」
日差しの気持ちいい午後、黒麒麟は不満げに呻きながら、一人でお茶を飲んでいる金駿眉の肩に巻きつく姿勢を変えた。
「この俺があの小娘に敵わないとでも言いたいのか?」
「人間の食事を楽しめない自分を責めるといい……そういえば、餅米蓮根の料理の腕はなかなかの物だ。」
食霊を守るために命をかける人間、御侍のために自ら潜在能力を発揮する能力者……。
金駿眉から見ればどれも不器用で奇妙な奴だったが、世界を変える希望はそんな奴に託されているのかもしれない。
「やれやれ……ガキどもがまた騒いでるのか。おい、こっちに向かってるぞ。」
青い服を着た数人の学生が、泣き叫びながら金駿眉に向かって走ってきた。
「院長先生、助けてください!学堂に変な魔物が現れました……私たちは餅米蓮根先生の話を聞いて、窓から飛び出しましたが…院長先生!どうか他の人たちを助けてください!」
「魔物だと?お前がいる学堂で暴れる魔物か…。もしかしたら…ねえ、俺に食わせろよ!」
黒麒麟は興味津々で、金駿眉の耳元で囁いた。
「怪我人は出たか?」
肩に巻き付いている黒麒麟を振り払い、金駿眉は生徒に状況を確認した。黒麒麟に小さな声で抗議して黒い霧となって散った。
「餅米蓮根先生がいるから、けが人は出ませんでした。あ、あの魔物は、自分が学問を司る神だと名乗りました。」
それを聞いて金駿眉は何かを思いついたように、茶碗を持つ手が僅かに震えた。しかし、すぐに冷静を取り戻した彼は生徒にこう伝えた。
「蓑衣黄瓜に助けを求めてきてください、私は後から行きます。」
駆け足で去っていく生徒たちを見て、金駿眉は首を振りながらため息をついた。
黒麒麟はすぐに彼の肩に巻き付いた。
「どうやらあの魔物は只者じゃないな。」
「長年私についてきて、君もずいぶん賢くなったものだ。」
「そんなダサい名前を名乗るやつはあのガキしかない。でも、お前はあの新人をかなり気に入ってるのではないか。」
お茶を一口飲むと、金駿眉は屈託のない笑みを浮かべた。
光耀大陸の人々は、デザートの一皿で食霊を召喚できるほど、才能に溢れている。
いままで親切な人間たちに囲まれ、庇護されてきた彼女は春に咲く繊細な花のように悪い思想や習慣に少しも汚されておらず、いわば生まれたばかりの雛鳥と同じだ。
そんな彼女が、自分が仕組んだ「事故」に直面したとき、どんな行動を取るだろう。
「そろそろ時間だ、行こうか」
金駿眉は茶碗を置くと、ゆったりと身をかがめて会釈した。
「後始末か?」
「いや……羽が濡れているときに、雛鳥に羽ばたく勇気があるかどうかを、確認しにいくんだ。」
金駿眉が校舎に足を踏み入れた頃には、学堂はいつも通りに戻っているようだった。
女の子はまだ生徒たちを必死に守っている。金駿眉の予想通り、彼女はやはり必死に涙をこらえながらも、頑なに唇を噛み締めている。
「鬼谷書院に学問の神がいると聞いたことがありませんよ。でも、いたずら好きなお化けさんなら一人いるんだけど…まだ早く出てきなさい!」
蓑衣黄瓜はわざとらしく高い声を出して、いたずらをした者を皮肉った。挑発されたクラゲの和え物は姿を現した。そしたら、彼女とともに現れたのは学堂のあちこちにいたずらをしてる浮遊たちだ。
「な、なによ!これは、金駿眉に頼まれてやったの!ここの生徒は歓迎会に参加したことないから、ちょっとおどかしたらすぐなくって言われて…」
「それで、こんな騒ぎを?餅米蓮根の大事な最初の授業なのに、お前のせいで台無しにしたじゃん!」
「もう!そのわりに餅米蓮根はきちんと対応できたじゃないの?!ねえ金駿眉!これで餅米蓮根は合格だよね?」
「これは…試験?」
餅米蓮根は少し驚いて顔を上げて金駿眉に尋ねようとしたが、彼は軽く笑って頷いてくれた。
「どうやら、我が鬼谷書院にまた面白いお嬢さんを迎えたようだ………」
餅米蓮根は金駿眉の言葉を理解できずにぎょっとした。クラゲの和え物は餅米蓮根に抱きついた。
「よかったぁ!餅米蓮根!これで書院に残れるんだね…ええ?!な、泣いてる?!もしかして本当にびっくりしたの?!」
少女はついに涙をこらえきれなくなり、真珠のような涙をぽろぽろとこぼした。
クラゲは言葉に詰まり、ニヤニヤしながら少女を泣き止ませようとおどけた顔をしてみせた。浮遊たちも急いで彼女の涙を拭ってあげた。
風はかすかに甘い香りを運んでくる。金駿眉は微笑んで中庭を眺めると、池の水面が雛鳥に軽くつつかれ、きらきらと漣を立てている。
年前に池の底に眠っていた蓮根は、今や立派な蓮に成長し、水晶の露が風になびき、太陽の黄金の輝きを反射して光っている。
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