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追儺の式・ストーリー

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追儺の式

プロローグ


ある日

地府


八宝飯:変だな……一体何があったんだ、人参のやつがあんなに焦ってるのを見たことないな。

八宝飯:悪い話じゃないといいけど……


 八宝飯(はっぽうはん)はぽつりと独り言をこぼしながら足早に地宮へと向かう。そして、角を曲がろうとしたその時、突然、人影が飛び出した。


腐乳:えへへっ!守銭奴め、その命を刈り取ってやる!

八宝飯:うわっ!お化けだ!

腐乳:フフーン!八宝飯、ビックリしたでしょう!地府に住んでるのにお化けが怖いなんてー恥ずかしいやつー!

八宝飯:なんだ腐乳(ふにゅう)かよ……

八宝飯:コホンッ!お化けが怖いなんかじゃないっ!頭につけてる……ソレにビックリしたよ!なんだよソレは?

腐乳:これ?リュウセイがくれたんだ、えーと……名前は……

泡椒鳳爪:儺面ですね。

腐乳:そうだ!儺面!

八宝飯:おっ?鳳爪(ほうそう)、いつ来たんだ?

泡椒鳳爪:ずっとここにいました……

八宝飯:あんた、まだ体を隠す癖が抜けないのか?今は霊力を思いっきり使えるから、もう手だけになる心配はいらないんだってのに……

泡椒鳳爪:この方が楽なので……我のことはいい、本題に戻りましょう……

八宝飯:ちょっとしたおかしな仮面だろう?何が問題あるのか?

泡椒鳳爪:儺面は儺祭に使う道具です。伝説によると、儺面には災厄を祓う力が宿っていて、光耀大陸の各地で有名らしいです……

泡椒鳳爪:普通の儺面は鬼と神の差を入念に描いているが、この儺面はどうも鬼と神の区別がつかないのです。

リュウセイベーコン:区別がつかないどころか、彫刻の基本ですらできていないぞ、その割に値段のつけ方が高すぎる……


 そう言いながら地宮からリュウセイベーコンが出て来た、少し嫌そうな目をしながら、腐乳から儺面を取り上げる。


リュウセイベーコン:それに、儺面をつけるのは基本儺祭に参加する役者たちだけだ。今我先にと面を買っているのは一般人ばかり……実に怪しい。

八宝飯:もしかしたらこの儺面、案外珍しいものかもしれないよ?オイラたちには見る目がないだけじゃないか?

リュウセイベーコン:だから人参に見せに来たんだ。

八宝飯:あっ!忘れるところだった!人参に呼ばれてるんだった……!手間を取らせるんじゃないぞ、クソガキ!

腐乳:クソガキって何よ!おまえこそクソガキだもん!クソガキ!クソガキ!

八宝飯:あんだって?!

泡椒鳳爪八宝飯、急ぐ必要はありません。人参様が貴殿を呼んだのは、この儺面が原因です。

リュウセイベーコン:ハッ!宝物にしか目がないんだな、この面に変わった気配があるのに気付かないとは。

八宝飯:あ?何の気配だ?

泡椒鳳爪:聖教の者の気配です……人参様が、旧知と……いや、誰かから同じような気配を感じたことがある。

八宝飯:聖教……まさか、聖教のやつらがこいつで儲けてるってことか?

リュウセイベーコン:……ただ荒稼ぎしてるだけなら、わざわざ鳳爪まで呼び出す必要はないだろう?

泡椒鳳爪:人参様は聖教が儺面を用いて悪事をしているのではないかと心配しています、もし山河陣にも関わっていたら大変だと。

八宝飯:そんなに大事なのか……じゃあ急ごう、鳳爪、二人で儺面の売っているとこを調査しよう!

腐乳:出かけるの?じゃあ、臘八粥を買って来てくれない?リュウセイがめっちゃ美味しいって言ってたから、アツアツの買ってきてよね!

八宝飯:人に頼む態度かよそれ!--痛い痛い!わかった、わかったから!とにかく手を離せ!


ストーリー1-2


しばらくして

村の市場


八宝飯:はぁ〜!たまにはこうして書類から離れて、散策するのも悪くないだろう?

泡椒鳳爪:散策?私たちの目的は儺面の調査ですよ……

八宝飯:あっ!あそこに儺祭で着る衣装売ってるじゃん!あんたは服を汚したくないだろう?新しい服を買いに行くぞ!

泡椒鳳爪:ちょっ……


 八宝飯は有無を言わさずに、泡椒鳳爪(ほうしょうほうそう)を店内に引きずり込んだ。一番目立つところに展示している服を取って彼に渡し、着替えさせた。


泡椒鳳爪:着替えましたよ……

八宝飯:……

泡椒鳳爪:どうかしましたか?やはり変ですか?

八宝飯:変っていうか……かっこよすぎるだろ……ダメだ、行く先々で囲まれたら困る!この服じゃダメだ、変えよう!

泡椒鳳爪:大袈裟な……買うならこれで結構ですよ、我らには重要な任務がある、ここで時間を浪費するわけにはいきません。

八宝飯:だから、任務を果たそうとしてるじゃん。


―――

⋯⋯

・えっ?それはどういう意味ですか?

・遊びじゃないんですよ……

・これのどこが任務ですか……

―――


八宝飯:へへっ、まあ見てな!ごめんください、儺祭にもっと合う服はないですかー?

店主:あいやー、お客さんったら、今着て頂いているのがうちの目玉商品ですよ!うちの最高級品です、いやーお客さんのお目が高いですね!

八宝飯:ちょっとかっちりしすぎている感じがするんだよな……祭りって感じがしない……

店主:えええっ、デタラメ言うな!儺祭はうちの町の一大祭りですよ!儺祭に参加するならその服が一番おすすめです!

八宝飯:一大祭り?どれだけ盛り上がるんだ?

店主:皆、臘八節から、一年中楽しみにしていたんです!村や町全体はもちろん、各地からもたくさんの人たちも参加しにきます。そうですね……私の中では神君の継承式の規模に及ぶ程ですよ。

八宝飯:そんなにか?ここの人がこんなにも儺祭を重視しているとは……

店主:もちろんですよ!儺面を被って儺祭に参加すれば、一年間の願いは全部叶いますから!

八宝飯:マジで?!どんな儺面でもいいのか?これはどうだ?

店主:あら!姜さんが作った儺面ですね!姜さんは儺面の達人ですから、彼が作った儺面は二日前に売り切れてしまって、今じゃどこにも売ってませんよ!

泡椒鳳爪:姜さんという方は今どこにいるかご存じですか?

店主:えーと……彼に何かご用ですか?

泡椒鳳爪:私は……

八宝飯:そうそう!この儺面は他人に頼んで買ってもらった物なんだ、まさか姜さんの作品を買えたとは思いもしなかった……だけど……

八宝飯:姜さんに支払ったお金は……ちょっと……足りなかったんだ!別途でお金を払いたくて……


 困り果てた八宝飯の顔を見て、店主は納得したようだ。


店主:ほう〜なるほど。姜さんの住所はわかりやすいですよ、お客さんたちならすぐに見つけられます。

店主:あいやー、これで一つ貸しができたな……これから儺面を低価格で売ってくれるかもしれないな……


ストーリー1-4


店主:姜さんは村の最も奥まったところにある、丘の中腹の小さな茅葺き小屋に住んでいます。周りには他の家がないので、簡単に見つけられますよ!

店主:それでも見つからなかったら、村の人に聞くといいですよ……

店主:さあ、お客さんたちの問題も解決しましたし……衣装のお支払いの方は……こちらで……

八宝飯:高っ!一着でその値段するのか!この村は悪徳商人ばかりだな?!

泡椒鳳爪:……やはり返品しましょう、返品できないなら……後でお金を返します……

八宝飯:返品?!財布が薄くなっちまったが、服自体は良い物だろう?似合っているしな……


―――

⋯⋯

・オイラからの新年の贈り物だと思え!

・遠慮するな、あげるよ!

・返品なんて面倒だろ、着てたらいいよ。

―――


泡椒鳳爪:……ありがとうございます……祭りにはしゃぎ過ぎて真の目的を忘れたんじゃないかと思いました。情報を聞き出すための演出だったのですね、誤解してしまってすみません。

八宝飯:もう堅苦しいこと言わなくていいって、オイラたちは兄弟なんだから!


 八宝飯の爽やかな笑顔を見て、泡椒鳳爪も思わず微笑んだ。二人は村の小道を歩いていくと、やがて店主が説明した家に行き当たった。


八宝飯:儺面があんなに高く売れてるのに、こんなボロい家に住んでいるのか……姜さんって、本当は守銭奴だったりして?

泡椒鳳爪:これはもう倹約の程度を超えていますね……とりあえず行ってみましょう。

八宝飯:うん!


 そうと決まれば二人は小さな丘に登っていった、近づいてみると、藁葺き小屋の扉の前に、既に二人の人物が立っていることに気が付いた。


彫花蜜煎:姜さん!弟子にしてください!うちは本気です!信じてくださいよ!

羊方蔵魚:はいはい落ち着いて……人んちの扉を壊すつもりか……?

八宝飯羊方蔵魚(ようほうぞうぎょ)?どういうこと?やっぱりこの町、悪徳商人ばっか集まってるみたいな!

羊方蔵魚:……禍は連続にやってくるもんだな、よりによって今日にお前たちに会うとは……

八宝飯:何でここにいるんだ?また人からお金を騙し取るつもりか?!

羊方蔵魚:そんな……私はしがない画商ですよ、一人の商売人として、正々堂々と商売をしています!

彫花蜜煎:じゃあ約束した通り、姜さんに扉を開けさせて。

羊方蔵魚:だから、俺の仕事はお前を姜さんの所までの案内することだ、姜さんの気持ちを左右することはできないって……それに、怪力を持つ者を弟子にしたくないかもしれないじゃないか……

彫花蜜煎:な・ん・で・す・って?

羊方蔵魚:……別に何も言っていないです……お嬢が望むなら、今から黙ります!

彫花蜜煎:やたら口先だけでうまいことを言うな!そんな暇あるなら姜さんに会わせてよ!

泡椒鳳爪:それで……お二人も姜さんに会いに来たのですか……?

彫花蜜煎:その通りよ。このような精巧な儺面は滅多に見ないわ!だから姜さんから技術を教わりたくてわざわざ訪ねてきたのよ……何時間も扉を叩いたんだけど、開けてくれないのよね……

八宝飯:精巧?確かリュウセイは「彫刻の基本ですらできていない」と言っていたはずだ……

羊方蔵魚:ありえない!確かにたまには贋作を売ったりするが、不良品は一度も商品として売ったことはない!姜さんの儺面は最高の品だ!

八宝飯:ああ……儺面を売っているのはあんただったのか、どうりで値段がとんでもない訳だ……

羊方蔵魚:えっ?良心的な値段で売っているぞ、何しろ姜さんからあまり高く売るなと何度も言って来たからな……

羊方蔵魚:もう少し高く売れていれば、姜さんもこんなしょぼい家に住む必要がないのにな……

八宝飯:とにかく、この儺面の作りは非常にお粗末だってことぐらい、素人のオイラでも分かるぞ……ほらここ、まだ処理しきれていない木屑が残っているだろ?

羊方蔵魚:そうか?おかしいな、これは……

彫花蜜煎:これは姜さんが作った儺面じゃないわ。これを見るといい、これこそが姜さんの作品よ!


 そう言いながら、彫花蜜煎(ちょうかみせん)は懐から一枚の儺面を取り出した。あれは八宝飯たちが持ってきた儺面とは全く違う、職人技が光る儺面だった。


八宝飯:でも裁縫店の店主が……まあいい、やはり姜さん本人に直接聞かないと。

八宝飯:姜さん!姜さん!聞きたいことがあるんだ!扉を開けてくれ!

姜さん:うるさいぞガキども!誰にも会わないと言ったはずだ!話がわからんのか?!

八宝飯:ひぃいいいい!


ストーリー1-6


 扉が突然蹴破られた、それと同時に投げ出された靴が八宝飯の顔面に当たりそうになる。衆人が慌てて後ずさりしながら、怒りながら扉の内側に現れた老人を呆然と見ていた。


姜さん:フンッ!


 老人は扉の前にいる食霊たちをしげしげと見回してから、バタンと大きな音をたてて扉を閉めた。


八宝飯:べっ、別にそこまで怒らなくても……

泡椒鳳爪:元々機嫌が悪かったのかもしれませんね……あまり気にしないでください。

羊方蔵魚:しかし、なんであんなに怒ってんだ?前に会った時はそんな感じじゃなかったぞ……

彫花蜜煎:どこかの悪徳商人が儺面を安く買い取って高く売ろうとしたから、姜さんを怒らせたんじゃないの?

羊方蔵魚:とんでもない!俺はご老人にそんなマネをしたりしないぞ!

青年:貴方たち……


 突然の声に一行が振り向くと、一人の青年が驚いてこちらを見ていた。その青年の後ろには、黒装束の男がいた。


八宝飯:(黒装束……!まさか聖教の者か……?)

黒装束の男:おっと、儺面の商売をやめると宣言したわりに、賑やかだな。

彫花蜜煎:誰……?

青年:えっと、ここは私の家なんですが……貴方たちも父から儺面を買いに来たのですか?

羊方蔵魚:ええ……しかし、追い出されてしまいました。

青年:そうですか……父は二度と儺面を作らないと誓いを立てました。申し訳ございませんが、帰ってください。

羊方蔵魚:そうなんですね……残念ですが、帰るとしましょう。

彫花蜜煎:ちょっと……


 一行がそれぞれ言い返すのも待たずに、羊方蔵魚は振り返って目配せをした。合図をもらった彫花蜜煎たちも一斉に口を噤んだ。それを見て、青年は黒装束の男を家の中に案内した。


彫花蜜煎:ちょっと、何を考えているの?もう諦めたのか?

羊方蔵魚:お嬢、黒装束の男を見なかったのか?どう見ても只者じゃないだろ。


―――

だから何よ?

・別に怖くなんかないし!

・何ビビってんの、うちらだって普通じゃないし!

・怖気づいたの?

―――


羊方蔵魚:ビビってる訳じゃない……幸いこの家の作りは雑だ、外からでも中の会話を聞き取れる。さっき諦めて帰るフリをしたのは、あいつらの警戒を解くためだ。これで彼らが何を企んでいるのかを探ることもできるだろ?

彫花蜜煎:……ふーん、割と考えてるのね。


 そうと決まれば、羊方蔵魚彫花蜜煎は扉に耳を付けて、盗み聞きを始めた。


泡椒鳳爪:盗み聞きは、君子たる行為ではありません……

八宝飯:大丈夫だよ鳳爪!そこで立っていればいいさ、こういうことはオイラに任せとけ!


 扉に耳を当てると、家の中の話し声がはっきりと聞こえてきた。


青年:父上……

姜さん:お前のような金の亡者のような息子なんていない、もう帰ってくれ!

青年:私は……

黒装束の男:金の亡者だなんて言い過ぎでは?儺面が人々の願いを叶えてくれると、皆に信じさせているだけです。お寺に行ってお香を焚いて加持祈祷するのと変わらないでしょう?

姜さん:お前!二度とわしの前に現れるなと言っただろ!

黒装束の男:私が助産婦を雇わなかったら、貴方の孫はどうなっていたと思いますか?貴方の息子も私のコネで食べているんですよ、私と比べれば、貴方は父としては無能過ぎませんか?

姜さん:お前……儺面には願いを叶える力なんざ宿ってない!人々を騙して、わざわざ遠いところから足を運ばせ、お金を借りてまで買わせるなんて……

姜さん:儺祭で大切なことは、人々により良い未来を展望させることだ。根拠もない邪道を頼ることじゃない!お前は人々を誤った道に導いている!お前は人々の希望を踏みつけているんだ!


ストーリー2-2


姜さん:儺祭で大切なことは、人々により良い未来を展望させることだ。根拠もない邪道を頼ることじゃない!お前は人々を誤った道に導いている!お前は人々の希望を踏みつけているんだ!

黒装束の男:いい加減「彼ら」のことを考えるのはやめましょう?もっと自分のことを考えた方がいいのでは?村一番の職人である貴方は本来、儺面の商売で裕福な生活を送れるはずです。こんなみすぼらしい茅葺き小屋に住んでいるなんて、もったいないと思いませんか?

黒装束の男:そろそろ自分のために考えたらどうです?自分のためでなくても……生まれたばかりのお孫さんは、一番お金が必要な時期でしょう?

姜さん:……お前には関係ない話だ。

姜さん:わしの名を使ってこれだけ偽物の儺面を売り出した。今はもうわしなんかいらないだろう、何しに来たんだ?

黒装束の男:確かに、儺面を作れる人ならたくさんいますが、今年は儺祭に参加しに来る人が異常に多くてね、三流の職人どもが賃金を上げることで頭いっぱいで、まともに仕事をしてくれないんですよ……

黒装束の男:このままだと多くの人が無駄足を踏むことになるでしょう。たくさんの人が儺祭を参加できるよう、是非力を貸して欲しいです。

姜さん:……儺祭にそこまで力を入れて、一体何が目的だ?

黒装束の男:そうですね……信仰でしょうか?

姜さん:ふざけるな!本当の目的を教えてくれない限り、わしは協力したりはしない!出て行け!

青年:父上……


 パタンッ!

 家から物を投げつける音が鳴り響き、次いで足音が聞こえてきた。盗み聞きしていた数人は、すぐに家の後ろに隠れた。

 しばらく経ったら、黒装束の男が出てきて、次に青年も家から出て去っていった。


八宝飯:なるほど、この儺面は姜さんの名を使って市に流出した物、姜さんの手によるものじゃないんだ。

羊方蔵魚:言っとくけど、俺は姜さんが作った儺面しか売ってないぞ、あんな不良品なんて俺と関係ないからな!

泡椒鳳爪:……彼らが言うように、儺面が願いを叶えてくれるという嘘をでっち上げ、また故意に高価で販売していることが事実であれば、これは間違いなく詐欺行為です。

彫花蜜煎:詐欺だけじゃないわ!あの黒装束のやつのおかげで、姜さんは儺面制作をやめようとしている!素晴らしい技術が埋もれて伝わらなくなったら……万死に値するわ!

八宝飯:しかも、さっきの話を聞いていると、あの男の背後にいる権力者は、単に闇金を作ろうとしているのではなく、別の目的があるはずだ。

羊方蔵魚:……大勢の人を儺祭に参加させて、一体何を企んでいるのか?

泡椒鳳爪:もしあれが聖……我らが追跡調査している連中なら……恐らく……

姜さん:人んちの前でブツブツと喋るな!入ってこい!

泡椒鳳爪:!


―――

これは⋯⋯?

・うちらに話しかけてる?

・バレちゃった!

・聞き間違い?入れてくれるの?

―――


羊方蔵魚:さっきは全然入らせてくれなかったのに……

八宝飯:それに……なんでオイラたちが家の前にいることがわかったんだ?

姜さん:聞こえないのか!入ってこないと閉めるぞ!

羊方蔵魚:入ります入ります!少々お待ちくださいね!


 一行は顔を見合わせ、戸惑いながら家に入っていった。


ストーリー2-4


 家の中では、姜さんは怒りが収まらない様子で八宝飯たちをしばらく見つめていると、呆れたようにため息をついていた。


姜さん:外から中の声が聞こえるなら、中からも外の声が聞こえるに決まってるだろ……こいつらに任せて本当に大丈夫なのか……

八宝飯:……

泡椒鳳爪:姜さん、何かご用でしょうか?

姜さん:儺面を彫る技術を学びたいのか?

彫花蜜煎:はい!うちを弟子にしてください!

姜さん:わかったわかった、そんな大きな声を出すな!……他の人は?何しに来た?

羊方蔵魚:えっと、私はこちらのお嬢さんに道案内をした者です。

泡椒鳳爪:我らは、この儺面の出処を調査しに参りました。ご覧の通り、この儺面は粗末な作りになっているが、法外な値段で売られております。それがどうも怪しいと睨んで……

姜さん:あいつら、こんなガラクタで儺神をおろそうとしているのか?!バカめ!愚か共め!

泡椒鳳爪:……

羊方蔵魚:まあまあ姜さん、落ち着いてください、怒りすぎると体に障りますよ……

姜さん:どう怒りをおさめろと言うんだ!あのバカ息子、どこであの黒装束のやつと知り合ったんだ!わしの儺面を盗んで奴らに渡して、一体何を企んでるんだ!

姜さん:ちょっと気を抜いただけで、儺面が全部あのガキに盗まれたんだ!黒装束のやつも、どんな怪しい術を使ったのかわからないが、村の婆さんの病気を治してやったみたいだ。それを儺面のおかげだと皆に言い張っていたそうだ。

姜さん:ふざけるな!儺面がそんなことできるってんなら、わしが先に仙人にでもなってるわい!

彫花蜜煎:儺面を作るのをやめたのは、あの黒装束の人に村民たちを騙させないためだったのね?

姜さん:……今まで貧しい生活を送ってきたが、良心に従って商売をしてきた!あんな悪党に手を貸すもんか!

泡椒鳳爪:ならば、黒装束の男の目的について、何か思い当たることはありませんか?

姜さん:フンッ!陰で悪巧みをしているに違いない……しかし、何度もみんなに忠告したが、誰も信じてくれなかった!わしは……

姜さん:奴らが開こうとしている儺祭が人々に危害を加えるんじゃないかと心配だ。しかし、こんなジジイの力ではどうにもならない……だからお前たちを呼んだ……

姜さん:何を企んでるかはわからないが……儺祭は、やつらの道具にさせるわけにはいかないんだ!奴らを止めるのを手伝ってくれれば、わしは命を掛けても喜んで付き合ってやる!

彫花蜜煎:姜さんを危険に晒すようなことはさせない!うちらに安心して任せて!

八宝飯:そうそう、たとえ姜さんから声がかからなくとも、もともと調査しに来たんだ、引き受けないわけがないでしょう!頼まれたからには……

泡椒鳳爪:後のことは我らに任せてください。


 八宝飯たちが儺祭の会場に到着したころには、祭は既に始まろうとしていた。祭壇は雪が薄く積もっただけの簡素なものだったが、周囲の装飾は立派で、観客も大勢詰めかけていた。

 ドーンッ!ドーンッ!

 大地を震わす和太鼓の律動を伴って、儺面を被る役者たちは各自祭壇の端に立ち、両手を天に掲げている。


村人甲:祭壇が光っているぞ!

村人乙:儺神様!どうか私たちの願いを聞いてください!

八宝飯:この人たち……


―――

⋯⋯

・おかしくなってるな……

・あいつら、自分が信仰してる神が単なる嘘に過ぎないことを知ったら、どうなるだろう……

・儺神の噂を本当に信じているのか……

―――


彫花蜜煎:これからどうする……ん?どうしたの?

泡椒鳳爪:祭壇とその周りの配置……これは、人間の生命力を吸い取る悪しき法陣です!


ストーリー2-6


泡椒鳳爪:祭壇とその周りの配置……これは、人間の生命力を吸い取る悪しき法陣です!


 その言葉を発した瞬間、柔らかな金色の光は突如、重苦しい黒へと色を変え、役者を含むその場にいた人間たちは皆、苦痛に満ちた表情を浮かべ始めた。


村人甲:痛い!苦しい……息ができない……

村人乙:儺神様!!!どうかお許しを!!!怒りをお納めください!

彫花蜜煎:こんな状況なのにまだ儺神のことを考えてるの?どうしようもない奴らだわ!

黒装束の男:聖主様!今日のためにずっと準備をしてきました……私を含め、ここにいる全ての者の命は……貴方様に捧げます!

羊方蔵魚:聖主……また聖教の仕業か……

八宝飯:おいっ、悪徳商人!ボーっとしてないで、法陣を壊す方法を考えろ!

泡椒鳳爪:祭壇の四隅にある柱を狙ってください!あれを破壊すれば法陣の効力も消えるはずです!

彫花蜜煎:このぐらい、うちに任せて!


 彫花蜜煎は四つの柱を素早く打ち砕いて、祭壇の周囲の黒い光はほとんど一瞬にして消えた。痛みに苦しむ人々の助けを求める声も次第に聞こえなくなっていった。

 しかし、祭壇の中央に立つ黒装束の男の命は助からなかった。


彫花蜜煎:……遅かったみたいね……

羊方蔵魚:仕方ない、彼は法陣に一番近いところにいたから……


―――

⋯⋯

・因果応報ってやつだ。

・元から自分を捧げようとしてたんだな。

・助けたくても助けられなかっただろうな。

―――


八宝飯:じゃあ……次はどうしたらいい……?


 祭壇の下にいた人々は、皆徐々に正気を取り戻し、困惑しながら周囲を眺めていた。


村人甲:私……どうしたんだろう?さっきは誰かが聖主とやらって……

村人乙:ああっ?!儺面、儺面が砕けたぞ!

村人甲:し、死人が出た!どうしたんだ!?儺神様は?!

村人甲:凶兆だわ!あいつらが儺祭を邪魔したせいで、儺神様を怒らせたわ!

八宝飯:は?オイラのせいにするのかよ!

泡椒鳳爪:……この茶番劇はどう終わらせたらいいでしょう、やはり皆に真実を伝えるしかないでしょうか?

羊方蔵魚:ゴホンッ!皆の者!早く儺神様のご恩に感謝しなければ!


 羊方蔵魚がいきなり大声を出したから、その場にいる全員がぎょっとした。


八宝飯:何言ってんだよ……目どうかしたのか、どうしてずっと眉間に皺を寄せて変な目配せをしてんだ?

羊方蔵魚:はぁ……ほんと全然気が合わないな……

羊方蔵魚:ここの人たちは儺神の存在を疑わずに信じている、お前が何を言っても到底信じてはくれないだろうな……儺神が自分で「人の願いを叶えられない」と、直接彼らに告白するのが唯一の解決策だ!

彫花蜜煎:……わかったわ!


 彫花蜜煎は目を輝かせ、姜さんの作った儺面を鳳爪に投げつけてから、親指を立てた。


泡椒鳳爪:これは……?

彫花蜜煎:あんたが一番儺神っぽい服を着てるからね!この後はお願い!

泡椒鳳爪:……


 手にしている儺面をじっくり見つめていると、作り手の願いが伝わってくるようだ。泡椒鳳爪は少し戸惑いながらもお面を見つめ続けた。


泡椒鳳爪:(儺神がこの世に実在しているならば、名を借りる非礼をお許しください……)

羊方蔵魚:皆、あの黒装束の男に騙されたんだ!この儺祭は、貴方たちの願いを叶えるために開催されたのではなく、皆の命が狙いだったんだ!

羊方蔵魚:幸い、慈悲深い儺神様は事前に災難を防いでくれた!皆が未だに生きているのは、全て儺神様の御恩によるものだ!

村人甲:儺神……あのお方が儺神様か?!

村人乙:儺神様!ありがとうございます!儺神様は私たちの願いを叶えにいらしてくださったのですか?

泡椒鳳爪:わっ……私は儺神、だが……お主らの願いを叶えることはできぬ。

村人甲:な、なんでですか?!どうして……

村人乙:わざわざ高い儺面を買って、儺祭まで参加したのに、どうして……

泡椒鳳爪:儺祭ではお主らの願いを叶えることはできぬ、儺面も同じ……願いは己の努力でしか叶えられぬぞ。

泡椒鳳爪:儺神の存在は、お主らの頑張り、努力を見届けるためにいるのだ。それだけだ。


 泡椒鳳爪は言い終わると、儺面を被り、筆を手にして描き始めた。四方に優しい光が広がり、群衆が驚いている中、白い鳳凰が空中に現れ、神の祝福を振りまき、人々に絶大な安らぎを与えた。


泡椒鳳爪:これからは誰かに頼るのではなく、自分の手で真の幸福を手に入れるように。


泡椒鳳爪√宝箱


何日後

地府


リュウセイベーコン:で、今回の事件は聖教が関わっていたけど、下っ端が騒いでいただけで、大事にならなかったってことか?

八宝飯:聖主って言っていたけど、あれから村の付近で探し回ったが、聖教の人間は見当たらなかった。

リュウセイベーコン:聖教に動きがないなら何よりだ、ご苦労だった。

八宝飯:まあ、山河陣に何かあったら、光耀大陸も危ないだろ?当然のことをしただけだよ……

腐乳八宝飯臘八粥を買って来てくれるって約束じゃん?!

八宝飯:お嬢様、ちょっとオイラの顔を引っ張らないでよ!後片付けだけで、もうヘトヘトなんだ!見ろよ、鳳爪がまた透明になってるだろ?臘八粥を買いに行く体力なんて残ってないんだ!

腐乳:知らないもん!約束してくれたのに!あたしずっと楽しみにしていたんだもん!

豆汁:どこの臘八粥も同じだろ!なんでそこのじゃないとだめなんだ?

腐乳:リュウセイがね、あの臘八粥は不思議な色をしていて、その村にしか売っていないって言ってたの!だからずっと楽しみにしていたの!

豆汁:色にだけ注目しているのなら、別に臘八粥じゃなくても満足してあげられるよ?わたしの特製極彩色忘川水を試してみない?

腐乳:……

油条:……

腐乳:とっ、とにかく!臘八節なのに臘八粥を食べないなんて許さないわ、あたしが作ってみせる!あの不思議な臘八粥を……ちょっと、お粥に色をつけるものを探してくるから、待ってて!

八宝飯:ふぅ……助かったぁ……ありがとうな、豆汁(とうじゅう)!

豆汁:いいよーあれ?黒ちゃん、顔色が悪いみたいだね。

油条:……俺が出かけている隙に、誰かが油鼎にたくさんの米と豆を入れた……

豆汁:米と豆?油鼎でお粥でも作ろうとしたのかな?

油条:洗うの大変だった……一体誰がこんなことを……

豆汁:地府でこんなことをするのは一人しかいないでしょうね……

油条:……

腐乳:うわあああああああ!あたしじゃない!あたしは何もしてないよ!油条(ようてゃお)!離してよ!八宝飯!鳳爪!助けて!

猫耳麺:うわっ!


 猫耳麺が地府から出た途端、騒いでいる人たちにぶつかられて転びそうになった。八宝飯は彼をぐっと掴んでそばに置いたら、笑顔で彼の頭を撫でた。


八宝飯:どうだ?鳳爪の具合は?

猫耳麺:はい。霊力を使いすぎただけで、もう少し休憩すれば直に回復すると、人参様が仰っていました。

八宝飯:良かった……でも、一緒に来ていないのか?まだ人参のところにいるのか?

泡椒鳳爪:いいえ、臘八節の件について少し話していただけです。猫耳ちゃんは我らが帰る前に臘八粥を用意してくださったので、熱いうちに食べるといいと、人参様からの伝言です。

八宝飯:え?そうなのか?待って……不思議な色とかしていないよねそのお粥……

猫耳麺八宝飯様、ご安心ください!普通の臘八粥です!

八宝飯:ならいい!じゃあ行こうか鳳爪!


 いつもは静かな地府は、この時ばかりは談笑する声に満ちていた。あたたかい臘八粥とみんなの笑顔が、冬の寒さを吹き飛ばしてくれたのだ。

 そして机の上には、職人の手で作られ、冒険を見届けてくれた儺面が置かれている。ろうそくの焔に照らされ、神秘的かつ安定した輝きを放っていた。


彫花蜜煎√宝箱


何日後

南離印館


蟹醸橙彫花蜜煎のやつ、まんまと羊方蔵魚に騙されたじゃないか。あいつと一緒に行動するぐらいなら、僕らを誘えばいいのに!

ヤンシェズ:彼女と、喧嘩しただろう……だから……一人で、行った……

蟹醸橙:……

ヤンシェズ:大丈夫、すぐ、帰ってくるから……

蟹醸橙:別に待ってないし、あいつがいないからって退屈してる訳じゃないし……

ヤンシェズ:僕は、何も言っていない……

蟹醸橙:えっ……あいつのことなんて知るか!まだ帰って来ないようなら、残しておいた臘八粥が冷めちまうだろ?仕方ない、僕が食べてやる!

彫花蜜煎:うちの臘八粥に手を出すな!!!!!

蟹醸橙:ああああああビックリした!化物!兄弟、ここに化物がいるぞ!邪鬼なんて全部退散しろ!

彫花蜜煎蟹醸橙(しぇにゃんちぇん)!師匠から長い時間をかけて儺面の作り方を学んで作ったのに、化物だと?!やっぱり……羊方蔵魚にやるわ。

羊方蔵魚:えっ?俺に?俺が貰っても意味ないだろ、蟹醸橙にあげるって道中ずっと言ってただろ!

蟹醸橙:はぁ?ぼっ、僕に?

彫花蜜煎:何よ、うちが初めて作った儺面だぞ!見た目はちょっと不細工かもしれないけど……もうっ!いらないなら羊方蔵魚に譲るわよ!

蟹醸橙:いるいる!君からの贈り物なら!

羊方蔵魚:おやおや……あの蟹醸橙がまさか……

蟹醸橙:はあ?何か言ったか?

羊方蔵魚:いやいや、ではお嬢、無事に帰って来れたし、これで俺の役目は終わりだ。俺はこのへんで……

ヤンシェズ:待って。

羊方蔵魚:どうしたんだ……俺は最近、結構大人しくしてると思うんだが……

ヤンシェズ:今日、臘八節、お粥を……飲んでから、帰って。

羊方蔵魚:あいやー、真面目な顔で何を言われるかとヒヤヒヤしたぞ。

蟹醸橙:良い事言った!今日は臘八節だ、印館に泊まって、あとで一緒にご飯食べようよ!


 三人の期待している顔を見て、羊方蔵魚はため息をつきながら、椅子に腰かけた。


羊方蔵魚:まあいいよ……この南離印館に新しい商機が眠っているかもしれないしね……

彫花蜜煎:うん?また何か企んでるの?

羊方蔵魚:お嬢……!とりあえず、その彫刻刀をしまってくださいよ!


 窓の外から聞こえる爆竹の音が新年の到来を告げている、臘八節の灯火は賑わう町の中でゆっくりと揺れている。



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