鮭親子丼・エピソード
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鮭親子丼のエピソード
いつもカワイイスカートを履いているが、実は男の子。百聞館のマスコット的存在で、館主を母親として慕っており、言われたことには絶対服従。鈴を使って山で迷っている小さな女の子を誘い、百聞館に連れ帰って館主に話を聞かせる。
Ⅰ.遊び仲間
タタタ――
辺りは静寂に包まれ、僕の下駄の音だけが林の中にそっと響く。
僕は光る鈴を持ち、青い幽霊のような炎が舞う薄暗い道を照らす。
もうとっくに日が暮れているのに、なぜあの女の子たちはまだ姿を現さないだろう……
風吹いて、鈴も鳴っていた。
遠くないところで、あいまいな泣き声が流れてきた。
「うぅ……お姉ちゃん、ここどこ?暗いよ……」
「おかしいな……でも、お父様はこの道だと言ってたのに。」
「うう……怖い……うわぁ――お、お化け!」
木の枝にいたカラスがバタバタと飛び、僕は目の前で交錯する草の房をむしり取り、手にした光る鈴先に動かした。
目の前には、美しい柄の着物を汚泥で汚した、縮こまっている2人の女の子がいた。
「怖がらないで……僕はお化けじゃないよ、僕の名前は鮭親子丼だ。」
「さ、鮭親子丼……?」
「うん!貴方たち、迷子になったかな?僕と一緒に百聞館に行かない?」
「百聞館?そこは……あなたの家なの?で、でも、お父様はまだ家で待っているの。」
「そっか……でも心配しないで、ほんの少しの時間で、とっても面白いお話が聞けるよ。」
女の子たちは訝しげに俺を見たが、ついに決意の表情を浮かべて首を振った。
「それじゃ、こうするしかない……」
少し残念に思いながら、手に持っていた鈴をそっと持ち上げた。
チリン――チリン――
鈴の音が鮮明に響くと同時に、金色の霧が浮かび上がり、二人の驚いた頬に光芒がこぼれ、その瞳は濃い深い墨色の黒に染まっていった。
「さぁ、僕と一緒に百聞館に行かない?」
二人はゆっくりと首をかしげ、人形のように真正面から僕に向き合い、頷いた。
「よかった!館主様もきっと喜んでくれるよ……」
二人の頬に染みた涙を見て、僕はハンカチでほれを優しく拭い、丁寧にたたんで懐に収めた。
「大丈夫、館主様は世界で一番優しい人だから。お話が終わったら家まで送ってあげるよ……」
暗い雲が星を消し、枯れ木が道に奇妙な影を映し、まるで物語の中の恐ろしい人喰い鬼のようだった。
僕は下駄を履いて、二人の女の子を連れて一緒に「家」の方向へきびきびと歩いていた。
……
百聞館に戻ると、中庭には数個の石灯りが灯っていた。
女の子たちを線香の灯る和室に連れて行き、大人しく正座した。
「ただいま、館主様。」
「ふふ……我が可愛い鮭親子丼なのじゃ。今日はどんな『遊び仲間』を連れてきたのかな?」
温かい香りが頭上をかすめ、思わず心地よさに目を細めてましった。
館主様は僕の頭を撫で撫している、もっと長く続いてほしいな……
「ん?二人だけか……」
優しい声が低くなり、まるで美しい桜の花が地面に激しく落ちるように、僕は驚いて背筋を伸ばした。
「ごめんなさい、今日は他の女の子を見つけられなかった……」
「ああ、そうじゃのう……」
館主様、不機嫌なのか。
そんなことになったら、館主様に嫌われちゃうよ……
ダメ……絶対に嫌だ!
「もう一度だけチャンスをください!……今から外に出てさがしつづける!もっと女の子を見つけるから……」
僕は慌てて立ち上がるが、鈴が腕から転がり落ち、泥汚れのついたブーツの横に転がってしまった。
「あれ?今日のお話の時間はまだか……親子丼、どうしたんだ?ほら――鈴も落としてしまったじゃないか。」
笑顔の愛想のいい男は身を乗り出し、腰に絵馬の紐をガチャガチャ音立てて、拾ってきた鈴のを僕に手渡した。
僕はその鈴を手に取り、目に浮かぶ涙をこらえながら、振り返ることなく月と星のない闇の中に走り出した。
Ⅱ.雨の夜
ドォーン――
紫色の稲妻が夜空を裂き、霧に包まれた暗い森を一時に明るく照らし出した。
雨は頭の上から冷たく降り注ぎ、濡れた額の髪に沿って目に突き刺さり、道沿いの鋭い枝は悪霊のように燃え上がる中、僕は一生懸命に走った。
間に合わない……お話の時間は終わっちゃう……
急げ……もっと急げ!
厄介な枝をむしり取っていたら、足につまづいてバランスを崩し、棘のある枯れ木の中に激しく倒れ込んだ。
痛い……
天蓋に稲妻が光り、視界は束の間に真っ白になった。
「おや、知らない子じゃのう、なぜ百聞館の前で眠っておるのじゃ?」
優しい声が春の桜のように降り注ぎ、くすぐったく、温かく、とても親しみのある感触だった……
「お母様……」
「ふふ……私はあなたの母ではない、そんな憐れむような目で私を見ないで。」
「……ど、どこにいるの……見えないよ。」
「見えぬとはいえ、私はずっとあなたの前に立っておるのじゃ~ふふ、迷子になったのか?」
「……うん、帰り道が、見つからないの……」
「かわいそうに……泣かないで、このハンカチで涙を拭いてくれ。百聞館に泊まるのはどうかな、あなたのことが気に入っておるのじゃ。」
満開の桜の木の下で、暖かい春風が優しく頭を撫で、僕はぼんやりと首を傾げた。
金色の陽光に照らされ、身を乗り出して優しく手を伸ばし、僕の頭にそっと触れている「彼女」の姿が見えた。
お母様……
ドォーン――
雷が鳴り響き、目を開けると、泥の原っぱで、かすかに光っていた鈴が、遠からず泥汚れの中に力なく沈んでいた。
先のあれは、ただの夢だったんだ。
夜空は奈落の底のように真っ黒で、どれほどの時間が経ったのかわからない。
館主様、館主様……早く、早く館主様のために女の子を探さないと……
そうすれば、館主様は初めて会った時のように、僕の頭にそっと触れて、嬉しそうに「微笑んで」くれるはず……
そうすれば、館主様は僕のことを大好きな子と言ってくれるはず……
そうすれば、館主様は時間をとって、庭で僕と一緒に和菓子や金平糖を食べてくれるはず……
下駄はどこかに投げ捨てられ、美しい文様が描かれた袖はトゲで敗れていた。俺は必死に手を伸ばして鈴をつかみ、歯を食いしばって立上がた。
素足で泥の中を走ると、足の裏が切れるような痛みを感じだが、もうそんなことはどうでもいい。
断続的な雷鳴がお化け屋敷のような森に降り注ぎ、醜悪な枯れ木をますます陰惨に映し出している。
紫の稲妻の隙間に、もう一つ見覚えのある人影が揺らいでいるようだ。
「あなたなのか……」
紫の蔓の花が幽霊のようにちらつき、階段の前にある華やかな着物に広がっていく。その中に身を寄せている、痩せてやつれた女が黙って僕を見ている。
彼女の体から出るお酒の苦い匂いが部屋に充満し、夜の雨やドロドロしたものよりも冷たく、嫌悪感を抱かせる。しかし、僕は思わず彼女に向かって震えるような一歩を踏み出した。
「私に……近寄るな……」
女の人は手を挙げ、紫の袖が美しい弧を描いていた。
その瞳はまるで深淵のようで、冷たい輝きの渦の中には、僕には読み取れない感情がたくさん、たくさんあった。
「嘘つきめ、あなたは我が娘じゃない……これ以上、あなたを愛さないわ。」
ち、違う……
そんなんじゃない……!
喉が締め付けられるような感覚に襲われ、渦巻く流れが全身を包み込み、やがて奈落の底に吸い込まれていくような感覚に陥った。
もう一度……あの絶望と息苦しい寒さを感じた。
チリン――
雷鳴の合間に鈴の音が鳴り響き、僕ははっと目を覚まし、救われた溺れる者ように深呼吸をした。
冷たい夜雨は水流のように僕の体を包み込み、少女の泣き声が遠くないところから聞こえてくる。
鈴はメロディーのようにやわらかく鳴り響き、物陰の幽霊のような炎を束の間払いのける。
トゲトゲの枝がむしり取られ、稲妻が夜を照らし、少女の悲鳴が一瞬聞こえ、すぐに雷の中に消えていった。
Ⅲ.誕生日
ぼんやりとしたまま再び目を開けると、清潔で柔らかい畳の上に横たわり、あたたかい薬草の香りが周囲に漂っていた。
「エヘン……目が覚めたか。」
薬膳の鍋をかき混ぜている男は、僕に一瞥をくれて、脇から数種類の薬草を取り出して鍋の中に落とした。
「薬、薬師……どうしてここに……」
「怪我してるだろう……エヘン、エヘン、薬を作ってやるから。」
「うん……ケガ?ヒッ――い、痛っ!」
少し力を入れて体を起こすと、体中から引き裂かれるような、刺すような痛みが走り、その時初めて、足と腕がすでに白い布で包まれていることに気づいた。
「気をつけろ、包帯が巻かれたばかりだ。」
薬師は淡々と忠告し、首をかしげて蒸し汁を器に注ぎ、畳の横に置いた。
「エヘン……冷めたら飲むといい。」
「ありがと、薬師さん……」
黒と緑がかったネバネバとした薬膳を見て、僕は思わず身震いして強く飲み込んだ。
「先に行くから、エヘン……ゆっくり休んでて。」
薬師はうなずき、片付けられた薬箱を持ち上げるところで、何かを思い出したかのように振り返った。
「ところで……これ、館主からのものだけど。」
色とりどりの小さな珊瑚のようは小さな飴が数個、僕の手の中に置かれた。
「あれ、金平糖……館主様が僕にくれたの?」
「エヘン……そう、薬の苦味が苦手だろうって……」
館主様……
僕はそっと手を握りしめ、半開きの襖の外では紅葉が巻き、忍び込んでくる秋風は格別の温もりを運んでくれた。
……
夕暮れが訪れ、一日の大半を眠っていた僕は慌てて服を正し、外出の準備をした。
今日こそお話の時間を遅らせるわけにはいかない……
「どこに行くの?」
美しい着物を着た雛子姉さんが、いつのまにか駆け寄ってきて、手を差し出して僕を呼び止めた。
「うん……雛子姉さん!僕は、森に行く……」
「今日が何の日か忘れたの?ついてきて、館主様が探しているよ!」
「え……?」
何事かと尋ねる前に、雛子姉さんは一歩前に出て、僕の手をそっと引き、中庭に向かった。
中庭の石畳には紅葉が降り積もり、灯篭にほのかな灯りがともる。
大きな楓の木の下で、みんなが石のテーブルを囲んでいて、そのテーブルには、いろいろな種類の料理が並び、素敵な和菓子や飴がたくさん置かれている。
「薬師、この料理は薬草を使った薬膳料理じゃないよね……ぐぇ!あまりにも奇妙な味がする!」
「エヘン……あまり美味しくはないが、酔い覚ましには最適だ。」
「酔い覚まし?酔ってねぇよ!?うわ――紅白かまぼこ、なんで蹴ってくるんだよ?」
「また宴が始まってないんだから、飲むな。」
「ふふ……もう始められそうだな――本日の主役、遅刻だよ。」
一番近くにいたカスティージャがいつもの笑顔で私を見やり、観客は静まり返った。」
「本日の主役?宴……?どういうこと?」
何が何だか分からないまま、懐かしい風が頭を撫で、僕は驚きと喜びのあまり目を上げ、「彼女」を見た。
「愛おしい親子丼のお誕生日を祝うに決まっておるのじゃ〜」
館主様の優しい声が耳に響き、何なら桜の香りが鼻先を駆け抜けた。
「誕生日……そうか、今日は僕の誕生日だった……」
そうつぶやくと、かつて遠かった「誕生日」という言葉が、だんだんはっきりしてくる。
「親子丼……これは館主様自ら用意したものだよ、かの百聞館でこんな待遇を受ける者は他にいないぞ。」
カステラもご機嫌な様子で、料理が並ぶテーブルに向かって軽く頷いた。
「ふふ……それは、親子丼は私の可愛い子どもだからよ〜」
桜のように美しい声が私の胸にふわりと落ち、目の前に丁寧に飾られた提灯の光が暖かく揺れ、熱の波が目に押し寄せてきて、僕は慌てて下を向いて目尻をさすった。
再び頭を上げると、明るい笑顔を心がけて、目の前の見えない「彼女」を見上げた。
「ありがとう、館主様……僕は、幸せだよ!」
Ⅳ.母親
夕方の風は少し涼しく、カエデの木々の間でランタンが吹かれ、優しく揺らしている。
温かい麦茶を手に、僕は静かにみんなの輪の中に座り、彼らの笑い声や噂話に耳を傾けていた。
今日は僕の誕生日だった……
この日のことを、初めて召喚された日のことを、忘れるところだった。
赤い葉がテーブルにぽつぽつと影を落とし、僕は思わず見とれてしまった。
あの日も、そんな穏やかな秋の一日だった。
「我が子よ、ついに帰ってきたか……」
美しく気高い女性は、僕を強く抱き締めて泣いた。紫色の清らかで冷たい生地が僕の頬に当たり、僕は状況がわからないまま途方に暮れていた。
「あなた、誰……?」
「私はあなたの母だよ……覚えてる?」
「お母……さま?」
彼女は僕の顔を優しく包み込み、その言葉を聞くと、ように満足そうに首をかしげた。
そして、とても温かくて軽いキスを、偶然落ちてきた桜の花びらのように、僕の額に植えつけた。
僕はそっと目を閉じ、その花びらを心の奥底に漂わせました。
お母様は、僕が召喚されて最初にお会いした方。
僕の御侍であり、僕の唯一の家族だった。
召喚された日、お母様は僕に美しい着物を着せ、身なりを整えてくれた。
彼女は僕の誕生日を祝ってくれると言った。
しかし、半分新しくて半分古いその着物は、明らかに女の子の服だった。
「いい子ね、これはあなたのお気に入りの着物よ。お母さんはいつもきちんとしまって、お香も置いていたからいい匂いでしょう?」
「でも……僕、男の子なんだ。」
「この子ったら、あなたは私のかわいい娘なんでしょう……そうじゃないの?」
お母様は僕の不服従を不愉快に思っているのか、わずかに眉をひそめ、僕は慌てて口を閉ざした。
「はい……私は、お母様の娘だ。」
僕は大人しく聞き、ようやく彼女に優しい笑顔が戻ったのを確認できた。
それからずっと、僕はお母様と一緒に暮らし、食事をし、中庭から出ることはなかった。
お母様は僕に美味しい料理や立派な和菓子を作ってくれ、僕の髪をとかし、僕とてまりで遊んでくれ、一緒に星や雲を数えてくれた……
お母様はいつもとても優しかった、ただある時……
「どうしてここまで来たのか……?」
お母様は隅に身を寄せ、幅の広い着物でさらに細くなり、和室はお酒の強い刺激臭で満たされていた。
僕は黙って正座し、散らばった酒壺をそっと拾い上げた。
「出ろ……出でっけ!あなたを見たくない……!」
お母様は焦ったように手を振り、冷たく滑る袖の縁が僕の頬の横を重く掻き分け、少し熱かった。
「お母様、私にお世話をさせて……」
「出てっけ!違う……あなたはあの子じゃない……見た目が同じだって違うんだ!はははは……」
「お母……」
「そう呼ぶな!あなたは私の娘じゃない!」
怒鳴り声が頭の中で沸き起こり、赤く腫れ上がった頬には熱い涙が垂れ、まるで無数の小さな針が毛穴に刺さっているようだった。
僕の体は床にしっかりと釘付けにされているようで、ただぼんやりと頭を垂れているだけで、目の前には無限の灰色が広がっていた。
いつまでそうしていたのかわからないが、夜が明けていた。
「なぜここにひざまずいているんだ、親子丼?おや、その顔のキズは何なの?」
いつもの自分に戻ったお母様は、心配そうに僕の顔を抱き、その心配は眉間に書かれていた。
それは僕の慣れ親しんだ優しい母だった……
「お母様、嫌いにならないで、何でもするから……」
僕はもう我慢できず、お母様の腕の中に身を投げ出して泣いた。頬に刺さった傷や膝の間の痛みは、その時初めてはっきりと頭に浮かんだ。
しかし、何もかもを忘れてしまった母は、僕がまた甘えていると思ったのか、背中をポンポンと叩き、優しく囁きながら慰めてくれた。
いつもこうであればよかったのに……
お母様の優しい笑顔が見られる限り、お母様の愛情を少しでももらえる限り、何をやってもいいんだ……
いい子で、いい娘でいよう……ずっと、ずっと……
華やかな着物の上に、紫の藤の花が幽玄に舞い降り、渦を巻いている。
お母様は柔らかくため息をつき、美しく優しい瞳を永遠に閉じ、僕は彼女の唇に寄り、見知らぬ名前をわずかに聞こえた。
小さな女の子の、愛らしい名前のように聞こえた。
藤の花に覆われた墓の前で、人間がよく言う「死」が、二度とお母様に会えないことを意味するのだと、少しづつ理解していった。
僕のが悪かったのかもしれない、もっといい子でいていれば……
もっとちゃんとしていれば、お母様ももっと優しく楽しく笑ってくれただろうし、もっと長く一緒に暮らせただろうに。
きっとそうなんだろう……
「親子丼、麦茶だけ飲んではいかんぞ。早く大人になれるように、もう少しご飯を食べるのじゃ。」
そよ風がそよぎ、僕は正気に戻り、大きくうなずきながら急いで箸で目の前の焼き鯖をつまみ、口の中に詰め込んだ。
「ふふ、いい子じゃのう……うちの親子丼は、こんなにも言うことを聞くいい子なのじゃ。」
「うむ。館主様が喜んでくれるなら、僕ももっといい子になれるように頑張るね!」
Ⅴ.鮭親子丼
夜風に吹かれて鈴が鳴り響き、楓の木々のざわめきと重なる。
暗い雲は星を隠し、夜は無数の秘密を隠していた。
「ただいま、館主様。」
鮭親子丼は大人しく正座して、蛍のように揺らめく鈴を腕に抱いた。
「あら〜可愛い鮭親子丼がやっと帰ってきたのう。うん……今日はたくさんの『遊び仲間』を連れてきてくれたのじゃ、ちゃんとおもてなししてあげるよ。」
風のようなずるずるした声が見えない気流をかき回し、数枚の赤い葉が渦を巻いてゆっくりと落ちていく。
小さな女の子たちは部屋に入り、灯された数本の蝋燭の前に静かに座った。
「今からお話を始めるのか、館主様?」
「そうじゃのう。親子丼で疲れたでしょう〜部屋に戻って休んでていいよ。」
「あの……僕も館主様のお話を聞きたいけど、一緒に聞いてもいい……?」
「ふふ……ダメよ、このお話は親子丼には不向きなのじゃ。」
「そ、そうか……わかった……」
鮭親子丼は何か悪いことをしたかのように頭を下げ、それ以上言葉を発する勇気もなく、黙って手にした鈴を抱きしめた。
しかし、風の中の女性の声は、彼の頬をなだめるようにさすりながら、ふわりと柔らかく笑った。
「大丈夫よ、もし話を聞きたいなら、後であなただけに話してあげる……」
「ほ、本当?!ありがとう、館主様!」
「よし、いい子じゃのう。今から入るぞ〜また後でな。」
和室の襖は見えない夜風にそっと閉ざされ、蝋燭の光が糊付けしたばかりの紙に幽玄な影を落とすように輝いた。
森のカラスが悲鳴のような声を上げたが、鮭親子丼は階段に腰を下ろし、館主様と二人きりになるこれからの時間を心待ちにしていた。
……
革靴の音が遠くからも近くからも聞こえてきて、しおれたセキチクが泥の中に押し潰された。
「親子丼、こんなところで何してるんだ、もう館主様が話を始めたじゃない?」
カステラの左手は絵馬を握りしめて、風に吹かれてカタカタと音を立てている。
「貴方か……僕は、ここで館主様を待ってるの。」
「ふふ、なんといい子だ……初めて会った時の気まぐれな姿とは全然違うだね。」
「……」
「忘れたか?死んだ人間を生き返らせてくれとあんなに泣いていたのに……」
鮭親子丼は、過去の何かを思い出したかのようにかすかに固まり、しげしげと頭を下げた。
「それは……貴方の絵馬が全ての願いを叶えられると言ったのに、結局、全部嘘なんだよ……」
「あれは嘘じゃないよ。」
カステラは手にした絵馬の紐を指で弾くと、ろうそくの灯りが揺れる襖の中を意味ありげににらんだ。
「だってあなたの願いはもう違う形で叶った……でしょう?」
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