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忘憂舎・ストーリー

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忘憂舎

浮世の仙境「忘憂舎」

そこに集いし食霊たちの

物語が今明かされる。

【1.ある湖】

某日

湖辺

 お屠蘇は桃の木の上で腰掛け、少し酔った様子で湖を眺めた。

 すると湖面が波打ちはじめ、ザーッっという水の音とともに、湖から魚のヒレのようなものをもった人影が現れた。

 お屠蘇は興味津々に、湖から出てきた美しい女性に目を向けた。

お屠蘇「……あなたは?」

 その女性が振り向くと、驚いたようにお屠蘇を見る。

 なぜお屠蘇がここにいるのか理解できないようだった。

西湖酢魚「わ、妾は西湖酢魚、ここへは廬山……あ、いえ、廬山雲霧を探して来ました。」

お屠蘇西湖酢魚……あなたが亀苓膏たちが言っていた、廬山に喉を治してもらったっていう人魚のお嬢さんだね? 歌が上手いらしいじゃないか。今度聞かせて欲しいのだよ。私はお屠蘇亀苓膏たちを探してここへ来たんだ。」

西湖酢魚「は、はい……妾の喉は廬山に治してもらいました。ですが歌が上手だなんて……私の歌などお褒めいただくほどでは……上手でしたら、廬山の笛の音の方が……。」

お屠蘇「(やっぱり言ってたとおりね……)そうだ、廬山を探しているんでしょう? 山の下に良い茶葉が入ったって聞いて、山をおりたよ。すぐ戻るだろうから、少しここで待ちな。」

西湖酢魚「……」

お屠蘇「あ……ちょうど時間もあることだし、廬山とどう知り合ったか聞かせてよ! 廬山は普段そう言ったことを話そうとしないからね。それと! 亀苓膏のやつも、私に何も話してくれないんだ。知ってるんだから、はじめの頃の忘憂舎はこんな状態じゃなかったって。」

 西湖酢魚お屠蘇の酒に酔ったものとは違う熱意を向けられ、少し頬を赤らめた。

 彼女は身を引き締め、自身が廬山雲霧と出会った頃のことを思い浮かべる。忘憂舎の優しい仲間を思い出した時、西湖酢魚の顔に少し笑顔を見えた。

 お屠蘇はお酒を一口飲み、期待の眼差しで西湖酢魚を見る。

 西湖酢魚はコホンっと一息つくと、少し恥ずかしそうにしてはいるものの、忘憂舎での事を淡々と語りはじめた。


【2.忘憂舎】

 ここは光耀大陸の片隅にひっそりと茂る、桃の林の奥深く。

 耳を澄ませば小鳥のさえずりと、清らかな川のせせらぎが聞こえる。この辺境の林を進めば、古びた庭園が見えてくる。

 その庭園の名は――忘憂舎。

 忘憂舎の裏手には、他の無数の桃木や、庭園内の建物など比にならぬほど巨大な桃木が一本、そびえ立っている。

 毎年桃の花が咲き誇る頃は、その香りがどこまでも漂う。

 桃の木が望む先には、山の上流を水源とする、透き通った湖が見える。

 夜にその水中をのぞき込めば、水底には人魚のような影が見えるという。

 そう、ここはまさに桃源郷。

 しかし、かつてここにあったのは、桃の林と、彷徨う白い影だけであった。


【3.飩魂】

蘇生5日目

茅葺コテージにて

 その昔、忘憂舎がまだなかった頃。春になったばかりの林には、時折小雨が舞っていた。

ワンタン「雨の季節か……」

ワンタン「そろそろ家がほしいね。こんなコテージで、いつまでも雨をしのげやしない。」

ワンタン「飩魂はどう思う?」

 飩魂はしばらく辺りを浮遊したあと、ワンタンの掌に止まった。コテージには、静かな雨音が聞こえるのみだった。

廬山雲霧茶「まだここにいたのですね。」

 ふいに、きりりとした声がコテージに響いた。だがワンタンは、彼女が来るのを知っていたかのように、微動だにしなかった。

ワンタン「……わたしはずっとここにいる。ところで今回の歴訪、珍しい収穫はあったのか?」

廬山雲霧茶「わずかに。」

ワンタン「もう何度も来た光耀大陸だ。君の探す「音」が、本当にこの地にあるのかな。」

廬山雲霧茶「この世のすべては、移ろうもの。」

廬山雲霧茶「帰ってくる度、新たな発見があるものです。」

ワンタン「そうか。私には、いつも同じ毎日のように思える。」

 二人が話している間に、空は徐々に晴れ渡り、太陽が顔をのぞかせた。コテージは、暖かな日差しに照らされている。

ワンタン「あと数日で、桃が咲くだろう。」

ワンタン「桃林の中にひとつ、館を建てたなら、この季節がもっと楽しみになるだろうか。」

廬山雲霧茶「……当時痩せこけていた土地が、今や桃色一色の林に。」

廬山雲霧茶「この長い歳月、そなたは……」

ワンタン「廬山。」

ワンタン「私はただ、退屈しのぎに、草花を育てているだけなんだ。」

廬山雲霧茶「……」

桃林にて

ワンタン「蕾のふくらみ具合からして、きっとあと数日で満開だね。」

ワンタン「飩魂、この林のどこに館を建てたらいいと思う?」

ワンタン「飩魂?」

 見ると、飩魂は遠くの桃の木の周囲を旋回している。何があるのかとその方向に目を向けると、地面に横たわっている男性を見つけた。酔っぱらいだろうか……。慎重にワンタンは男に近づいた。

ワンタン「大丈夫ですか?」

 そこには全身黒い服に身を包んだ若い男が倒れていた。ボロボロに破れた服から、傷口や血の色がのぞいている。だが、まだ息はある。

ワンタン「これは……」

ワンタン「まだ、息はあるな……。」

ワンタン「廬山! こっちへ来てくれ!」

(続く)


【4.西湖醋魚】

蘇生6日目

コテージ付近にて

廬山雲霧茶「手は尽くしました。目醒めるかどうかは、もはや彼の意思次第。」

ワンタン「手当てをありがとう。きっと助かるはずさ。熱さえ引いてくれればね……。」

廬山雲霧茶「傷口から堕神の邪気が吸い込まれ、熱が出ているのです。わたくしの霊力でも、簡単には取り除けないほどの邪気です。」

廬山雲霧茶「体内の堕神の邪気が完全に抜けるまで、あと数日はかかりましょう。」

廬山雲霧茶「それまでこの者の身体がもてば、おのずと目を醒ますことでしょう。」

ワンタン「助かったよ。ありがとう。」

廬山雲霧茶「当然のことをしたまで。」

 黒服の男は、時折苦しげなうめき声を上げた。ワンタンは何度もコテージへと戻り、額のタオルを取り替えた。

ワンタン「廬山、あとは私に任せてくれ。君は寝てないんだろう?」

廬山雲霧茶「ええ。」

 廬山雲霧茶ワンタンにお礼をいい、黒服の看病を任せた。そして、遠くの山に視線を向けて、おもむろに竹笛を取り出した。

 春風は、軽やかな笛の音を遠くまで運んだ。ワンタンはしばし目を閉じて、その音に耳を澄ませる。

 静かな時が流れた。すると、にわかに水が跳ねる音がして、廬山は笛の音を止める。

廬山雲霧茶「……」

 コテージ近くの湖面に、妙齢の娘が半身を浮かべていた。怯えた表情で遠くを見ている。

廬山雲霧茶「……… せっかくいらしたのです。もっと近くで聞いていきなさい。」

 妙齢の娘は僅かな戸惑いを見せたが、意を決した様子で水に潜り、廬山の傍まで泳ぎ着いた。

ワンタン「……」

ワンタン(まさか本当にいたとは……)

西湖酢魚「……」

 娘は廬山の吹く笛の音に耳を傾けた。それは、そよ風のように軽い調べだった。

 同じように廬山の笛を聞いていたワンタンは、うとうとと眠りに誘われていく。気づけは、黒服のそばに横たわっていた。

 最後まで曲を演奏した廬山は、娘を見る。すると、娘は岩に身を乗り上げ、水で字を書き始めた。

西湖酢魚(シー・フー・ツウ・ユウ(西湖酢魚)と申します)

廬山雲霧茶「わたくしは、廬山雲霧茶。」

廬山雲霧茶「廬山でいいわ。」

西湖酢魚(廬山……またあなたの笛を聞きにきてもよいですか?)

(続く)


【5.声】

蘇生9日目

湖畔にて

 その日から、西湖酢魚は毎朝湖畔にやってきて、廬山雲霧茶の笛の音を楽しむようになった。廬山の入れた茶を飲み、夕方になると帰っていく。

 黒服の看病のため、コテージで過ごしていたワンタンも、西湖酢魚と顔なじみになった。そうして、各々自由気ままにコテージで佇むのが、当たり前の光景になっていた。

西湖酢魚(廬山)

 その日、ワンタンは黒服のため、山に薬草を採りに行った。そこにやってきた西湖酢魚は、廬山を憂いな表情で見上げた。

廬山雲霧茶「どうしました?」

西湖酢魚(あなたは……)

西湖酢魚(これまでに好きなものを捨てようとしたことはありますか?)

廬山雲霧茶「……」

西湖酢魚(すみません、突然……)

廬山雲霧茶「酢魚……それは、そなたの声のことでしょうか?」

西湖酢魚(……妾は喉を壊してしまいました。もう治ることはありません……)

廬山雲霧茶「酢魚。」

廬山雲霧茶「………」

西湖酢魚(廬山、なんでしょう?)

廬山雲霧茶「そなたの声はそなただけのもの。きっと取り戻せることでしょう……。」

 廬山はそう呟いて、再び笛を吹き始めた。その音色を聞きながら、西湖酢魚は複雑な表情を浮かべ、小さくため息をついた。

コテージ付近にて

 黒服の看病を始めて四日目、ようやく熱が下がり始めていた。ワンタンは一息ついた。

廬山雲霧茶「彼は、まもなく目を覚ますでしょう。」

ワンタン「よかった。山に薬草を採りに行くのも、最後になりそうだね。」

ワンタン「そうだ、廬山……」

廬山雲霧茶「どうしました?」

ワンタン「……ああ。酢魚はしゃべらないんじゃなく、しゃべれないようだね……」

ワンタン「彼女を本気で治すつもりなのか?」

ワンタン「余計なお世話かもしれないけどさ。傷ついた声帯を治すのは難しいって言うよね。それに、本当に傷ついているのは彼女の心かもしれない……。」

廬山雲霧茶「毎日彼女に飲ませてあげているお茶は、特別に調合した薬草茶です。」

廬山雲霧茶「声帯の問題ならば、三日も待たず効くでしょう。」

ワンタン「……そうか。治るといいな……。」

(続く)


【6.歌う】

蘇生11日目

湖畔にて

 西湖酢魚は廬山の入れた茶を飲み続け、すでに5日が経過していた。

廬山雲霧茶「のどの調子はいかが?」

西湖酢魚(変わりはないですが……どうしてそんなことを?)

廬山雲霧茶「酢魚。」

西湖酢魚(なんでしょうか?)

廬山雲霧茶「そなたに出していたお茶は……薬草入りのお茶なのです。」

廬山雲霧茶「そのお茶の効果で、そなたの声帯はきっとよくなっているはずです。試しに声を出してごらんなさい。」

西湖酢魚(廬山……)

廬山雲霧茶「笛の音が、そなたとわたくしを引き合わせてくれた。そのときから、わたくしのすべきことは決まっておりました。」

廬山雲霧茶「………煩わしく、思われるかもしれませんね。」

西湖酢魚(……いいえ、そんなことは)

廬山雲霧茶「わたくしは……。」

廬山雲霧茶「そなたの声が聞ける日が、待ち遠しいのです。」

 そう言い残すと、廬山雲霧茶は湖畔を離れた。後には茫然とした酢魚が取り残された。

コテージ付近にて

ワンタン「――じきに目を醒ますと言っていたけど、あれからもう二日か。」

ワンタン「飩魂、もしかしてこの男、何か理由があって寝たふりを続けていたりしてな。」

西湖酢魚「命の恩人のあなたに、そんな意地悪するわけないわ。」

ワンタン「……」

ワンタン「わっ! 飩魂が本当に喋ったのかと思ったよ!」

ワンタン「君だったのか、酢魚。びっくりさせないでくれ。」

ワンタン「でもよかった、声が出るようになったんだね。まさか本当に、三日経たずに治るなんて。」

ワンタン「それで、こんな夜遅くにどうしたのかな?」

西湖酢魚「話せば長くなりますが……。」

 月明かりの下、西湖酢魚はしょんぼりと、昼間の廬山との出来事を語り始めた。

西湖酢魚「……まさか、この喉が治るなんて思いませんでした。」

西湖酢魚「ずっと諦めていました。」

西湖酢魚「もちろん治った喜びもあるけれど――それ以上に、なぜだか恐怖を感じています。」

西湖酢魚「それで思わず、治っていないふりをしてしまって。」

西湖酢魚「廬山に、治ったと伝えることが怖いのです。そうしたらもう、ここに来る理由がなくなってしまうから。」

ワンタン「酢魚……。」

西湖酢魚「こんな妾には、あの笛の音を聞く権利はないのかもしれません。」

ワンタン「この湖で、君も見ていただろう。私が桃の木たちを守るように、君にも大切にするべきものがあるはずだ。酢魚、君たちの出会いを、もう一度思い出してごらん。」

西湖酢魚「妾たちの出会い……あのとき、笛の音が聞こえたわ。とても素敵な音色で――私はずっと聞いていたいと、彼女の傍にいたいと、そう思って……。」

西湖酢魚「けれどこの声が治ってしまったら、もう彼女の傍には居られない。いろいろしてもらったのに、妾は廬山に何も返せない……!」

ワンタン「酢魚。」

ワンタン「だったら、君の歌声を聞かせてあげたらいい。きっと彼女は喜ぶよ。」

 ワンタンの言葉に突き動かされ、西湖酢魚は意を決して、夜の湖畔へとやってきた。そして、ここで何度となく耳にした軽やかな笛の音を思い出しながら、静かに歌い始めた。

 透き通った歌声はだんだん大きくなっていく。その声は風に乗って、遥か湖の果てまで響き渡った。気づけばどこからか、笛の音が聞こえる。歌声に寄り添う美しいハーモニーが、林の夜を満たしていた。

 ――これで、廬山の願いは叶った。もう自分はここに居られないと、酢魚は切に想う。

 閉じていた目をゆっくりと開くと、大粒の涙がこぼれた。締め付けられる胸に息を乱しながら、それでも酢魚は最後まで歌ったのだった。

(続く)


【7.亀苓膏】

蘇生12日目

コテージ付近にて

 心を開いた西湖酢魚は、失くした声を取り戻した。

 そしてとうとう、黒服の男も目を醒ました。

西湖酢魚「起きたわ!」

亀苓膏「い……生きているのか……?」

ワンタン「さあ、どうかな……。」

廬山雲霧茶「無事でなによりね。安心したわ。」

亀苓膏「あなた方は……?」

亀苓膏「ここはどこだ……?」

ワンタン「慌てなくていいさ。説明してあげるよ。」

 ワンタンは起き上がろうとする男を制して、彼を発見してからの経緯を話した。それを聞いた男は、自分は亀苓膏という名だと告げた。

亀苓膏「君が助けてくれたのか……ありがとう。」

ワンタン「ところで、その傷はどうした?」

亀苓膏「……」

廬山雲霧茶「言いたくないのなら、それでも構わぬ。」

亀苓膏「ごめん…なさい…。」

西湖酢魚「目を醒ましたばかりで、まだ混乱しているのでしょう。」

ワンタン「そうかもな。今はよく休むといい。」

ワンタン「その辺にいるから、何かあったら呼んでくれ。」

(続く)


【8.理由】

コテージ付近にて

 言われるがまま、亀苓膏はコテージで一人横たわる。そして、静かに物思いに耽った。暫くして、ふと我に返ったとき、辺りは暗くなっていた。

 そのとき、コテージへとワンタンが戻ってきた。そんな彼に、亀苓膏は縋るようなまなざしを向ける。

ワンタン「何か、悩み事でも?」

亀苓膏「いや……大したことではない……」

ワンタン「じゃあ、これからどうしたい?」

亀苓膏「まだ分からない……。」

ワンタン「どこか行くあては?」

亀苓膏「……」

亀苓膏「――ない。」

ワンタン「そうか。なら、ここに居ればいい。」

ワンタン「コテージの裏手は湖、手前は一面の桃林になっていてね。あと数日で花が咲くよ。」

ワンタン「そうしたら、桃林内に館を建てて、住まいにしようと思っているんだ。」

亀苓膏「館を建てる?」

ワンタン「ああ。そのうちね。」

ワンタン「だから行くあてがないなら、ここにいればいいさ。むしろ、歓迎するよ。」

亀苓膏「……」

亀苓膏「……なぜ君は、ここまで私によくしてくれるんだ?」

ワンタン「理由が必要かな?」

ワンタン「見ての通り、私はここに一人で住んでいる。友達はいるけど、出掛けてばかりでね。」

ワンタン「晴れの日は桃林を散歩して、雨の日はコテージで過ごして。」

ワンタン「時々、一人で人間の街へ行くんだけど、同じことを繰り返していたら、次第に飽きてしまった。」

ワンタン「ここで私と一緒に生活するのは嫌かい? まあ、命の恩人のよしみだ。良ければ、好きなだけここに居てくれ。」

(続く)


【9.庭園】

 ――一年後。

蘇生20日目

桃林にて

ワンタン「今年の桃花は、また格別の美しさだね。」

 桃の花は今が盛り。ワンタンは、廬山や酢魚とお花見に向かった。

廬山雲霧茶亀苓膏は、黙って行ってしまったのですね。」

西湖酢魚「私と廬山が出かけている間にね。行くあてもないし、居ついてくれると思ったんだけどな……。」

ワンタン「何か、ここを去らなければいけない理由があったんだろう。それにしても……」

ワンタン「また桃林に倒れていたら、もう助けてやらないぞ。」

西湖酢魚「あんなに熱心に看病してたのよ。見捨てるなんてあなたにはムリね。」

ワンタン「ハハ。それはどうかな。」

廬山雲霧茶「ひどい重傷だったゆえ、そなたの看病がなければ……あら? あれは……」

 廬山の視線は、桃林の奥に注がれていた。昨年まで何もなかった林に、なんとも古びた庭園の姿があった。

ワンタン「これは……」

 近付いてみると、庭園の門には表札が掛けてある。そこには、力強い文字で、庭園の名前が書き記されていた。

廬山雲霧茶「……忘憂舎?」

西湖酢魚「ここにこんな建物、あったかしら。」

廬山雲霧茶「いいえ。ここはワンタンの管理する、人里離れた場所。人間が来ることはないはずです。」

西湖酢魚「では、なぜ……?」

ワンタン「もしや……」

ワンタン「この筆跡に、見覚えがある。」

 ワンタンは一年前に出会った、黒服の男のことを思い出す。

 すると、おもむろに庭園の門が開いた。

亀苓膏「……」

ワンタン「……」

ワンタン「……ああ、やはり君か。」

(続く)


【10.歌と笛】

 時は、一年前――

蘇生5日目

茅葺コテージにて

ワンタン「廬山。もしも、人魚に出会えなかったら……君は、ほかの「音」を探しに行く?」

廬山雲霧茶「いいえ。」

ワンタン「人魚の歌声は美しいけれど、最後まで聞いたものには災難がもたらされるという。」

廬山雲霧茶「そんな話は、ただの伝説です。」

廬山雲霧茶「仮にそれが真実だとしても、わたくしはその歌声に触れたい。」

廬山雲霧茶「災難とは、心の惑いが生み出すもの。」

廬山雲霧茶「歌声に罪はないのです。」

廬山雲霧茶「わたくしは、その声を聞くまであきらめません。」

ワンタン「さすが、もう何年も旅を続けるだけはあるね。君の願いが叶うよう……私も、願っているよ。」

蘇生6日目

湖畔

西湖酢魚(水の流れに身を任せて旅をしてきたけれど、ずいぶん遠くに来てしまったみたいです)

 西湖酢魚は全身を水中に沈め、両目を閉じた。

西湖酢魚(こうして眠っていればいい……)

西湖酢魚(だって、すべてを失ってしまったから)

西湖酢魚(いえ……最初から何もなかったのです。なくしたものなど、何も)

 手を伸ばし、自分の喉元を触ってみる。

西湖酢魚(もう二度と歌ってはいけない……)

西湖酢魚(いいえ……もう、歌えないのです)

 その時、湖面に突如、伸びやかな笛の音が伝わってきた。

 笛の音は、まるで魔法にかかったように、湖面の静けさを破り、水中にまでその音を響かせた。西湖酢魚は、驚いて目を見開いた。

西湖酢魚(この音は……?)

西湖酢魚(こんな美しい笛の音、聞いたことがありません)

西湖酢魚(もしも、この音に合わせて歌えたら……どんなにか)

西湖酢魚(いいえ。それは考えてはならないこと……この歌声のせいでどれだけの人々を、不幸にしてしまったことか)

西湖酢魚(……)

 笛の音は続いた。西湖酢魚は、いてもたってもいられず、ついに水面へと上がってしまった。

西湖酢魚(もう、二度と歌うことはできない……)

西湖酢魚(けれど、ただ一目だけ。笛の音を奏でる者を見てみたい……)

 酢魚が姿を現すと、笛の音が鳴り止んだ。見つかってしまった――酢魚は凍りついたように我に返り、己の行動を悔やんだ。

 そんな酢魚を余所に、奏者の女性は静かに笛の音を奏でる。まるで明かりに引き寄せられる蝶のように、酢魚の心はその音を求めた。

 その後二人は暫しの逢瀬を重ね、お互いの存在に魅せられていった……。

 西湖酢魚廬山雲霧茶。呪われた歌声と、心を照らす笛の音。

(続く)


【11.浮き草と水】

蘇生7日目

山にて

ワンタン「廬山が言ってた薬草は、この辺に生えているはず。」

ワンタン「これから毎朝、ここで薬草摘みだな……。」

ワンタン「飩魂、私は余計なことをしてしまった気がする。」

蘇生8日目

湖畔

ワンタン「薬草を摘んだはいいが、さらに煎じなきゃいけない。」

ワンタン「もしもの時に備えて、毎晩付きっきりだし。」

ワンタン「看病が、こんなに大変だったなんて。」

蘇生10日目

コテージにて

ワンタン「まだ、目を醒まさないな……。」

ワンタン「ここまで手を焼かせたんだ。目を醒ましても「ありがとう」の一言じゃ済まないぞ。」

 しばらくして、廬山がコテージに現れた。

廬山雲霧茶「彼の状況は?」

ワンタン「廬山、まだ休んでなかったのか?」

ワンタン「熱は引いたようだな。」

廬山雲霧茶「ならばじきに目を醒ますでしょう。峠は越えました。」

ワンタン「そうか。」

 ワンタンはタオルで丹念に男の顔を拭くと、廬山雲霧茶とともにコテージをあとにした。

廬山雲霧茶ワンタン。あなたの優しさには、心打たれるものがあります。」

廬山雲霧茶「彼と面識があるのですか?」

ワンタン「最近になって思い出したんだが、何度か会ったことはある。」

ワンタン「退屈しのぎに人間の市場へ行ったとき、彼を見たんだ。」

廬山雲霧茶「人間の市場?」

ワンタン「ああ。」

ワンタン「小さな女の子の手を引いて、彼は楽しそうに買い物をしていた。」

廬山雲霧茶「食霊と人間の子が……。」

ワンタン「しばらくして、女の子が何か悪いことをしたのか、亀苓膏は彼女を叱り出した。」

ワンタン「始めは厳しい口調だったけど、最後は優しい口調になって宥めててさ。」

ワンタン「そばで聞いていて、思わず笑っちゃったよ。」

ワンタン「それが彼に聞こえたらしく、睨まれてね。」

廬山雲霧茶「それだけの縁?」

ワンタン「それらけの縁さ。でも、それで終わりじゃなかった。」

ワンタン「彼は重傷を負って私の前に現れた。これは、ただの縁じゃない。腐れ縁ってやつだな。そうは思わないかい?」

(続く)


【12.往来】

 西湖酢魚は桃の木の上で話を聞かず、眠ってしまっているように見えるお屠蘇を見あげる。

西湖酢魚お屠蘇?」

 西湖酢魚の声でお屠蘇は顔を上げた。西湖酢魚が心配そうな眼差しを向けている。

お屠蘇「ああ、大丈夫。だけど思いもしなかった……亀苓膏のやつにそんなことがあったなんてな。」

西湖酢魚「ええと……」

お屠蘇「うん? どうしたんだ?」

 お屠蘇西湖酢魚が服の裾で口を押さえ、驚いた表情で自分の背後を見ていることに気づく。

亀苓膏「お~屠~蘇~! まだ怪我人のくせにお酒なんか飲んで!」

お屠蘇「げ!! いつの間に!?」

廬山雲霧茶「ちょうどあなたが「亀苓膏のやつにそんな事が」って、言っている時ね。」

お屠蘇「どうして教えてくれなかったんだい?」

廬山雲霧茶「とても楽しそうに話しているものだから。」

亀苓膏お屠蘇! その酒は私の薬酒じゃないか!」

お屠蘇「う! 亀苓膏! 私は先に忘憂舎に戻るから!西湖酢魚!今度歌を聞かせなさいよ! 約束だよ! じゃ!」

 西湖酢魚亀苓膏が怒りながら、逃げるお屠蘇を追いかけるのを見て、裾で口を隠して笑った。

廬山雲霧茶「……」

西湖酢魚「……廬山?」

廬山雲霧茶「大丈夫、待たせてごめんなさい。」

西湖酢魚「いいえ、廬山…またあなたの笛の音を聞かせてくれませんか?」

廬山雲霧茶「ええ。」

 忘憂舎の裏山に、また優雅な笛の音が響き渡った。

(終)

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